●リプレイ本文
●冒険者狩り対策
冒険者狩りとどうやって有利な条件で相対するか。恐らく今回の焦点はそこにあるだろう。
「一応、ギルドには頼んで別の依頼を請け負ったようには見せかけたぞい」
ギーン・コーイン(ea3443)が口を開く。彼は、恐らく敵はギルドに出入りして、駆け出し冒険者を品定めしているのではないか、と疑っていた。
「これで、森に行く理由としてカムフラージュは出来たが‥‥このまま行くと、確実に夜襲を受けそうな時間帯だな」
ユーリ・ブランフォード(eb2021)が腕を組んで考え始める。事前情報だけを見ても、夜襲だけは避けたいところだろう。
「それに、先に発見されてマーキングされるのも拙い。だから、あえて一日目、二日目は森を避け、三日目に突入する、と言うのはどうだろうか。無論、警戒はする必要があるが」
イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が地図を広げながら、行動を提案する。彼はついでに、羊皮紙も受けとっており、敵の外見等を記録もするようだ。
「解ったわ。それが一番良いみたいだし」
フェリシア・リヴィエ(eb3000)が頷く。彼女は自分自身超初心者を自認しているが、足手まといにならないように、との意気込みは他の冒険者に負けては居ないようだ。
『‥‥と、言う事だ。解ったか?』
『解りました。後、僕は目が良いですし、子供ですから、キョロキョロしていても疑われないんじゃないかと思います』
『解った。伝えておこう』
「銀杏が偽装中の警戒をするらしい。目は良いらしいからな」
キース・レイヴン(ea9633)が話の内容を所所楽銀杏(eb2963)にジャパン語で訳す。そして、今度は銀杏の言葉を皆にゲルマン語で訳す。
「所で、一人足りなくないかい?」
ティワズ・ヴェルベイア(eb3062)が、誰もが触れられなかった部分に触れる。本来はもう一人来るはずだったのだが、やんごとなき理由で参加できなくなったらしい。
「ま、僕がいればそんな事は些細なことなんだけどねぇ‥‥。まあ、段取りも考えてあるようだし、出発しようか」
話題を完結させるティワズ。言葉の端々に自己過信が見て取れるが、根拠の無い自信も、得体の知れない相手とぶつかるには、心強くもなる。
日が沈むと当然野宿する必要がある。森から離れているとはいえ、夜襲の懸念はある。そこで、木が生えている場所の付近にテントを張り、射撃に備える。無論、森の方角からは樹が光を遮るような角度で、である。こうする事により、光を頼りに射撃する場合の角度も大きく限定できる。
「確か夜は食事会をして誘ってみるんだったかな?」
「いや、夜に草原で襲われては利は無い。やるなら森に入ってからの方が良いな」
折角の名案も、使うタイミングを間違えては効果は無い。策は使うタイミングを見極めてこそ策なのだ。
「テントも同時に二人までしか眠れんしの‥‥。普通に警戒するモン以外に、寝た振りして襲ってきた奴を逆に返り討ちにするっちゅうのはどうじゃな?
「僕も賛成だな。どうせ、何人かは外で眠らなければならないんだ。だったら其れさえも仕掛けに使ったほうが良い」
結果、戦士が二人、僧侶、若しくは魔法使いが一名が見張りとして立ち、二人は外で寝たふり、残りがテントの中で休む、と言うローテーションを組む事になった。一応、仮眠は取れるので体力的には何とかもつ。魔力の回復は出来ないだろうが、魔法をまだ使ってないのだから、そっちの心配もまだいらなかった。
●強弓は流星の如く、凶刃は陽炎の如く
出発して3日目、いよいよ森へと侵入する冒険者、今日中に発見できないと、ギルドには失敗報告をする必要がある。それに、今まで接触しなかったと言う事は、向こうもマークしていないと言う事もあるが、同時に此方も尻尾を掴めて居ないということでもある。
「ふむ‥‥大分奥まで入ったな‥‥。この辺で休憩するか?」
言うまでもなく、フェイクである。元々奇襲が得意という敵を相手にするに当って、森の中は言うまでも無く不利である。その中で、なるべく此方にとっても利が築ける所‥‥。それは、若干開けた場所。周囲より明るいので見通しも利き、延焼の不安も薄れるのでユーリのファイアートラップも活かせるのである。
「森は歩き慣れていない。早めに休ませて貰うよ」
此処で休憩を演出する為、さっさとテントを張り、その中にさっさと潜り込むユーリ。尤も、これはポーズで、ファイヤートラップの為のカムフラージュなのだが。
『僕は、周囲を見て来ます。若しかしたら先に発見できるかもしれませんし』
『俺達の目の届く範囲からは離れるな』
『解りました』
一見退屈を持て余したようにうろつく銀杏。だが、その目はしっかり外に向かっている。
「さて、こっちの準備も整ったし、来るなら来いって感じね!」
フェリシアが保存食で食事の支度をしながら、まるで、戦闘と言うよりパーティーの前の様な事を言う。良い感じで、戦気はカムフラージュされているようだった。
「がぁっ!」
突然、イェレミーアスが吹き飛んだ。その肩には、恐らく夜には全く見えないであろう、黒塗りの矢が突き刺さっていた。
『駄目です、見えません!』
銀杏が矢の飛んでくる方向を見ても、何も解らない。かなり遠くから、恐ろしい精度で放たれたのであろう。
「なんて速さだい。これじゃ、とてもタイミングは合わせられないよ」
ティワズが大げさなアクションで嘆く。彼は矢の軌道をトルネードで逸らそうと考えていたのだが、人の目に 見えるか見えないかのスピードで飛来する矢にタイミングを合わせるなど、例え高速詠唱を用いても不可能に近い。尤も、彼は其れすら無しで挑もうとしていたのだが。
「とにかく治療を‥‥リカバー!」
フェリシアが治療を終えた瞬間、次の矢が飛来する。次の餌食になったのはキースであった。続けざまの射撃、だが、それは冒険者に恐怖を植えつけたが、同時に、自分の位置をも晒してしまう結果になった。
『見えた、あそこです!』
「俺は構わん、銀杏の指差す方向にウインドスラッシュを!」
休む間も無く次の負傷者への治療を施すフェリシア。そして、キースは自分の怪我をおしてまで指示を飛ばす。
「解ったよ、ウインドスラッシュ!」
矢の飛んでくる間隔と、ティワズがウインドスラッシュの詠唱を成就させる時間はあまり変わらなかった。直線で矢が飛んでくるなら、逆の軌道でウインドスラッシュが敵に届かないはずは無い。幾ら強弓でも、その射程をフルに活かせるほどこの森は浅くは無い。確かな手ごたえを感じた。
「俺達は弓使いを追ってみる、此処は頼むぞ!」
イェレミーアス、ティワズ、フェリシアが弓使いの確認に走る。
「剣の使い手も来るかも知れん、準備せんとの」
オーラボディを発動させようと集中するギーン。だが、敵はそんな時間すら与えてくれない。
「危ない!」
テントの中からこっそり様子を覗っていたユーリが叫ぶ。目を開けたギーンの前には異形の戦士が立っていた。頭部には幾重にも布を巻きつけ、目元だけが覗いている。そして、下はマントで覆われていて、左手は見えず、右腕は今正に、ノーマルソードを振り下ろそうとしている。
「むぅ!」
とっさに盾を翳すギーン。だが、戦士の斬撃は、盾の前で停止し、直後横薙ぎの軌道となって襲う。だが、どうにかその動きに合わせることに成功する。表情は読み取れないが、何処と無く悔しそうな戦士。
「喰らえ!」
銀杏の施しを受けたキースが、流れるような動きで4連撃を放つ。そして其れを踊るような動きで避ける戦士。だが、最後の肘打ちが腹部に決まる。だが、キースは異常な手ごたえを感じていた。戦士はキースから距離を置くと、執拗にギーンに狙いを定める。
「危ない!」
『左手です!』
キースと銀杏、二人が同じ事を注意したのかは解らない。だが、次の瞬間、ギーンから鮮血が散った。
「ぐむ‥‥」
骨まで見えそうな腕の裂傷。それを作ったのは、露になった戦士の左腕と、その先のナイフ。銀杏にはしっかりと、キースには辛うじて見えた戦士の左腕に、ギーンは反応できなかったのである。戦士は距離を取り、次の獲物の品定めに入る。
『銀杏、回復できるか?』
『駄目です、傷が深すぎます!』
恐慌する冒険者達、そして、戦士が不用意に一歩踏み出した瞬間、今まで沈黙を守っていた一人の男が声を上げる。
「だが、其処までだ‥‥!」
戦士の足元から広がる炎。ファイヤートラップである。決して対象を狙う訳では無いこの魔法を、詠唱が終了するタイミングと相手が動くタイミングを合わせることによって敵を捉える事に成功する。延々と詠唱を繰り返していた為に既に精神は限界に近付いているが。
「グ、オノレェ!」
燃える衣服を即座に斬って脱ぎ捨る戦士。褐色の肌に黒い髪、この辺りの人間では珍しい特徴である。戦士は、わき目も振らずに足音無く逃走を始める。
「あれでは近付かれるまで解らん、か‥‥、ギーン、大丈夫か?」
「結構しんどいわい‥‥」
「弓の方を追っていた連中が帰ってくるまでの辛抱だ、頑張れ」
「見つけたぞ!」
イェレミーアスが叫ぶ。彼の前方には、金色の短髪で、髭を蓄え、眉間を斜めに切ったような特徴的な傷跡の屈強な男が鉄弓に矢を番えている。足元には布の端切れ。これで顔を隠していたのだろう。
「其処から動くんじゃねぇ! お前はともかく、後ろの二人は治せる怪我じゃ済まねぇぜ?」
鉄弓の男が牽制する。矢の威力は身に染みて解っているだけに、動く事は出来なかった。
「解らないなぁ、こんな事する位なら最初から逃げ出せばいいのに」
「逃げてる最中にさっきの魔法を撃たれたくないんでな‥‥。取引だ」
「一体、どんな?」
「簡単だ、俺が魔法の射程の外まで出るまで黙ってりゃ良い。俺の射程を考えたら、悪くない話だと思うがな」
確かに鉄弓の射程距離は、ウインドスラッシュの射程を凌駕する。しかも、矢を番えてる状態なら、詠唱を始める前に十分相手を射抜くことが出来る。つまり、向こうには利はあまり無い様に思えた。
「‥‥何を考えている?」
「やり合えばこっちも唯じゃ済まんからな。で、どうするんだ?」
剣呑な笑みを浮かべる男。断れば即座に矢が三人の誰かを射抜くだろう。顔を覚える目的も果たした以上、被害を増やすのは賢明とは言えなかった。
「解った。取引を飲もう」
「賢明だな、じゃ、アバヨ」
結局、遥か遠くまで牽制し続けながら離れて行く男を見送るしかない冒険者達であった。
●報告、星を落とす為に
ギーンの怪我は、イェレミーアスの持っていたリカバーポーションと、リカバーの魔法により回復した。
「不覚を取ったわい‥‥すまんの」
「仕方が無い。死者が出ずに依頼の成功条件が達成できただけまだましだ」
帰り道も警戒はするものの、取り立てて収穫を得る事は出来なかった。そして、ギルドで報告をする冒険者達。
「皆さん、良く無事に帰って来て下さいました‥‥。ふむ、なるほど。フェイントと死角からの攻撃、そして、刃物の切れ味を最大限に利用する技術ですか‥‥南の方には、そういう流派もあると聞きます。そして、肌や髪の色の特徴から考えても、其処の出身と考えて良いでしょう。そして、もう一人の、金髪の弓使い‥‥個人的には妙に気になりますが‥‥。とにかく、これで彼等を指名手配できるだけの情報を集めることが出来るでしょう。ありがとうございました。そして、いずれ手配書が出来たら、宜しく御願いします」
ギルド員は丁寧に頭を下げた。