●リプレイ本文
「ちまこいなぁ」
メンバーを見て、一言。エーディット・ブラウン(eb1460)と陰守森写歩朗(eb7208)を除いた5人の平均身長、約135。
「うちの店員はドワーフの中でも小柄なのばっかりだから、丁度良いかな」
ははは、と笑うヨルゴ。
「ま、まだ伸びます‥‥多分」
シュシュ・ガットー(ec3992)10歳。
「ええ。私達には未来があるわ!」
力強く頷くレティシア・シャンテヒルト(ea6215)とラテリカ・ラートベル(ea1641)。
「そうそう。20までは伸びるっていうし」
『デモ、3年前ト変ワッテナ‥』
「アーシェン!」
言ってはイケナイ。アフィマ・クレス(ea5242)と彼女が操る人形アーシェン。その掛け合いを通訳して貰い、ひっそり涙のリディア・レノン(ec3660)30歳。若さは時に残酷だ。
(「まだ伸びる‥‥だろうけどパラには限界が‥‥」)
心中呟きつつ、希望に燃えるシュシュにはどうも言えないククノチ(ec0828)。それを認める日が来たら、彼は大人になるのだろう。
「ヤギさん、可愛いです」
ウェイトレスにぎゅーっと抱きつくラテリカ。
「うふふ。お客さん沢山呼んで来てね」
「はいです〜」
ぱふぱふと頭を撫でられ、目を細めた。
「まるごと‥これが‥‥」
じ〜っと見つめるククノチ。
「愛らしくはあるが、ノルマンの収穫祭には珍妙な風習があるのだな」
触りたい、けれど‥‥つい、手がわきわき。14歳の無邪気さが、ちょっぴり羨ましい。
「ラテリカ、今回もふぇれっと着るですよー。ククノチさんはどうされるですか?」
「え‥あ、わんこを‥‥」
ぽそぽそ。
「わあ、ククノチさんなら似合いそです」
「そ、そうだろうか」
いそいそと試着。嬉しそうだ。人間の子供用と聞かされて、ちょっと凹むのはもう少し後。
「お願いしますね〜♪」
手紙を託したシフール便に手を振って、練習に戻るエーディット。ラテリカに借りた角笛に挑戦しているのだが、どうも上手くいかない。
「頑張るのです〜」
ひゅい〜‥
か細い音が、通り抜けた。
「え〜っと、明日の昼はここ、夕方はこのコースね」
地図を広げるアフィマ。
「毎日別コースで。女の人と子供が多いのは、やっぱ広場か市場かな?」
その格好はまるごとハトさん。身長的にはドワーフ用ヤギでも問題ないが、横幅が緩いのと、もうひとつ。
「髭は自前なのですね〜」
その髭にリボンを結びながらエーディット。
「出来ました〜」
一般的なまるごとヤギさんには、髭が縫い付けてあるが、この店のヤギさんには、それが無い。ドワーフは、男女共に髭があるから。
「皆さんも、おめかししましょう〜」
エーディットのメリーさんの首には、大きなリボン。
「シュシュさんには、蝶ネクタイですね〜♪」
同じくメリーさんのシュシュ。
「親子さんみたいですね」
呟くラテリカ。大小メリーさん、その身長差頭ふたつ分。
「こんな大きな子供、いませんよ〜」
ぷう、と頬を膨らますエーディット。でも、シュシュの約8倍生き‥‥何でもありません。
しゅたっ!
‥‥ごろん。
くるっ!
‥‥くる‥ごろり。
たしんっ!
‥‥ぐぎ。
『あの、無理はしない方が‥‥』
森写歩朗がリディアを助け起こした。2人の会話はイギリス語。リハーサルで、リディアは森写歩朗の動きを参考に踊っていたのだが、身軽で素早い軽業師の動きには、付いていけない。
『そうね、出来る範囲で踊る事にするわ‥‥』
彼女のまるごとは、ただでさえ動き難い。何せ陸に上がったほえーるである。
「わ、凄いです」
「収穫祭中だから、特に賑やかだな」
パリに出てきたばかりというシュシュを、ククノチがコースの下見を兼ねて連れ出した。
「冒険者ギルドは、そう、あそこだ。あの道を真っ直ぐ進むと酒場が‥‥って、あれ?」
振り返るとそこは空。
「シュシュ殿?」
数歩先の屋台の前で、目を奪われている。
「‥‥あまり、フラフラしないように」
がし、と後ろ襟を掴んだ。
「ご、ごめんなさい」
好奇心旺盛な年頃は、捕まえておくのも大変だ。
花売りを捕まえたレティシア。
「えっと、このお店に、この花と、これも。届けてくれる?」
「はーい。お買い上げありがとう」
お祭だから、と少し色を付け、代金を払った。
ぷお〜〜♪
昼前の街。おや、と足を止める人々。レストランの入口で、まるごとふぇれっとが、オリファンの角笛を高らかに。
「吟遊詩人?」
隣には、リュートを抱えた銀髪の少女。
ジャラン‥‥
器用に弦を弾きながら、広場に向かって通りを歩く。緊張のせいかぎこち無かった指先は、曲が進むにつれて、軽やかに。
てこてこ、もこもこ。
後から、森の仲間‥‥とプラス1。曲に合わせて通りを行進。注目を集めつつ、広場に到着した。
(「すってー‥はいてー‥」)
高鳴る胸に、手を当てるレティシア。
(「1‥‥2‥‥3!」)
いらっしゃいませ あそこは楽しいレストラン
ちょっと覗いてみませんか? まるごとさんのレストラン
歌に合わせて、まるごとさんが踊る。
「一緒に踊ろ!」
見物客の手を取って、ハトさんがくるりと回す。
「収穫祭キャンペーンなのですよ〜♪」
「お、お店でパフォーマンスやりますです。遊びに来てください」
大小メリーさんも元気にアピール。
「なんで、あのおねーさんだけお魚なんだろうね」
「ねー」
魚じゃなくて、ほえーるだけど。子供が首を傾げている。
「ねー‥なんで尻尾が大きいの?」
ずんぐりまるまるなトナカイさんの背中から、リスみたいな、大きな尻尾。
「さあ、どうしてでしょう?」
子供を担ぎ上げながら、トナカイ?さんが笑った。
「トナカイさんは、正体を隠しているのかも知れません」
『尻尾を出』しちゃってますけどね。
ぷお〜♪
再び、角笛。
「お店に行かなきゃ!」
わんこがころころくるりでぴょん。
森の仲間も 海の仲間も 大人も子供も いらっしゃい
収穫祭の楽の音に みんな揃って踊りましょ
歌って、踊って、手を引いて。楽しい歌に連れられてまるごと行列の後を追う。店に入ると、奥にごく簡単な舞台が設えられていた。
ぶおぉ〜〜♪
てっく、てっく、てっく、てっく‥‥
角笛鳴らして、ゆったりステップ。舞台に上がる、メリーさん(♀)。
ぽーぴーぽー♪
後ろにくっつく、子メリーさん(♂)。一生懸命オカリナを、角笛に合わせ鳴らします。
おっと、メリーさん躓いた? 手をぶんぶん。子メリーさんに、ぶつかった。
「ああっ」
ぽーん。オカリナ飛んじゃった!
慌てて追いかけ‥‥すってん、ころりん。子メリーさんも飛んじゃった! ステージ上から真っ逆さま!?
ぽすっ。素早くキャッチ。
「あ! トナカイがリスになってる!」
子供の歓声。これぞ、きたりす忍法速変わり‥‥なんちゃって重ね着。
「大丈夫ですか?」
スリムで大きなきたりすの、右手に子メリー、左にオカリナ。何とも軽々抱き上げて、とん、と舞台に戻します。
「あ、ありがとうございますっ」
ぽーぴーぽー♪
あらオカリナも、無事みたい。
しゅた‥‥くるり。
きたりす宙返り。舞台の上に飛び乗ります。
‥‥ぽぷっ。
大きな尻尾も、一瞬遅れて。
ちゃららん、ちゃららん♪
わんこがてくてく。歩くたび、紐で繋げた木の実のベルトが、秋色の音を奏でます。どんぐりころころ、わんこもころころ。
ぽ、ぽ、ぽ、くるる、くるっぽー♪
ハトさんの鳴き声は、あらまあ本物そっくりだ!
「遅刻しちゃう!」
たっとこ、たっとこ。
慌てて出てきたウサギさん、リュート片手に、ずれた頭を直しています。
「しちゃう〜♪」
ふよふよ、ふより。
陽のフェアリー、リトルちゃん。ミニうささんで追いかけます。
ちりりん、ちりちり♪
足の短いふぇれっとが、ちょこちょこ、ちょこり。リズムに合わせて歩くたび、アンクレット・ベルが鳴る。
「お揃いでしょか〜?」
森の仲間が揃ったら、お祝い演奏始めます♪ 皆で楽しく踊りましょう!
『‥あの〜‥』
木陰から、じーっと皆を覗う視線。
『ここは‥どこ〜』
あらまあまあ。ナントほえーるがコンニチハ。海から陸に上がったら、道に迷ってしまったのかな。
さめざめと泣くその顔を、ハトさんの羽がふわりと撫でる。
「大丈夫! ほえーるお姉さん。あたしは、海への道を知ってるよ。いつも、空から見てるもん」
海と森では、言葉も違う? 身振り手振りで、どうにかこうにか伝えます。
『ああ。良かった』
へなへな‥‥ごろん。しゃがむつもりが、後ろへごろり。
「ほえーる殿も、一緒に踊ろう」
優しいわんこ。助け起して、頭の上に、皆とお揃い、木の実の冠載せてあげます。
『だけど、私は海の生き物』
「大丈夫〜今日はお祭なのですよ〜♪」
にっこり笑うメリーさん。
「セーラさまの魔法なのですよー」
ふぇれっとがぐい、と胸を張る。森の仲間じゃなくっても、普段は仲良しじゃなくても。今日は、皆で楽しんで。そんな、女神様の贈り物。
「さあ、一緒に」
ポロロン‥‥
ウサギさんの、輝くリュート。ただ一節で、聴く人皆を惹きつけて。
「〜♪」
ふぇれっとの、高く澄んだ声が重なる。
ゆったり始まり、だんだん速く。それに合わせてまるごとさんが、ころころ、もこもこ踊りだす。下手でも良いよ。元気に踊ろう。皆と一緒に。皆で楽しく。
さあ、今日は楽しい収穫祭!
「ふい‥‥」
控え室にて。シュシュが息をついた。
「緊張しましたです」
冒険者としての、初仕事。
「結構疲れるね。でも、好評で良かった! お客さんも一緒に踊れると楽しいんだけど。ま、食事中じゃ無理かなあ」
アフィマが、ハトさんの羽でぱたぱたと自分を扇ぐ。
『夕方も、頑張りましょうね!』
ほえーるを脱ぎながら、リディア。
「作り置きですが、良かったら」
疲れた時には甘いもの。森写歩朗の手作りクッキーで、しばしの休憩である。
「一杯、お客さん呼ぶですよー」
ちりん。ラテリカのベルが、涼しげな音を響かせた。
「おや、まだ居たのか」
閉店後、塵ひとつ残すまじ、と遅くまで掃除をしていたレティシア。
(「来たわね」)
決意を胸に、気合を瞳に。
「あの」
ぐ、と拳を握り締めた。前回はお酒代わりに甘酒。ならば発想の転換。
「そういえば、前に酒欲しいって言ってたな。丁度今年のワインが村から‥」
「ええ、甘酒をお願いします!」
甘酒を頼めばお酒‥が‥って‥‥あれ‥?
「え、今年‥」
のワインって何?
「何だ、そんな気に入ったのか」
あっさりと『今年のワイン』を仕舞うヨルゴ。
「は‥ああ〜‥」
代わりに、棚から取り出した物を鍋に掛ける。
「ほい」
お馴染み、不思議な香りの白濁液。
「うう‥‥ちょっとしょっぱい」
これは涙の味なのか。
「塩をひとつまみ入れるのがコツだからな」
だ、そうです。残念。
「お待たせしましたです。『ふぇれっとのホットミルク』なのですよー♪」
夜間だけの特別メニュー。その品を注文すると、まるごとさんがお給仕します。1、2、1、2、一生懸命なふぇれっと見たさに、注文が集まる。
「お待ちどうさま。『ウサギさんの人参グラッセ』でーす」
こちらはレティシア。
「や、久しぶり」
以前、少し仲良くなった常連客だ。
「あ、また同じの食べてる。偏った食事はいけませんって」
「好きなんだよこれ。ほら、人参も頼んでるし大丈夫」
「もう、気をつけて下さいね」
「はい」
ぱらり。扇を畳むと、林檎が箱から隣の器に移動している。
「わぁっ」
森写歩朗の手品に喜ぶ子供達。
「ね、どうやるの!?」
「さて、どうでしょう。‥‥おや? こんな所に細い糸が‥‥」
「あ〜!」
ネタばらしは、お約束なのです。
「あらあ〜?」
ふと、客に目を留めたエーディット。何処かで見た顔のような‥‥。
「ああ〜!」
ぽむ、と手を打った。
「さて、お客様の中に、収穫祭中にご結婚される方はいませんか?」
ステージの後。レティシアがホールを見回した。が、照れているのか、本当に居ないのか、なかなか手が上らない。
「は〜い! ここなのです〜♪」
見ると、エーディットが青年の手を掴んで上げさせている。隣には、驚き顔の若い女性。
「ええっと?」
「あら〜、もう結婚されてましたか〜?」
「い、いえ。僕達の事、知ってるんですか? 何処かでお会い‥」
「しているのです〜♪ それで〜結婚のご予定は〜?」
「あ‥はい。今月末に」
「末? 収穫祭、ほとんど終わっちゃってるんじゃ?」
今頃の方が賑やかなのに、とアフィマ。
「あの‥大切な人が、もうすぐパリに戻って来るので、そうしたら‥‥」
照れたように、女性と視線を交わす。それに合わせるように、シャラン、とレティシアがリュートを鳴らし、ラテリカが出だしを歌う。
「皆さん、ご一緒に」
森写歩朗の掛け声に、1人、2人‥‥やがて皆が、歌に加わる。誰でも知っている、祝福の歌。若い2人の未来が、幸せであるように。歌が盛り上がってきた所で、レティシアは伴奏をシュシュのオカリナに託した。仲間1人1人の胸に指した花を集めて小さなブーケを作り、
「重ねたその2つの手で、幸せな未来を作って下さいね」
曲の終わりと共に、差し出した。盛大な拍手。そして、リディアと森写歩朗が、ワインのカップを2人の前に。
「おめでとうございます」
『これは、お祝いね』
ククノチがとん、と座り2人の掌を開かせた。
「将来、子どもが何人生まれるか占ってみよう。名前は?」
「僕がニコラ。彼女は、コレットです」
「ふむ‥‥」
じっ、と見つめた後で、アフィマに目配せ、アーシェンに耳打ち。
『エエ、ソンナニ? ソレハ、大変ダー』
大げさに驚いてみせるアーシェンに、どっ、と笑いが起こった。
「また来てくださいね〜♪」
入り口で客を見送るエーディット。リピーターはお店の宝。
「わんこさんの冠、綺麗ね」
「これか? ‥‥良かったら、あげよう」
子供の頭に、そっと木の実の飾りを載せる。
「わあい!」
ぶお〜♪
夕暮の広場に、角笛が響き渡る。吹いているのはメリーさん。
「レストランの演奏会にいかなくちゃ〜」
叫んでほてほて走り出す。
遠い角笛の音を認めて、わんこの踊りがぴたり、と止まる。
「そろそろ、行かねば。本番は、お店へお越し頂きたい」
さっと、一礼。
ジャララン。リュートで一節弾き終わり。
「もう、行かなくちゃ! 遅れちゃう」
ウサギさんも、立ち上がる。
続々集まる仲間たち。その周りには、お客を連れて。
「はーい、いらっしゃーい!」
ばさり。店の入り口。羽を広げて、待ってましたと笑顔のハトさん。
「リュシアンさん、アメリーさん、いらっしゃいです!」
ちりちり、ちりりん。
「エーディットさんに招待状貰って‥‥来ちゃいました。ふぇれっとさん、可愛いですね」
いらっしゃいませ ここは楽しいレストラン
ちょっと覗いてみませんか? まるごとさんのレストラン
夢の世界の、ちょっと素敵なキャンペーン。4日間、なかなかの好評を博したようである。