●リプレイ本文
●いざ目的地へ
「じゃ、わし等は先に目的地に向かっとるぞい」
ルーロ・ルロロ(ea7504)は、ヴァルテル・スボウラス(ea2352)と共に、先にフライングブルームでキャンプ設営予定地に向かう事にしたらしい。
今回の荷物は半端な量ではない。保存食、馬を捕える為のロープ、捕えた馬を繋ぐ為の木杭と、やはりロープ。そして、飼い葉。それらをわんさと積んで、浮かび上がるルーロ。箒の後ろには、ちょこんとヴァルテルも乗っている。そして、ふっと浮かび上がると、一気に加速する。
「うわぁわああぁぁぁああ!」
ヴァルテルはシフールである。さらに、フライングブルームで『快適に』飛べるのは一人だけである。二人乗りする場合は、操者以外はまともに風の抵抗や加速の反発力が加わる。ヴァルテルは加速に耐えられずに振り落とされてしまったのだ。まだ低い所だった事、身のこなしの見事さ等のお陰で幸い、大事には至らなかったが。
「ふ〜む失敗か‥‥。では、ヴァルテルよ、お前が前に乗って、わしが後ろに乗ってみよう」
「でも、結構キッツイから気をつけてよ?」
「じゃ、こうしておけば問題ないじゃろう」
ルーロは、自分の片手と腰、そしてフライングブルームの一部を結わえる。振り落とされないようにするためだ。だが、これが後に不幸を呼ぶことになる。
「じゃ、いっくよ〜!」
「ひょわぁぁぁああ〜〜ぁああ〜〜〜‥‥‥‥」
次第に遠ざかってゆくルーロの絶叫。後に、ルーロは『死ぬほど恐ろしい経験をした』と語ったと言う。
「‥‥大丈夫なのか、アレは」
クロード・レイ(eb2762)が呟く。但し、心配と言うよりは呆れの成分の方が強く聞えたが。気を取り直して残された冒険者達も向かう事にする。そんな中、レテ・ルーヴェンス(ea5838)は一際緊張した面持ちである。
「何をそんなに緊張してるの?」
ギャブレット・シャローン(ea4180)が少年のように屈託の無い顔で声を掛ける。
「ん‥‥道中平和だと逆に不安でね。傭兵の悪癖って奴ね」
苦笑しつつ返すレテ。彼女には悪いが、到着点までは概ね平和に行きそうだった。夕方、レテとアルフィン・フォルセネル(eb2968)が人影を認める。
「あれ? あそこに誰か居るみたいですよ?」
「恐らくルーロね。遠目では見えないけど、ヴァルテルも一緒でしょうね」
漸く全員が合流し、設営に入る。
「如何じゃ? この辺なら広さもじゃろ?」
「確かにな。だが、少しくらいは準備を進めておいてくれても良かったのではないか?」
シュゼット・ソレンジュ(eb1321)がツッコミを入れる。
「か弱い年寄りとシフールに力仕事をさせるつもりかの?」
「ヴァルテルは解るとして、貴方はそこらの人より頑丈でしょうに」
すっ呆けるルーロに、半ば呆れ顔で顔を見合わせるエクレール・ミストルティン(ea9687)とシュゼット。
「まあまあ。さっさと終らせて休もうよ。どうせ、今日はこれから捕まえにいくなんて出来ないだろうし」
体力豊富なギャブレットが中心となって、テントを張り杭を埋め込む。そして縄の一部を、レテが投げ縄に加工する。
●まずは小物で要領を
空から彼方此方を見て回っていたルーロとヴァルテル、そして、森の中を探していたギャブレットが帰ってきた。そして、事前に入手していた付近図と情報から照らし合わせる。
「取りあえず、地形は見取り図通りで良いとして、馬群だけど、取りあえず幾つかの群れはこの川を利用するね」
「森の中にも居るね。追い込むのは難しそうだけど」
「後は、岩場にもおったが、一頭馬鹿でかいのがおるの‥‥。多分、こやつが巷で噂のとんでもない馬じゃろうの」
「取りあえず、川の近くで待ち伏せるか。要領も掴みたいしな」
「では、取りあえず川沿いに追い込んでもらえるだろうか?」
「なるべく疲れさせて速度が落ちたほうが捕まえやすいから、なるべく馬群から離れた所で待ち構えた方がいいね」
「僕は、馬が来たらグッドラックで投げ縄の成功率を上げたり、馬が傷ついたりしたら治療しますね」
「今日のところはそれで良いわね。さあ、私達の実力、お偉い貴族様に見せてあげましょ」
話は決まり、各々のパートに分かれる。まずはルーロとヴァルテルが上空から近付く。昨日の轍は踏まないように、今日は速度をしっかり落としている。
「見つけたぞい!」
ルーロが指差した先には、水を飲みに来ていた馬群。風下に降り立ち、こっそりと達人級の忍び足で近付く。
「で、どいつが良いんじゃ?」
「う〜ん、アイツかな? 筋肉もしっかりしてるし、毛艶も良いし」
「そうかの、では‥‥チャーム!」
スクロールを広げて詠唱をするルーロ。それに気付いた馬群は、一斉に逃げ始めるが、一頭だけ逃げずに、逆にルーロに歩み寄ってきた。チャームの魔法は成功したらしい。そして、あっという間にヴァルテルとも仲良くなる。
「じゃあ、僕は馬を柵に入れておくよ」
馬の首にしがみ付いているヴァルテルが言う。正確には鬣の根元を掴んで居るのだが、体が小さいのでそう見えてしまう。
「ワシは一応、あの馬を追い立てねばの‥‥。では、キャンプで会おうぞ!」
再び箒に跨り、馬群を追うルーロ。付かず離れず、別方向に行かないように馬群を追い立てる。
「来ましたよ! 準備は良いですか?」
前からの馬群に気付いたアルフィンが、グッドラックを味方に掛ける。
「そろそろかしら?」
エクレールがスクロールを広げる。だが、馬はその場に居た全員が予想していなかった手段に出る。
「馬鹿な!」
前方に何かがある、そう判断した馬達は、一斉に斜行し、川に飛び込み始める。冒険者からは予想外の行動だが、実は、馬から見れば至極当然の事である。馬は、基本的に只管逃げる事で生き延びて来た動物である。そして、動物が逃げる際は、大抵二択である。敵とは逆方向に逃げる、或は水に飛び込んで泳いで渡る。水浴びが好きな肉食獣は居ても、泳ぐのが好きな肉食獣は少ないからだ。
「馬の視力を侮ってしまったか‥‥。今回は、我々の負けだな」
「仕方ないね、また明日か」
「悔しいわね‥‥。明日こそ、しっかり捕まえるわよ!」
翌日。流石に川辺を縄張りにする馬群は、警戒心が高まっているだろう、と言うことで、森の中の馬群を狙う事にした。
「とは言え、流石に森のなかでやりあうのは不利だな。出来れば、森の外に追い立てられないだろうか?」
「難しいが‥‥やってみるかの」
二日目は、チャームは効かず、丸々一つの馬群を追い立てる羽目になった。目的地は森の切れ間付近。木々の間を縫うため、ルーロは速度を上げられないが、それは馬も条件は同じ。しかも、今回は馬の武器の一つ、視覚も封じられている。
「さあ、来るぞ、準備はいいか?」
「ああ、何時でもいいぞ」
「こっちも問題ないわ」
馬群が森の中より飛び出してくる。そして、冒険者の塊を避けるように真っ二つに分かれて行く。
「まずは‥‥シャドウバインディング!」
スクロールのシャドウバインディングを使うシュゼット。万一に備え、ギャブレットがしっかり守りに入る。
「次は私ね。スリープ!」
シャドウバインディングで拘束した馬を、スリープで眠らせるエクレール。眠った馬は、転倒した衝撃で目を覚ますが、その間に次なる行動は動いていた。
「良し、今の内に‥‥。レテ、手伝ってくれ」
「解ったわ」
クロードが投げ縄を引っ掛け、レテと共に、暴れ始める前に縛り上げる。
「今のは良い感じだったね。あ、エクレールさん、危ない!」
馬群のうち一頭が、周囲に避けることも出来ず、エクレールに突っ込んでいたのだ。だが、エクレールは華麗な身のこなしでその馬の背に飛び乗る。
「見なさい! この程度どうってことな‥‥キャッ!」
突然背中に乗られた馬は慌てて暴れだす。
「どうどうどうどう‥‥。大丈夫、大丈夫だから落ち着いて?」
ヴァルテルが宥めようとするが、馬の興奮は収まらず、エクレールも振り落とされてしまう。だが、踏まれる事だけは避けることができた。アルフィンのコアギュレイトが効いたのだ。
「大丈夫ですか?」
「触らないで、汚らわしい!」
助け起こそうとしたアルフィンを拒絶するエクレール。その目は赤く染まり、髪の毛は逆立ち始めていた。土で汚れた彼女は狂化してしまったのだ。狂化してしまった彼女は、他人に触れられる事、汚れる事を嫌う。他の冒険者を無視し、川の方に歩いていってしまった。その夜、体を洗い、狂化が収まった彼女は他の冒険者に謝り倒したと言う。取りあえず、今日の収穫は二頭。昨日の一頭と合わせヴァルテルが喜んで世話をするも、別の群れだけに、馴染もうとしない。
「こまったねぇ、でも、明後日までの辛抱だから、我慢してよ?」
馬の首をポンポンと叩き、優しく声を掛けていた。
●規格外の巨馬を捕まえろ
翌日、クロードはとある提案をする。
「先日ので要領が掴めた。それに、恐らく今日が最終日となるだろう。此処は大物を狙ってみないか?」
「異存は無い。明確な成果としても残るだろうからな」
「質の面でも文句は言われたくないしね」
口々に賛成の意を示す。
「ふむ、それじゃ向かおうかの‥‥こっちじゃ」
ルーロの先導で例の巨馬が目撃された岩場に向かう。其処は、初日待ち伏せをした川の上流で、小さな滝の上であった。
「確かに大きいね‥‥。本当に馬?」
ギャブレットが呆れる。その馬は、他の馬よりも二回りは大きく、しかも肉付きも市販の軍馬と比べても遜色は無い。
「アレならば、依頼人も文句は無いだろうな‥‥」
「だけど、なるべくなら、穏便にいきたいねぇ‥‥」
「ちゅうわけで、わしから行かせて貰うぞい」
岩影を利用し、得意の忍び足で、こっそりと近付くルーロ。そして、十分近付くと、チャームを掛ける準備をする。だが、気配を察知した巨馬が一声嘶くと、一斉に他の馬が川を渡りだす。そして、巨馬は、ルーロが隠れている岩を反対側からガシガシと蹴りつけ始める。
「大丈夫、怖くないから、落ち着いて、ね?‥‥わぁぁぁぁっ!」
ヴァルテルが宥めようと飛び出すが、逆に巨馬は噛み付こうとする。馬の咀嚼力は半端じゃない。噛まれたら蹄で蹴られる以上に唯では済まないだろう。
シュゼットとエクレールも、其々シャドウバインディング、スリープで動きを封じようとするが、巨場の意志力は半端じゃないらしく、尽く抵抗される。
「仕方ない、力ずくで行くぞ!」
アルフィンのグッドラックを受けたクロードが投げ縄を構える。それを見た巨馬はクロード目掛け突進する。
「させない!」
ギャブレットが盾でその蹄を受け止める。願わくばカウンターで鞭を絡められないか、と試みようとしたが、距離がつまりすぎて、満足に効果を上げられない。だが、勢いを止めるには間違い無く一役買った。その間にクロードが投げ縄を掛ける事に成功する。
「皆、引け!」
クロード、レテ、エクレール、ギャブレットが縄を引く。その間に他の面々は各々の手段で馬を沈静化させようとする。結局、数十分の格闘の末、巨馬は漸く大人しくなった。
●結果報告
暴れたり、怯えたりする馬を何とか御しながらパリに帰る冒険者達。ヴァルテルだけは楽しんでいたが。そんな冒険者を出迎えるギルド員。
「皆さん、おかえりなさい。これはまた、見事な馬を連れてきましたね」
「あ、近付くとアブな‥‥あ〜あ‥‥」
巨馬に歩み寄るギルド員。ギャブレットが静止するも時既に遅く、ギルド員の右腕は思いっきり食いつかれる。どうにか救助され、アルフィンのリカバーに癒される。暫くして、依頼人と、数人の兵士が馬を引き取りにやってきた。
「おや、これはお偉い貴族様、御覧の通りですわ」
エクレールが皮肉たっぷりに言葉を掛ける。繋がれてるとは言え、睨みつける巨馬に竦む依頼人と兵士達。そんな退けた腰で大丈夫か、と冷ややかに見つめる冒険者達。その視線に耐えかねた依頼人は、金貨袋を放り投げる。
「報酬はその中だ。経費を除いてこんな物だろう。者共、さっさと行くぞ!」
不機嫌な足取りでさっさと歩き出す依頼人。慌てて兵士たちは馬を引いて後を追う。最後までいけ好かない依頼人である。
「調教師の人は良い人だと良いんですけどねぇ‥‥」
呟くギルド員。そして、金貨袋から仲介料を引いた額を、冒険者は山分けする事になったのである。