●リプレイ本文
某酒場店員『S君ったら私が居る身で、女の子に誘われて王様ゲームに出るなんて‥‥うふふふふ、こうなれば私も参加して、後に「血の1月ゲーム」と語り継がれる凄惨なゲーム模様にしてあげますわ』
某用心棒『俺ぁ高みの見物で楽しませてもらうぜ』
某薬草師『さすがに7人いれば、ターゲットが回ってくることもそうありません‥‥よね?』
某警護A『前回は負けが続いたけど、今回は不運アイテムは持ってこなかったから大丈夫!』
某傭兵『柄じゃないんだけどな‥‥。連れ出されてここまで来たが‥‥』
某御者『あ、場所決めてませんね。酒場、提案してみようかな』
某警護S『お見合いでは命令される側しか味わえませんでしたからね。今回は王様を体験したいものです』
それぞれの心中に渦巻く思惑。
その行き着く先は、籤だけが知っている。
●
会場は、アイシャ・オルテンシア(ec2418)の提案で、酒場と決まった。カードをよく切って、並べる。
それでは、声を揃えて。
「王様だ〜れだっ」
緊張の一瞬。
「‥‥俺か」
一番手はセイル・ファースト(eb8642)。
「そうだな‥2番は古ワインを10杯飲み干すように。‥‥まぁ手始めはこんな所かな‥安易な気もするが」
安易かもしれないが、難関だ。
「‥‥どなたでしょうか?」
どうやら外れたらしいリディエール・アンティロープ(eb5977)が、ほっと一息吐いてから、周囲を見回した。
「‥‥くぅ」
プルプル震える手で、カードを持っているのは。
「今回は不運アイテム持ってないのにー!」
涙にくれるアーシャ・ペンドラゴン(eb6702)。しかし、ルールは絶対だ。
「ううう‥‥い、逝ってきます‥‥」
古ワインを注文しに行く背中には、覚悟と哀愁が漂っていた。
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「うふふ‥‥それじゃ、4番はセーヌ河に飛び込んできてください♪」
王様、もとい女王様リリー・ストーム(ea9927)。
「アーシャが当たったら、酔い覚ましに丁度良いかもしれませんわね」
「うう‥‥」
何とか古ワインを完飲したアーシャが、卓に突っ伏したまま、赤い顔で呻いた。喉の奥から酸味が消えない。某給仕嬢の殺気をびしびし感じ続けたせいで、精神的にも疲弊した。
「リリーさんの鬼〜‥‥」
それってつまり、別の意味の女王さm(以下略)
「でも、私じゃありませんよー」
「あら、残念ね。それじゃ、誰かしら?」
「俺なんだが‥‥」
えっ!? ‥‥と、本人以外の全員が思った。
「セ、セイル君だったの?」
愛の力も、籤には及ばなかったらしい。
「ど、どうしましょう、私‥‥」
「いいって。ゲームなんだからよ」
と、諦めたように立ち上がった。
今は1月。冬真っ只中。寒風吹きすさぶセーヌの畔に、皆で出掛ける。
セイルは、武器を置き、鎧を脱ぎ、軽く体をほぐした。
「じゃ、行ってくるわ」
―ざっぶーん。
潔く、飛び込む。
「ぶわっ、冷てぇっ!!」
すぐに泳いで川岸へ。リリーがすぐさま駆け寄った。
「だ、大丈夫?」
布を差し出し、しきりに話しかけ、飲み物を差し出し‥‥と甲斐甲斐しく世話を焼く。仲の良い夫婦の光景だ。ただ、飛び込んだのが他の参加者だったらさぞ楽しげに見物していたんだろうなぁ‥‥とか思って少々『うーん‥』となる『他の参加者』達だった。
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「え、ええと‥‥『あ‥』‥『あーんして』‥‥ください」
(「し、視線が‥‥」)
リディエールが、スプーンを差し出した。掬った果実酒のゼリーを、相手が飲み込んだのを確認して、声を掛ける。
「『どう? おいしい?』‥‥ですか?」
「はい‥‥じゃなかった‥‥『うん』」
アイシャ・オルテンシア(ec2418)が頷いた。
第3ターン。王様はアーシャ。『6番が5番に果実酒のゼリーを食べさせる(台詞指定アリ)』。恋人っぽく! という王様命令の為、他のメンバーは遠巻きに眺めるだけ。
「見た目、普通のカップルっぽいですね」
「ははっ、結構可愛らしいじゃねえか」
セタ(ec4009)とスラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)のコメント。
「もうちょっとバカップルっぽいと面白いんですけどねー。これはこれでありです」
アーシャが頷く。
「ふふっ、リディ君もアイシャも、照れちゃって」
にや、と笑うリリー。そういう自分は、がっちりセイルの腕に己のそれを絡め、ぴったりとくっついている。照れとは無縁だ。
「つ、疲れました‥‥」
はぁー‥‥と息を吐くリディエール。照れとか何とかより、周囲から向けられる生暖かい視線が堪えたようだ。
「アイシャもお疲れ様」
「はーい。何か、いかにもお姉が考えそうなお題でしたよね‥‥」
●
「おお、俺か」
スラッシュが、おや、と眉を上げた。
「じゃあ、2番と5番がキスする。まぁ、これくらいの休みを入れてやらないとな」
「休みになりませんっ」
叫んだアーシャ。札は2番。
「どーしてー! 幸運アイテムいっぱい持ってるのに‥‥っていうか、またキスですか!?」
前回、キスに関して微妙な思い出のある彼女。しかも、『ある方向』から、ものすごい、それはソレハものすごい殺気を感じる。
「‥‥で、相手はだれかしら?」
にっこり。ナンパ達人クラスの輝く笑顔。しかし、同時に隠しようのないオーラを発している。曰く『相手がセイル君だったら許さない』。スタンバイOKとばかりに、槍に添えられた手が、怖い。
「いや、俺じゃ‥」
「なんだー、お姉ですか」
セイルとアイシャの声が、被った。
「え? アイシャなの」
「はい」
ぴら、と返したカードは、5。
ほう‥‥とその場の緊張が解ける。ハラハラしていたのは、本人達だけではないのだ。
「じゃ、さっさと終わらせましょう」
―チュッ。
ごく軽く交わされたキスに、リリーが苦笑した。
「何だか、倒錯的ね‥‥」
何しろ、鏡に映したようにそっくりな2人なのだ。
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「命令される側が回って来ないのは良いのですが、そろそろ出題してみたいですね」
「私も、折角の酒場だし出してみたい命令があるんですよ」
「7分の1の確率ですからね‥‥」
未だ出題側に回っていない、セタ、アイシャ、リディエール。
そんな彼らの希望も渦巻きつつの、第5ターン。
「王様だーれだっ」
「すまん、また俺だ。‥‥どうしたもんかな」
うーん‥‥と考え込むセイル。
「しまった‥‥あんまりネタが思いつかねえ‥‥。ああ、最近ペットが運動不足だっけ。折角だから、この機会に俺の代わりに行ってもらおうか‥‥4番は俺の連れてるペットと遊んでやってくれ」
「セイルさんのペットっていうと‥‥?」
と、セタ。
「ん? コカトリス」
因みに、絆は低い。ごくごく普通のお願いを、聞いてくれるか否かが半々くらい。
「前回の不幸って、引き摺るんですかね?」
うな垂れたのはアーシャ。キスもそうだが、ペットに関しても前回ちょっと痛い目に逢っている。
「あの〜‥‥コカトリスって、あれですよね?」
怒らせると、石化を仕掛けてくる、あれ。石化しても、ニュートラルマジックで解除できない、あれ。
「ちょっと、それ洒落にならなくないですか!?」
「あ〜‥‥まぁ、大丈夫だろ、多分」
「多分って言わないでください!」
その後、広場でおっかなびっくり、日が暮れるまでコカトリスと戯れるアーシャの姿があった。幸い、コカトリスを怒らせずに済んだため、石化させられる事は無かったようである。
その日は、日が暮れたのでそこで終わり。明日の集合を約束して、解散となった。
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「昨日も言いましたけど、酒場だから是非出してみたいお題があったんです」
王様のカードを嬉しげに玩ぶアイシャ。
「1番さんは、アンリさんにお勧め聞いて、メニュー頼んでから‥‥」
その先を聞いたメンバーは、軽く青ざめた。
「そ、それはちょっと‥‥」
誰かが、呟く。
「酒場の空気というものもありますし‥‥」
しかし、出されてしまったお題はお題。
「んじゃ、やるか。仕方ねぇ」
まさか自分に回って来ると思わなかった、と『1番』が溜息を吐いた。
「お願いしますね、スラッシュ兄さん」
アンリのお勧めは、アペリティフ・ワイン。ある意味貧乏冒険者の象徴、誰でも1度は世話になる古ワインを、美味しく飲もうという工夫の結果生まれたメニュー。売り上げの1部がノルマンの復興支援に充てられる、募金メニューでもある。
運ばれて来たそれを、ぐい、と飲み干すスラッシュ。そして、一声。
「まずい! もう一杯」
タン、とカップと卓が立てた音が、静まりかえった昼の酒場に響いた。
「追加注文、ありがとうございます」
空のカップが回収され、新しいそれが置かれる。ウェイトレスは営業スマイルを残し、去っていく。
「‥‥‥‥」
普通の流れ、動作。それなのに、妙に居た堪れない空気が流れる。
店側としては『まずい』と言われても『なんだとー』とは言えない。無料メニューの古ワインならともかく、だ。だからこそ、気まずい。
「あら‥‥もうちょっと笑えるお題の方が良かったですかね?」
アイシャが、軽く肩をすくめた。
●
酒場を出て、広場にやってきた。
「さすがに2回連続で王様が当たるとは思いませんでした」
観客5人の前で、20歩分程離れて立ち、向かい合っている2人を見て、アイシャが呟いた。
「お姉ー、あまり調子に乗って熱くなりすぎちゃだめですよ? 狂化したら後頭部はたきますからね」
スタンアタックで、と付け加える。
「わかってるって」
準備運動、とばかりに軽くマグナソードを振り下ろすアーシャ。
お題『6番さんはお姉と模擬戦してみて下さいね。怪我はさせないように、でもできるだけ本気でお願いします』。
「それじゃ、お願いしますね、リディーさん」
お願いされたリディエールの頬が引きつる。ハーフエルフナイトと、エルフウィザードの接近戦一騎打ち。どんなイジメですかそれ。
「あ、あの‥‥」
「それじゃ、始め!」
彼の戸惑いを他所に、アイシャが始まりを告げた。
「はっ!」
アーシャが地面を蹴り、相手に接近する。
「く‥‥水の精霊!」
一瞬反応が遅れたリディエールだが、覚悟を決めて精神集中。高速詠唱アイスコフィン発動。
そして、一拍後。
仰向けに倒れたリディエールと、その顔の真横に剣を突き立てたアーシャの姿があった。
「‥‥参りました」
横目に刃を見て、苦笑する。
「こっちも、けっこう焦りましたよー」
アイスコフィンの詠唱は、成功。しかし、アーシャも抵抗に成功。微かに怯んだものの、さらに歩を進め、距離を縮めた。その勢いに圧されたリディエールが転倒し、現在の姿勢に至る。
「大丈夫ですか? 怪我とかありません?」
片手を差し出して、助け起こす。
「はい、転んだだけですから」
片手を取られ、もう片方の手で服の埃を払いながら、立ち上がった。
「それにしても‥‥やはり前衛職の方の迫力というのは‥‥凄いですね」
普段は下がって魔法を使っている事が多いから、こういう機会でもないと、真正面から相手とぶつかる事は少ない。
「魔法も怖いですよ。だって、自分の意思じゃ防げません。‥‥ゲーム中で始めて、幸運アイテムが役に立ったかも」
「2人ともお疲れさまでした。リディエールさん、お姉、楽しかったですよ」
見ている分には、とっても。
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そして三日目。
彼らは、注目されていた。
とにかく、どこへ行っても、2人‥‥いや、ひとりとひとつは、注目されたのだ。
「きょ、今日は良いお天気ですね」
にこやかに、セタが話しかける。その笑顔が引きつっているのは、目の錯覚ではあるまい。
「ヘラさんは、どこへ行きたいですか?」
沈黙。
「わ、わかりませんよね、そうですよね。‥‥ははっ‥はぁ‥‥」
沈黙。
その様子を物陰から覗き、ひたすら笑いを堪えて‥‥結局堪えきれていないスラッシュ。
「ククク‥‥」
その他のメンバーは、同じく酸欠寸前であったり、苦笑していたり、気の毒そうに眺めていたり、と反応は様々だ。
セタに課せられたお題。それは『3番はヘラクレスの石像を彼氏としパリ市内をデートしなければならならい』。王様はスラッシュ。
そして、ただ歩き回るだけでなく、その過程において最低ノルマが課せられている。
・石像に名前をつけること。
「その‥‥ヘラさんは、やはりその‥‥」
ヘラクレスだからヘラさん。
・石像を常に抱きかかえること。
「‥‥少し重いですよね。あ、すいません‥‥今日初対面の方にいきなり重いとか‥‥」
重さにして、セタの5分の1程度。
・一緒に買い物に行くこと。
「さっきの買い物は、楽しかったですか? 私は、ちょっと戸惑う事の方が多かったのですが‥‥店員さんが、親切で良かったですよね」
・買い物内容はペアルックの服を買うこと。
「そのマント、お似合いですよ。私も、似合っていますか? そうだと良いのですが‥‥」
騎士団風マントは本来子供用だが、セタと『ヘラさん』サイズなら問題ない。
・一緒にレストランへ食事に行くこと。
「そろそろ疲れたでしょうし、食事にしませんか?」
・予め二名で予約しておくこと。
「昨日、デートが決まった後、ちゃんと予約してきたんですよ。美味しいと評判のお店らしいです。楽しみですね」
食事代と買い物代は、全員でカンパ。‥‥自腹では、あまりに泣けるからだ。
・常に石像に愛の言葉を囁き掛けること。
「さ、着きました。入りましょう。‥‥あっ、すみません、大丈夫でしたか? 壁にこすってしまうなんて‥‥ヘラさんの滑らかな肌に傷がついてしまうところでした」
ヘラクレスの石像は、あくまで『石像』である。無機物である。傍から見ると、セタは同姓の石像と同じ服を着、食べる筈のない石像用にまで食事を頼んで、ひたすら愛の言葉を囁き続けるアブナイ人なのである。そして、極めつけの鬼ノルマ。
・返事がなくてもめげないこと。
「ヘラさんは、本当に無口な方ですよね」
沈黙。
「そんなところも、ミステリアスで素敵だと思います」
沈黙。
「英雄の彫像だけあって、本当に均整の取れた美しい体躯です。その加護を、私に与えてくださいますか?」
沈黙。
めげない‥‥無理だ。セタは既に内心めげまくった。しかし、今はそれすら通り過ぎ、いわゆるヤケに陥っている。人は、開き直ると何でも出来てしまったりする。周囲の冷たい、あるいは怪訝な視線を受け止め、彼はお題をこなしきった。
その背中は、何かを無くした漢のそれだったが、新たな力‥‥英雄の加護を得たようにも見えた。見えただけだが。
「よう、お疲れさん」
苦笑いで労うセイル。
「石像相手にあそこまで頑張れるなんて、セタ君ってば、意外とそういう才能があるんじゃなくて?」
にやにやと笑みを浮かべるリリー。
「はっはっは‥‥っしゃ! 笑った笑った!! 今日は気分良く眠れそうだぜ」
そして、王様スラッシュ。
「‥‥何だか、大切なものを無くした気がします‥」
そう呟いたセタの背を、ただ、そっと叩くしか出来ないリディエールだった。
これにて、ゲーム終了。
皆さん、お疲れ様でした。