聖夜祭の前に〜訪問〜
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■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:12月16日〜12月21日
リプレイ公開日:2007年12月19日
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●オープニング
暖炉の火が、暖かい。そして、膝に抱えた若い命も。
「眠ってしまいましたか」
さらり、と髪を撫でた。子供の髪独特の、細くて柔らかい感触。
「あら、すみません」
くす、と微笑むのは、30代後半の女性。目を細めながら、眠る子供に、それを抱えたフェリクスごと、毛布を掛けた。
「もう人の膝で眠るような歳でもありませんのに‥‥久しぶりで、嬉しかったのでしょうね」
安心しきって眠る顔を見つめ、フェリクスも微笑んだ。
「‥‥そういえば、最近妙に結婚とか家族とか、そういった話を振られるのですよ」
赤分隊長のギュスターヴにせっつかれるのはいつもの事だが、今回は冒険者にも色々と聞かれたような。
「ヴィクトルの手が、回っているのかもしれませんね」
ふぅ、と溜息をつく。その様子に、女性は苦笑を漏らした。
「そろそろ、観念なさったら如何です?」
その言葉に、ちらり、とフェリクスが視線を上げた。
「それは、副官の妻としてのお言葉ですか? あるいは、ラシェルの母として?」
そして、この男にしては珍しく、少し皮肉げに、言葉を接いだ。
「それとも‥‥元婚約者としての?」
ぱちん。
両頬に、冷たい指先の感触。このひとは水仕事をしていたのだ、貴族の奥方なのに‥‥と、ぼんやり思った。
両手でフェリクスの顔を挟んだ女性は、ぐい、と顎を上向かせ、彼と視線を合わせると、にっこり笑った。
「旧い友人として、よ。リック?」
リック。それは、彼女だけの特別な呼び名。曰く『愛称が「フェリ」だと、私と同じなんですもの』。
「‥‥‥ふっ」
2人同時に、噴出す。その声に、膝に乗せた子供が身動ぎをしたので、慌てて口を押えた。
「フェリシティには、叶いませんね」
考えてみれば、昔からそうだった。
「あら? 昔からの婚約者に振られた夜は、一晩中泣きましたけど」
「でも、今はしっかりお幸せでしょう?」
「当然。‥‥貴方は、そうではないの?」
「いいえ。とても、幸せです。あなたが‥‥あなた達が幸せで。私には果たすべき仕事があって。ですから、これ以上は特に何も望みません」
手ごわい、と内心溜息のフェリシティ。
「それでは、私はそろそろ帰ります。ヴィクトルも、直に帰って来るでしょう」
間男は退散します、と言って、この家の末娘、ソフィーをベッドに降ろした。
「5日間程出かけるそうですね。お気をつけて」
ソフィーに毛布を掛け直して、『副官の妻』の顔に戻ったフェリシティ。
「戻ってきたら、パリはすっかり聖夜祭前の様相でしょうね。今年は、ラシェルはこちらへ?」
「いいえ、団の演習があるそうです。今度手紙を出しますけど、伝言はおありですか?」
「‥‥あい‥いえ、体にお気をつけて、と」
「‥‥‥‥かしこまりました」
フェリクスが飲み込んだ『愛しています』という言葉。紛れも無く事実であるのに、それは、相手が望む意味とは、余りに隔たっている。相手が望むようには、贈れない。それが分かっているから、彼は口を噤むのだ。
その頃、冒険者ギルドにて。
「訪問の準備は、調いそうですか?」
カウンターを挟んで立っている、ヴィクトルと受付嬢。
「ああ。順調にな。だから、改めて訪問に同行してくれる人員を募集したい。訪問先で行うことが決定しているのは、物資の頒布、復興作業の手伝い、劇の上演、炊き出し‥‥だな。準備は現在進行中だ」
「劇は、冒険者の方が?」
「ああ。‥‥何故か、分隊の人間も駆り出されているが‥‥」
とある女性騎士など『私に純白の女神役など無理ですっ』と半泣きであったが、それでも練習には参加している。
「どれを行うにも、人手が多いに越した事はない。料理に関しても、作りおきと、詳しいレシピを貰えるらしいから、心得の無い者にも協力して貰えるだろう。劇への参加は、役を変わってもらえれば、分隊の人間は大いに喜ぶだろうな。それから、準備の必要が無い事なら、この他にやってもらっても構わない」
「ふむふむ‥‥」
ペンを走らせる受付嬢。
「そういえば‥‥『ついで』の方は、どうなりました?」
『ついで』の依頼。即ち、フェリクス結婚(させよう)計画。
「正直、手応えは微妙だ。しかし、元々そういった向きの事は、わざと考えないようにしていた節があられたが、最近は意識せざるをえなくなっているようだ。まあ、前進だろう」
「わぁ、良かったですね」
「だが、ひとつ、ものすごく重要な点を見落としていた」
「な、何でしょう?」
「俺が‥‥というより、かなりの者が忘れている、あるいは、考えないようにしている事実のような気がするのだが‥‥。現在、基本的に隊長の意識を改変する方向で動いているな? それは、重要だ。しかし、結婚は‥‥1人では、出来ない」
「は?」
「つまり、隊長と結婚したい女性が居なければ、そもそもどうしようも無いわけだ」
「あっー‥」
「しかも、ブランシュ騎士団分隊長の伴侶とあっては、誰でも良いというわけにも行かない。‥‥だがまあ、こればかりは外野がどうこう出来る事ではないからな。こちらで出来るのは、結局隊長に働きかける事だけだ」
それすら、微妙に難航しているのだから。
「‥‥長くなったが、今回も主眼は慰問だ。その他はついでだから、あまり気にしなくて良い」
「了解いたしました」
と言いつつ、でも気になるよなー‥‥と思った受付嬢であった。
●リプレイ本文
出発の朝、顔合わせと最後の調整が行われている。
『今回からの参加になるが、宜しく頼む』
リディック・シュアロ(ec4271)が、ラテン語で告げた。準備から継続の者も居たが、今回加わった者も多い。
「お久しぶりです、フェリクス様。本当は、準備からお手伝い出来れば良かったのですけれど‥‥」
『天青の天使』リディエール・アンティロープ(eb5977)もその1人だ。
「今回だけでも十分有難いのですよ。戦乙女隊が揃われると壮観ですね」
その視線の先には、大天使の兜と鎧を纏い、槍を手にした『純白の女神』リリー・ストーム(ea9927)。
「最後に『女神』は地上に降り立ち、ネルガルに止めの鉄槌を下すのです」
村での演劇で『女神』を務める騎士に、その様子を説明している。始めに、心正しき者や勇敢な仲間を集め、天の啓示を与えるのですわ、とも。
「それを私がやるのですか‥‥」
生真面目なディアーヌは、顔を引きつらせた。
「こちらの方が皆さんの期待に応えられますわ♪」
「でしたら! ご本人が出演された方が‥」
ぽむ。肩を叩くリリー。
「私に恥をかかせないよう頑張ってね」
『女神』の慈悲は、彼女には及ばなかったようだ。
「『純白の女神』、素敵じゃないですかー。私も戦乙女隊に入りたいです」
劇の筋書きを確認しながら、『悪魔崇拝者』役アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)。
「アーシャ様の演劇が見れないのは残念ですわ。悪役なんて似合わないけどね」
こちらは、見送りに来たミシェル。
「実に楽しそうな計らいじゃないか! 僕に出来る事は、精一杯させてもうらうとも」
朝早くから高テンション。というか何時でも高テンション、ロレンツォ・アマーティ(ec4023)。
「人々に劇を見せて炊き出しして緑色の分隊長を結‥‥むぐ」
「一応、本人には秘密らしい」
後ろから口を塞いだのはエイジ・シドリ(eb1875)。準備に携わっていた妹に頼まれての参加である。妹エフェリアは見送りで、同じく見送りの副隊長と話をしている。
「私は今のままも良いかと思います」
フェリクスについて。彼は、幸せだと言っていたから。
「もしフォーレさんが結婚を望むとしたら、それはきっととても大きな愛の力です」
「‥そうだな」
だからこそ、ヴィクトルは思う。誰かそれを彼に注いではくれまいか、と。身勝手な希望だから、口には出さないけれど。
「皆さん、頑張ってきてください」
彼らが見送る中、騎馬と馬車数台が出発した。
「わぁっ、騎士様が来たよ!」
昼前、最初の村に到着した。かなりの人だかりが出来ている。揃いの鎧が、陽光にきらめいて美しい。整然と隊列を組み、堂々と騎乗する姿に見る者の目が輝く。
「‥‥戦乙女隊だ!」
ざわめきが、更に広がる。この村と周囲に住む人々は、かの災厄時パリに非難していた者ばかり。戦乙女隊の歌を聞き、あるいは目にしている者も少なくない。
美しい鎧に身を包み、ペガサスに跨り、白馬の手綱を引いたリリー。その隣を行くのは、夜の外套を靡かせたライラ・マグニフィセント(eb9243)。騎士団と歩調を合わせて進む、純白と漆黒の組み合わせは、人々の目を引いた。
「さあ、お着替えをお願いします♪」
騎士達に、楽しげにサンタ服を配るリーディア・カンツォーネ(ea1225)。
「プレゼント、これが男の子用で、女の子用はこれで‥‥。色んな意味でビックリされること請け合いです。いい笑顔で配りましょー♪」
と、『いい笑顔』の見本を振り撒いていた。
「この村は、緑だな」
色布を目印に、エイジが荷物を下ろしてゆく。荷物は、降ろす村毎に違う色布が目印に結ばれているのだ。
『了解した』
エイジの通訳を受けて、リディックも軽々と荷物を運んだ。荷物は、頒布する物、修理に使うもの、炊き出しの食材等に分けられる。
「ちょっと、おまけしてくれねえ?」
「申し訳ありませんが」
「そこを何とか!」
物資の頒布場。困り顔の騎士の肩に、リリーがそっと手を置き進み出た。今は鎧を脱いで、ぺプロスと女神の薄絹、という軽装だ。
「欲張ってはなりません。それは、あなたの隣人を困らせることに他ならないのですから」
語りかけられた村人は、ぽかん、とリリーを見上げている。
「よろしいですこと?」
こくこく。女神の微笑に魅了され、彼は振り子のように頷いた。
「はいはーい、並んで並んでー。男の子はこっち、女の子はこっちですよー」
赤いローブに白いつけ髭、緑色のワンポイント。サンタクロースに化けた騎士達が、子供に囲まれている。
「ありがとう! 大切にするね」
髪飾りを、キラキラの目で見つめる少女。
「どういたしまして。‥‥うん、良く似合ってる。それを作ったのはね、君みたいに綺麗な黒髪のお姉さんなんだよ。そっちの子の手袋は、エルフのお姉さん。え、ちょっと歪んでる? それも味。着けてみなよ‥‥そう、暖かいだろ? 作った人の気持ちが篭ってるからね」
子供を捌いて、要領良く配っていくロジェ。ちらりと、横に立つ同僚に目を向けた。
「‥‥ラザール、笑顔笑顔」
「‥うっ‥」
「隊長だって頑張っておられるんだ。‥‥いやー、いいもん見た」
ロジェの視線の先で、同じくサンタ服のフェリクスが籠を片手に贈り物。始めは渋っていたものの、リーディアの満面の笑みは無敵だった。
「もうすぐですかね」
鍋をかき混ぜながら、アーシャ。金の煙草入れと鉄人のナイフを使い、ライラが作っておいたレシピ通りにしたら、きちんとスープが出来上がった。
「そうですね〜」
リーディアも、鉄人のナイフで材料を刻んでいる。
「皆、様子はどうだい? なんとなく気になってね」
劇の準備をしていたライラが、様子見にやってきた。
「おかげさまで、順調です」
家事の心得はないリディエールだが、薬草の調合等は普段からしている為、その要領でレシピ通り丁寧に作ったら、何とかなった。
「それは良かった」
「お料理上手のライラさんと結婚できる方はとても幸せでしょうね」
アーシャが、ちらりとライラを伺った。
「そ、そうかな‥‥」
微妙に照れているらしい様子を見取り、橙分隊の人とはどうなってるんだろう、と想像を膨らませるのだった。
「そろそろいいか」
崩れた垣を修理し終わり、次の家へ向かったエイジ。周囲では、騎士やリディックが力仕事に精を出している。緑分隊が、騎乗用とは別に連れてきた馬も、工事や運搬に役立っているようだ。その様子や、子供に贈り物が配られている様子を、よく見ておく。妹に様子を聞かせてやりたいからだ。贈り物の製作も、妹は頑張ったようだから、子供達が喜んでいた様子は特にきちんと伝えようと思った。
「エイジさん、少々宜しいですか?」
リディエールに声をかけられた。
「インプ役の羽を作ってみたのですが‥‥」
木の棒に羊皮紙で皮を張って作った、蝙蝠の翼。背負えるように紐も付いている。
「どうでしょう? 動きづらくないですか?」
「問題ない。‥‥雑魚だからな、雑魚っぽく、雑魚の散様を見せてやろう」
1度背から降ろして、エイジが少々作りを補強し、完成。あとは、出番を待つばかり。
「お空を飛んでみたい人〜」
問いかけに、子供達が目を丸くしている。リリーは、やんちゃな姪の相手である程度慣れているから、と子供達の相手をしていた。
「飛べるの?」
「ええ。‥‥ロズヴァイセ、よろしいかしら?」
答えるように、ペガサスは鼻を鳴らした。
「きゃ〜!」
片手で手綱を、もう一方で子供をしっかりと抱いて、1人ずつ。
「すごい、すご〜い。いつもいばってるお兄ちゃんが、ちっちゃい」
その『お兄ちゃん』は、地上でインビジブルホースが消えたり現れたりするのに、驚いている。
「神さまや天使さまって、いつもこんな風にみてるのかな?」
「そうですわね‥‥」
リリーは、子供を、きゅ、と抱きしめた。
『探したぞ』
『おや、どうしたんだい、リディック君』
『劇の衣装合わせだそうだ』
『おお、済まないね。彼女達に神の教えを説いていたら、時間を忘れてしまったようだ。しかし、美々しく着飾って人々の目を楽しませるものまた、僕の使命。すぐに行くとしよう』
聖書を仕舞って立ち上がるロレンツォ。
「それでは、君達、また後で」
『すまないな、お嬢さん方』
にっこり。言葉は通じなくとも笑顔は共通。
「格好いい人だったね!」
暫く、村娘達の話の種になったようだ。
「悪を挫く為に集められた‥‥それが、私達」
舞台の上、堂々と語る『女神』。
(あら、きちんと出来てるじゃない)
と、リリー。
「あれがお姉ちゃん?」
「そうよ♪」
膝の上でパンフォルテを齧る子供に、優しく微笑んだ。
「はっはっは! 雑魚は退きたまえ‥‥しかし、数が多いな」
高笑いの『天使』ロレンツォ。インプ役のエイジは、簡単にやられては退場し、再び登場する。後から後から湧いてくる様子といい、前かがみに歩き、跳ねる様子といい、実にインプらしい。
「神を信じるのです‥‥私達は、パリの平和を守る神の使途、戦乙女隊!」
『真紅の宣教師』が言い放つ。
「今頃、劇をやってるんだろう? 見に行きたかったねぇ」
村人の中には、床を離れられない者も居る。毛布の上に置かれた皺だらけ手を、リーディアはそっと両手で包んだ。
「私でよければ、内容をお話します。‥‥それに、こちらのリディエールさんは、本物の『天青の天使』さんなのですっ」
「あらま、女の人だったのかい?」
否定すべきか否か思案しているうちに、老婆は納得してしまったようだ。
「‥‥この薬草は寝る前に。気持ちが安らぎます。取りすぎると、少々頭が痛みますので、量は正確に」
薬草と、淹れたばかりのハーブティーを差し出す。
「どうもありがとうね。劇が終われば孫が様子見に来てくれるから、もう大丈夫だよ」
穏やかな笑顔を見て、まあいいか、と思い直すリディエール。少々、凹みはするけれど。
「孫といえば‥‥今日2本足の猫を見たとか言ってたねぇ。何なんだろうね」
ぎくり。
何故か付いてきたケットシー、シャルトリュー。人前で立ってくれるなと言っておいたのに‥‥と頭を抱えたリディエールだった。
舞台は、進む。戦乙女達は数々の罠を乗り越え、人質の家族を励まし、とうとう最後の敵、ネルガルへ辿り着いた。
「ネルちゃん、観念するさね」
剣をかまえる『聖女』ライラ。
「ネルガル様、ここは私に任せてく下さい」
進み出たのは、地味な服装に、深く兜を被った『悪魔崇拝者』アーシャ。剣に見せた棒切れを構え、『聖女』に飛び掛る。
「はっ」
カァン!! 打ち合わさる2人の剣。
「くっ‥‥なかなかやるのさね」
打ち合わせの通り、2合、3合と剣を交える。あまりの迫力に、観客は完全に舞台に呑まれていた。そして‥‥
「ぐぁぁっ、ネルガル様に栄光あれーっ!」
善戦の末『悪魔崇拝者』は敗北。倒れ込む形で、舞台裏へ退場。
そして。
ガキィン! 立ち尽くすネルガルの足元に、槍が突き刺さった。
「今日こそ決着をつけて差し上げます!」
『女神』光臨。光の変わりに、白い花が降り注ぐ。
「滅びなさいっ」
ネルガルは倒され、人質は家族と再会。その姿を、戦乙女達は優しく見守り、やがて、次の使命の為に去ってゆくのだった‥‥。
舞台は、盛大な拍手に彩られた。
「上手く行きましたね。お疲れ様です!」
舞台裏で、兜を脱ぐアーシャ。
「ロレンツォ殿は、あんまりリディー殿っぽくなかったがな‥‥」
銀の髪と青い瞳に、女神の薄絹、フェザーマント、ミスティックショールが良く似合って美しい‥‥が、何かが大きく違う。
「いやあ、ここはひとつ、彼にも大胆さに目覚めて欲しいものだけどね。‥‥まあ、仕方ない。明日からは少し抑える事にしよう」
慰問は順調に進み、どの村でも冒険者と騎士団は歓迎された。
「えへへー。1回着てみたかったんです!」
最終日、『純白の女神』装備に身を固めたアーシャ。戦闘場黒竜に乗って、決めポーズなどとってみる。
「あまりはしゃがないの‥‥」
リリーの呆れ顔もなんのその。もう限界、と音を上げたディアーヌに変わり、今日は彼女が『女神』役だ。
「任せてください! 4回も見ましたから、完璧です」
某演技指導の歌姫が見たら『そんな簡単じゃないわよ』くらいは、言ったかも知れない。
「5日間、お疲れ様でした。大変助かりました。村の皆さん、喜んで下さったようです。お土産まで頂いてしまいました」
ご自分達も楽ではありませんのに‥‥とフェリクス。
リーディアは、その横顔を見つめた。村々で、彼は子供たちと楽しそうに交流していたが‥‥まだ、結婚する気は無い‥‥のだろう。皆、心配しているのだが。
「あの、フェリクスさん‥‥誰かの幸せが幸せ、という方は、大概ふとした時に寂しさや孤独感を感じるものです。そういった時、側で支えてくださる存在が必要だと思うのですが」
はふ、とリーディアが息をついた。
「‥‥私には、あなたの方がよほど他の幸せを己の幸せとしているように見えます」
「そ、そうでしょうか‥‥。でも、私は聖なる母に仕える者ですから」
『白』の神セーラは慈愛神。その御手を務めるかの如く、彼女は惜しむことなく、広く他を慈しむ。
「‥‥ええと、聖夜祭にお見合いパーティーが行われるのは知ってますでしょうか? せめて参加するだけでも‥‥と、思っているのですが」
そういえば、アーシャにも『気負わず、気軽に参加してみては?』と言われた。『異性と楽しくおしゃべりして、おいしい料理を食べるだけでも』とも。
「‥‥他の方々のやり取りを眺めるもよし、王様のお相手探しや色々けしかけ‥‥ごふごふ‥‥とかもできますよっ」
「陛下のお相手‥‥」
「フェリクスさん?」
じっと見つめられ、リーディアは、きょと、と首を傾げた。
「年の頃も‥‥いえ、何でも」
その様子を、少し離れた場所で見ていた面々。
「『月白の智者』ならお似合いかもしれないが、種族がな」
とライラ。彼が愛し、彼を愛する事の出来る相手がいればな、と思う。無理にとは言わないが、自分の幸福も追求して欲しい。
「あまり興味は無い」
したいと思う美少女がいるなら影ながら応援するが、とエイジ。
「お見合いパーティー薦めてみたんですけど、反応が微妙でした。過去に何かあったのかしら? 触れようとは思いませんけど、過去で立ち止まるよりも歩いていた方が楽になれるのに」
これは、アーシャ。
「う〜ん、結婚か‥‥結婚なんて一生物なんだから、したいと思った時にするのがいいんじゃないか? まぁでも、一度しか無い人生なんだから、色んな事を経験するのが良いと僕は思うけどな」
僕の知り合いの美女の中から見繕って紹介してもかまわないけどね! とロレンツォ。
いずれにしろ、本人にその気が無さ過ぎだ、というのが、共通の見解のようだ。
訪問団が、村を後にする。夕日に照らされた人々の笑顔が、今回の成功を物語っていた。