まるごとさんレストラン

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 44 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2007年08月22日

●オープニング

 パリの、とあるレストラン。
 掲げられた看板には、可愛らしいヤギの姿が描かれている。
 扉を開くと、そこは、まさに夢の世界。

『小柄なドワーフ達が、まるごとヤギさん姿でお給仕いたします』


 ポスターに書かれた宣伝文句を見て、店主兼料理長のボリスは溜息を吐いた。ドワーフの村から出てきて数年。パリで料理の修業を積み、昨年の秋、コック仲間達と店を起こした。料理は中々に好評で、店は順調に客を増やし、何の問題も無いように見えたのだが。
「ボリスさ〜ん、ヨルゴも倒れましたぁ〜」
 見習いコックのルネが、伸び切ったドワーフをずるずると引き摺って調理場へ。
「‥‥しょうがない。今日はこれで閉店だ」
 この店の繁盛には、料理の他に、もうひとつの要因があった。ウェイター、ウェイトレスは、故郷やその周辺の村から出稼ぎに来ている若いドワーフで、全員が『まるごとやぎさん』着用を義務付けられていたのだ。小柄なドワーフがやぎの格好でちょこちょこと動き回る姿は、パリの客に好評を博し、いまやその光景目当てに通い詰める客が付いた程。しかし‥‥
「やっぱり、8月にまるごとさんは無理ですよう〜」
 と、見習いコック。この店にとって始めての夏。真冬の屋外でも大丈夫☆、なまるごとさんである。真夏に常時着用していたらどうなるか。7月からぱらぱらと暑気中りで人が減り始め、8月に入り数日経った今日、最後のウェイターも暑さに倒れた。
 ヨルゴのやぎさんを脱がせ、水を絞った布を当ててやりながら、ボリスは再び溜息をついた。
「どうしたもんかなぁ‥‥」
「だから〜、夏は着ぐるみは無理ですよう。獣耳へアバンドに、女子は短いスカートとかにしましょうよぅ」
「馬鹿。うちの常連は、大半が人間だろ。ずんぐり髭面のドワーフ女の脚なんぞ、見て喜ぶのはドワーフ男だけだ」 
 つまり、ドワーフ男のボリス自身は喜ぶようだ。
「でも、見てる方も暑いですよ〜」
「分からん奴だな。この暑さに汗ひとつかかずに着ていたら、見ている方は『あれ? 暑いのって気のせい?』って思うだろ。精神的に涼しくなるぞ」
「そういうもんですかね〜」
「とにかく、これはうちの店のポリシーだ。譲れん。あと数日もすれば、村から応援が来ることになっているし」
「じゃ、それまで閉店ですか?」
「そうだなぁ‥‥でも、折角仕入れた食材が、ダメになっちまうのもなぁ。コックは皆元気だし、先月の後半も予言騒ぎで商売上がったりだったし‥‥」
「‥‥あ! そうだ、冒険者ギルドにお願いするのはどうでしょう〜。色んな人材がいるから、この暑さでも倒れない体力の持ち主や、汗ひとつかかない精神力の持ち主もいるかも」
「でも、ウチには、まるごとやぎさんはドワーフサイズしかないぞ?」
「やぎさん以外なら、昔買ったのが倉庫にいくつかあるじゃないですか〜。それに、冒険者だったら自前のを持っているかも」
「ああ‥‥でもなぁ」
「この際、やぎへの拘りは捨てましょうよう。仕方が無いじゃないですぁ」
「‥‥‥そうだな。仕方が無い」
「あ、でもシフールサイズは無いですよね」
「シフールはヘアバンドで良いだろう」
 ポリシーは何処へ行った。
「‥‥ドワーフはナシで、シフールはアリなんですかぁ?」
「アリだ。だってシフールは誰が見ても可愛いだろう」
「親方のツボはちょっと解り難いです〜」
 ルネは首を傾げたが、兎にも角にも人材確保、と冒険者ギルドへと向かったのであった。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7708 陰守 清十郎(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クリス・ラインハルト(ea2004

●リプレイ本文

 店の前に、季節外れのスノーマン人形。何事かと見つめていると、
「いらっしゃいませです♪ お兄さん」
 何とも愛らしいお嬢さん。
「お昼ご飯はまだでしょか? 当店は『五日間限定! 色んなまるごとさんの姿を楽しめます!』キャンペーン中ですよ♪」
 誘われるままに店に入ると、透き通った笛の音。まるごと猫かぶりが横笛を奏でている。そして、隣には、なんと! 大きな氷の柱。その中には夏の花。有得ない筈の組み合わせに、季節を忘れてしまいそうだ。
「いらっしゃいませ〜ですよ〜♪」
 軽やかなスキップの、まるごとメリーさん。汗ひとつかかずに、にっこりと笑う。素早く注文を取って厨房へ。入れ替わるようにして、まるごときたりすがコップを卓に置いた。大きなしっぽが、歩くたびに右へ左へゆらゆら揺れる。供された水の中に、ぷかぷか浮いているのは‥‥
「氷?」
 1口飲むと、すっきりとした香りが広がった。これは、レモンだろうか。
「本物の氷ですよ〜。トナカイさんが作ってくれたんです」
 視線の先では、まるごとトナカイさんが、大きな桶を運んでいる。氷の傍に置くと、元から置いてあった桶を店の入り口脇へ。覗いてみると、キンキンに凍っていた。
「すごいなぁ」
 思わず呟く。真夏に氷、なんて現実離れした店内に、まるごとさんがいっぱい。それぞれ、蝶ネクタイや揃いのエプロンで一工夫された、メリーさんと、猫かぶり、きたりすとトナカイさんと‥‥
 ―ふわっ。
 優しい風に、頬を撫でられた。青い扇を手に扇いでいるのは、まるごとウサギさん。右耳の真ん中に真っ赤なリボン。
「ありがとう」
 何気無く礼を言うと、ウサギさんの頬がぽうっと赤くなった。香り袋がほのかに香る。
「‥‥どういたしまして」
 はにかんだ笑顔。人見知りなのだろうか、少し泳いでいる視線と引き攣った口元が初々しい。
「あの、まるごとさん、好きですか?」
「あんまり考えたことないけど、見てたら好きになったかも」
「どんな所が、良いでしょう?」
「そうだなぁ‥‥もこもこしてる所?」
「もこもこ‥‥」
 彼女は、もこもこ‥‥と呟きながら、何やら真剣に考え始めた。
「お待たせしましたです」
 注文の品を運んでくれたのは、店先で会ったお嬢さん。でも、さっきと違うのは‥‥
「そろそろ交代するですね。レティシアさんは、休んで下さいです」
「はい、あとはお願いします、ふぇれっとさん」
 まるごとふぇれっと。短い脚で、右、左、右、左、一生懸命ちょこちょこ歩く。見回してみると、他のまるごとさんも交代のようだ。出てきたのは、まるごとクマさんに、まるごとこっこ、さっきとは別のウサギさん。
「ごゆっくりどうぞです」
 にっこり笑うふぇれっと嬢。少しよろよろしている所を見ると、やはり重くて暑いのだろう。
『只今五日間限定! 色んなまるごとさんの姿を楽しめます!』
 ‥‥成程。料理も美味いし、ちょっと癖になりそうだ。

 時間は少し戻って、開店前。
「はうっ‥‥まるごとさんがいっぱい‥み、皆可愛いです〜」
 今回の給仕は、ラテリカ・ラートベル(ea1641)、ウリエル・セグンド(ea1662)、エル・サーディミスト(ea1743)、ジュラ・オ・コネル(eb5763)のA班と、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)、エーディット・ブラウン(eb1460)、アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)、陰守清十郎(eb7708)のB班とに別れて行うことになった。
 可愛いもの大好きなアーシャが、ぽわわーんとA班の面々を見つめている。
「お揃いの蝶ネクタイとエプロンを借りました〜。これで、給仕っぽくするのです〜。何事も形から入らないと〜。ふぇれっとなラテリカさんと、ウサギさんなエルさんは、リボンもつけましょうね〜♪」
 エーディットが、ほくほくとA班を飾り付ける。
「給仕のしるし‥‥だな。皆‥‥良く似合ってる‥な」
 ぽむぽむ、とラテリカを撫でるクマさんウリエル。無表情だが、視線は柔らかい。
「ウリエルさんも、礼服っぽくて素敵思うです」
 もこもこクマさん、ちょっと格好良い胸飾り、無表情‥‥という3つのギャップ。それはそれで味がある。
「あ、ジュラも支度が‥‥」
 着替え部屋から出てきたジュラ。エルが掛けた言葉が、途中で空中分解し、
「‥‥レオナール?」
 代わりに、デビルの名前を構築した。
「‥の、振りをしたジャイアントチキンって感じ?」
 レティシアが、溜息交じりに続きを受ける。
「店のスタイルに迎合してみた」
 彼女の格好は、まるごとこっこにヤギの被り物。正に『ヤギ頭な悪魔の振りをした巨大鶏』である。
「昨今、皆デビルに敏感になっていますから、被り物は取りましょう」
 と清十郎。ジュラは、こくりと頷いた。
「御免くださ〜いっ」
 そこへ、明るい声が響き渡った。扉を開けると、ロバを連れたクリスが立っている。
「陣中見舞いと景気付けに参上したですよ♪」
 そう言って、ロバから樽と『祝☆イベント』の花輪を下す。
「樽は美味しい水なのです。食堂はバードの稼ぎ所ですし、ラテリカさんとレティシアさんも参加されるですから、吟遊詩人ギルドに掛合って用意しました」
「わぁ、ありがとございます。ラテリカ達、助っ人ですけど‥そですね。イベントにしちゃえば楽しいですよね。そだ、ラテリカ、お店の曲を作りたいです! クリスさんも一緒にどでしょか?」
「でしたら、クリスさんもお着替えしましょう〜。ちょっと格好良くして歌うにゃんこ貴族なんてどうですか〜?」
 エーディットの腕には、既に店から借りたまるごと猫かぶりとリボンが用意されている。素早い。
「えへへ、では喜んで」
 クリスが着替えている間、ホールでは清十郎がスクロールを広げていた。まず、部屋の隅にフリーズフィールドを展開。その中に、大量に運び込んだ水をクーリングで凍らせて、巨大な氷柱を作る。氷の中には、クリスに貰った花を数本込めて、氷中花の出来上がりだ。冷却エリア内にうっかり客が入らないよう、机を配置し、準備万端。
「時々、ウォーターフォールもやりましょう」
 流れ落ちる幻の滝は、さぞかし見た目に涼しいだろう。
「もこもこが‥‥ちょろちょろと動いてる‥‥素敵なお店だ‥‥」
 内心至福のウリエル。そこへ、店主ボリスの声が掛った。
「用意は良いか? ‥‥それじゃ、開店だ」

 昼食時を過ぎて、客足が少し遠のいた頃。
「そろそろ、休憩ですかね〜」
 食べ終わった大きな皿を何枚も重ね、それを軽々と下げていくアーシャだが、流石に声に疲労が滲んでいる。心なしか、キタリスの大きなしっぽも垂れてきているような。
「ちょっと疲れましたね〜」
 基本はひんやり空間に待機、お客が着たら軽やかにスキップ、素早く注文を取り、素早く戻り、給仕は基本軽い物‥‥すなわち、一気に獲物を捕えて素早く離脱、というカササギ戦法で体力の無さを補っていたエーディットも、そろそろ辛くなってきたらしい。まるごとさんの脇を空けたりと涼しくなる工夫を凝らして、ここまで頑張って来たのだが。ちなみに、希望のまるごとやぎさんはドワーフサイズしか無かったため、ちょっと似ているメリーさんである。
「そろそろ交代だよ☆」
 A班のウサギさん、エルが交代を告げに来た。
「まかないあるから、お昼にしてね」
 料理人ドワーフ達に頼んで、味付けは塩を濃目にしてもらってある。汗をかいたら塩分補給、という、エルの薬師らしい気遣いである。
「大きい物や‥‥重い物は‥‥なるべく俺が運ぶから‥‥注文取りとか‥‥頼むな」
 大皿を抱えたウリエルが、のしのしと横を抜けてゆく。
「はいです。笑顔で頑張るですよー」
 冷却エリアでひえひえにしておいた銀のトレイを手に、ラテリカ。
 ジュラは、早くも机の間を回って下げ物を集めている。こっこ着用だというのに、その動きは誰よりも滑らかで、器用に使用済みの皿やボウルを積んでいく。
「着慣れているのかしら。流石ね」
 その動きを、レティシアが目で追っている。
「でも、少しぎこちない方がまるごとさんらしい? そっちの方が『もこもこ』感もあるよね‥でも、作業効率を考えたら‥‥」
 まるごとさんらしさとは。望まれる愛らしさとは。昼食を摂りながら、真剣に考察を巡らせるレティシアであった。

「注文は?」
 席に客を案内して、用件を聞く。スマイル品切れ(常時)なジュラの迫力に、客は少々気圧されている。
「えーっと、若鶏のハーブ焼きを‥‥」
「ありません」
「え?」
「うちでは鶏肉料理はやっていません」
「で、でも‥‥」
 視線は、隣の卓へ。そこに載っているのは、まさしく鶏肉である。
「僕に、鶏料理を運べと?」
 鶏が、鶏肉料理を運んでいる図‥‥‥。
「‥‥‥」
 ぶぁさり。間を持余したかのように、こっこが羽ばたいた。
「えーっと‥‥じゃ、じゃあ、夏野菜のスープで」
「了解した」
 くるり、とジュラが踵を返す。ひゅるりら〜と、風が流れた‥‥気がした。

 片付けと翌日の仕込みを終えたボリスは、まだ掃除をしていたレティシアに驚いた。もう皆帰ったと思っていたのだが。
「聞きたい事があって」
 接客について、自分の良い点、悪い点を聞き出し、記憶する。体力不足な分、仕事の質を上げようという彼女なりの努力である。
「成程‥‥あ、不埒な振舞いをするお客様は蹴っても可?」
 少女らしい潔癖さに、苦笑する。
「不可だ。そういう時は人を呼べ」
「‥‥はい。それから、私報酬の変わりに、ドワーフ秘蔵のお酒が欲しいです」
「酒? 見かけによらず、酒飲みか。残念ながら今は無いな‥‥。そうだ、報酬代わりにゃならないけどな、遅くまで仕事してたご褒美だ」
 差し出されたのは、とろりとした白濁液。
「甘酒。月道渡りの貴重品だぞ」
「甘酒‥‥」
 甘い。甘いのだが、気分的に何だかしょっぱい。私、甘酒に恨みでもあったかしら? と、レティシアは首を傾げた。


  笑顔でお迎え めりーさんとうさぎさん ご注文はとりさんへ
  となかいさんとやぎさんが ひんやり冷たい杯を
  りすさんとくまさんが 大きなお皿を運びます
  いらっしゃいませ ここは楽しいレストラン
  ちょっと覗いてみませんか? まるごとさんのレストラン

 開店前の店先で、ラテリカが歌うと、1人、2人と立ち止まって聞いていく。営業時間を尋ねて来る人も居て、客引きの効果は上々だ。
「いらっしゃいませですよ〜」

「ジュラさんは、休憩中でも脱ぎませんね。大丈夫ですか?」
 休憩に戻ってきた清十郎が、兼ねてから気になっていた事を、ツッコ‥‥聞いてみた。
「普段から着ているからな。それに、まるごとを脱ぐと狂化する」
「私は、戦闘時の緊張で狂化しますけど‥‥人それぞれですね〜」
 己もハーフエルフであるアーシャ。仕事に出て行くこっこの後ろ姿見つめながら、冷却エリアで程よく凍らせた飲み物を啜った。
「い、生き返る〜‥あーん、もう、剣を振るって生死のやり取りしていた方が楽ですよ」
 傍で、エーディットとレティシア、清十郎もぐったりしている。
「家にもフリーズフィールドが欲しいわ‥‥」
「あ、良いですね〜、私の棲家もフリーズフィールドして〜」
「夏でもひえひえですね〜♪」
「構いませんけど‥‥ちょっと冷たすぎませんか?」
 何せ氷が張るほどまで下がるのである。

 そして、次の交代時間、ジュラは、全く平気な顔で戻って来た。そして、卓に突っ伏した。
 動かない。
 動かない。
 ‥‥やっぱり動かない。
「あの、ジュラ、さん?」
 少々不安になったラテリカ。恐る恐る声を掛けたのだが。

 へんじがない。ただのとりにくのようだ。

「‥‥ダ、ダメです、起きてください! ウリエルさん、エルさんを呼んで下さいです!」
 その後、エルの適切な処置により、ジュラは回復したのだが。
「もうっ、暑いんだから、休憩時間にはちゃんと脱がないとダメだよっ。まるごとさんも、ボクやレティシアみたいに、毎日陰干ししないと。毎日着るなら尚更だよ!」
 しばらく薬師のお説教を食らったのは、仕方の無い事だろう。ちなみに、まるごとを脱いでも別に狂化はしなかったようである。

「だーめっ、これ以上入っていると、体調壊しちゃうんだからっ」
 ホールの奥では、只今零下体験を実施中。お客にまるごとさんを着せた上で、零下空間を体験してもらおうというものである。下手をすると体に障るので、その辺はエルがしっかりと管理する。因みに、彼女の今日の衣装はまるごとうめさん。頭に巻いた鉢巻が洒落ている。
「今日は、人参を食べると良いことがあるかも知れません」
 清十郎は、神秘のタロットで占いサービス中。深刻なものは避けて、良さげな食べ物やアイテムをアドバイス。一応休憩時間中なので、トナカイさんは脱いである。
 その卓に、ウリエルが大皿を載せた。
「‥‥おまちどう‥さま」
 3歩離れて、振り返る。
「‥‥美味そうだな‥‥」
 まかないまでの時間を数えて、ちょっと切ない溜息。
『入り口右のお客さんの所へ、行ってあげてくださいです』
 テレパシーを受けて、頷く。冷却エリアで小休憩中のラテリカが送ったものだ。
「‥ラテリカは‥‥もっと大変なんだから‥体力のある奴が‥‥頑張らないと‥な‥‥」
 その方がきっと食事も美味い、と思い、少しずれたクマさんの頭を直した。

 3日目を迎える頃には、皆大体自分のペースを掴んだようで、休憩や仕事の分担も、上手く出来るようになって来た。バードやウィザードの指示が効率よく通ると、店の回転もスムーズになる。
「今日はクマさんか〜。明日はなんだい?」
「それは来てのお楽しみ☆ 一応ボクの基本は兎だよ。兎印の薬師だもん♪」
 と、エルの日替わりまるごとさんを楽しみに日参するお客や、
「偏った食生活はいけません。夏ばての元ですよ」
 人見知りのレティシアが、気安く話せるような常連も見え始めた。
「クマさんがね、無表情なんだけどね、そこが何だか可愛いの〜」
「きたりすのしっぽ! あれ、枕にしてみたいと思わない?」
「トナカイの季節外れ感が良いんだよ」
「メリーさんに、もふってしたい‥‥」
「ふぇれっとの、短い脚がね! ちょこちょこって〜」
 それぞれに、ファンらしきものまで付き始めたようだ。
「こっこに、鶏肉運んで欲しい‥‥」
 それは、無理です。

 4日目、5日目は、積み重なった疲労はあったものの、どうにか乗り切った。
「お客様が笑顔で帰ってくれるならいくらでも頑張れそう」
 このレティシアの言葉が、全ての説明になるだろう。
 ちなみに、エルの日替わり衣装は、4日目がしろやぎさん、5日目は再びウサギさんであった。

「5日間、ご苦労さん。売り上げは上々だ。氷メニューが物凄く売れたし、リピーターも多かったみたいだな」
 ボリスは、満足げに頷いた。
「評判も良かったし、また頼むかも知れんな」
「今度は涼しい季節でお願いします〜。今回も、氷が無かったらどうなっていたか〜」
 アーシャの言葉に、その通りだ、と皆で笑った。