悪魔よりの招待状
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:09月08日〜09月15日
リプレイ公開日:2007年09月18日
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●オープニング
ノックの音に、黒髪の男が顔を上げた。
「‥‥どうぞ」
10ヶ月に渡る予言騒動が収束して、1月が経った。被災地の復興はほぼ問題なく進み、反旗を翻した領主達には、順に処分が下されている。ノルマン王国は、ひとまずの平穏を謳歌していた。
しかし‥‥首謀者である自称『恐怖の大王』アガリアレプトは姿を消し、旗印としてまつりあげられたノストラダムスの『本物』もまた、見つかっていない。そのため、戦いに関わった者達は、釈然としない気分を抱えたままでいる。
「入ります」
王宮の一室。中央に置かれた机は、山と積まれた羊皮紙に埋もれていた。
「先日の件ですか? ヴィクトル」
緑分隊長フェリクス・フォーレは、副官が手にしている新しい紙の束に視線をやった。
部屋にフェリクスしか居ないことを見て取ると、ヴィクトルと呼ばれた男は、ドカリと椅子に腰を下した。
「ああ。ノストラダムスの件だ」
この1ヶ月、王宮はアガリアレプトとノストラダムスの探索にあたってきた。大量の誤情報入り乱れる中で正しいものを拾い集め、徐々に本体に迫りつつある。しかし、今ヴィクトルが手にしているのは『本物』に関する情報ではない。
「間違いなく偽者だ。‥‥そして、それ以外の情報は、正しかった」
先日、緑分隊宛に投書があった。パリから2日程離れた村に、ノストラダムスを名乗る男が現れた、という内容である。それまで手にしていた正しいと思われる情報と、あまりに相違しているため、即座に誤情報だろうとされた。しかし、投書の冒頭が‥‥
「『親愛なるブランシュ騎士団緑分隊と戦乙女の皆様へ』‥‥ですか。全く‥‥」
村の位置と名前が具体的に書かれていたことから、フェリクスは隊の者を調査に送った。その結果が、シフールにより届けられ、今ヴィクトルの手に握られている。
2週間程前、汚い身なりの男が、数人の供を引き連れて村近くの洞窟に住み着いた。不審に思った村人達を代表して、村長の息子ジェフが出向いた所、男は『ノストラダムス』を名乗ったのだという。田舎の村にも、デビルと結びついたノストラダムスの悪名は届いていたため、村長は即座にパリに通報しようとした。しかし、それを止めたのは、事情を聞きに行ったジェフ本人だった。彼曰く、ノストラダムスは、自分はデビルに利用されていただけであって、本当はずっとノルマンを救うべく奔走していた、先日の騒ぎでやっとデビルの元から逃れここまでやって来た、と語ったという。もし王宮に見つかったら、宗教裁判に掛けられ恐らく生きてはいられない、デビルに見つかったら、再び利用されかねない、とも。村長達が対応に悩んでいる間に、ノストラダムスに同情したらしいジェフは洞窟に通い、他の村の若者も引き込んで、世話を焼くようになった。ジェフは元から同世代の者達からの人望が厚く、彼の言う事は、仲間には無条件で信用されているらしい。
状況が変化したのが、緑分隊の騎士が調査に訪れた翌日。ジェフを含め、村の若者10数名が、洞窟へ向かったまま帰らなくなったという。村長の家からは、大量の食料と油、斧が持ち出されていた。騎士達が洞窟に踏み込むと、そこは既にもぬけの空、最奥には、カードが一枚残されていた。
『親愛なるブランシュ騎士団緑分隊と戦乙女の皆様へ』
投書と同じ冒頭。すなわち、同一の者が書いたということ。
『上の洞窟で待っている』
『上の洞窟』とは、山道を半日程登った所にある洞窟らしい。一昔前に作られたものの、作りが不安定で崩れる危険があるため、今では使用されていないとのことだ。入り口は1ヵ所、再奥は、高い天井に穴が開いていて、地表とつながっているらしい。
「間違いなく、アレですよね‥‥」
報告書を読み終えたフェリクスが、深く溜息をついた。
「アレだな」
ヴィクトルも上に同じ。
「こんな面倒な手続きを踏んで、私達を呼び出すところが、実にアレっぽいですよね」
「堂々と人質取ってます罠張ってます宣言をした上で、来い、だからな」
「手下の下級デビルなんかも、とっくに補充してあるんでしょうねぇ」
「だが、行かない訳にも行くまい」
「ええ、勿論。しかし、私も他の隊員も、無論あなたも『本物』の対応で忙しいのですから、あまり人手は裂けません。ですから‥‥」
『本当に戦乙女隊を設立してみる気は無い?』
以前、言われた言葉を思い出し、くすり、と微笑む。
「別の方々に、お願いしましょう。幸いというかなんというか、呼び出されているのは、緑分隊だけではないようですので」
●リプレイ本文
「‥‥お前の事だから大丈夫だとは思ってるが‥‥あまり無茶はしてくれるなよ?」
「ええ。‥‥ね?」
リリー・ストーム(ea9927)のねだるような上目遣いに、セイルは小さく溜息を吐いた。2人の顔がそっと近づいたので、皆で礼儀正しく背を向ける。
「気をつけて‥‥」
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)を見送るジラルティーデも、心配で堪らないようだ。‥‥この人達、何か大きな事をやらかすんじゃないだろうか、と。
「ロジェです。宜しくお願いします」
「ラザール‥‥です」
現地に着くと、緑分隊の騎士が挨拶に来た。
「村の皆さんお待ちかねです。大変不安そうだったので、戦乙女隊のお話をしておきました。ちょっと大袈裟に」
爽やかに、ロジェが笑った。そんな訳で、村の集会場で彼らを待っていたのは、期待と憧憬の眼差しだった。
「パリを悪魔の手から救ったんですって」
「綺麗ねぇ、皆」
それらを正面から受け止めて、リリーが、堂々と、優しく微笑む。
「私達が、あなた方の大切な人を連れ戻しますから安心して」
村人達が大変盛り上がった事は、言うまでも無い。
村は困窮はしていなかったが、男手が減って難儀しているようだった。
「ジュスト、アルマン‥‥」
ジェラルディン・ブラウン(eb2321)が、消えた青年達の名前と特徴を聞き出し、綴っていく。
「この忙しい時期に‥‥非常識極まりないわ!」
農家の娘・レティシアは、かなり憤慨しているようだ。
「大体そんな感じですな」
リディエール・アンティロープ(eb5977)の描いたジェフの似顔絵を見て、村長。
「所で、お前さんも戦乙女隊の一員、で? はて‥‥」
ぎくり。
「男性のようにお見受けするが‥‥男装されているのかな?」
「い、いえ、正真正銘男です。その、色々とありまして‥‥」
その後、全力で『色々』を誤魔化したリディエールだった。
翌日。
ロスヴァイセとミューゼル以外の動物を村に預け、サクラ・フリューゲル(eb8317)はリスティア・バルテス(ec1713)から聖剣「アルマス」を、リスティアはリディエールから鳴弦の弓を借り、装備した。
「レティシア‥‥ミューゼルに色々積みすぎじゃありません?」
「そうかも。ちょっと整理するわ」
まるごとさんとか巫女装束とか。
「これは、預けておくさね」
ライラ・マグニフィセント(eb9243)が、ブラッドリングとローゼン・クランツをロジェとラザールに手渡した。デビル魔法に対抗する為の道具である。
「ありがとうございます」
この2人は、村の警護に残る事になっている。
「あなた方に、戦乙女の祝福を」
祈りを捧げるジェラルディン。くす、とロジェが笑った。
「言うだけならタダ、ですか?」
「良く分かってるじゃない」
ジェラルディンも笑う。
「ええ。でも、ありがとうございます。皆さんのご武運を祈っています」
「お気を‥‥付けて」
騎士達が揃って礼をとった。
半日程山を登ると、洞窟の入り口が見えてきた。
「うわ、インプがうようよ‥‥皆、大丈夫かい?」
「‥‥ええ」
そう言いつつも、肩で息をしているポーラ・モンテクッコリ(eb6508)。ウィザードやクレリック‥‥体力の乏しい者には、山登りは辛かったようだ。
「ミュウ、よろしくね」
レティシアはミューゼルとテレパシーを繋ぎ、リリーはロスヴァイセに跨る。
「ロスヴァイセ‥‥悪魔と戦う力を、私に貸してくださる?」
リスティアがライラに、サクラが自分にレジストデビルを掛けた。
「それじゃ、行こうかね!」
ライラが疾風の如く駆け、正面からスマッシュを叩き込み、次いで止めを刺した。サクラもアルマスを振るってインプを屠る。
「戦乙女隊、見参! セーラ様の名の下に!」
リスティアは高らかに宣言すると、鳴弦の弓を構えた。
―ビシィッ!
弦打ちの音に、デビル達の動きが鈍る。空中のインプをリディエールのウォーターボムとリリーの槍が落し終わると、レティシアの石の中の蝶が動きを止めた。
「最初に、1匹蝙蝠に化けて中に逃げたわ。私達が来たことは、もう伝わっているわね」
とジェラルディン。
「ええ‥‥急ぎましょう」
リリーが飛翔し、その後をミューゼルが駆けた。
「これで、デビルは入って来ません‥‥少しの間、ですが」
サクラが入り口をホーリーフィールドで封鎖する。ポーラはデティクトアンデットを発動。そして、ライラを先頭に洞窟へ入った。ジェラルディンの持つランタンが、壁に7つの影を作っている。
「‥‥油?」
漂う匂いに、レティシアが顔を顰めた。
「森には、切り株がいくつもあったな。こんな所で火事を起されると、やっかいなのだね」
ライラが言い、リディエールが立ち止まった。
「あれは‥‥」
「どうなさいました?」
サクラが尋ねる。
「何か、積んであるようです」
進んでみると、切り倒されたままの木が、数10メートルに渡って出鱈目に転がされており、その上にたっぷりと油が撒かれていた。
「全て濡らすのは、少々手間ですね」
溜息混じりに、リディエールがウォーターボムを放つ。
―ゴゴ‥ゴ‥‥
「!」
「何、この音‥‥」
周囲を見回すレティシア。
「そういえば、ここ地盤が不安定らしいわ。大きな衝撃は、危険かも知れないわね」
ポーラが更に耳を澄ませる。
「‥‥!!」
「これ‥‥」
レティシアも気付いた。
「やだ‥‥人の、息遣い‥‥弱い‥‥」
呟くと、丸太を踏み越え、油で滑りそうになりながら奥へ踏み込む。
「今の所、近くにデビルはいないわ」
デティクトアンデットを発動し続けているポーラがそう言ったので、他の面々も後を追った。
「酷い‥‥」
呟いたのは、誰だったか。
横穴のような、小さな部屋に、文字通り、人が積み上げられていた。
「‥う‥‥」
「まだ息があるわ!」
ジェラルディンがリカバーかける。しかし、回復する様子は無い。
「まさか、デスハートン?」
生命力を盗み、通常では回復しないダメージを与えるデビル魔法。
「11、12‥‥1人足りないな」
ライラが、一番上の男を抱え上げ、床に寝かせた。このままでは、下敷きになっている者が苦しいだろう。
「ジェフさんが見当たりませんね」
似顔絵と見比べながら、リディエール。
「奥にいるのかもしれません」
サクラが2人目を下ろし掛けた時。
「デビル! この大きさは‥‥インプが一匹!!」
ポーラが叫ぶ。同時に、洞窟の奥がぽうっと明るくなった。
「火が!」
炎は木々の表面に塗られた油を舐めるようにして、あっという間に広がった。
「放火インプに当たれ!」
「ぎゃっ」
レティシアのムーンアローが届いた先に、灰色の肌が現れた。
「早くしないと、通れなくなるのだね」
ライラが口元を覆った。バチバチと、小枝の爆ぜる音がする。
「私はここで火からこの方達を守ります」
「私も残るわ、行って!」
ジェラルディンとリディエールに頷き返し、他は奥へ駆けた。
ジェラルディンはデビル襲来に備えてヘキサグラム・タリスマンに祈りを捧げ、リディエールは慎重にウォーターボムを放つ。高速で水を発する魔法。大量の水は地盤を緩ませ、その上での高速による衝撃は、乱発すると洞窟の崩落を招く。しかし、部屋には、わざとであろう、大量の藁が敷いてある。引火したら終わりだ。
「ネルガル‥‥またややこしいことを‥‥」
リディエールは、ギリ、と奥歯をかみ締め、ウォーターボムを放った。
「あ‥‥煙‥‥が‥‥」
うっすらと意識の残っている村人が、混乱を起こしかけている。
「神は自らを助ける者を助けるのです。必ずや加護があります」
ジェラルディンが焦る内心を隠して、堂々と言い放った。弱り切った今の状態で暴れたら、最後の体力まで使い果たしてしまうだろう。
「その証拠に、私達戦乙女隊を下されました」
生木の燃える煙が、部屋を満たしつつある。
(「速く‥‥ッ」)
2人同時に、仲間達を想った。
「もう、しつこいわね!」
ロスヴァイセに乗ったリリーが、インプを叩き落す。レジストデビルを纏った彼女には、インプの爪も魔法も効果を持たないが、とにかく数が多い。どうにか一通り掃討すると、地面に空いた穴の淵‥‥洞窟の奥の真上に当たる部分に、そっと降り立つ。イリューシエルの槍に銀のネックレスでヘキサグラム・タリスマンを巻きつけると、地面に突き立て、祈りを捧げた。
(「さっさと終わらせて、セイル君の所に帰るんだからっ」)
ライラ達は燃え始めた木の間を抜け、奥の部屋へ辿り付いた。
天井から円く光が注ぐ、その向こう。深くフードを被った者が座り、両脇に男が2人、立っていた。
「ノストラダムス‥‥?」
ライラが呟く。
「違うわ。ねぇ、ネルちゃん?」
ポーラが、キッと、入り口脇を振り返った。
「アタリ‥‥何だ、ネルちゃんって」
灰色の羽が、次いで肩が、腕が現れ‥‥やがて、ネルガルの形を取った。
「3人しか減らなかったの。せっかくの囮だったのに」
「やはり、貴方が村の人たちを‥‥」
サクラの、柄を握る手に力が込もる。
「あれ、新顔だね。‥‥そう。言いくるめて君達に向かわせても、どうせ説得されるのがオチだろう? だから、足手纏いになってもらおうと思って。魂も手に入って両得だしね。貰った魂は、消費させてもらったよ」
「何てことを! ‥‥人の心に付け入る貴方達を私は決して許さない‥‥セーラ様の名の下に、この世界から立ち去りなさい!」
「そうよ! 人をあまり舐めるんじゃないよ! 国王様もあたし達も! あんた達なんかに屈さない。あんたもアガリアレプトも尻尾を巻いて地獄に帰りなさいよ!」
リスティアも、ネルガルを睨みつけた。
空気が、張り詰める。
(「ミュウ?」)
(「モウスコシ、マッテ‥‥」)
小さく頷くと、レティシアが一歩、進み出た。
「これって、結局貴方の私怨よね?」
「そうだね、新顔その2」
「誰が『その2』よ! ‥‥じゃなくって。工作員が任務より私怨を優先するのだから、貴方の上司に同情するわ」
(「敵は、ゆっくり穴の真下の方へ歩いているわ」)
ネルガルの注意を引きながら、テレパシーで位置関係を伝える。
「別に、アガリアレプト様には暫く好きにしろって言われてるし」
「それって、体の良い厄介払いじゃないかしら?」
「‥‥五月蝿いな」
ネルガルは座った者のフードを掴むと、バサリ、と引き剥がした。
「ジェフさん‥‥!」
ポーラが目を見開いた。ぐったりとして、力の入っていない体。ぼんやりと開かれた目。
「とりあえず、意趣返しが出来ればそれでいい!」
ネルガルの爪が、ジェフの首筋を掠めようとした、その瞬間。
―ビシッ
鳴弦の弓が鳴いた。
一瞬鈍った爪の先を逸らすようにして、ライラがネルガルに飛び掛り、隠しナイフを振り上げた男の腕を、サクラが斬りつけた。
「あ!」
取り落としたナイフを、もう1人が拾い、振り上げる。間に合わない、皆がそう思った次の瞬間、男は全身を氷に包まれた。
「ま‥間に合っ‥‥ケホっ‥‥」
部屋の入り口、消火を終え駆け付けたリディエールが、肩で息をしていた。
「うわっ」
ライラがバランスを崩す。抑えていたネルガルが、蜂に変じて脇を抜け、天井を目指した。
「ミューゼルっ、お願い!」
レティシアが叫んだ。
力強い、純白の羽。天からペガサスが降下し、ネルガルを不意打ちのホーリーフィールドで包もうとする。無意識可の、本能的な抵抗を受け失敗するが、その一瞬の動揺が、隙を生んだ。
―ガキィン‥‥ッ!
大天使の槍が、地面に突き刺さる。辛くも避けたネルガルだが、動揺の為か、変化が解けた。
「今日こそ決着を付けてあげるっ!」
光の中、もう1頭のペガサスに乗り、ふわりと降り立つ。その姿は、伝説に聞く戦乙女そのもの。リリーは刺さった槍を引き抜き、構えた。
ネルガルが後退るが、背後ではライラがティワイズを構えている。仲間は、1人は氷つき、もう1人はサクラが取り押さえている。身代わりや透明化は探知される。天井を窺うと、既にホーリーフィールドが張られているようだ。爪で破ることも出来るが、その隙に攻撃されるだろう。
―ビシッ
弦の音が、煩い。煩い煩いうるさいうるさいウルサイウルサイウルサイウルサイ‥‥
「‥‥く‥‥そおおぉぉぉぉ!!」
デビルが塵と消えた跡には、大量の白い玉が残された。村人達の生命力だ。
「これ‥‥どれが誰の物とか、見分け‥‥付かないよな?」
ライラが溜息を吐いた。腕に負った火傷は、ネルガルの最後の抵抗だが、ポーラのリカバーで跡形も無く消えた。
「最後の最後まで迷惑なデビルですわねっ」
倒れたネルガルの胸を、最後に貫いた槍を引き抜きながら、リリー。
「とりあえず、早く出たほうが良さそうだわ」
ポーラが耳を澄ませる。
「地鳴りが、少しずつ大きくなってる‥‥崩れるかもしれないわね」
「そういう事は、早く言って欲しいのさね!」
急いで魂をかき集め、ジェラルディンのところへ戻る。ペガサスに積んだり担いだりを繰り返し、何とか崩落前に全員を外へ連れ出すことには成功した。
「デスハートンから回復するには、魂を飲み込むしかないの。飲み込めたらその人の魂ね」
ジェラルディンの指示の元、片端から魂を押し込んだ。
一通り魂を戻し、体力をリカバーで回復させ、全員村まで辿り着くと、冒険者達は揃ってくず折れた。
「‥つ‥疲れたわ‥‥」
体力的にも精神的にも。リスティアが肺の奥底から溜息を吐いた。
「色々と予想外でしたしね‥‥」
リディエールが苦笑した。
「でもま、何とかなったから良いんじゃない」
結果オーライよ、とジェラルディン。
「そうですわね。‥‥本当に」
家族と帰還を喜び合う村人を見て、サクラが微笑んだ。
「皆さん、お疲れさまでした。男2人の身柄は、こちらで預かりますね」
ロジェが言い、ラザールがペガサスから縛り上げられた彼らを積み降ろした。
「そういえば‥‥」
レティシアが、バックパックを探った。
「これ、大分余っちゃった」
透明デビル対策に買った小麦粉。
「それじゃあ、あたしがケーキでも作るさね。全部終わったら、そうする約束だったのだね。村の人達にも振舞えるかな」
「あら、良いわね。私はその席で舞を披露しますわ」
「リリー殿の舞かあ。楽しみだな」
と、ライラ。
「でも、全部明日にしましょう」
ポーラの言葉に、皆頷いた。今夜はゆっくり眠りたい。既に真夜中ではあるけれど。
言葉巧みに騙されたジェフは、仲間達とノストラダムス(ネルガル)の世話をしていたが、騎士が到着した日に生気を奪われた。ジェフに化けたネルガルは青年達に道具と食料を集めさせ、上の洞窟へ移動させた。そこへ着いた時点でネルガルは正体を現し、動けないジェフを人質に取って木の伐採や運び込みを行わせた後に生気を奪い、小部屋に放置した。「ノストラダムス」に付いていた2人の男は悪魔崇拝者であった。
以上、後の事情聴取によって判明した事件の真相である。