【幸せの刻】心の在処

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜07月30日

リプレイ公開日:2007年08月03日

●オープニング

 神聖歴1002年7の月

 天から到来する恐怖の大王。アンゴルモアが降り落ちる
 王国に満つ不安は消え、幸福に満たされるだろう
 軍神は4方より、背後より来たる
 始まりは終わりより後に来たるだろう

 そして、ノルマン王国は滅亡する



 昼下がりの冒険者ギルド。
「おい、パリに戦乙女が現れたって話、聞いたか?」
「おお。なんかすっげー美人だったとか」
「その影を駆けて行った、闇色マントの女も、凄かったぞ」
「なっ!? お前見たのか? 見たのかよぉ」
「まあな」
 男は、得意げに鼻を鳴らした。
「純白の女神と、漆黒の聖女って感じだったな」
「は〜‥‥そりゃ、見たかったな」
「昨日の騒ぎに、最初に駆けつけてくれた人達はさ、10人くらいだったかな? 男も1人いたけど、それ以外は綺麗な女でさ。みぃんな、強かったり、優しかったり。実際はこっちゃ襲われてるから、大変だったんだけど、思い出してみると目の保養だったな」
「だろうなぁ」
「あんな人たちが沢山いるならさ、パリはきっと大丈夫さ」
「そうかもな。そうだといいな」

 噂話で盛り上がる1団を横目に、フードを深く被った男が、カウンターの前に立った。
 怪訝そうな顔の受付員だったが、素性を告げられると、途端に表情を引き締め、ペンを取った。
「それでは、パリ市内の情報操作を依頼すればよろしいのですね」
「そう言うと、少々大げさな気もするが」
 男は、フードの奥で苦笑した。
「パリは、これから大騒ぎになる。外からの勢力は、別に対策を立てている。が、それと同じくらい恐ろしいのが、内部からの崩壊だ」
 昨日の、デビルの言葉を思い出す。
「もし、暴動が起こったら‥‥そちらにまで兵力を回すのは厳しいし、第一、兵士が一般市民を押さえつけるなんて事態は御免被りたい。パリ市民には、あくまで陛下を信じていてもらわなければならんのだ」
「つまり‥‥ウィリアム3世陛下には屈強な騎士団が付いていて、頼りになる冒険者達も手を貸してくれている、だから何も心配せず信じていれば良い‥‥というような雰囲気を作れば良いと?」
「ああ。実際に攻防戦が始まったら、どうしても不安が高まるだろうから、精神的な介助もしてくれると助かる」
「はい」
「流星群に対する恐怖については、すでに手が回っているようだし‥‥」
 男は、声高に昨日の顛末を語っている者に、ちらりと視線を向けた。
「こちらでも、打てる手は打っている。が、戦闘が始まったらそちらに人手がいるのでな‥‥よろしく頼む」
 そう言って、男は踵を返した。捲れたマントの隙間から、垣間見えた剣帯は、深い緑色。

●今回の参加者

 ea1225 リーディア・カンツォーネ(26歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ec0828 ククノチ(29歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec1997 アフリディ・イントレピッド(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2152 アシャンティ・イントレピッド(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2830 サーシャ・トール(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「天下る槍は、真白き女神の闇払う鉄槌‥‥」
 冒険譚を節に載せ、歌っているのはエフェリア・シドリ(ec1862)。吟遊の技術には拙さも見えるが、その内容が噂の戦乙女隊とあって、通掛りの人が足を止めて聞いてゆく。
「月白の智者は真実を見抜き、瞳紅き宣教師は弱き者を導く‥‥」
 パリに、軍勢が近づいている。先日も城壁の東西で大規模な衝突があった。これらの情報は、パリ住民の心に影を落し、不吉な予言と相まって、ともすれば不安を噴出させそうになる。だからこそ、エフェリアは歌う。他にも、冒険者ギルドで調べた冒険譚を、次々と。今まで冒険者は数多くの事件を解決してきたのだ。
「水天使の微笑みは、天青色の如く清らかに‥‥」
 そして、この先もずっと。‥‥そう、思ってもらえるように。

「‥‥ですから、セーラ様は決してノルマンを、皆さんをお見捨てにはなりません」
 王都周辺、城壁外に住んでいた人々は、戦の噂を聞き、あるいは遠方のツテを頼り、あるいはパリ城壁内に避難した。王城関係者の所持家屋や、各ギルドのギルドハウスが住居として解放され、共同で炊出しが行われている。リーディア・カンツォーネ(ea1225)はそこへ加わり、話を聞きながら料理を手伝った。手持ち無沙汰でふらふらしている者も捕まえて、一緒に手を動かすよう勧める。
「体を動かしていた方が、気分も良くなるのですよ」
 料理が出来ないという者には、鉄人のナイフを貸して、少しでも楽しんで貰えるように。
「あ、ククノチ(ec0828)さん、お帰りなさいです」
 ククノチが、山菜の入った籠を下げ、戻ってきた。近郊の森へ出かけて探してきたものだ。
「蕎麦菜や葛もあると良かったのだが」
 ジャパンと欧州では、植物体系が大分違うらしい。
「おや、沢山。ありがとうね」
 主婦達が、用途の分からないものはククノチに尋ねつつ、山菜をてきぱきと分けていく。
「外の様子、どうだった?」
 慣れない手つきで菜を刻む少年が、おずおずと尋ねた。
「今のところは、静かなものだったな」
「そっか」
「不安か?」
「少し‥‥いや、大分。何があっても逃げることしか出来ないから」
「そうか? 陛下も騎士団も冒険者も‥‥何よりの力は貴方たちの元気な姿だ。それが我らを支えてくれている。住民なくしては、このパリも存在しえないのだ」
 言うと、刻み終わった菜を受け取り、スープに入れ、掻き混ぜる。
「だから、無事であってくれ。それが、一番の力になる」
 そう言って、歌う。少しでも、楽しくあれるように。ノルマンの歌、蝦夷の歌、即興ででたらめの歌。手が離せる時には、くるくると舞って。そうしていると、いつの間にか空気が温まって、周りに笑顔が増えていった。
「ノルマンは、とても暖かでフレンドリーで‥‥大好きな国なのです」
 リーディアが、語りかける。先月、皆が一丸となって街を守っていた姿を思い出す。
「これからも‥‥もっと素敵な国となるのでしょう」
 その、美しい姿が、笑顔が、潰えぬことを真に願う。
「この笑顔が、どうか壁の外まで届くよう‥‥」
 戦場に立つ騎士や冒険者達を思い、ククノチも小さく祈った。

「よっ、と」
 荷車から荷物を運び出し、アシャンティ・イントレピッド(ec2152)は建物の中へと運び込んだ。
「ありがとうねぇ」
 腰の曲がった老婆が、礼を述べる。近郊の村から避難してきた者だが、荷物の重さに難儀していた所をアシャンティに助けられたのだ。
「1人で避難してきたの? 大変だね」
「まぁねぇ。娘は嫁に行っちまってるし、連れ合いには先々月逝かれたしね。1人になったとたん、こんな面倒に行き当たっちまって‥‥」
 普段、不安や不満をこぼす相手が居ないのか、老婆は暫く話続けた。
「‥‥おや、つい愚痴ってしまったよ」
「いや、溜めておくとよくないからね。あたしでいいならいくらでも聞くよ」
「済まないね。本当に、この国はどうなっちまうんだか‥‥」
「きっと大丈夫だよ。パリでは色んな正義の味方が活躍しているんだよね」
 先日インプの群れを掃討した戦乙女隊の話から始まり、子供に大人気☆謎のウィザードの活躍、他にも数々の悪魔の陰謀を騎士団や冒険者が食い止めてきたこと。話しているうちに、同じく避難してきた人々が集まってきた。中には、既に同じ話を聞いたことがある、という者も。先刻、白マントの騎士が、見回りのついでに話していったのだ、と。
「そう。皆で、この国を守ろうと頑張っているんだよね。だから、あたし達も負けていられないよ」
「アーシャ姉の言う通りなのだな」
 声を掛けたのは、アフリディ・イントレピッド(ec1997)。アシャンティの妹である。
「隣の建物の掃除を手伝っていたら、人が集まっているのが見えたのでな。様子を見に来たんだ」
 これらの建物は、王城関係者が所有しているものだ。今回の事態に至って開放されたのだが、使われていなかったらしく、掃除等手を加えないと使えなかったのだ。アフリディもそちらで色々な話を聞き、話したようだ。
「皆、不安だよな。でも、あたしは全力で守っていくから。あたしだけじゃない。戦乙女隊だって、その他にも大勢が、ノルマンを護るために動いているんだ」

 同じ頃、サーシャ・トール(ec2830)は街を歩いていた。緊急時のため、避難所の下見を行っている。その過程で出来るだけ多くの人に声を掛け、話を聞いた。
「今の所不穏な気配は見られないが‥‥」
 油断は禁物と、さらに街を歩く。
「おねえちゃんのそれ、天使みたいね」
 話をしていた少女が、胸に飾った羽を指差した。
「ああ、これは、印だよ。なにがあっても、私達が皆を守る、という」

 今朝の集合時。依頼人だという長身の騎士は、ヴィクトルと名乗り、天使の羽飾りを配った。
「それは、目印だ。分隊の人間に、便宜を図るように言っておく」
「守護天使隊ってところかね?」
 ささやかでも身近で助けになるという意味で、とアフリディ。
「テンシタイ‥」
 アシャンティの視線が泳ぐ。
「どうかしました?」
 リーディアが首を傾げる。
「‥‥ん、何でもないよ」
 乙女に秘密は付き物なのだ。所属組織然り、生業然り。

 翌日、パリの四方で戦闘が発生した。そして、その夜。
「暴動だ!」
 城壁近に近い一角で、数十名が暴れているという。
「速やかなる王の退位を!」
「神託に従え!!」
 暴徒が破壊しようとしている建物は、王城関係者の所有物。しかし、現在は避難民の仮宿になっており、中に居た人々は閉じ込められている。
「何をやっているんだ!」
 アフリディが叫んだ。
「とにかく、救出しないとね」
 アシャンティが、戦乙女の兜を被り、脚に括り付けていたパリーイングダガーを抜き放った。そこへ、騎士が数名駆けつける。白い鎧に、緑の剣帯。ブランシュ騎士団緑分隊。即座に入り口付近の暴徒数人を押さえつけた。
「今のうちに!」
 ククノチが扉に駆け寄り、呼びかける。
「扉を開けてくれ。安全な所へ案内する!」
 初めにそろそろと、ついで後から押されるように、どっと溢れ出てきた人々を、なだめ、落ち着かせながら誘導する。
「旧聖堂へ!」
 サーシャが叫び、先頭に立つ。最短距離は把握済みだ。追いすがってきた暴徒をトリッピングで転がしてから、ククノチもその後を追った。
「大丈夫です。絶対に、大丈夫ですから」
 リーディアが人々を鼓舞しながら最後尾を行く。アフリディとアシャンティがその後ろ、追ってくる暴徒と向き合うように並び立った。
「相手も人間だし、ここは食い止めて時間稼ぎだね。エフとの初めての共同戦線になるのかな」
 ダガーを、構える。
「そうだな」
 ちらりと背後を窺う。リーディアの背中が、離れてゆく。大丈夫。
「‥‥さあ、行こうか、アーシャ姉!」
 ハーフエルフの姉妹は、全く同じ拍子で地を蹴った。

「これでデビルさんは近づけません」
 旧聖堂の入り口に、エフェリアが聖なる釘を打ち付けた。
「正面の道以外には、罠も張っておいた。簡単なものだけどね」
 気休めにはなる、とサーシャ。避難民を振り返ると、みな不安と疲れに苛まれているように見える。その間を縫うように歩き、エフェリアとリーディアが怪我人の手当てを行った。セッターのアネモネが後ろに従うように歩み、その可愛らしい様子は、少なからず波立つ心を和ませた。リーディアは、旧聖堂に着くとすぐさま各所に明かりを灯し、そこここに手を入れ、場所を整えて人々を誘導した。その勝手知ったる様子に、他の面々はすっかり感心した。ノルマンの滅亡を防がんと足繁く通い、旧聖堂の番人と言われただけの事はある。
「ハーブティー、飲みますか?」
 エフェリアも、出来る限りの事をするべく、人々に声を掛けた。
「毛布もどうぞ」
 泣き出した小さな子供には、波打ち際の貝殻をそっと耳に当て、音を聞かせる。遠い海の音に誘われるようにして、徐々に泣き声は寝息へと変わった。
「皆、ここにいるのかな?」
「あ、アーシャさん、エフさん、お疲れ様」
 サーシャが、遅れてやって来た二人を労う。
「ああ。騎士団も居たから、あの後すぐ収まった。ただ、別の場所でも暴動が起こってな。そちらはさらに小規模だったが、数人、こちらに避難してくるかも知れない」
 アフリディの報せに、皆の表情が強張る。人々の不安も高まったことを察して、ククノチが、窓を背に立ち上がった。四角く切り取られた空には、絶えず星が流れている。
「星は語る」
 視線が、集まる。
「流れる星と共に不安はぬぐわれ」
 蝦夷では巫女であったという彼女。
「その心に幸福来る、と」
 堂々と述べられた言葉は、聴衆の心に、神託のように響き、星のように小さな希望を灯した。

「なあ! 広場に戦乙女隊が来てるってよ!」
 子供達が、連れ立って飛び出してゆく。一晩明けた旧聖堂。昨夜は数件の暴動が発生し、その対処に追われた冒険者達は、疲れ果てていた。
「昨日は、お疲れ様でした」
 穏やかに微笑む人物は、フェリクスと名乗った。
「フェリさん、お久し振りです〜。お名前、フェリクスさんとおっしゃるのですね」
 ついでに、緑分隊長でもある。
「結局、暴動は起きてしまったな。済まない」
 その防止を依頼されたのに、とククノチが肩を落した。
「いえ。昨日の暴動は、影に悪魔崇拝者や狂信者の影が見られる‥‥つまり、意図的に発生させられたものなのです。現在、拠点を順次洗い出して潰しております」
 王城が恐れているのは、それら火種が、住民の不安や不満に引火して爆発することなのだ、とフェリクスは説明した。
「街に負の感情が溢れていたら、大きな暴動が自然発生したり、小さな暴動が賛同者を得て爆発的に拡大する恐れがあります。そうなっては、1分隊では手に負えません」
 それを防ぐ為、緑分隊もせっせと噂の流布に励んでいたのだという。
「皆さんの献身が、心に届いたのでしょうね」
 火種は火種のまま、騎士と冒険者に潰された。
「素早い避難誘導も、助かりました。おそらく、ここにはまだ人が増えると思われます。引き続き、宜しくお願いいたします」

 避難民が集まったと聞いた冒険者達が、戦闘の合間に旧聖堂へと集まった。彼らは歌い、楽器を奏で、あるいは踊り、炊出しを行って人々を元気付けた。先月、放火防止に活躍した『ローズ隊』や彼らに賛同した者で、見回りの強化も行われた。
「ヴィクトル‥‥依頼でなくとも、パリと、弱き者を守ろうとする。素晴しい、方々でしょう?」
 フェリクスは隣に立つ騎士に語りかけた。

「へぇ〜これ、すいとんってうのかい」
 女性達が、大きな鍋を囲んで味見中。彼女らは、ククノチが子供達に話しかけ、集めてもらった主婦達である。避難当初は呆然としていた避難民であったが、最も早く立ち直ったのは子供、次いで彼女達であった。母は強し、である。「我らの手だけでは至らぬ事が多く是非とも家事の達人たる貴女達に力を借りたい」というククノチの言葉に、張り切っている。今朝王城から物資が届き、それをどう使うかも、自分達の腕の見せ所。また、他国出身の冒険者が作る料理にも興味を示している。
 出来上がったら、皆で食事だ。同じ輪の中で、リーディアが砕けた説法を試みる。教会の壇上ではなく、まるで世間話のように話されるそれに、自然、耳目が集まった。
「我々は、必ず困難に打ち勝ち、必ずや皆さんを魔の手から救います 我々冒険者を、騎士団を、そして神を‥‥どうか信じて、待っていてください」
 リーディアが、1人1人と目を合わせる。
「‥‥あ、出来れば応援をいただけますと、やる気が上がりますです」
 付け加えられた一言に、場が和んだ。
「そうさねぇ、頑張っておくれね」
 笑いさざめく中から、いくつもの応援の言葉が飛び交った。

「代表を決めて欲しいのだが。選定はお任せする」
 サーシャが、声を掛けた。元居た村毎等、地縁で十数名の班をいくつか作り、代表を決めることで、情報伝達を滑らかにしようというものである。代表者を集めて、もしもの時の為他の避難場所を確認しておく。守ってもらうだけではなく、自分達もノルマンを守る要なのだと、気付いてもらえたら良い。そう、サーシャは思った。

「これは‥‥羽ですか?」
 木の棒で地面に描かれたもの。
「そう。おねえちゃんの」
 エフェリアを取り囲み、子供達が地面に絵を書いている。
「これは、天使の羽を集めて出来たと言われています」
 胸元の飾りをそっと撫で、地面に天使の絵を描き、それが登場する聖歌の一節を歌う。
「おねえちゃんたちもね、天使みたいって、皆言ってるよ」
「‥‥ありがとうございます」
 長い銀の髪が、風に揺れる。白い羽が、羽ばたくように。

 昨日の暴動現場では、復旧作業が行われた。さほど大きな被害ではないが、修理無しに済む程度でもない。アシャンティは、大きな瓦礫を担いで除けていく。その周囲で、サーシャが比較的小さなものを拾い集めていると、視線に気が付いた。
「一緒にやるか?」
 子供が数人、とてとてと物陰から駆けてきた。
「小さな欠片を拾って、あそこの荷車に載せてくれ。お片付けだよ」
 一緒に作業をしながら、エフェリアに教わった歌を口ずさむ。興味を示した子供達にも教えて、一緒に歌いながら作業をした。

「皆さん、5日間お疲れ様でした」
 依頼最後の日。フェリクスが挨拶に訪れた。小規模な暴動は、連日起こり続け、その都度、騎士団と冒険者は走り回り、人々を避難させ、暴動を抑えた。それらは規模を拡大することなく、今日の日を迎えた。7月29日。7の月は、あと2日で終わる。
「明日が‥‥敵軍勢との、最後の衝突になるでしょう。街の事は、私達にお任せください。そして、どうかご無事で」
 それは、ノルマンの命運が決する日。
「ああ、行ってくる」
 アシャンティが、そして皆が頷いた。

 明日も、明後日も、同じパリの街を望めるように。