今日は楽しい雛祭り
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月05日〜03月08日
リプレイ公開日:2007年03月13日
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●オープニング
「‥‥‥ん?」
昼下がりのブラン商会。いつもの通り品出しをしていたリュック・ラトゥールは、見慣れない箱を見つけて首をかしげた。蓋を開けると、
「何だこれ?」
木と紙で出来た人形がいくつか。形は簡素であるが、着ている衣は色鮮やかで、見慣れない模様がなかなか美しい。
「それ、ジャパンのお人形ですって。『雛人形』っていうらしいわ」
声を掛けたのは、ブラン商会の一人娘、シャルロット。
「ジャパンの?」
「ええ。父さんがね、貰ってきたの」
かつての復興戦争の折より、ノルマンとジャパンは繋がりがある。パリのエチゴヤでも、ジャパン製の商品が手に入る。
「旦那が‥‥なんでまた」
「ジャパンには、3月3日に女の子のお祭りがあるんですって。お人形を飾ったあとで、川に流すとかなんとか‥‥」
詳しいことは、彼女も知らないらしい。
「で、ジャパン商人にその話を聞いて、珍しがって私にくれたってわけ」
「へえ‥‥でも、そんな知り合い、いましたっけ?」
「父さんね、うちでジャパンからの輸入品を扱おうかどうか考えてるみたい。それで繋ぎを取ったんですって」
「はぁ。でも、この店に合いますかね?」
ブラン商会の商品は、基本的にヒラヒラキラキラ、もしくはポップ、あるいはシンプル、である。ジャパン物の雰囲気とは明らかに異なる。
「一ヶ所だけエキゾチックなコーナーを作ろうと思ってるみたいよ。『女性が好むもの』ってところさえ徹底すれば、意外といけるかも、ですって。リュックはどう思う?」
「う〜ん‥‥別に悪くはないと思いますけどね。そもそも、俺ジャパンのことはほとんど知らないんで」
昨年ジャパンの酒で昇天したことは、ここでは秘密だ。
「でしょ? 私もよ」
きらり、とシャルロットの目が光る。いつもの‥‥本当にいつもの事なのだが、リュックは嫌な予感を覚えた。
「だから、相手のことをもっと知らないと、何とも言えないわよね?」
「はぁ」
「3月3日のお祭りは、良い機会だと思うの。ジャパン出身、もしくは行ったことのある人を招いて、色々教えてもらってね、実際にお祭りをやってみたらどうかしら」
「確かに、多少ジャパンのことは分かるかもしれませんね」
「でしょ? 折角人形もあるんだし。女だけでわいわいやるのは、きっと楽しいわ。特別な飾りとか、食べ物とかもあるかも知れないしね。そういうのも、わかったら面白いと思うのよ」
この分だと、リュックは完全に裏方だろう。それは構わないが、男装の麗人大好き、面白いこと大好き、なシャルロットにしては、随分発想が大人しいような‥‥
「だからね、女の子と、女の子に見える人で、雛人形のお祭りをやりましょ」
「‥‥‥‥は? 今なんて言いました?」
「だーかーら! 女の子と『女の子に見える人』で‥‥」
「つまり、それが目的なんですね」
「あら、バレた?」
「バレバレです」
このやり取りもすっかりお馴染みだ。
「でも半分は、ちゃんとジャパン理解が目的よ?」
「‥‥たった半分ですか」
リュックは、深く溜息をついた。
「今から人集めてたら、3日には間に合いませんよ?」
「初めてだもの、2、3日くらいのズレは許してもらいましょ‥‥お店を閉めた後に、募集に行ってきてね」
「やっぱり俺が行くんですよね‥‥」
ジャパンに造詣が深い者が居そうなところ‥‥というと、彼にはいつもの所しか思いつかないのであった。
●リプレイ本文
「にゃっす! あたしパラーリアだよぉ〜♪ よろしくよろしくなのっみんながしあわせに、だよ〜♪」
手をぶんぶん振っているのは、パラーリア・ゲラー(eb2257)。
「よろしくね。女の子って歳じゃないとかは、聞こえないわよ?」
「女の子中心のお祭りなんて素敵です。バードとして盛り上げ甲斐のあるお仕事ですね♪」
ガブリエル・プリメーラ(ea1671)とクリス・ラインハルト(ea2004)に続いて、皆が挨拶。
まずはお勉強。先生はジャパン出身の鳳双樹(eb8121)と紫堂紅々乃(ec0052)。
「雛祭りは、昔姉と2人で祝っていました。懐かしいですね」
「まさか故郷を遠く離れたパリで雛祭りが出来るとは思いませんでしたけど、私の持つ知識が皆さんのお役に立つよう頑張ります!」
2人とも張り切っている。雛祭りとは、女の子にとって特別な行事のようだ。
「はぁい、今は里帰り中だけど、ジャパン在住歴3年です♪」
「あたしも、新撰組五番隊ますこっと隊士だから、ジャパンのことなら詳しいよぉ」
ミフティア・カレンズ(ea0214)とパラーリアも挙手。
「シンセングミって?」
シャルロットの質問。
「シンノーさまにお仕えしてるエクセレントなつわものの集まりなのっ☆」
「えへ、私も十番隊組長のお抱え宴会部員だよ♪」
宴会部とマスコットを抱えるエクセレントなつわものの集まり‥‥もう訳が解らない。
「ジャパンって‥‥」
一体‥‥。思わず遠い目になりかけたが、
「ええと、雛祭りの説明を始めてもよろしいでしょうか?」
双樹に声で我に返った。
「あ、はい、お願いします」
「それでは。‥‥私の知る限りでは『雛祭り』は桃の節句の3日に行われる、藁で編んだお船の上に和紙で作った雛人形を乗せ、川に流す事で子供の健やかな成長を祈願するという内容のお祭りです。‥‥こんな感じでしょうか?」
「そうですね。元は京都の貴族の子女達の人形遊びが起源といわれています。それが3月の、川で身を清めて災厄を祓う祭礼と一緒になって、女の子のお祝いに変化したのです」
双樹の説明と、紅々乃の補足。
「どうして、川に流すと成長祈願になるのかしら?」
シャルロットが首をかしげた。
「ジャパンには、水に流すことで悪いものを除くことが出来るという考えがあるのです。人形達は私達の身代わりとなって、災厄をその身に引き受け川に清められながら流されるのですよ」
「興味深い考え方ですね」
水のウィザード・リディエール・アンティロープ(eb5977)が、メモを取りつつ呟いた。
「『水に流す』って言葉もあるもんね☆ 都合の悪いことはキレイさっぱりわすれちゃお〜って」
「‥‥人形って損な役回りですね」
親近感を感じなくもないリュックであった。
「身代わりになって貰うから、お礼におめかしさせるのかな?」
「そうかもしれませんね」
ミフティアの言葉に、双樹がふわりと微笑み、
「『ひなフェスタ』‥‥なかなか奥が深いお祭りみたいです」
クリスが、ふむ、と頷いた。
流す人形は、シャルロットが貰ったものでは勿体ない、ということで。
「ジャパンの紙はここでは高価ですし、草や花で作る方が良いでしょうね」
「葉っぱや木の実を探しに行かないとね♪」
「この時期にありそうなものとなると‥‥ヤドリギやモミの木、ヒイラギといったあたりでしょうか? オークの木の実や早咲きのミモザなども見つかれば良いですね」
そう言って双樹とミフティア、リディエールが材料探しに出発。
「赤い布ってこんなで良いですか? スノコとかいうやつは、準備出来そうにないんですけど」
「ばっちりです。スノコが無いでしたら、もっと毛布を敷きましょう。ジャパンでは、靴を脱いで、床に座るです。足元が冷えないようにしないとですね」
会場設営は、リュックとクリス、エーディット・ブラウン(eb1460)。始めに、ブラン商会の若い衆を貸して欲しいと言ったクリスだが「若い衆って‥‥俺だけですけど」と言われ驚いた。内向きの仕事も、家政婦のマリー1人でこなしているという。ブラン商会は、元は夫婦経営の小さな雑貨屋である。そこへ手伝いとしてリュックが入り、徐々に店を大きくして今に至る。言われて見れば店の建物はあまり大きくないし、聖夜祭の時もリュック1人が走り回っていた。
「これだけの商店を普段シャルロットちゃんと2人で回してるって‥‥」
実は、結構凄いのかも知れない。
毛布の上に、緋毛氈に見立てた赤い布。主人が試しに仕入れた扇や絵、花盆等の食器を美術に長けたエーディットが並べ、即席お座敷の完成である。
材料探し組が帰ってきたら、人形制作。リディエールの土地感と植物知識、優良視力おかげで籠一杯の材料が揃った。パラーリアが羊皮紙を綺麗に着物の形に切り抜き、それを皆で、色を塗った枝に円錐に巻いていく。半分は木の実で頭を作り、もう半分は残しておく。
「こちらは明日花を挿して頭にしましょう。今日だと枯れてしまいますから」
リディエールが、水に挿した花を見遣った。春を予告するような早咲きの、健気な姿。
双樹が、材料探しのついでに農家で貰ってきた麦藁を、丸い板状に巻いている。人形の乗る船だ。所々綻んでいるのはご愛嬌。
「紅々乃さんの、男女かしら? 衣装違いますよね」
「はい。こちらが男雛、こちらが女雛ですよ」
「へぇ。本物見てみたいなぁ‥‥」
「そんなシャルロットちゃんにプレゼントですよ〜」
「エーディットさん?」
そういえば、先程から姿が見えなかった。
「じゃ〜ん! ですよ〜」
「やぁ、お姫様」
扉から入ってきたのは。
「ユリゼさん!」
お馴染シャルロットの王子様‥‥いや、今回は皇子様。
「ジャパンの青年貴族風味ですよ〜」
制作はマリー。上着1枚以外はノルマンの普段着で、その1枚も欧州産の黒い布製。サイズが大分大きいし、かなり形が省略されているが、雰囲気は伝わる。
「明日は参加できないから、ちょっとフライング。似合うかしら?」
「とっても素敵です!」
「マリーさん、いつの間に‥‥」
「リュックさんも〜あんまり鈍いようだとユリゼさんに取られてしまうかもですよ〜」
「はい? 何か言いました?」
「いえ、なんでも〜」
当日は朝から衣装合わせ。
「ごめんなさい、うち雑貨店だから着物は仕入れていないんです。布だったら、いくらかあるんですけど‥‥」
当日だから、急いで作っても間に合うかどうか。
「私、ジャパンから色んなものを沢山もってきたの。これで、皆でおめかしよう?」
そう言うミフティアの衣装も、ジャパン風。鮮やかな紅絹の装束に、簪「櫻に小鼓」。ペットのさくらんぼもお雛様仕様で可愛らしい。
「浴衣は夏に着る物だけど、羽織るだけでも雰囲気出ると思うの。秋の模様だけど、着物もあるし。こっちは簪。じゃん、女雛人形もあるよ。これはお座敷に飾ろうね。本当は男雛と対で飾るんだけど」
次々と取り出される小物や服に、シャルロットの目が輝く。特に、簪類の細工は息を呑むほど美しい。
「気に入ったものがあったら今後仕入れてもらったらどうかな?」
「はい! 父におねだりしてみます」
「簪や帯ぐらいなら、こっちの服と合わせたコーディネートできるんじゃないかしら?」
巫女装束着替えたガブリエル。髪をアップにして、いつもと少しイメージチェンジ。
「パリの店に置くなら、そういう提案が出来た方が良いわよね」
「そうですね! ちょっと、一緒に考えてもらえます?」
「勿論。私も興味あるし。でも、その前にシャルロットさんもおめかしね。着替えたらお化粧したげる。女の子の日だもの。皆可愛く! ね」
「じゃあ、これ着てみる? ジャパンのお姫様の衣装なんだけど」
ミフティアが取り出したのは十二単。
「エーディットさんも持ってたから、そっちはリディエールさんに着てもらおう! 重いから、男の人が着た方がいいよね」
小さな淑女達が、毛氈の上でかわるがわるミフティアの浴衣を羽織り、はしゃいでいる。
「わぁ‥‥裾を引きずってチョコチョコ動く姿もまた可愛いですね♪」
彼女達は、クリスの提案で招待したブラン商会お得意様の娘さん。ジャパンについて知ってもらい、かつ将来の顧客も確保しようという一石二鳥な作戦である。
「お茶が入りましたので」
リディエールが淹れたハーブティーが、皆に行き渡る。小さな淑女達の分には、ジャムをたっぷり入れて、甘くしたものを。
「雛あられはちょっち用意できなかったから、代用品なの。でも美味しいよっ!」
蜂蜜を固めた飴や、小さな団子サイズの焼き菓子に蜂蜜をかけたものに、アプリコットやプラムのドライフルーツが混ぜてある。きちんと重箱に入れて、雰囲気はばっちりだ。
「ドライフルーツは、リリーさんが用意してくれたの。こっちもね。桃花の代わり☆」
パラーリアが取り出したのは、早咲きのアプリコットの枝。淡紅の花が、いくつか開いている。
「お茶やお酒に、花びらを浮かべて飲むんだよぉ〜♪」
「桃は、ジャパンでは邪気を払う木とされています。花びらを浮かべたお酒を飲むことで、お清めになるんですよ。雛あられは、小さく割ったお餅を揚げたものに‥‥」
双樹が、雛祭りの食べ物についてひとつずつ説明し、
「実家でも、かか様と一緒に料理の準備をしていました‥‥どれも懐かしいです」
紅々乃が目元を綻ばせた。
「シャルロットさんの仕度ができたわよ」
ガブリエルの後から、リュックに手を引かれたシャルロット。相当重いようで、そうしないと歩けないらしい。
「とっても綺麗だけど、ちょっとキツイわね‥‥」
いつもと違う形に結った髪には、若葉の簪。前日ユリゼに厳命されていたリュックが、手ずから挿したものだ。ちなみに、彼の今日の衣装も、昨日彼女が着ていたもの。女性陣に着るように指示された。シャルロットとセットで「オダイリ様」と「オヒナ様」になるらしい。
「あら〜リディエールさん、そんな格好で何を〜?」
ぎくり。エーディットの言葉に、一瞬背中が引き攣ったのは、多分錯覚ではない。
「皆さんにお茶の給仕を‥‥でも、女性が主役のお祭りですから、すぐ退出しますね」
「ん〜、そういう意味じゃないと思うよ?」
「ミフティアさん‥あの‥‥」
「リディーさん? ね♪」
にっこり。ガブリエルの微笑み。
「‥‥‥はい」
しおしおと衝立の裏へ。そこには、先程着るように指示された十二単。
「あの子は国外逃亡しやがったからね。こっちは逃がさないわよ♪」
リュックは、その『彼』を思って遠い目になった。多分、それは正しい判断だ‥‥死にたくなるくらい似合うに決まっている。
衣擦れの音が、止まった。
「終わりました?」
返事が無い。リュックが、衝立の裏へ回ると。
「‥‥‥大丈夫ですか?」
おそらく歩こうとしたのだと思われる格好で‥‥ぺしょ、と潰れていた。
「動けません‥‥」
蚊の鳴くような声。とりあえず、手を引いて少しずつ衝立の外側へ。
「自分に体力が無いことはわかっていましたが‥‥ここまでとは」
「まあ、重さがありますから‥‥」
でも、シャルロットでさえとりあえず歩いているのに。しかし、そうして打ちひしがれている姿が‥‥また儚げで美しい。
「薄幸のお嬢様って感じね」
シャルロットはひたすら関心している。
「さすが女装の達人ですね〜♪」
エーディットもご満悦だ。
皆が揃ったところで、楽器の演奏が始まった。ガブリエルが横笛を、クリスがリュート、そして時折神楽鈴を手に、双樹に教わったジャパンの曲を演奏。春を喜び、雛祭りを祝う曲。聞き慣れない調べに、皆興味津々耳を傾ける。
「えへへ、ちょこっと舞ってみようかな〜」
ミフティアが、檜扇片手に立ち上がる。ぱらり。扇を開いて水平を凪ぐ。一歩踏み出し、静かに回る。ゆっくりとした、それでいてやわらかい、蝶のような、花弁のような舞。その隣で、さくらんぼも同じように。1曲終わって、楽士と舞手に拍手喝采。その後は、双樹が歌詞を教えて、皆で歌う。歌って、食べて、お話もして。その賑やかな音は、外で雑用をこなしていたリュックの耳にも届いて、彼も微笑ましい気分になった。
翌日は、セーヌで雛流し。
「着物を着て歩くのも宣伝だよね☆」
パラーリアの言うとおり、一風変わった衣装の一団は、パリの人々の注目の的になっている。シャルロットは、今日は、十二単は無理なので、普段着に、仕入れた商品の帯紐や簪で和風を取り入れた格好。
川辺に着くと、皆それぞれ人形を手に取り、双樹が作った船に乗せた。
「それでは、人形で一度体を撫で、息を吹きかけてお船に乗せてください」
儀式の進行は紅々乃。ジャパン式の手順を踏んで、お祓いをする。格好はローブだけれど、気持ちは式服、陰陽師の正装をしているつもりで。
「畏み畏み申し奉る、数多の災厄この形代に封じ、清め流し給え‥‥」
高く澄んだ詠唱が、晴れた空に響く。
「それでは、お人形を川に流しましょう」
「最近パリは災難続きです。洪水、寒波、虫の襲来‥‥凶事を、お人形に封じて流してしまうです」
クリスが、真剣に手を合わせる。災厄は、このセーヌから始まった。これからも続くであろうそれが、流れてしまうよう、切に祈る。
「いっちゃったね‥‥」
人形はゆらゆらと揺れながら、少しずつ小さくなった。穢れを一身に背負い、清めを待って。皆、姿が見えなくなるまで、じっと見送っていた。
「リュックさ〜ん」
今日は普段着の上に浴衣のエーディットが、つつつ、とリュックに近づく。
「お疲れ様です〜。無事終わって良かったですね」
「お蔭様で。いつもありがとうございます」
「所で〜シャルロットちゃんのお雛様姿、どうでした〜?」
「可愛らしかったですよね。俺が言うと身内馬鹿っぽいですけど」
「ふふふ‥‥これは、ちょっぴり意識してるかも〜?」
小さ呟くと、珍しくリュックが聞きとがめた。
「エーディットさん‥‥あと、ユリゼさん? 他にもちらほら‥‥皆、俺とお嬢さん、くっつけようとしてますよね?」
「な、何の事でしょう〜?」
ぎくぎく。
「そういや、毎回カップルやれって言われてるなって思って。思い返してみると、思い当たる節が色々とあるっていうか‥‥まぁ、今まで気付かなかったのも間抜けなんですけど‥‥あの、お嬢さん、好きな奴がいるっぽいんですよね。だから、あんまりそういうのは‥‥」
どうして、肝心な所だけ鈍いのか‥‥それとも、気付いてない振りなのか。どちらにしろややこしいと、エーディットは溜息をついた。
「シャルロットちゃんっ」
ミフティアの声に、振り返る。
「あのね、これ、あげる」
手渡されたものは、恋愛成就のお守り。
「え‥‥えええ!?」
気付かれた? それとも誰かに聞いた?
「がんばってね♪」
わたわたしている間に、ミフティアは行ってしまった。
「ありがとうございます‥‥」
きゅ、とお守りを握り締めた。その道は、途方も無く厄介なのだけれど。