【収穫祭】初恋の行方

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月27日〜11月01日

リプレイ公開日:2006年11月03日

●オープニング

「もう、マジで、ホントに、限、界、なんです!」
 バンッ、と机を叩く音が、部屋中に響き渡った。
 涙ながらに訴えているのは、17、8歳程の青年である。
「だって、物心ついたときからなんですよ! 15年とか、そんくらいですよ。そのあいだ、ずーッと、ずーーーーッッと、アイツ等は・・・・」
 はぁぁぁ、と、今度はため息をつき肩を落とした。
 それを聞いていた冒険者達は、顔を見合わせるしかない。
 話を始めた頃はそれなりに冷静だったのだが、説明をしているうちに自らヒートアップしてしまったらしい。
 先程から、ずっとこんな調子で『怒』と『鬱』を往復し続けている。

 彼の名前は、リュック・ラトゥール。
 今までの話をどうにかまとめると、以下のようになる。
 彼には、物心ついたときからの幼馴染がいる。
 同い年の男女、ニコラ・アーロンとコレット・デリダの二人である。
 どうやら、この二人、子供の頃からお互いを意識していたらしい。
 かわいらしい初恋は、十代も後半、そろそろ人によっては身を固めようかという歳に至るまで、冷めることなく・・・・また、『全く』発展することもなく。
 傍から見れば一目瞭然な両想いも、本人達にとっては一方通行な万年片思い状態。

「十、五、年、間、アイツ等の間に挟まれてみてくださいよ。もう、てめーらいい加減くっつきやがれ、いちいち手ぇ触れたくらいで赤面してんじゃねぇアホだろ畜生、とか、そういう感じですよ、ここ何年かは」
 幼い頃は、好意はあれど、さほど男女というものを意識する必要もなく、三人仲良く遊び転げていた。
 しかし、年を経、野良遊びをするような歳でもなくなったころから、徐々に今の状態―一言交わしては赤面、二言目には言葉を噛んで、三言目にはそれじゃあ、また今度(逃走)―が出来上がってしまった、らしい。
「こそばゆいんですよ。じれったいんですよ。全部つきぬけてイラつくんですよ!」
 リュックにとって、彼らは愛しい幼馴染。
 大切であるからこそ、とっとと幸せになりやがれ、と心から願う。
「そりゃあね、俺だって、何度もニコのやつをけしかけましたよ。でも、あいつは・・・・くそっ」
 彼らが、一向に進展しないのには、自身の性格と、もうひとつの理由。
 リュックが二人の気持ちを知っているように、ニコラもまた、リュックの気持ちに気付いていた。
 長い、長い間秘め続けてきた、淡い気持ち。
「レティ・・・・コレットは、俺の気持ちは知りませんよ。ニコ以上に鈍いから。ニコの野郎、レティの気持ちにはちっとも気付けねぇくせに、俺のそればっかりに敏感で・・・・挙句の果てに『思い切って、レティに伝えてみたら?・・・・きっと、彼女も君が好きだよ』ってざっけんじゃねぇぇぇぇ!!」
 自分に勝ち目がないことなど、とっくの昔から分かっている。
 分かっているのに・・・・いい加減、次の恋を探そうと思っているのに・・・・いつまでも一方通行な二人を見ていると、つい、夢を見てしまいそうになる。
 何度も夢を見ては、何度も打ち消して。
 その度に走る、胸の痛みに耐えるのも、そろそろ限界。
「俺は、幸せになりたいし、あいつらにも、幸せになってほしいんです。ちょうど、季節は収穫祭。二人で、一日過ごすよう手を回しました。祭の浮かれ気分にでも乗じさせて、そろそろ決着をつけてもらおうって話です。」
 机に両手をつくと、リュックは勢い良く頭を下げた。
 もしも今、彼が涙を流したら、その色は深紅に違いない。

「お願いします!あいつらがっちりくっつけて、そんで、俺の初恋にがっつり止め刺して、昇天させてやってください!!」

●今回の参加者

 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1789 森羅 雪乃丞(38歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4902 ネム・シルファ(27歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8196 ルウラ(24歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb8463 デル・サッフォー(29歳・♂・ファイター・人間・エジプト)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607)/ パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528

●リプレイ本文

 そして、当日の昼下がり。空が、それはそれは青かった。
「来ました。今、あの角を曲がってきた、栗色の髪の女がコレットです」
 冒険者達は道脇の茂みに身を隠した。リュックの横へ、ネム・シルファ(eb4902)がとん、と座る。
「何か?」
「あの、リュックさんはずっと、ニコラさんとコレットさんのお友達ですよね?」
「もちろん。ヤツらとは、昔からずっと一緒だったんです。いつだって、一緒に遊んで、悪さもして、叱られる時だって、三人揃ってで・・・・何がどうなっても、その時間が消える訳じゃない」
「解りました。・・・・リュックさんは、優しい方ですね」
 真直ぐな瞳に見つめられ、リュックは笑った。ほんの少し、悲しそうに。
「ありがとう」

●第一幕:ユリゼ・ファルアート(ea3502)
「きゃあっ」
 猫を抱いたユリゼが、コレットにぶつかった。
「ごめんなさい! あっ、服に綻びが。アーモンドの爪が引っ掛かっちゃったのね・・・・お詫びにお茶でもご馳走させて?」
「え? いえ、そんな・・・・」
 断ろうとするコレットの手首を軽く握り、さっさと近くの店に誘導する。
 素早く二人分の紅茶を注文すると、改めてコレットに向き直った。
「さっきは、本当にごめんなさいね。素敵なお洋服に・・・・あら、もしかしてこれからデート?」
「ええっ、違います! 恋人とかは、いなくて。友達と、お祭りに」
「あら。でも、好きな人くらいはいるんでしょう? ふふ、もしかして、その『お友達』が好きな人だったり?」
「え、えええっ?!」
「折角の収穫祭なんだもの。好きな人と素敵なひとときを過ごせるように応援してるわ・・・・そうだ!」
 そう言って、小さな袋を取り出した。ふわ、と香りが広がる。
「素敵な恋人が見つかるおまじないなのよ。タイムとラベンダーとミントの香り袋。本当は枝なんだけれど」
「ありがとう。いい香り」
「あなたの幸せを沢山の人が、祈ってるわ。きっとね」
 ポン、と背中をたたくと、コレットの頬が、ほんのりと染まった。

【幕間】
「なかなかいい感じみたいですね〜。次は私が行ってきます〜。待ち合わせ場所、ここで間違いないですよね〜」
 地図を片手に、エーディット・ブラウン(eb1460)が立ち上がる。
「準備があるので、先に行きます〜。お二人も、そろそろ出発した方がいいですよ〜。先に少しお祭りを楽しんでおいたほうが、カップルらしい雰囲気になるかもです〜」
 お二人、とはレオパルド・ブリツィ(ea7890)と、エメラルド・シルフィユ(eb7983)のこと。彼らは一日限定偽カップルとして、ターゲットと接触することになっている。
「そ、そうですね。それじゃあ、行きましょうか、エメラルドさん」
「ああ。よろしく頼む」
 雑踏に消えた二人の背中に、エーッディトが呟いた。
「ふふ。十代の少年少女。あのお二人も、結構いい感じだと思います〜」

●第二幕:エーディット・ブラウン
「そこの可愛いお二人さん〜」
 屋台からの声に、ニコラとコレットが振り向いた。
「くじ入りの焼き菓子はいかが〜? 特別にお安くしますよ〜」
 差し出された菓子を見て、コレットが微笑んだ。 
「懐かしいわね、これ。小さい頃、リュックが好きだったわね」
「うん。あいつ当りが出るまでって意地になって・・・・結局、小遣い全部つぎ込んだっけ」
「ふふ・・・・意地っ張りなところは、今も変わってないものね」
 そう言って笑うコレットは、可愛らしい。二人にとってリュックはきっと大切な友達で、共通の話題、なんだろうけれど、こんなイイ笑顔で彼の話をしているのでは・・・・
「なんだか、ニコラさんの誤解の原因が垣間見えた気がします〜」
「はい? 何か?」
「いえいえ〜なんでもないです〜。どうですか〜?」
 二人、それぞれ買い求め、二枚重なった焼き菓子を開くと、なにやら記号が刻まれている。
「おめでとうございます〜。当たりですよ〜。これは景品です〜」
 お揃いのペンダントを差し出すと、二人を促してつけさせた。
「なかなかお似合いですよ〜。縁結びのペンダント♪」
 ほおばった焼き菓子を、喉につまらせたのも、ぴったり二人同時だった。

●第三幕:レオパルド・ブリツィ&エメラルド・シルフィユ
「やはり、いいものですね。祭というのは」
 と、レオパルド。町中の笑い声。こんな時は、ただ歩いているだけで楽しい。
「そうだな。なんというか・・・・世界中が喜んでいるような、気がする」
 エメラルドが、微笑む。普段無口な彼女の、こういった顔は、ちょっと珍しい。
「・・・・」
「レオパルド殿?」
「あ、すみません、何でもありません」
 見とれてました、とは流石に言えない。
「そろそろ、お二人と合流したほうがいいですね。どうやって近づきましょうか」
 その時。
「泥棒!!」
 悲鳴。二人とも、半ば反射のように駆け出した。
 身なりの汚い中年男が、途中でぶつかった女性を突き飛ばし、こちらに向かって駆けてくる。
「どきやがれ!」
 ガッ! エメラルドが男に足をかけて転ばせると、レオパルドが素早く押さえつける。
 周囲からの拍手喝采。突き飛ばされた女性を、エメラルドが助け起こした。
「ありがとうございます」
「・・・・・・・・。いいえ」
 実に運の悪い泥棒のおかげで、全くさりげなく、コレットに接近することに成功したのであった。
「レティ! 大丈夫?」
 人混みをかき分け、男が駆け寄った。コレットと揃いのペンダント。
「ニコ・・・・大丈夫。ちょっと転んだだけよ」
「ごめん、不用意に傍を離れたりして」
 エメラルドは、少し、首をかしげた。
「ふむ・・・・一応、足を見ておいた方がいいな。打ったり、捻っていたりしていたら、早めの処置が必要だ。近くで、部屋を借りよう。すまないが、殿方は少々外してくれ」

 近くの家に入ると、エメラルドは、ざっとコレットの膝や足首を診察した。
「特に異常はないな。痛むところは?」
「大丈夫です。どうも、ご親切に」
 コレットが頭を下げると、ペンダントが、しゃら、と揺れた。
「それは、お連れの御仁と同じだな。恋人同士か?」
「いいい、いえ、違います。彼はその、友達、です」
 否定しつつも、顔が赤い。
「あ、あなたと、一緒にいた方は、恋人ですか?」
「いや・・・・」
「もしかして、片思い、とか?」
「恥ずかしながら」
「そう、ですか・・・・あの、告白、とかは?」
「彼の気持ちが、分からない。失敗して、気まずくなるよりは、今のままで、とつい思ってしまっていてね。意気地がないんだろうな。どうしていいか、分からなくて・・・・」
 コレットの目が、まるくなる。
「あなたはとても、魅力的です。勇気を出したら、きっと上手くいくと思います」
「ありがとう、貴殿も、とても可愛らしいよ。きっと、彼もそう思っている」
「・・・・」
「そうだな・・・・勇気を、出してみようか」
「言わずに後悔するよりも、言って後悔する方が、いいんだと、思います。きっと・・・・」
 コレットの言葉。最後は、自分に言い聞かせるように。

 一方、レオパルドとニコラ。
「どうも、ありがとうございました。・・・・情けないな。僕は」
「彼女は、あなたの恋人ですか?」
「いいえ・・・・。先程の女性は、あなたの?」
「残念ながら、片想いです」
「僕と一緒ですね」
 たはは、とニコラが笑う。
「彼女、エメラルドさんは、とても強い人で、僕なんか必要ないんだろうな、と。お互いの立場の違いなんかもあって・・・・どうしたら、仲が進展するんでしょうね・・・・」
「あなた方は、とてもお似合いのように見えました。口に出してみたら、上手くいくんじゃないでしょうか」
「先日、友人に似たようなことを言われました。『彼女もきっと待ってるから、とっととくっつけ!』とも・・・・」
 ニコラが、驚いたように言った。
「僕もです。でも、彼もコレットのことが好きで、彼女もきっと・・・・」
「でも、『口に出してみたら、上手くいくんじゃないでしょうか』?」
 ニコラの口調をなぞると、二人で噴きだした。
「はは。そうですね。僕はちょっと、色々考え過ぎていたのかも。でも、やっぱりリュック・・・・友人のことが、気にかかるんです」
「コレットさんが、彼のことがお好きなら、あなたの告白が、彼らの進展の起爆剤になるかも・・・・というのは、残酷な言葉でしょうか?」
「いいえ・・・・。そうですね、そういう考え方も、あるんですよね」
 ニコラの瞳に浮かんだのは、決意の色だろうか。そうだったらいい、とレオパルドは思った。

【幕間】
「薄暗くなってきたな。俺も、そろそろ行くか」
 森羅雪乃丞(eb1789)が立ち上がる。
「だったら、この先を左に曲がった、裏通りに誘導してください。 パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)さんが、お勧めポイントを探してきてくれたんですよ」
 と、ネム。
「了解!あ、そうそう、俺ナンパすっけど、本気じゃねーからな。皆、誤解すんなよ」

●第四幕:森羅雪乃丞
「そこのお二人さんひとつ占いなんてどうだい?」
 店先に出された小さなテーブルに、タロットカード。
「最近は、恋占いなんかが流行りだぜ?」
 恋占い、という言葉に、二人が反応した。
「お願いします」
 と、ニコラ。金運、健康等、当たり障りのない占いをして、最後に本命の恋占い。
「へぇ・・・・ずいぶん長い、片思いだなぁ」
 コレットが目を見張る。不安と・・・・ほんの少しの、期待。
「しかも随分身近な・・・・キミ、手遅れにならないうちに、打ち明けたほうがいいぜ? 余計なお世話かもしれねーけど。さ、次はそちらの可愛いお嬢さん」
 札をめくると、思わせぶりにつぶやく雪乃丞。
「すみませんが、ちょっと手を見せていただけますか? 東方には、手の模様で占う法もあるんですよ」
 きゅ、と手を握ると、ニコラの顔色が変わる。わかりやすー、と思ったが、口には出さない。
「でも、あなたの恋はなかなか厄介なようですね。相手がいつまでも煮え切らない。あなたも、いまいち勇気が持てない」
 コレットが目を伏せる。
「ああ、そんな顔をしないでください、素敵なお姫様。どうですか?そんな厄介な相手はやめて、僕と素敵な世界に行きませんか?」
「いいえ・・・あの」
「レティ、行こう!」
 雪乃丞から、コレットの手を奪い返すと、手を握ったまま去ろうとするニコラ。
「おお、やるじゃん。・・・・あ、そうだ。そこ左に曲がると、イイコトあるぜ?」
 最後の一言は、二人の背中に向かって。

【幕間】
 ネムが、竪琴を取り出した。
「いよいよ! ですね。ユリゼさん、行きましょう」
「ええ!」

●終幕:ネム・シルファ&ユリゼ・ファルアート
 律儀に角を左折した二人は、その先の景色に息を呑んだ。
「すごい・・・・」
 時は夕暮れ。ささやかな広場に設えられた池が、茜に染まり、きらめいている。
「少し、座ろうか。一日歩いて、疲れただろう?」
 ベンチに促したのは、ニコラ。そのあいだも、ずっと、二人の手は繋がれたまま。沈黙が降りたが、それは、決して気まずいものではなく。
 日が隠れ、池に夕月が浮かぶ頃、辺りが、少しづつ白みはじめた。
 ミストフィールド。ユリゼの魔法が、二人の世界をやさしく護る。
「あのね、ニコ・・・・さっき、占い師さんが言っていたこと・・・・」
 コレットが、呟く。が、先が続かない。ラベンダーがほのかに香った。昼にもらった、幸運のお守り。
 どこからか、竪琴の音。澄んだ歌声が重なり、二人の胸にそっと響く。その歌詞は、とてもやさしくて、すこし悲しい。
 同じ女性を愛した「俺」と「お前」。でも、彼女が好きなのは「俺」ではなくて。
 まるで自分達だと、ニコラは思った。
 はやく恋人同士になれ、と。そんなことで、関係は壊れない、と。まるで、リュック本人に、そう言ってもらっているような。
 ずっと、コレットの気持ちは、リュックにあるものと思っていたけれど、繋いだ手から伝わってくる思いは・・・・単なる、自分の都合の良い解釈では、ないと思う。
「レティ」
「ニコ」

 その言葉を口にしたのは、どちらが先だったのか。
 そっと重なる二人の影。
「さ、これ以上は野暮ってもんだ。行こうぜ」
 雪乃丞の言葉に、皆が頷いた。

【アンコール】
「皆さん、本当に、本当に、ありがとうございました。すっげぇ、嬉しいです」
 彼は、きっと、自分が泣きそうな顔をしていることに、気付いていない。
「どういたしまして。さ、いきましょ?」
 袖を引いたのは、ユリゼ。
「は、はい?」
 連れて来られた広場は、酒盛りの先客で適度に騒がしく、中央で炊かれた火が、辺りを暖かく照らしていた。
「ほ〜ら、食べ物ですよ〜♪」
「ささやかだが私達の奢りだ。遠慮なく食べて欲しい」
 あちこちの屋台や店から買い回ってきたのだろう。エーディット、ネム、エメラルドが、両手に様々な食べ物を抱えている。
「じゃん! 取って置きのロイヤル・ヌーヴォーよ。」
 ユリゼがワインを取り出すと、
「おお! すげぇ。俺はどぶろくだ。失恋には、やっぱ酒だろ」
 と雪乃丞。
 しばらくして、リュックはすっかり出来上がった。
「うう・・・・ちっくしょ〜!! 失恋がなんだ〜」
「そうそう。あの二人が上手く行ったのは、リュックさんお蔭なんだもの。心置きなく次の恋に目を向けましょ? そだ、これはお守り」
 ユリゼが差し出したのは、コレットのものと同じ、香り袋。
「そうですよ。わたしはリュックさんみたいな人、好きだけどな」
 と、ネム。
「どうだ? 新しい恋にナンパってのは。俺でよければやり方伝授するぜ」
 肩を抱いて、耳元で囁くのは雪乃丞。
「お、今夜は月夜じゃねえか。俺のカードに好条件だ。リュック、キミにも運命の相手が出来ないか占ってやるぜ」
 そして、月が中天を過ぎた頃。
 酒の飲めないレオパルドは、少しだけ輪を離れた。
「エメラルドさん。今日は、どうもありがとうございました」
「いえ。私も、楽しく過ごさせていただいた」
 輪の中心では、未だ、リュックが泣き酒をあおっている。
「凄いな・・・・恋というものは。私は、全くしたことがないから、よく解らない。貴殿は、恋をしたことが?」
 レオパルドは、小さく笑って、答えなかった。聞かれたくないのだろうかと、彼女も追求はしない。
「さて、僕は、そろそろこれを出しに行ってきます」
 そう言って、輪に戻る。手には、名酒「うわばみ殺し」。
「友人のタケシ・ダイワさんから頂いたものです。強いお酒だから、最後に出すようにと・・・・」
「素敵ですね〜。私がお酌しますよ〜」
 エーディットになみなみと注がれたそれを、一気にあおったリュックの結末は、おそらく想像通り。
 ・・・・なにせ、うわばみを殺すのである。

「ちっくしょ〜!! ニコ、レティ、幸せになれよ! 愛してるぜ、二人とも!!」

 オチる寸前に叫んだ言葉が、やさしい月夜にこだました。
 彼の初恋が、天に昇った瞬間であった。