ストレイ・ハンターズ

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月22日〜11月25日

リプレイ公開日:2007年12月01日

●オープニング

 うに〜。
 うにゃ〜。
 ごろにゃ〜〜ぉ。

 冒険者ギルドにて。とある猫好きの受付嬢が、この世の至福に浸っていた。カウンターに置かれた一抱えほどの籠。それを覗いて、うっとりと目を細めている。中には、毛玉の塊。ふわふわである。ふにょふにょである。うにーっとしている。
「あ、手ぇ入れると危ないですよ」
 正面に立った男が、彼女を制して、さっ、と毛玉をひとつ、摘み上げた。

 にゃ〜。

 そのうにょーん、と伸びた毛玉‥‥ではなく、生後4、5ヶ月の仔猫は、黒々とした瞳で受付嬢を見つめた。
「ああっ」
 ふるふると震える両手に、猫を下ろしてもらう。ぷにっとした肉球と、緊張の為か、僅かに立てられた爪の感触。
「ううう、わざわざ来てもらっちゃって‥‥お店の場所を教えて貰えたら、自分で行きましたのに‥‥」
「いえいえ、こちらには、お世話んなりましたしね」
 彼の名はジル・クロッツ。普段は畑を耕して生活しているが、副業として猫の繁殖、育成も行っている。収穫祭の後、農家の頭を悩ませるものといえば、収穫を食い荒らす鼠。そこで、彼は、毎年この季節に、母猫とジルとで鼠捕りをみっちりと仕込んだ、特別な仔猫達を露天で商っている。しかし、去年の今頃は個人的な事情で店を出す暇が無く、冒険者ギルドに頼んで販売を冒険者に任せた。その時、受付をしたこの受付嬢が『来年の猫ちゃん達も見たいので、お店出す事になったら、場所教えて下さい』と言ったのだ。
「ぷにぷに‥‥ふわふわ‥‥」
 手の上には、灰に黒シマ。籠の中には、猫玉になってじゃれ会う、ブチ、トラ、その他。
「あ‥‥ロッテ、待って!」
 そこへ、声が掛かった。目を向けると、身なりの良い少年と母親、その前を、艶やかな毛並みの黒猫が、少し後足を引きずりながら歩いて来る。
「あら、クリス君」
 受付嬢が声を掛けた。
「こんにちは!」
「はい、こんにちは。丁度良い時に来たわね。‥‥ジルさん、こちら、さっきお話した、クリストフ君とロッテちゃんです」
 クリストフはパリから少し離れた村に住む少年で、ロッテは、クリストフが冒険者から買い取ったクロッツ家出身の猫だ。
「おお、お前があの黒チビかぁ! でっかくなったな、おい」
 ジルはロッテを抱き上げると、わしわしと頭を撫でた。クリストフ達も以前冒険者ギルドに世話になった事があり、その縁でパリに来る時にはギルドへ寄っていくのだ。
「こちらはジル・クロッツさん。元の、ロッテちゃんの飼い主さんです」
 受付嬢が紹介すると、クリストフの母親が、あら、と目を見開いた。
「私達、今日はクロッツさんを紹介して頂きたくて、ここに来たんですのよ」
「へ‥‥俺を?」
「はい。猫を譲って頂きたくて‥‥ロッテは、もう鼠を捕れませんから‥‥」
 言うと、隣でクリストフが肩を落とした。ロッテは少し後足を引き摺っている。以前クリストフを守る為に大怪我をした、その後遺症だ。
「ロッテには、気にしないでって言ってるけど‥‥やっぱりちょっと、気にしてるみたいなんだ。‥‥だからね、ロッテの代わりに、ネズミをとってくれる子がいると、いいなって。それで、将来、ロッテの‥‥おむこさんになってくれると、もっといいなって」
「ああ、そういう事なら‥‥」
 ジルは、籠を床に下ろすと、改めて籠の中から3匹をつまみ上げ、カウンターに載せた。
「籠の中のは、雌と、あとは黒チビの兄弟だから‥‥、掛け合わせるなら、この、従兄弟のどれかが良いかな」
「わぁ。ロッテ、どの子がいい?」
「どれも、きっちり仕込んであるから、優秀だぞ」
「この黒い子は、ロッテにそっくりね」
「こっちのトラ模様も綺麗ですよ〜」
 親子とジルと受付嬢とロッテ。4人と1匹で、仔猫選びに夢中になること数分。
 事態に最初に気付いたのは、ロッテだった。突然カウンターを飛び降りて、カリカリと籠を引っかく。
「どうしたの‥‥あっ!」
 閉めた筈の蓋が、開いていた。そして。
「3匹足りない!」
 ジルが青ざめる。慌てて、周囲に声を掛け、部屋の隅や机の下を探した。
「もしかして、外へ‥‥」
 籠を大事に抱えたまま、建物を出た。カラスの鳴き声に、ぎくりとする。
 悪いことは、重なるもの。
 ―ドンッ!
 走ってきた男にぶつかられ、その場に躓く。
「危ねぇな!」
 埃を払いながら立ち上がって‥‥違和感を覚えた。
「あれ‥‥? ‥‥っ、泥棒!!」
 追いかけるも、籠を抱えた引ったくりの背中は、ぐんぐん小さくなって、町に紛れた。折り悪く、雨が降り始め、その足跡を消してしまう。
 その様子を、おろおろしながら見ていた母親。は‥‥、と気付くと、カウンターに駆け寄り、金貨を取り出した。
 泥棒は、恐らく中身を知らずに事を起こしたのだろう。それを知った後、どのような行動に出るか。放置なら良い。けれど、腹立ち紛れに川に流されでもしたら‥‥。迷子の3匹も心配だ。外にはカラスが飛んでいた。いくら鼠に強くても、まだ大きな鳥には適うまい。
「お願いします。猫を探して下さい!」

 雨は、あっという間に通り過ぎた。犯人と仔猫達の足跡と匂いを、きれいに洗い流した上で‥‥。

●今回の参加者

 ea0346 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb6508 ポーラ・モンテクッコリ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

麗 蒼月(ea1137)/ タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文

「ええっ、万一のことがあったら‥‥大変じゃないっ!」
 説明を聞いて、思わず叫んだエル・サーディミスト(ea1743)。
「鼠捕りが得意でも、まだ子供だから早くみつけてあげないと〜」
 こくこく、と頷くエーディット・ブラウン(eb1460)。
 ―うにゃ〜。
 こちらを見上げるロッテの瞳を見つめ返し、ラテリカ・ラートベル(ea1641)がそっと頭を撫でた。
「お久しぶりですね。だいじょぶです。ラテリカたち頑張るですから、ロッテちゃんは皆のお帰りを待ってて下さいですね?」
「お願いします」
 ペコ、と頭を下げたジル。ラテリカは、彼とクリストフ親子に会釈を返した。
「すみませんけど、魔法でちょっと記憶を覗かせてくださいです」
「ま、魔法?」
 一瞬たじろいだジルだったが、事は一刻を争うのだ。ぐ、と拳を握り締めた。
「どうぞ‥‥」
「あの〜、魔法ってリシーブメモリーです?」
 そこへ受付嬢の声が掛かった。
「はいです」
「あれって、一度で探れる記憶、多くないですよね? ジルさんに証言してもらった方が早い気が‥‥」
 一応ギルドに勤務しているから、普段から報告書には目を通しているらしい。
「そ、そですね。では‥‥」
 手早く犯人の特徴を聞いて、ファンタズムで再現する。少しずつ証言とすり合わせ、調節しながら、犯人の後ろ姿を作り上げていった。

 同じ頃。
 エルが、ギルドで借りた周辺地図の上に、ダウジングペンデュラムを垂らしていた。
「移動するだろうけど、ある程度でも絞れれば随分楽だもんね♪ さて‥‥目標が多いなぁ‥‥とりあえず、ひったくり犯はどっち? ふむふむ‥‥」
 泥棒と、猫3匹の行方を大雑把に導き出し、自身は、最も遠くで反応があった迷子猫を探しに出て行った。

 ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)が、サラサラと文をしたため、シフール便で各方面へと飛ばす。
『ギルド周辺を縄張りにしている引ったくりの情報求む』
 ラテリカのファンタズムが完成したので、そちらの特徴も書きとめ、追加情報として情報屋の伝手へと送った。仔猫目撃情報は、情報屋と教会、双方へ依頼をしておく。
「どうか、無事に見つかりますよう‥‥」

「これが犯人の後姿ですね?」
 ファンタズムの幻影を見つめ、しっかりと記憶するレオパルド・ブリツィ(ea7890)。
「それから、仔猫の大きさを知りたいのですが。丸まった時とか‥‥」
 ジルに詳しい話を聞いてから、ギルドの給湯場に行き、丸まった猫が丁度入るくらいの器を借りてきた。そして、ジルに自分自身で暖めて置くように頼んでおく。
「仔猫を確保する為に使います‥‥。上手く行くかは不明ですが‥‥」
 その使用法を簡単に説明すると、犯人確保の為、町へと出て行った。
「仔猫が無事でありますよう。御仏のご加護を‥‥」
 その背中を見送り、タケシが祈りを捧げた。

「子猫がここを通りませんでしたか〜?」
「しらないねぇ‥‥籠を抱えた男なら通ったけどね」
 バッドルワードで水溜と会話するエーディット。
「それは、泥棒ですね〜。やっぱりこの方角に逃げたのですね〜。エルさんの言った通りでした〜」
 そして、少し移動してもう一度。
「こちらの水溜さんは、猫に踏まれませんでした〜」
「最後に踏んでいったのは、金髪赤目のエルフだよ」
「あら〜?」
 足元を見てみる。うっかり、自分で水溜を踏みながら、魔法を掛けていたのだった。

 ミルクを火に掛け、気持ち温める。
「猫舌ですからな、程ほどにしないと」
 ジルに尋ねた所、仔猫達の大好物はミルクなのだそうだ。あと、エーディットに頼まれたので、持ち運びが出来るものも作りたい所だが‥‥
「こんな所に保存食。さすが冒険者ギルド。おや香草さんもこんにちは」
 がさごそと給湯場の棚を漁り、勝手に材料を確保してゆくパトリアンナ・ケイジ(ea0346)であった。

「迷子の仔猫を探してるんだけど、見なかった?」
 遊んでいた子供達に、声を掛けるエル。
 ダウジングペンデュラムで検索した結果、1匹はギルドから少し離れたこの周辺にいると出た。
「猫?」
「秘密の抜け穴とか、狭い道とか、裏通りとか、知ってる?」
「そりゃあな」
 胸を張った子供。彼らのリーダーだろう。
「ね、お願い。探すの、手伝ってくれないかな?」

「ご苦労様」
 シフールから手紙を受け取り、広げるポーラ。
『冒険者ギルド周辺を縄張りにしている引ったくりで、特徴に合致する者はなし』
「確かに、四六時中冒険者がいるのだもの、やり難いわよね」
 他の場所より、格段に捕まる可能性が高い。
「‥‥だとしたら、あれは初犯、少なくとも、素人で間違いないかしら?」

「これくらいの背で、濃い灰色コートの人、ご存知ないでしょか?」
 バッドルワードとダウジングペンデュラムの結果から推測された方角に、泥棒を探しに来たラテリカとレオパルド。
「ああ、あっちの方にぼーっと歩いていったよ?」
 その探索は、案外容易だった。ひったくりなどという事をしたにも関わらず、無用心な程人に見られている。
「妙ですね。普通なら、盗みを働いた後は、もっとコソコソするものだと思うのですが‥‥」
 レオパルドも首を傾げている。オーラテレパスで見かけた野良猫にも問いかけてみると、大抵、似たような目撃情報が入ってきた。暫く、情報通りに追いかけた後。
「い、いましたっ」
 さっ、と後姿を指差すラテリカ。たしかに、ファンタズムで映したものと相違無い。
「ちょっと待って下さいです!」
 その背中に、声を掛ける。振り返ったのは、冴えない表情の男だった。
「その籠、返して頂きたい」
 レオパルドの一言に、男の顔がさっと強張る。
「それ、お金じゃないです。猫さんなのですよ」
 声を掛けても、じりじりと後ずさるばかり。
(「ジルさんのところに帰りましょう」)
 ラテリカが、テレパシーで籠の中に語りかける。
 ―にゃ〜。
 ごそごそ、と箱が動き、猫が数匹、蓋を押し上げて頭を出した。
「あっ‥‥」
 泥棒が声を上げた。
 ―たしっ。
 猫が、自主的に地面に降り、こちらに翔けてきたのだ。
「ま、まって‥‥」
 それを追いかけて、泥棒までこちらに駆けて来たので、レオパルドがラテリカを背に庇って、泥棒をスタンアタックで無力化した。

「シアも、よろしくね? でも、危ないと思ったらスリープ使って眠らせていいからね?」
 月のエレメンタラーフェアリーの頭を撫でながら、エル。先程、泥棒を捕まえたという連絡があったから、後は迷子達を見つけるだけだ。少し高めに飛び上がったシアを見つめて、頷いた。

「猫を見かけたら、よろしくお願いします〜」
 ギルドの周りを一周しながら、道行く人に声を掛けているエーディット。しかし、大概の場合、それは「???」という反応を返された。何故なら‥‥
「皆さんも、何か知っていたら教えてくださいね〜」
 エーディットの後ろには、ぞろぞろと猫がくっついてきていたからだ。腕にも、小さな猫を抱いている。狙いは、彼女が手に持った、パトリアンナ特性の匂いの強い餌。これが、色々引き寄せているらしい。
「仔猫の情報は、ギルドに宜しくお願いしますですよ〜」

「おや、いらっしゃい」
 仔猫を呼び出すべく、ギルドの周りにミルクの皿を置いてみた。
 ピチャピチャ‥‥
 そして数分後、皿に群がる大人猫達がいた。
「ねえあなた達。可愛らしくて反射神経抜群な仔猫さん達を知りませんか?」
 ピチャピチャピチャ‥‥
 忘我の境地でひたすらミルクを舐め続ける野良猫たち。
「ふむ‥‥」
 さてどうしたものか、と腕を組むパトリアンナであった。
「多分ですが、ギルドの中に1匹ぐらいいるような気がします。狭いところ好きですからね、猫」
 しかし、受付ホール内に仕掛けたミルクには、未だ寄って来る様子は無かった。

 ギルドの中に詰めながら、目を瞑るポーラ。やはり、1匹くらいは、ギルド内に居てもおかしくないと考えたので、その足音なりと探っているのだが。
「人の出入りが多いわね‥‥」
 小さな息遣いや、小さな足音は、人間のそれに、どうしてもかき消されてしまう。
「早めに、皆見つかるとよいのだけれど‥‥」

 背後にぞろぞろと猫を連れたエーディットと手分けして、ごそごそと狭い隙間や、木の上を探し回るパトリアンナ。その手には先に毛糸玉のようなものがついた紐。ミニミニメリーさんを丸めて、紐の先に付けたものだ。
「出てこーい。でないと美味しくソテーにしっちゃいますよ」
 隙間や穴に突っ込んで、ふりふり。
「猫のソテー‥‥」
 一瞬想像してしまってから、ぷるぷると首を振ったエーディットであった。

「で、どうして引ったくりなど?」
 目を覚ました泥棒。それに、レオパルドが『丁重に尋問』を行っていた。
「うう‥‥」
 その背後に漂う怒気に、たじろぐ男。
「せ、生活に困って‥‥」
「捻りのない理由ですね」
「で、でも‥‥蓋を開けてみたら、猫で。み、見ているうちに何だか癒されちまって‥‥こいつらと、真面目にやり直そうかなあって考えてたら‥‥」
 ラテリカ達に捕まってしまったらしい。
「お、お願いだ‥‥こいつら、俺にくれよぉ〜」
 すっかり猫に魅入られてしまったらしい男が、レオパルドにすがりついた。
「こ、困りましたね」
「ですねえ」
 顔を見合わせ、冷や汗を浮べる2人であった。

 ―にーにー、にーにー。
「姉ちゃん、いたよ!」
 子供の1人が、エルを呼んだ。ひっそり、と裏通り沿いに立つ大きな木。その枝の上で、仔猫が鳴いていた。
「ありがと! 後で干葡萄入りのパン奢るから、一緒に食べようね!」
 子供達に礼を告げてから、梢を見上げた。
「あんな高い所‥‥」
 呟く。
「ゆっくり、下ろしてあげて?」
 プラントコントロールで、その枝を地面に傾ける。その様子を、子供達が目を丸くして見つめていた。
「あっ」
 しかし、下がってゆく枝に驚いて、ますます上に登ろうとしてしまう。
「ちょ、ちょっと待って〜」
 その体を、細い蔓でやんわりと拘束した。
 ―フーッ!
 体中の毛を逆立てた黒猫を、植物の蔓ごと回収する。
「ごめんね、怖がらせちゃったかな‥‥だ、大丈夫だから、爪立てないでっ‥‥痛たた!」

 相変わらず、ギルド周辺を見て回っていた、パトリアンナとエーディット。その耳が、興奮した様子の鴉の声を捉えたので、現場に急行した。
 ―フギャーッ!
 建物の影。ぎゃあぎゃあと騒ぐ鴉に向かって、精一杯うなり声を挙げる小さな猫の姿があった。尻尾が、毛が逆立って、倍くらいの太さになっている。
「やめなさい〜。魔女は恐ろしいのですよ〜。鴉は魔女に逆らってはいけません〜」
 とエーディット。ウォーターボムで威嚇したい所だが、この場合、下手をすると猫を巻き込んでしまう。
「ほーら、こっちへいらっしゃ〜い」
 ひょいっと。紐付きメリーさんを投げるパトリアンナ。鴉と猫の意識が、一瞬、そっちに逸れた。
 ―たしっ!
 動くものに反応するのが、鼠捕り猫の習性。飛び掛ってきた所を、エーディットがさっと抱き上げ、毛布に包んで素早くその場を離れたのだった。

 念の為、ギルドの中の物陰や椅子の下を見て回っていたポーラ。その足が、ぴたりと止まった。
「あら、まあ」
 レオパルドとタケシによると、猫は狭いところと丸まるのが好きらしい。だから、仔猫が丁度収まる器を、飼い主ジルの匂いをつけつつ暖めてもらい、各所に仕掛けてあった。
 窓の隙間から、少し傾いた陽光が細く注ぐ、机の下。暖かそうだから、と仕掛けておいたボウルの中で、すやすやと眠る縞猫の姿があった。ゆっくり、ぽってりとした腹が上下している。茜がかった夕日に、なめらかな毛並みがつやつやと光っていた。
「皆さんに、連絡をしなくてはね」

「皆さん、本当にありがとうございました。これで全部です」
 籠の中の猫を数えて、ジルが頭を下げた。ちなみに、犯人はしかるべき所へ渡された。きちんと自分のやった事を反省して、仕事に就くことが出来たら、来年は1匹譲ってもらう、とジルと約束をして。
「ね、えと‥‥ちょっと構ってもいいかな?」
 どきどき。
 籠の中を見つめるエル
「あ、どーぞどーぞ。でも、引っ掛れないように気をつけてくださいね」
「う‥‥」
 先程黒猫に引っ掻かれた傷は、ポーラにリカバーを掛けてもらって治療した。
「そーっと、ね」 
 そーっと、そーっと抱き上げる。
「ふにふにだ〜」
 その様子を見て、猫を見て、ラテリカを見て、また猫を見たエーディット。
「うふふ〜」
 ‥‥ふにっ。
 右手に仔猫。左手にラテリカのほっぺ。
「同じくらいふにふにですね〜♪」
「く、くすぐったいですよう、エーディットさん」
「あ、本当だ」
 同じように、エルもラテリカの反対側のほっぺに触れ、くすくすと笑みを漏らした。

「ロッテ、どの子が良い?」
 クリストフが、ロッテを抱き上げて籠の中を覗き込ませた。
「えへへ、アネサンニョーボー言うですよねー」
 ぽぅ、と頬を染めたラテリカ。ちなみに自らはいわゆる幼な妻である。
 最終的に、縞模様の綺麗な仔猫が、相性が良さそう、ということで貰われて行くことになった。
「よろしくね! えと‥‥将来、ロッテのお婿さんになってくれる?」
 ―に〜。
 無邪気に鳴く様子は、まだまだ、小さな子供だった。

 その後、冒険者達は存分に猫の手触りを堪能してから、猫を売りに行くジルを見送ったのだった。
 また、勝手に使った保存食の分だとか、情報屋への情報料、シフール便の代金等は、全て依頼人であるクリストフの母親が、冒険者達が断る間もなく、支払っていた。
「緊急だったとはいえ‥‥ギルドのものをあまり勝手に消費しないで下さいね」
 パトリアンナがギルド員に少しばかり注意されたのは、仕方のない事だろう。

 後日。
「これ、どうするの?」
「可愛いから良いじゃないですか! 私が面倒みますよ、餌代も‥‥」
 餌に引き寄せられた、あるいは連れてこられた野良猫たちが『ギルドに行けば何かもらえる』と、味を占めたらしく、立ち代り冒険者ギルドを訪れるようになったとか。
「そう言ってもね‥‥冒険者も依頼人も、猫好きばっかりじゃないのよ」
「でも〜」
 同僚に窘められつつも、餌をやり続けた受付嬢であったが、餌資金が尽きてどうにもならなくなり、その後徐々に猫は集まらなくなったそうである。
「うう、来月までどうやって生活しよう‥‥」
 それは、自業自得というもの。