コボルトの秘薬
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■ショートシナリオ
担当:九十九陽炎
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月22日〜06月27日
リプレイ公開日:2005年06月28日
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●オープニング
ある昼下がり、冒険者ギルドに男が血相を変えて駆け込んできた。
「息子を、息子を助けてくれ!」
「先ず落ち着いて下さい。それから、詳細を御願いします」
若いギルド員は、ポットから水をコップに注ぎ、男に差し出す。男は一息に水を飲み干すと、事件について話し始めた。
「‥‥‥先ず、俺は此処から徒歩で丸一日程度の村に住んでいる樵なんだが、近所の森で、息子に仕事を仕込んでいる最中、犬の頭の化物に襲われたんだ。一匹、二匹程度なら俺でも何とかなるんだが、そのときは大勢居てな、庇いきれずに息子が傷を負ったんだ。怪我自体は大したことは無かったんだが、息子はどんどん衰弱していった。だから俺は息子を担いで慌てて家に帰った。村の者の見立てでは、どうやら化物の武器には毒が塗られていて、それが運悪く息子に感染しちまったって話でな、あれから高熱やら毒の症状にうなされ続けてるんだ‥‥。今はまだ、薬草を混ぜたりしてもたせているが、このままでは時間の問題だ」
「う〜ん、恐らく、それはコボルトでしょうねぇ‥‥。其れでしたら、エチゴヤまで行って鉱物毒用の解毒剤を買えば‥‥」
「いいや、それじゃ駄目だ! 村の者の話では、そいつが持ってる秘薬じゃねェと効果がねェって話だった! 第一、コボルトって保証は何処にもねェ! 第二に金もねェ!」
(「う〜ん‥‥絶対コボルトだと思うんだけどなぁ‥‥それに、お金もって‥‥」)
凄まじいまでの剣幕で迫ってくる樵に、内心では首を捻りつつも、このままでは依頼人は納得しないだろう、と思い、ギルド員は折れる事にした。
「解りました、では、そのように手配して置きます‥‥」
「そうか、それはありがたい。金の持ち合わせは少ないが、食料ならたんまりある。そっちは任せてくれ」
態度をコロコロと変える樵ににギルド員は、愛想笑いに苦笑を交えたような表情を浮かべると、早速依頼書を作成し始めた。
暫くの後、集まった冒険者にギルド員は説明を始める。
「依頼書にあるとおり、今回は『化物』、犬の頭で武器に毒を塗っていると言っている以上、多分コボルトだと思うんですが、ともかく、退治して秘薬‥‥これも唯の解毒薬なんですが、これを手に入れて依頼人に渡す事。くれぐれも、エチゴヤ製の解毒薬を渡さないように、依頼人は納得してくれないでしょうから‥‥。皆さんが使う分には構わないんですけどね。と、話題がそれました、ともかく、放置しておくと危険な事は間違いありません。迅速な対応を御願いします。後、若しコボルトなら、鉱物毒用の解毒剤で事足ります、と伝えてあげて下さいね」
ギルド員は頭を下げて、冒険者を送り出した。依頼の仲介手数料を大分割り引いてもこの報酬だとは秘密にして。
●リプレイ本文
●無知と言う名の罪
まず、冒険者達は依頼人の村に赴くことにした。犬頭の化物を倒すにせよ、情報がなければ何処に行ったら良いのか解らないし、巧く依頼人の息子に接触できたらそのまま治してしまおう、と言う考えもあった。実際、本当に一刻を争う事態ならば絶対にその方が良い。が、其れは意外な形で裏切られることになった。
村に入ったとたんに向けられる猜疑の目。その村は、農地もあり、一つの自治体としてやっていくには十分機能していた。其れは、同時に外からの介入を遠ざけてしまう結果になる。其れは、所謂『余所者』に対する不信感として外部に現れてしまうのだ。そんな中、一人のがっちりした男が冒険者達に向かって歩いてきた。恐らく彼が依頼人であろう。
「アンタ達が依頼を受けてくれた冒険者か?」
「ええ、何でも犬頭の化物にやられて、毒を喰らったとか?」
ディシール・モルガン(ea5277)が答える。話が拗れると思ったのか、敢えてコボルトの言葉は出さない。
「ああ‥‥だから、早いとこ奴等を倒して薬を取ってきてくれ!」
「コボルト退治はちゃんとやるのです。でも、その前に患者さんを看させて貰えませんか?」
アニー・ヴィエルニ(eb1972)が聞く。男はギロリと睨んでそれに『否』の返答をする。
「だからそのコボルトって奴の保証は何処にある? 若し違ってて治療が失敗したらどうしてくれるってんだ?」
「意地を張っても治る物は‥‥」
「落ち着け、‥‥悪いが少々外させてもらう」
男に反論しようとするアニーの口を塞ぎ、人目につかないところに引き摺るのはシュゼット・ソレンジュ(eb1321)であった。
「このまま押し問答を続けても時間の浪費だ。依頼人を納得させる為には魔物を倒し、薬を奪い取る、と言う流れが必要だろう。」
「う〜‥‥」
何とかアニーを言いくるめ、皆に合流するシュゼット。
「待たせた‥‥化物とやらに遭遇した場所を教えてくれ‥‥。次も其処に出る可能性が高い‥‥」
「お、おう‥‥あっちの森に入って、切り株の方に進んでけば、開けた場所に出る。その辺だ」」
カルル・ディスガスティン(eb0605)が口を開く。前兆は少なく、切り口は鋭く。男は気勢を削がれたのか大人しく冒険者に道を教えた。
「それでは行こうか。森の中は警戒せんとな」
森へは、アズマ・ルークバイン(ea5276)が先頭に立つことになった。今回唯一のファイターであり、また、猟師の心得もあるので先導としても相応しかった。
●犬頭の怪物
「ええと‥‥この辺り‥‥でしょうか‥‥」
開けた場所に出て、ユキ・ヤツシロ(ea9342)が言う。依頼人の情報通りなら、この場所で作業中に襲われたということになる。
「‥‥気をつけろ‥‥この場に来る途中‥‥幾つか気配を感じた‥‥」
カルルが注意を促す。若干ながら常人より耳が良い分、気配に敏感である。本人の警戒心の強さも影響しているのかも知れないが。
「待っていてもどうにかなる、という物では無さそうだ‥‥仕方ない、出向くぞ」
シュゼットが森の方向目掛け、雷を放つ。ライトニングサンダーボルトだ。彼女の目は、薄暗い森の中の影を捉えていたらしい。短い悲鳴が上がる。
「行くぞ!」
アズマがその方向に向けて先駆け、カルルが後に続く。さらに遅れて他の面子も駆ける。其処に居たのは、2体のコボルト。片方は雷が命中したのであろう、全身に火傷を負っている。
「見たところ、薬瓶は持っていないようですね」
「そうですね、じゃあ、やっちゃいましょう! 聖なる母の名においてお仕置きです! ホーリー!」
ユキの言葉に、アニーがホーリーをもって答える。其れを合図に、アズマ、カルルがコボルト達に襲い掛かる。
二人の技量からすれば、はっきり言ってコボルトでは力不足と言える。華麗に回避し、突き、或は斬り掛かり、確実に追い込んで行く。それにディシールが鞭で援護するので、全く危なげなく2体のコボルトは地に伏した。
「やっぱり、薬を持っていた気配もありませんね」
「でも、簡単にやっつけられて良かったです」
気合を入れていた分、容易く片付いて拍子抜けしたのだろうか、安堵の声が漏れた。が、その瞬間、背後を突く様に3体のコボルトが姿を表した。
「クッ、騙し討ちか!」
とっさに構えなおすアズマとカルル。断っておくが、コボルトは決して初めから騙し討ちを狙っていたわけではない。コボルトを含むオーガは闘争心旺盛である。そして、コボルトはどちらかとしては弱い方である。よって、それだけ戦闘における気勢と言う物に敏感である。つまり、冒険者達の気の緩みに反応して飛び出して着たと言う訳だ。
「危ないですわ!」
鞭を振り回し、コボルトを近寄らせまいとするディシール。その間にアズマとカルルがコボルト達に斬りかかる。此処までは先ほどと変らなかった、が、先程とは違うのは、もう1体居る事である。幾ら圧倒的に技量で勝っているとは言え、二人で3体を止める事は出来なかった。残る1体は、二人を避けて、固まっていた残りの面子に向かってきた。ディシールの鞭も、近付かれてしまっては効果が鈍る。そして、コボルトが毒を使う、と言う知識が下手にあったのも災いした。不意打ち、そして、毒の警戒、其れが焦りとなって冒険者たちを襲う。魔法の詠唱にも集中できない。唯一人を除いては。
「ライトニングサンダーボルト!」
シュゼットの雷がコボルトを掠める。冷静な性分が幸いしたのか、無事に詠唱を完成させ、コボルト向けて放つ。若干の焦りがあったのか、外れてしまったが。だが、コボルトを怯ませ、味方の体勢を立て直させるには十分であった。
「今です! コアギュレイト!」
ユキのコアギュレイトがコボルトを呪縛する。後はディシールの鞭と、アニーのホーリーで滅多撃ちにされて息絶えるのみであった。
「‥‥無事か?」
各々の敵を倒し、駆けつけるアズマとカルル。二人の実力からすれば、コボルトは相手にならない。尤も、二人とも威力があるタイプじゃないので時間は掛かってしまったが。
「ええ‥‥どうにか。少々危険でしたが‥‥」
「無事なら良いんだが‥‥。しかし、不意を突かれて所為で解毒剤どころではなかったな‥‥」
「仕方が無い、次が頼みだ」
苦笑を浮かべるアズマ。確かに、倒すだけで手一杯になり、解毒剤を持っているかどうかは確認できなかった。よしんば持っていたとしても、激しい立ち回りによって割れてしまっていただろう。そして、冷静に次へと望みを繋ぐシュゼット。焦りが生むのはマイナスしかない。其れは先程経験した通り。ならば、少しでも心に余裕を持たせたほうが良い。
「‥‥だが、時間が無いのも事実‥‥」
カルルの言う通り、時間が経てば経つほど厄介なのも事実。
「やっぱり、今からでも、魔法で治しに行くのです!」
「それも厳しいと思います。村人総出で邪魔をするかもしれません」
「やっぱり、探すしか‥‥」
突如、近くの茂みより物音がした。身構える一同。そして、茂みより、コボルトが一体飛び出して逃げて行った。コボルトの身に付けている腰蓑が不自然に膨らんでいる。
「逃がすな!」
誰とも言わずに叫び、コボルトの後を追う。少なくとも、何かを持っているのは確実だし、切羽詰まっているのも確か。タイミング悪く飛び出してしまったコボルトの間の悪さが、この奇行を生み出した。リーチの長さが幸いし、コボルトの足にディシールの鞭が絡みつく。バランスを崩し、一気にスピードが落ちるコボルト。軽装のカルルが前に回りこみ、アズマが後ろからレイピアを突きつけて牽制する。そして、より強固な安全策として、ユキがコアギュレイトで呪縛する。そして、アズマが腰の膨らみに手を伸ばす。
「流石に婦人にこんな真似はさせられんからな」
とは本人の弁。
アズマがコボルトから奪い取ったのは、飾り気の無い陶器製の小瓶。奪った物を別の容器に詰めたのか、自分達で精製していたのかは不明だが、少なくともエチゴヤ製の瓶ではない。
「これで取りあえず瓶は確保できたな。問題は中身だが‥‥」
「大丈夫、毒じゃないみたいです」
舐めてみるアニー。取りあえず、体に異変は無いらしい。
「解毒剤も手に入ったようだ、さっさと始末して帰るぞ」
その後、コボルトはユキを除く五名の総攻撃の前に無残な肉片に変わる。流石に子供には見せられないと、ユキは目を背けさせられていたというのは余談ではあるが。
●疑心氷解
冒険者が村に帰り着いたのは、日が完全に沈んでからだった。村の入り口でカンテラを掲げる依頼人。
「薬は!?」
「ああ、この通り。息子さんに飲ませてやってくれ」
アズマからひったくるように薬を受けとった依頼人は、一目散でとある一軒の家に駆け込む。慌てて後を追う冒険者達。家の中には、これでもかと言わんばかりに人が集まっていて、入ってきた冒険者たちを一斉に睨みつける。そんな矢先、奥の部屋の扉が勢い良く開け放たれる。
「熱が下がった、薬は効いたぞ!」
その知らせを受け、村人たちは一斉に破顔する。
「良くやってくれた!」
「アンタ等は恩人だ!」
元々、村人たちは悪意があった訳ではない。閉鎖的な暮らしが長すぎて、新たな物事や知識を受け入れることが難しかっただけなのだ。だが、信じるに値する行動を見せ付けられては、態度を一変させてもおかしくない。
「めでたしめでたし、ですか‥‥ね?」
「後は、コボルトのことを教えて」
「毒消しの事を教えれば、依頼は終了ですね」
その夜、冒険者たちは手厚いもてなしを受け、翌日帰還したそうだ。無論、あの犬頭の怪物がコボルトと言う名称であった事、そして、コボルトに受けた毒は、エチゴヤの解毒薬で十分治る、と言うことはしっかりと村人たちに教えて。正しい知識を持つことの重要性を改めて考えさせられる依頼であった。