聖夜祭の贈り物

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:12月05日〜12月10日

リプレイ公開日:2007年12月14日

●オープニング

「こんな感じ?」
「はい。じょうずです」
 銅鏡を覗き込みながら、楓が頷いた。
「でも、自分でやるとなると、難しいのよねぇ」
 溜息のシャルロット。
「なれたら、かんたん、です。でも、むずかしいかたちは、わたしも、あまりできません」
「本職の人がいるの?」
「はい。『髪結い』いいます」
「カミユイ‥‥『髪』を『結う』人?」
「はい」
 カミユイ、カミユイ‥‥と新しく覚えた単語を口の中で繰り返すシャルロット。
「けっこんしき、のとき、かみをむすんでくれたひと『髪結い』さんです」
「ああ! あのジャパンの人。成程ね‥‥」
「つぎ、のるまんのかみがた、おしえてください」
「うん。でも、私もあんまり難しいのは出来ないの」

「お嬢さんと楓さん、すっかり仲良くなりましたね」
 奥の部屋でお互いの髪を結び合っている2人を見て、リュック。最初は、シャルロットが楓を警戒している節があったが、いつの間にか、なし崩し的に仲良くなっていた。楓の事情は知らない筈だが、今までの様子からリュックとは関係無いと分かったのだろう。
「うん。この近所には同じ年頃の女の子は居ないし、エリザさんも、最近は忙しいのか、来られないみたいだし。ちょっと年上だけど、女の子同士話が出来て嬉しいんだと思うよ」
 ブラン商会店主、ダニエル・ブラン。シャルロットの父でもある。
「女の人は、みんなお洒落が好きだからね。シャルロットはジャパンに興味があるみたいだし、お互い良い話し相手になってくれて、嬉しいよ」
「そういや、前から簪とかお気に入りでしたもんね」
 だから、リュックもジャパン土産は簪にしてみたのだ。
「うん。リュックに貰ったのは、特にお気に入りみたいだ。大事に仕舞って、特別な時にだけ使っているよ。ありがとう」
 おっとりと笑うダニエルを見て、リュックは、この人は、何をどこまで知っているんだろう、と思った。全く気付いていなくても、全部分かっていても、どちらでも驚かない。
「父さん、リュック! 良いこと思いついたわ」
 考え込んでいた所に、声を掛けられて振り返る。顔を輝かせたシャルロットと楓が、店に出てきた。
「今年も、聖夜祭前は沢山お客さんが来るわよね?」
 大切な人への、ちょっとした贈り物を探しに。
「ああ、聖夜祭向けの商品も、色んな方面に手配してあるよ。そろそろ、店が賑やかになってくるね」
「ねえ、今年は、うちの店の特別商品を出しましょうよ! さっき、楓さんと話していて、思いついたんだけどね」
 こくこく、と隣で頷く楓。
「なんだい?」
「これよっ」
 ずい、とダニエルの顔の前に差し出したのは、簪。縮緬の蝶があしらわれた、シンプルなものだ。
「パリに、流行らせましょうよ! 簪って、便利だわ。棒1本で髪が纏るもの。ほつれたら、すぐに挿し直せるし。普段遣いに良いと思うの。ちょっとお洒落したい時は、きちんと結い上げてから挿せば良いし」
「でも、ジャパンからの仕入れ品は、すぐに数は変えられないし、そもそも値が張るからねえ‥‥」
「だからね、作るの。私、ジャパンのデザインって好きだけど、やっぱり、こっちの服にはちょっと合わせ難いわ。上手くバランスを取れば、ちょっとエキゾチックになって素敵だけど、どうしても、色や、形を選ぶのよ。上級者向けね。そうじゃなくてね、もっとノルマンで使いやすい、それこそ普段のちょっとしたお洒落に使えるようなものを作って、大々的に売り出したらどうかしら。それで、簪に興味を持ってもらえたら、ジャパン渡りの簪も、今より売れるかも知れないでしょ?」
「そういえば、フンドーシもこっちで作られるようになったしね」
「旦那ッ!」
 思わず、リュックが声を掛けた。シャルロットが、フンドーシ? と首を傾げている。楓は、少し顔が赤い。
「まあ、いいんじゃないかな。やってみなさい。所で、誰に頼むんだい? シャルロットがデザインするの?」
「ううん‥‥楓さんと考えてみたけど、良い考えが浮かばないの。だからね、広い見識があって、色んな経験をしてて、人によっては、技術も持ってる人達に頼もうと思うわ」
「ぼうけんしゃさんに、おねがいしようと、おはなししていました」
「今日辺り依頼に行ったら、5日くらいからになるかしら。父さん、良い?」
 12月5日? ふと、何か引っ掛ったリュック。
「構わないよ」
「じゃ、今から楓さんとギルドに行って来るわね」
「ああ。行っておいで」

「12月5日‥‥あ」
 2人の後ろ姿を見送りながら、ぽん、と手を打ったリュック。
「お嬢さんの、誕生日じゃないですか」

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3499 エレシア・ハートネス(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb6508 ポーラ・モンテクッコリ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

シルフィリア・ユピオーク(eb3525)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601)/ ライラ・マグニフィセント(eb9243)/ ステラ・シンクレア(eb9928

●リプレイ本文

「折れちゃいそです‥‥」
 ラテリカ・ラートベル(ea1641)が、恐る恐る簪を手に取った。『ラテリカは簪のお勉強から始めないといけないです‥‥』と、明王院月与(eb3600)のかんざし「若葉」や、鳳双樹(eb8121)の大輪のかんざし他、シャルロットが店から持ってきた物を並べて貰った。
「べっこうって、蜂蜜みたいですね」
 舐めたら甘そです、と軽い誘惑に駆られるラテリカ。勿論実行はしない。
「こっちは普段用だよ〜」
 月与が、簡素なかんざしも差し出した。
「シャルロットお姉ちゃんのお店にも、いっぱい置いてあるんだね!」
 うきうきと、それらを見比べている。今回は、いつか依頼で一緒になりたいと思っていた『お姉ちゃん達』が揃っているので、嬉しくて仕方がない、といった様子だ。
「ラテリカお姉ちゃんは、どんなのが好き?」
「そですねぇ、どれも素敵で‥‥ふわ、しゃらしゃら‥‥」
 取れちゃいそう、と金属の細い板‥‥ビラにそっと触れる。
「綺麗です。可愛いです」
 うっとりと見つめる横で、ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)も、同じく観察している。彼は試作品を作る事になっているのだが。
「ふむ、カンザシのぅ」
「出来そうかしら?」
 ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)が、手元を覗き込んだ。
「わしの鍛冶仕事はそもそもの手始めが武具道具の手入れ。よって装身具はあまり得手とは言えなんだのじゃが、我が心の星たる妻は装飾品が専門での」
「奥さん‥‥」
 ほわ、とシャルロットの顔が輝く。キラリと輝く左薬指の指輪が、眩しい。
「その薫陶あって、近頃は其方も修め始めておる処じゃ。ジャパンの品には慣れておらぬ故店に並べるにはちと拙かろうが、試作くらいならお役に立てるじゃろうて」
「良かったわ。それなら、これも使って頂戴」
「ほう」
 フェアリーのヴィンセントが抱えてきた銀塊を受け取り、目を細めて検分する。
「良い銀じゃの。有難く使わせて頂こう」

 一方で簪の勉強をしている間、もうひとつの計画の準備も進行していた。
「いいですか〜。今日くらいは素直な気持ちで接してあげないと〜。無くしてから自分の気持ちに気付いても遅いのですよ〜。ちゃんと自分で素敵なアクセサリーを選んでプレゼントしてくださいね〜?」
 エーディット・ブラウン(eb1460)に凄まれ、後ずさるリュック。
「俺、意地張ってる訳じゃ‥‥」
 ノルマンを発ってから、それはもう考えた。仕事以外では、正直その事で頭が一杯だった。帰った時にどうするか、悩みに悩んで訳が分からなくなった頃、楓と出会った。立場が少し似ていたから、拙いジャパン語で話を聞いて貰って、お礼にゲルマン語を教えて。そうして仲良くなるうちに、整理がつくようになった。
『感じた通りで、良いんじゃないでしょうか』
 結局、最初に言われた一言が全てになった。
「だから、俺は今、物凄く素直です」
 彼女は、1人の大切な人。恋愛対象とか、妹とか、気持ちを定義する事を止めたら驚く程楽になった。それがどういう形をとってゆくのかは今後次第。リュックは、その変化も全て自然に任せる事に決めたのだ。
「ん〜‥なんだか、とっても時間が掛かりそうな〜」
 壁用の飾りを手に取りながら、エーディットが呟いた。

「侍の鳳双樹です。初めまして」
 双樹は、ブラン商会を訪れるのは久しぶり。
「ノルマンにも、ジャパンのかたがたくさんだと、うれしいです」
 新たに加わった楓と、ジャパンについて言葉を交わしつつ、例の準備に取り掛かっていた。異国の地において、同郷とはそれだけで特別なもの。
「よろしくおねがいします、双樹さん」
 その人が、その地に馴染んで暮らしているとあれば、心強さも増すというものだ。

 その日の夜。
 ふわり。部屋に入った瞬間、感じたのは薔薇の香り。
「姫。また一段、淑女への階段を上った貴女に心からの祝福を‥おめでとう‥‥」
 すっと手を取り、甲に軽いキス。『王子様』ユリゼ・ファルアート(ea3502)が、視線を合わせてにっこり微笑むと、シャルロットの顔がみるみる赤くなった。
「待降節のお生まれとは、目出度いのぅ」
 ヘラクレイオスが、うむ、と頷いている。
「どうして‥‥」
 シャルロットは、誕生日の話はしていない筈だ。
「あ‥リュック?」
「今までの朴念仁な行動はこれで許してあげるわ」
 くす、と微笑み、振り返るユリゼ。
「そりゃ、どうも」
 微妙な表情だったが、
「ありがとう」
「はい。‥‥おめでとうございます」
 真直ぐに礼を言われ、笑みを浮べた。
「お誕生日、おめでとございます!」
 ラテリカが、祝いの歌を歌う。それにあわせて、フェアリーのクラウディアと雲母がくるくると舞った。
 ―らる〜る〜♪
 ―でと〜♪
 端々を真似して歌う。歌い終わったラテリカがお辞儀をすると、その両肩にちょん、と降り立った。
「これ、どうぞです」
 シャルロットと、そして初めての聖夜祭を迎える楓に、手作りのサシェ。
「可愛い‥‥」
 シャルロットにはトナカイ、楓にはサンタ。すごく上手、という出来では無かったが、1針1針、心を込めて、丁寧に作られているのが良く分かった。
「サンタさん‥‥せいニクラウス、ですね」
「そです。お勉強熱心ですね。お2人に、幸せを届けてくれますよに」
「わたしにまで、ありがとうございます」
 ぺこん、と楓が頭を下げる。
「私からは、これを。薔薇の香りがお好きだと、リュックさんにお聞きしたので」
 生業調香師の双樹が、香水を差し出した。シャルロットの好みに合わせて、自ら用意したものだ。
「わ、いい香り」
 部屋に入った途端、感じたのはこれ。華やかでいて気品ある香り。予め双樹から数滴譲り受けたユリゼが、外で香りつきのミストフィールドを展開、窓を開けて、霧を部屋に招き入れていたのだ。
「お誕生日おめでとうございます〜♪」
 エーディットからは、水鳥の扇子。
「和物なので、お店の飾りつけやパーティーの小物に使ってくださいね〜♪」
「あら、エーディットさんも? 私も、ジャパン製品‥に、手を加えてみたの」
 ユリゼからは、ブラン商会で購入した紅に、精油や蜂蜜、ほんのり香料を加え、色味を薄めて保湿性を高めたもの。
「日々美しくなる貴女をより彩れる様に。お付けいたしましょうか?」
「えっと‥‥お、お願いします」
 ユリゼは、くすり、と微笑むと、そっとシャルロットの唇に紅を乗せた。15歳の少女には、この位の優しい色味が丁度良い。
「良くお似合いです、姫」
 頬が、唇よりも赤かった。
「さあ、料理が出来たのさね」
 大きな皿を運ぶライラ。
「シルフィリア殿、買出しありがとうな」
「どういたしましてぇ〜」
 メインは、魚介たっぷりのブイヤベース。
「マリー殿は、凄く料理が上手なのだな。勉強になったよ」
 ケーキは、ふたつ。ひとつには、シャルロットの名前。もうひとつは‥‥
「シルフィリアお姉ちゃんも、お誕生日なんだよ〜」
 と、月与。
「遅くなりました」
 そこへ、外へ出ていたチサトが戻ってきた。両手に、箱を抱えている。
「シャンゼリゼの、デコレーションチーズケーキです」
 にこ、と笑って差し出した。通称デコチ。きちんと、シャルロットとシルフィリアの2人分。
「あたいの分も、覚えていてくれたんだねぇ〜。ありがとっ」
「同じ日なんですね、嬉しいな。おめでとうございます」
「シャルロットさんも、おめでとうねぇ〜」
 むぎゅ、と抱きしめられる。その、ものすごーく柔らかい感触に、わが身を振り返って少し寂しいシャルロットだった。
 その後、両親とマリー、楓からもそれぞれプレゼントが贈られ、最後に。
「これ、良かったら。去年の聖夜祭のティアラと、相性が良いんじゃないかと」
 白い貝を、綺麗に磨き上げ、丸く削ったものを連ねた首飾り。
「真珠は、俺にはちょっと難しくって」
「ううん。嬉しい」
 その様子を、エーディットが満足げに眺めていた。
「それじゃ、2人の誕生を祝って!」
 月与の音頭で、乾杯。彼女が提供したシェリーキャンゼリーゼは、極上の貴腐ワイン。
「うむ、素晴らしい」
 酒好きのヘラクレイオスを唸らせる逸品だ。
「おいしいです」
 エレシア・ハートネス(eb3499)が、ライラの力作を口にして、頷いた。
「本当、美味しい。ケーキも沢山で、幸せです」
 人心地ついたシャルロットは、部屋を見回した。綺麗に飾りつけられている。1日でやったということは、皆で協力したのだろう。そういえば、この部屋に入ろうとして、声を掛けられ、別の用事に赴いた事が、何度かあったような。
「サプライズパーティーだもの。準備をしている所は一生懸命隠したのよ」
 ポーラの言葉に、じわ、と、視界が曇った。
「ありがとう、ございます‥‥」
 両手一杯の贈り物が、温かい料理が、綺麗な部屋が‥‥そして、何より、こうして心から祝福してくれる気持ちが嬉しい。
「誕生日ってね、貴方が生まれてきてくれた事‥‥今日まで健やかに育ってくれた事に感謝してお祝いするとっても素敵な日の事なんだよ」
 ケーキを切り分け、コト、とシャルロットの前に置きながら、月与が語った。この日が、2人の良い思い出になれば、という想いを込めて。
「かあ様がそう教えてくれたんだ」
 こくり。シャルロットは、声にならない気持ちを込めて、頷いた。

 ユリゼが森で集めてきた葉や木の実。月与の、マイアの花冠。意匠の候補を並べ、台になる足に乗せてみては、あれはどう、これも‥‥など、話し合う。
「足部分は、真直ぐで無地なのが多いですけど、曲線や、装飾があっても綺麗思うです。絵入りですとか‥‥」
「本体は、青銅が良いかしら。それに、綺麗な石へ貴婦人のレリーフを掘り込んだ物なんて良さそうよね。石はアラバスター辺り? パリ近郊でも綺麗な石材が産出するものがあったわね」
「レリーフ、素敵ですねぇ。でも、ラテリカ、木も良い思うです。安全で軽いですし、白樺なんかは、いい香りですし」
 ラテリカとポーラのアイディアを、メモに書き留めてゆくエレシア。後で、デザイン案に起こす為だ。
「飾りは‥‥ゆらゆら揺れるのって素敵。出来るだけ薄い銀板で月や星、羽のモチーフを作ってキラキラ揺れるのって素敵かなと思う。あとは、ノルマンに馴染みの深い植物のモチーフとか」
「ユリゼお姉ちゃんの言う通り、こっちの草花は、いい案だと思うの。薔薇なんかも、ドレスとかに合せ易そう」
「そうですね、やはり簪というと花などをかたどるものが多いですから‥‥ノルマンならではの花など良いかもしれませんね。あとは、ジャパンとノルマンの違いは、やっぱり髪の色ですよね。黒髪だけでなく色んな髪の色に合せられるのが良いと思います」
 そう言ったのは、自身も黒髪美しい双樹。
「それなら、色も形もしっかりハッキリが良いでしょか? 玉簪でしたら、玉を大きめにするですとか、2、3個に増やしてみるですとか‥‥あ! お客様がパーツを1つずつ選んで組合わせて作るのも楽しそう」
「それが出来たら素敵だわね。そうそう、花だったら、この『聖夜の雪』なんてどうかしら?」
 女子とは、とかくお洒落が好きなもの。お互いに次々にアイディアを出してゆくから、書き留めるエレシアも大忙しだ。
 他にも、季節らしく柊の飾りや、エキゾチックな和の趣を残した桜や紅葉もいいかも、などという案も出つつ。
「ゾウガメの飾りが付いたのが、良いと思います〜♪ 櫛も作ってで髪結いセット〜♪」
 のしのし。
 部屋の隅を我が物顔で闊歩するゾウガメに視線が集まる。
「動物はいい案だよね。兎や熊や子犬‥‥デフォルメした草花なんかも、布で小さいマスコットを作って、子供向けとか」
 布の部分は、試作品作ってみる、と張り切る月与だった。
 アイディアを出し切った後は、それらの選択。やはり、ああでもない、こうでも‥‥と言いつつ、少しずつ案を纏め、それをエレシアが絵に写し取っていった。

「おお、原案が出来たか」
 少し離れた、ブラン商会知り合いの工房へ、原案を届けに行ったエレシア。
「はい。宜しくお願いします‥‥綺麗ですね」
 そこには、既に完成した簪がいくつかみられた。
「見様見真似じゃがな」
 練習の為、実物を借りて実際に作ってみていた。どんな素材が良いかの試しでもある。
「後は、只ひたすら作るのみ。考えた者が満足する品を作れずば、ドワーフの沽券に関るというものじゃ! ‥‥とはいえ、日常的に数を揃えるなら、手間と費用も考えねばのう」
 商品開発には実際に作る者の視点も欠かせない。

 アイディアを出したら、とりあえず試作待ち。月与はマスコット作りに励み、他はエレシアの淹れた茶を楽しんだり、店の簪を相変わらず研究したり、思い思いに過ごした。
「きれいなきんいろですね」
 エレシアの髪を梳きながら、楓。こちらは、ジャパンの髪の結い方や、簪の使い方を教えている所だ。
 時折、ヘラクレイオスが製作途中のものを持って来つつ、素材や、製作上のアイディアを語り、それをまた皆で話し合いながら、試作品が完成した。

「ど、どうかな‥‥」
「よくお似合いですよ〜♪」
 シャルロットから借りたイブニングドレスに身を包んだ月与。選んだのは、勿論エーディットだ。髪は、出来たばかりの簪であげている。
 足の部分は、木。白樺を綺麗に磨き上げ、蔦の模様を掘り込んである。その先端には、薄く延ばした銀の葉、それより小さめの銅の葉が、それぞれ1枚ずつ、下がっている。葉は、月桂樹。ユリゼが集めて来た材料の中にあったもの。それが、月与が動く度にちらちらと揺れる。
 銅の葉は、製作過程で経費削減の為に提案したものだが、銀と組合わせたら丁度良かった為、そのまま採用された。
「銀の飾り部分は、他にも作ってみたぞい。季節毎に変えても良いかもしれぬな」
 星、月、羽、薔薇、そして聖夜の雪、桜や紅葉もある。土を焼き固めた玉も並べられた。今回は、季節を選ばないという事で、月桂樹を採用。
「シャルロットさんもはやくこちらへ〜♪」
 ピンクのドレスに身を包んだシャルロット。やはり、髪は簪で上げている。こちらは、足は同じだが、飾りには月与の作ったフェルトの桜が付いている。
「飾りは、他の動物や植物も作ったし、足には紐で付けてあるから、すぐ付け替えられるよ」
「おや、良い品ができましたね」
 そこに、ダニエルが顔を出した。
「ほう、この銀細工は素晴らしい。この部分は、そのまま商品に使用させて頂けますか?」
「うむ。ご店主の御目に適う品を作り得たなら、わしも我が心の星に誇れようて」
「綺麗ですねぇ。ただ、ラテリカは髪が短いので‥‥こやってお耳を使って楽しめるよな簪があると嬉しい思うでした」
 こめかみに花を挿すような仕草。
「うん、やはり広くアイディアを募るのは良いですね。娘も勉強になったことでしょう」
 ダニエルの言葉に、シャルロットが頷いた。頭の桜が、それに合わせてちらりと揺れたのだった。