聖夜祭の前に〜準備〜
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月10日〜12月15日
リプレイ公開日:2007年12月15日
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●オープニング
「それでは、慰問の経路は、以上の通りで」
「ああ。村人に紛れて悪魔崇拝者が‥‥なんてことは、ないだろうな?」
コンコルド城内、ブランシュ騎士団緑分隊長フェリクス・フォーレの執務室。机の上にパリ近郊の地図を広げ、覗き込んでいるのは2人の男。分隊長フェリクスと、副隊長のヴィクトルである。
「事前に偵察を送っておきます。流石に、同じ轍は踏みません」
苦笑を浮べるフェリクス。ノストラダムス狂信者の収容所に視察に行って、逆に捕らわれの身となったのは先月のこと。
「ああ。不注意で仕事を増やされては堪らない」
この2人、現在は上司と部下といえど、それ以前に、友人として長い付き合いがある。人前では一応弁えているヴィクトルだが、2人きりとなると自然、遠慮が消える。
「よく言います。上司の生死が危うい、という知らせにも構わず、パリで仕事をしていた癖に」
フェリクスも、口調が若干軽くなる。
「お前に、それ位で死ぬ可愛げは無い。高ランクの冒険者が向かったのならば、鎮圧にも問題は無いだろうと判断した。実際ディアーヌ達で十分事足りただろうが」
「はいはい。そう言ってパリを1歩も離れず、挙句傷付いて帰って来た上司から薬を取り上げて城から放り出したのでしたね」
元々持参していた、あるいは援軍が持ってきた薬は、鎮圧の際負傷させた狂信者や、容態の危うくなっていた人質に消費してしまっていた。パリに戻って、やっと怪我が治せる、と購入したそれを、ヴィクトルが取り上げたのだ。
「薬なんぞに頼らんで、偶には休養しろと言ったんだ」
「あなた、自分の仕事増やしたいんですか、減らしたいんですか。矛盾してますよ」
「無駄な仕事は減らして、必要な仕事は効率的にこなしたい。それだけだ。疲れていると、仕事の効率も落ちるだろう」
多少の疲労で効率を落とすフェリクスではない。それは、ヴィクトルが1番よく知っている筈だ。しかし、これ以上聞いても無駄な事は、何となく察せられたので、黙るしかない。
「まあ、良いですけどね。結局、酒場に寄ったら治して頂けましたし」
収穫祭で賑わうシャンゼリゼの大ホールには、様々な技能を持った冒険者が集まるのだ。
「あー‥‥その事、なんだがな。治療をしたクレリック殿というのは、若い女性、なんだよな?」
少し身を乗り出してきたヴィクトルに首を傾げながら、フェリクスは頷いた。
「ええ。大変可愛らしいお嬢さんです。あなたの所と同じ年の頃でしょうね。自分にも、こんな娘が居たら楽しいだろう、と思いました」
「娘‥‥。そうか、『娘』か」
そこはかとなく残念そうな様子のヴィクトル。
「何だと言うんです」
「いや、何でも」
この話はここまで、と身振りで示されたので、フェリクスは、釈然としない気分のまま、とりあえず話を戻した。
「‥‥ええと、慰問の話でしたね。しかし、年末の忙しい時期に、白い鎧着た集団がゾロゾロやってくるのも、ちょっとどうかと思いますよね。物資とかは持って行きますけど」
『白い鎧着た集団』というのは、一応国最高峰の騎士団であって、それが慰問に訪れる、というのは、村側にも結構名誉な筈である。が、この男に言わせると形無しだ。
「しかも、うちの分隊、地味ですし」
『うちの分隊』、即ち緑分隊は、7月の災厄時、パリ市内の警護に当たっていたという経歴がある。訪問先の村は、当時、各種侵攻軍の通路となった、特に被害が大きかった村であり、総員をあげてパリ城壁内に避難していた。だから、1番関りがあり、かつ、身近に感じられるであろう緑分隊が選ばれたのだが。
「なんというか‥‥もっとこう、暖かい気分になって頂きたいですよね。折角の聖夜祭前なんですし」
「その事なんだがな‥‥」
ヴィクトルが、口を開いた。
「うってつけの人材が居るだろう」
「はい?」
「行動力があり、人によっては強いカリスマ性を持ち、俺達よりも、よほど民に身近に思われている」
「‥‥ああ!」
ぽん、と手を打ったフェリクス。
「それは、良い案です。誰か、ギルドに遣いを‥‥」
「いや、俺が行こう。詳しい状況説明もしたいからな」
「はあ‥‥」
それは、あまり効率的な仕事のこなし方ではないような気がする。彼でないと片付けられない仕事は、他にも山積みなのだ。
「行って来る。‥‥あまり、仕事に根を詰めるな」
「‥‥? 行ってらっしゃい」
「パリ近郊の村へ、緑分隊の騎士と一緒に訪問する冒険者を募集‥‥ですね」
緊張した面持ちで、依頼内容を確認する受付嬢。
「いや、今回は準備だけだ。実際の訪問は、また別途依頼する」
「了解しました」
「それと‥‥もうひとつ。あくまでもついでなのだが‥‥」
こほん、と咳払いをして、声を顰めるヴィクトル。
「‥‥ブランシュの隊長達を、結婚させようとする動きがあるらしいが‥‥冒険者と、その‥‥某分隊長殿の間で」
受付嬢は、きらり、と目を光らせると、同じく声を顰めた。
「ええ。そちらの隊長様も、ばっちりターゲットです」
「そうか‥‥。しかしな、このままでは、緑の隊長の結婚は確実に、無い」
きっぱりと言い切る。
「のらくらと中途半端な言動で誤魔化しておられるが、最終的に逃げ切る気満々だ」
「それはまた、どうして?」
何か理由が? と尋ねたものの、副隊長は渋い顔で唸るばかりだ。
「詳しいことは、話せない。が‥‥俺は、隊長に結婚して頂きたいと思っている」
そして、幸せになって欲しい。‥‥この部分は、口には出さなかったが。
「準備の合間に、隊長と関る事もあるだろう? その際に、少しでも良い。結婚に前向きになるよう促して貰えると、有難い」
「はあ‥‥しかし、理由が分からないことには‥‥」
「根本的解決は、まだ必要ない。とりあえず、慎重に段階を踏んでいこうと思う」
「はい」
「まあ、これは、あくまでもついでだ。依頼の主眼は訪問の準備だから、そちらをしっかりと頼む」
●リプレイ本文
「いいお天気ですね」
片手を顔にかざし、空を見上げて微笑む鳳双樹(eb8121)。空気は少し冷たいけれど、透き通っていて気持ちが良い。
「準備にはもってこいです」
大きな荷物を下げ、ベゾムに乗って青空を行く彼女を、大勢の市民が、ぽかんと見上げていた。
「双樹さん、ありがとうですよ〜」
粉、干し肉、干し果物等の、日持ちする食品。越冬の為の、防寒着、毛布類。酒に薬に、暖房用の薪と油。軽めの復興作業用品。村に持っていく物資が、山と積まれている。
「慰問です。慰問です‥‥っ」
キラキラと顔を輝かせながら、それらの種類と数を確認しているのは、リーディア・カンツォーネ(ea1225)。慈愛の神に仕える彼女にとって、今回の機会は本領発揮といったところか。
「どういたしまして。あと少しで全部です」
これら物資は、双樹がベゾムで買出しに行き、調達したもの。流石に一度では無理なので、先程から何度も往復している。
「力仕事も、任せてくださいね。私も一応、侍ですし‥‥」
「はい。よろしくお願いしますっ」
「家族の話?」
「慰問先の村で劇をしようと思って。家族愛を根本にする予定なの」
まずは顔見知りの騎士に話しかけた、実は顔見知りレティシア・シャンテヒルト(ea6215)。
「えーっと、家族は、両親と兄妹。地方出身だから、俺は1人暮らし。兄は実家で家継いでるよ」
ロジェ・アライス。緑分隊の若手騎士である。
「ふむ。笑顔でいられる家族の時間って、どんな時でしょう?」
「う〜ん‥‥久しぶりに会って『お帰り』って言われた時とか、離れている間の出来事なんかを話し合って、時間の隙間を埋め合ってる時、とか」
「1人暮らしだそうだけど、これから家族が増える予定は?」
「そういう話だったら、フランツ殿がいいかもな、新婚さんだし。副隊長も、妻子持ちだよ。俺は残念ながら予定無し。でも隊長と違って絶賛募集中。ちなみに、月光の歌姫なら大歓迎」
「フランツって、どの人?」
「ん〜と、あそこの、黒髪の方」
軽口をさっくり流すレティシアと、流されても気にしないロジェだった。
「何種類か作ってみたのさね。どれが良いかな?」
ライラ・マグニフィセント(eb9243)が、数種類のスープを並べて、冒険者と騎士に配った。それぞれの意見を聞いて、頭の中で整理する。
「細かい作り方‥‥材料の切り方や、火を通す時間なんかも、レシピを作って纏めておくのさね。誰でも作れるようにな。ただ、難しい綴りは出来なくてね‥‥」
「説明して貰えたら、筆記しますよ〜」
「頼むな、エーディット殿。後は、パンフォルテも沢山作って置こう。こちらは日持ちがするから、そのまま持っていけるぞ」
「スープ、おいしいです。パンフォルテ、村の人達はきっと喜ぶと思います」
と、エフェリア・シドリ(ec1862)。熱いスープのせいか、少し頬が赤い。
「ありがとう。‥‥困窮の域を脱しているのなら、質素でもお祭りを祝うようにする形が良いだろうな。豪華ではなくても美味しいものを出せると良いな‥‥。高価でない酒類を適度に出す事はできるかな?」
「お酒は積みましたです。必要ですよね」
「体が温まるものね」
リーディアとレティシアが頷いた。
「家族の話を聞きたいです。愛に溢れる物語が良いです。あと、分隊長のことも教えてください」
エフェリアに淡々と畳み掛けられ、困ったように視線を泳がせる副長ヴィクトル。
「副隊長さんには、奥さんと子供が居ると聞きました」
「俺は、自分の話は苦手で‥‥」
「では、奥さんとの出会いを教えて下さい」
「う‥‥」
言葉に詰まるヴィクトル。同僚の婚約者に一目惚れした挙句、最終的に結婚して娘ばかり数人‥‥そんな話を、末娘といくつも歳が違わない少女にして良いものか、頭を悩ませる羽目になった。分隊長の話に至っては‥‥ちょっと、話せないな、と空を見上げるしかないようだ。
「準備、大分進みましたですね」
1日目の夕暮れ。リーディアが、帰りがけにフェリクスが1人で居るのを発見して声を掛けた。
「ええ。皆さんのお陰です」
「建物の修復作業用の道具も積みましたけど、緑分隊の方に、村で力仕事をして戴けますか?」
「了解いたしました」
「あと、子供達に配るプレゼントも作るのです。サンタ衣装は貸衣装屋に頼んだので、緑分隊の方が扮装して下さいます?」
「隊員が扮装‥‥」
その様子を想像したのか、フェリクスが小さく噴出した。
「パパさんも無関係ではないのですよ」
「それは困りました」
パパさん、と呼びかけられ、フェリクスの表情が和む。それを見たリーディアは、思い切って聞いてみた。
「フェリクスさんは、この前結婚する気はないって仰ってましたけど‥‥」
この前、というのは、収穫祭の大ホール。彼女だけに、白状させられた本音だ。
「養子を迎えて、子供や孫がいる家庭に、とか、そんな気はありませんか? 中々お家には帰れないけれど、帰りを待つ家族の為に頑張るお父さん。そんなシチュエーション良くないですか?」
ぐ、と手を握り締めるリーディア。
「養子‥‥。考えてもみませんでした。私には継がせる領地もございませんし。‥‥仰るような『お父さん』は、そのまま副隊長ですね。素敵だと思って見てはおりますが、自分がそうなろうと、考えた事は無かったかも知れません」
ふむ、と何やら考え始めた分隊長。
「しかし、養子、ではありませんが、そういう風に可愛がったり、愛したりする対象が昔からおりましたので、あまり必要を感じなかったのかも知れません」
「そうですか‥‥」
リーディアは、彼は過去に結婚関係で傷を負ったのではないかと考えているが、流石にその通りを聞く訳にもいかない。しかし、救えるものなら、救ってあげたい。そんな風に思うのは、クレリックの性だろうか。
翌日。
「な、なんか‥‥蜂蜜大量に飲まされた感じ‥‥」
新婚フランツに話を聞いてきたレティシア。心なしか、ヨロヨロしている。
「結婚は良いですね〜♪」
同じく話を聞いていた、エーディット・ブラウン(eb1460)。余りに惚気るから、フランツの頬をつんつんしてきた所だ。
「恋は強さを、愛は優しさを与えてくれますけど、結婚はその両方に加えて、幸福も得られる素晴らしい行いです〜♪」
「ええ。彼は隊の中でも愛妻家で有名ですしね。任務の際も、よく『これが無事に済んだら、家に帰って一緒に夕飯食べるんだ‥‥っ』なんて言ってますよ。励みになって大変宜しいことです」
「それって、所謂ふら‥」
レティシアが、言いかけて、こほん、と咳払い。フランツの無事をこっそりと祈った。
「最近子供が出来たそうですし」
にっこりと笑うフェリクスの表情からは影のようなものは見受けられない。
「わあ、素敵ですね」
双樹が目を輝かせた。
「訪問先にも、子供が沢山いるでしょうか。えと‥‥村に慰問という事になれば、やっぱり村の人たちも緊張するのではないかと思います。そこで、村の人たちの警戒を解くにはやっぱり子供の反応だと思うのです」
「そうですね」
「なので慰問した際には、子供と遊んであげたりとかは私達冒険者でしてあげたりもできますし‥‥はう‥‥言葉足らずでごめんなさいです‥‥」
「いいえ。よく分かりました。仰る通りだと存じます。双樹さんは、子供がお好きなんですね」
「フェリクス様も?」
「ええ。未来を担う大切な存在ですし。‥‥友人の娘さん達が、特に可愛くて。でもそろそろ鬱陶しがられる歳の頃かもしれません」
少々切ないですね、と、苦笑を滲ませた。
「友人‥‥」
その言葉に、微かに双樹の表情が沈んだ。
「親しくしていた冒険者の友達も最近、結婚してしまいましたし‥‥何だか羨ましいです‥‥」
その相手に、実はちょっと憧れていたのは内緒。その響きを感じ取ったのか否か、フェリクスは少し話題を逸らした。
「しかし、双樹さんなら引く手数多でしょう」
「そういうフェリクスさんはどうなのですか〜?」
そこへ、ずいっと身を乗り出したエーディット。
「私? 私は、まぁ‥この歳で独り者な位ですから‥‥」
さりげなく話を打ち切ろうとする苦笑を、エーディットはじぃっと見つめた。少しだけ真剣な目で。
「ええと‥‥婚約者が居た時分もございましたし‥‥その後も、その類の話が無いではありませんでしたが、最終的には‥‥。ご縁が無かったのでしょうね」
視線に負けたのか、珍しく、少しだけ過去を漏らした。
「そこの所、もうちょっと詳しく〜」
「貴女は、お1人でいらっしゃる?」
「それは秘密です〜♪」
「では、私も秘密ということで」
切り替えされて、あらら〜‥‥と呟くエーディットだった。
「男の子は毛糸の手袋か帽子で、女の子は〜‥‥何か、お洒落なものが良いですね」
せっせと子供達へのプレゼントを作っているリーディア。他の仲間や、手芸の心得のある隊員も、自分の仕事の合間をみてやってきては手伝ってゆく。
「普段家事はしていません。でも、手伝えること、手伝います」
「配るときには、笑顔で配って欲しいですね〜♪ 勿論、衣装はサンタ服で〜。緑色の飾りもつけましょうか〜。聖夜祭の色ですね〜♪」
上手ではないけれど、真剣に、あるいは楽しそうに毛糸を編んでゆくエフェリアとエーディット。
「素敵な笑顔で、幸せな気持ちを渡すように〜♪」
「声はお腹から! 発声練習の通りに」
レティシアの檄が飛ぶ。隊員達に演技指導。昨日ライラと話し合った筋書きに、聞きまわった家族話も加えて、詩作を助けるという空想の羽帽子を被り、夜なべして村で上演する劇の台本を作り上げたのだ。吟遊詩人として優秀なレティシアであるから、農村の人にも分かりやすい内容にまとめてある。ただし、台本はラテン語なので、指導はゲルマン語に直して口頭。だから1回で覚えてね、と容赦のない指導振りだ。普段声と笑顔とで食べているレティシアであるから、評価も厳しめである。
「ネルガル、もっと嫌らしく。そんな堂々としてないわ。尊大に振舞う割に、小物感が浮き彫りになるような‥‥。そうね、立場は中間管理職かしら? でも左遷されて放置なの。ざまをみなさい‥ふっ‥‥誰が『新顔その2』よ!」
「『その2』とは?」
「え‥‥こほん、ごめんなさい気にしないで。ちょっと色々思い出して‥‥」
いけないいけない、と頭を冷やす。
「笑顔は、もっと自然に。ほら、昨日休憩のお茶の時、ほっこり笑っていたでしょう? その暖かい気持ちを思い出すの」
「本格的だな」
少し離れた場所で、練習を眺めているライラ達。双樹が買出しで仕入れてきた布や小道具で、劇の衣装を作っている。
「女神役は、やはり白でしょうね〜♪」
役者と布を見比べつつ、エーディットが衣装を見立ててゆく。
「ネルガルの衣装さえあれば、後は普段の装備でも何とかなるだろうが‥‥純白の女神役は装備を揃えるのが難しいさね‥‥」
衣装は、調整しやすい寸法にしておこう、と布に線を引く。
「ライラさんは出ないのですか〜?」
「う〜ん」
「双樹さんも、戦乙女隊にお友達がいらっしゃるのですし〜♪」
どちらも剣士といえば、剣士だ。
「ええっ? でも‥‥」
「こういうのに演技力は関係ないですよ〜。やる気が1番大切なのです〜♪ 一応、今居ない戦乙女の衣装も見立てておきますね〜」
「笑顔作りは幸せを作ることなの。観客に笑顔を浮べさせるには自分が笑えていなきゃ。逆に、誰かを幸せにしてしまったのなら、自分も幸せにならないと」
16歳の少女の言葉に、隊員達は真剣に耳を傾けている。
「市民もあなたたちの幸せを願ってる。忘れないで」
自分の為に影で誰かが不幸になっていることを、受け入れられるほど、強くない人もいるから。
劇の内容は、戦乙女隊のデビル・ネルガル討伐が基本になっている。デビルの悪巧みを戦乙女達と緑分隊が次々に撃破、最後は罠に陥りかけるものの、それを突破して退治する。一見活劇だが、そこには家族の絆が盛り込まれ、騎士や人質達を『待つ人々』の心情やドラマが描かれている。希望と愛に溢れた物語でもあるのだ。
「何とか形になったわね。皆、お疲れ様」
最終日、隊員達に笑顔で声を掛けるレティシア。同じくバードのエフェリアや、戦乙女隊のライラ、同隊の友人から話を聞いていた双樹も、演技指導に加わった。
「皆さん流れは覚えています。だから、失敗してもチームワークでカバーです」
エフェリアのアドバイス。隊員達は元から声は出るし『職務上』演技力がある者が多いので、舞台という場所の戸惑いと照れを克服したら、結構見られるものに仕上がった。ただ‥‥
「でも、戦乙女が3人って寂しいわね」
呟くレティシア。今回随行する隊員中、女性は3人。『天青の天使』は男性だが、彼を演じられる男は居なかった。女騎士が演じた方がよほどそれらしい。その為、脚本も少し変える事になった。
「元の脚本の方が盛り上がるし‥‥やっぱり、ライラにも出て貰った方がいいかしら」
「それなら、貴女も是非。本物でいらっしゃるのですし」
「当日参加するか分からないもの」
『純白の女神』役が、がくり、と肩を落とした。練習したからには、仕方が無い、出演しよう。しかし‥‥
「これを、5回‥‥」
1回でも良い。誰か代わってくれないだろうか、と心底願うディアーヌであった。
そうして準備は調った。
「目印は、良い案ですね。恐らく当日のみ参加される方もおられますから。迷わなくて済みます」
荷物は下ろす村ごとに纏め、色の違う布で目印が付けてある。色違いの布は、エフェリアの提案だ。
「お役に立てたなら良かったです」
「ええ、とても」
「ところで、フォーレさんは結婚するのですか?」
「さあ、どうでしょう?」
唐突かつ直球で来たなぁ、と思いつつ、とりあえず誤魔化した。
「結婚、私はしなくても良いと思っています」
フェリクスは、おや、と眉を上げた。この年頃の少女は、そういったものに憧れるものだと思っていたが。
「好きな方が幸せならきっと良いです。一緒にいられるとより良いです」
そして、水色の視線を合わせる。
「思いが通じていると素敵です」
10歳にしては大人びた考え方。冒険者として日々一人前に依頼をこなしているからだろうか。
「でも結婚はめでたいことです」
しかし、大人のような誤魔化しはない。
「フォーレさんは、幸せですか?」
裏も表も気負いもない言葉。だからこそ、フェリクスは一切誤魔化す事無く、答えた。
「とても幸せです」
「それなら、良いと思います。‥‥慰問本番、頑張ってください」
「ありがとうございます」
くるり、と背を向け、家路を辿るエフェリアを、送ってゆくように近くに居た騎士に言い置いた。
「本当に、幸せなんですけどね‥‥」
どうして、皆放っておいてくれないのだろう。
「大変に畏れ多い事ながら‥‥」
少しだけお恨み申上げます、と某『独身の凄く偉い人』に、心中呟いたのだった。