盾と誇り
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■ショートシナリオ
担当:九十九陽炎
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月12日〜07月17日
リプレイ公開日:2005年07月18日
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●オープニング
「あの‥‥依頼をしたいんですけど‥‥」
ギルドにやってきたのは、良い所のお坊ちゃん、と言った感じの細身な少年だった。
「ええ、如何なさいました?」
何時ものニコニコ顔で返事をする若いギルド員。
「‥‥敵討ちをしたいんです」
ポツリと呟く少年。ギルド員の表情が引き締まり、目に真剣さが宿る。
「ただ事ではありませんね‥‥詳しく聞かせてもらえますか?場合によっては断らざるを得ませんので」
依頼人にどのような事情があれ、一歩間違えれば唯の犯罪。その辺はきちんと正しておく必要がある。この、少年の未来を潰さない為にも。
「僕の家は代々ナイトで、初代様が、その時の主に頂いた、家の紋章付きの盾が家宝だったんです。いえ、家宝と言っても、飾ったりするわけじゃなくて、其れを持って戦いに行き無事に帰ってくる‥‥。其れが父の騎士としての誇りだったそうです。同時に、そんな父の姿が僕の誇りだったんですけど‥‥。先日、賊退治に赴いた際返り討ちに遭って‥‥。一命は取り留めたものの、、盾を奪われてしまったんです。しかも、聞いた話では、その賊はその盾を持って悪さをしているとか‥‥家の面子とかはもう潰れてしまってますけど、それでも、その盾を悪用されるのは堪らないんです」
「ふむ、つまり、その盾を奪った賊を退治して、盾を奪い返す。この内容で宜しいですね?」
ギルド員は少年に意思確認をする。放って置いてもいずれは別の依頼で賊と関わる事になるであろう。であれば、早いうちに対処した方が良いだろうと判断したらしい。
「‥‥あの、僕も連れて行ってください」
「へ?」
「‥‥足手まといかもしれませんが、悔しいんです、凄く。だから、僕も戦いたいんです!」
ギルド員は少年の目を覗き込む。其処に込められた意思は強靭で、ちょっとやそっとでは曲がらないだろう。
「‥‥解りました。お引き受け致しましょう。但し、足を引張ると思うなら、無理はしないように。一人のミスが全体を危険に晒す事もありますから‥‥良いですね?」
少年の顔がパァッと明るくなる。思わずギルド員の顔からも苦笑が零れた。
「‥‥解りました。ありがとうございます!」
後日、集まった冒険者達に説明を始めるギルド員。
「今回の依頼は、山賊退治。当然、一人、二人では無いでしょうし、山賊とは言っても、騎士を返り討ちにする実力。かなり注意が必要と思われます。また、依頼内容に、盾を取り戻す事、も必須です。盾を持った敵には注意を払って下さい。そして、これが一番の悩みの種なんですが‥‥」
ギルド員は額を押さえて溜息をつく。
「同行者が一人いるんです。名前はレオン・アルシエル君。一応騎士としての訓練は受けているようです。将来性はありますがまだまだ駆け出し。皆さんで護って差し上げる必要があるでしょう。そして、彼は相手と因縁がありますので、無茶な行動にでると思います。が、どうにか上手くフォローしてあげて下さい。以上。よろしく御願いします」
ギルド員は本当に申し訳無さそうに頭を垂れて、冒険者達を見送った。
●リプレイ本文
●思いは荷車に載せて
馬車が街道を行く。見てくれは隊商とその護衛、と言った所であろうか。これは勿論冒険者の偽装であるが、討伐隊を破った山賊相手には格好の釣り餌とも言えるだろう。勝利に浮かれる物は慢心し、力量以上の物に手を出そうとするのだから。
「レオン君、短い間ですが、よろしく頼みますね」
イルリヒト・ブライヒ(eb2920)が人の良さそうな表情でレオンに声をかける。
「え、あ、はい! 此方こそ宜しく御願いします!」
早くも緊張でガチガチのレオン。先行きは不安である。
「貴方は一人ではありません。遠慮なく私達に頼って下さいね?」
シルフィリア・カノス(eb2823)が慈母の様な笑みで緊張を解す。
「焦った所でどうにもならねぇ。どうせあっちから敵が来るんだしな。のんびり行こうぜ、のんびりとよ?」
レオンが落ち着いた所で、月村匠(ea6960)が荷台に寝そべりながら場を締める。彼は山賊が現れるまでずっとのんびりする心算らしい。
日が傾き、薄暗くなったあたりで野営の準備を始める冒険者達。
「首尾は如何じゃな?」
「‥‥付近に人の痕跡は無い‥‥恐らく、まだ先だ‥‥」
「では、明日か明後日か‥‥村があれば詳しく聞けたのにのう」
薪集めも兼ね、偵察に出ていたカルル・ディスガスティン(eb0605)と、ギーン・コーイン(ea3443)が言葉を交わす。
「ちょっと良いですか?」
深夜、歩哨に立つレオンに、デニム・シュタインバーグ(eb0346)が声をかける。
「はい、何でしょう?」
「僕も、以前騎士の名に泥を塗ってしまいました。ですから、僕も騎士の誇りを取り戻したいんです」
「キミもですか‥‥。お互い、騎士として誇れるように頑張りましょう!」
デニムとレオンが騎士の友情を深めている頃、テントの近辺では、ハルカ・ヴォルティール(ea5741)とアリシア・キルケー(eb2805)が炎の番をしていた。
「レオンさん、誇りを取り戻せると良いですわね」
「家宝が悪用されている気持ちは解るんですが‥‥。無茶だけはしないで欲しいです」
「そうですわね。そうでないと私もけ‥‥オホホホホホ、何でもございませんわ」
慌てて取り繕うアリシア。首をかしげるハルカだが、なんとも言われぬ危険を感じ、流す事にした。
「良い月夜だな‥‥明日も晴れるかねぇ‥‥」
デニム達の反対側では、月村が歩哨に立ちながら、空を見上げていた。
●戦を知るもの
二日目も、初日と変わらず、移動及び探索に費やした。その際の夜警は、イルリヒト、シルフィリア、カルル、ギーンであった。
そして、三日目‥‥。
「そろそろ、現れても良さそうなんですけどねぇ‥‥」
イルリヒトがぼやいた、その瞬間、一本の矢が彼を掠めた。続いて、もう一本飛来する。
「む、襲撃か?」
最初の矢で襲撃を感知したギーンが、マントの下に隠していた盾で払い落とす。だが、其れで終わりではなかった。先の二本に遅れるようにして、多量の矢がバラバラの軌道で押し寄せる。だが、被害を受けたのは、デニム唯一人。荷台に居たカルル、月村は無傷でやり過ごし、ギーンとレオンは持っていた盾で防ぐ事ができた。そして、アリシア、シルフィリア、ハルカは、デニムが体を張って庇ったお陰で無傷でやり過ごす事ができた。そして、所詮は狙いの定まっていない矢。流石の回避能力で、イルリヒトは無傷でやり過ごした。
「大丈夫ですか!?」
シルフィリアが高速詠唱のヒーリングでデニムの傷を癒す。その間に山賊達が姿を現し始めていた。だが、弓矢は持っていない。何処かに置いていたのだろうか。
「さぁて、漸く敵さんのお出ましか」
ゆっくり歩み出る月村。勢い良く短剣で斬りかかる山賊を横跳びに避け、すれ違いに目にも止まらぬ斬撃で切り捨てる。そんな彼に、一本の矢が襲い掛かる。横跳びに避けようとするも、間に合わずざっくりと胸板が切れる。
「‥‥其処か‥‥?」
矢が射られた方向に向け、矢を放とうとするカルル。だが、一本のナイフによって遮られる。思わずそちらを振り返るカルルに、目が合った男が挑発するように、手にナイフをちらつかせて見せる。
「敵は思ったよりできるようです、レオンさん、僕と一緒に後衛の方を護って下さい!」
装備を整えたデニムが叫ぶ。その間に山賊が、月村の治療の為に前に出ていたシルフィリアを襲う。
「コナンの剣、その身に刻めっ!」
「ノルドの剣の真髄、とくと見よ!」
デニムの、その幼い容姿に似合わぬ剛の一撃、そして、レオンの日本刀による柔の一撃が山賊に叩き込まれ、山賊は最早動けぬほどの重傷を負う。
「わ、た、危ないじゃないです‥‥か!」
山賊の攻撃を必死に回避するイルリヒト。そして、隙を正確に縫って、最高のタイミングで日本刀を相手に叩きつける。
「‥‥盾を持った山賊、とは中々現れませんね‥‥」
シルフィリア一人で今の所回復が足りそうなので、周囲を警戒しているアリシア。未だ、盾を持った相手は見えない。それは、まだボスが現れていない、と言う事でもあった。
「苦戦しているようだなあ、おい」
やけに通る声が戦場に響く。
「ボス!?」
山賊達が口々に叫ぶ。付近の林より現れたのは、筋骨隆々の見事な体躯の男。人間としてはかなり巨漢の部類に入る。右手にはノーマルソード、左手には、古ぼけているものの、意匠の凝った家紋入りのライトシールドが構えられていた。
「なるほど、冒険者かよ、確かにコイツは荷が重いや‥‥俺が居なきゃあ、な!」
ゆっくりと歩み寄り、無造作にその手の剣を振り下ろすボス。その剣圧は広範囲に衝撃波を巻き起こす。それは、回避に秀でていない者、または、盾を持たない者に十分な脅威と言えた。
「せめて、バランスだけでも崩せれば‥‥ストーム!」
ハルカの手から巻き起こる暴風に、ボスを含めた数名が吹き飛ばされ、付近の木に勢い良く叩きつけられる、ダメージ自体はさほどでも無い様だが、ボスは思わず、その手の盾を取り落とした。一瞬、その行方に釘付けになる冒険者達。
「‥‥喰らえ‥‥」
すかさずボスに向けてカルルが矢を放つ。が、素早く盾を構えなおしたボスは、辛うじてその矢を防いだ。
「厄介な技を使うのう、あやつはわしが食い止める、早いとこ、手伝いにきとくれよ?」
自分に向かってきた山賊を返り討ちにすると、ボスに向けて歩き出すギーン。
「曲芸だけかと思ったら、中々やるじゃねぇか」
要所要所でナイフを投げて冒険者達を阻害した男、彼と相対していたのは月村。だが、相性は決して良くは無かった。ナイフを投げて来るので得意のカウンターは使わせて貰えない。そして、もう一つの得意技、居合いも驚くべき事に、完璧に目で捉えられ、きっちりダガーで受け止められていた。射撃の腕は決して高い方ではないので、本業は月村と同じく、格闘戦にあるようだった。だが、相変わらずナイフを投げる戦法を変えるつもりは無いようだった。本日4本目となるナイフを構える。
「こりゃ、俺も取っておきって奴を見せるしかねえな‥‥」
普段の構えより一段と腰を深く落とし強く捻る。守りの事は考えず、次の抜刀の一撃に掛ける心算のようだ。敵の手から放たれるナイフを受けつつ尚、強く踏み込み、勢いをさらに助長するように腰を伸ばし、十二分の加速を持って日本刀を叩きつける。夢想流に伝わる、居合いの奥義とも呼べる技術である。ナイフを避ける事を考えていたら、この一撃は放つ事はできなかったであろう。思わぬ一撃に、慌てて逃げ出すナイフ投げの男。
「待ちやがれ!」
後を追おうとする月村だが、とっさに振り返った相手が、ナイフとダガー、両方を投げつけてきたため、出足が止まってしまった。
「ちっ」
追おうとすれば追いつけなくもない距離であったが、此処は相手の庭、何があるかは解らない。それに、足並みを乱すわけにも行かない。結局月村は味方の元に戻る事を選んだ。
「‥‥弓の専門家か‥‥敵に回すとこうまで厄介とはな‥‥」
先ほどのハルカのストームで焙り出された弓使いと睨みあっているのはカルル。射撃と言うのは基本的に回避が困難である、まして、専心して来た者の射撃なら尚の事だ。共に傷付くも、明暗を分けたのは、味方の存在である。既に数を減らした山賊と、未だ全員残っている冒険者。射撃手の務めは敵を射抜くだけではなく、他の敵を牽制することも重要である。狙わなければならない的の数、そして、冒険者には回復役が居た。シルフィリアは高速詠唱の乱発で逆に疲労困憊していたが、まだ、アリシアが居る。矢によって受けた傷も、次の矢を番え、射る間に回復されてしまう。自分の不利を悟った射撃手も逃走を始める。矢の死角を突きながら。
「中々やるのう‥‥じゃが、そろそろ年貢の納め時じゃないかの?」
一方、ボスと対峙するギーン。敵もさる者、絶妙のタイミングでソードボンバーを放つ為、ギーンも反撃の間合いに踏み込めない。だが、一進一退の攻防もそろそろ終わりを告げようとしていた。
「お待たせしました!」
向かってきた雑魚を掃討し終えたデニム、イルリヒト、レオン、そして、手練を一人で追い払った月村、そして、カルル、アリシア、シルフィリアと続々と冒険者達も集結する。
「やれやれ、雑魚は全滅かい。だが、まだ終らんぜ!」
絶対的不利の中でニヤリと笑うボス。何かあるのかと警戒する冒険者達。緊張の中、何を思ったか盾を転がすボス。
「あ!」
一瞬。そう、冒険者が盾の行方に目を奪われた一瞬。ボスのソードボンバーが地面を抉り、冒険者目掛け襲い掛かる。反応が遅れる冒険者達、その間に遁走するボス。
「‥‥見事な引き際‥‥ですわね‥‥」
アリシアの呟き、それは、冒険者達に共通する思いであった。
●戦終って
帰路に着く冒険者達。首領含め数名は取り逃したものの、山賊はほぼ壊滅と言って良かった。
「何とか盾は取り戻せましたが‥‥」
「首領は逃してしまいましたね‥‥」
「ま、逃げちまった物はしょうがねぇさ。二兎を追うものは一兎も得ずってな」
「アレだけ痛めつけたのじゃから、少しは大人しくなるじゃろうしのう?」
「どうです? 誇りは取り戻せましたか?」
「いえ、盾は取り戻せましたが‥‥それだけじゃ駄目なんですよね。もっと修行して、騎士として恥ずかしくない実力を身に付けられた時、それが僕にとって、騎士としての誇りになると思います」
真直ぐな目のレオン、その目は明日を、未来を見据えていたのであった。