聖夜に響け、愛の歌! 〜本番

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月23日〜12月28日

リプレイ公開日:2007年01月03日

●オープニング

「ね、リュック、あなた聖夜祭は毎年どうしてたかしら? 24日の降誕祭とか、翌日の誕生祭は、いつも仕事はお休みよね」
 昼下がりのブラン商会。丁度、客の途絶える時間帯である。店員の青年リュック・ラトゥールと、主の娘シャルロット・ブランは、並んでカウンターに座っていた。
「ええと、誕生祭の日は、昼間幼馴染共と遊んで、暗くなったら、家帰って家族と夕食って感じですかね」
「あら、随分品行方正じゃないの」
 シャルロットが言うと、リュックはにやり、と笑った。
「まさか、それだけの訳ないでしょう。降誕祭の日は、夜になっても街が賑やかですからね。ガキのころは、子供だけで遊びに行きたいって駄々こねたもんです。勿論、親は許しちゃくれません。だから、アレは…10くらいの頃だったかな。大人しく寝た振りをして、裏口から抜け出したんですよ。3人で申し合わせて。枕やら何やらに毛布を被せて、ちゃんと寝ているように見えるよう、細工までしてね」
「まあ! リュック、あなた、2人を唆したわね」
 彼女は、彼の幼馴染達のことも知っていた。どちらも、控えめで大人しげな人である。
「違います。あいつら、今でこそ随分大人しくなりましたけど、ガキの頃はそうでもなくてね。よく3人まとめて、叱られたりしたもんです」
 だから、夜の脱走事件を提案したのは、誰であってもおかしくはないのだ。
「夜の街に出かけられる機会なんて、そうそう無いんで、夜中まで、色んな所を回ってね。人が沢山いるから怖くないし。いつもの街が、全然違って見えて、わくわくしました。それから、毎年習慣になっちまいまして。去年も、こっそり抜け出して、3人で遊んできました。もう、堂々と外出できる歳になったってのにね」
 そう言って、笑う。
「よく、ご両親に見つからなかったわね、それも、3人とも」
「いや、バレてたでしょう」
「え?」
「ガキの稚拙な作戦ですからね、バレないわけないっていうか‥‥多分、1日だけならって、許してくれてたんでしょう。始めの何年かは、こっそり、後をつけて来てたんだろうなぁ」
「いいご両親ね」
 シャルロットも微笑った。
「‥‥‥お嬢さん、何かあったんですか?」
「何かって?」
「いや、妙に大人しいっつーか、素直っつーか」
「失礼ね」
 頬を膨らませるが、いつもの覇気がない。それに、どこか寂しそうだ。
「お嬢さんは、毎年、ご両親とですよね。お忙しいお2人も、この日だけは必ず家にいらして」
「ええ、そうなんだけどね」
 そう言って、顔を少し俯ける。
「‥‥そういや、さっきお嬢様宛にシフール便が届きましたね」
 シャルロットの両親は、今、商談で遠出をしている。既に1月以上の留守であるが、聖夜祭には帰れるという話だった筈だ。先達ての雨の後にも、そう連絡が来ている。
「旦那様方から、だったんでしょう?」
「そうよ」
「まさか‥‥」
「ま、仕方ないわよね。崖崩れでね、途中の道が塞がってしまったのですって。通れるようになるまで、何日か掛かるらしいわ。でも、年内には帰れるみたしだし」
 リュックの暗い声に、シャルロットは笑って見せた。
 住み込みの家政婦も、24日には一旦実家へ戻る。そうしたら、彼女はこの家で1人になるのだろうか。
「‥‥パーティー、やんないと、なんないんですよね」
「?」
「この前の予行演習で、約束したでしょう? 聖夜祭で、また会いましょうって」
「それは、そうだけど‥‥でも、降誕祭の日じゃなくても、出来るわよ。聖夜祭は、新年まで続くんだから」
「でも、その日にやった方が、盛り上がるっていうか」
 しどろもどろの言葉に、シャルロットは少し泣きそうになる。リュックは不器用だ。不器用で、鈍い。そのくせ、一番欲しいものをくれる。
「あなた、お友達と遊ぶ約束でしょう?」
「まさか。アレは習慣であって、約束じゃないし。そもそも、何でカップル1年目の聖夜祭に、俺が邪魔しなきゃなんないんですか。冗談じゃねぇ」
 彼の幼馴染達は、15年間の一方通行な両想いを経て、今年の秋、めでたく結ばれたのである。
「だから、今年は1人寂しくさっさと寝るしかないって思ってて。だから、その日にやってくれたら、こっちも寂しくなくてありがたいっつーか」
「そうね。この前は、準備もちょっとだけで、規模も小さかったけど、今度は、沢山準備して、沢山人を招待して、賑やかなパーティーにしたいわね」
 シャルロットの声に、覇気が宿り始める。
「じゃ、パーティーを盛り上げてくれそうな人達を、集めてきましょう。‥‥うん、やっぱり元気な方が、お嬢さんらしいですよ」

●今回の参加者

 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 真新しい蝋燭、乾燥ハーブのリース、クリスマスツリー、白いクロスの掛かったテーブル。会場は、ブラン家の大広間。招待客は、ご近所さんやお得意様、先日の予行演習に来てくれた方々等。
「うちの広間じゃ、ちょっとお客様の人数にしては狭いけど‥‥ま、仕方ないわね」
 会場設営は、リュックとシャルロット、家政婦の三人で朝から取り組んだ。料理は、仕出しを頼んである。飲み物は、別室に。接待主はシャルロット、全体の進行はリュックの仕事。給仕役は、冒険者の人達が手伝ってくれるらしい。
「準備万端。あとは、夕方を待つだけね」
 シャルロットは、嬉しそうに笑った。12月24日、降誕祭当日である。

「えー‥‥っと」
 目の前の事態に、リュックは言葉を失った。ここは何と言っておくべきなのか、真剣に悩んだ。
「素敵! とても素敵です、お2人とも!!」
 反面、シャルロットは本気で目を輝かせている。
「ふふ、ありがとうございます♪」
 クリス・ラインハルト(ea2004)が、くるり、と回ってみせる。それに合わせて、スカートがふわ、と広がった‥‥のではなく、カツン、とよく磨かれた革靴が鳴った。
「ええと、お2人は給仕の手伝いをして下さるってぇことでしたが‥‥」
 リュックが、なんとか声を絞り出す。
「もちろん、張り切ってウェイターを務めますですよ〜」
 エーディット・ブラウン(eb1460)が、にっこりと笑った。長い金髪を、今日はひとつに括っている。黒いパンツに、体の線に沿ったベスト。まごうかたなき『ウェイター』である。
「ボクの正装も、エーディットさんが見立ててくれたですよ」
 そう言って、クリスも笑う。整った付け髭がダンディーである。目元に入れた強めの線も、凛々しさに拍車をかけている。
「なんつーか、あれですよね。女の人って、妙〜に男装とか女装とか好きですよね」
 こっそり呟いてみるが、誰も聞いてはいない。可愛らしいウェイトレスは、ささやかな男の夢だったりもするのだが、そんなことを言える筈もない。
「シャルロットさんとリュックさんも、おめかししないとですね〜」
「まぁ、見立ててくださるの? 楽しみだわ」
「いや、俺は‥‥」
 抵抗虚しく、ピカピカの服やら靴やらを押し付けられた。

「さ、シャルロットさんのお支度ができましたよ〜」
 雪のような純白のドレスに、真珠のペンダント。薄化粧で、少しだけ背伸び。
「ど、どうかしら」
 先に正装になっていたリュックに、問いかける。
「よく似合ってますよ」
 お世辞でなく、素直にそう思った。
「そう? あ、ありが‥‥きゃぁぁぁ!」
 黄色い悲鳴。視線はリュックの背後。何事かと振り返ると‥‥
「ユ、ユリゼさん?」
 立っていたのは、彼もよく見知った冒険者の女性、のはず。
「こんにちは。台所、ちょっとお借りしたわね」
 気品漂う、ナイトレッドのマント。儀礼用の短剣と鷹のマント留めがきらりと光り、目元に施されたメイクが凛々しさを際立たせている。彼女の名前は、ユリゼ・ファルアート(ea3502)。
「私は、騎士っぽくしてみたの。エーディットさんにも手伝ってもらってね」
「素敵です!!」
「ありがとう」
 にこ、と微笑むと、おもむろに膝をつき、シャルロットの手を取った。
「姫、今宵のお供をお許しください」
「まあ、エスコートしてくださるの? こちらこそ、よろしくおねがいいたしますわ」
 純白のスカートをつまみ、礼を取る。
 ユリゼは、ちら、とリュックの様子を伺った。どうやら、単に、ひたすら感心している模様。
「もう、朴念仁なんだから」
 小声で、一人言ちる。少しくらい、妬いてみせればいいのに。

 日は暮れ、蝋燭に灯がともり、机の上には暖かい料理。心地よいざわめきが、会場を満たしている。
「これで、一通り挨拶回りは終わりかしら?」
 ユリゼが、シャルロットに問いかける。
「はい。お付き合いいただいて、ありがとうございました」
「とんでもございません、姫。‥‥なんて。でも、本当の王子様は別にいるのよね」
 そんなことを言われると、思わず頬が熱くなってしまう。
「知りません、そんな人」
 ふい、と顔を背けると、視界の端に『彼』が映った。

 一方、こちらリュック『そんな人』・(朴念仁)ラトゥール。
「すいません。エーディットさん、隣の部屋の分が無くなったら、台所へ行ってください。そこに、予備の飲み物用意してありますから」
「了解です〜」
「そうだ、そろそろ踊り手さんが出てくれるみたいなんで、クリスさん、伴奏よろしくお願いします」
「まかせてください♪」
 こちらはこちらで、色々と忙しそうだ。

 青い瞳の踊り手が、クリスの奏でる横笛に舞う。素朴な旋律が、繊細な踊りを引き立て、蝋燭の光が、銀糸の髪に優しく映える。その微笑みは聖なる母を思わせ、見る者をただ惹きつける。
「う〜ん‥‥」
 踊りに見とれる客人に飲み物を配りながら、エーディットは少しだけ、唇を尖らせた。
「聖夜祭なんですから〜‥‥みなさん、もっとくっついたらいいんですよ〜」
 給仕の振りをしながら、恋人の甘い一時を拝見、と思っていた彼女だが、思ったよりもカップルは少なく、皆それなりにわきまえていて、期待していたほどの甘味は期待できそうもない。
「みなさん、2人っきりでお出かけでしょうか〜」
 ちら、と窓の外へ視線をやると。
「あら〜? ‥‥ふふふふふ」
 そこに見えたのは。

 演奏を終えたクリスは、再び給仕の仕事に戻るべく、飲み物を取りに部屋を出た。その直前に捕らえた微かな音に、小さく笑みを浮かべながら。

「はいっ、どうぞ?」
「うわぁぁっ! ごめんなさい、小父さん! あれ‥‥お兄さん? ‥‥え‥‥お、お姉さん??」
 突然現れた男装の麗人に、小さな客人達は大いに混乱した。そもそも、本人達は、上手に窓の外に隠れ、こっそり中を伺っていたつもりなのである。それなのに、いきなり背後からカップなど突き出されては‥‥
「って、え? カップ?」
「寒かったでしょ? あったまるですよ」
 思いもよらぬ反応に、彼らはさらに混乱した。てっきり、叱られると思っていたのである。
「1、2、3人。君達、お家を抜け出して、遊びに来たでしょう?」
「う、うん‥‥」
「こっそり伺ってたみたいですけど、枯れ草を踏んでますね。吟遊詩人の耳を侮るなかれですよ。あそこに黄色い蝋燭が見えるですね? あれが燃え尽きたら、まっすぐお家に帰ってベッドに潜ること。守れるなら、ツリーに焼き菓子が飾ってあるから、食べに来るといいです」
 わぁ、と歓声をあげて、子供達が広間へと入っていく。
「リュックさんの言っていた通りですね」
 昼間、彼の聖夜祭脱走エピソードを聞いていたクリスであった。

「本日のメインディッシュ、ガチョウの香草詰めでございます」
 クリスの持ってきた料理に、皆が目を輝かせた。焼きたてらしく、良い香りの湯気が立っている。
「へぇ、こりゃぁ美味そうだ。ユリゼさん、どうもありがとうございます」
「どういたしまして。下ごしらえは、おばあちゃんにしてもらったんだけどね‥‥実は、ちょっとサプライズがあるのよ」
 ユリゼは、今度は会場中に向かって、言った。
「皆さん、この料理の中に、1つだけ、ハーブに包んだ木の実が入っています。それを引いた方には、こちらを」
 掲げたのは、真珠のティアラ。ちいさな歓声が上がる。
「さて、誰が貰ってくれるのかしら」
 そして、暫くは皆で料理に舌鼓。
「美味しいです〜。素敵ですね〜」
 と、エーディット。このときばかりは、主催者もお客様も、揃って参加。
「‥‥‥あ」
 暫くして。どうやら結果が出たようである。
「これで、いいんですかね?」
 つまみ出された小指の先程の木の実。当り主は‥‥
「まあ、リュックに貰われてしまったら、使われることもないでしょうね」
「はあ、まさか当ると思いませんでした」
 どうしたもんかと頭を掻いているリュックに、ユリゼはティアラを差し出した。
「さ、どうぞ」
 真珠と、繊細な銀細工が美しい。
「ありがとうございます‥‥あ、そうだ。これ、俺が持ってても使えねぇし、人に贈るってのはアリですかね」
「勿論よ。使って貰った方が、私も嬉しいもの」
「それじゃ‥‥」
 シャルロットの頭に、そっとティアラを載せる。
「え‥‥っ。リュック?」
「うん、やっぱり白いドレスによく合いますね。お似合いですよ。聖夜祭の贈り物ってことで」
「あ‥‥ありがとう。大切にするわね」
 首が熱い。顔も、露骨に赤くなっていないか心配だ。
「どういたしまして。今日は、なんか随分素直ですね」
「ひ、一言余計よっ」
 怒鳴り声の応酬も、今ばかりはキレがない。

「ぶわっ」
 料理も粗方片付いた頃、突然顔面に激突してきた物体に、リュックは面食らった。
「あ痛たたた‥‥ここ、ブラン商会のパーティー会場よね? 間に合ったわ! 私ってやっぱり凄いんだわ!! クリス・ラインハルトさーん、あ、いたいたいた。確かにお届けしましたよ。それでは皆さん、良い聖夜祭を♪」
 ひたすら喋り、そして去っていったのは、1人のシフール。どうやら、クリス宛のシフール便らしい。
「リュックさん、これ、読んで欲しいですけど」
 そう言って、開封もされないままの手紙を渡された。
「実は、メッセージをお願いしてたんです‥‥ブラン商会のご主人夫妻に」
「父さんと、母さんから‥‥?」
 期限的にギリギリだったので、特急で飛ばしてもらった。特急料金で、ちょっとお財布が痛かったことは内緒である。
「それじゃあ、失礼して。『まず、本日お集まり頂いた皆様、誠にありがとうございます。リュック、いつも店のことでも、シャルロットのことでも、面倒をかけてすまないね。君がいるから、店はやっていけるのだよ、ありがとう。可愛いシャロン、君と降誕祭を過ごせなくて、私達はどれほど悲しいだろう。しかし、君がパリで元気でいると思うと、その悲しみは半減するのだよ。あと数日で帰れるだろう。そうしたら、たくさん話をしよう。楽しみだ。愛しているよ。そして冒険者の方々』」
 おや、とクリスが、意外そうな顔をした。彼女が頼んだのは「来賓・従業員・娘」へのメッセージであったのに。
「『シャルロットとリュックからの手紙で、あなた方のことは聞いています。どうやら、とてもお世話になっているらしい。ありがとうございます。今度、ぜひお話なりと聞かせていただきたいものです。最後に、そこにいらっしゃる全ての方へ。よい聖夜祭をお過ごしください。これからも、ブラン商会をよろしくお願いいたします』‥‥以上です」
 最後に宣伝を忘れないのが、商人魂。
「クリスさん‥‥ありがとうございます」
 シャルロットの目が、潤んでいる。
「いえいえ、喜んでいただけたみたいで、良かったです」
「‥‥そうだわ! これお渡ししようと思って」
 そう言って、胸元から小さな包みを取り出した。
「この間、優勝の景品が出せなかったでしょう? 良いものが見つからなくて。でも、その後、うちの店でこれを見つけたから、貰ってきちゃった」
 包みを開くと、銀細工。細く伸ばした銀を編む様にして、ハート型を形作っている。ラブ・ノット。恋愛イベントの景品には、もってこいである。
「ありがとう♪ ありがたく頂戴するです。‥‥さあ、そろそろダンスパーティーと行きましょう」
 今度はリュートを取り出して、軽快な音楽をかき鳴らす。
 一曲、シャルロットと踊り終わったユリゼは、もう一度手を取って、言った。
「今宵の私の役目はここまで。貴女の、本当の王子様のところへお行きください。‥‥がんばってね」
「は、はいっ」
 遠目に、シャルロットがリュックの腕を引いて、輪に引きずり込んだのが見えた。さらに、エーディットが、背中を押してその中心に連れて行くのも。
「がんばれ、シャルロットちゃん」

 曲が終わると、リュックはエーディットから花束を押し付けられた。
「ぴったり寄り添ってましたね〜ドキドキでした〜♪」
 ‥‥というよりは、必死で足を動かしていたら自然とくっついてしまっただけなのだが。それでも、後半にはどうでも良くなって、けっこう楽しく回ってしまった。
「こういうのは、パートナーに渡せばいいんですよね」
「なんだか私、今日は貰ってばっかりだわ」
 二人で顔を合わせて、笑った。
「素敵です〜。恋人同士みたいで、絵になりますね〜」
 柱の影から、ふふふ、と笑っていたのは、誰あろう、もちろんエーディットである。

「宴もたけなわですが、そろそろ、お開きの刻限となりました。最後に、賛美歌の合唱をいたしましょう」
 リュックの言葉に、皆が少しだけ残念そうな顔をした。楽しい時間は、早く過ぎてしまうものである。
「伴奏は、またボクが務めさせていただきます。さ、みなさん。どうかお近くの方の、お手をとってどうぞ? そっと抱いて差し上るのも、良いですね」
 リュックの横には、シャルロット。
「お嬢さん、お願いできますか」
「ええ」
 そっと手をつなぐ。リュックの大きな手。伝わってくる想いは、ほとんど兄妹愛だけれど、好意には違いないのだから、今は満足しておこう、と思った。せっかくの聖夜祭だ。
 聖なる母セーラを讃える歌。小さな頃から、誰に教わるでもなく、歌うことのできるそれは、人を、とても懐かしい気持ちにさせる。心の原点に戻って、広く人を愛せるような気がする。
 曲が終わって、しん、と静寂がおちて。ぽつぽつと起こった拍手が、やがて大きな波となる。
「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございました。名残はつきませんが、お開きとさせていただきます。お土産として、ヒイラギのリースを用意いたしましたので、どうぞお持ち帰りください。これからも、ブラン商会をよろしくお願いいたします。良い聖夜祭を、お過ごしください」
 スカートをつまんで、礼を取る。退出する一人ひとりを見送りながら、隣に立つリュックに話しかけた。
「ね、リュック、楽しかったわね」
「そうですね。結構忙しかったですけど、上手くいって良かったです」
「愛の告白大会が開けなかったのは残念だけど」
 そう、そちらには全く参加者が集まらなかったのだ。
「いや、前回4人集まっただけで奇跡ですから、それ。集まらないのが、普通です」
「何よ‥‥ま、よくてよ。今は気分が良いもの。ユリゼさんたちも素敵だったし」
「‥‥あー」
 最後の一人が退出したのを見届けて、扉を閉める。残っているのは、冒険者の三人だけ。
「さぁ、最後にもう一度、きちんと見せてもらおうっと」
 くるりと踵を返し、三人の下へかけていく。弾むような駆け足に、純白のドレスが揺れて、眩しい。
「お嬢さんって、『そういう』趣味が‥‥? 好きな相手がいるって話だったけど、それは、どうなんだ?」
 それはまた、別の機会に。とりあえず今は、ただ今宵の余韻を楽しむことが大切だから。