フィディエル祭の娘達

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月10日〜10月15日

リプレイ公開日:2007年10月15日

●オープニング

  むかぁし、むかしのことだった。
  ある一族が住処を求めて旅をしていたところ、とても美しい湖に辿り付いた。
  彼らは、ぜひ、その湖から流れ出る川の下流に村を作りたい、と話し合った。
  すると、湖から、それはそれは美しい少女が現れた。
  少女は言った。
  わたしはフィディエル。この湖の精であり守護者。
  わたしの水の恵みを受けたいと思うのなら、わたしを今宵一晩中楽しませておくれ。
  旅人達は話し合った。
  そして、楽器をかき鳴らし、一族の乙女達を着飾らせ、湖の畔で踊らせた。
  フィディエルは喜んだ。
  しかし、旅に疲れた乙女達は、夜中を過ぎると、次第に手は上がらず、足は動かなくなっていった。
  次第に不機嫌になってゆくフィディエルを見て、彼らはまた話し合った。
  そして、とうとう最後の乙女が座り込んだ。
  フィディエルは言った。
  これで終わりかえ。こんなことでは、水の恵みは与えられぬ。
  旅人達は言った。
  いや、まだだ。
  そうして再び音楽をかき鳴らすと、再び着飾った者達が現れ、踊った。
  乙女はもう居ないはず。
  よく見ると、それは乙女のように着飾った若い男達だった。
  彼らの姿は滑稽であったが愉快で、フィディエルは大いに喜んだ。
  若者達は、朝まで力強く踊り続けた。
  そして、フィディエルは彼らに水の恵みを約束した。
  旅人は村を作り、村人となった。
  その後、その村は小さくはあれど、水の恵みを受けて、平和で豊かな村となった。


「‥‥というのが、村に伝わる昔話だそうです」
 冒険者ギルドにて。若いエルフと、受付嬢が向かい合って座っていた。
「はあ」
 生返事の受付嬢。どこからつっこんだものか。
「それ以来、村では収穫祭の一環としてフィディエル祭というものを行う事になったそうです」
「フィディエル祭?」
「はい」
「水の恵みと、それをもたらす精霊に感謝して、乙女に扮した若者達が一晩中湖の畔で踊り明かす祭です」
「‥‥は? それってつまり女装舞踏大会?」
「まあ、そのようなものですね」
 エルフが微苦笑する。
「しかし、この祭、近隣の村々ではなかなか有名らしく、沢山の見物客が訪れるのだそうです。人が集まると、物が売れます。村の貴重な収入源になっているのですよ」
「成程」
「しかし、ご存知の通り、村は今年の夏、ゴブリンに占拠されて‥‥」
 表情の乏しいエルフが、目を伏せた。
「若い男達は、一様に怪我を負いました。もう、普通に動けるようにはなっていますが、一晩中踊り明かす事が出来る人は、多くありません」
「でも、多くないってことは、皆無ではないんですね?」
「はい。‥‥しかし‥‥早めに回復出来た、という事は、つまり体が頑丈という事で‥‥」
「あ、みんなものごっつい、ってことですか」
 ゴツい漢どもが女装して踊り明かす宴。‥‥どんな悪夢だ、それは。
「祭が盛り上がる為には、そういう人も必要なのですが。それだけ、ではちょっと‥‥」
「まあ、そうでしょうねぇ」
「古くから伝わっている祭りですし、楽しみにしている人も多い。どうにか、人を集めてもらえませんか? その、内容が内容だけに、少々頼み難いのですが‥‥」
「大丈夫です。パリはそういうの得意な人多いですから」
「‥‥は?」
 さらりと言われた言葉に首を傾げる。
「それから、その年、一番美しいとされた人には『フィディエル祭の娘』と呼ばれ、一応商品も出るようですので。‥‥あと何かしらのパフォーマンス等して頂いても喜ばれます。歌とか手品とか」
 一通り説明すると、レオンはギルドを後にした。
「でも、人が集まんなくても、レオンさんが女装すれば一発解決だと思うんだけどなあ‥‥」
 無駄に麗しいエルフの背中を見送りつつ、受付嬢が呟いた。

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3499 エレシア・ハートネス(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb9726 ウィルシス・ブラックウェル(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec1358 アルフィエーラ・レーヴェンフルス(22歳・♀・バード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

「ウィルシスさん!」
 衣料商アルヴィナ家を訪れたウィルシス・ブラックウェル(eb9726)は、事情を説明した。
「バレちゃったんですか!?」
 先日依頼で女装した件。
「ええ‥‥」
 ふっ、と目を逸らす。近所に響き渡った義兄の怒鳴り声とか、その詫び回りに行く妻とか。思い出して遠い目になる。その事で妻に強請られ、祭に出る事になった。
「僕の為にしてくれた事で‥‥」
 縮んだウィリーを見て、彼が見合い相手に零した言葉が、巡り巡ってバレたという事は、黙っている事にした。多分、凄く気にするから。
「えっと、布と組み紐ですね? すぐ用意できます」
「良かった。10G位で足りますか?」
「え、そんなに?」
 この前の恩もあるから、と1Gで材料を渡された。

「シャルロットさ〜ん♪」
 ブラン商会を訪れたエーディット・ブラウン(eb1460)。祭の内容と、小道具を借りたい旨を説明した。
「素敵なお祭りですね!」
「シャルロットさんも一緒に行きませんか〜。待ち人を指折り数えて待つのも良いですけど、気晴らしも必要ですよ〜」
「行きたい‥んですけど〜‥」
 収穫祭を前に、客が多いのだという。
「あの人居ないとちょっと忙しくって。去年よりずうっとお客が多いし」
「残念ですけど、お店が繁盛するのは素敵ですね〜♪」
「えへ。沢山、企画や宣伝をしてもらったおかげです。そういえば、最近、次のイベントはいつかってよく聞かれるんですよね。何でだろ」
「不思議ですね〜」
 先日、勝手に宣伝しまくったことは秘密である。


「フィディエルの加護を受けた村、か‥そう言えば、あのフィディエルとは暫く会ってないな‥‥」
 村を見渡すロックハート・トキワ(ea2389)。湖は、正面の山にあるらしい。
「フィディエルに会った事があるのですか」
 リディエール・アンティロープ(eb5977)は水のウィザード。水のエレメント、フィディエルには興味を惹かれるのだろう。
「ようこそ」
 村長だという男が出迎えに来た。
「必要な物があったら言ってくれ。踊りの練習は、明日の午後からな」
 ふと気になったエレシア・ハートネス(eb3499)。
「村長さんも、踊ったのですか?」
「30年前の『フィディエル祭の娘』は、俺だ」
 黒い髭の口元をにやりと曲げる。
「‥‥時の流れ、か」
「はっはっは‥‥」
 ロックハートの呟きに、村長は豪快に笑った。


「高価な布はいいねえ。ああ、そこはこうやって‥‥」
 パリで購入した生地を手に、衣装作りの手伝いを頼んだリディエール。
「あんた、綺麗だね。レオンといい勝負じゃないか」
 あっという間におばちゃん達に囲まれて、指導を授けられている。
「レオン? 外で捕まってたよ?」

「折角なので〜」
 袖を掴んだエーディット。その腕にはリボンと衣装。
「え、ええと?」
 戸惑うレオン。
「湖の貴婦人風にメイクアップしてあげますよ〜♪」
 じっと顔を見つめる。
「あら‥‥どこかでお会いしましたっけ〜?」

「フィエーラ?」
 ウィルシスの着替えを手伝っていたアルフィエーラ・レーヴェンフルス(ec1358)。
「あ‥何でもないわ」
 レオンに、既視感、のようなものを感じたのだが、遠くて良く分からない。
「本当にお綺麗です」
 マリア・ヴェールを手渡しながら、エレシアが溜息を吐いた。
「はは‥ありがとうございます‥はぁ‥‥」
 化粧は最低限。それでも無問題な女顔。
「祭、楽しみです。これは、以前ブラウンさんから貰ったものです。とても似合っています」
 肩の布をアーモンド・ブローチで留めるのを手伝いながら、エフェリア・シドリ(ec1862)が呟いた。


 湖畔には、小さな祠と簡素な舞台が設えられていた。水面が茜に染まる頃、祭の始まりである。

 舞台に登るウィルシス。下ろした髪は、ヴェールで覆っている。上部を外側に折り返した、白い毛織の布で体を包み、肩をブローチ、腰を組紐で留めた、神殿巫女風衣装。湖を背にすっきりと立ち、横笛を構える。吹き込む息が細い筒を震わせ、ゆらりゆたう水のような、穏やかな調べが流れた。曇りない音。湖面渡る風が、曲に合わせる様に時折ヴェールや衣装をゆらめかせ、ちらりと覗く白い足首や、涼しい目元が悩ましい。
「男なんだよな?」
 目を擦る観客。
 笛が終わると、次は歌。笛に比べてたどたどしいが、水の恵みに感謝し、湖の精を讃える言葉を紡ぐ姿は、その衣装とも相まって、何処か古代風‥人の原初の姿を映しているようにも見えた。麗しき薔薇を掲げ、終幕。
「い、今‥花が見えた?」
 またしても、目を擦る観客達であった。

 シャン‥シャラン‥‥
 きざはしを踏みしめるごとに、アンクレット・ベルが鳴る。髪には新緑の髪飾り。踝が隠れる長衣の上から、もう一枚布を被って前後に垂らし、腰を帯で結んである。淡く染め上げた衣は、森の民の色。2枚の隙間から僅かに覗く肩は細く、腕に絡まる羽衣の如き薄布は、今にも風を孕んでふわり浮かび上りそう。
「あれも、男だよな?」
 竪琴の音。アルフィエーラの指が、弦の上を滑るように動き、夜気を震わせる。その音に、豊穣の歌を重ねるリディエール。
 シャラン‥‥
 少しぎこちないながら、懸命に歌いながら、水際へ。終盤に差し掛かった所で、その体がぽう‥と薄青く発光した。
 歓声が上がる。
 水面を、渡る。ウォーターウォーク。重力を感じさせない動きと、姿。
 シャン‥‥
 鳥が舞い降りるように、水面に跪く。少し遅れて、薄衣が体を覆い隠した。
 これまでの豊穣に感謝を、そしてこれからの水の恵みに祈りを。
「あ‥‥」
 立ち上がると、ふわり、包み込む空気を感じた。それは、馴染み深い感覚‥‥精霊の気配。
「フィディエル?」
 耳元を掠めるように、微かな笑い声が通り抜けた。

 次は踊り。老若男女入り混じって環を作り、踊る。楽に合わせて、笑顔を交して。

「フィエーラ」
「ええ、ウカ」
 手を取って、共に踊りの中へ。

「楽器、お借り出来ますか?」
 エレシアが楽隊に交ざる。小さな太鼓で、繰り返し現れる拍子を刻む。
「楽しい曲ですね」

「ほらほら〜練習したのですから〜」
「練習だけで良いのですが」
 エーディットに手を引かれてエフェリアも環の中へ。
「折角可愛くしたのですから〜♪」
 魔法少女のローブ。誰かに貸すつもりだったのに何故か着せられている。
「派手な色は少し苦手です」
 カラフルなローブの裾を引く。
「よく似合ってるですよ〜。さあ踊りましょ〜♪」
「はい」
 魔法少女の枝を手に、くるり、習ったステップを踏む。足元で、スピネットも一緒に。ローブの裾と、長く真っ直ぐな髪が、ふわ、と広がった。
 ずっきゅーん。
 一瞬にして10歳女児に魅了される半径15m空間。
「皆さん、どうして止まっているのですか?」

「そろそろか」
 すっ‥‥と立ち上がったロックハート。
「‥さて‥‥参ります」
 鮮やかな花舞い散る京染めの振袖。小柄な体に流れる血、その半分の故郷、東洋の衣装。髪に梅枝の簪手に透扇。
「女装では無いが、女らしく振舞えば良いだろう」
 勘違いはご愛嬌。村に伝わるものにジャパン風味を加えて踊る。素朴で元気な踊りの中、静かに滑るように。歩幅は小さく。動きは少なく。それでも、腕を追うように流れる袖が、存在感を醸し出す。見た事のない衣装、踊り。目立っている。目立ちまくっている。優雅にして可憐。ぱらり、広げた扇の向うから寄越される真紅の眼差しは、周囲の野郎連中の何かを、確実に射抜いていった。

 踊って、踊って、皆が疲れ始めた頃、一旦演奏が止んだ。

「ロックハート、行っきま〜す☆」
 掛け声と共に、パフォーマンス開始。さっきとは別の意味で、観客釘付け。
「高ッ」
 ひゅん、飛び上がり。
「早ッ」
 くるくる、回る。

「ロックハートさんが」
 目を見開くアフリエーラ。
「笑っている‥‥」
 呟くウィルシス。
 ―それは、闇照らす陽光の如き。
「ギャップもえですね〜♪」
 うきうきのエーディット。
「もえ?」
 首を傾げるエレシア。エフェリアは、何やら書き綴っている。

「あははははっ」
 輝く笑顔、弾けるステップ、3つの指輪と、金糸銀糸が灯火に輝く踊り子衣装。可愛い。文句無く、可愛いのだが。

「もえ、というかこれは‥‥」
 心なしか顔が青いリディエール。普段のテンションを知っていると、軽く恐怖だ。
「足音がしませんね‥‥」
 飛んでも跳ねても。世界大会があったら、間違いなく優勝候補の忍び足。彼のパフォーマンスもまた、先の2人同様大盛況。

 夜半を過ぎると、いよいよ、男だらけの舞踏大会。村の若者たちは、揃いのリボン。エーディットが結んだものだ。
「あいつ、ハーフエルフ?」
 村娘の衣装に着替え、ヴェールを外し、髪を高い位置で括ったウィルシス。その耳に、注目が集まる。
「あ‥‥」
 しまった、と思ったが、既に嫌なざわめきは広がっていた。
「あ〜‥注目!」
 前に立つ黒髭の村長。
「騒いでんのは、他所のお客さんだな? うちの村には、そんな奴居ないしな」
 観客が、色めきたつ。
「この村は、今年は大変だったんだ。皆でパリに行ったり、戻ったらゴブリンに占領されてたり。その間、ハーフエルフにも、たくさん会った」
 特に、冒険者という人種。
「俺もな、怖いと思ってたよ。でも‥‥」
 彼らが見たのは、ノルマンを守るべく戦う姿や、避難民を助ける姿。コブリンから村を解放しようと戦う姿。
「いい奴も悪い奴もいる。俺たちと同じだ。大体、皆先刻は見とれてたじゃないか」
 にや、と笑われ、赤面して目を逸らす何人か。不満そうな空気はやや残ったが、その場はそれで収まった。
「さ、音楽だ! 楽しませてくれよ」
 合図と共に、音楽が始まる。

「ウカ」
 アルフィエーラが駆け寄った。
「大丈夫。‥‥ここはノルマンだものね。ずっとロシアにいると、つい忘れてしまうな」
 そんな、ハーフエルフの差別される土地で、義兄はずっと妹を守り育てて来たのだ。
「確かに、義兄さんにしたら‥‥僕は面白くないよね」
 少し位、いびられても我慢しようと思ったウィルシスだった。

 その後は、男達が踊る楽しい宴、ではなかった。見る側には、その通りなのだが。
「これは‥‥きついですね」
 息のあがっているリディエール。
「夜明けは、遠そうです」
 精一杯踊っているものの、少し足が上がらなくなってきたウィルシス。
「何気に耐久試合だな」
 ロックハートは、再び振袖に戻り、しずしずと。

 夜が、明けた。
「おめでとう」
 ぽむ、と村長に肩を叩かれたのは、ロックハート。
「皆、迷ってたんだがな。エルフさんは洒落にならんくらい綺麗だったし。でもまぁ、朝まで踊り続けない事にはな」
 足元には、体力が底をついたリディエールがくず折れていた。
「優勝者さんには、キスのプレゼントです〜♪」
 エーディットが前に出た。
「え‥っ」
 ちょっと嬉しそうなロックハート。
 しかし、さあどうぞ、押し出されたそれは。
「ゾウガメのキスなんて、滅多に貰えないですよ〜♪」
「‥‥‥」
 期待させて、落とす。エーディットの得意技。
「あはは、良かったね。村からは、これね」
 村長夫人だという女が、祠の前に立ち、恭しい手付きで、小さな箱を取り出した。
「水妖の指輪?」
「こうして祭りの間祀っておいて、精霊の加護を分けて貰うんだ‥‥あら、お兄さんの指輪、良く似てるね」
 青い石の嵌った、美しい指輪。
「あとはこれ。村の女が当番で編むんだよ。今年は、私の自信作さ」
「‥また女装か?」
 繊細な作りのヴェール。
「あはは‥‥これは女に渡すのさ」
 その年、一番美しいとされた男が『それでも貴女には及ばない』という意味で指輪を贈り、その娘は結婚式でヴェールをつける。水の加護を授かった娘は、幸せになれるとか。
「‥ん? あんた、村長の奥方なんだよな」
 彼は30年前の優勝者であって。
「とりあえず、30年、幸せに暮らしてるよ」
 掲げた左手に古びた指輪。にやり、という笑い方は、黒髭の男に良く似ていた。
「ふむ」
 ロックハートは指輪を見つめ、
「やる」
 ぽす、とリディエールに手渡した。
「俺は持ってるし。贈るあてもない」
 あの精霊は‥‥ヴェールは好きそうだが、同属の加護を受けた指輪を渡すのは、ちょっとどうかと思うし。
「しかし、私も持っておりますし」
「相手と揃いで持つと良い」
 己と最も近しい精霊の加護を、大切な人に。
「そういう相手がいるなら、だが」
「あ‥‥」
 ふと浮かんだ面影がある。しかし、自分がかの人をどう思っているのか、まだ良く分からなかった。

「惜しかったわね」
「う〜ん‥‥そうかな」
 朝日きらめく湖の畔を、並んで歩く。
「ウカも、とっても綺麗だったもの」
 妻に綺麗と称される夫というのもどうだろう、と苦笑するウィルシス。
「君の演奏も、素敵だったよ。その服も良く似合ってる」
 立ち止まり、村の衣装を着けた新妻に向き直ると、両手を取った。
「もうすぐキエフに戻るけれど、離れても、いつも想っているよ。フィエーラ、僕の初恋。君を妻に迎えられて僕は幸せです」
「私も。ウカ、初めて会った10歳の秋からずっと貴方を愛しています」
 細波が寄せる。見つめ合う若夫婦。
 しかし、傍からは女友達か姉妹にしか見えない。何せ、同じ衣装なのだ。


 一晩経って、出立の準備をしていた時。
「皆さん、ありがとうございました」
 女装を解いたレオンが挨拶に来た。
「‥‥あ」
 アルフィエーラが声を挙げた。昨日感じた既視感の正体。
「あ〜」
 エーディットも気が付いた。
「あの‥‥お身内にハーフエルフの方が、いらっしゃいませんか?」
 似ている、のだ。
「は?」
 レオンは、全く心当たりの無い様子。
「さあ? 私は随分前に一族と縁を切っておりますので‥‥」
「お、お子さん‥‥とか」
「あり得ません」
 断じた声には何処か悲痛な色があって、それ以上聞くことが出来なかった。

 冒険者を見送りながら、ふと言われた言葉を思い出すレオン。
『お、お子さん‥‥とか』
 もし、かの人と添い遂げていたのなら。遠い日に思いを馳せる。胸に掛けた指輪を、服の上から押さえた。
「この手が‥‥‥殺した」
 呟く。誰よりも愛した、少女の名前を。

 がたごとがたごと。揺れる馬車の上。
「皆さんお疲れさまです。とても綺麗でした」
 エレシアの悪意の無い笑顔。本気だと分かるから、却って切ない。
「戻ったら、色んな人に見せたいです」
 エフェリアの手に羊皮紙の束。それらに、3人の晴れ姿が納められている。
「記録です」
「え、エフェリアさん、皆さんに見せるのは、ちょっと‥‥」
「大丈夫です。アンティロープさんはいつも女性の服を着ています」
「う‥‥」
 それは、偶然そういう依頼でだけ会っているだけで‥‥でもそういう依頼をこなしているのも事実であって。
「とても似合っていると思います」
「悪気がないってのは怖いな、うん」
 賞品のヴェールを広げながら、ロックハートが呟いた。高く澄んだ空。豊穣を言祝ぐ秋の風が、薄布をふわりと揺らした。

●ピンナップ

リディエール・アンティロープ(eb5977


PCグループピンナップ(3人用)
Illusted by 綾鳥