末子は女性恐怖性
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月28日〜10月03日
リプレイ公開日:2007年10月06日
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●オープニング
「たたたたた‥‥たーすーけーてーくださーいいぃ」
がしっ、とカウンターにしがみついた、必死の形相の若い男。受付員は思い切り仰け反った。
「ど‥‥どうされました? とりあえず、落ち着いて‥‥」
「ううううぅ‥‥実は、父が勝手にお見合いの話を持って来まして‥‥」
『いつも、街道沿いの案内と護衛を頼んでいる人なんだけどね、とても気が良くて、腕の立つ、素晴しい人なんだ。聞けば、年頃の娘さんがいるそうじゃないか。あんな人の娘なら、さぞかし、しっかりとして気立ての良い娘さんだろうと思ってね。あちらはまだまだ嫁にやる気はないみたいだし、色々事情もあるらしいから、それでもいい、ただ、会ってお見合いをしてくれるだけで良い、とお願いしてきたよ』
「気立てが良いとか悪いとか気が強いとか弱いとかじゃなくてですね、僕は、女性っていうものが、全部纏めて怖いんですっ」
「じゃ、じゃあ、つまりお見合い自体を壊せば良いってことですか?」
「それもダメなんです〜‥‥」
へにゃ、と崩れ落ちる。
『お前は、私の跡取りだ。いいか? 商人が、女性が怖いなんぞと言ってはいられない。どんな相手にだって、愛想をふりまかにゃ仕事にならんのだ。今回の事は、良い練習だと思いなさい。ふつーに挨拶して、ふつーにエスコートして、ふつーに会話して、ふつーに食事をとって、ふつーに送ってさしあげればいいのだ』
「その『ふつー』が、僕にはどれだけ高い壁か‥‥」
『相手は、私にとっても大切な人の娘さんだ。もし、途中で逃亡したり、粗相があって相手を不快にさせるような事があったら‥‥』
「あったら?」
受付員が、先を促す。
『一番上の姉の所へ、暫く預けることにする!』
「‥‥それが、何か?」
「何か? じゃないですよう。僕が女性がダメなのは、全部全部、姉達のせいなんですっ」
彼は、5人姉弟の末っ子だという。彼以外は全て女性で、生まれた時から、それはそれは可愛がられたそうだ。本当に、濃ゆい、濃いーぃ『愛情』を注がれ続け、すっかり女性恐怖性に陥ったのだという。
「具体的に、どんな感じに?」
「毎日毎日、代わる代わる世話を焼いていくんですよ‥‥」
『女は悪魔よ。貴方のような可愛い子、油断したらあっという間に餌食になって、お・わ・り。‥‥良い? 私たち以外、誰にも気を許しちゃ駄目なのよ?』
『どこにも、どこにもいっちゃだめぇ‥‥貴方は、ずうっとずうっと私といっしょにここで暮らすの‥‥ね‥‥聞いてるぅ?』
『あ、なんて服着てるのっ。そんな色に合わないわっ。すぐさま着替えなさい‥‥こらっ剥かれたくらいで、男が悲鳴上げないのっ。素っ裸でも堂々としてるくらいの気概をお持ちっ‥‥ほ〜ら、よく似合うわ。流石私のウィリーだわっ』
「特に長女は‥‥」
『‥‥ん? これくらい避けなさい男でしょ。じゃあ、今度は後ろから教われた場合ね。へ? 鼻血? そんなもの気合で止めなさい。さ、掛かっておいで!』
色々思い出したらしく、ずしーん、と沈み込むウィリー。
「正直言えば、お見合いなんてすっぽかしてどこまでも逃亡したい‥‥でも、姉の所へ行くのはもっと嫌です。ようやく、全員嫁に行って平穏な生活を手に入れたのに‥‥。宜しくお願いします‥‥助けて下さい」
●リプレイ本文
「天羽 奏(eb2195)だ。宜しくな」
「バードのウィルシス・ブラックウェル(eb9726)です」
挨拶を受けたウィリーは、椅子を倒して立ち上がった。腰が引けている。理由を察したウィルシスは、ウィリーの手を取り、引き寄せた。
「言っておきますが、僕は『男』ですからね?」
ぺたり。
「ホラ、男でしょ?」
胸にあてがわれた手。その感触は、女性ではありえない。多分。
「あ‥‥」
くたり、とウィリーの全身から力が抜けた。
「頼れるタフガイの僕と違って、ウィルシスは女顔だからな」
「‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥あのさ、沈黙するくらいならいっそツッ込んでくれないか2人とも」
「ご、ごめんなさい」
ウィリーが恐縮する。大変男らしい溜息を吐いた奏は、実に女顔であった。
2人とも男だと認識したウィリーは、心の底から安堵したらしい。肩の力を抜いて居住まいを正した。
「初対面から、失礼しました。ウィリー・アルヴィナです。見て貰った通りの体たらくですが‥‥が、頑張ります」
「うん、何とかしような。僕は頑張るヤツが好きなんだ」
「そうですね。少なくとも今回のお見合いがきちんとエスコートできるよう、頑張りましょうね」
頷く奏と微笑むウィルシス。
「今までご苦労なさっていたようで‥‥お察ししますが、でもホラ、世の中そんな怖い女性ばかりじゃありませんからね? 歩み寄りもしないうちに、そんな態度を取っていたら他の女性にも失礼です」
「はい」
ウィリーの表情が引き締まった、が‥‥
「準備、出来たかな?」
がたんっ‥ずざざざざ‥‥ドカガッ!
竪琴を抱えたジュエル・ランド(ec2472)の入室に、立ち上がって後ずさって背を強かに打ちつけた。
「ぅあぁあぁぁああ」
「なっ‥‥ウチ、外見12歳やで。それでもダメなんか?」
「とりあえず、外に出てくれ」
奏はジュエルを遠ざけると、ウィリーの横にしゃがみ込んだ。
「ううう、一番下の姉が、僕に自分のお下がりを着せて連れ回したのは、姉が12の時でした‥‥あのはっきりした物言いも、そっくりで‥‥」
「落ち着くんだウィリー。大丈夫、ここはお前を苛める姉達はいないんだから、な」
布で汗を拭ってやる。
「はい‥‥」
「その様子だと、街を歩くのも難しいのでは?」
何せ、通りを歩いている人の半分は女性である。
「普段は覚悟を決めて外出しているので、近寄らなければ大丈夫です。安心している所に不意打ちされると混乱してしまうんです」
行く道はなかなか険しいようだ。奏とウィルシスは決意新たに頷き合った。
「やれやれ‥‥重症だな。トラウマとは厄介なものだ」
「そうですね。女性に対する先入観を転換させられると良いのですが」
ドアの隙間から中の様子を伺っていたアフリディ・イントレピッド(ec1997)とブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)。
「本っ当に根が深いんやね。同情するわ」
退室したジュエルが腕を組む。
「姉連中と早めに引き離さなかった親父殿にも多大な責任があると思うんだが」
ちらり、と一緒に様子を伺っている父親に視線を向ける。
「はあ‥‥それは重々。ただ、妻が早くに亡くなりましてな。私も外出の多い身でして、自然、世話を姉達に任せてしまい、気付いたらこんな状態に‥‥」
彼女達に、苛めているつもりは無いのだ。好意の行動だからこそ難しい。父親がしまったと思った頃には、既に姉達が梃でも弟の側を離れなくなっていたのだという。
「4人とも、嫁に行かせるのに苦労しました」
「普通、男親は嫁ぐのを止めるものだと思うのだがな‥‥」
「ウィ‥ルシス‥‥さん? ですよね」
「はい。使用人の方々や、仲間にも手伝って頂きました」
真紅のローブに、長いスカート。胸にはローズ・ブローチがキラリと光る。髪は上品に纏め、程よく化粧まで施されていた。
「まずは女装の男から慣らしていこうってことだ」
奏は貰ってきたハーブティーを嗜みつつ、静観の構え。
「宜しくお願いいたしますわね」
女性口調で、おっとりと微笑んだ。
「あの〜、メロディーは強硬に抵抗されてまうと効果無いんやけど‥‥」
ウィルシスとの会話練習中、依頼人をリラックスさせるべく、物陰に隠れて歌っていたのだが。
「しかし‥‥女性の歌声が聞こえてくると‥‥つい」
「せやかて、声出さんと発動せんしなあ‥‥」
どないしよ、と溜息のジュエルであった。
メロディーは一旦止めて、会話練習再開。
「私相手なら、大丈夫みたいですわね」
時々、動作や言葉が固くなるものの、さほど苦しげな様子は無い。
「はい。男性だと分かってますから‥‥その、あんまり綺麗なんで、少し緊張してしまいますが」
世間一般だと口説き文句に相当するが、この場合の『緊張』は『恐怖』とも言い換えられるそれだ。
「良くお似合いですけど‥‥嫌じゃ、ありませんか?」
「この格好で、舞台で歌った事もありますもの。徹底的に化けてしまえば、さほど抵抗はありませんわ。妙な噂が立つのは困りますけど。‥‥もし妻と‥あ、義兄にバレたりしたら‥‥」
心なしか青ざめるウィルシス。
「だ、大丈夫です、他言しませんから! それに、男だとはバレません。絶対です!!」
そこまで言い切られるのも、男としてちょっとどうだろう。
「使用人連中にも固く口止めしといたから、安心しな」
奏も外野から声を掛ける。
「さて、ウィルシス相手なら、もう大丈夫みたいだな。次行くか」
「あたしの出番かな」
入って来たのは、男物の礼服を纏った小柄な人物。
「アフリディだ。宜しくな‥‥って、大丈夫かい?」
ぴきん、と固まっている。女装男性と男装女性の間には、超えられない壁があるようだ、ウィリー的に。
「でも、普通の男と女より、男装と女装の方が距離は近い筈だ」
「先程のようには、叫ばれませんでしたし」
「だな。ほんの少しだが、前進しているぞ」
「とりあえず、出来る所まであたしと話をしてみようか」
そして数分後。部屋の隅で膝を抱えるウィリーの姿があった。
「男性なんだと、思い込んでやり過ごそうとしてしまうんです‥‥」
それすら、完全には成功していない。
「自分を誤魔化していただけじゃ、その場凌ぎで根本的解決にはならないのに‥‥」
目の淵が赤い。自分でも悔しいのだろう。
「大丈夫だ」
奏が、とんとん、と背中をさする。汗を拭ってやり、温めのハーブティーを差し出した。
「男と思い込めば良い。とりあえず場数を踏むんだ。でも、彼女は間違いなく女だ。終わった後で、それを思い出せ。そして、女と接する事が出来たことを確認しよう。そうやって実績を積んでいけば、自信に繋がるだろ?」
「はい」
目元を擦って、頷くウィリー。
「よしっ。前進しようとするヤツは、報われる。僕はそう信じている」
「奏さん‥っ」
そのまま2人夕日に向かって走り出しそうな雰囲気である。ただし、昼下がりなので不可能だ。
「いいお天気‥‥」
その頃、ブリジットは街を歩いて当日のエスコートコースを思案していた。午前中の様子を見るに、ウィリーは基本的には穏やかで優しい性格のようだから、のんびりしたコースがいいだろうか。
「やはり、セーヌの畔は外せませんね」
秋の陽光が、きらきらと水面に映える。
「次は『蜜蜂亭』に行ってみましょう」
雰囲気が良いと評判の酒場だ。店主に事情を話しておけば、当日のサポートも期待出来るかも知れない。
「初日お疲れさん、どうだ、男どもだけで近くの酒場に行かないか? 頼れるお兄さんが奢ってあげようじゃないか」
奏13歳。ウィルシス16歳。ウィリー20歳。
「‥‥‥」
「だから、黙るくらいならツッ込めと言っている」
「で、でも頼れる、のはその通りです」
結局飲み代は年長者かつ依頼主のウィリーが、本人たっての希望で持つことになった。
蜜蜂亭にて。
「僕には実兄と義兄が居ますが‥‥実兄は姉のようでもありますね」
微苦笑のウィルシス。
「まあ、僕も姉という生き物には弟として含むところもないではない」
ワイン片手に頷く13歳。
「何だか‥‥こうやって愚痴を聞いて貰えるのって、良いですね」
その晩、ほんのり酒の入った3人は、愚痴も含め、互いのきょうだいの話で盛り上がった。
2日目。昨日よりは女らしい服装のアフリディが、午前中の特訓相手だ。
「うん。叫ばず、逃げず、よく堪えていると思うよ」
元来無愛想な性質のアフリディであるが、なるべく優しい言葉を選んで話しかける。
「あとは表情かなぁ」
逃げ出したい気持ちがありありと表れている。
「は、はい‥‥」
無理に笑おうとすると、口元が引き攣る。
「昨日は、もう少し柔らかかったような気がするんだが」
「それは、男性だと自分に言い聞かせていた為で‥‥」
今日の格好では無理だ。
「でも、昨日も今日も同じあたしだ。きっと大丈夫だ」
「はい‥‥」
「あたしの次は、ブリジット殿だからね。とりあえず、3時間、エスコートすることを目標にしていこう」
「ん〜、結構いい感じじゃないの?」
「そうですね」
傍から様子を眺めつつ、奏とウィルシスはゆったりとお茶をしていた。お茶が出来るほど、平和だとも言い換えられる。
「それでは、宜しくお願いしますね」
きりりとした略装のブリジット。2人並んで家を出る。『2人並んで』というのが、既に奇跡だ。昨日の夕方も、お見合いコースの確認に出かけたのだが、どうにも半径5歩以内に近づけなくて難儀したのだ。今も思い切り冷や汗をかいているのが、気になるところではある。
「収穫祭も近づいて、街が活気付いてきましたね」
「はい」
「ウィリーさんはパリでお育ちですか?」
「ええ」
「それでは、パリのお話をして差し上げると良いかもしれません。色々と珍しいでしょうし」
「あ、成程‥‥」
「一見イイ感じやけど、エスコートするんじゃなくて、されとるな。そこらへんが課題やね」
空中から様子を眺めつつ、ジュエルが呟いた。
3日目。
「さあ、仕上げだ」
奏に背中を押され、1歩踏み出す。目の前には、可愛らしい服装のブリジット。
「コースは昨日と同じやさかい、今度はあんさんがエスコートするんやで」
「頑張りましょうね」
たおやかに微笑むブリジットに、固い表情で頷き返す。
「お疲れ様でした」
夕刻、玄関に膝を付いた奏を、ウィルシスが支える。
「時々、危うい感じはしましたが、きちんとエスコートして下さいました」
蜜蜂亭で夕食をとり、預かった金で明日の支払いも済ませたという。勿論、当日の給仕を男性に頼むことも忘れずに。
「ブリジットさんは、姉達とは違って‥‥穏やかで、品が良くて‥‥何ていうか、大分、楽でした」
楽、といいつつ、肩で息をしている。それでは『姉達』はどれ程なのか。怖くなるので、一同は想像しないことにした。
そして当日。
「お前は頑張った。本当に嫌なことなのにまっすぐに立ち向かった。結果がどうなろうとお前は僕たちの誇りだ」
奏の激励を受けて、ウィリーは彼の戦場へと旅立った。後をこっそりと付ける冒険者達。
「相手が、ウィリーの頑張りを笑うような奴だったら、あいつを任せられないからな」
そう言って様子を伺う。お見合い相手の名はアメリー・コスト。特に美人ではないが、しっかりした雰囲気の、気立ての良さそうな娘だった。
親も含めた簡単な挨拶を終え、いよいよ若い2人だけでのデートとなる。
「姉達は、しっかりと引き離したのだろうな?」
2人を見送り、アフリディは父親に確認を取った。
「はい。どれも今商用で遠方に。その機会を狙って、日を調え‥」
「お父さんッ」
言葉を遮って、店に飛び込んできた女性。
「な、何でお前、パリに‥‥」
「ウィリーがお見合いするって聞いて、飛んで帰ってきたのよ!」
外から馬の嘶き。本人も肩で息をしている。
「何で知っ‥」
「商人の情報網! ああ、話してる場合じゃない。今すぐ連れ戻すわ、何処へ行ったの」
走り出した進路を、アフリディが塞ぐ。
「行かせんよ、長女殿」
彼女は、予め姉達の容姿の特徴を聞いていた。
「なっ‥‥誰よ」
「ウィリー殿は、そちらの過保護のせいで、大変な目に遭っているのだ。それを克服するために機会を、邪魔させる訳にはいかんな」
「なっ‥‥私達が悪いっていうの? ウィリーはねっ、とっても体の弱い子だったの! お母さんはウィリーが生まれてすぐ亡くなって‥‥私達、ウィリーまで連れて行かれてしまったらって、心配で心配で‥‥」
「たとえ愛情からであっても、ウィリー殿は困っているんだ」
睨み合う2人。長女が拳を、次いでアフリディがローズホイップを、構えた。
そして数分後。
「はーなーしーてー‥‥」
ホイップに絡め取られ、ずるずると引き摺られてゆく長女の姿があった。
「素人にしてはやるじゃないか」
所詮冒険者の敵ではないとはいえ。頬のかすり傷を拭って、アフリディが呟いた。
「結構イイ感じやないの?」
「今の所順調みたいですね」
並んで歩く後ろ姿からは、ウィリーの絶望的な女性恐怖性の様子は見て取れない。緊張している様子はあるものの、きちんと会話も続いているようだ。
「くっ‥‥成長したな。僕は嬉しいぞ」
「女装までした甲斐がありました」
「パリには、1度来てるんですけど、その時は見て回る余裕が無くて。だから、とっても楽しかったです。ありがとうございました」
夕刻。アメリーを宿まで送り、中に入るのを確認してから家路を辿り、最初の角を曲がった所で、がくりと膝をついた。隠れて様子を伺っていた冒険者達が駆け寄り、近くの階段に座らせてやる。
「お、終わ‥た‥‥」
緊張の糸が切れたのだろう。ぶるぶると震えだした肩を、がし、と奏が掴んだ。
「恐怖に堪えて、よく頑張った、感動した!」
「お疲れ様でした。お相手にも楽しんで頂けたみたいですね」
「奏さん‥ウィルシスさん‥‥ありがとうございますうぅぅ」
讃え合う彼らを、少し離れて女性陣が見守っている。
「蜜蜂亭の連中が見たら、大騒ぎしそうな光景やなぁ」
「なぜ蜜蜂亭? まあ、兎に角、成功して何よりだ」
あの姉の所に送られては、かなり気の毒だからな、とアフリディ。
「これが良いきっかけになるといいですね」
ブリジットが微笑んだ。
「正直、まだ女性は怖いです。でも、少しずつでも、普通に話せるようになりないと‥‥今は思っています。皆さんのお陰で」
ウィリーは照れたように笑った。
「これ、うちの商品ですが、良かったら。収穫祭が終わったら、あっという間に寒くなりますから」
毛糸の手袋。アルヴィナは、布や衣服を扱う商家である。じっと手袋を見つめたブリジットが、おもむろにそれを付け、片手を差し出した。一瞬びくり、としたウィリーだが、思う所を察して、おずおずと手を出す。
「いつか、手袋越しでなく、握手が出来ると良いですね」
「はい‥‥っ。本当に、有難うございました」
家族以外の女性と初めて握手を交わすことの出来た感動にうっすら涙ぐみながら、ウィリーは頷いたのだった。