動き出した闇〜掃討編

■ショートシナリオ


担当:九十九陽炎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2005年10月06日

●オープニング

 とある昼下がり。腕を組んで難しい顔をしているギルド員。なにやら考え事をしているらしい。見かねた冒険者が、何事か、と問う。
「‥‥‥ああ、これは気付きませんで‥‥。いえですね‥‥昨今、悪魔崇拝教団がちらほらと目立って来てるでしょう?」
 同意を求めるギルド員。頷いて先を促す冒険者。
「此方の方でも、調べた結果、最近、とある集団が利用していると思しき施設を発見しました」
 ギルド員は溜息をついて続ける。
「まあ、その施設と言うのが、パリからは大分離れた古戦場で、とある廃砦なんですが‥‥。打ち捨てられた理由が理由でしてね。使う理由が無くなったと言うのも勿論あるんですが‥‥アンデッドの巣窟になってるんですよ」
 露骨に嫌な顔をする冒険者。アンデッドは場合によってはかなり厄介な相手になりかねないからだ。
「そういう事情でして、このままでは調査も儘為りませんし‥‥と言うわけで、二度に分けて派遣しようと思うのですが‥‥如何でしょう?」
 如何でしょう、と聞かれても何とも言えない冒険者であった。

 後日、集まった冒険者に依頼の説明をするギルド員。
「例の砦は二層構造で、地下があります。調査は主に其方が中心になると思うのですが、このままでは調査どころでは有りません。そこで、皆さんにはアンデッド、そして居ればその他の掃討をお願いいたします。ちなみに、上のフロアで何か見つかれば、持ち帰って下さい。それでは、よろしくお願いします」
 ギルド員は丁寧に頭を下げて送り出した。

●今回の参加者

 ea6960 月村 匠(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9970 ヴィオナ・アストーヴァル(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0420 キュイス・デズィール(54歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb2678 ロヴィアーネ・シャルトルーズ(40歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb2805 アリシア・キルケー(29歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3385 大江 晴信(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴィゼル・カノス(eb1026

●リプレイ本文

●命無き地への行進

 昨今、ノルマンとは戦の多い国であった。そして、戦と言うものは確実に爪跡を残す。命の息吹が感じられないほどに荒廃した地も珍しくない、この砦も、そのような例の一つであった。
「俺達の仕事は、アンデット退治だったな‥‥、ったく、いかにもって場所だぜ」
 月村匠(ea6960)がウンザリした顔でぼやく。だが、その理由は相手がアンデットだからではない。
「何だ? びびってんのか?」
 月村の臀部を軽く叩きつつ、キュイス・デズィール(eb0420)が言う。
「一々触ってくるんじゃねぇよ!」
「おおっと」
 月村が腕を振り上げるとおどけて距離を取るキュイス。月村が疲れているのは彼の積極的なスキンシップによる物が主な原因のようだ。
「二人とも、ふざけないで下さい」
 水無月冷華(ea8284)がピシャリと言い放つ。姿勢を正し、上品だが淡々とした物言いは威厳さえ感じる。
「お堅いねぇ、もう少し肩の力を抜いたらどうだい?」
 ロヴィアーネ・シャルトルーズ(eb2678)が声をかける。
「主君の目の届かない所に居るからと言って職務に手を抜くわけには参りません」
 水無月の言葉に、処置無し、とばかりに苦笑を浮かべるロヴィアーネ。
「取りあえず行こうか。いつまでも外で喋ってるわけにも行かんからな」
「お待ち下さい」 
 大江晴信(eb3385)が砦の扉に手を掛けるが、開けようとする動作をアリシア・キルケー(eb2805)が止める。
「何だ?」
「扉の影に潜んでるかも知れませんでしょう? 私が調べてみますわ」
 アリシアが念の集中をする。そしてその体が神々しい白い光を放つ。
「案の定居ますわね。一つ、すぐ近くに反応がありますわ。‥‥移動しているようですけど」
「んじゃ、精々気をつけて行くか」
 月村が鎮魂剣を片手に砦の扉を開ける。やはり、何らかの出入りはあるらしく、意外と空気は淀んでは居なかった。
「案の定、薄暗いですね‥‥」
 ヴィオナ・アストーヴァル(ea9970)が松明に火を灯す。
「あっ、あそこで何か動いたよ!」
 パラーリア・ゲラー(eb2257)が暗がりを指差した。直ぐにその方向に反応した者は、壁に靄のような物が吸い込まれていくのが見えた。

●索敵、そして

「やっぱり幽霊は壁をすり抜けるのか‥‥なるべく壁には近づかない方が良いな」
 白い靄を見た大江が呟く。流石に壁の中、或はその向こうを攻撃するのは容易ではない以上、死角から襲われにくくするしかない。
「ですが、其方ばかり、気にする、わけにも、参りません。倒せる所、から倒して、行きませんと」
 物々しい音を立て、少々息を荒げつつ提案するヴィオナ。
「‥‥今更言うのも何なんだけど、その格好、少し疲れるんじゃないかい?」
「仕方がないでしょう、これしか威力のある魔法武器が無かったんですから」
 先頭に立つ為に松明を借りたロヴィアーネの茶々に、とある英雄が使っていた剣を模した逸品を手に、少々ふてくされた感じで反応するヴィオナ。その剣は彼女にとっては少々重かったらしく、ならばいっそとばかりに、重装備に身を固めていたのである。瞬発的に動く分にはまだ良いが、持久力は確実に奪われる。
「思ったより敵は少ないみてぇだな‥‥だから触るんじゃねぇって言ってんだろが!」
「楽でいいじゃねェか。それに一々怒るなよ」
 ぼやく月村に相変わらずスキンシップをはかり、からかうキュイス。緊迫感が感じられない事に閉口する水無月は何とか空気を変えようと、アリシアに質問する。
「‥‥先程の靄以外に何か反応は感じられませんか?」
「壁の向こうに集中していますわね。前方に角が見えますから、どうやら部屋の中ですわね」
 水無月の問いに答えるアリシア。彼女はデディクトアンデットを使って、敵を先に探知できるように、と心がけていた。
「間取りから考えても、部屋とかがあってもおかしくないね」
 パラーリアが地図を描きながら補足する。彼女はマッピングをする事で、隠し部屋等が無いか、と考えていた。
「まぁ、とにかくそろそろおちゃらけてる場合じゃないようだな。気合入れてくか!」
 キュイスがローブの袖をたくし上げて言う。
「‥‥始めから真面目にやって下さい」
 呟く水無月の言葉は彼の耳には入っていなかった。そして、一向は角を曲がる。通路の両側に扉が一つずつついている。両方とも比較的広い部屋である。アリシアがすかさずデディクトアンデットを使う。
「お気をつけて、両側の部屋とも敵が居るようですわ。ただ、あちら側の方が数は多いようです」
 アリシアは片方の扉を指差す。
「じゃあ、数が少ない方をさっさと片付けてもう片方に備えるか。ぐずぐずしてると挟み撃ちにされるかも知れん」
 大江の提案に頷く一同。

●骨は灰に、血肉は土に

 月村が先頭となり部屋になだれ込む。そして、最も近くに居たズゥンビに斬りかかる。
「折角のアンデッドスレイヤーだ。喰らえ!」
 振り向く間も無く、容易く斬られるズゥンビ。傷こそ深く無い物の、アンデッドスレイヤーの魔力のお陰か通常以上に鈍っている。其方をほっといて、視界に入ったもう一体のズゥンビも切り伏せる。
「コイツはご機嫌だぜ!」
「今の内だ! オーラパワーを掛けるぞ!」
「おう、遠慮なくぶっ掛けてくれや!」
「ぶ‥‥ぶっ掛け?」
 キュイスの微妙な言葉に少々戸惑うものの雑念を振り払い、集中する大江。其処にスカルウォーリアーが斬りかかる。
「やらせません!」
 すかさず割って入り、盾で受け止めるヴィオナ。そして、打ち込みで体が崩れている相手の上段から剣を打ち下ろす。その勢いで倒れ付すスカルウォーリアー。だが、起き上がろうともがく。
「前回の依頼の憂さ晴らしもやらせて貰うぜ!」
 オーラパワーを掛けてもらったキュイスが、起き上がる前にその丸太のような拳を叩きつける。動かなく、いや、魔力での連結を失い、文字通りバラバラになるまで何度も何度も‥‥。
「私の出る幕も無いみたいだけど、仕事はきっちりやっとかないとねぇ」
 這い蹲ったズゥンビの背中から日本刀を突き立て、完全な止めを刺すロヴィアーネ。
「後は、そっちの部屋に残ってる分と、あの靄みたいなのだけかな?」
 部屋の中に入り、間取りを地図に書き込むパラーリア。
「じゃ、残りもとっとと片付けるか。準備は良いか?」
「問題はありません。私もオーラパワーを掛けて貰いましたし」
「俺自身も掛けてあるからな。効果が切れる前に急ぐとしよう」
 大江が扉の取っ手に手を掛けた瞬間、青白い火の玉が扉をすり抜けて飛び出した。
「うぉっ! 力が抜ける‥‥」
「レイスか! おい、大丈夫か?」
 膝をつく大江、キュイスが駆け寄る。大江の顔は若干蒼ざめている。
「ああ‥‥大丈夫だ、問題ない」
 立ち上がる大江。確かに問題があったのは彼ではない。
「私がいなくなったら回復の手段を失うんだから、きりきり戦いなさい!」
 ヒステリックなほどに興奮したアリシアが他の冒険者達に命令を下す。余裕があれば皮肉の一つでも返すところだが、そんな余裕は無い。高速で飛び回るレイスだけではなく、ズゥンビやスカルウォリアーも迫っているからだ。
「とにかく、ズゥンビと骨を先に片付ける。そっちは何とか持たせてくれ!」
 大江にリカバーを施し、叫ぶキュイス。流石にこの時ばかりは怪しいスキンシップはしなかったようだが。
「解りました、何とかその間は持たせて見せましょう」
 パラーリアとアリシアを庇うように立つヴィオナと水無月。その周りを品定めするかのようにグルグル回るレイス。壁もお構い無しに動き回り、時折突っ込んでくるが、ヴィオナが盾で遮る。尤も、一瞬で避けないと先の大江のように精気を奪われるのだが。カウンターアタックで反撃しようにも、盾で受けると言うワンアクションの間に、飛び回っているレイスは間合いの外に逃れている。そして、向こうもその事は承知しているのかどうかは解らないが、やはり待ちの戦法を得意とする水無月は中々標的にされなかった。このまま睨み合いが続くかと思われたが、状況を一転させる切欠が起こった。
「ホーリー!」
 聖なる光がレイスに直撃し、揺らめいた。キュイスがホーリーを放っていたのである。レイスの動きも、その一瞬確かに止まった。
「今です!」
 その止まった一瞬、ヴィオナの一撃がレイスを捉えた。希薄になるレイス。さらに水無月が駄目押しの一撃を重ねる。その一撃で霧散するレイス。
「今ので最後か?」
「いや、まだ最初に見た靄みたいな奴が残ってるだろ。‥‥反応は?」
 アリシアの方を見る月村と大江。微妙に突き刺さるのは多分気の所為では無いだろう。苦笑して誤魔化し、デティクトアンデットの集中をするアリシア。

●ポルターガイスト

「いますわ‥‥それも、この部屋の中ですわ!」
 アリシアの言葉に、目を光らせる冒険者達。
「きゃっ!」
「危ない!」
 ヴィオナがパラーリアを突き飛ばす。スカルウォーリアーの持っていた剣が宙を舞い、襲い掛かってきたのだ。盾で弾くヴィオナ。
「野郎!」
 月村が落ちた剣目掛けて剣を振るう。元々長い年月で損傷していた事もあってか、硬い音と共に砕け散る剣。
「やったか?」
「いや、あそこだよ!」
 指差すロヴィアーネ。白い靄の様な物が宙を飛び回る。しかも、その速度は先程レイスの比ではない。
「早いな‥‥」
「ですが、先程のレイスと一緒です。動きさえ止まれば‥‥」
 その言葉に、キュイスがホーリーの詠唱を始める。その間、白い靄はスカルウォーリアーの骨の破片を飛ばしたり、ラップ音を鳴らして妨害しようとするが、大江やヴィオナが盾を翳してシャットダウンする。
「ホーリー!」
 キュイスのホーリーがポルターガイストに命中する。そして、鈍ったところをさらに月村が今までの御返しとばかりにその靄を両断、さらに叩き斬る。
「今度こそ終ったのかい?」
「反応は‥‥ありませんわね」
 アリシアの言葉に胸を撫で下ろす一同。
「さて、それじゃ、あたしもやることをやらないとね」
 パラーリアが最後の一部屋を地図に埋める。そして、一つの点に気付いた。
「あれ? この部分、空白になってる‥‥」
 部屋の一角の壁、そして、部屋の外の壁も叩いてみる。一箇所、違う音の場所があった。
「ここ、埋まってるけど、向こう側に何かあるよ!」
 大江が刀の峰で、叩くと剥がれた塗料の下から、比較的新しい木板が現われた。鍵もついており、最近取り付けられた扉のようだ。
「ご丁寧にしっかり隠してあったって訳か」
「どうする?この板を叩き斬ってみるか?」
「止めとけよ、失敗したら腰が伸びて使い物にならなくなるぞ。結構厚みもある。斧でも無いと厳しいかもな」

 結局、冒険者の結果報告は、アンデットの殲滅と、隠し扉の発見となった。