ウォンテッド 〜死神のラブレター〜

■ショートシナリオ


担当:九十九陽炎

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月19日〜08月24日

リプレイ公開日:2005年08月27日

●オープニング

「お待たせしました。以前、皆さんに調べて頂いた冒険者狩りですが、お陰で此方の調査も捗り、十分な情報を得る事が出来ました」
 まずは頭を下げる若いギルド員。ちなみに、彼の『皆さん』と言う言葉は冒険者全体に向けられているのだが、そんな事はどうでも良い。
「まず、剣の使い手の方、名はアポフィス・ジェフティ。此方はやはり、南方の国の出身で、アビュダと呼ばれる流派を身に付けているようです。回避術を得意とし、剣の腕は避けにくい技術で補っているようです。確かに駆け出しの冒険者パーティなら一人で全滅させかねません」
 ギルド員は先程貼り終えたばかりの羊皮紙を指差した。アポフィスの似顔絵、頭に布を巻く、若い男の顔が描かれている。尤も、口元は覆い隠されているパターンと、露になったパターンの両方が描かれていたのだが。
「そして、もう一人は、アーヴァイン・ルーファウス。此方は調べるのは比較的容易でした。嘗て、『神弓アーヴィ』と呼ばれた冒険者ですが、10年前にギルドを除名となっています。尤も、原因は私には窺い知れませんでしたけどね。そして、特殊な技術は持ってないようですが、ひたすらに磨き上げられた弓の腕からは避ける事は困難でしょう。年齢的には、若干衰えを感じている時期でしょうけどね」
 今度は机の上の羊皮紙の山から、アーヴァインの似顔絵を摘み上げる。此方はまだ掲示していなかったようだ。そして、ギルド員はもう一枚、別の紙と、貨幣の詰まった皮袋を差し出した。
「あちらからのラブレター‥‥と言うのは冗談として、挑戦状を送ってきました。歓迎の準備も出来ているそうです‥‥。無論、罠の、でしょうけどね。指定の場所にて、勝負を申し込む、とあります」
 こめかみに手を当て、いつもの溜息をつくギルド員。あまり類を見ない珍事である。敵が、自分と戦わせる為に依頼料まで出しているのだから。
「文面には、『受ける受けないは勝手だが、受けないなら金を返せ』とあります。つまりは、誰かしら会いに行く必要はあるわけで‥‥。そういう訳で、行っては頂けないでしょうか?」
 溜息をついて、さも申し訳無さそうに頭を下げるギルド員であった。

●今回の参加者

 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3443 ギーン・コーイン(31歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9633 キース・レイヴン(26歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb3012 李 獏邦(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3305 レオン・ウォレス(37歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb3360 アルヴィーゼ・ヴァザーリ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb3387 御法川 沙雪華(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●道のりは険しく

 賞金首からの手紙に指定された場所に向かう冒険者達。だが、その行程には、これでもか、と言わんばかりにトラップが仕掛けられていた。
「其処は多分落とし穴だ。土が新しい」
 レオン・ウォレス(eb3305)が指示を出す。彼が中心となり、トラップを看破、或は解除しつつ進んで行く。
「おっと、此処にも用心縄があるね〜」
「だんだん、罠も露骨になってないか?」
 アルヴィーゼ・ヴァザーリ(eb3360)と李獏邦(eb3012)も、口々に漏らす。事実、森の入り口ではさり気無く、ピンポイントに仕掛けられていたのが、奥に進むにつれて、数打てば当ると言わんばかりに、罠は多く、しかも目立つようになってきている。
「‥‥これはブラフか? 以前見た限りでは、こう言う無駄な事はする奴に見えなかったが‥‥」
「戦場では、こう言う見え透いた物の裏に、本命が隠されている物ですが‥‥」
 イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)の呟きに、御法川沙雪華(eb3387)が返す。事実、巧妙な罠を仕掛けた付近に、わざと目立つ罠を仕掛け、本命を隠す、といった手段も多いため、疑り深ければ深いほど、敵の思う壺である。尤も、みすみす引っかかって傷つくよりははるかにマシなのだが。
「とは言え、こうも罠ばっかりじゃと参ってしまうのう」
「それも、向こうの作戦の内なのだろうな‥‥。待ち伏せをするにも徹底的に、か‥‥覚悟はしていたのだが、な」
 ぼやくギーン・コーイン(ea3443)にキース・レイヴン(ea9633)が同意する。実害は無くとも、大量の罠を見せ付けられて、辟易し始めているようだ。
「ですが、罠が増えてきたからこそ、目的地に近付いたと思えば少しはマシになりますよ」
 何とかシルフィリア・カノス(eb2823)が明るい方向に話を持っていこうと試みる。
「向こうは奇襲が得意な様だから、何があるかは解らんがな‥‥。ともかく、ここらで野営をするか‥‥」
 唯でさえ見通しの悪い森の中、しかも相手の内、弓矢使いは威力抜群の鉄弓で、黒塗りの矢を使う。夜には絶対に狙われたくは無い。
「なるべく狭く、完璧に覆えるような場所の方が良さそうじゃの‥‥」
「野営の時の警戒も気を引き締めておきたいですよね」
 ギーンの提案で、簡易的な衝立も作り、矢対策を万全にする。が、立地の良さそうな場所には罠が仕掛けられている可能性は高いので、安全確認も怠ってはならない。レオン、御法川、アルヴィーゼの三名が中心となり、罠の看破、そして解除を行う。そして、シルフィリアの檄の通り、夜警組は眼を皿の様にしつつ、警備を行う。だが、幾ら自分たちが仕掛けたとは言え、夜は罠の識別は至難の業なのか、夜襲は仕掛けては来なかった。

●対峙

「そろそろ指定の場所だと思うんだが‥‥」
 先頭に立っていた李が呟く。其れを受けたかのように前方から声がかけられる。
「待ってたぜ。歓迎は気に入って貰えたか?」
「そりゃ、これ以上無い、って位ね」
 皮肉を込めて返すアルヴィーゼ。目の前の樹を避けると、微妙に開けた空間になっており、その正面にある、ジャイアント一人分位の高さの場所から枝分かれしている木の上に、冒険者狩りの片割れ、アーヴィが腰掛けていた。
「流石にトラップ如きでくたばるようじゃ、冒険者は廃業してるよな。ところで、例の返事を聞かせてもらおうか?」
 人を喰ったような笑みを湛えて冒険者を見渡すアーヴィ。
「聞くまでも無いだろう?」
「俺たちに挑戦してきた事、後悔させてやる」
 意気込んで構えを取るレオン。其れを受けてアーヴィも叫ぶ。
「よし、まずは勝負ってか。アポフィス、やっちまえ!」
「シャアアア!」
 アーヴィの叫びを受けて、奇声を上げて冒険者達の背後から飛び出す奇異な格好の戦士、アポフィス。尤も、今回は剣は持って居ないようだった。

●決戦、冒険者狩り

 丁度冒険者を挟み込むような状態である。アポフィスの狙いは手近な、つまり最後尾にいたシルフィリアである。
「きゃあっ!」
「危ない!」
 思わず眼を瞑るシルフィリア。突き飛ばされる感触。目の前には、倒れ伏す御法川。シルフィリアには、御法川がしっかりと守りに入っていたのである。
「私たちと違って、回復役に代わりは居ませんからね‥‥」
 シルフィリアは事前に預かっていたヒーリングポーションを御法川に飲ませ、さらに、高速詠唱でリカバーを唱えようとする。その間に、オーラボディでしっかりと身を固めたギーンが立ちはだかる。
「おヌシの相手はワシじゃ!」
 重装甲のギーンと言う難敵をを避けようと、横に体を振るアポフィス。
「何処へ行くつもりだ?」
 その動きを読んでいたかのように、立ち塞がるイェレミーアス。どうしようか躊躇するアポフィスに向け、斬撃を繰り出すイェレミーアス。紙一重で避けて見せるものの、攻撃を繰り返せばいずれ捕まえられる、その程度の差でしかない。

 一方、残りの四人の狙いは、アーヴィである。だが、射撃手であるレオンは別として、距離は詰めあぐねていた。
「此処に来る途中の罠は見たよな? 此処にも、何があるか解らんぜ? 例えば‥‥ほらよ!」
 アーヴィの言葉と共に放たれた矢は、キースの足元へ突き刺さる。そして、もう一歩踏み出せば確実に真っ逆さま、と言う距離で、落とし穴の口が開く。実際、場所も含めて偶然の賜物なのだが、見せ付けられた方にしてみれば、気にするなというほうが無理だ。慎重にならざるを得ない。
「俺が牽制する。足元を確認しつつ、追い詰めるんだ!」
 レオンとアーヴィの矢が交錯する。お互いに避けきれず、相応の傷を負う。尤も、レオンはリカバーポーションで回復したのだが‥‥。
「チィ、こりゃ分が悪いな‥‥。アポフィス、そっちの奴等より、こっちの方に手を貸せ!」
「‥‥承知‥‥」
「行かせませんわ!」
 踵を返し、走り抜けるアポフィス。とっさに御法川がナイフを投げるも、身を捻って避けられる。そして、背後からアルヴィーゼにナイフで斬りかかる。だが、背中からと思って油断したのか、大振りになったその斬撃は、背中に回したショートソードで受け止められる。思わず眼を剥くアポフィス。
「あっぶな〜い、でも、こんな事もあろうか、ってね!」
 そうこうしている間に、後続も追いつき、一見囲まれたようなアポフィス。だが、アーヴィの事を忘れるわけには行かない。
「ぬぅ!」
 激しい音と共に、呻くギーン。肩口には、鉄弓の物であろう、矢が突き刺さっていた。
「大丈夫か?」
「何の、大した怪我じゃないわい」
 矢を引き抜くギーン。防具、そして、まだ効果が残っていたオーラボディのお陰で、軽傷に留まったらしい。
「かぁ〜、かってェなぁ‥‥」
「そう簡単には崩させませんわよ!」
 思わずぼやくアーヴィに、さらに追い討ちをかけるようなシルフィリアの発言。しかも、即座に高速詠唱のリカバーを成功させるというオマケ付きである。だが、その間にアポフィスは囲みを脱っする。そして再び、シルフィリアを凶刃の餌食にしようと向かうが、横槍が入る。
「むしゅ〜ダルマ、転んだ!」
 李の突然の足払いに、足を取られるアポフィス。そして、そのまま転倒したところに踵落しを狙う李。だが、辛うじて転がって避け、キースに向けて起き上がり様に斬り付ける。
「ぐっ!」
 見慣れない角度からの攻撃に戸惑ったのか、対応が遅れ、逆袈裟に切り傷が刻まれるキース。
「大丈夫ですか? 今回復します!」
 即座にリカバーを施すシルフィリア。一人しか居ない回復役のため、大忙しである。
「さっきの借りは返させて貰うぞ!」
 猛然と襲い掛かるキース、そして、他の冒険者たちも、好期とばかりに仕掛ける。流石のアポフィスも捌ききれず、やがて手傷を負い始める。
「オイ、援護ハドウシタ!」
 返事が無い。慌ててアーヴィの方向を見ると、倒れたアーヴィを縛り上げる、レオンと御法川の姿があった。流石に、一人ではどうしようもない、まして、一人手も足も出ない相手が居るとなっては、此処に居る意味が無い。アポフィスの決断は早かった。
「あっ、逃げるな!」
 とっさにアルヴィーゼがナイフを投げつけるが、流石に避けられ、直ぐに姿を追う事は出来なくなった。
「まあ、片方だけでも捕まえられた分、まだマシとするべきか」
 李の言葉に、一同は頷くしかなかった。

●落ちた星

「ところで、どうやってたった二人でこいつを捕まえられたんだ?」
 気になっていた事を問うキース。恐らく、当事者以外皆、同じ事を考えていたであろう。
「レオンさんがアーヴィを、皆さんがアポフィスを相手してくださってる間に、風上に回りこみ、春花の術で眠らせたのですわ」
「まあ、強敵だっただけに、いささか拍子抜けはしたが、な」
 苦笑を浮かべるレオン。あの後も矢を喰らったらしく、服は血に染まっている。無論、既に治療済みだが。
「さて、幾つか聞きたい事もある。そろそろ眼を覚ましてもらおうか」
 気付とばかりに、頬を張るイェレミーアス。何度か景気の良い音を響かせた後、漸く眼を覚ますアーヴィ。
「あんな手で来るとはな‥‥ところで、アポフィスはどうした?」
「アイツは取り逃した。残念ながらな‥‥」
 本当に悔しそうなキース。賞金稼ぎが、賞金首を取り逃したのだから仕方ないのであるが。
「あの、何で除名されたんですか?」
 御法川の質問に、怪訝な表情を浮かべるも、直ぐに元の、人を喰ったような笑い顔に戻るアーヴィ。
「アンタも詰まらん事を聞くなぁ。ま、別に隠すような話じゃないがな。簡単に言えば、私闘だな。私怨と言っても良いか。ギルドを介さないで、何人かを手にかけた。結果がこのザマさ」
 自嘲を浮かべるアーヴィ。確かに一般的に悪人と認識されて無い人物を手にかければ、どんな事情があったにしろ、自分が悪人となってしまう。
「まあ、その辺を詳しくは言いたくは無いだろう。次の質問だ。何故、駆け出しの冒険者を襲っていた?」
「‥‥さて、な‥‥。ま、一つ確実なことを言わせて貰えば、俺達にやられたような奴は、遅かれ早かれどっかで命を落としてただろうよ。油断、技術不足、運、ま、色々と原因はあっただろうがな。そうじゃなかったらたった二人に全滅、なんてことになるかよ? 後、一つ付け加えておこう。闇はもう、動き出してる。いずれ、またアポフィスにも会う奴も居るかもな」
「如何言う意味だ?」
「さあて、な。ま、その内解るだろうよ」
 
 その後、アーヴィはギルドに突き出されるまで一言も口を聞かず。冒険者たちは一人当たり3Gの追加報酬が支払われる事になった。尚。アーヴィの処遇は、追って決定されるらしい。