●リプレイ本文
「王様ゲームですか〜。何が起こるかもわからなくて楽しそうですね〜♪」
エーディット・ブラウン(eb1460)。
「ふふふ、なんか楽しいよねぇ。こう、人を陥れる楽しみが‥‥」
「サスガゴ主人様! アーシェン、信シンジデルヨ。ゴ主人様ハ陰険サデハ誰ニモ負ケナイッテ」
アフィマ・クレス(ea5242)と人形アーシェン。
「皆、宜しく」
ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)。
「今回も幸運アイテム装備です!」
アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)。
「今回は1度くらい命令する側に回ってみたいものです」
リディエール・アンティロープ(eb5977)。
「ま〜た来ちまったぜ。さて、今回はどんな地獄得絵図が繰り広げられるんだろうねぇ? クックック‥‥」
スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)。
「こんな愉快なお遊び、人生に何度もあるもんじゃないんだ。十二分に楽しもうじゃないか!」
ロレンツォ・アマーティ(ec4023)。
以上7名、今回のメンバーである。
●
のったのったのった。
―なにあれ。
―な?
―すげー綺麗な。
人々の視線を受けながら、町を行くリディエール。道連れは『さらに大きくなった妙な塊』ダイフク。
その様子を、物陰から覗く一行。
「かわいい〜〜♪」
くすくすと笑み漏らすアーシャ。そう、可愛かった。ぷにぷにのダイフクも‥‥巫女装束のリディエールも。
お題はアーシャの『2番が巫女装束を着てペットの「さらに大きくなった妙な塊」を散歩させる』。
「リディエールお兄さん、慣れてるよね」
ずばっと言い切るアフィマ。普通男が女性の服など着ようものなら、どこか所作に違和感があるものだが、彼には本当に似合っている。
「リディエールさんですから〜♪」
それが全ての説明となるばかりに、エーディット。
「流石は戦乙女隊だねぇ」
ロレンツォは言うが、彼の『戦歴』はそれに止まらない。着実に積み上げられていく歴史は、彼の巻き込まれ体質の証明だろうか。
のったのったのったのった。
出来れば、早く終わらせたいリディエール。けれども、ダイフクは足が遅い。無理やり引っ張るのも可哀想だし、そんな力もないし。
―おい、変な動物は気になるけど。ちょっと声掛けて誘ってみねぇ?
(「勘弁して下さい‥‥」)
●
「あー楽しかった♪ お疲れさまでした」
満足満足、とアーシャ。今回は不幸女王も卒業だろうか。
「はい‥‥。次に移りましょう」
溜息のリディエール。次は当たりませんように。
それでは‥‥
「王様だーれだっ」
「ふふふ」
楽しい事大好き、人をからかうこと大好き、小悪魔アフィマ。
「2番の人。街角に行って、世の中ってスバラシーと説くこと。明るい話も暗い話も色々あるけど、ここでばしっと人々に世の中は明るいんだ! って語ってきてね」
「‥‥マジかよ」
高みの見物が目的で、自分が当たるとは少しも思っていなかったスラッシュ。けれども、王様ゲームではその根拠のない自信は無意味だ。
場所を写して、街頭。
「‥その、何だ。色々あるけどよ、世の中ってのは、結局明るい‥‥らしいぜ? 今日も葉巻が美味ぇしな。あとは‥‥あー」
「そんなローテンションじゃ駄目だよ、スラッシュお兄さんッ」
物陰から、アフィマ。
「そう言ってもなあ」
―ねーねー、おかーさん、あの人なにー?
―しっ‥指しちゃいけませんっ。‥春だからかしら、変な人が出てきたわね‥‥。
「もっと声張って! 笑って!! 世の中に春を呼ぶスッバラシー役目なんだから」
「サスガゴ主人様! 王様げーむノタメニアルヨウナ御方デス」
「うんうん、そでしょ」
「見た目アカルイ。建前立派、中陰険。マサニヨクアル王様ダネ」
「アーシェン!」
物陰に隠れていても忘れない芸人魂。そんな彼女をスラッシュが満足させるには、まだ当分かかりそうだ。
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「頑張ってくれたまえ。ジーザスの使徒なら‥‥当然歌えるよね?」
ぽむ、と肩を叩く輝く笑顔の王様ロレンツォ。
「それでは‥失礼します」
たどたどしく歌い始めた、『4番』リディエール。
お題『賛美歌を酒場内で歌ってもらう』
歌っているうちに、少しずつ波に乗ってくる。柔らかい歌声が、酒場に響く。
「あぁ、声がもっと張り上げて」
1人2人と客が此方に目を向けるのを見て、ある大会を思い出す。‥‥思えば『戦歴』はそこから始まったのだった。
「お耳汚し、失礼いたしました」
「結構上手いんじゃないか?」
歌い終わったリディエールに、スラッシュが拍手を送る。
「綺麗な声でしたねー」
「ドレスを着て歌ったら、もっと素敵だったと思いますよ〜♪」
「それは、ご容赦を‥‥」
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「おまえの逞しい足も、艶めく背中も、俺は心から愛しいと思うんだ‥‥」
―春先は、やっぱり危ない人が(以下略)。
酒場の床に片膝をつき、ノルマンゾウガメと視線を合わせるジラルティーデ。カメの背にはクッションとご主人エーディットが乗っている。
「なんていうか、まだ大きくなり切ってない、そんな感じが可愛いよねっ」
テーブルの上のノルマンコゾウガメの背中を撫でるアフィマ。
「いつか、ゾウガメくらい大きくなるのかな‥‥それまで、傍で見守っていてもいいかな?」
「大変ダ、ゴ主人様ガオカシクナッチャッタ‥‥」
「お2人とも、素敵ですよ〜。ゾウガメとコソウガメも喜んでるです〜♪」
エーディットのお題『3番の人と5番の人はこの場でゾウガメとコゾウガメに向かって素敵な台詞で情熱的に愛を囁く』。
喜んでいる、と言われても、彼らの黒い瞳からはジラルティーデもアフィマも何も読み取れない。しかし、2人は負けなかった。
「乗せるのはご主人1人と決めているのか? いや、俺は乗せてもらおうなんて思ってはいないよ。ただ‥‥」
礼節わきまえし捨て身の騎士ジラルティーデ。そこここでひそひそと囁かれても言葉を切らない。今回は、やりきると決めているのだ。それしか考えずに来たと言っても過言ではない。
「はい、あーんして? 食べるのが大好きって聞いたんだけど‥‥」
「ゴ主人様、スゴイ。恋ハ人ヲ変エルンダネ」
「ふふふ、そういう事」
「普段大雑把ナ分、凄ク優シサガ際立ツヨ!」
●
「あ、またあたし」
アフィマの言葉に、ぴし、と緊張が走る。
「‥‥じゃ、アレいこうかな。1番の人。今度退職するらしい記録係さん、辞めないで〜と嘆願しにいく」
それを聞き、『1番』エーディットがくるりと振り返った。
「辞めないで下さい〜」
ひし、と某記録係の手を握る。彼女は、3月末付けで退職する事になっていた。
‥‥てゆーか、はい、私です。今回は依頼じゃありませんけど、面白そうだから同行して記録させて貰っています。今までの王様ゲームの記録も取っていました。ギルドにありますので、ご覧になりたい方はどうぞ。記録係は文書に『我』を出さないのが鉄則ですが、今回は引っ張り出されてしまったので、少しだけ。こんなお題が来るとは、思ってもみませんでした。
「あたし、もっとお話したかったんだからぁ!」
有難うございます。正直、辞めたくはございません。もっと沢山の冒険に同行して、沢山の方と出会いたかった。けれど、郷に帰らなくてはならないのです。パリで過ごした時間は決して忘れません。皆さんのこれからのご活躍を心よりお祈り申し上げます。‥‥さて、少々話し過ぎましたね。再び背景に戻りますので、引き続きゲームをお楽しみ下さい。‥‥あら、困りました。何だか文字がぼやけます。
<記録係がコンディションを整えています。少々お待ち下さい>
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「はっはっはっはっ。どうやら私は幸運の女神に愛されてしまったようだね。まあ、この美貌ならそれも仕方がない」
ここまで自信たっぷりに言い放たれると、却って清々しいような気がするから不思議だ、と一同はロレンツォを見て思った。
「そんな訳で、1番と5番の2人は‥‥」
「エチゴヤオヤジの会、只今会員募集中なのです〜」
漆黒の丈の長いゾーリャのドレスに、フラベルム。頭に花柄のトーク帽。これから夜会にでも行けそうな優雅ないでたちだが、何故かゾウガメに乗り、膝の上にはコゾウガメ。真昼の街角で見かけるには、あまりに奇怪な格好で、謎の台詞を語るエーディット。
「皆でオヤジさんを称えましょ〜」
アフィマは、純白のエンジェルドレスに、水鳥の扇子。そして獣耳ヘアバンド。そーいう趣味のおじさんやおにーさんが見たら、攫って帰りたくなるような、愛らしい格好だ。手に持った、謎の物体さえ無かったら。
「ソレ、何ダイ? 魚ミタイニミエルケド?」
謎の物体。新年に冒険者ギルドから支給された縁起物、新巻鮭。
「武器に決まってるでしょ、アーシェン。『これでオヤジさんを守るのじゃ!』」
―可愛い娘さん達なのに、可愛そうに‥‥。
―やっぱり、春先は(略)
当然、他のメンバーは物陰から観察である。
「2人とも、実に素晴らしいね!」
「ククク‥‥やるねえ、嬢ちゃん達」
「‥‥私には真似できそうにありません‥‥」
「凄いお題なのに、2人とも楽しそうですねー。あの度胸は見習った方が良いかしら?」
「まあ、何と言うか‥‥俺にも真似は出来ないな」
お題『諸々の衣装と新巻鮭を装備し「エチゴヤオヤジの会」を発足、会員を集めていると道行く人に話掛ける』を結構楽しくこなした2人に、一種の尊敬が向けられたのであった。
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「はっはぁ。やあっと回って来たな」
スラッシュが笑みを浮かべる。前回のゲームで起こった惨状を知っているリディエールとアーシャは、背筋に寒いものを感じた。
「とりあえず、1番と2番には期間限定カップルになってもらおうか」
「さっきからあたし、当り過ぎだと思うんだけど」
『2番』アフィマ。
「カップル、というが、何をすればいいのだろうか」
『1番』ジラルティーデ。
「勿論、ノルマはたっぷり用意してあるぜ」
「だーかーらっ、ジラルティーデお兄さんの言ってる事、絶対間違ってる!」
「そんな事は無い筈だ。おまえは俺の話をきちんと聞いていないだろう」
広場で繰り広げられる大喧嘩。
ノルマ1『大広場で大喧嘩をすること』
―あの、落ち着いてお2人とも‥‥そんなに引っ張っては、服が伸びますよ?
「聞いてるよっ」
「だったらその構えた手は何だ」
道行く人の仲裁にも、一切耳を貸さない。
ノルマ2『周りから仲裁が入っても聞く耳を持たない事』。
「別に! 殴ったりなんてしないよ。アーシェンを操る大事な手だもん。ジラルティーデお兄さんなんか殴って痛めたら勿体無いでしょ。そんだけの価値はないもんね!!」
ノルマ3。
「もういい‥‥『アフィマと一緒に俺も死ぬ』!」
ざざっと、周囲の人が引いた。心理的に。
―え、あの‥‥命を粗末にしては‥‥。
―おい、にーちゃん、往来で女の子相手に何てこと言ってんだ。
「‥‥あたしの事、そんなに‥‥好き、なの?」
「‥‥‥」
「‥‥ごめんっ」
―そう来るかっ。
「ごめん、あたしが悪かったよ。仲直り、してくれないかな‥‥」
ノルマ4『でも結局仲直りする事』。ノルマ5。決め手は‥‥
「だって‥‥『ジラルの事‥‥好きなんだもん』」
もう勝手にしろ、と通行人がバラバラと去ってゆく。
―あ〜、コホン、喧嘩の原因は知らんが、往来で死ぬ死なないは、自重するように。
「すまない」
ノルマ6『衛兵には素直に従いましょう』。という訳で、撤収。
「はっはあ‥‥ああ、笑った笑った」
満足げなスラッシュ。
「お2人とも、素敵カップルでした〜♪」
頬を押さえるエーディット。彼女の『素敵』範囲は広すぎる。
「そーいえば、あたしたちの喧嘩の原因、決めてなかったよね。何だったんだろう?」
「俺が知る訳無いだろう」
頭を抱えるジラルティーデ。かなり人目に立ってしまった。あの中に知り合いが居ない事を、切に祈った。
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「もう不幸なんかじゃありません!」
王様札を掲げるアーシャ。
「場所はここ、酒場。6番はスカーレットドレス着用」
「‥‥は?」
前ターンの『王様』を満喫し、上機嫌だったスラッシュが、ポロリと札を落とした。番号は『6』。
「1番は‥‥」
「くっ‥‥『俺、どうだ? 変じゃねぇか? 少し、恥かしいけど‥‥』」
(「少しどころじゃねぇぇ」)
「こわい、こわい〜‥‥」
フェアリーのアンジェラが、主人の常ならぬ姿にガタガタと震えていた。
スラッシュ・ザ・スレイヤー。30歳、筋肉質。スカーレットドレス。深い赤色に染められた『露出部分の多い』女性用ドレス。
恐怖のコンボだった。
「ああ『よくお似合いさ! いつもと違うキミの姿に私の胸は高鳴っているよ』」
(「違いすぎだろ!」)
しかし、ここは空気の読めない男ロレンツォ。スラッシュの心の声など欠片も届かない。
「さあ、ワインを飲みたまえ。‥‥ああ、火照った頬も、とても魅力的だね。キミのその手を取ることを、私に許してくれるかい? それだけで私は天国へ行けるよ」
酒場中に響き渡る大音声で情熱的な台詞を綴るロレンツォ。スラッシュは一瞬本気で天国へ送ってやろうかと思った。違う意味で。
「ロレンツォさん、最高‥‥」
アーシャが呻くように呟いた。他のメンバーも、一部を除いてアーシャと同じく窒息寸前だ。
「少しは遠慮しろ‥‥」
王様達に聞こえないよう囁かれた言葉は、しかし盛大な溜息を以って却下された。
「遠慮なんかしたら人生損だよ? こういうのは、むしろ大袈裟にやらないと。ホラ、皆大喜びじゃないか! ‥‥さて、最後のノルマをこなそうか」
「は? 最後って、ちょ、それは待‥‥ぎゃああああ」
近づく瞳に重なる吐息♪ ‥‥合掌。
「ええと‥‥ロレンツォさんが、破門されなければ良いのですが‥‥」
でも蜜蜂亭の人達なら大喜びかも知れない‥‥と、少しだけ『そっちの世界』を垣間見た事のあるリディエールは思った。
●
「やっと回ってきましたか」
2度目の参加、最終ターンにして、やっと『王様』を手にしたリディエール。
「ね、ねえ、この煎じ薬、すごい匂いなんだけど‥‥」
またしても回って来た『4番』アフィマ。
「そうでしょうね。香りの強い薬草ばかり入っておりますし」
「えっと、先に効能とかきいちゃっても、いいかなー、なんて。あはは‥‥」
「それでは、面白くありませんでしょう?」
にっこり。彼の笑みは、どこまでもたおやかだ。
「うう‥‥」
今までお題を結構楽しくこなして来たアフィマだが、今回は少し身の危険を感じる。
「い‥頂きますっ」
潔く一気飲み。‥‥に続く悲鳴。悲鳴の描写は、割愛させて頂きます。
「に、苦‥水‥この際、古ワインでも良い‥‥」
震える手に、水を手渡すリディエール。
「これ、毒じゃない‥‥よね?」
「良薬は苦いといいます。‥‥ただの風薬ですよ。害はないので安心してくださいね」
「うう、人が悪いなぁ」
精神的には害ありまくり、と呟いて、アフィマは水を一気に流し込んだ。
これにて、今回のゲームは終了。
この遊戯が皆に何を残したのかは、本人のみぞ、知っている。