死者の魂に安寧を‥‥

■ショートシナリオ


担当:九十九陽炎

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月18日〜06月22日

リプレイ公開日:2005年06月22日

●オープニング

「幽霊屋敷ってご存知です?」
 若いギルド員が唐突に話しかけて来る。両手を胸の高さでだらりと下げて、ジャパンの幽霊の仕草をしている。と言っても、ジャパン人以外にはニュアンスも解らないと気付いて、慌てて姿勢を取り繕う。
「まあ、実際に幽霊‥‥レイスが出る、と言う訳ではないのですが、こんな依頼がありましてね」
 ギルド員は羊皮紙を広げて見せた。そして、詳細を説明し始める。
「先日、パリ郊外の屋敷で強盗殺人があったのはご存知だと思うんですけど‥‥ああ、勿論、既に犯人は捕まってますよ? まあ、それは良いんですが、その屋敷主の、親族の方が検分に行った際、ズゥンビに襲われたとか‥‥。そこで、冒険者の出番です」
 ギルド員は一息ついて、さらに続ける。
「依頼人は件の、家主の親族の方。まあ、要はうろつき回ってるズゥンビを倒して、できれば供養してやって欲しい、と言うわけです。複雑な事は無く、唯、倒して後片付けをするだけ。後、家の物は持ち帰らないのは勿論、なるべく内装も壊さないように、との事。勿論火を付ける、なんてのはもってのほかです。この騒動が終ったら、売り家にするらしいので‥‥」
 ひとしきり喋り終えた後。改めて冒険者の方に向き直る。
「ズゥンビは動きが鈍いですが、動きは止まる事を知りません。また、複数居るようです。くれぐれもお気をつけて。」

●今回の参加者

 ea3413 フィリア・ブローニング(33歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 ea3443 ギーン・コーイン(31歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9633 キース・レイヴン(26歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb0419 ユイス・レニング(25歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0605 カルル・ディスガスティン(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2482 ラシェル・ラファエラ(31歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 eb2581 アリエラ・ブライト(34歳・♀・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 eb2818 レア・ベルナール(25歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●開幕〜死人の住む屋敷へ〜

 明け方、黎明の光に照らされたその屋敷は二階建てで、流石に貴重品であるガラスは張っていなかったが全ての窓に雨戸が設置され、雨樋も付いた丁寧な造りであった。尤も、その丁寧さが今は物々しさに化けてしまっているのだが‥‥。所々の破損は、賊に襲われた際に破壊されたのであろう、新しさが際立っていた。
「ふむ、これなら大丈夫そうじゃのう」
 入り口の前に立って、ハンマーを掲げているのはドワーフのギーン・コーイン(ea3443)。得物であるハンマーを振り回した際に、内装を傷つけてしまわないかどうか心配だったようだが、柄の中程を持てば、上から振り下ろすには十分だった。
「‥‥嫌な雰囲気だ‥‥ぞっとしないな‥‥」
 一方、屋内から漂う生温い空気とかすかな腐臭にカルル・ディスガスティン(eb0605)が感想を漏らす。
「う〜ん、緊張してきた‥‥うぅぅ頑張ろう〜」
 初仕事と言う事で緊張しているのはアリエラ・ブライト(eb2581)。少々装備も重そうである。
「取りあえず、手筈通りで良いわね?」
 ラシェル・ラファエラ(eb2482)が言う。彼女は、屋敷に赴く前に、ギーンと共に依頼人から屋敷の間取りやズゥンビの情報等を聞き出していた。
「問題無い。さっさと済ませるぞ」
 そっけない態度で応じるのはユイス・レニング(eb0419)。口調こそそっけないものの、既に弓を構えてやる気は十分のようだ。
「丁度二階建てですし、上と下、で良いですね?」
 フィリア・ブローニング(ea3413)が確認を取る。元々二班に分かれることは決まっていたので、これが最も効率的でもあった。
「ええ、それで良いと思います」
 レア・ベルナール(eb2818)が返事をする。彼女も装備が重そうなのだが、非常時に備えてとの事なので考えあってのようだ。
「ヴェイル、暫く待っていろ」
 ネイルアーマーに身を包んだだけのキース・レイヴン(ea9633)が肩に留まっていた鷹を解き放つ。ヴェイルというのはこの鷹の名前らしい。


●1階〜哀しき死体〜

 ギーンの提案で、窓を開けて光を取り込みながら探索を開始する1階班。メンバーはギーン、キース、フィリア、ユイスである。
 皆、ズゥンビがワラワラと出てくることを予想していたようだが、意外に中々遭遇しない。
「ふむ、後はこの一画だけじゃのう‥‥」
「油断するな、気配はする」
 位置的には奥から二番目の部屋に差し掛かったあたりである。扉を開けようとするギーンに忠告するユイス。五感に優れ、蠢く何かの気配を感じ取ったようだ。
「ともかく、開けて見なけりゃ始まらんわい」
 慎重に扉を開けるギーン。だが、意外にもその部屋にもズゥンビは居なかった。奥の方と、横側にも扉があるので、どうやらユイスの感じた気配は何れかの部屋の物だったようだ。
 その部屋は寝室らしく、クローゼットとベッド、そして、小さな机と椅子が置かれていた。
「あれ、何でしょうか?」
 フィリアがベッドを指差した。見れば何かが入ってるように盛り上がっている。慎重に近寄ってみる一同。近付くにつれ、腐臭が鼻を突いてくる。
「‥‥‥酷い‥‥‥」
 ポツリと漏らすフィリア。小山の正体は子供の遺体。眠っている間に殺されたのであろう、抵抗した様子は無く、首がパックリと裂かれていた。
「動いた様子も無いな‥‥コイツはズゥンビにはなっていないのか?」
 最後尾に居たキースが問う。そして、良く見ようと近付いた瞬間、勢い良く扉が開かれた。
「オオオォォーーーン!」
「クッ! とにかく部屋から出ろ!」
 図らずも冒険者達の虚を突く形で現れた2体のズゥンビ。ユイスが声を荒げて指示を飛ばす。
「オオォォォォ‥‥」
「キャアッ!」
「やらせん!」
 偶然側に居たフィリアに掴みかかろうとする一体のズゥンビ。其処に割って入る影。キースであった。振り下ろされる腕を素手で受け止め、体を捻じ込むように肘打ち、そして蹴り飛ばす。頑強なズゥンビに身一つで立ち向かう‥‥。漢である。いや、女性なのだが、敢えて漢と呼ばせて頂く。当のズゥンビはもう一体のズゥンビを巻き込んで倒れ込む。
 だが、哀しいかな、ストライクの無い素手攻撃は、威力が足りない。何事も無かったかのように、二体のズゥンビは緩慢な動作で起き上がる。時間稼ぎとしては十分ではあるが。
「それじゃ、後はわしらに任せて貰おうかの」
 ギーンが部屋の入り口でハンマーを構える。その背後からユイスが樫の弓から矢を撃ち出す。その矢は、確実にズゥンビの筋肉を抉り、ダメージを与えていくが、ズゥンビの接近は鈍くこそなるも止まる様子は無い。
「二体纏めては厄介だ。フィリア、動きを止めろ!」
「はい、コアギュレイト、行きます!」
 フィリアのコアギュレイトが成功し、一体が呪縛され、もう一体はギーンのハンマーを受け、膝から崩れ落ち、蠢いてももう進む気配は無かった。
「もう一体じゃの。どうせ動けぬし矢の無駄じゃ。わしがやろう」
 幾度かのハンマーによる攻撃を受け、もう一体のズゥンビも完全に動きを止めた。
「ところでキースさん、腕、大丈夫ですか?」
「ああ、馬鹿力を受け止めた所為でかなり痺れてはいるが問題は無い」
「それじゃ、一応治療しておきますね」
 ズゥンビの攻撃を素手で受け止めたキースに治療を施すフィリア。そして、落ち着いてきてから、ある事に気付いた。
「それにしても‥‥このズゥンビ、先ほどの死体と腐敗度はあまり変らないようですね‥‥。服も、どうやら使用人の様ですし‥‥」
「ふむ、とにかく、上に行った班と合流するかの。下にはこれ以上ズゥンビはおらん様じゃ」
 4人はその場を後にした。事がすんだら供養に来る、と胸に刻んで。


●2階〜憐れなる渇望〜
 時を同じくして、2階では残りの4名による探索が行われていた。無論、雨戸を開け、光を取り入れながらなのは1階班と変らない。此方は攻撃力に不安がある所為か、いち早く敵を見つける為、音を立てず、またギリギリまで集中して気配を探る事に重きを置いていた。
「どうやら、ズゥンビは廊下には出ていないようね‥‥面倒だけど、誘い出す必要がありそうね。調度品を傷つけるわけにもいかないし」
「‥‥了解だ‥‥」
 ラシェルの提案にカルルが頷く。
「この扉の奥から物音がするのです〜」
 4人の中で最も耳の良いアリエラがいち早く気配に気付いた。そして、カルルが扉を開けると同時に、レアが先頭に踊り出る。部屋の中には一人の夫人が佇んでいた。そして、冒険者に気付くと、緩慢な動作で振り向いた。
「気をつけて、ズゥンビです!」
 先頭に居たレアが叫ぶ。体中に無残な傷が刻まれ、どろりと濁った双眸と、朽ちて緩んだ口は生者の血を求めている。その姿は、生者への憎しみと言うよりも、理不尽に奪われた命に対する憐れみすら感じさせる。
「もしやとは思ったけど、悼まれないわね‥‥」
 いち早く退避したラシェルが呟く。彼女は出発の時点で既にこの事を予見していたらしい。
「ですが、今は戦わないと。倒さなければ、彼女らを救ってあげられませんし‥‥」
 複雑な表情でズゥンビ目掛け剣を叩きつける。が、多少仰け反っただけで直ぐに体勢を立て直し、打ちかかってくる。決して彼女の剣が鈍ったわけではなく、ズゥンビの性質によるものである。
「‥‥援護する‥‥」
 カルルもロングボウで援護をする。放たれた矢は死人の肉を抉るも、何分反応が乏しい為、ダメージを与えた実感は薄い。其れが一層、徒労感を際立たせる。
「あっちからも来たのです〜」
 戦闘の音を聞きつけたのか、丁度冒険者達を挟むように別のズゥンビが歩いてくる。こちらも傷だらけで、礼服を纏っていたので、恐らくは屋敷の主人だったのだろう。
「近付く前に少しでもダメージを与える。レア、そいつは任せたぞ」
「はい!」
 アリエラとカルルは、新しく来た方のズゥンビに向かって矢を放つ。アリエラの方は若干重い装備が災いして、矢を番えるまでに時間が掛かってしまった。そ
「ひえぇ〜射らせてくれないのです〜」
 結局近付いてきたズゥンビは、小柄なアリエラに狙いを定め、執拗に殴りかかる。オフシフトを駆使して必死に避けるアリエラ。其れを良いことに、カルルがひたすらにズゥンビを射抜く。
「く‥‥矢が残り僅かか‥‥」
「手伝います!」
 カルルの矢が残り少なくなった所で、どうにか女性ズゥンビを倒したレアが助太刀に入る。幾度かの斬撃の後、ズゥンビは倒れて動かなくなった。


●束縛されし魂よ、安らかに

 入り口前で合流した冒険者達は、互いに情報交換をする。成り行き上、殆ど屋敷の中はズゥンビとの戦闘前後に終ってしまったので、後は作業だけとなった。
「意外に少なかったのう」
「それに、これと言ってズゥンビになる原因は見付からなかったわね。ズゥンビになっていない遺体もあったし‥‥」
「やはり、恨みや憎しみによるものなんでしょうか‥‥」
 アンデッドには、自然発生する物と、何らかの人為的な理由で発生するものがある。恐らく、今回は前者であったのだろう。
 後ほど、遺体は全て墓地に埋葬され、冥福を祈る事になった。
「‥‥束縛されし魂‥‥願わくば楽園の御園へ運ばれん事を‥‥」
 カルルの言葉であるが、其処に居合わせた一同の共通する思いであった。
 尚、完璧な余談であるが、後日、ラシェルは奉仕活動として屋敷の清掃の手伝いに行ったそうである。