ウォンテッド 〜大傷ボギー〜

■ショートシナリオ


担当:九十九陽炎

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月29日〜07月04日

リプレイ公開日:2005年07月04日

●オープニング

「やあ皆さん、時には腕試しをして見たい、とは思いませんか?」
 若いギルド員が声を掛ける。いつもよりにこやかな分、かなり怪しい。
「『賞金首』の事はご存知です? まあ、読んで字の如く首に賞金が掛ってる輩なのですが‥‥」
 一旦言葉を区切るギルド員。語調にも若干含みがあるようだ。
「ギルドの方で、適当、と判断したものに限り、調査して、冒険者に情報を伝えることにしようと言うことになったんです。まあ、賞金の一部は情報斡旋料として、頂くことになるんですけどね。正統性の無い賞金首は暗殺と同じような物ですし、不完全な情報に踊らされた冒険者が、返り討ちに遭って殺されても目覚めが悪いですから、必然的に対象も限られてくるんですけどね」
 あはは、と笑うギルド員。軽く言うが、中身はかなり物騒である。
「で、本題なのですが、今回情報を提供できるのはオーク戦士、『大槌ボギー』と呼ばれています。賞金元は運び屋組合、ターゲットの棲家は‥‥この辺ですね。廃坑を塒にし、付近を通る旅人や荷車を襲って略奪をするらしいです。」
 ギルド員は羊皮紙にターゲットのいる周辺図を書き込んで、冒険者の一人に手渡した。
「大体の位置ですが、まあ、間違いは無いと思います。距離は、大体徒歩二日位でしょうか‥‥馬なら一日半位ですね」
 見てきたように話すギルド員。いや、実際冒険者に提供する情報は彼が集めてきたのだが。
「ちなみに、配下らしきオークも多数確認しています。くれぐれも気をつけて下さい。配下との違いは、ボギーには大きな傷跡が多数ある事。見れば解ると思います。今の所、迂回するなどして被害を抑えていますが、不便ですからね。なるべく早い対応を御願いいたします」
 ギルド員は笑いながら冒険者を見送った。依頼として持ち込まれる前に賞金首を退治出来るからなのか、唯単純に笑いたいだけなのか、別の何かかは誰にもわからないが‥‥。

●今回の参加者

 ea1045 ミラファ・エリアス(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3443 ギーン・コーイン(31歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9633 キース・レイヴン(26歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb0031 ルシファー・パニッシュメント(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0605 カルル・ディスガスティン(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2021 ユーリ・ブランフォード(32歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2476 ジュリアン・パレ(32歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●商隊は街道を往く

 廃れた街道を荷馬車が行く。廃れているのは利用者が居ないから。利用者が居ない理由は簡単。通り掛かった旅人や商隊をオークが襲うからだ。だから人はこの道を避けるようになった。オークに賞金を掛けた。そして、オークに挑むのは、8人。オークを誘き出す為、隊商に化けている。馬車の速度は非常にゆっくり。これから迫る危険を全く感じさせない。馬車の速度が遅いのにはまた、別の理由があるのだが。
「これで旨くいくといいんじゃがのう」
 御者台の上でギーン・コーイン(ea3443)が呟く。
「相手は獲物に飢えているはず。きっと旨く行くでしょう」
 同じく御者台に乗ったジュリアン・パレ(eb2476)が答える。彼等二人が馬の手綱を取っているのだが、素人に毛が生えた程度の腕前なので、大した速度を出せないのだ。それがかえって無警戒さを出して良いのかもしれないが。
「ああ、絶対に乗ってくるはずだ。オークと言う奴は脂肪に包まれ、頑健だが頭の回りは宜しくない。それに‥‥」
 ユーリ・ブランフォード(eb2021)も賛同する。成功の根拠としてオークの特徴を知っている限り述べて行くが、話に熱が入ると止まらない為、割愛させていただく。
「‥‥そろそろ日も暮れる、か‥‥。今日はこのあたりでキャンプを張る‥‥」
 先を歩いていたカルル・ディスガスティン(eb0605)が言う。確かに日はもう傾いている。暗闇の中を進む必要も無いので、馬車に隠れていた者、周囲を歩いていた者、御者台に居た者総出でキャンプに取り掛かる。馬を近くの木に繋ぎ、4人用テントを張る。4人ずつ夜警に当るのでこれだけで十分である。
「今日は私達の担当ですね‥‥。今夜、明日中に出てきて下されば良いのですが‥‥」
 火に薪をくべながらシルフィリア・カノス(eb2823)が呟く。彼女は寝癖を気にしている為、直す手間が来ないうちに片を付けたいと思っているようだ。
「フン、如何であれ、少しは手応えが欲しいがな」
 ルシファー・パニッシュメント(eb0031)が口の端を吊り上げて言う。彼は非常に重装備なので、警戒されないように、昼間は馬車の中に隠れていたのだ。
「相手は賞金が掛かる程。油断は出来ませんね‥‥」
 引き締めた表情で夜警組の最後の一人、ミラファ・エリアス(ea1045)が言う。マイペースが心情の彼女には珍しい事であろう。が、やがて相対すべき敵は、それほどの物なのだ。
「俺は人の方専門なのだが‥‥ギルドも随分気の効いたことをしてくれる」
 キース・レイヴン(ea9633)が言う。彼女は人間専門の賞金稼ぎらしいが、どうやら、賞金首の話に興味を持ったらしい。
 夜の闇が深まった頃、炎の向こうで影が動いたが、逆光の所為か誰も気が付くことは無かった‥‥。 
 一夜が明け、荷物を積んで再び出発をする冒険者達。野営の後始末の最中に、ジュリアンがある物に気付く。
「これは‥‥足跡?」
 高水準の優良視力と森林に関する土地感が功を奏したのか、僅かな違和感に気付いたらしい。近寄ってみれば、なるほど、確かに大きい物が通ったような跡が見えないことも無い。
「昨夜は気が付かなかったが、近くに1体居たようだな‥‥。偵察か?」
「さあな‥‥だが、いずれ解るだろうさ。遭遇すれば、な」
 キースとルシファーの血の気の多い二人が互いに納得しあう。恐らく、戦闘は近い、と直感したであろう

●激闘!!大傷ボギー

 意外にも野営二日目も襲撃は無く、冒険者たちの中にも長く続いた緊張状態が緊張が重く圧し掛かる。其れを感じ取ったのか、馬達も少々落ち着きが無いようだ。暫くそんな状況が続いた後、馬が嘶きを上げる。
「むぅ、如何したんじゃ!」
 御者台の上でギーンが叫ぶ。其れを合図としたかのように、前方両脇からオーク達が姿を現す。
「くっ‥‥待ち伏せか‥‥ファイヤーボム!」
 ユーリが火球を放ち、牽制する。一層混乱する馬達だが、必死にジュリアンが立て直している。その間に荷物を馬車に積んでいた面子が武装する。初めから馬車に乗って居た者は飛び出すだけであったが。その間に炎は消えるが、オークたちはさして気にした様子は無い。
 傷跡だらけのオーク‥‥ボギーが右手を前に突き出すと、一斉にオークが馬車に突っ込んでくる。其れを迎え撃つのは、ギーン、ルシファー、キースである。
「数が多い‥‥気は抜けんな」
 キースが呟く。確かに飛び出した冒険者の倍は居る‥‥筈だった。
「雑魚が‥‥」
 重量物が落ちるような音。一斉にその方向に視線が釘付けになる。1体のオークが倒れている。肩口から下腹部までざっくりと裂け、痙攣を起こしている。その前には、槌で殴られたらしき腹を押さえてはいるが、不敵な笑みを浮かべているルシファー。カウンターにスマッシュを乗せて、得物の鎌を振り下ろしたのだ。、そのあまりの破壊力に一気に怯えるオーク達。
 ボギーが手を上げて他のオーク達を制し、何かを言う。するとオーク達は瞬く間に落ち着きを取り戻す。流石にオーク達を束ねているだけあって大した信望を集めているらしい。アイツは俺がやる、とでも言ったのであろうか、ボギーはゆっくりとルシファーの前に歩み出る。が、仕掛ける様子も無い。どうやら、ルシファーの破壊力の正体が、カウンターアタックである事を読んだらしい。この後、暫く二人は対峙し続けることになる。
「じゃ、わし等も他の奴等を片付けねばの。首魁はルシファー殿に釘付けの様じゃしな」
 日本刀にライトシールドを構えたギーンが手近なオークに切りかかる。分厚い皮膚や脂肪に阻まれ、大きな傷には至らないが、辛うじて有効打にはなっているらしい。そして、振り下ろされる槌を盾で受け流す。一人でもある程度はやって行けそうである。
「これほど近付かれてはボムは使えないな‥‥」
「頼む、バーニングソードを掛けてくれ。恐らく素手では通じん」
 キースの要望に答え、バーニングソードを付加するユーリ。キースは渾身の力で、オークを殴りつける。激しく波打つオークの腹。だが、動じた様子は無い。キースとオークの目が合った。表情が読み取れない、頬肉が垂れ下がった顔がニタリと笑ったような気がした。キースに振り下ろされようとするオークの槌。その刹那、オークの肩に矢が突き刺さる。
「‥‥援護する」
 後方に下がっていたカルルがオークに向けて矢を放っていた。其れで力が抜けた槌を、キースが捌く。此方も長丁場になりそうであった。
「実質的に役に立てるのは回復くらいですが‥‥だからってそれ以外の時に何もしない訳にもいきませんよね」
 シルフィリアが持っていた干し肉を放り投げる。食べ物で敵の気を逸らせないか、と言う算段である。が、オーク達はちらりと確認した後、馬鹿にするな、と言いたげな目でシルフィリアを睨みつける。そんなシルフィリアに向かって振り下ろされる槌をキースが代わって受け止める。流石の威力にキースの腕が悲鳴を上げる。
「ぐ‥‥」
「大変です、リカバー!」
 高速詠唱でリカバーを唱えるシルフィリア、だが、習熟が足りなかったらしく、一度目は失敗し、二度目で辛うじて成功する。
「流石に凌ぎきれませんね‥‥早く復帰を御願いします!」
 二人の治療行動の間、ジュリアンが代わって攻撃を凌いでいた。徹底した防御姿勢と、先の魔法による援護のお陰で、クルスダガーでもどうにか受け流せていたが、流石に防戦一方では辛そうだった。だが、突如吹き抜けた冷気と共に、オークの動きが目に見えて悪くなった。
「皆さん、大丈夫ですか?」
 ミラファが声を掛ける。彼女の強力なアイスブリザードは、オークの分厚い脂肪の上からでも馬鹿にならない痛手を与えたようだ。キースが中心となり攻撃を受け流し、ジュリアンが防御のサポートといざと言う時の回復、シルフィリアが回復の中心、ミラファが一気に魔法で削り、ユーリが魔法付加した矢をカルルが放つ。彼等は一丸となってオーク達に立ち向かっていた。

●終幕〜首級

「取りあえず、片はつきましたね‥‥」
 ミラファが肩で息をしながら言う。より高位な技術で魔法を使うほど、精神的疲労は増大する。恐らくもう1、2発撃てば、彼女の魔力も枯渇するであろう位に疲弊していた。
「‥‥幾らか取り逃したが‥‥恐らく長くはあるまい‥‥」
 カルルの言う通り、傷ついた挙句逃げ出したオークも居た。それらに止めを刺すには、攻撃力が足りなかった。だが、回復手段がなければ、やがて衰弱して野垂れ死ぬであろう。
「ルシファーさんとギーンさんはどうなりましたかね‥‥」
「取りあえず、死んでは居ないだろう。先ほどまでは、十分渡り合えていたようだからな」
 その実、ギーンは上手く立ち回り、一人で2体のオークを相手にし、うち1体に止めを刺し、もう1体も撃退していた。そして、ボギーと相対していたルシファーだが‥‥。
「チィ、何時までも動かない気か‥‥」
 同じ事をボギーも考えているのであろう。両者、全く微動だにしない。達人の果し合いにも似た空気。其れを断ち切ったのは、両者いずれでもなく、カルル。矢がボギーの肩に突き刺さる。ボギーの意識がそちらに向いた瞬間、ルシファーの鎌が振り下ろされる。だが、その一撃にボギーは耐えた。怒りに燃える双眼でルシファーを睨みつけ、ボギーはありったけの力を込めた槌を叩きつける。鎧兜の上からでも骨が砕けたかと思うような痛みが上から襲い掛かる。だが、その勢いすらも利用して、ルシファーの一撃がボギーに打ち込まれた。倒れる両者。ジュリアンが駆け寄り回復を施す。その間にギーンが日本刀を突き立て、ボギーに完全な死を齎す。
「どうやら、済んだようじゃのう?」
「後は、廃坑を探して、略奪品を返すだけですね」

 見つかった略奪品は殆ど大した物は残っていなかったが、賞金の掛け主である運び屋組合の方で可能な限り返すことになった。個別に持ち帰り、持ち主を探しだしたカルルは若干の稼ぎになったらしい。
 そして、ユーリはこれを機に、バウンティハンターを名乗ることにしたという。