昨日の夢を胸に抱き
|
■ショートシナリオ
担当:紡木
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月18日〜12月23日
リプレイ公開日:2007年12月20日
|
●オープニング
紅く染まる瞳は夕焼け空の色
手を繋いでみていよう 夜の帳が降りるまで
「闇に瞬くひかり、ひとつ、ふた‥‥けほっ」
ハールエルフの少年が、窓から夕日を眺め、歌っている。
「‥‥やっぱり、まだ難しいな」
少し前に聞いた歌。とても綺麗で、大好きな。でも、リュシアンにはきちんと歌えない。
「すっごい、上手だったな、バードさん達」
ぽつ、と呟く。そして、代わりに収穫祭の歌を歌った。こちらは、皆で歌うためのものだから、リュシアンでも大丈夫。
「そろそろ、季節外れじゃない?」
声を掛けられて、振り返る。
「でも、他の歌知らないし」
「子守唄は? 母さんが、よく歌ってたじゃない。父さんも、時々。父さんはあんまり上手じゃないけど」
くす、と笑みを漏らしたのは、リュシアンの妹、アメリー。ただし、アメリーは父親の違う兄妹で、人間だ。
「子供が居ないのに、子守唄って、おかしいから」
「まあ、そうだけど」
そう言って、アメリーはリュシアンの隣に腰掛けた。
「私、リュシアンの歌、好きよ。とっても、きれいだもの」
「ありがとう」
リュシアンは、小さな嘘をついた。子供が居ないから、歌わないのではなくて。
あの日、真夜中に目が覚めた。
「あ‥‥」
耳鳴りと、動悸と。言い聞かせる。あれは、夢だ。今はどうしようもない、過去の話。悲しくて、大切な、記憶。
目を閉じて、息を吸って、飛んでゆきそうになる理性をかき集めて。
少しずつ、波が引いてゆく。やっと体が自由になった時には、汗でぐっしょりと塗れていた。
風に当たりに庭に出ようとして、先客に気が付いた。だから、壁に背を預け、窓枠の下に腰掛けた。風に乗って、微かなすすり泣きが聞こえる。
アメリーが、時々1人でこうしているのは知っていた。そして、それを自分に知られたくないと思っている事も、何となく感じていた。それは、原因が自分のせいだからだと、思っていたのだけれど‥‥
「‥‥さん」
その呟きに、本質的に妹を救える人は、たった1人‥‥もう、この世には居ない、たった1人なのだと、悟った。昼間、歌える歌が無かったから、子守唄を歌った。アメリーは懐かしそうに聞いていたけれど‥‥思い出させて、しまったのかも知れない。
「母さん‥ごめんなさい‥‥」
目を、閉じる。リュシアンでは駄目だ。父でも、多分。
隣に座る、妹の横顔。あと少しで、18歳。今はこうして一緒に居るけれど、それぞれの道を進むのも、そう遠い未来ではないのかもしれない。まだ、自分は1人で生きてゆくことは、出来ないけれど。
早く、しないと。
リュシアンとアメリーは、生きる速さが違うのだから。
その夜、リュシアンは仕事から帰った父に相談を持ちかけた。
「ああ、それなら、丁度良い話が来てる。前お見合いしたアルヴィナの坊ちゃんがな、またアメリーをパリに呼んでくれたんだ。聖夜祭前で、綺麗だからって。まあ、また練習台ですけど、って但し書きも付いてたけど」
「そっか。その間、父さんは?」
「聖夜祭向け荷物の護衛件案内の仕事が入ってる。リュシアンの事はまたギルドに頼んでくれるらしいから」
その言葉に、リュシアンの胸が微かに高鳴った。また、あの人達に会えるかも知れない。
「アメリーは、時々でも、少し離れた方が、いいんだ」
そうしないと、2人して、見えない迷路に閉じ込められてしまうから。
●リプレイ本文
「やぁ、久しぶりだね」
「やっほー、元気してた?」
まず家に入って来たリフィカ・レーヴェンフルス(ec1752)とラファエル・クアルト(ea8898)を認め、リュシアンがほわりと笑った。
「こんにちは」
その顔を見て、リフィカがくすりと笑った。大分、表情豊かになったものだ、と。
「リュシアン君には、私の又従妹のレミアを紹介しよう。仲良くしてやってくれると嬉しいよ」
入って来たのは、褐色の肌に赤い髪の少女。
「はじめまして! レミア・エルダー(ec1523)です。宜しくお願いします♪ んと‥リュシアンさんとは同種族で歳も近いし‥お友達になりたいんです。リュシアンって呼んでいい?」
「う、うん」
「良かった。私の事はレミアって呼んでね」
笑顔が眩しくて、少し圧倒されるリュシアン。
「レミア‥歳、いくつ?」
「暦では28歳ね」
実際は14歳といった所か。
「それで、冒険者なんだ。すごいね」
「普段は傭兵だけど」
「‥もっと、すごいと思うよ」
思わず、顔を見上げるリュシアンだった。
「家事も出来るんだ」
部屋を掃除してゆくレミアとラファエル。ラファエルが家事上手な事は知っていたが、レミアも負けていない。2人を見習いながら、リュシアンも布巾を絞る。普段から手伝うようにはしているが、「手伝い」の域を出ない。この機会に、出来る事を増やそうと考えていた。
「私の生業は、子守なの」
水桶を置きながら、ラファエル。
「え、でも」
汲んだばかりの水は冷たく、ひや、と背中まで痺れた。
「私に預ける人がいるかって?」
躊躇いながら頷いた。彼はハーフエルフだ。
「逆よ‥ハーフだから、同属の赤ちゃんの世話とか、ね」
「そっか‥‥」
ハーフの子供は、普通の子守には預け難い。リュシアンのように、突然狂化する事もある。
「‥‥あのね」
見覚えのある棚を磨きながら、ラファエルが目を伏せた。
「‥‥前もらった四葉、ちょっと諸事情で‥なくしちゃったの‥ごめんね。でも、あれのおかげで、仲間の命が助かった‥‥ありがとう」
リュシアンは、息を呑んだ。
「その人、大丈夫?」
「ええ。今はもう」
息を吐く。冒険者なのだ、彼らは。明日は、命懸けで戦っているかも知れない人達‥‥。
「来年、また貰ってくれる? その人の分も‥レミアも‥‥」
「ええ。また一緒に探しましょう」
「うん、約束ね」
だからこれは、その日まで無事であって欲しいという願い。
「妹からの贈り物だ」
夕食を済ませた後、リフィカはリュシアンに竪琴と手紙を渡した。
「フィエーラさんの?」
手紙には、竪琴はお古だが良かったら使って欲しい、という事と‥
「僕によく似たエルフのバード?」
‥に、依頼で出会ったとあった。
「ふうん? ‥‥バード‥名前、分る?」
「いや、私は聞いていないが」
「そっか」
ポロン、と竪琴を弾いた。お古だが、とあったが、新品よりも嬉しい。彼女は、生きる術を身に付ける為にバードになった。この楽器にはその研鑽の記憶も刻まれているのだろうから。
「音の合わせ方、教えてくれる?」
竪琴を抱えて、ラテリカ・ラートベル(ea1641)に声を掛けた。折角貰ったけど、リュシアンには調律の仕方も分からない。
「いいですよー」
一本ずつ合わせてゆく。
「リュシアンさんは、音楽に興味がお在りでしょか?」
「‥‥ちょっと。ね、仕事って、どうやって決めるの?」
「そですね‥理由は、好きだから、得意だから、お家のお仕事だから‥いっぱいです」
ポロン、ポロン‥少し歪んでいた音階が、心地よい流れに変る。
「ラテリカのお仕事は吟遊詩人です。音楽のお勉強や、お月様の精霊とお話する訓練をしたですよ。今でも、お勉強中です」
調弦の終わったそれを抱え、一節、旋律を奏でる。
「歌も、演奏も、ただ音にするだけではいけないですよ。嬉しい気持ち、悲しい気持ち。それを伝える為には、自分がその気持ちをちゃんと知らないといけないです。色んな経験をする事が、音楽家には必要なのですよ。‥‥受け売りですけど。それは、音楽家じゃなくても同じ思うです」
「色んな‥‥」
「あんまり早く走ると、前しか見えないですし、すぐ転んじゃうですよね。ラテリカは‥周りで頑張れって言ってくれる人のお顔が見えないは、悲しい思うです、リュシアンさん」
「‥そう、だね‥‥」
竪琴を受け取る。
「この間のお歌、素敵だったですね」
ふと、収穫祭前の事を思い出したラテリカ。
「ラテリカさん、歌える?」
「はいです。一緒に歌いましょうか?」
「所々、難しくて‥教えて欲しい」
「ピクニックなのです〜♪」
のそのそ。ゾウガメが、エーディット・ブラウン(eb1460)を乗せて歩いている。
「寒くない?」
防寒服の前を掻き合せながら、ラファエルが尋ねた。
「大丈夫」
リュシアンの手には毛糸の手袋。エーディットからのプレゼントだ。今朝、綺麗に包装されたそれを渡されて、驚いた。
「すごく、あったかいから」
聖夜祭のカードを作る為、近くの森まで材料集めにやって来た。
「探すのは、木の実や小さな木ですね〜。実の生る木の根元とかを探せば見つけられるかも〜。‥あ、リュシアンさん〜」
エーディットに手招きされて、駆け寄った。
「大きな木‥‥」
見上げると、首が痛くなりそうな程。
「この大きな木々は何十年もかけて育ったのですよ〜。歩く早さは人それぞれ、種族や性別は関係ありません〜。リュシアンさんはリュシアンさんのペースで進めば良いのです〜。生きる事を急がない、それが自分を鍛えるコツです〜」
「でも‥‥」
「大丈夫、私にも出来た事ですから、きっとリュシアンさんにも出来ますよ〜」
「あ‥‥」
エーディットは、エルフ。エルフは、一般的にエルフの集落で暮らすという。しかし、彼女やラテリカのように人間と交じって生活していると‥‥置いて行かれることも、あるだろう。それでも、2人とも急がない。自分の速さで生きている。
そして‥‥ラファエルは。
「リュシアン。あせるのも、一生懸命になるのもわかるわ。‥‥痛いぐらい」
枝を拾いながら、ふと、語りかけた。
「でもね、いいこと? がむしゃらに走りすぎて、今一緒にいれる時間を大事にしないのはもったいないのよ。走ることも必要、でも、全力過ぎて‥‥大事な思い出をぽろぽろ取りこぼしちゃ、いけないの」
「うん。ねえ、ラファエルさんは‥‥」
言葉を、捜す。同じハーフエルフ。でも、リュシアンやアルフィエーラは置いていかれる者、そして‥‥彼は、置いてく者だ。
「やだ、気付いてたの?」
しどろもどろに言葉を紡ぐと、ラファエルは苦笑した。
「何となく」
青い瞳を見上げる。それが夕焼け空の色に染まるのは、あまり想像できないけれど。
「そうね、さっき言ったのと同じ。一緒にいれる時間を大事にしないのはもったいないのよ」
そうやって、彼はいつか来る日の前に、思い出をひとつひとつ、重ねてゆくのだろうか。
「‥‥‥‥」
「さ、そろそろお昼にしましょ」
言葉の見つからなかったリュシアンは、ただ、頷いた。
日溜まりを見つけて、輪になって座る。ラファエルとレミアの用意した弁当は、皆に好評だった。
「甘くておいしい」
レミアの作ったアーモンドのタルト。パリの市場で材料を購入し、村に持ってきて作ったもの。蜂蜜の優しい甘みが心地よい。
「あちらに丁度小さな木があったよ」
と、リフィカ。ツリー用の木を探す、と聞いて、リュシアンは最初驚いた。村の聖夜祭では、広場の大きな樅の木を飾り、家の中に置くことは無い。でも、パリには若木のツリーという物もあって、部屋に飾る事もあるのだそうだ。
「スコップの出番ですね〜」
エーディットが、ゾウガメからスコップを下ろした。木を枯らさないように掘り起こし、藁で土ごと根を覆う。持って帰って鉢に植え替えるのだ。リュシアンも、作業を手伝った。手が空いたときには、リフィカが毒のある植物や、獣避けの鳴子の作り方を教えてくれた。
「レンジャー‥かぁ。父さんも、レンジャーだよ」
「リュシアン君は、レンジャー業に興味があるかい?」
「うーん‥?」
「何にしろ、今は自分のしたい事を見つけて、見つけたら只管突っ走るといい。無茶苦茶をしたっていいんだ、フォローは私達が何とかするからね。君は若い。だから今しか出来ない事を見つけて自分を高めるんだ」
リュシアンは、少し驚いた。焦らないように言われてきたから。彼は、寿命の短い人間だから、考え方も違うのだろうか。
「1人立ちしたくて焦る感覚には、私も覚えがあるし」
ふと、リフィカが考え込む。
「ああ、ただ、焦る事と、走る事は違うかな。走るには、目標が必要だからね」
そして、立ち止まっていても焦る事は出来るが、動かなくては走る事は出来ない。
「リフィカさんのしたい事って何?」
「生業が学者でね。遺跡研究をしているが‥‥まぁ趣味がそのまま職業だね」
「それ、いいなぁ」
特に趣味のないリュシアンには、羨ましい。
「お歌、歌ってみましょか? 皆さんも♪」
帰り道。リュシアンはラテリカと手を繋いで練習した歌を歌った。きちんと教えてもらったら、難しい所も歌えるようになった。日の入りの早い空に、歌声が上る。
日がすっかり落ちた頃、家に帰り着いた。
「寒さむですね〜」
むにむに。エーディットが、真っ赤になっているラテリカとリュシアンの頬をむにーっと手で包んだ。
「今、お茶淹れるわね」
ラファエルが火を入れて、湯を沸かす。
「ラテリカ、ジンジャー持ってきたです。蜂蜜も」
「あら、いいわね。あったまるわ。リコリスのクッキーも持ってきたから、皆で食べましょう」
お夕飯前だから控えめに、出されたクッキーは、独特の風味で、ほんのり甘かった。
「木は、聖夜祭が終わったらお庭の邪魔にならない所へ植えておいてくださいね〜。きっとリュシアンさんと一緒に成長して行ってくれますよ〜」
うきうきとツリーを飾るエーディット。
リュシアンは、羊皮紙に、小枝や、木の実を貼り付け、飾り、聖夜祭のカードを作っている。
「未来のために、も大切。でも‥‥今一緒にいることへの感謝と喜び。それを形にして伝えましょう♪ あなたの言葉で」
ラファエルが、ぽす、とリュシアンの頭を撫でた。
「うん。‥‥皆は?」
髪も、木の実もまだ余っている。
「そうね‥‥」
くす、とラファエルが微笑み、1枚手に取った。
「私もお兄ちゃんに書こうかなぁ」
スペイン語で文字を綴るレミア。
「ラテリカは旦那様と‥‥おししょさま?」
ツリーに、飾りをつけた毛糸や紐を巻きつけていたラテリカが振り返る。
その後、余った柊でリースもつくり、部屋を飾った。
カードと飾り付けの後、少し早めの聖夜祭パーティーをした。
「美味しいな」
レミアとラファエルの料理を皆で楽しむ。
「リフィカ兄も、少しは家事覚えたら? リュシアンは、少し出来るようになったんだよ」
と、レミア。並べられた品の中には、リュシアンが手伝ったものもある。
「お歌も、上手になったですよ」
「それは素敵です〜♪ 是非聞いてみたいですね〜」
「ええ‥?」
躊躇っていたリュシアンだが、皆に促されて覚悟を決めた。弾き語りは出来ないので、竪琴をラテリカに渡し、伴奏を頼む。
「‥紅く染まる瞳は‥〜♪」
まだ拙いけれど、歌う様子は懸命で、澄んだ声はよく響く。泣き、叫び、枯果てた声も、優しく震える歌声も、同じ、1人の子供の声なのだ。
ラファエルは、その声に目を細めた。もしかして、お母さんがバードだったのかしら、と思いながら。
「ううん、違うよ。歌は、好きだったけど‥」
観客の拍手に頬を染めながら、リュシアンが答えた。
「僕も、まだ下手だけど‥‥」
「その歌の作者さんも、長い鍛錬を経てあの位上手くなったのでしょうね〜」
だからゆっくりでいいよ、と言外に告げるエーディット。
「うん。‥ラテリカさんの歌も、聞きたいな」
「えへへ。それでは、一曲」
少し早目の、小さなパーティー。穏やかな時間が、ゆっくりと過ぎていった。
「ちょっと、話しよっか」
5日目の朝。レミアはリュシアンを、愛犬エステルの散歩に連れ出した。
「生業の話とかしようかなって」
「傭兵、だっけ?」
「そう。一般の人の護衛とかが主な仕事かな」
「すごいね‥‥」
一見細そうな腕は、よく見るとしっかり鍛え上げられている。
「実家は一応下級貴族で代々、騎士の家系だけど‥‥私はハーフエルフで女だからって‥‥騎士になる為の修行を受けさせて貰えなかったんだ‥‥だから、剣の腕だけでも騎士に近くなろうと思ってファイターになったの。あ、5歳年上のお兄ちゃんがいるんだけどお兄ちゃんはハーフエルフへの差別にも負けず頑張って騎士になったんだよ!」
少し俯けていた顔を上げる。
「私はお兄ちゃんを助けて、いつかは騎士になって、家族の為領民の為に尽くしたい。そんな目標を持って毎日を生きてるよ。リュシアンも1人立ちを目指すなら、何か抽象的でも良いから目標を持つのがいいんじゃないかな?」
「うん。‥‥1人立ちが、目標‥なんだけど‥‥」
もうちょっと、具体的な方が良いだろうか。
「昨日ね、バードって、どうやってなるのか、聞いたんだ。ラテリカさんに‥」
仕事にしたいかはまだ分からないし、ハーフエルフでもやっていけるかも不明だけれど、は歌う事は好きだと思った。楽器もきちんと弾けたら楽しいだろうな、と。でも、バードになる為には、音楽を学んだ上で、師匠を見つけなければならないのだそうだ。
「そんな人、居ないし‥‥でも、父さんに相談してみようと思う」
レンジャーの父は、結構顔が広い。
「でも、そうしたら‥‥」
師匠が見つかったその時は、リュシアンは、家を出ることになるだろう。
「まだ、決めた訳じゃないんだ。すぐには、無理だし‥‥」
狂化の問題がある。
「でも、目標があると、世界が違うと思うよ」
「そうだね‥レミアも。応援してる‥‥人の為になりたいって‥‥すごく、立派な目標だと思う」
「うん、頑張る。‥‥あ、エステル、待って!」
「それじゃあ、またね」
「またお会いしましょう〜♪」
帰ってゆく冒険者に、リュシアンは手を振った。後ろ姿を見送る。
焦って大事な事を見逃すのは悲しい、という人がいる。若いのだから、好きなだけ走れば良い、という人もいる。どちらも、その人の経験とリュシアンを想う気持ちから言ってくれたのだと分る。
「僕は‥‥」
意見は貴重で、でも絶対は無い。だから、リュシアンは自分で選ばなくてはならないのだろう。
「ただいま、リュシアン」
その日。パリから戻ったアメリーは、卓の上の、包装された包みに気が付いた。開いてみると、アメリーと父ユルバンに宛てた毛糸の手袋。
『皆さんに夢と希望と祝福がありますように』
エーディットからの贈り物。アメリーは、カードに添えられた気持ちごと、贈り物を抱きしめた。
「ね、兄さん。私達、ずっと、一緒よね‥‥?」