【幸せの刻】地獄の密偵
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:7人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月27日〜08月01日
リプレイ公開日:2007年08月04日
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●オープニング
神聖歴1002年7の月
天から到来する恐怖の大王
アンゴルモアが降り落ちる
王国に満つ不安は消え、幸福に満たされるだろう
軍神は4方より、背後より来たる
始まりは終わりより後に来たるだろう
そして、ノルマン王国は滅亡する
「俺達には! ブランシュ騎士団が付いてるぜぇ〜♪」
妙な節で謎の唄を歌っているのは、酒場の酔っ払い。
「あいつ、イヴェット分隊長のファンだからなぁ」
その飲み仲間達は、肩をすくめている。
「そういえばさ、分隊長って、ヨシュアス、ギュスターヴ、フラン、シュバルツ、イヴェット、ラルフ、オベル、で7人だろ? でも、全部で8人いる筈だよな? 最後の1人、お前知ってる?」
「いや、そういえば色も知らないな」
「確か、去年の秋頃まで、黄分隊ってのがあったよな? そこの分隊長が引退して、新しく分隊が出来た‥‥んだったと、思う」
復興戦争勝利の象徴ともいえる、ブランシュ騎士団。その分隊ひとつが、まるごと存在を忘れ去られたような‥‥
「あ! そういえば、戦乙女が現れたっての、あっただろ?」
「おお」
「そん時に駆けつけた騎士のマント止めがさ、緑だったとか何とか」
「じゃあ、最後は緑分隊か」
「でも、何であんまり知られてないんだろうな?」
あるいは、意図的に隠されていたか。
「久しいな」
至高の座に着く青年は、眼前で正式な礼を取る男に微笑みかけた。
「先月の末に、お目に掛かったばかりと記憶しておりますが」
「そうだったか? フェリシティ・フーシェという女性になら、会った記憶があるが‥‥」
くす、とウィリアム3世は笑みをもらした。
「‥‥そうでした。私も、お会いしたのは『ヨシュアス』殿でした」
一昨日、インプ襲撃の騒ぎを報告しに面会したヨシュアス・レイン団長とは、勿論別人である。
「さて、先日の騒ぎについては報告を受けている。その後の経過は?」
「衛兵と冒険者が片付けを兼ねつつ周囲を警戒しています。今の所、2度目の襲撃はありません」
「しかし、敵は戻って来ると予告したのだろう?」
「はい。しかし、次は襲撃ではないでしょう。あのデビルの配下は、ほぼ掃討されました。よって、避難民に紛れてパリに入り込み、不穏な噂を流し、あるいは人を操って、人心に動揺をきたしに来るかと」
「何故そう言える?」
「あのネルガルは、人間に化けて潜り込み、狂信者の集団を影から操作する役目を負っています。私は、以前潜入中に接触した事がございまして、その時に身辺を調べてあります。デビルの配下は、掃討された以上の数は持っておりません。また、一体で市街に甚大な被害を出す程の戦闘能力もありません。むしろ、人心の隙を突く、あるいは人を操る術に長けております」
「成程。以前接触した事がある、と。よく露見しなかったものだな?」
「潜入中は、狂信者を装い念入りに変装をしておりましたし、一昨日は顔を隠しておりましたので」
変装の腕が上がっていたのはそのせいか、とウィリアム3世は苦笑した。
「それでは、対策を立てねばならないな。しかし、そなたとそなたの部下達をそちらに掛かり切りにさせる訳には行くまい‥‥ブランシュ騎士団緑分隊長フェリクス・フォーレ、冒険者ギルドに、依頼を」
「御意。‥‥それでは、御前失礼を」
白いマントと鎧を身に纏ったフェリクスは、颯爽と踵を返した。
●リプレイ本文
「なあ! 広場に戦乙女隊が来てるってよ!」
仮宿の前でたむろしていた避難民の前に、彼女らは現れた。
「何か、不自由はありませんか?」
青い瞳に見つめられ、女性はぶんぶんと首を横に振った。
「良かった。あちらにハーブティー用意いたしましたので、宜しかったら」
ぶんぶん。今度は縦。ほわりと発光するような笑みを残して、その人は別の者に声を掛けた。薄衣の裾がさらりと揺れる。
「あ‥‥き、緊張した‥‥」
隣に座る友人と囁き交わす。
「すっごく綺麗な‥‥ど、どきどきしたねっ」
「女の人なのに。ちょっと中性的で、天使様みたい‥‥」
きゃ〜、と小さく黄色い声を上げる彼女達の言葉は、背を向けた本人、リディエール・アンティロープ(eb5977)にも届いていた。『女の人なのに』の一言が、ずーんと背中に圧し掛かる。
(「それは‥確かに女性に見えるようにこの格好なんですが‥‥」)
女神の薄絹に茨の冠。元はインプ退治に参加しただけなのに、どうしてこんな方向に。引き攣りそうになる口元を袂で隠し、リディエールはそっと溜息をついた。
「俺しってるー。あの人が『テンセイのてんし』でー、あっちが『シンクのセンキョーシ』『シッコクのセイジョ』。『ゲッパクのチシャ』は、いない?」
「兄ちゃん、何で知ってんの?」
「昨日、通りでおねーさんが歌ってた。‥‥で、『ジュンパクのめがみ』!」
「こらっ、人の事指差すんじゃないの!」
母親が、その手をぺしりと叩く。その音に、『純白の女神』リリー・ストーム(ea9927)が振り返った。『天青の天使』と揃いの首飾りが陽光を弾く。少し眩しいが、その後についてきた微笑は、もっと眩しい。
「みなさん、昨日は大変な思いをされましたわね」
あちこちで暴動が発生した。心穏やかでは居られなかったろう。痛みを堪えるように、リリーが顔を伏せる。
「デビルが、王の退位を望んでいるわ。その為に、辛い思いを強いられますわね。でも、デビルが退位を望む王‥‥逆を返せば、高潔な方ということよ。私達が、陛下を信じなければ」
視線を巡らせ、語りかける。食料や薬草を配っていた『真紅の宣教師』ジェラルディン・ブラウン(eb2321)も進み出た。
「それに皆さん、私達戦乙女隊が来たからもう安心です」
ちなみに物資は騎士団経費である。
「神と王国の名誉にかけて、貴方達がすぐ故郷へ帰れるよう努力します」
言葉は大盤振舞でも、真紅の瞳は真剣そのもの。
(セーラ様も『言うだけならタダ』と仰ってるわ)
なんて思っていることはおくびにも出さず、怪我人や病人の介抱を手伝う。少しでもその不安が和らぐように。
「明日は隣の通りだって」
「何でも国王直属の部隊だとか‥‥」
緑分隊と冒険者とで広めた噂は、尾びれ背びれ胸びれまで付いて、
「セーラさまがノルマンに下された正義の使徒だそうよ」
ちょっと凄いことになっている。
「あたしらの事がそんなに噂になっているとはね」
ちょっと照れるな、と炊出しを手伝いながら、『漆黒の聖女』ライラ・マグニフィセント(eb9243)。
「ケーキの1つでも焼いて出したかったんだが、この人数じゃな‥‥全部終わったら、お祝いにでも作るか」
とにかく、今はネルガルを倒さなければ。料理をよそった器を手渡し、人々を励ましながら、怪しい物や人を見なかったか話を聞いて回った。
少し前、騎士団の詰め所。ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)はバサリと地図を広げた。描かれているのはパリの街。そのあちこちに、悪魔崇拝者、あるいは狂信者の拠点を示す印が見える。
「これは凄い」
フェリクスは素直に感嘆した。
「情報は力だわ。直接相手を砕く事は出来ないけれど、知ることで動かせる物がある。教会や、その‥他にも色々な所から情報を集めたのよ。悪魔に支配されては困るから、皆協力してくれたわ」
たとえ犯罪結社であっても。ぼかされた部分を察して、フェリクスは苦笑した。
「詮索無用という訳ですね。緊急事態です。止むを得ません」
騎士団の地図も広げて、情報を付き合わせる。
「そちらも随分調べたわね」
「無駄に半年潜っていた訳ではございませんので」
それぞれに足りない部分を補い、暴動を起こして鎮圧された、あるいはそれ以前に騎士団に制圧された拠点を消して行く。
「暴動発生場所に、特徴は見当たりませんね」
「ええ。でも、実は興味深い話を聞いているの」
「奇遇ですね。私もです」
「狂信者や悪魔崇拝者は、食料調達や情報収集に出て行く以外は、閉篭もっている事が多いらしいわね」
「しかし、狂信者集団と悪魔崇拝者集団に1人ずつ、例外があるようです。他との連絡係、という」
「その2人は、情報を操作して、実質全ての集団を操っているらしいわ」
フェリクスが、再び苦笑を漏らす。そこまで探り出したとは。パリの影に生きる者達は、なかなかに優秀らしい。
「その『2人』、身体的特徴は全く異なるものの‥‥」
「目撃証言を付き合わせると、必ず違う時間に出没しているわ。‥‥決まりかしら?」
視線が、ぶつかり合う。
「10割とはいきませんが。7割方間違いないでしょう」
インプを引き連れパリを襲撃した、変化自在な地獄の密偵。
「明日の慰問はこの辺りが良さそうね。噂を流して下さる?」
「はい。避難場所の旧聖堂から遠いですし、調度良いですね。セイルさんに協力して頂きましょう」
「私は仲間と合流してこの事を伝えるわ」
「私は一度旧聖堂の様子を見に行きます。その後、慰問場所から遠い順に、拠点を潰して参ります」
黙って聞いていたエメラルド・シルフィユ(eb7983)が、地図を指し示した。
「それでは、その辺りに潜入することにしよう」
アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)も頷いた。
「そうですね。レアさんと呼太郎さんにも、噂を流すのを手伝ってもらいます。ついでに、ネルガルが弱くて陰険野郎ってことも伝えてもらいましょう。事実ですしねっ」
「ノストラダムス様に忠実なる方々‥‥」
路地裏、隠れ家から出てきた男にアーシャが声を掛けた。兜と面頬で顔を隠した女に、男は怪訝な顔をした。
「仲間にして下さい」
言うと、兜を脱いだ。
「‥ハーフエルフ!」
「もう嫌です。今のノルマンである限り私は差別され続ける」
そんな自分にとって、予言は福音。王の退位を強く望むのだ、と言い募る。信用されたかは分からないが、男はアーシャを拠点へと連れて行った。すると、見慣れない女が、仲間を相手に弁舌を振っている。
「パリは、このままでは駄目だ。神が認め得る街に変えなければ。これは、聖なる戦いなのだ!」
金の髪が蝋燭の光に輝く。
「神聖騎士として様々なものを見てきた。この国の腐敗も‥‥」
持ち前の話術と美しい容姿に、狂信者達は引き込まれていく。
(「大方は、落せたようだな」)
熱弁を振いつつも、エメラルドは冷静に人々を観察した。
(「コントロール、してみせる!」)
翌日。戦乙女隊は、昨日計画した場所へ慰問に訪れた。薄衣を纏ったリリーやリディエールに注目が集まる中、ポーラはそっと輪を離れ木陰に立った。その影に、アーシャが身を隠すように座っている。
「潜入は成功しました。連絡係の男にも会いましたけど、今の所動きはありません」
「疑われているかしら」
「多分。接触して来ませんが、罠を仕掛けても来ません」
「そう」
「決起は明後日。エメラルドさんが先頭に立ちます。そこにネルガルを引っ張り出します」
短く言葉を交わし、離れた。
騎士団は順調に拠点を潰し、暴動を抑えて行った。戦乙女隊は慰問を続け、その評判は益々広がってゆく。
「仲間が随分捕らえられた。明日の決起には、1人でも多くの手が必要だ。貴殿も参加してくれるな?」
すっかりその拠点のリーダーとなったエメラルドが『連絡係』の男に声を掛けた。あまりに接触して来ないので、こちらから引っ張り出そうということである。
「‥‥分かりました。僕も、一矢報いたいのでね」
誰に、とは言わない。
「よろしく頼む」
顔を、正面から見つめる。パレているのか否か。人間観察にはそれなりに自信のあるエメラルドだが、彼の沼のような瞳からは、何も読取る事が出来なかった。
そして、当日。決起は、予定通りに行われた。
「危険ですから離れて下さい!」
ジェラルディンが一般人を下がらせるが、皆目前の光景に呆然としており思ったようには動かない。
「大丈夫、私達には神の加護があります」
冷静に言い放ち、浮き足立つ人々を集め、ヘキサグラム・タリスマンで結界を張る。
「皆で祈りを捧げるのです。それが神の、ひいては私達の力となります」
迷える者を導くが如き言葉。行うべきを見出した人々は、一心に祈りを捧げた。
「エメラルド? 何故‥‥」
狂信者と、それを押さえつける騎士の合間を縫って、リリーはエメラルドに駆け寄った。
「見損ないましたわ!!」
振り下ろされたダガーをクリスタルシールドで受ける。その重さに、エメラルドは目を剥いた。演技というレベルではない。
「ちょ、リリー!」
何考えてる止めろ! ‥‥と叫びたくとも、狂信者達やネルガルの耳があって出来ない。冷や汗が背を伝う。
「リリー殿、ここはあたしに!」
見かねたライラが、割って入る。
「で、でも‥‥」
「いいから!」
ライラが叫んだ瞬間、別方向からの叫び声。悪魔崇拝者の集団が駆けてくる。リリーは、そちらへ向かって走り出した。
「人々を苦しめる悪意ある者へと堕ちたあなた達に、手加減は不要ね」
本気のスマッシュEX。先頭の者が最後尾まで吹っ飛んだ。
その間、エメラルドとライラは『本気に見えるよう』切り結んだ。鍔迫り合いに見せかけ接近する。
「ネルガルは」
「あれだ」
エメラルドは視線で位置を示すと、ライラの剣を弾き返し、後退すると見せかけて目標へ近づく。あと一歩という所で、2人同時に剣を返し、ネルガルに向かって振り下ろした。しかし、その一瞬前。ネルガルは予測していたかのように飛び退り、畳んで隠していた羽を広げ、背後の屋根の上へと飛び上がった。白い肌が灰色に変わり、全身を炎が覆う。
「やっぱり、演技だったんだ。結構迷ったんだけど、一応警戒しといて良かったな」
そこを、リディエールのウォーターボムが襲った。
「ぐっ」
少々の八つ当たりも込められた魔法は、ネルガルに片膝を付かせる。
「今回は、色々ありましたからね」
普段温厚なリディエールも、流石に少々気が立っているらしい。ネルガルはリディエールを睨み付け、トン、と屋根を蹴る。スタッキングで切迫すると、長い爪を振り下ろした。
「‥‥ッ」
右腕から、朱が滴り落ちる。
「リディーさん!」
ジェラルディンが駆け寄ってリカバーをかけた。
「大丈夫‥‥大した傷ではありません」
その間、ネルガルは狂信者を1人捕まえ囁くと、再び屋根の上へ。囁き掛けられた男は、その建物へと駆け寄り、ランタンを屋根の上へ放り投げた。正気ではない瞳。操られている。
「何を!」
ライラが叫ぶ。壊れたランタンは油を撒き散らし、炎は操られているかのように素早く広がった。
「さて、そっちのハーフエルフもグルかい?」
燃え上がる屋根の上空から、ネルガルが問いかける。騎士と切り結んでいたアーシャが、手を止めて振り返る。出来る限り気持ちを落ち着けて戦っていたため、その瞳に狂化の色は見られない。
「そうです。私はハーフエルフで差別だってされてるけど、そんな不満を解消するために悪魔の誘いには乗りませんよ」
代わりに見えるのは、守るべきものを定めた強い光。
「私はノルマンの者ではないけれど、この国が大好きなのです」
「ふうん、この先差別され続けても、それでも、同じ事が言える? 言えないと思うよ?」
挑発するような問い。
「言います! そして、いつか愛する人と家庭を築くんです!」
その返答に、ネルガルは詰まらなそうに鼻を鳴らした。
「皆、あなたの様に弱くはないのよ」
悪魔崇拝者を一通り伸したリリー。
「弱いから密偵とか言って後ろでコソコソしてるのよね? 下級悪魔さん♪」
ビシッ、と空気が凍る。ネルガルの口元が引き攣った。
「まあ、ね‥‥実際、君達は良くやったよ。暴動はちっとも広がらないし。行動範囲を狭められてるのも、誘き出されてるのも分かったけど、結局どうにも出来なくてこうなったしね」
周囲を見渡すと、狂信者と悪魔崇拝者はほぼ捕縛され、一般人は遠ざけられている。騎士と衛兵が数十名に、冒険者。
「これじゃあ勝ち目は無いから、退散するよ」
ゆらり、と一際大きな炎が立ち上り、ネルガルの姿を隠す。その向こうに、羽を広げた後ろ姿が見えた。
「逃がしませんわ!」
ケルピーに跨り、リリーは燃盛る小屋へと駆け寄った。ヴァルトラウテのレジストファイヤーが、炎を弾く。
「はっ」
跳躍。全ての力を振り絞り、大天使の槍を投げた。その先端が運良く両羽の中心を貫く。
「‥‥え?」
しかし次の瞬間。その姿は灰となって消え失せた。
「アッシュエージェンシー?」
リディエールが呟いた。炎に隠された時に、囮を作って隠れたのだろう。
「本物も逃げてしまったようね」
ディティクトアンデットを唱え、ポーラが溜息をついた。
その後、消火作業が行われた。ウォーターボムを放ち続けたリディエールが、疲れ果てて座り込んでいる。
「あ‥‥貴女が向こう側に居るなんて思わないじゃないのよ〜」
その隣で、リリーがエメラルドにこってり叱られていた。
「最初の打ち合わせで言った筈だ」
「初日?」
『ね、セイル君‥それで‥‥‥ふふっ』
『リリー?』
『だからぁ‥‥いやんっ‥‥』
『リリー! 聞いてるのかお前』
『え? ‥‥も、勿論聞いてますわよ、エメラルド』
「聞いてなかった‥‥テヘっ♪」
びき、とエメラルドの額に青筋が浮かぶ。
「お酒奢るから機嫌直して」
「全く‥‥」
「お酒ですか、良いですね。‥‥先程情報が入りました。壁外の戦闘も収束したそうです。アガリアレプトは逃げ、ノストラダムスは生死不明。また暫く仕事漬けでしょうね。全て終わったら賑やかにやりたいものです」
「そうさな。そしたら私はケーキでも焼くとするかね」
「あ、いいですね。ケーキ食べたいですー」
被りっぱなしだった兜を脱いで、アーシャ。
「ところでフェリクスさん。本当に戦乙女隊を設立してみる気は無い?」
ジェラルディンが提案する。
「そうですね。公的な組織としては難しいですが、私の個人的な機関としてなら、検討させて頂きます」
緑分隊は国王のもので、自分はあくまで纏め役。だから自由に動かせる戦力があると便利かも知れない、と。
「それに‥‥」
緑の瞳が、厳しい光を宿す。
「あの性格の悪いネルガルが、このまま引き下がるとも思えません。仕返しに来るなら標的は『緑分隊』か『戦乙女隊』でしょうし」
「まだ、気は抜けないわね」
ポーラが空を見上げた。警告を促すかのように、星が流れ続けていた。