聖夜に響け、愛の歌! 〜予行演習

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月13日〜12月16日

リプレイ公開日:2006年12月20日

●オープニング

「退屈だわ‥‥」
 シャルロット・ブランは、呟いた。
「退屈で、憂鬱」
 今度は、小さな溜息とともに。
「退屈で、憂鬱で、苛立たしいわね」
 もう少し、声を大きくしてみる。後ろで、わざと聞いていない振りをしている、彼のために。
「空って、こんなに、退屈な色だったかしら。雲って、ここまで、憂鬱だったかしら。風って‥‥」
「なんだってんです、お嬢さん」
 青年が、観念したように、声を掛けてきた。溜息交じりで。
「あら? あなたには、なーんにも言ってなくてよ」
 憎まれ口を、叩いてみる。それでも彼が「そんなら、いいです」と、言わないでいてくれるのを、知っているから。
「連日の雨が、やっと収まった、久方ぶりの晴間でしょうに。一体、何が不満なんですか」
「退屈なのよ! だってあなた、近頃ちっとも構ってくれないじゃないの」
 青年が、溜息をついた。
「しょうがないでしょう。忙しいんですよ。ここのところの天候不順で、旦那様と奥様は、なかなか出先からお戻りになれないし、物資はあちこちで必要だし」
 連絡が取れなかったため、ここ数日は安否も分からず、彼らは随分気を揉んだのだ。今朝方、やっと無事であること、数日後にはパリに戻れることが、シフール便で届いたのである。しかし、そうやって安堵した途端に、退屈の虫が騒ぎ始めたらしい。
「そうね、それもあるわね。でも、大雨の前だって、あなたはちっっっとも構ってくれなかったわ」
「だから、その時も仕事が立て込んでて‥‥」
「違うわ。忙しかったのは、仕事の量じゃなくて、あなたが2日も無断欠勤したせいじゃないのよ! リュック・ラトゥール!」
 青年の名前は、リュック・ラトゥール。ここ、ブラン商会の奉公人である。
「だから、あれは『無断』欠勤じゃないって、言ってるでしょう。旦那様には、きちんと話を通してありました」
「私は知らなかったわよ! お休みは、収穫祭の1日だけって、言ってたじゃない」
 シャルロットは、その商人夫婦の娘。今年で14になった。
「お父様から、家で寝付いてるって聞いたから、心配して様子を見に行ったのに、あなたったら!」
「‥‥いや、あのことは、申し訳なかったと思ってますけど」
「あなたったら、あなたのご両親にご挨拶していた私に向かって『廊下でキンキン声出してんじゃねぇ!』とか怒鳴ったわよね? しかも、寝付いてた理由が、収穫祭で飲みすぎて三日酔い! 二日じゃなくて『三日』!! なんて情けないの」
 部屋の外の声が、まさか自分の見舞いに来たシャルロットのものだとは思わなかったのだ。てっきり、近所の子供が入り込んで騒いでいるとばかり。滅多に本気で怒鳴ったりはしないリュックだが、ドア越しの高音に、ピンポイントで三日酔いの頭を直撃され、つい‥‥。
「そんなわけで、あなたには私のために働く義務があるわ」
「はぁ‥‥」
 もう、訳が解らない。大体、彼の仕事は店の切り盛りの手伝いであって、シャルロットの相手ではないのだ。しかし、リュックは、どうも彼女には弱かった。この店の従業員は、彼1人である。まだ店が小さかった頃、13で奉公を始め、その後店が大きくなるにつれて、主人夫婦だけでは手が追いつかなくなった重要な仕事も任されるようになり、今では、仕入れ等で留守がちな彼らの代わりに、家宰のような役割を果たしている。その間、シャルロットの面倒を見ることも多く、彼女もリュックに良く懐いた。主家の娘ではあるけれど、妹のように思っているのである。
「つまり、何をすりゃいいんです」
 シャルロットは、得たり、と微笑んだ。リュックは、優しい。いきなり見舞いに押しかけた挙句、拗ねまくった自分に「だったら来なければよかったのに」とか「来て欲しいなんて言ってない」なんて事を、絶対に言わない。ただ、悪いことをしたと、本気で謝ってくれる。自分が傷ついたのではないかと、心配してくれる。あんまり優しくて心地良いから、つい甘えてしまうのだ。
「愛の言葉が聞きたいわ」
「はぁぁぁ?」
 持っていた商品を、落とすところだった。危ない、この花瓶は結構高価だ。
「あ・い・の・こ・と・ば、よ。それも、色んな人の。愛って言っても、色々よね。恋人、夫婦、親子、友達。だれかが、愛しい相手に宛てた、暖かい言葉が聞きたいの。架空の相手だって、構わないわ」
「‥‥申し訳ないですけど、俺には無理ですよ。そのテの話題は、今ちょっと痛いっていうか」
「何よ、まだ引きずってるの? たかが失恋じゃないの」
「え、なん‥‥っ‥‥知っ‥‥!」
 途端、リュックの顔が真っ赤になった。まさか、シャルロットが知っているとは思っていなかったのだろう。でも、何で知っているかなんて、教えてあげない。だって、何だか悔しい。本当は、それが彼にとって「たかが」ではないことくらいよく解っているのだ。
「別に、あなたに期待なんかしてないわ。あのね、大会を開こうと思うのよ。だから、出場者を募集してきて欲しいの」
「はあ」
「ずばり『聖夜に響け、愛の歌! 〜予行演習』よ!!」
 リュックは、しばし、どこからツッコミを入れたらよいのか、悩むハメになった。
「聖夜祭は、もうちょっと先でしょう。ってか、予行ってなんですか」
「先だから、予行なのよ。ここで愛の言葉をしっかり伝えておけば、聖夜祭を仲良く過ごせるじゃないの。もし失敗しても、当日失敗するより、傷は浅いと思わない? それに、必ずしも相手に伝える必要はないのよ。私が聞ければいいんだから。そしたら、本番で言う時の練習になるでしょ?」
 それは、そうだ。そうなのだが、何かが間違っている気がする。何かは分からないが。
「ってか、お嬢さん、聖夜祭まで待てないだけでしょう」
「あら、バレた?」
 バレバレです。と、リュックは溜息をついた。まさか、聖夜祭当日にまで、何かたくらんでいるんじゃないだろうか。こちらは、杞憂であってほしい。

 翌日、冒険者ギルドの壁に、一枚のビラが張り出された。

『聖夜に響け、愛の歌! 〜予行演習』参加者募集。
 恋人、配偶者、親、子、友人、ペット等に宛てた、愛の言葉を募集します。
 対象は、未来の恋人、いつか出会う運命の人等の、架空の人物、また、大地や町、国等の、生物以外でも可。
 発表形式  自由
 会場    ブラン商会前
 審査員   シャルロット・ブラン
 参加賞有り。上位数名には、賞金と商品を贈呈。

「こんなのに、人が集まるのかねぇ‥‥」
 リュックが、溜息交じりに呟いた。

●今回の参加者

 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea2113 セシル・ディフィール(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

シェアト・レフロージュ(ea3869

●リプレイ本文

「なんか、思ったより盛大になりましたねぇ」
 当日の朝、リュックが、感心したように呟いた。そもそも、彼は大会が成立するかどうかも怪しいと思っていたのだ。それが、早々に4人も出場者が集まったばかりか、彼女達は、会場設営まで手伝いに来てくれたのである。
「飾りつけ、すごくキレイになったわね‥‥特に、このリース」
 シャルロットが指差したのは、ユリゼ・ファルアート(ea3502)お手製のリース。ハーブを沢山使ったそれは、乾燥させておけば聖夜祭まで使えるらしい。緑のハーブと、赤に金縁のリボンの色合いが鮮やかである。
「告白の予行のつもりだったけど、パーティーの予行も出来ちゃうわね。お姉さん達に、折角だからダンスの予行もしたらって、言われたの。最後に、入れてみようと思うのよ」
 楽しそうにはしゃぐシャルロットの様子に、リュックも嬉しそうだ。

「うーん、やっぱり‥‥」
 クリス・ラインハルト(ea2004)が、遠目にリュックとシャルロットを見つめ、首をかしげた。
「どうかしましたか〜」
 そこへ、エーディット・ブラウン(eb1460)が声をかける。
「準備の時から思ってたんですけど、シャルロットさんって、リュックさんのこと‥‥」
 クリスの対人鑑識能力を知っているエーディットは、顔を輝かせた。
「本当ですか〜? リュックさんは今独り身ですし〜。お似合いかもしれませんね♪」
「ただ、リュックさんは、完っ全に『妹扱い』なんですよね、これが」
 そう言って、苦笑する。
「あう、残念です〜。‥‥でも、未来のことは分かりませんよね〜? こんなの、どうでしょうか〜?」
 そう言って、クリスに何か耳打ちをする。
「わぁ! 面白そ‥‥じゃなくって、素敵ですね。ボクが、他の方にも伝えておきます!」

 そして、開始の時刻。シャルロットが、壇上に立った。
「皆様、本日はブラン商会主催『聖夜に響け、愛の歌! 〜予行演習』にお集まりいただき、誠にありがとうございます。主催者の、シャルロット・ブランと申します。4人の出場者の皆様から、一体どのような愛が語られるのか、私も非常に楽しみにしております。会場もこのように、この方々のお力添えのお陰で、素晴らしいものとなりました。予行ではございますが、皆様にもお楽しみいただけることを、願っております」
 礼を取ると、拍手が広がった。14歳とはいえ、そこそこ大きな商家の娘。この程度の挨拶ができなければ、務まらないのである。
「それでは、言葉の披露に移らせていただきます。愛の言葉であれば、相手、形式は自由。審査は、お客様の反応と、主催者の独だ‥‥ごほん、判断で行わせていただきます」
 司会・進行はリュックの仕事。
「それでは、1番の方、よろしくお願いします!」

●クリス・ラインハルト
「1番、クリス・ラインハルト。憧れ以上恋愛未満の乙女たちへ応援歌です!」
 そう言って、リュートを構えた。繊細な銀糸から、指先から、リズミカルで元気なメロディーが生まれ、会場に響き渡る。

『私を見てと つぶやいてみる だけど貴方は上の空
 拗ねたふりの 膨らんだ頬 だけど貴方は優しいだけ
 仔猫のように 甘えてみたい
 爪を立てるのは 貴方が好きだから
 手を伸ばせば 届く笑顔 想い抱いて 飛び込みたい

 勇気を出して踏み出そう 私のハートがNo.1!
 天使の矢なんて 必要無い 熱い視線が貴方を射抜く
 神様だって止められない だって貴方は Only1☆

 勇気を出して踏み出そう 私のハートはNo.1!
 乙女の涙は 必要無い 煌く笑顔で貴方をキャッチ
 神様だって止められない だって貴方が Only1☆』

 シャン、と最後の一音の余韻も消えないうちに、会場は盛大な拍手に包まれた。
「やっぱ、本業の人ってのは上手いもんですね」
 リュックの言葉に、シャルロットも頷いた。
「そうね、でも、技術のことだけじゃないわ。女の子の気持ちを分かってくれて、応援してくれる。素敵ね」
 会場を見渡すと、特に10代程の少女達に評判が良いようだ。少年達は少々照れている。
「『優しいだけ』の『貴方』って、本当、どっかの誰かみたい」
「はい? 何か言いました?」
 しかも鈍いし。
「なんでもないわよっ!」
 だから、つい爪を立ててしまうのだ。

●セシル・ディフィール(ea2113)
「2番、セシル・ディフィール。言葉を贈る相手は‥‥勿論、秘密です」
 くすくすと微笑む。しかし、その微笑みは、どこか寂しく、悲しくも見えた。
「では私も歌わせていただきますね。上手くは、無いですけど」
 舞台の上にすっきりと立ち、真っ直ぐな声で、詩を音に載せる。それはまるで、祈りのように。

『私、覚めない夢を願っているの

 ねえアナタ、同じ物を見つめ、同じ気持ちを分け合って
 ねぇアナタ、それを出来ると未だ信じているの

 そんな日々が過ごせればと
 そんな夢が続けばと、そう想っているのよ

 ねえアナタ、だから私、目覚めず眠っているの
 ねえアナタ、もしも、私が目覚めた時は
 どうか私にその微笑みを
 どうか二人微笑み合わせて――』

 しん、と沈黙が降りた。余韻が消える。セシルが再び微笑むと、細波のように拍手が広がった。どうしても寂しさの拭えない笑み。
「伝えられないけれど、伝えられたら、いいと思っているのね‥‥」
 シャルロットが、呟いた。

●ユリゼ・ファルアート
「リゼ、あなたの出番はいつ?」
 シェアトが尋ねる。彼女は、ユリゼに「愛の言葉を聞きに来て」と引っ張ってこられたのである。
「私は、手紙を預けてきたから。もうすぐ、読んでもらえると思うわ」
 そう言って、シェアトの持ってきた焼き菓子を頬張った。果物の蜂蜜漬けが練りこまれている。絶品。
「あ、噂をすれば」
 丁度、手紙を手にしたリュックが、壇上に立ったところだ。
「3番の方は、手紙を預かってます。何で俺が‥‥じゃなくって、ええと、僭越ながら、代読させてもらいます」

『姉さんへ』

「え?」
 シェアトの視線が、壇上と、ユリゼを往復する。

『何に怯えてるのか解らない。充分幸せでもっと幸せになったって
 だれも怒らないんだから 遠慮する位なら 辞めるか飛び込むかどっちかにして。
 ほんと背中蹴飛ばすからね。‥‥以上愛の鞭の言葉』

「リゼ‥‥」
 ユリゼに向き直ると、彼女の頬もほんのり赤い。
「リゼ‥‥‥。ありがとう」

『そして何時か会えるかも知れない人へ。まだ、誰かを好きになるより
 やりたい事も楽しい事も沢山あるから もう少し待ってて。
 でも、本当に寂しくなったら 飛んで来て欲しいと言ったら我侭かしら?
 ‥‥ほんとは少し解る怯える気持ち。 振り切って駆け出したら
 その時はちゃんと手を引いて受け止めてやってね』

「以上、代読でした。‥‥いつか、イイ人が現れると良いですね」

●エーディット・ブラウン
「4番、エーディット・ブラウン。私の愛の言葉は〜‥‥」

『‥‥あの人は年下なんですけれど〜。
 とっても気まぐれでいう事を聞かなくて〜。
 でも一人きりになると、寂しいのか擦り寄ってくるのですよ〜』

「あらま。ツンデレってやつね」
「‥‥お嬢さん、どこでそんな言葉覚えて来るんです?」

『ぎゅって抱き締めたりほお擦りすると、とっても肌触り良くて〜。
 時々一緒のベッドで寝たりするんですよ〜。
 その時も悪戯ばかりするけれど、これが可愛くて可愛くて〜。
 これからもずっと一緒に居たいですね〜』

「かなり親密な仲みたいね」
「ご夫婦かしら?」
 ユリゼとシェアトが顔を見合わせる。

『ペットネコのみにちゃん宛でした〜♪』

 ガタタン、と何かが倒れる音がした。多分、皆の期待だろう。
「‥‥うん。なんか、そんな気はしたよ」
 クリスが、溜息交じりに呟いた。

「以上で愛の言葉披露は終了です。出場者の皆様、どうもありがとうございました。しばらく審査に入らせていただきますので、しばしご歓談ください」
 リュックが、締めにかかると、
「ちょっと待ってください〜」
 エーディットが、遮った。
「折角ですから、シャルロットさんとリュックさんの愛の言葉も、是非聞きたいですね」
 セシルの言葉に、会場がわっと沸き立つ。
「へ、は、はぁぁ? いや、俺達は遠慮しますよ、ね、お嬢さん」
「あら、遠慮なんてしなくても主催者様ですし、是非どうぞ」
 セシルがにっこり笑えば、
「未来の恋人への告白とか、どうかしら? もしかしたら本当に恋人、出来るかもしれないわよ。シャルロットちゃんも、聞きたいでしょ、ねぇ?」
 ユリゼも乗じて、リュックに詰め寄る。
「しかもなんで『恋人』指定なんですか! お、お嬢さんは、俺のあ、あいだのこいだのがどーのこーのなんて、何の興味もないでしょう? 関係もないし。そもそも、俺には今恋人になって欲しい人なんて、周りに誰1人いないっつーか」
 話せば話すだけ、シャルロットの顔に浮かぶ怒気に、どうやらリュックは気付いていない模様。
「‥‥どいてちょうだい」
 地の底から這い上がってくるような声。シャルロットはリュックを押しのけると、壇を上った。
『馬鹿ッ!!』
 腹の底から発された声に、会場中が静まり返った。
『あ、あなたは、普段は結構鋭いくせに、隠し事だって見抜いちゃうくせに、なんだって、肝心な所で鈍いのよ! わ、私は、あの人みたいに大人しくもないし、可愛げもないかもしれないけど。ず、ずっと、見てたんだから。これからだって、見てるんだからね!!』
 ぷいっ、と顔をそむけて、段を降りる。その足取りが逞しい。
「お嬢さん‥‥」
 呆然としたリュックの表情に、我に返って、青ざめる。なにか、とんでも無いことを言ってしまったような。あれじゃ、ほとんど告‥‥
「お嬢さん、好きなヤツなんて、居たんですか。すいません、全然気付きませんでした」
 シャルロット、近場に鈍器が無かったのが、心底悔しいと思った瞬間であった。

「さ、シャルロットさんも披露してくれたことだし、リュックさんも頑張って!」
 クリスに背を押され、壇の上に立たされる。
「あ〜、え〜‥‥っと、こういうのは、苦手なんですけど‥‥」
 コホン、と咳払いをひとつ。
『俺は‥‥ちょっとまだ次の恋を探す気にはなれなくて。でも、それは諦めきれてないとかじゃなくって、その‥‥時間の問題っていうか。自分でも女々しくて嫌んなるんですけど、もうちょっと、休憩が欲しいっつーか。でも、いつか出会ったら、そん時は‥‥楽しくやりましょう。甲斐性なしで申し訳ない』
「優しくて、いい人よね。シャルロットちゃん、応援してるわ」
 ユリゼの言葉に、少しだけ、くすぐったい気分になる。
「でも、本っ当〜に鈍いんです!」
 それを、誤魔化すように溜息をついた。

「お待たせいたしました。それでは、優勝者の発表に移らせていただきます」
 シャルロットが、壇上に立つ。
「何方の言葉も、とても温かく、美しい気持ちが詰まっていて‥‥審査も難航を極めました。参加者の方々には、重ねて御礼申し上げます。その中で、会場の反応が最も大きく、わたくし自身、気持ちを動かされた方を選ばせていただきました。優勝者は‥‥クリス・ラインハルトさんです!」
 わぁっ、と、会場が拍手に包まれる。
「クリスさん、壇上にお願いします」
 シャルロットが、微笑みかける。
「本当に、素敵な歌をありがとうございました。とても、元気をいただきましたの。こちらは、賞金です。もっと素敵な商品が用意できれば良かったのですけど」
「いえいえ、久々の本業依頼、楽しませてもらいました」
 そう言って、観客に向き直る。
「こんな素敵な催しをして下さった、ブラン商会に拍手をお願いします☆」
 観客から寄せられた拍手に、シャルロットの目が円くなる。
「どうですか皆さん。次は愛する人とこの場に集いたいと思いますよね?」
 再び、拍手。
「それは素敵ですね」
 セシルが、にっこり微笑んだ。
「えと、あの‥‥」
 突然の事態に、シャルロットも少々混乱しているようだ。ちらり、とリュックに視線を送る。
「あー‥‥やったら、いいんじゃないですか?」
「本当? 手伝ってくれる?」
「ま、こんだけ、期待されてちゃ」
 しかたないですよね、と苦笑する。シャルロットは、意を決して、正面に向き直った。
「温かい拍手をどうもありがとうございました。皆さんが、参加してくださるのなら、ブラン商会は、もう一度、今度は、もっと盛大に、パーティーを企画しようと思います。聖夜祭で、またお会いしましょう!」
 スカートを摘んで、礼を取る。
「それに、今日のパーティーも、まだ終わっておりません。この後は、ダンスの予行練習を予定しております。どうぞ、ご参加ください。‥‥クリスさん、音楽をお願いできますか?」
「もちろん! まかせてください。」
 明るい三拍子が紡がれる。観客は、それぞれパートナーを見つけ、くるくると踊り始めた。

「ね、リュック、素敵な大会になったわね」
 壇上から降りたシャルロット。
「ま、最初はどうなるかと思いましたけどね」
 リュックが、笑って迎える。
「愛って、素敵よね。どんな形でも、相手を想うことに変わりはないんだもの。温かい気持ちになれるのよ」
「ここんとこ、世間も暗かったですしね。訳の分からない予言は出されるわ、洪水は起こるわ。こういう、明るい話ってのは、良いもんです」
 そこまで言って、ふと、リュックは思った。もしかして‥‥
「お嬢さん、こんな妙な大会をやろうと思ったのって‥‥」
「あら、主催者様方が、こんなところで、壁の花ですか?」
 背中から、セシルの声。
「お二人で、踊ってきては?」
 その提案に、シャルロットの顔が輝く。
「え、いや、俺はダンスは」
「ステップなんて、適当でいいわよ、行きましょ!」
 シャルロットが、腕を引いて輪に加わった。

『こんな妙な大会をやろうと思ったのって‥‥』
 その答えは、とりあえず彼女の胸の中。

「予行でも、こんなに楽しいんだもの。聖夜祭が、楽しみね‥‥でも、それまでには、もうちょっと、ダンスが上手になってて欲しいわ」
 踏まれそうになった足をさっと払って、シャルロットは微笑んだ。