爆走!!死腐兎瑠愚連隊

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 10 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月30日〜01月05日

リプレイ公開日:2008年01月07日

●オープニング

 寒風を切って、シフールが駆ける。
 夜と昼とを問わず、ただ、目的の地に向かって。

「年末は忙しいねぇ」
 冒険者酒場の一角、シフール便の受付口。
「只今戻りました!」
「お〜、お帰り、ニーナ。速かったね」
 すとん、と着地したのは、青い髪と瞳のシフール。
「はは、これでも、あたい昔は俊速で鳴らしてたのよ」
「あんた昔グレてたんだっけね。よく更正したもんだ」

 ニーナは、一昨年までパリから徒歩で1日半程の村、の近くの森に棲んでいた。その森は、シフールの溜り場だった。
「昔のあたいは、あそこにしか居場所を見出せなかったんだよ‥‥」
 ただし、普通のシフールではなく、常に『世間』に反発し『自分』を持余し『ぐれる』ことでその鬱憤を発散する‥‥つまり、社会の厄介者となってしまったシフール達の住処となっていたのだ。
 ただ、普段は周囲に大した被害は生じない。せいぜいが、森に迷い込んだ子供が『わぁぁん‥‥怖い顔のシフールがいっぱいいたよー』と泣き喚く程度。しかし、年に1度、旧い年が過ぎ、新しい年がやってくる、夜明け前。

「皆で、一斉に森を飛び出してね‥‥思うさま駆けるのさ。障害は、みぃんな蹴散らして‥‥一丸になって、丘の上に辿り着く。その時見る初日の出は、最高に誇らしいよ」
 シフールの初日の出暴走。
「その日の為に、色々用意してさ。ジャパン語で、洒落た旗作ってたやつも居たね。あたいには読めなかったけどさ」
 『死腐兎瑠愚連隊』という旗を靡かせ、先頭と突っ切る、その後姿を覚えている。
「でも‥‥そんとき、村の事なんて、なあんにも考えて無かった‥‥」
 始めは、ただ走り抜けるだけだった。通り道になっていた村には、せいぜい騒音くらいの被害しか出していなかった、と思う。しかし、2年、3年、と繰り返すうちに、評判を聞きつけた、同じようなハグレシフール達がその日だけ集まってくるようになった。数が増えれば、気も大きくなる。最初に悪戯を始めたのが誰だったかは覚えていないが、近年では、シフール暴走が通った後の村は、窓枠が壊され、積み上げた藁はばら撒かれ、ヤギの頭は丸坊主‥‥といった有様を呈するようになった。
「それも、楽しくてしょうがなかったからさ、罪悪感なんて、ちっとも感じて無かったよ。でも‥‥」
 一昨年の事だった。あまりの被害に、とうとう村人が対策に乗り出したのだ。とはいっても、村人達は所詮素人。捕まるようなドジを踏んだのは、5人も居なかった‥‥が、その5人弱に、ニーナは入ってしまった。
「ものっすごい怒られたよ。村長の顔が怖いのなんの。オーガの面の方が、まだ愛嬌があるね。一緒に捕まった仲間達は、右から左に聞き流してた。でも、あたいは‥‥」
 気が付いたら、ぼろぼろと泣いていた。生まれて初めて、真剣に叱られたから。悲しいのか嬉しいのか分からないが、とにかく、胸が締め付けられた。
「思いっきり厚塗りしてた化粧と一緒に、色んなものが、剥げ落ちたんだよ、その時ね」
 それから、ニーナはまともに生きることを誓った。同じ場所に居たら、古巣に戻りたくなってしまうかも知れないから、パリに出て、その駿速を生かして、シフール便の仕事にありついた。村長に近況を手紙で報告すると、暖かい返事が帰ってきた。
「でも、更正したのって、あんただけなんでしょ?」
「うん‥‥」
 ニーナが俯く。
「去年は、一昨年よりも、もっと被害が出たみたいなんだ」
 村長からの手紙には、元仲間のニーナに気を遣ったのか、その事は一切書いていなかった。しかし、心配だった彼女は、独自に情報を集めた。
「冒険者ギルドに対策を頼んだけど、忙しい時期だろ? 人が集まらなかったみたいでさ‥‥とうとう、怪我人も出たって‥‥」
 村人達は恩人で、シフール達は元仲間。気にならない、筈がない。
「あたいには、何も出来ないんだけどさ‥‥」


「皆の衆。今年も、この時節がやってきた」
 村の集会場。オーガの顔よりも愛嬌がない、と評された村長が、重々しく口を開いた。真剣な顔で地図を見つめるのは、村のおじちゃん、おばちゃん、おにーちゃん、おねーちゃん。
「年々、被害は酷くなるばかり。シフール共も、すばしっこくなるばかりだ」
 うんうん、と皆で頷く。
「去年は、1人も捕まらなかったしねぇ」
「一昨年も、5人だけだったしな。‥‥そういや、ニーナは元気でやってるのかい?」
「うむ。また手紙が来た。偶には帰ってこいと言っているのだが、もっと立派になるまで、待ってくれ、だそうだ」
「あらま。あんまり待たせると、先に村長の寿命が尽きちまうよぅ」
「黙らんか! 誰がじじぃだ」
 じじぃじゃん、という周囲の視線を浴びて、気まずげに黙る村長。
「‥‥え〜‥‥コホン。資金の問題から、去年は駆け出しの冒険者へ依頼を出したが‥‥今年は、一年間、この為に蓄えた分がある。最もランクの高い冒険者を雇おうと思う。そして、そして!」
 ぎ、と森の方角をにらみつける。
「今度こそ、静かな新年を取り戻すんじゃぁぁぁ!!」

●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec0501 フォルテュネ・オレアリス(30歳・♀・僧侶・エルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

シーナ・オレアリス(eb7143)/ アンドリー・フィルス(ec0129

●リプレイ本文

「うん‥‥あたい、その森に居たよ‥‥」
 パリで情報収集をしていたアリスティド・メシアン(eb3084)は、元暴走シフールのニーナに行き着いた。
「彼らを説得できるような人は、居ないかな? 身内や恋人や‥‥」
 ふるふる、と彼女は首を振った。
「家族が居る奴は、あんまり居ないし‥居ても、話したがらない‥‥話したくないような、身内しかいない奴ばっかりなんだよ‥‥」
「そうか‥‥」
 ふむ‥‥と考え込むアリスティド。
「それと、もうひとつ頼みがあるんだけど‥‥」

「これが、村の地図。暴走ルートは‥‥毎年、こんな感じだな」
 村長の館。机に地図を広げて、説明を受ける。アリスティド以外は、すぐに村へ出立、それぞれセブンリーグブーツや、韋駄天の草履、ベゾム、フライングブルーム、果ては鷹やペガサスまで駆使して、予定より早く村へ辿り着いた。浮いた時間で、昨年までの傾向や、被害状況についても確認しておく。
「村に侵入する前に止められたら第一でござるな‥‥この辺りが第1防波堤となるでござろう」
 ううむ、と地図を睨むアンリ・フィルス(eb4667)。
「拙者の誕生日に目立とうもとい、爆走とはいい度胸でござるよ。ここは一発お仕置きしておくのだっ」
「なかなか、荒んでいるのですね。頑張ってとっちめてさしあげましょう」
 メイユ・ブリッド(eb5422)が、にっこりと微笑んだ。

「いつもは‥力不足で‥罠がうまくはれない事も多いですけど‥‥」
 枝の間や、茂みの切れ目‥‥シフール達が通りそうなところへ、罠を仕掛けてゆくアルフレッド・アーツ(ea2100)。今回は相手がシフールとあって、いつもの弱点も問題にならない。罠の位置は、地図を作って、しっかり示しておく。
「罠はミストフィールドで覆い隠しておきますね」
 と、フォルテュネ・オレアリス(ec0501)。
「ばっちり取り締まっていきましょう。皆さんが静かなお正月を過ごせるように」

「レンヌから来やしたぁっ。ドニっちゅぅモンです、よろしくぅ〜」
「ぃよろしく〜!!」
 マリス・エストレリータ(ea7246)は、冷や汗が背を伝うのを感じた。
(「な、何ですかな、この世界‥‥」)
 話に聞いていた通り、あちこちからシフールが集まるらしく、潜り込むのは難しくなかった。彼らの格好は、派手だったりボロかったり化粧が濃かったりと実に様々。そんな奴らがぐるり、と輪になって1人ずつ大声で自己紹介をしている。最後に『よろしく』と叫び、全員で同じく『よろしく』と返すのが流儀らしい。しかし、とにかく叫ぶ事に重点が置かれるらしく『レンヌのドニ』はともかく、
「ぱいあら〜いやしたっっ、あるあらえすっっ、よろいく!!」
 とかになると、もう出身地も名前も聞き取れない。
「ぃよろしく〜!!」
 それでも、一向に構わないようだ。
「ええと‥アルフレッドです‥よろしく‥お願いします‥‥」
「声が小さぁいっ」
「え‥‥」
 仲間の様子に、まずい、とマリスは思った。こんな所で疑われて、正体がバレたら大変だ。
「坊や‥‥」
 なので、誤魔化すべく、ふう、と溜息混じりにアルフレッドの肩に手を置いた。
「お姉さんが、お手本を見せてあげようね‥‥」
 そして、きっと周囲に向き直る。
「フランクの悪獣の森出身! マリス・エストレリータッ、夜露死苦!!」
「ぃ夜露死苦!!」

 ぴーぴーぽぴー、ぱーぴーぽぴー、ぽーぱーぱぴーぽー‥‥
 顔合わせが終わり時間の出来たマリスは、枝に腰掛け、二昔程前に流行った曲をオカリナで奏でた。若さを持て余した少年の曲。人間の若者には『‥‥?』という顔をされるが、さすが同じ時間軸で生きているシフール同士だと、知っている者もいて、少々しんみりとした空気が流れる。そこへ‥‥
「頭ぁ‥‥ガキが迷い込んで来てるんすけど〜」

「わ、私は‥新年に飾るお花を探しに‥‥」
 ガラの悪いシフールに囲まれ、震える少女。しかし、彼女は『少女』の仮面の下で、冷静に彼らを観察する。
(「クラスは‥‥なんだ、一般人じゃないの‥‥でも、あっちはちょっとレンジャーっぽいかも‥‥」)
「ああ? この時期、森の奥に花なんてホトンド咲いてねぇよ」
「でも‥‥ひぃっ」
 レティシア・シャンテヒルト(ea6215)が小さく悲鳴を上げた。マリスの、背後から冷たい手で首筋ピタリ攻撃。地味に効く。
「嬢ちゃん、早くお家に帰りなぁ。ここは、あんたの来る場所じゃないからさぁ‥‥」
 ふっ‥‥と遠い目。寂しげな風情なんか、漂わせてみたりする。
「そう、とっとと帰りな、お嬢ちゃん」
 ドスの利いた低い声に、空気が変った。ザッ‥‥、と、シフール達が道を空ける。
「頭ぁ‥‥」
(「これがリーダーね?」)
(「ですな」)
 ひっそり、アイコンタクトのマリスとレティシア。
「あの‥えっと‥‥」
 おろおろと口籠りながら、上目遣いに『頭』を観察。ローブともコートともつかない、長くて黒い上着。派手な色の精緻な刺繍は、ジャパン語のようだ。
「お前らもなぁ‥‥こんなちまこいの苛めてんじゃねぇよ」
(「なっ‥ちまこ‥‥」)
「ほら、震えてんじゃねぇか」
 確かに震えている。怒りで。己の身長が『やや平均以下』であることは認めよう。しかし、自分の3分の1程度のシフールに言われる筋合いは無い。断じて無い。
「う‥うわぁぁんっ」
 駆け出すレティシア。これは演技だ。視界がちょっぴり滲むのも、演技の一環だ。

 そして、深夜。
「来る」
 アリスティドが呟いた。テレパシーで、仲間にサインを送る。
 シフール達が風を切る音が、近づいて来る。

「お前、速いな!」
 あるシフールが、アルフレッドに囁いた。
「付いて‥来られますか‥‥」
 そう呟いて、少し速度を上げるアルフレッド。
「何っ」
 数人が、むきになって追いすがってくる。そのまま、ミストフィールドの中に飛び込んだ。自分で仕掛けた罠の直前で、方向転換。
「うわあっ」
 それに対応出来ない後続シフールが、罠に飛び込む。網に掛かってもがく姿に、動揺して立ち止まったのが数人。
「次‥いきます‥‥」
 それを認め、アルフレッドはミストフィールドから飛び出した。
「俺に構うなっ、行け!!」
 言われて、躊躇う仲間達。
「あら、仲間を見捨てるの? 友情って美しいものね畜生ども♪」
 ポロロン‥‥と、妙なる竪琴の音。霧の向こうから、少女の歌声が響く。メロディー『仲間との大切な思い出を甦らせる呪歌』発動。
「ぐ‥‥」
 視界が利かず、惑う心の隙間に、その歌は忍び込む。
 彼らは思い出した。行く場所も無く、理解してくれる人も居なかった過去‥‥フラフラと迷い込んだ森で、初めて出会った仲間。時に愚痴を零しあい、時に速さを競いあった、大切な‥‥
「行けって言ってんだろぉ!?」
「い、行けねえよ‥‥」
「この‥バカ野郎共‥‥」
 益々高らかに歌い上げるレティシア。さあ惑え、そして泣け! これは断じて私怨ではない。

「あ‥うあぁぁぁ‥‥」
 フラフラと地面に落ちてゆくシフールが2人。傍から見たら、何が起こったのか分からなかっただろう。
「すまないね」
 すっ‥‥と家屋の影から姿を現したアリスティド。イリュージョンで送り込んだ幻は、羽が千切れて飛べなくなるというもの。速さを求め、それに己を見出す彼らにとっては、最大の悪夢だ。

 カコン、と。ひとつ、ふたつ。シフールが転がった。面白がって窓を叩き壊そうとしていた姿勢のままに。
「う〜ん、難しい年頃なんですかねぇ?」
 つんつん、とアイスコフィン漬けシフールをつつくフォルテュネ。
「さて‥‥」
 呟いて、ブレスセンサーを発動。シフールの現在地を確認‥‥するのだが。
「むう‥‥皆さん素早いですね」
 移動が早くて、把握しきれない。仲間に伝える前に、位置が変ってしまう。

「皆様、やりますな‥‥」
 ふよふよ。上空、タカさんの上で、マリスが呟いた。そのまま、4、5人の群れに合流して、掛ける。あからさまに怪しい霧の塊は避け、建物の間を抜ける。すると、突然先頭のひとりが硬直した。
(「ふむ、コアギュレイトですな‥‥」)
 打ち合わせを思い出す。どこか近くに、メイユがいるらしい。見回すと、シフール達が戸惑っている。
「ここは私がっ‥‥先に行きな!」
「で、でも‥‥」
「早く!」
「う、うん‥‥」
 そう言って、飛び立つ背を見送る。
(「ちょっと情が移りましたかな‥‥」)
 そして、マリスは硬直したシフールと共に捕獲された。
 同じく潜入組のアルフレッドに「そこは‥僕たちの目的を考えたら‥先に行かせちゃ駄目だと思います‥‥むしろ引き止めないと‥‥」と突っ込まれるのは、もう少し後のこと。

 アルフレッドと魔法使い達が奔走し、徐々に捕獲されてゆくシフール。しかし、常ならぬ様子を感じ取って、そのまま逃げてゆく者もいる。また、それらの騒ぎを潜り抜け、目的の地へと辿り着かんとしているものも、居た。
 夜明けまで、あと少し。目的地は、すぐ。しかし、そこには‥‥
「来たでござるか」
 最終防衛線があった。
「‥‥仲間達は、捕まった。俺だけでもそこに立たねぇと、あいつらに申し訳がたたねぇんだ‥‥よッ」
「頭ァ!」
 仲間の歓声を受け、ヒュッ‥‥とアンリに向かっていく。その動きは素早く、かつ変則的。
「むぅ‥‥勝負ッ!」
 アンリは、その目でどうにか動きを捉えると、一閃、ホイップを振るった。
 バシィ!
「ぐ‥‥」
 勝負は一瞬。絡め取られた『頭』は、締め付けに苦しい息を漏らした。くたり、と体から力が抜ける。
「頭!!」
「ば‥‥来るんじゃ、ね‥」
 わっ‥‥と寄ってきたシフール達の頭上を、網の影が被い、次の瞬間、彼らは一網打尽となった。
「く‥‥そぉッ」
 日が、昇る。その年、朝日をその場で眺める事の出来たシフールは、居なかった。

 捕まったシフール達が集められた、村長館の一室。夜間の騒ぎで逃げ出し、そのままとなったシフールもいるが、それは皆他所から集まった者達で、普段から近くの森に住んでいる者は、皆捕まったようだ。仲間を見捨てられなかったのが、一番の原因らしい。
「皆さん、目立ちたがりだけだとスッゴクかっこ悪いですよ」
 きぱっ、と告げるフォルテュネ。目つきの悪いシフール達に睨まれても、あまり気にしない。
 しゃーこ、しゃーこ。
 その隣で、何故か鉄人のナイフを研いでいるレティシア。きらり、と刃を朝日に翳す。怪訝な顔でこちらを見ているシフールに、不敵に微笑んでみせた。
「‥‥高レベル冒険者を雇うには大枚が必要。あなた達は、村には爪に火を灯すような生活を強いた筈。だけど依頼は退治ではなく止める事、だったわね」
 それが、彼らの反発する『世間』というものの、ひとつの姿。ちらり、と様子を伺う。何かを考えているような者も居れば、全く右から左、な様子の者も。レティシアの言葉から何を汲み取るかは、人それぞれ、彼ら次第なのだ。
「さ、もう良いですよ」
 捕獲の際に怪我をしたシフールを、一通り癒し終わったメイユ。
「‥‥皆さんも、今回のことでお分かりでしょう? やんちゃが過ぎると恐ろしいことになるということですよ。ストレスを発散させることは悪くないのですが、他の方に迷惑が掛からないように考えてくださいな」
 流石に治療を受けた直後に、その相手に強くは出られない。気まずげに視線を逸らす彼らに、メイユは続けて穏やかに語りかけたのだった。

「その若さと情熱を別のものに向けて、本物の漢になるのでござる!」
 午後。一通り説教をくらったシフール達は、自分達が壊した場所の修理や、その他の雑用に駆り出されていた。頬をさすっているのは、アンリに口答えして鉄拳制裁を食らった者だ。
「なんで、俺たちがこんな‥‥」
 ブツブツと不満を漏らす男を、隣でせっせと作業をしていたマリスがじろっと睨んだ。
「同じようにして捕まったゴブリンがどうなったか、知りたいかい?」
「はぁ?」
「こうやって働けるだけ、まだマシってことだよ‥‥」
 
「君たちが理解し合えないと決め付けるのは、きっと、これまで不幸な出会いを繰り返して来たからだね」
 一通りの労働を終え、くたくたになった彼らに、アリスティドが語りかける。
「けれど、これから出会えるかも知れない理解者をも退けてしまってはいないかな?」
 話しながら、ニーナの言葉を思い出す。
「ちなみに、パリのシフール達に聞いた話だと、恋人にする、あるいは所帯を持つなら、相手に定職は必須だそうだよ?」
 独り身には寂しい季節だよね、と微笑んでみせる。
「そんな訳で、紹介したい方が居るんだ」

「‥‥おう、あのおっさん連れてきたの、あんたかい?」
 アリスティドは、『頭』と呼ばれていたリーダーに、声を掛けられた。
「そうだけど?」
 彼らに紹介したのは、シフール便の親方。ニーナに紹介を請い、ここまで同行して貰ったのだ。彼にシフール達の駆ける様子を見せ、見込みのありそうな者の、就職の斡旋を頼んだ。
「‥‥その‥ありがとよ」
 おや、とアリスティドは思った。
「‥‥好きで、こんなんやってる奴ばっかりでもねぇんだ。皆分かんねぇんだよ。出て行きたくても、その先が見えない、怖い‥‥。だから、道を示してくれた事には、感謝してる。出て行ける奴は、出て行った方がいい‥‥」
「そういう、君自身はどうなんだい?」
 スカウト的には、欲しい人材第1位だったらしいのだが。
「それでも、どうにも出来ない奴もいる。森は、そいつらの最後の居場所なんだよ」
「‥‥村への迷惑は、程ほどにね」
「けっ‥‥それは、どうだろうな」
 ふい、と背を向ける。縦にきっぱりと入れられた『死腐兎瑠愚連隊』の刺繍が、夕日に映えていた。

「お前‥‥あっち側だったんだな」
 と、アルフレッドに、溜息混じりに呟くシフールの1人。
「はい‥皆さんの‥暴走を止めたくて‥‥でも‥いつか純粋なスピード勝負も‥‥してみたい気もしますけど‥‥」
 その言葉に、相手は、にや、と笑った。
「次は、負けねぇよ」

「さあ、楽しみましょう」
 全て終わったその後は、村人皆で新年会。彼らの心意気に感じ入ったレティシアが、報酬を遠まわしに村に還元すべく、開催を頼んだのだ。費用は全額彼女持ちである。
「シフール達、森に帰しちゃっていいの?」
 村長に問いかけるレティシア。
「うむ。今回の事で懲りたでしょうし‥‥我々も今まで彼らと分かり合おうとはしてきませんでしたからな、この機会に、もう少し普段から森に働きかけて、関係の改善を図ろうと思う」
 飲んで、食べて、歌って、果ては踊る。賑やかな音が、空気が、夜空に昇る。高らかに交わす乾杯の音頭が、新しい年を祝福していた。