【豚、ブタ、こぶた】ちょっとそこまで

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2007年09月10日

●オープニング

『養豚出資者募集』

 ‥‥面白そう、とシャルロットは思った。
 店が休みで、何となく冒険者ギルドに遊びに来た彼女。今は、依頼群横に張られた一回り小さな羊皮紙を、目を輝かせて読んでいる。最近は季節行事が無く、少々退屈していた事もあり、興味津々だ。
『‥‥詳しいお話は、下記の者までお問い合わせ下さい』
 そこに記された名前は。

「はい。出資さえしてもらえれば、誰でも大丈夫なのです〜。私も出資しますです」
 1箇所だけ、なぜか客の列が短い窓口。そこに、彼女は居た。冒険者ギルド受付シーナ嬢。お肉かぶりつきの未来を想像しているのか、その眼差しは夢見るように斜め上。
「あとは、村の人たちが豚を大きくしてくれます。暫くしたら、時々お肉が届くのですよ〜」
 話を纏めると、どうやら『皆で出資して豚育てて幸せになろう』という計画らしい。発案は月道関係者。豚は、パリから馬車で二日程の村で飼って貰えることになったという。
「あの、私、ブランと申します。ブラン商会の、シャルロット・ブランです。まだ父さ‥‥店主の了解を得てはいませんけど、当商会でもご協力させて頂けたらと思って」
「わあ、大歓迎なのです☆‥‥あとは、豚を迎えに行ってくれる人が居たら完璧なのですけど」
「お迎え?」
「はいです。パリから半日くらいの村で、豚を飼っている処があって‥‥」
 そこに、豚を譲ってもらう約束を取り付けてあるらしい。ただ、それを引き取りに行く人手が無いとのこと。仕方が無いので、出資金の一部で、冒険者を雇おうか、という話が出ているらしいが‥‥
「この村なのです〜」
 シーナがパリ近郊の地図を広げる。指差された箇所を見て、シャルロットは目を円くした。
「ここって‥‥」

「はい。確かにその村ですけど‥‥何か?」
 ブラン商会の台所。夕食の準備に腕を奮っていた家政婦マリーが、シャルロットを振り返って首を傾げた。シャルロットが告げたのは、マリーが昔一時期暮らしていた村‥‥彼女の夫が眠る村の名だった。
「豚? ええ、はい。村の外れに、ちょっと大きな養豚場がありますけど」
「そこにね、豚を買取りに出かけて来ようと思うの」
 出資の件は、既に父親の承認を得た。
「お嬢さんが?」
「ええ」
「少々、危ないのでは?」
「勿論、いつもの所に付添いの人をお願いするわ」
 いつもの所、とは勿論冒険者ギルドだ。
「私、あまりパリから出た事がないでしょう? 折角の機会だから、行ってみたいな〜って」
 最近退屈していたし‥‥というのは、黙っておく。言わなくても分ってしまう人は、今は海の彼方であるし。
「若い豚をね、つがいで8匹貰ってくるの。今年のうちに種付けをするから成豚が必要なんだけど、運搬の手間もあるから、1組くらいなら子豚でも良いんですって」
 黒くて、ふさふさで、まるっとした子豚。想像するだけで、頬が緩んでくる。
「それとね、私はやっぱり初めての遠出だし、村の事を良く知ってる人にも付いて来て欲しくて。でも、マリーさんは忙しいでしょ? だから、エリザ姉さんに来て貰えたら嬉しいなって」
「エリザを?」
 エリザというのは、マリーの娘。今は別の商家へ奉公に出ている。
「ええ。お仕事が休めたら、なんだけど」
「ありがとうございます」
 ふっと、マリーが笑った。マリーとエリザは、年に1度、7月にその村へ行く。ところが、今年、エリザは休暇が貰えず行くことが出来なかったのだ。
「あら、私が付いて来て欲しいだけよ。そうね‥‥初めての遠出だし、村で2,3日ゆっくり出来たら嬉しいな」
「娘に、伝えておきますわね。それから、村に着いたら、教会に滞在してくださいな。私からシスターにお願いしておきますから」

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アリスティド・メシアン(eb3084

●リプレイ本文

「つい昨日まで、豚の放し飼い用の柵を作って戻った所じゃよ。ものはついで、豚の引き取りもつき合わせて貰うとしよう」
 愛馬ケイロンを馬車に繋ぎながら、ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)。
「おいらも手伝ってきたんだよ」
 マート・セレスティア(ea3852)も胸を張る。
「よろしくお願いします。ギルドの方からも、先方が豚を心待ちにしてらっしゃるって聞いてます」
「おはようございます〜ですよ〜♪」
 そこへ、エーディット・ブラウン(eb1460)達女性陣が到着した。
「はて‥」
 彼女達の格好に、ヘラクレイオスの口がぽかん、と開いた。
「近場といはいえ旅ですからね〜」
 とエーディット。今回の着せ替えコンセプトは、お忍び王子様。
「エリザさんは初めましてね。ユリゼです。お母様には何度かお世話になっているわ。どうぞ宜しく」
「はじめまして。お噂はかねがね」
 王子様その1、ユリゼ・ファルアート(ea3502)。つば広帽子が狩人風味で格好良い。
「お仕事ですけど、なんだか楽しいお出かけなのです♪」
 王子様その2、ラテリカ・ラートベル(ea1641)。年齢に合わせて、可愛らしい王子様。
「ブラン商会の噂は、ユリゼさんから聞いているわ。エーディットさんの、楽しそうな企みのこともね。天津風美沙樹(eb5363)と申しますわ。よろしくお願いしますわね」
 王子様? その3。ジャパンのお武家風。旗本というらしい。ちょっと粋に崩してある辺りが、3男坊風なのだそうだ。
「シャルロットさんとエリザさんは、お姫様なのです〜♪」
 動きに支障が無い程度に、2人はリボンで飾り付ける。
「パリでは、不思議な服装が流行しておるのかのう」
「これは、お嬢さんが嵌るのも、分かる気がする、うん」
 ヘラクレイオスとエリザ、それぞれの感想。シャルロットについては、言うまでもなく大喜びであった。

「どれ、御者は任せるがいい」
 ヘラクレイオスが、席に着く。ラテリカはロバのヴェルテを、美沙樹は駿馬の息吹を曳いて、騎乗の準備をした。
「そろそろ、出発かな?」
 見送りに来ていたアリスティド。エリザとシャルロットが馬車に乗る手助けをした後、ラテリカの背後に回った。
 ―カチッ!
「きゃぅっ」
 ラテリカが飛び上がる。
「ジャパンでは、災難避けのまじないに、仕事に向かう者に火打石を打つのだったね? エーディット」
「はい〜‥‥でも、今のはちょっと近かったかも〜」
「では、他の人には、もう少し離れて‥‥」
「どしてラテリカで試すですか! おししょさまは、いじわるするから嫌いですっ」
 ぷいっとそっぽを向くラテリカ。
「はは‥‥気をつけて行っておいで」
 エーディットとユリゼも荷台に乗って、出発。手綱が、ぴしっ、と小気味良い音をたてた。

「それじゃあ先に行って村の人達に連絡しておくね」
 ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼に乗って、マートは空を行く。
「豚、豚、豚の引取りだ」
 目印代わりに、とエーディットが結んだ、大きなピンクのリボンが、ヒラヒラと楽しそうに棚引いていた。

 カタコトカタコト。
 歩くくらいの速さで、のんびりと馬車が進む。御者の腕が良いと、あまり揺れず快適だ。ヘラクレイオスの隣には、行儀よく座ったボーダーコリーのポプリ。ラテリカの方を向いて、ぽてぽてと尻尾を振っている。その脇を、のしのしと付いてくるのはノルマンゾウガメ。意外と早く歩けるらしい。馬車の周囲は、美沙樹が伊吹に乗って警戒しているから、安全面も安心だ。
 暫く歩いて、涼しそうな水辺を見つけたので、少し休憩。
「シャルロットちゃんは遠出は初めてなの?」
 ユリゼが、クーリングで作った氷入りの水を差し出した。
「はい。両親には、いつも置いていかれちゃうんです」
 と頬を膨らませる。
「ふふ。じゃあ‥‥姫、残暑厳しい中、無理は禁物ですからどうぞ何なりと仰ってください」
 王子様の微笑に、膨らんだ頬もほんのりと染まる。先ほどから、濡らして軽く凍らせた布を当ててくれたり、何かと旅慣れないシャルロットを気遣ってくれている。
「あ、ありがとうございます」
 そんな2人を、成程あれが『王子様』か‥‥と眺めるエリザ。そこへ、カメに餌をやって来たエーディットと、馬を繋ぐ手伝いをしてきたラテリカがやって来た。
「豚の買い付けだなんて、シャルロットさんも商人が板についてきたですね〜。女将さんになる日も近いですね〜♪ 若旦那修行をしてる人が帰ってきたら、びっくりする事請け合いですよ〜♪」
「わ、若旦‥ッ‥そ、そんなんじゃ‥‥」
「うふふ〜♪」
 じゃれあう2人の会話を聞いて、ラテリカがエリザに囁いた。
「リュックさん、もしシャルロットさんのお婿さんになってお店を継いでおくれって言われたら‥‥どうなさるでしょね」
「それね、世間では、結構前から『ブラン商会は、リュック・ラトゥールの婿入で、将来安泰だな』って‥‥言われてるの」
 エリザも囁き返す。
「知らないのは、本人達だけよ」
 何となく、東の空を見上げたラテリカだった。
「外堀はとっくに埋まってるですね‥‥」
 まだ残暑は厳しいけれど、何となく、秋の匂いの混ざり始めた風を感じた。実りの季節は、すぐそこだ。

「こっちだよー」
 村の入り口でぴょんぴょん跳ねながら手を振っているマート。隣に立っているのは、滞在する教会のシスター、ノエミ。
「皆さん、よくいらっしゃいました。エリザも、会えて嬉しいわ」
「えへへ、久しぶり」
「さ、お父さんに挨拶に行ってらっしゃいな。他の皆さんは、どうぞ中で荷物を下してください」

「お父さんは、パン屋さんと似てたのでしょうか〜?」
 墓前に花を供えたエリザに、エーディットが尋ねた。
「パン屋さん‥‥ああ、母がお世話になってる? お会いした事は無いですけど、話を聞いてると、全然似てない、と思います。小さかったので、あんまり覚えて無いんですけど‥‥何か、ボケ〜ッとした人でしたから」
「ボケ〜ッと‥‥」
「1人でフラフラ旅をする割に、生活力が無いというか‥‥母との出遭いも、飢死にしかけた所を拾われたくらいですし‥‥」
 何処で野垂死んでも、多分おかしくなかったのだ。でも、最後は家族に見守られて、暖かい寝台の上で。本当は、もう少し一緒に居たかったけど。
「ラテリカの母さんは、遠いお空に居ても、ラテリカの声なら聞こえるよって言ってくれたでした。エリザさんの声も、きっと、お父さまに届くですよね」
「うん、そうだと、いいな‥‥ありがとね」
 少しせっかちな秋の花が、返事のように、そよりと揺れた。

「えへへ、こっちですよぅ」
「ぷきー」
「わうっわうっ」
「ぶききー」
 ラテリカとポプリが、豚を追いかけている。牧場のボーダーコリー達ともあっという間に仲良くなったようだ。少女と、犬達と、コロコロと走り回る豚の群れ。
「微笑ましいですね〜♪」
 ゾウガメを傍らに眺めているエーディット。
「へぇ‥‥結構良い飼料使ってるのね」
 さらさらと餌を掬って、ユリゼ。小屋も綺麗にしてある。豚は、意外と綺麗好きらしい。シスターや子供達に、挨拶がてらこの牧場の評判を聞いてきた。品質も主人の人柄も、信用して良いそうだ。
「そりゃぁね。いいもん食べさせないと、丸々太ってくれないだろ?」
 主人は、褒められて悪い気はしないようだ。
「どれにする?」
 同行者達を振り返る。
「う〜ん‥‥みんな元気そうで、健康そうってことしか‥‥」
 首を捻るシャルロット。
「わし等ドワーフは、生き物を育てるのは不得手でのぅ。どの豚が良いかと言われても‥‥さて」
 物を作るのは得意じゃが‥‥とヘラクレイオス。
「おいらはこの豚が美味しそうだと思うけど」
 美味しそうな食べ物には鼻が利くマート。ひときわ艶やかな毛並みの若豚を指差した。
「お、良い所に目をつけたね。でも、あれは今年の聖夜祭用のとっておきだから、譲れないんだ、スマンね」
「ちぇっ」
「っていうか、お客さん達、いい豚を生みそうな豚を選びに来たんだろう?」
「そうだった。あははは」
「でも、今回譲ってもらう分も、そのうち食べるから、やっぱり美味しそうな豚も欲しいです」
 と、シャルロット。
「そうだよねー。あ、この子豚なら美味しくなりそう」
 ついには子豚まで見分け始めた。但し『いい豚を生みそうな』ではなくて『美味しくなりそうな』豚限定な辺り、やはり食いしん坊マーちゃんであった。
「ふかふかで可愛いっ」
 子豚を愛でまくるシャルロット。あまり可愛がると、将来辛いかも、と少々心配になったエーディットであるが。
「あ、大丈夫です。マリーさんが鶏絞めるのとか、偶に見かけますし」
 それとこれとは別問題、らしい。
「どうじゃろう、払える代金は変わらぬが、道具の手入れや石組みの補修、力仕事なぞさせて頂く故、出来るだけ良い豚を選んでは頂けぬかの?」
 ついでに、実際に使われている柵や小屋を見せて頂けたら重畳、とヘラクレイオス。主人も、それは助かる、と言って、その後は2人で石組みや補強の事など、専門的な話になった。

 翌日、ユリゼと美沙樹は用事があると連れ立って出かけ、ヘラクレイオスは牧場の手伝い。エーディットは以前仲良くなった子供達に囲まれて、マートは食べ物を求めてどこかへ去っていった。エリザは友達の家へ遊びに行っている。シャルロットとラテリカは、村を散歩していた。シャルロットは、農村の風景が珍しいのかしきりと辺りを見回していたが、少し落ち着くと、意を決したようにラテリカに向き直った。
「あ、あのっ、前から聞こうと思ってたんですけど‥‥年、おいくつですか?」
「ラテリカですか? 14歳ですけど」
 ラテリカ、人間のシャルロットに合わせて答える。
「でも、結婚されてますよね? 旦那様は‥‥」
「23歳です」
 はし、とシャルロットはラテリカの手を取った。
「ああ、あの、今度ちょっとゆっくりお話聞かせて頂けません!?」
 年上の旦那様を捕まえる方法などひとつ。何だかんだで、結構必死なシャルロットだった。

「おかわりー」
「ふふ、お若い方は、沢山召し上がりますのね」
 ノエミが、嬉しそうにスープをよそる。
「素朴な味付けが、とっても美味しいよ」
 夕餉の時間。次から次へと食べ物を片付けていくマート。他所の家だろうが、聖なる母の館であろうが、食べ物を前にした彼に遠慮の文字は無い。
「それは良かった‥‥あら、ヘラクレイオスさん、ワインのお替りはいかがです」
「おお、かたじけない」
 こちらも、酒には目がないようだ。
「昼間は、本当に助かりましたもの。遠慮なさらないでくださいまし」
 自分の信仰は『大いなる父』、ここは『聖なる母』という違いはあれど、同じく主への祈りの場たる教会にただで泊まるのは心苦しい、ということで、ヘラクレイオスは道具の修繕や手入れ、建物の補修など、普段行き届かないところの仕事を一手に引き受けていた。手先が器用で力もあり、様々な工作に通じたヘラクレイオスである。最近思うように体が動かなくなったというノエミには、有難い手助けであった。

 出立の日、豚を引き取りに、牧場まで馬車を引いて行った。本格的に目利きが出来る者が居なかった為、最終的には、主人の人柄を信じて、見繕ってもらうこととなった。
「あれ?」
 マートが首をかしげた。
「これ、聖夜祭用じゃないのかい?」
 マートが『美味しくなりそう』と評した1匹だった。
「いやさ、何だかんだで、随分手伝ってもらって、助かったからなぁ。お礼だよ」
 主人が照れ臭そうに頭をかいた。
「あんた、腕が良いんだな」
「いや、こちらこそ。長年の経験からの、貴重な工夫を見せて貰った。今後の参考にさせて頂こう」
 どうやら、主人とヘラクレイオスとの間で、柵や小屋の工作談義が盛り上がったらしい。お陰で良い豚も譲って貰えて、言うこと無しだ。
「お姐ちゃんも、ありがとな、助かったよ」
「どういたしまして」
 美沙樹も、暇を見つけては手伝っていたようだ。
 そうして、若豚6匹、子豚2匹を引き取って、一行は村を後にした。
「また来年‥‥でしょか?」
「そうね」
 エリザは、一度だけ振り返ると、少し寂しそうに笑った。

 帰り道は、馬車は豚に負担を掛けないよう、ゆっくり進ませて、人はその周りを歩いたり、飛んだり、ロバや馬に乗っていた。
「さぁシャルロット姫、こちらへどうぞ」
 馬上から、ユリゼが手を差し伸べた。
「この子、ユリゼさんの馬だったの?」
 往路では、静かに馬車の後ろから付いてきていた馬。
「そう、ポワールっていうの」
 そう言って、シャルロットを引き上げ、2人乗り。
「ふふ、宜しく、ポワール。ユリゼさんって、馬も乗れたんだ‥‥ホントのホントに、王子様ですね」
 はしゃぐシャルロットであるが、ユリゼは実は内心冷や汗である。
(「ゆっくり、ゆっくり歩いてね!」)
 出発前にもテレパシーでお願いしてある。
 実は、ユリゼの乗馬は村にいる間に美沙樹に特訓してもらったにわか仕込み。まずは、美沙樹の伊吹に乗って、その後ポワールと練習。短時間集中練習のためちょっとしたスパルタで、実はそこここが痛かったりする。本人曰く、生業の剣術指南よりは大分優しいとのことだったが。
(「普段、どんな教え方してるんだろう」)
 くすくす笑っている美沙樹を横目で見つつ、何となく溜息のユリゼであった。
「ユリゼさん‥‥ありがとう。前にも行ったけど、私遠出って初めてだから、楽しみだったけど、結構不安で‥‥でも、ユリゼさんやエーディットさんやラテリカさんや‥‥皆さんが来てくれて、すごく心強かったんです。私、本当に狭い世界しか、知らないから、少しずつでも、色んなもの見ておきたかったの」
 成程、とユリゼは思った。色んな物を見たいと思ったのは、遠くへ旅立った人に、少しでも追いつきたかったからなんだろう。

 その後、馬車から飛び出した豚をラテリカがスリープで捕獲するという1幕もありつつ、無事にパリに到着した。
「それじゃ、豚を届けに行きましょう」
 どうやら、豚はパリで数日預かって貰った後、エテルネル村へと運ばれるらしい。豚を積んだ馬車は、ガタゴトと通りを抜けてゆく。
「‥‥あれ?」
 何人かが、はて、と思った。この道は‥‥
「やっほー、アデラ姉ちゃん」
 ブンブン。木臼の上から、マートが手を振った。
「皆さん、お疲れ様ですの」
 家の前で待っていたのは、一部で有名なお茶会ウィザード、アデラ。豚は庭に放して欲しいと言われ、冒険者達が豚を移動させている間、シャルロットは、事務的な話の為に家の中へ招かれた。
「‥‥あれ? そいえばシャルロットさん、アデラさんのお茶のこと、知らない‥‥でしたっけ?」
 ラテリカの呟きに、冒険者達がしまった、と思った次の瞬間。
 ―ガチャーン‥‥
「シャルロットさん、どうなさいましたの?」
 陶器の割れる音と、アデラの心配そうな声。かくして、雑草茶の被害者が、また1人誕生したのであった。