ウォンテッド!〜重鋼のヒュミル〜

■ショートシナリオ


担当:九十九陽炎

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月11日〜11月16日

リプレイ公開日:2005年11月20日

●オープニング

「良くいらっしゃいました。新しい賞金首の情報が入っていますよ」
 冒険者に声を掛ける若いギルド員。そして、手に持った羊皮紙を広げてみせる。
「今回の相手はバグベア。配下にオークを加えているそうです。賞金の掛け主は近隣の猟師達の集まりですね。狩場を荒されて困っているようです。それに‥‥」
 確かにオークやバグベアと言った連中は生半な攻撃は物ともしないため、厄介と言えば厄介である。だが、回避能力はそれほどでもないため、威力と数さえあれば何とかなる相手ではある。しかしギルド員はこめかみを押さえ、苦虫を大量に噛み潰したような表情で言葉を続ける。
「何処で入手したのか、ヘビーアーマーを着けていましてね。只でさえ頑強なのに、余計歯が立たなくなっているそうなんですよ。現地では『重鋼のヒュミル』と呼ばれています」
 軽く溜息をつくギルド員。そして、先程のギルド員の表情は、瞬く間に冒険者にも伝わった。頑強なバグベアに手傷を負わせる手段は限られてくる。しかも、今まで賞金首といえば曲者ぞろいであった。今回もまた難儀な事があるかもしれない。
「取りあえず、これが近隣の地図ですね。ヒュミルは縄張り意識が強いらしく、決して森の、それも限られた区域にしか姿を見せないそうです。まあ、その限られた地域と言うのが、狩場として有用な場所だったと言うのがそもそもの発端なのですが‥‥。後、夜には見張りを立ててねぐらに戻っているそうです。但し、夜は狼が徘徊しているので、近付くのは困難だとか‥‥。ともあれ、頑張って下さい」
 暗に、行け、と言わんばかりにギルド員は頭を下げた。

●今回の参加者

 eb2021 ユーリ・ブランフォード(32歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2762 クロード・レイ(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb3385 大江 晴信(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3511 ヘヴィ・ヴァレン(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3536 ディアドラ・シュウェリーン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3783 フィリス・ファフニール(28歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

アルヴィーゼ・ヴァザーリ(eb3360

●リプレイ本文

●狼と踊れ

 森の中を調査する冒険者達。ある程度の情報は得たものの、情報と言うものは確実であれば確実であるほど良い。
「取りあえず、狼を誘い出すならこの辺が良いか‥‥」
 森の中。開けた所で呟くのはユーリ・ブランフォード(eb2021)である。彼の炎の魔法は森の中では山火事に発展する可能性があるため、なるべく延焼の危険が無いところが戦場になるほうが望ましかった。
「‥‥とりあえず‥‥餌はこの位あれば良いか‥‥」
 森の奥よりクロード・レイ(eb2762)が鳥を捕まえて帰ってくる。今回の依頼において、一番不明瞭なのは狼である。その狼を、ヒュミルとの本格的な戦闘になる前に排除しておきたい。その為の餌である。
「ヒュミルを誘い出すのは無理だな‥‥」
「オークとばったり遭っちゃったけど、少ししたら追いかけて来なくなっちゃったし」
「縄張りからは滅多に出てこないようだな」
 大江晴信(eb3385)とシルフィリア・ユピオーク(eb3525)、そしてヘヴィ・ヴァレン(eb3511)が偵察より帰ってくる。
「仕方ないわね、やっぱり、狼を先にやっつけておくしかないのかしら」
 ディアドラ・シュウェリーン(eb3536)が呟く。彼女は先にヒュミル及びオークの戦力を削っておきたかったらしいが、それは流石に厳しいらしい。
「そうですわね‥‥。なるべくヒュミルと戦う前にリスクは減らしておきたいですし」
 フィリス・ファフニール(eb3783)も頷く。そして、冒険者達は再び森に仕事に入る。作戦成功率を高める為に。

 夕方、再び冒険者達が野営地に集合する。それを待っていたのは、食事係を買って出た明王院月与(eb3600)である。暖気と共に立ち上る美味しそうな匂い。そして鍋の中には日持ちする根野菜を、小麦粉と塩、バターを溶かした湯で煮込んだ代物。つまりはシチューである。
「暖かい食事の方が力が出るんだよ」
 とは彼女の弁。実際、もう晩秋、雪も何時降っても可笑しくない時期。夜には手が悴んで、武器が振るえない、何てことになりかねない。体温管理はかなり重要であった。
 暖かい食事を摂った冒険者達は、ユーリが選び、クロードが罠を仕掛けた地点に移動する。尤も、罠と言っても、干し肉や、射落とした後首を切り落とした鳥を置いた、狼を誘い出すためだけの物であるが。
「‥‥居るな‥‥1‥‥2‥‥3頭か」
 大江が呟く。
「今の内に物陰に隠れておきましょうか」
 ディアドラの提案。
「いや、狼は嗅覚が優れているからな、あんまり隠れても意味が無いだろう‥‥。それより、不意を突こう、ファイヤーボム!」
 ユーリのファイヤーボムが盛大な爆発を起こす。狼たちは、多少毛皮が焼け焦げたらしく、周囲に髪の毛が燃えたような匂いが漂う。だが、炎が消えた後には、既に狼の姿はなかった。
「拙いな、物陰から襲われるぞ」
「じゃ、広い所で背中合わせにしたほうが良さそうだね」
 クロードの指摘にシルフィリアが応じる。そして、冒険者達は先程、狼が食料を貪っていた場所に陣取る。
「皮肉ですわね、狼を罠に嵌めるつもりの場所に、逆に陣取らされるとは」
 フィリスが苦笑を浮かべる。
 やがて、遠吠えが聞える。そして、遠くからも次々と遠吠えが上がる。
「なるほど、これが猟師が近づけないと言った理由か」
「どういうことだ?」
「狼の遠吠えがヒュミルたちにとって警報代わりになってるってことさ」
 ユーリの言葉を裏付けるように、オークが2体姿を現す。ご丁寧にランタンまでぶら下げて。
「‥‥一応、結果オーライ、か?」
「‥‥迅速に片をつけられればな」
 へヴィの言葉に、クロードが返す。やがて、先程と思われる狼も姿を現した。明かに此方に敵対心を向けている。
「どうして、狼は私達ばかり狙うのかしら?」
 ディアドラの素朴な疑問、それに対し、すっかり説明お兄さんと化したユーリが返答する。
「狼を先に攻撃したのは僕達だからな。それに、きっとオークの方が強いと判断したんだろう。見掛けが大きい方が強いのは自然の摂理だからな」
「じゃあ、あたいたちがもし、ジャイアントの集団だったら、狼はオークを狙ってたのかな?」
 明王院の言葉。それに対し、若干躊躇った後ユーリが答える。
「‥‥かも知れないな」
「きゃっ!」
「あんまり喋ってる余裕はねぇぞ!」
 フィリス目掛けて狼が飛びつく。それを六角棒を伸ばして遮るへヴィ。
「オークってのは噂には聞いてたけど丈夫だねェ‥‥幾ら攻撃しても効いたそぶりが無いよ」
 ウンザリした様子のシルフィリア。オークの攻撃を受け流し、反撃を加えるも、その分厚い脂肪の層を貫けないのだ。
「先ずは狼を片付けるぞ! シルフィリア、明王院は魔法使い達を守ってくれ」
「もうやってるよぉ!」
 大江の言葉に、必死な声で返答する明王院。狼の息をつく間も与えない攻撃に、既に防御だけで精一杯になっているのだ。

●反撃の狼煙

「ってぇじゃねェかこの野郎!」
 狼に噛み付かれながらも、強引に六角棒を振り下ろすへヴィ。その一撃は、狼の命を奪うのに十分な威力であった。一頭の欠損。其処から生まれた隙から、反撃の光明が見える。
「やられっぱなしは嫌よね‥‥アイスブリザード!」
 ディアドラより放たれる冷気。それは狼の動きをさらに鈍らせる。手負いの獣、と言う表現の通り、がむしゃらに攻撃を仕掛けてくるものの、その動きからキレが無くなっていった。
「ついでだ‥‥ファイヤートラップ!」
 狼の動きの癖を観察していたユーリのファイヤートラップ。読みどおりの場所に足を踏み入れた狼はその炎で重傷を負う。
「逃がさん‥‥」
 逃げ出そうとした所に、クロードの矢が突き刺さる。
「オークには有効打を与えられなかった分、しっかりやんなきゃね!」
「あたいだって、やるときにはやるんだよっ!」
 残りの一体は、シルフィリアと明王院の攻撃により、漸く、と言う修飾語がついたが倒れたのだった。

 一方、オークとの戦闘に専念していた大江。フィリスのコアギュレイトの援護もあって、何とか立ち回ることができていた。1体のオークが音を立てて崩れ落ちる。
「漸く1体目か‥‥結構骨が折れるな‥‥」
「もう1体ですわ。頑張って下さいませ」
 額の汗を拭う大江と、応援するフィリス。実際、コアギュレイトで拘束、或は万一大江が傷ついた時のリカバー以外、フィリスにはいかんとも出来ないのだから仕方ないといえば仕方ないのだが。だが、狼を排除した残りの冒険者が駆けつける。
「待たせたな!」
 へヴィの力強い一撃。
「雷神の巫女の末裔の雷はどんな味だい?」
 シルフィリアのスクロールによる雷。彼女が雷神の巫女の末裔なのかはともかくとして。
「スマンな、お陰で楽が出来た‥‥ぞ!」
 味方の援護で文字通り散々に傷ついたオークの喉を、大江の日本刀が貫いた。開いた喉から、音にならない空気を吐き出して、オークは息絶えた。
「‥‥流石に此方の疲労も大きいな‥‥。二段構えの作戦にしておいて正解だったか」
「‥‥だな、他の狼に襲われるのも面白くない。今夜は此処で退くとしよう」
 冷静に状況を分析するクロードとユーリの言葉に頷く一同。野営地に戻り、ゆっくりと睡眠を取る‥‥筈だったが。
「‥‥寒い‥‥」
 寝具は愚か、防寒着さえも持っていなかったシルフィリアは、仲間のマントをかき集め、火を焚いて漸く眠りに就く事が出来たのであった。尚、毛布組も結構寒い思いをしたそうである。

●決戦、重鋼のヒュミル!

 目を覚ました冒険者達は、軽く食事を摂り、準備を整える。寝袋を持って来ていた者は十分に睡眠を取れ、毛布しかなかった者及びシルフィリアは寝不足気味だったようだが、冷たい水で顔を洗って何とか持ち直す。
「さぁて、さっさと片付けて宿の暖かい布団で眠りたいぜ」
 へヴィの軽口。だが、それは寒い晩秋の森で一夜を過ごした者達の実感が篭っていた。かくて、森に分け入る一行。遠吠えも聞えず、狼は居ない。まだ朝のため、霞が掛かっており、それが一層、ヒュミル達の縄張りに侵入するのに好都合であった。
「さて、そろそろだな‥‥。見ろ、あそこに1体立ってるぞ」
 霞も次第に晴れて来た頃、大江が前方を指差した。樹がまばらになり、日光も十分差し込んで明るい。他の冒険者にも、大江が指差したオークは十分視認出来た。
「クロード、やれるかい?」
「厳しいな。息の根を止めるには恐らく足りんだろう。せめて、その後に大江かへヴィが攻撃できないと増援を呼ばれるだろうな」
「じゃあ、もう少し近付かないとな」
 更に近付く冒険者達。だが、流石に白兵戦に移れる間合いまで踏み込むと、オークに気付かれてしまう。そして、意外なほどオークの行動は早かった。突如オークは叫び声を上げる。それが、山彦の如く、一定の間をおいて聞え始めた。
「これが連中の広域伝達手段か‥‥意外と考えてるな」
「感心している場合じゃなくて! ばれちゃったよあたい達!」
「仕方ない、来た奴を片っ端から潰してくぞ!」
 感心するユーリに突っ込む明王院、そして、檄を飛ばす大江。ユーリのバーニングソード、大江のオーラパワーの二つの魔法が、大江、へヴィ、シルフィリア、明王院の得物に掛けられる。それが丁度終ったころ。奥よりオークの集団が現れる。‥‥1体別の物が居るが。
「あれが重鋼のヒュミルか‥‥だが、バグベアには少々勿体無い名だな‥‥」
 クロードの感想。そして、彼は後ろからは来て居ない事を確認すると、射程ギリギリまで下がる。
「熊さんかと思ったけど‥‥どっちかと言うと猪かしら? 悪さをするならお仕置きしないとね!」
 言葉と共にディアドラの手から冷気が発せられる。それは、ヒュミル及び、数体のオークを巻き込んだ。だが、彼等は少し足を止めるだけで、大した事は無さそうだった。
「じゃあ、これでどう!」
 シルフィリアがスクロールで電撃を飛ばす。それはヒュミルを確実に貫いた。だが、彼はやはり、大して気に留めた様子は無かった。確かに鎧は魔法に弱い。だが、其れはあくまで武器に対してと比べて、であり、武器に対してだろうが魔法に対してだろうがやはり頑丈なものは頑丈なのだ。
「だったら一つ、破壊してみるか!」
 大江が切り込む。日本刀の切れ味に加え、魔法による強化。だが、それだけでは足りなかった。激しい金属音と共に、大江の刀は弾かれてしまう。
「ヒュミルは一先ず置いといて、オークも何とかしませんと!」
 次第に包囲の輪を狭めてきたオークに対し、フィリスが叫ぶ。勿論、コアギュレイトの詠唱は始めている。
「おらぁ!」
 1体、オークが頭蓋を砕かれて倒れた。その前には、側頭部から流血しているへヴィの姿があった。
「まともに喰らったらやばかったぜ‥‥」
 呟き、頭を左右に振って気を持ち直すへヴィ。カウンターによる勢いと、魔法、そして、得物の重量が存分に乗った一撃は、オークを一撃で屠るに十分な破壊力を発揮していた。若しも、この威力で大江が攻撃できていたなら、ヒュミルの鎧も砕けていたであろう。
「魔法の援護を貰ったけど‥‥やっぱりオークには通用しないね‥‥」
 オークの攻撃を盾で流しながら、攻撃を繰り出す明王院。ヒュミルの鎧ならまだしも、オークの脂肪と言う鎧には、ポイントアタックも役に立たない。仕方なく、防御に専念する。
「流石にファイヤートラップの射程に近付くのはリスクが大きいな‥‥」
 乱戦の様子を示し始めている戦場から下がるユーリ。だが、それに気付いたオークが其方に向かおうとする。が、それを許さないもう一人が居た。
「先にヒュミルを討ち取りたいが‥‥ある程度オークの数も減らさんとままならんらしい‥‥」
 ユーリに向かっていたオークに突き刺さる三本の矢。呟くクロード。流石に、昨晩減らしても今日はヒュミル含め8体。これでは、ヒュミルに専念するのも無理と言うもの。
「此処はあたいらで露払いして、へヴィにヒュミルを任せるしか無さそうだねェ」
 昨日とは違い、レイピアの手ごたえが深くなるシルフィリア。
「任せるしかないのが残念だがな」
 苦笑を浮かべつつ、大江も応じる。

 一方睨み合いを続けるヒュミルとへヴィ。確実に倒すためには、ヒュミルの攻撃に併せてカウンターを返すしか無い。だが、ヒュミルもその気配を感じて攻めあぐねている。動くには互いに別の切欠が必要だった。
「今の内に‥‥やぁっ!」
 後ろに回りこんでいた明王院が、鎧の隙間からヒュミルを突き刺した。効果は有ったらしく、怒りに燃えた目で明王院目掛け、手にした棒を振りかぶる。だが、その手が振り下ろされる事は無かった。
「させっかよ!」
 ヒュミルが明王院に気を取られたその瞬間。渾身の力を込めたへヴィの攻撃がヒュミルに炸裂する。陥没した鎧の隙間から血が滲み始めている。鎧の下ではさぞ凄い事になっているのであろう。そして、少しの間をおいて、ヒュミルに矢が突き刺さった。同じ隙を突いて、クロードが矢を放っていたのである。これが完全なだめ押しとなって、ヒュミルは沈黙する。

 その後はもう、一方的であった。頭目が倒れ、恐慌するオーク。本来彼等は臆病なのだ。戦う気がある者と無い者では、勝負になるわけが無い。やがて、動けるオークは1体、また1体と数を減らし、最後には居なくなった。その後、怪我をしたものはフィリスのリカバーで治療をし、冒険者達は、ヒュミルを討ち取った証として、破壊されたヘビーアーマーをギルドに提出し、報酬を受け取ったのである。
 尚、ヘビーアーマーを剥ぎ取った冒険者が、その下のあまりの惨状に卒倒しかけたとか、金銭よりも酒場の暖炉が何よりの報酬だ、と言った冒険者が居たとか言う話もあるが、定かでは無い。