揺りかごの唄
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月26日〜03月05日
リプレイ公開日:2007年03月06日
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●オープニング
「じゃあ、行ってくる」
厚手のマントを翻し、マルクは妻にしばしの別れを告げた。
「‥‥待って! やっぱり私も行く」
アナは、マントの端をぎゅっと握り締めた。
「何言ってるんだ、お前は」
「だって‥‥だって、ウィザードのあんたより、元ファイターの私の方が、よっぽど戦えるよ!」
マルクは、うっ‥‥と顔を引き攣らせた。確かに、今まで白兵戦―例の、犬も食わないというやつだ―で彼女に勝利したことはない。
「いや、ウィザードにはウィザードにしか出来ない支援てやつがあるわけで」
「ファイターにしか出来ないこともあるじゃないか」
一歩も引かない妻に、マルクは苦笑をもらす。
「元ファイター、だよ。今は‥‥サリムの母親だ」
サリムとは、昨年の夏生まれたばかりの2人の息子。この名の効果は絶大だった。
俯いたアナの手を、両手で包み込む。
「戦うことは、他の人間にも出来る。だがな、サリムを守って、乳を与えてやれるのはお前だけだ。流石に、俺も乳は出ないしなぁ」
「‥‥山羊の乳を貰ってくればいい。そうだ! 私が行くから、あんたサリムの面倒を見ておくれよ」
「それで? お前が帰ってくるのは、7日後? それとも10日後か? その頃、家の中はどうなってる?」
今度は、アナが顔を引き攣らせた。‥‥多分、そこは既に人の棲家ではない。
「ずるいよ。あんたも家事くらい覚えてくれないと」
「一連の騒動が片付いて、王国に平和が戻ったら‥‥暇すぎて、習う気になるかもな」
「‥‥そしたら、叩き込んでやるから覚悟しな」
拳と足も一緒に叩き込まれそうだ、と思ったことは黙っておく。
「ああ。そのために、出来る事をしてくるよ。‥‥サリムを頼む」
そして、マルクはリブラ村へと旅立った。数日前のことである。
「‥‥こうやって、ギルドに来れば、いくらかの情報は手に入るし‥‥支援に向かった者が活躍してることも伝わってくるけど‥‥やっぱり、心配なんだよ」
「それは、そうでしょうね」
受付嬢が頷いた。
「あの人、冒険者だったくせに、妙に抜けててさ。腕はいいけど、危なっかしいんだ」
マルクとアナは、冒険者仲間として出会った。家庭を持ってからは遠出の必要な冒険は控え、生業に精を出していたのだが。
「だから、そんな場所に1人で行かせるのは、心配で心配で‥‥‥‥いや、違うね、私が行きたいだけかも。旦那が危険な場所で、人のため、国のために動いている。そんな時に、私は家でじっとしてるしかないんだよ‥‥戦える、手足があるのに」
きゅ、サリムを抱きしめる。
「私の友達は、冒険者時代に知り合った奴が多いんだ。だから、同じように考えてるのが、何人もいるんだよ。旦那を見送って、家で悔しい思いをしてる。子供は、大事だよ。何をおしても護りたいさ。でもね、今のところ平和なパリで子供を護るのは、私じゃなくても出来るはずだ。冒険者にだって、事情でパリを離れられない奴もいるだろ? そういう人達に、子供の面倒をみてもらいたいのさ。半端な奴に預けるのは嫌だけど、ギルドの面子なら、信用できる」
「分りました。子守のできる人材を集めればよいのですね」
「ええ。よろしくお願いします」
●リプレイ本文
「大規模な戦闘は終わったらしいけど、まだ仕事はいくらでもあるからね。子供達をお願いします」
そう言って、女傑達は旅立った。
「凄いお母さんたちだよね。私や皆も未来はあんな感じなのかなぁ‥‥ねぇ、ラファエルお兄さんはどう思う?」
堂々たる背中に、ほわー、と溜息のミフティア・カレンズ(ea0214)。
「うーん、それぞれだと思うけどねぇ」
ラファエル・クアルト(ea8898)が苦笑する。
「でも、家族と家族がいるノルマンを守るためっていう気持ちは、わかる気がするわね。子供達は心配でしょうけど‥‥だから、私達も頑張りましょうね」
「左様。好きなことをするために。魂を自由にするために。後を頼まれてくれないか? ‥‥実に燃える『元冒険者』達じゃありませんか! ならば、僕も自由にやりましょう。彼女らと同じく、このパリの未来を守る為に」
うんうん、と頷くパトリアンナ・ケイジ(ea0346)を、じっと見つめる視線がひとつ。
「パトリアンナ・ケイジ‥‥」
その主は、ノリア・カサンドラ(ea1558)。
「うん? 何でしょう?」
「その名前‥‥いや、なんでもない。ま、しっかりとやりましょうかね。子供のパワーはすごいからね」
「好奇心旺盛で元気の良い年頃の子供達ですものね。気合を入れて、頑張りますよ! 待っている寂しさを、少しでも多く取り除いてあげられれば良いですね」
アルフィエーラ・レーヴェンフルス(ec1358)が、にっこりと笑った。
「はーい、どもども、ノリアでーす。みんなを1週間お世話しちゃうからよろしくねー」
「始めまして! 私はアルフィエーラよ。フィエーラとかエーラって呼んでね? よろしくね!」
「始めましてミフティア・カレンズです。ミフって呼んでね。家事は出来ないけど、一緒にお手伝いしたり遊ぼう♪」
「皆こんにちは。短い間だけど一緒に暮すみたいなもんだから、仲良くしてね。私はラファエル。この子はロホ。怖くないから、こっちもよろしく」
「陰守森写歩朗(eb7208)と申します。宜しくお願いします」
「初めまして、ケイジと言います。これから暫く、食事などの面倒を手伝わせていただきますが、紹介いただけるとありがたい」
冒険者に続いて、子供達もご挨拶。
「パメラよ。こっちは弟のアルノー。5歳」
「タチアナです。パメラと同じ、12歳です。よ、よろしくおねがいします」
「ジャック。コレはレリア」
「よろしくおねがいします。リオネルといいます」
「シドニーと!」
「パトリス!!」
『6歳! よろしくー』
0歳のサリムと3歳のアミラを加えて、総員10名。賑やかな1週間になりそうである。
用意された家には、子供達も初めて来たらしく、早速探検を始めた。
「え〜っと、炊事場がここで、洗濯物は‥‥あ、ここに干すのね。じゃ、簡単にスケジュールとか決めちゃいましょうか」
ノリアの提案で簡単な協議が開かれ、大体の分担が決まった頃。
「うあぁぁーん」
2階から、女の子の泣き声。子供は、いつだって騒ぎと隣合わせだ。
「妹泣かせんなっていつも言ってるでしょ!」
「うっせー。コイツがしつこいんだ」
「あの、落ち着いて、ね?」
「喧嘩だー」
「乱闘だー」
泣きじゃくるレリアに、居直るジャック。叱りつけているのがパメラで、タチアナがおろおろと仲裁に入っている。上空で傍観しているのが、双子のシフール。
「はーい喧嘩しなーい喧嘩しなーい。お手伝いが好きな男の子? 丁度お仕事があります、拒否権は与えない。さぁいらっしゃい」
「何だよ! ざけん‥‥」
言うだけ言って去っていくパトリアンナに、ジャックは食ってかかったが。
「何か文句でも?」
ぎらり。振り返った視線の鋭さに立ちすくむ。口元は笑っているが、目は‥‥うん、逆らわない方がいい。本能的にそう思った。長いものに巻かれることを覚えた、ちょっとしょっぱい10歳の冬。
「うわぁぁん」
相変わらず泣きじゃくるレリアを、ミフティアがそっと抱きしめる。その暖かさと柔らかさにほっとしたのか、少しずつ泣き声がすすり泣きに変わった。
「よーしよし。いい子いい子」
「あ、あの‥‥ね、お兄ちゃんがね‥‥う、うるさいってね、怒るの‥‥えっぐ‥‥」
「ジャックは、レリアのこと泣かせてばっかり!」
パメラが、大人びた溜息をついた。好奇心旺盛なレリアが、何かにつけて質問をしてくるのが、ジャックには少々鬱陶しいらしい。
「そっか〜レリアちゃんは、お兄ちゃんが大好きなんだね。だから、怒られると悲しいんだ?」
こくり。躊躇いなく頷ける素直さが愛しくて、ミフティアはきゅ、と腕に力を込める。
「お兄ちゃんは男の子だから、ちょっと照れくさいんだね〜。だから、こっちが大人になって、わかってあげよっか♪」
すっかり泣き止んだレリアの頭を、ふわりと撫でた。
「これから部屋の掃除をします。お手伝いしてくださいますか?」
森写歩朗が、子供達に微笑かける。もとは空家であったらしいこの家は、掃除し甲斐のありそうな場所が盛沢山だ。
掃除は上から、が基本。まずは、大人たちと、家小人のはたきを握ったパメラとタチアナが、高い所の埃を落し、キキーモラの布巾で棚や卓の上を拭く。
「よーい‥‥ドン!」
埃を掃き集めたら、最後は雑巾掛け。ノリアの合図で、アルノーとレリアがよたよたスタート。危なっかしいが一応形になっているのは、首から下げた金の煙草入れの効果だろう。
「さぁ、ここでシドニーとパトリスにバトンタッチ! 僅かにシドニーがリード! その差は縮まりません! このまま勝負は決まってしまうのか? 来ましたアンカー、ジャックにリオネル! まずはジャック、続いてリオネルにバトンが渡ります! おおっと、リオネル早い! 流石はエルフ! 差がぐんぐん縮まります‥‥‥抜いたぁ!! ジャック、追いすがっています、が、その差は開く、開く、ゴールまであと僅か! リオネル早い! ‥‥ゴ〜〜〜ル!! 雑巾掛けリレー第1回、1階廊下編、勝者、リオネル組! 審判・実況はノリア・カサンドラでお送りいたしました〜」
「もう1回だ!」
負けて悔しいジャックが、肩で息をしながら立ち上がる。嫌々手伝っていた彼であるが、勝負事に負けていられない。
「ふっふっふ。心配しなくても掃除場所ならまーだまだあるからね。気の済むまで勝負しなさい。それでこそ男!」
さすが子守の玄人。この後、家中の床がピカピカに、ジャックがくたくたになったことは言うまでもない。
朝一番は、皆でお散歩。町外れの家まで、山羊の乳を貰いに。
「さ、皆で手をつなごう。あんず、誰かはぐれたら教えてね」
「わふっ」
ミフティアの柴犬も、元気にお返事。
「妖精だー」
「素早いぞー」
空中では、双子シフールがロホとさくらんぼと、楽しそうにじゃれている。
「スイマセンちょっと料理を手伝って頂けませんか、何分、量が多い」
パトリアンナが、タチアナとパメラに声を掛けたのは、2日目の午後。
「お、いいね。将来に向けて花嫁修業になるよ。家事全般できると重宝されるよー。いや、あたしが言っても説得力ないんだけどさ‥‥」
通りかかったノリアも、声を掛けた。
「あ、はい。がんばります」
「いーよー。あたし達味方にしといた方が、色々お得だもんね、おじさん達も」
ケロリと言い放ったパメラに、パトリアンナは大笑い。
「はっはっは‥‥レディには敵いませんなぁ。女性は、生まれたときからオンナですからね♪ 頼りになると思っていますよ」
男性は死ぬまでガキンチョですが。隣の部屋から聞こえてきた、どがしゃーん、という音に苦笑しつつ、そう思った。
「何があったのですか!?」
少し目を離した隙に、椅子三脚と子供二人が床に倒れていた。森写歩朗は慌てて駆け寄り、ジャックとリオネルの様子を窺う。幸い、怪我はなさそうだ。頭を打った様子もない。
「‥‥あれ」
ジャックが指差したのは高い棚の上。布を丸めた鞠が載っている。先程彼らが遊んでいたものだ。高く投げすぎてしまったらしい。椅子を積み上げて取ろうとし、バランスを崩したのだろう。登っていたジャックが、椅子を支えていたリオネルを下敷きにしたのだ。
「怪我が無かったからよかったものの、一歩間違えば大変な事になっていたかもしれません」
厳しい声色に、子供達は体をすくませた。彼は自分達を過度に子供扱いしない。その分甘やかしてもくれないのだが、それも大人振りたい年頃の少年達には嬉しかった。
「ごめん、なさい」
だから、きちんと謝った。
「これからは気をつけてくださいね。少しも泣かなかったのは立派です。痛かったでしょう?」
真っ直ぐに褒められ、少年達は少し赤くなった。
年少組が昼寝をしている間、ノリアとアルフィエーラはせっせと洗濯物を干していた。子供が10人となると、量が半端ではない。
「よっし。この天気なら、今日中に乾くかな」
パンパン、と手を払って、ノリアが空になった籠を拾う。
「子供達眠っちゃってるし、少しだけ休憩しよっか。疲れたよね?」
「はい、実は。でも、とっても楽しいです」
「うん。そんな感じだった。子供達も楽しんでたしね。物語とか臨場感タップリだったしー、声色クイズも喜んでたし。子守唄とか伝承歌とか沢山知ってるんだね。すごいなー」
「バードですから、当然です。でも、ノリアさんこそ、子供達を飽きさせないっていうか‥‥すごく勉強になります」
照れたような笑みが、可愛らしい。
「いやあたしはこれが生業だからさ。でもクレリックらしくはないんだよねー、はははは」
確かに「殴り」と頭に付くクレリックは、彼女くらいのものだろう。
皆で雑魚寝しよう! というミフティアの案で、寝室に沢山毛布を敷いた。
「さすがに淑女方と同じ寝室というわけにはいきませんな。まぁ、困ったときは! 『助けてアンナブレッドマン』と呼べ! ですぞ」
「サリム君は連れて行くわね。また夜泣きするといけないから」
はしゃいでいた子供達も、良く食べ、遊び、手伝った疲れか、アルフィエーラの子守唄に誘われて、あっという間にご就寝。‥‥だったのであるが。
夜半。赤ん坊は泣くのが仕事な訳で。遠慮の無い泣き声は、別室であっても響き渡ってくる。
「はーい、どうしたのかなー?」
ラファエルがサリムを抱け上げ、あやし、心音を聞かせると、泣き声が徐々に小さくなった。
「サリムちゃん、どうですか?」
そこへ、アルフィエーラが入ってくる。
「大丈夫。赤ちゃんって、心音聞くと落ち着くのよね。お母さんのお腹の中を思い出してるのかしら?」
「そうかもしれませんね。あの‥‥私は少し夜に強いので、お手伝いさせてくださいね」
「ありがとう。今日はもう大丈夫。また何かあったら、お願いするかも‥‥あら、もう寝ちゃったわ」
ラファエルはサリムを頬をちょん、と突いた。
「季節柄古いものですが、リンゴを買ってきました。みんなでおやつを作りませんか?」
森写歩朗の提案で、その日のおやつは焼リンゴに決定。ナイフで薄めに切ったリンゴを油で焼いて、仕上げは蜂蜜。ナイフは年長組しか触らせてもらえなかったけれど、皿を並べたり、蜂蜜をかけるのは皆で手伝って、甘酸っぱいおやつの完成である。
森写歩朗の持ってきた手作りケーキと甘い味の保存食も少しずつ皆で分けて、席につく。
「皆で作ると、美味しいねっ」
幸せな時間に、皆が頷いた。
「はい、くるって回ってね。さくらんぼも一緒にね‥‥せぇの」
薄布が、少女達と一緒にふわりと回る。
「うん綺麗綺麗♪」
ミフティア先生のダンス教室。きちんと柔軟体操で体をほぐして、女の子は薄布を持って。
「背筋と足はぴんと伸ばして‥‥ほらっ男の子もリードしたり、ちゃんと褒めるんだよ。そうしないと将来もてないんだから‥‥あ、アルフィエーラちゃん! 音楽、演奏してくれないかなっ」
「ええと、今楽器を持っていないので‥‥歌でも良いですか?」
「勿論! じゃ、一緒にやってみよう」
しゃらん。優しい歌声と、アンクレット・ベルの涼やかな音。羽のように薄布を翻し、くるり、と軽やかなステップを踏んで。
「こんな感じかな」
たった一節のお手本に、子供達の拍手喝采。
「皆も出来るようになるよ。後で、ノリアお姉さんにも踊ってもらおう! お姉さんも、すごく上手なんだよ」
「‥‥あれ?」
サリムのおしめを干していたラファエルは、庭の隅にぽつんと座っている少年を発見した。
「どうしたの、こんな所で」
顔を上げたのは、リオネル。
「‥‥」
彼は大人しくて、あまり問題も起こさない。8歳といっても、暦の上では20年以上生きているのだから、多少落ち着きがあっても‥‥物事がわかっていても、不思議ではないのだけれど。
「親御さんが心配?」
「‥‥っ。‥‥大丈夫って、思ってる、けど‥‥時々、急に、すごく心配で‥‥僕、母さんがいないから‥‥ずっと、バードの父さんと、色んな国を旅して‥‥でも、変な予言のせいで、故郷が危ないって言って‥‥‥」
「母国を守るために、戻ってきたのね?」
「父さんは、そう言ってます。今回も、僕を友達に預けて、村に行っちゃったんだ」
そのシドニー達の母も、後から村に駆けつけてしまったけれど。
少しむくれた様子に、ラファエルは静かに微笑みかけた。
「私のお父さんもね、冒険者だったの」
蹲ってしまったリオネルが、少しだけ顔を上げた。
「いつも戦いに行くときは不安だったけど『家族と、自分と家族がこれから知り合うかも知れない、仲良くなれるかもしれない人達を守る為。守る能力が少しでもあるなら、見過ごせない』んだって言われてね。お父さん達は、貴女達も、それ以外の家族も、未来も守ろうって頑張ってるのよ」
「‥‥うん」
「なら私達は、一緒にお父さん達が帰ってくるとこを、守って待ってようね」
そう言って、そっと頭を撫でる。こくり、と少年が頷いたのがわかった。
遊んで騒いで喧嘩して、7日間ははあっという間に過ぎていった。
「みゅー‥‥一回もつまみ食い出来なかった〜」
ミフティアが悔しそうに呟いた。ダンスでお腹がすいたらつまみ食い。皆で作戦を立てて、役割分担して頑張ったけれど、パティおじさんは手強かった。全て事前に発見されてしまったのである。
「はっはっは‥‥これでもレンジャーの端くれですからな♪」
「次は負けねーぞ!」
ジャックがびしっと指を突きつけた。
「失礼な口利くんじゃないの!」
その頭をぺしっと叩いたジャックの母が、深々と頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
他の父母達も、それぞれに礼を言う。
「おかえり、父さん」
父の手を、きゅ、と握ったリオネルの姿に、ラファエルは小さな笑みを浮かべた。
「おにーちゃん、おねーちゃん、おじちゃん、ありがとー、またねー」
母に抱き上げられたアミラが、小さな手をぶんぶんと振った。他の皆も、角を曲がって姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。