これがフジョシの生きる道
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月16日〜09月21日
リプレイ公開日:2007年09月24日
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●オープニング
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―ザザ‥ン‥‥ザザ‥‥ン‥‥‥
海と空と月と。それが、夜の全て。
岬の果て、それらに背を向け、向き合うのは1人の男。
月影と潮風に少し目を細め、しかしその眼光はくすむ事なく、ただ真直ぐにこちらを射る。
‥‥老けたなぁ、コイツ。
ふと浮かんだ言葉に、苦笑する。
そう、彼は人間だ。時間からも見放され、海を翔けることしか知らぬ、自分とは違う。
初めてまみえたのは、何時だったか‥‥もう、覚えても居ない。
今まで、追手はいくらでもやって来た。その殆どはこの手で海に沈め、残りは早々に諦め陸に上がった。
彼だけが、しつこく何時までも追ってきた。
「明日だ」
まだ、あどけなさを残した、少年の頃から、ずっと。
「明日、仲間の船が迎えに来る。‥‥捕まえて、牢に放り込んでおくなら、今のうちだよ、伯爵様?」
『伯爵様』。あのガキが、今ではこの港一帯を治める領主となる程の、時間。その眼差しは少しも揺らぐ事なく、ただ、こちらにあり続けた。
「偉大なる国王陛下の領海に仇なす海賊の首領、のさばらせておくのは、都合が悪いのではないかな?」
少し、からかってみる。あまりにしつこいから、面倒になって、もういっそ捕まってやろうかなんて、気紛れに考えたこともあった。けれど‥‥
「今、私1人暴れた所で、そなたを捕える事など、出来まい‥‥1人で来るなど‥‥迂闊だった」
けれど‥‥何時だって、最後の詰めが甘いのだ。
「ま、そうだけどね」
呆れて、肩をすくめる。こんな調子のうちは、捕まってやる訳にはいかない。
「まだまだ、長い付き合いになりそうだ」
立ち尽くしたその横を通り抜けると、港街の賑やかな明かりが目に付いた。栄えた港は、彼が領主として無能では無いことを物語っている。
「どこまでも、追って来い」
その命の全てを賭けて。その眼差しを逸らす事無く。
呟きは、届く事無く夜に溶けた。
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「カ、カーラ‥‥」
頭髪の少々寂しげな中年男が、ぷるぷると震えながら若いウェイトレスに声を掛けた。
「はい? 何ですか、エジットさん」
エジット・デコス。この酒場『蜜蜂亭』の店主である。
「今、お客さんに『物語の続きは何時になるか、分かります?』って聞かれたんだけどね」
「あらら、すいません、エジットさんに聞いても分からないのに‥‥あ、あのお客様ですね、今行きます」
「そうじゃないっ」
「へ?」
「そうじゃなくってね! 『物語』っていうのは、例の、その‥‥アレだろう? この前、そういう物語は、内輪だけの楽しみにするって、約束したじゃないかっ」
「ああ。大丈夫です、あのお客様も『内輪』ですから」
「彼女はうちの店員じゃないだろう? 新しく読者を増やすのは‥‥」
内輪で済ます事にはならないじゃないか、と続けようとしたのだが。
「いや、読者としては新規さんですけどー、趣味としては、元からっていうか」
「‥‥へ?」
「だから、彼女も元からそーいう物語を内輪で楽しんでたらしくって。偶然私達がそーいう話をしていた所に反応してくれて、で、仲良くなったんですよね。勿論『約束』をする前ですよ? 約束してからは、店でその手の話はしてませんから」
「‥‥は?」
「私達みたいな集まり‥‥つまり同好会がいくつかあって、やっぱり皆内輪で楽しんでて。彼女を通じて、他の同好会紹介してもらって、作品交換したりして、交流してるんです。だから、新たに世間に広めた訳じゃないんです。元からあった『内輪』で交流しあってるだけ」
「ってことは、パリには他にも‥‥」
「同好の士って、意外と多いんですねぇ」
うふふ、と笑うカーラを見て、エジットは血の気が引いて行くのを感じた。
「知ったところでどうにかなるものでは無いのです‥‥むしろ、心労が増すばかりかとも思うのです‥‥」
翌日、冒険者ギルドにはエジットの姿があった。
「どうしたら良いのか分かりません。知らなかった振りをした方が良いのかとも思いました‥‥でも、彼女達がどういった相手と関わっているか、把握しておいた方が、まだ‥‥まだマシなのかと」
よよよ、と泣き崩れる中年男。何も知らないと、想像は膨らむばかり。程度を知っておけば、まだ安心できるかもしれない‥‥勿論、逆の―あまりの規模に絶望する―可能性もあるが。
「お願いします。他の『同好会』について、調べては頂けませんか?」
●リプレイ本文
蜜蜂亭の奥の席。金髪のエルフが、傍らに聖書を開き、何やら羊皮紙に綴っている。
(「ああ、美形は良いわぁ。夢が膨らむ」)
「カーラ、手伝って〜」
同僚に呼ばれ、場を離れる。戻って来たら、彼は帰った後だった。
「卓の上に何か‥忘れ物かね。戻って来るかも知れないから、片付けて仕舞っておくれ」
エジットに言われ、机を拭きがてら回収した。羊皮紙が1枚。何気なく文面に目を走らせて、彼女は目を見開いた。
「これ‥‥」
「お待たせしました」
「彼女の手に渡ったかしら?」
店主の部屋。シュネー・エーデルハイト(eb8175)が、ともすれば冷ややかにも聞こえる、静かな声で尋ねた。
「はい。目を通していたようです」
「そう」
そっけない。
「あの、今日の御用は?」
『同好会』の活動内容は昨日説明してある。その反応が、
『‥‥くだらない‥‥非生産的で何の意味もない活動ね‥‥。こんなもの放っておいてもいいのだけれど、それが依頼なら調べておくわ‥‥本当にくだらない‥‥』
という風だったので、彼女は悪風に染まるまい、と安心して事を任せてある。
「例の物語を借りようと思って」
「ええっ」
「資料として、よ」
「あ、そ、そうですよね」
彼は、動揺した自分を恥じた。鑑賞用な訳無いではないか。
「でも、私は持っておりません」
「‥‥えっ」
気のせいだ。がっかりしているように見えたのは、気のせいだ。
「仕方が無いわね。理解しないと調査が出来ないのだけど」
「内容に関しては、昨日お話した通りで十分かと‥‥」
「ね、念には念を入れるものよ。まぁ、無いなら仕方無いわ」
残念そうに見えるのは気のせいだ、とエジットは自らに言い聞かせた。
「これ、今月の分ね」
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)は、吟遊詩人ギルドを訪れ、収入の1割を納めると、人を探した。
「ラーエルさん」
「あら、こんにちは」
20代も後半と思しき女性が、レティシアを見て微笑んだ。
「お願いがあるの。この間、皆で話をしていた時、男性2人の思い出話に『あの夜のことですか‥‥』『若さゆえの過ちというヤツです』っていう言葉が出たの。そうしたら、回りのお姉さん達が盛り上がっていたんだけど、私にはよく分からなかったわ。そういう事について、教えて貰えない?」
レティシアは、真摯にラーエルを見つめ、
「っあー‥」
ラーエルは視線を泳がせる。
「あなたには、まだ早いような‥‥」
「その理由では納得できないわ。今、知る必要があるんだもの」
依頼解決の為に。
「‥‥敵わないわね。でも覚えておいて。これは、陽の元では語れない類の物語よ。宗教的に、生理的に、嫌悪する人も多い」
しかし、一部にとっては、忘れられぬ蜜の味。だからこそ、彼女達は集い、ひっそりと居場所を作るのだ。それが、特殊な趣味を持つ婦女子達の生きる道。
「まあ、教えるからにはがっつり教えてあげましょう」
鳴風に跨った羽鳥助(ea8078)が、のんびりと道を行く。
「お、ミカエルさーん」
蜜蜂亭から出てきたミカエル・テルセーロ(ea1674)に声を掛けた。
「よう、1人で散歩? それとも予言の後始末の見回りかな。良かったら乗ってく?」
これ、何気にナンパだなぁ、と心中苦笑の助。
「ありがとうございます」
2人で笑交わすと、助がミカエルを引き上げた。
「わっ」
よろけた振りで身を寄せ、ミカエルが囁いた。
「僕の前に店を出た人です」
「了解っ」
カーラと接触していた例の客らしい。2人は、聞こえよがしに言葉を交わす。
「ミカエルさんは、馬扱えるんだっけ?」
「いえ、からきしです。助さんみたいに乗りこなせたらいいのに」
「んじゃ、ちょっとやってみる? そう、背筋はまっすぐな。足で胴を挟んで‥‥っと、危ない」
「あ、ありがとうございます」
「いや。‥‥さっきも思ったけど、軽いなぁ。さすがパラ。あれ? ちょっと顔赤いな。風邪?」
「いいえ。その、ちょっと近‥‥わっ」
「っと、どうした、鳴風? 普段はこんなに揺れないんだけどな。あ、そう言えば鳴風に俺以外の人乗せるの初めてなんだよ」
じっ、とこちらを伺っていた少女が、思わず、という風に駆け出した。
「え、何で?」
見失わないよう、さり気なく馬を進める。暫くして、彼女は、小さく、しかし優美な家へ駆け込んだ。
『ちょっと、皆すぐ来て、今蜜蜂亭の前に‥‥あ、こっち来た』
『わ、可愛い』
『子供同士も良いね〜』
『私はもちょっと年上が好みかなぁ?』
『きゃっ、異種族ね?』
『子供同士って、攻受が見分けにくいわ。無邪気属性同士だと特に』
『だがそれがいい』
『対等☆な感じが可愛いじゃない。それからの事は、ふ・た・り・で勉強して行くのよ♪』
「少し休憩しようか」
「お願いします。習ったことを書いておきたいですし」
家の前で馬を止めた。窓から、扉の隙間からの熱視線に、2人は身を震わせた。幸か不幸か、助には会話内容まで分かってしまう。
「声の感じだと、若い女の子が4人、かな」
家の中に聞こえないように囁いた。
「分かりました。ここは全員黒、と。人数と家の場所と、扉のあれ、紋章でしょうか? それも写しておきますね」
ミカエルも囁き返す。
怪しまれてはいけないので、ミカエルが写し終わったところで馬を再び進め、その場から離れた。
「人間のもうそ‥‥想像力って凄まじいよな。怖いよ」
「そうですね‥‥」
「‥‥こんな所かしらね」
一通り説明を終えたラーエル。
「あの人が受けでその人は攻めなのよね?」
窓の外、道行く男性2人組。
「‥‥見分けが付かない」
「ある程度年季が必要かもね。それに、今のは私的に、であって、人によっても意見が分かれるわ」
「自分なりの感性で読取ればいいのね?」
真剣に頷くレティシア。
「そう。でも、主張の相違は、時に人間関係も壊すから、慎重にね」
「はい。奥深い道なのね。出来ればもっと勉強したいし、発表会なんかがあるなら参加してみたいわ。そういう集まりがあれば、口を利いてもらえない?」
頼むと、ラーエルの瞳が真剣な光を帯びた。
「さっきも言ったけれど、閉鎖された世界なの。私は知識はあるけれど、特別好みではないから深い関わりは持たないわ。‥‥いいこと? 知ることと、嵌ることは違うの。後者は、引き返せない人だけが歩む茨の道よ」
後輩を、自分の手で泥沼に落す訳にはいかないという。
(「自分で接触するしかないわね‥‥」)
「そういえば、さっき言ってた『男性2人』って誰だか聞いて良い?」
「緑分隊の隊長と副隊長よ」
絶句したラーエルに礼を言って、ギルドを後にした。
「おお、ご苦労さん」
森羅雪乃丞(eb1789)が、助の忍犬銀河を撫でた。彼らが調査した『生息地帯』数ヶ所を記した紙を銜えてきたのだ。
「じゃ、早速」
記された家の前で商売道具を広げる。
「あら?」
珍しい風体の男に、女性が足を止めた。
「何をしているの?」
「はじめまして。ジャパンの占い師、雪乃丞と申します」
彼は、今後占いの店を開くことになっており、宣伝の為あちこち回っているのだ、と説明した。
「只今キャンペーンとして無料で占いサービスを行っています。美しいお嬢さんの行く末をボクに見せていただけませんか?」
スッと手を取り、上目遣いに瞳を見つめる。
「えっと‥‥」
美しいと言われて嫌な訳はないし、大抵の女性は占いが好きだ。
「あああの、今あの家に友達が集まっていて‥‥皆の分も占って貰えない?」
掛かった! 心の中で拳を握り、雪乃丞はにっこりと微笑んだ。
「喜んで」
閉店後の控え室。カーラは、先程回収した羊皮紙を同僚達と覗き込んでいた。それは、ある修道士エルフの独白、という形の物語。
「何か」
「うん、何ていうか」
同じ修道院の、人間の金髪美形青年への慕情と、神に対する罪の意識が、切々と語られている。また、修道院での生活も、随分具体的に記されている。
「想像だけで、こんな書けないよね」
「じゃあ、やっぱりあの人聖職者なんだ」
末尾に『エドガー』の署名。
「実話‥‥なのかな?」
「だったらこんな所で書く?」
ひそひそと囁き交わしていた処、
「貴方達がヘンな活動をしているという輩ね」
声を掛けられて、ビクっと振り返った。
「何の事でしょう、お客様? こちら従業員室ですので‥‥」
「惚けても無駄よ。噂は聞いているもの」
シュネーは、すたすたと部屋に入り、卓上の羊皮紙を手に取った。カーラが書いた『今日の分』である。
「こんなものの何が‥楽しいの‥‥かしら‥‥わからない」
呟きながら、目を通す。
「あの‥‥」
しゅん、としたカーラが、羊皮紙を返してもらおうと、手を伸ばす。しかし、それは避けられた。
「ま、まだ途中よ」
「へ?」
一通り読み終え、顔を上げたシュネーが一言。
「‥‥ねえ、この前の分は‥‥?」
「は? あ、今ちょっと人に預けていて‥‥」
「じゃあ、次はないの‥‥?」
「へ?」
「この2人どうなるの? 結ばれるの?」
「ええ? まだ執筆中で‥‥」
「いつ出来るの?」
「ええと‥‥とりあえず、次は明日に‥‥」
「とりあえず? 結末は?」
「そ、それは、当分先かと‥‥」
「どうして!」
「仕事が‥‥」
「そんな事している場合じゃないでしょう!!」
バンッ、と卓を叩く音が、静まり返った部屋に響き渡る。ぽかんとする店員達。
「‥‥ふふっ」
やがて、一番年嵩とおぼしき女性が吹出した。
「明日の集まり、彼女も一緒に行きましょう。きっと、良い仲間になれると思うわ。お名前は?」
「シュネー」
「よろしくね、シュネーちゃん」
にこ、と微笑み交わした時。
「すみません」
ノックの音と、男性の声。
「どうぞ?」
「失礼します」
「あ、エドガーさん‥‥」
カーラが呟いた。
「ああっ、その名をご存知という事は‥‥読んでしまったのですね‥‥」
がっくりと肩を落すエルディン・アトワイト(ec0290)。
「あの、エドガーさんって、教会の方‥」
「はっはっは‥‥まさか」
「でも、妙に詳し‥」
「人伝に聞いた知識です」
「っていうかこれ自伝‥」
「いやいやいや。単なる趣味の創作ですよ。はははは。私はノーマルです」
男性のそういう趣味持ちは珍しいのだろう。伺うような視線が、ぶすぶすと突き刺さる。
(「うう、視線が痛いです」)
「その『集まり』とやら、彼も連れて行ってあげたら?」
シュネーが進み出た。
「でも‥‥」
「ただでさえ異端な趣味なのに、男だったら、それ以上に孤独なんじゃない?」
「ええ、ええ。そうですとも‥‥そんな趣味とは誰にも言えず‥‥ああ、勿論皆さんも黙っていて下さいね?」
ここぞとばかりに同情を引く。
「そうね‥‥じゃあ、明日の夕方」
場所を告げられ、今日は解散。
「あ、シュネーさん、それ返してくださいね」
羊皮紙を持ち帰ろうとして、見咎められたシュネーであった。
昼時、まるごとやきさんのドワーフが忙しく働く食堂の奥に、冒険者達が集合していた。周囲から少し離れたこの席は、レティシアが店主に口をきいて確保したものだ。
「ここが、今日の集会場所です」
エルディンが、地図を指示した。
「昨日見つけたのとは別だな」
「私とエルディンが呼ばれているわ。レティシアは、友人として紹介するわね」
「雪乃丞さんも、上手く招待されたようですね」
先程届いたシフール便を、ミカエルが広げた。
「‥‥? レティシアさん、どうしました?」
じっと見つめられて、ミカエルが首を傾げた。
「ミカエルさんと助さんだったら、助さんが攻めかしら。無邪気攻めね」
「げほっ」
助がパンを詰らせた。
「概ね同意ね」
シュネーが頷く。
「ちょ、2人とも何言って‥‥」
「知識の実践だから、気にしないで」
「そういえば、そもそも何が気に入らないのかしらね、彼‥‥」
彼、というのは依頼主。首を傾げるシュネー。
「面白そうな活動なのにね」
同じくレティシア。
「なんか、女の人が‥‥わからなくなってきましたよ、僕は」
思わず遠い目のミカエル。
「あ、そうだ‥‥シュネーさん、この紋章ご存知ですか?」
レティシアと何やら盛り上がっているシュネーに、昨日書き取ったそれを見せる。
「見たこと無いわ。そんなに有名なものじゃ無いと思うけど」
「そうですか、良かった」
大物貴族が関わっていたりしたら、それこそ国の行く末が本気で心配だ。
(「流石に別室か」)
通された部屋を見回す雪乃丞。先程から少数ずつ入って来ては、占いを聞いてゆく。例の活動は、他の部屋で行われているらしい。仲間も来ているから、そちらはそちらで上手くやるだろう。自分は自分に出来ることを。
「ところで、お嬢さん方は、皆大きな秘密を共有している‥‥違いますか?」
「えっ」
「ずっと『秘密』のカードが続いているのです‥‥いえ、詮索はしません。ただ、秘密を持つ女性は美しいと‥‥」
詮索しないと言いつつ、推測した情報―繋がりや規模等―をさり気なく示し、反応を見て正解か否かを推測し、会話を誘導して、情報を引き出す。
「ああ、貴女の手はなんて美しい。触れる事を許された僕は、幸せ者です」
(「仕事で演技だからな」)
微笑みながら、心中で言い訳を紡ぐ。
(「また顔に『変態ナンパ』なんて書かれたら叶わねえ‥‥ま、俺は年齢的にツボから離れてそうなのが唯一の救‥」)
「あの占い師さんは、割と受けっぽいよね」
びしっ‥‥扉の向こうの噂に、全身固まる雪乃丞。
(「しかも受けかよっ」)
女子の妄想力、侮るべからず。
各人の調査の結果、確認出来た同好会は4つ。それぞれ5〜10人の集まりであり、会同士で作品の交換や交流会が行われている事が分かった。
報告を受けたエジットは、少し安心したようだ。思った程の規模では無かったのだろう。
「ただ、これはカーラさん達が積極的に交流している会の数ですので、パリ全体では、もっと潜在しているかも知れません。そして、どうやら、この4つの同好会に便宜を図っている‥‥パトロン、のような存在が居るようです。こちらは特定する事が出来ませんでしたが」
「うっ‥‥」
ミカエルの言葉に、顔を引きつらせるエジット。
「‥‥あのさ、エジットのおっちゃん、俺思うんだよ。世の中には知らなくて良い事もあって、知ったら見ないフリをして記憶の彼方へ追いやるのも、生きる為には必要なんじゃないかって」
ぽむ、と肩を叩く助。それは、今回彼自身悟った事なのだろう。
「そう‥そうかも知れませんね‥‥」
後日。
「ねぇ、続きはまだ?」
蜜蜂亭に通うシュネーの姿と、
(「あの2人なら、金髪が上で‥‥っは、私は一体何を!?」)
お姉さん方と濃ゆい会話をした挙句、色々身についてしまったエルディンと、
「素敵な依頼を紹介してくれてありがとう」
と笑顔で告げ、エジットに泡を吹かせたレティシアの姿が確認された。
そして。
「は? 受ナンパ? あれは仕事だ、演技だ! ってーか何で知ってんだー!」
雪乃丞の自宅から、悲痛な叫びが聞こえたとか、聞こえなかったとか。