●リプレイ本文
集まったのは、以下6人の遊び好き。
エル・サーディミスト(ea1743)。
「兎印の薬師エルだよ、よろしく! なんか気心知れた面子だね」
アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)。
「私は、ご一緒するのは初めての方々ばかりですね。よろしくお願いします」
リョウ・アスカ(ea6561)。
「よろしく。折角の機会、楽しみましょう」
ティエ・セルナシオ(ea1591)。
「カンターさん、今回はよろしくお願いしますね‥‥らしゅたんにあんな事やこんな事をする為にもっ」
カンター・フスク(ea5283)。
「そうだね。これは是が非でも王様になりたいところだが」
ラシュディア・バルトン(ea4107)。
「うぉい! ティエ、それは違うだろ、何か違うだろう!」
「だって、らしゅたんを弄る為に参加したんですよ☆」
「え? これ、ラシュディアで遊ぶ会だよね?」
ティエとエルの言葉に、ラシュディアは寒気を覚えた。
「違うっ! ‥‥何か、嫌な予感がする‥というか、嫌な予感しかしない! 決戦に赴く騎士の気分とはこんな感じなのか‥‥」
「‥‥という事でラシュディアさん、お手柔らかに」
にや。ティエの邪笑。彼は、生き残る事が出来るのか。それはカードのみぞ知る。
●第1ターン
会場はラシュディアの棲家。人数分の裏返したカードを一斉に引き、合言葉。
『王様だーれだっ』
「早速ついてるね」
ニコ、と笑って王冠マークのカードを示すカンター。
「1番に、駿馬と併走しつつパリの外周を1周してきてもらおうか。勿論、乗るのは禁止だよ」
パリの外周‥‥徒歩だと1日掛る。しかも駿馬と併走。最初から手加減の欠片もない。
「で、誰だい?」
震える手で1のカードを掲げたのはラシュディア。
「キミだったのか」
「‥‥今『女装とかにすれば良かった』って思っただろ?」
「ははははは‥‥」
「視線逸らすんじゃねぇぇぇ!」
「ともかく、頑張って。見届け役が要るかな? ラシュディアが不正をするとは思わないけど‥‥」
倒れた時の回収役は必要だ。
「私が馬に乗りましょうか? 騎乗は得意ですよ〜」
「よろしく頼むよ」
騎乗のアーシャと全力疾走のラシュディアを、城門前で見送った。
そして、東向きの太陽が中天を過ぎ、少し西に傾いた頃、彼はへろへろになって戻ってきた。
「やっ‥と着い‥‥」
ばたり。倒れる時は前のめり。漢である。
「ただいまです〜」
馬から降りながら、アーシャ。深く被ったウィンプルが暑そうだ。
「最初は跳ばしてたんですけど‥‥」
振り返ったら、ラシュディアが豆になっていたという。
「だから、死ぬ気で走って追いつける速さで、駆けてみました。それでも、最後は完全に並足になっちゃいましたけど」
「お疲れ〜」
エルが、つんつん、と突いてみるも、反応が無い。身の安全を図るべく着込んだ装備も、逆に重石になったようだ。
「とりあえず、回収して戻ろうか」
カンターがラシュディアを駿馬に積み、棲家へと戻った。
●第2ターン
「3番がスペシャルドリンク一気飲みするってことで」
王様カードを手にしたのは、リョウ。
「酒とか、ジュースとか、調味料とか、諸々ブレンドして作ってください。‥‥で、誰かな?」
皆が、首を横に振ったので、視線が、部屋の隅で伸びているラシュディアに集まった。残ったカードを握らされていたのだが、裏返す‥‥3。
「2回連続だなんて、何か憑いてるとしか‥‥あ、そうだ」
ティエが、エルに耳打ちをする。
「お、いいね。‥‥皆ちょっと待ってて。ボクとティエで、スペシャルなの作るから!」
そう言うと、2人は棲家へ戻り、薬草やら液薬やらを抱えて戻ってきた。それらを相談しながら調合し、トン、と卓の上に載せる。
「‥‥‥」
ゴポッ、ゴポッ‥‥と気泡を発する、濃緑の液体。漂う臭いは危険信号。
「リョウさん、ラシュディアさんを上向かせて貰えますか?」
「あ、はい」
ティエの指示で、ラシュディアを抱え上げる。
「うわっ‥‥軽いなぁ。俺の半分くらいかも」
「それでは〜」
エルが、ぐいっとその口をこじ開け、
「強制回復〜♪」
一気に液体を流し込む。
数拍後、ローズ通りに、この世のものは思えぬ絶叫が響き渡った。
「大丈夫♪ 味はアレだけど、体力はちゃんと回復するよ」
‥‥だそうだ。
●第3ターン
「今日の僕には、幸運の女神でもついているんだろうか」
カンターが、手元のカードを見つめている。
「それじゃあ、3番がラシュディアに‥‥」
―ダッ!
駆け出すラシュディア。目指す先には輝く明日! ‥‥が、その足首を、カンターのローズホイップが捕らえる。
―ガタタンッ‥‥ドザー。
つんのめって倒れた衝撃で戸棚が開き、限界まで詰め込まれた諸々が雪崩となって押し寄せる。考古学資料の山から生えた手が、ぴくっぴくっと震えていた。
「往生際が悪いなぁ。キミが逃げやすい位置を選んで座っていた事なんて、お見通しだよ」
対策は万全さ、とそれはそれは爽やかに笑ってみせる。
数分後、酒場に人垣が出来ていた。その中心には。
「あ〜‥‥あんまり動かないで?」
(「‥‥くっ‥何で、こんな公衆の面前で!」)
プルプル震えるラシュディアと、真剣な表情で化粧筆を扱うリョウが居た。お題は『3番がラシュディアに化粧を施す』である。
「リョウさん、お上手です〜」
ぱちぱち、と手を叩くアーシャ。
「化粧の心得は無いけど、手先は割と器用なんで」
「かーわーいーいー♪」
「いっそ服装も改めないかい? コレなんか良いんじゃないかな」
くるくると角度を変えて眺めるティエと、自分の店から持ってきた服を吟味するカンター。
「可愛くないっ。着替えもしないっ」
「でも、そのままだとオカマな変態だよ? 着替えれば女の人にしか見えないけど〜」
エルの、止めの一言。
さて、この後彼が着替えたかどうかは‥‥ご想像にお任せします♪
●第4ターン
本日最後のゲームは、そのまま酒場で行われた。
「俺も、今日はついてるなぁ」
リョウが、しげしげとカードを眺める。
「じゃ、4番。女装して下さい」
「な、何で皆こっち見るんだよ。俺は違うぞ。1番だ、ほら‥‥って何だぁぁ! そのあからさまに『ガッカリ』な空気は!! リョウっ、溜息吐くんじゃない!」
ラシュディアは、既に化粧を落した後だ。
「じゃあ、誰? 女の子が女装しても、つまんないよねっ」
「う〜ん、その心配は無いみたいだ‥‥困ったな」
カンターが、苦笑しながらカードを裏返す。数字は4。
「ま、仕方ないから受けて立つよ」
持ち込んだ服からいくつか選ぶと、店員に頼んで、着替えの部屋を借りた。
それから暫くして。
「まぁ、こんな所だろう。直せる部分は直したけど、やっぱりサイズがキツイなぁ‥‥まぁ、元々ラシュディア仕様だから、仕方ない」
黒革の靴に、白い靴下。紺のワンピースに、白いエプロン。胸元で結んだ、共布のリボンが清楚な雰囲気を醸し出す。
「あはははは! カンターさん、可愛い! 可愛いですよ」
ティエが、机を叩いて悶絶している。
「そ、それは‥もしかして例の‥‥」
心なしか青ざめているラシュディア。
「うん。メイド服。僕に出来るのは、これくらいだからね。残念ながら、キミほどレパートリーは無くて」
「お前が、レパートリー作ってるんだろ‥‥」
「まあね。この服も今度着せてあげるから」
「断じて遠慮するっ」
「はー。よく出来てるなぁ、これ」
リョウが、感心したように裾を引っ張った。
「よくお似合いですけど、恥ずかしくないですか?」
アーシャも、上から下までまじまじと見つめる。
「まあ、多少は。でも、こういうのは開き直った方が楽だからね」
そう言って、ウインク。そのノリの良さに、周囲の卓からも声が飛ぶ。
「いいぞー兄ちゃん、可愛いぞ〜」
「こっち来て、給仕してくれや〜」
「はーい、只今、ご主人様♪」
ワザとらしい作り声に、酒場が沸いた。滑るように卓を回ると、チップとばかりに、次々とエプロンのポケットに銅貨が落される。
「‥‥おや、今夜の食事代が出来たようだよ。残りは、金欠のラシュディアに進呈しよう」
「‥‥どうして、そこまで開き直れるんだ?」
「性格じゃないかな。まあ、僕は開き直れずに足掻くキミが大好きなんだけどね、はははは」
●第5ターン
翌日。会場には、硬直したまま向き合うカンターとアーシャの姿があった。王様はティエ。お題は『4番と1番で熱いキスを交わす』。熱くなかったらやり直し、という注釈付きだ。
「これは、流石にちょっと困るというか‥‥」
妻に顔向けが‥‥とカンター。
「そそ、そうですよっ。わ、私にも好きな人が‥‥」
アーシャも、視線泳ぎっ放しだ。
「なぁ、これは‥‥条件緩和した方が、良くないか?」
「ラシュディアさんってば、お人好しですね」
昨日散々な目に遭ったのに、とティエ。
「自分自身が、そういう目に遭うのは‥‥いや、嫌だけど。出来る限り逃げるけど! ‥‥まぁ、我慢出来なくは、ないんだよ。でも、カンターの奥さんがさ‥‥悲しいのは、嫌なんだ、絶対」
「ラシュディア‥‥」
カンターが、本気で感動している。
「じゃ、らしゅたんに免じて、ここは頬にしておきましょう。ゲームは楽しくやらないとね。でもチュッ、じゃ駄目ですよ、チューですよ」
「はははいっ! ちゅーですね」
アーシャは、既に目を回す寸前。
「御免なさい愛しい人! ‥‥そ、それでは、失礼しますっ」
「どうぞ」
―ちゅうぅぅぅぅ‥‥ばたん。
「ああっ。大丈夫!?」
倒れたアーシャを、エルが介抱する。
「‥‥コレ、どうしよう。2,3日は消えないかも‥‥」
カンターが、右頬を掻いた。そこには、アーシャが緊張で力みすぎた為か、くっきりとキスマークが残ってしまった。
「上から殴ったら、痣でごまかせるかも」
リョウが、軽く指を鳴らす。
「謹んで遠慮するよ‥‥キミの腕力だと、骨まで砕けそうだ」
●第6ターン
「6番、は無いから、繰り下がって1番! が、ボクのディーヴァをもふる☆」
王様はエル。1番はアーシャ。
「ディーヴァって、この子ですよね?」
「うん」
「何か、バチバチいってますけど‥‥」
「プラズマフォックスだからね。まだ人になれてないから気をつけてね。ああ、自分でも触れるようにレジストライトニング早く覚えよっと」
「‥‥どうして今日は私ばっかり〜。幸運アイテム一杯付けてるのに〜。盾ですかっ。アビームの盾が悪いんですか〜?」
しかし、涙にくれた所で解決する訳も無く。
「‥‥行きますっ」
―ガバッ!
首に腕を回すようにして、抱きつく。
「おおっ潔い」
エルが目を円くした。
―バチバチバチッ!
「ぎゃっ」
初級ライトニングアーマー発動。ダメージは大した事無いけれど。
「うう‥‥まだ指先がビリビリします‥‥」
狂化でもないのに逆立つ髪を、何とか押さえながら、アーシャは溜息を吐いた。
●第7ターン
「私も出題側に回りたいです〜」
「俺もやられっ放しだし、そろそろ‥‥」
「昨日の幸運が、まだ続いてると良いんだけどね」
「俺も、もう一回くらい出題したいなぁ」
「私、まだまだらしゅたん、弄り足りな〜い」
「ボクだって、まだ1回だもんねっ」
それぞれの思惑絡まる、7回目。
『王様だーれだッ』
「よし!」
握り拳のラシュディア。
「4番! 酒場に行って、アンリさんに古ワインを注文し、即座に飲み干して」
「うっ」
誰かの呻き声。この時点でも、結構キツい。
「『ここはこれが一番美味いンだよな〜!』と聞こえよがしに言うこと」
沈黙が落ちる。パリの冒険者で、シャンゼリゼの名物ウェイトレス・アンリ嬢を知らない者は無い。そして、古ワインが、タダで供される酢に近い液体であること、それ以外のメニューが、かなりのこだわりを持って選び抜かれているという事も。
「カンターさん」
「何だい? ティエ」
「これ、取り替えてくださいな♪」
はしっとカンターの持つ5のカードを摘む。その指がかすかに震えているのは、錯覚ではあるまい。反対の手には4のカード。
「ティエ‥‥済まないが」
こればかりはどうしようもない、と悲しげに首を振る。
「家で待つ妻の為にも、僕は五体満足で帰らなければならないんだ‥‥」
「うう‥‥らしゅたんの鬼ッ!」
「なっ。俺かよ!」
ラシュディアとて、散々な目に遭ってきたのだ。同情はするまい。
一同は、シャンゼリゼに移動した。しかし、ティエと酒場に入る者は居ない。彼女1人を戦地に送り出し、他は戸の傍や窓の下に張り付いた。壁越しに喧騒が聞こえてくる。
『こ、ここはっ、これが一番美味しいんで‥すよ‥‥ねっ』
‥‥沈黙。
‥‥‥‥沈黙。
‥‥‥そして沈黙。
一切の喧騒が途切れた。しかし、中を覗き込んだり、ましてや中に入ったりする勇者は居なかった。彼らはただ待った。しかし、夜になっても彼女が酒場から出てくる事は無かったのである。
翌日、ティエは集合場所に現れた。
「ええと、酒場に行った事は覚えているんですけど、そこから先が、思い出せなくて‥‥」
気付いたら棲家で目が覚めたのだという。体に異常は無いらしいが、真相は闇に葬られたままとなった。
●最終ターン
「やっと、やっと回ってきたのです〜」
アーシャが、壷にどぼどぼと白濁液を注ぐ。
「4番の方! 自分の棲家で、これを飲み干して下さい」
「はい、俺。‥‥棲家、巨大蛇やらフォレストドラゴンパピーなんて居たりするけど、いいのかな」
「た、多分大丈夫です。っていうか、自分の棲家じゃないと、きっと後悔します」
「? まぁ、良いけど」
そして、リョウの家へと移動した。別室で何かうごうごしている気配がするのは、気にしてはいけない。
「これどぶろく? じゃ、頂きます」
酒は、比較的強い方だ。特に何も考えず、一気に乾した。濃厚な酒精が喉を滑り落ちてゆく。
「別に何も‥‥うっ」
リョウの手が壷を離れ、力たすきとホークウィングを掴み、脱ぐ。きょとん、としているアーシャ以外の面々を他所に、さらにその下の衣も脱ぎ捨てた。鍛え抜かれた上半身が眩しい。
「凄いな‥‥」
ちょっと羨ましい、と思いかけたラシュディアだが、
「って、違うだろ! 何やってんだ」
「いや、俺にもよくわからな‥‥」
言いつつ、腰布に手を掛けた所で、ラシュディアとカンターが別室に連行し、戸を閉めた。
「‥‥何だったの?」
ティエが、首を傾げる。
「実は、これ、禁断の壷と言いまして‥‥」
これで濃厚な酒を飲むと、脱衣衝動に駆られるという不思議アイテムらしい。
「本当に効くんですね〜‥‥あ、リョウさーん、効果が消えるまで、隠れてていいですよ〜」
扉の向こうに、声を掛けた。
結局、リョウが出てきたのは夕方になってからだった。効果が消えても、暫くずーんと閉篭もっていたために、実際の効果時間は、判らず仕舞いであった。
こうして、王様ゲームは幕を閉じた。彼らはそこで何を得、何を失ったのか。それは彼ら自身にしか判らない。果敢なる冒険者達に、栄光あれ。