【臥竜遊戯】 綺羅めく星々への前哨
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■ショートシナリオ
担当:津田茜
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月25日〜04月30日
リプレイ公開日:2008年05月02日
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●オープニング
凛と冴えた早朝の大気を震わせて、江戸城の大門が開く。
重厚ささえ纏うどこか張り詰めた緊迫感の中、粛々と吐き出される騎乗の一団を暁の空を背に聳え立つ天守閣から見下ろして、隻眼の漢は満足気な笑みを吐き出した。
伊達政宗。異形とも言うべきその風貌と、粋を好む江戸っ子たちの肝を抜く派手な言動により、奥州の独眼竜と称される男である。
奥州公・藤原秀衡の後継と目され、その意によって源徳氏を江戸城より放逐‥‥江戸を奥州の属地と為さしめた立役者でもあった。
そして、また――
戦さが始まる。
身体の裡より湧き出る高揚と陶酔は、何ものにも換え難い。
政宗自信、平地に乱を引き起こす強すぎる覇気と野心に気が付かないワケではなかったが。それさえも、彼にとっては有用な武器のひとつであった。
尊き国の行く末を憂う高潔の将は、その無垢な思惑故にしばしの間、江戸を離れる。
揺らぐこと無き安寧へと世を導くかと思われた三河と尾張の同盟は決裂し、関東に覇を唱えた源徳氏も今や隆盛の座より滑り落ちた。――己の器量と運を試す千載一遇の好機を与えた神仏の加護に感謝したいくらいである。
「‥‥さて‥」
独白にはいささか大きなその声に、影の中より抜け出した意志はひっそりとその存在を主人たる漢の前に明らかにした。赫々たる戦乱の炎の内に生きる彼らを、螢惑星――争いをもたらす星――と呼んだのは戯れだったが、言いえて妙だと密かに悦に入っている。
「首尾は?」
「――仕掛けられ、浮き足立ってはおりましょう」
予想していなかったワケではない。
源徳氏に与し、その威光を楯に足掛かりを築いたのだ。源徳氏が傾けば、その威も消える。力で従属を強いていた豪族や地侍の頸木が外れ、鼎の軽重が問われるのはある程度、仕方が無い。
ただ、奥州‥‥伊達が直接、動くとは思っていなかった。
時勢に乗ってその麾下に集う者は少なくないが――江戸城の禅譲に伴ってそのまま主を乗り変えた者もいる――奥州より擁された子飼いの兵士はいくらもいない。
四面楚歌といっても過言ではないこの状態で、よもや房総に攻め入る余力があったとはさすがに想定の範囲を超えていた。
「戦況は?」
「長引けは不利かと」
「だろうな。北畠が戻るまでに結果を出さねば、奴を江戸から出した意味がなくなる。‥‥苦言を聞くのは御免だ」
冗談とも本気ともつかぬ嘆息に、さほど動かぬ男の面にちらりと苦笑めいた色が漣のように通り過ぎる。
時を置かず、甲斐の武田氏にも動きがあるはずだ。武田氏が南を向けば、信玄が奪取に腐心した北信濃の諸士にも波風が立つ。――次々に広がる波紋のように、世は騒乱の渦に飲み込まれて行くのかもしれない。
「源徳に加担する勢力を削るのが狙い。無理をして制圧する必要はないが、侮れては拙かろう」
「は‥」
重々しく頭を垂れる男を視界の端に、政宗は鮮やかな朝の光に青くきらめく江戸湾へと視線を向けた。しばし、考えるように思案を巡らせ、にやりとどこか楽しげな笑みを浮かべる。
「ちょうど良い。町で力を持て余している輩に、世を切り開く機会をやるとしよう」
「‥‥‥奴等、使えますのか?」
「俺もそれが知りたい。――そうだな、必要ならこちらで集めた足軽を何人か付けてやれ。奴等も功を挙げんと逸っているはずだ。落とした者に城をやる‥それくらいの発破を掛けて焚きつけろ」
功を焦って前のめりになった兵士をいかに巧みに御して、勝利を手元に呼び込むか。個としての力だけではない、人を用いて事を為す力。
判断力と分析力、そして、決断する力。戦さだけではない。これから始まる戦乱の世を切り開き、名を挙げるには‥‥必要不可欠な要素なのだから。
「孫兵衛が先陣を切る。その援護となれば良い。そうだな、前ヶ崎城が手ごろか? 攻めるも善し、絡め獲るも善し‥‥未だ態度を決めかねている者共の肝を抜いてやればいい。それで情勢は動く」
「――では、そのように」
静かに頭を垂れて礼を施し、影より抜け出した男はまた影の中へと帰って行った。
前ヶ崎城は武蔵と下総の国境近くにある千葉氏の支城である。
伊達軍本隊を率いる後藤信康はこの要害の砦を落とすのに時間を取られるのは益無しと判断したのか、城を落とさずに亥鼻城に向かった。
後藤が城を落とさず通り過ぎたと聞いて、伊達方は江戸で集めた足軽や浪人の一部を前ヶ崎城に送った。現在は、城中の千葉兵と睨み合っている。
城中の千葉兵は100人程度と思われる。城を囲む伊達側の足軽や陣借り浪人は80人。
●リプレイ本文
さて、この漢、
傑物なのか、単に器の底が抜けているだけであるのか――
頑是無い子供の我儘ならばまだ可愛げもあるが、一国の主‥‥引いては陸奥を背負う立場にある漢の所業ともなれば、実行力に加えて妙な知恵が廻るだけに御しがたい。
「‥‥けど、嫌いじゃないんだよねぇ‥」
どうしてだか、と。呆れた顔で広く豊かな胸郭から大量の息を吐き出したアリサ・フランクリン(ec0274)の諦観は、あるいは己に向けられたものであるのかもしれない。――世間では、馬鹿な子ほど可愛いともいうことだ。気分はすっかり手の掛かる子供を持った母親の心境といったところか。
そんなアリサの複雑な乙女心(?)とは対照的に、純粋に戦さの空気を愉しんでいる者たちもいる。
「さーて、いよいよ政宗様が動き出したかー。ここでどれだけ勢力を広げられるかで、関東の今後が決まりそうかな?」
道を行くほどに不穏と緊迫感を増す戦さの気配に心を躍らせる彼岸ころり(ea5388)の飄々と軽やかな物言いに、傭兵であることを自負するフローライト・フィール(eb3991)も穏やかな表情の下で肩をすくめた。
「ま、もう少し待てばまた大きな戦になるだろうから。‥‥精々、頑張ろうかな?」
「でも、謎に満ちてるよね、伊達って。それを突き止めたいわね」
ひとつしかない命を賭けることになるのだから。
それに足りる相手であるのかどうか、しっかりと見極めておきたいところ。まずはそこから始めなければ。尾上楓(ec1272)はあくまでものんびりと、鼻歌混じりの気楽さでこれからを考える。――戦場に向かう悲壮感など欠片もない。冒険者の傍観者たる所以、彼らにとっては、まだまだ他人事のようなものだ。
主戦場は、他にある。
後詰めの余裕か、単に何も考えていないのか。一概に測れない分、こちらには癖のある面子が揃ったのかもしれない。
●前ヶ崎城
城という言葉に何やら壮大な建物を想像してしまうのは、江戸城の雄姿に慣れているせいなのだろうか。
比べるものではないのだということは、頭ではちゃんと分かっているんだけれど。
亥鼻城を囲む本陣より割かれた80程の寄せ手と対峙する前ヶ崎城は、土塁や空堀、物見櫓こそあるものの城というよりは、少しばかり守りの強固な地頭の館第‥‥砦といった趣が強かった。
「度肝を抜くなら、無血で降すことだね」
アリサの言葉に、ころりと楓は其々の表情でジャイアント特有の大柄で筋肉質な見た目よりはずっと細やかな気遣いができるらしい女を見上げる。
戦さといえば、専ら血を流すことなのだから。
自軍の戦力を損なわず、また敵の血を流すことなく開城できれば‥‥確かに、世間の耳目を集めるのは間違いない。
「城攻めには三倍は必要だろ? 力押しは、無益、無謀、無策。世間の良い笑い物になるよ?」
前ヶ崎城に立てこもる千葉の兵は100余。
こちらは100に満たないのだから、どう差し引いても分が悪い。――いっそ火を掛けて燃やしてしまった方が幾らか楽だろうと思えるくらいだ。むしろ、向けられた兵たちの中にはそれを望む声も多い。
「そーよねぇ。でも、無血で落すのもきっと同じくらい難しいわよ」
まず、正攻法では落せない。
謎掛けや不可思議を愛する楓としては、一手、二手先を読む入り組んだ話はとても魅力ではあるのだけれど。
こちらも士官が掛かっているが、あちらも必死。上々の仕込がなければ、食いついてはこないはずだ。頬杖をついたまま可愛らしく小首をかしげる楓の嘆息に、ころりが笑う。
「偽情報で内部を混乱させた上で偽兵の計を仕掛け、然る後に交渉を持ちかけ開城を促す――て、ところじゃないかな。時間もないし、思い切ったコトをやるのもアリだよね」
これといった感情の色もなく淡々と紡がれるころりの言葉は、何故だかひどく酷薄で。例えば、これが殲滅の策であっても。必要であると判断すれば、大して逡巡もせず実行に移す魔性の如き冷淡な胆力がその裡なる陰翳を強く際立たせていた。
特に異を唱えることもなく終始落ち着き払った表情で無聊の手慰みに両の手を覆う包帯を巻きなおしていたフローライトもようやく手を止め、一触即発の緊張を湛えて対峙するふたつの勢力を眺めやる。
周囲より少しばかり高い場所に築かれた砦の哨戒に気づかれぬよう‥‥否、全く気づかれぬようでは困るのだが‥‥不自然のない距離を無言の裡で測りつつ、フローライトは自らの立ち位置に思いを巡らせた。
どう、動くか。
どのように動けば、より効果的なのか。
己の手腕だけを拠り所とする傭兵にとって、腐心すべきはそれだけだ。――結果は、後からついてくるものなのだから。
立て掛けた長弓に手を伸ばし、フローライトは優しく慈しむようにその魔力を帯びた弓弦を弾く。‥‥ヴ‥ン、と。小刻みに震える弦が発する撓んだ風の唸りにも似た大気の揺らぎに耳を傾け、彼は心の裡より滲み出す感情に陶然と双眸を細めた。
●夜陰
杳々と翅翼を広げる夕暮れの薄墨に、淡い蛍火が揺れる。
風精の意思を示すその仄緑の光に包まれた神聖騎士の黒耀の眸に、刹那、鋭い殺意が閃いた。
「‥行け!」
迷いなく指された暗澹の先へ、騎乗の侍が駆け込んでいく。
休息の合間をむって楓が向けた茶飲み話に応えたように、彼らもまた生きるため‥‥家族、そして、一族郎党の為に命を掛けているのだ。
黄昏に紛れて支城を抜け出した伝令は、亡羊と霞む夕暮れの中から突如現れた騎兵の姿に目を剥いた。哨戒の目は欺けても、《ブレスセンサー》に応えた精霊の網を潜り抜けることは、並みの兵には不可能で‥‥怒号と叫喚が入り混じり、血よりも赤く、爛れた夕映えに黒々と濡れた狂気を誘発していく。
ただ放たれるばかりの矢の如く、応えのない沈黙。
いつ終わるとも‥‥それが光明であるのかどうかさえ知れぬ時間を堪えるのは、拷問にも似た苦痛だ。
楓が引いた沈黙と不安の帳が、支城に篭る将兵を憔悴させる。
「‥‥始まったみたい‥」
ゆったりとやわらかに。戦場の無為をいっそう際立たせる春の風に乗って微かに聞こえる喧騒に、アリサを手伝って偽兵の準備を手伝っていたころりは風に混じる血の匂いを嗅ぐように眸を細めた。
「そうみたいだね。こっちも、のんびりやってられないよ。もうひと頑張りだ、張り切っとくれ」
馬術と戦闘に秀でた者を借り受けた楓に対し、アリサは手先の器用な者たちを集めて工作に余念がない。
完全に日が暮れるまで、半刻余――
それは、彼らが仕掛ける大芝居が幕を開くまでの時間でもあった。
●開場か殲滅か
ひたひたと世界に満ちた夕暮れは、いつしか漆黒の闇へと姿を変える。
極限まで張り詰めた不安と緊張の中で固く身を縮めていた前ヶ崎城の兵士たちは、虎口に近い暗がりの中で突如起こった喚声に肝を潰した。
誰かが追われている。
幾重にも押し潰されすり減った神経が、追われる者を味方だと認識するのは当然の成り行きで‥‥傷だらけの弓兵は差し伸べられた手に抱えられるようにして、城内へと招かれた。
ころりの手でやりすぎではないかと思われるほどの手傷を負ったフローライトは、あてがわれた薬を飲み干してようやく息をつく。――おかげで疑われるコトはなかったが、さすがにちらりと死を覚悟した。
「‥‥逃げてきたんだ‥」
引き出された評定所で、フローライトは何度も繰り返して覚えた口上を諳んじる。
曰く、進軍してきた敵の多さに驚いて、降伏しようと思ったのだ、と。――伊達の陣にいたというフローライトの言葉が真実であれば、それは千葉氏に向けられた援軍ということだ。
城内に安堵とも勝利への予兆とも付かぬ喜色が満ちる。
「あれだけの援軍‥‥200‥‥いや、250は居たかも。この城の兵に挟み撃ちにされたら流石に勝てないからね」
この妙に具体的な数が曲者で。
千葉の兵力に通じている者であれば、その兵がどこから派されてきたものか。あるいは、それだけの援軍を出す余力が今の自軍にあるのかを自問するはずだ。
尋ねられ、フローライトは困惑を装って視線を揺らせる。
「ほら、えーと、家紋が見えたんだけど‥‥」
いくらフローライトが異郷の者であるとは言っても、伊達の軍に身を置いていた者が、伊達家の家紋を見誤るとは思えない。
言葉を濁したフローライトにほんのわずかな違和感を覚えた敵将が、問い質そうと身を乗り出したその時、鬨を告げる快哉が夜陰を裂いた。同時に、煌々と夜を照らすかのように点された敵陣の松明に、物見櫓の周囲から動揺が陣内に広がる。
城を取り囲む松明の数は、200〜250‥‥アリサの策で作られた偽装の兵だ。
フローライトが申告した増援が実は伊達の兵であったと知れば、援軍を信じて安堵した前ヶ崎の千葉軍はたちまち絶望と混乱に取り込まれるに違いない。
彼らが落ち着きを取り戻す前に、帰順を呼びかけることができれば‥‥この戦さは冒険者たちへと軍配があがる。
■□
「腹が減っては話にならないだろ、ほら」
アリサから差し出された大きなおにぎりで心身を満たした冒険者たちが前ヶ崎城の城門を潜ったのは、篝火がともされてから四半刻ばかり後のことだ。
細身ですらりとしたころりと楓の後ろに続く、鬼面を被りこれ見よがしに偃月刀を携えたアリサの居出立ちに、居並ぶ者は息を呑む。
「伊達政宗公配下・前ヶ崎城攻略軍副官、彼岸ころり。此度の交渉における全権を預かっております」
もちろん、嘘だ。
だが、あくまでも冷厳にまっすぐに背筋を正し隙のないころりの気迫と口上に位負けしたのか、異を唱える者はいない。
何の感情を挟むこともなく淡々と城攻めの準備が整ったと告げるころりと、その後ろで周囲を睥睨するアリサの異形に、ただただ畏れ入るばかり。――支城を預かる城代は、半刻後に総攻撃が始まると聞かされて蒼白になった。
「‥‥政宗公は徒に血が流れる事を好まない。今まで他国への攻撃を控えてきたのも、平和的な手段を模索していた故の事」
「しかし、里見の噂では‥‥」
女子供を問わず皆殺しにするという。
町に流された噂を聞いて、ころりは居丈高に鼻先で笑って見せた。――源徳時代となんら変わることなく反映を続ける江戸の町が全てを語っている、と。
「無論、ただ垂れ流す慈悲など持ち合わせぬお方。お望みならば、手始めにこの城を噂どおりに殲滅し他への見せしめにするもよし――」
どしん、と。
大地に叩きつけられた偃月刀が発した地響きが、ころりの言にいっそうの凄みを添える。どきりと身を竦ませた彼らの心に寄り添うように、楓が感極まった風情でわっと泣き出した。
「本当は誰も‥‥そうあの政宗公だって、血を見たいとは思ってないんです。でも、もう幾らも時間がないの。だから、私たちと一緒に――私たちの都合ばかりですけど――でも‥‥でも、誰にも死んで欲しくありません、私は!」
涙は、女性の最大の武器だというけれど。
確かに敵を憐れんで涙する楓の姿は、坂東武者たちの心に訴えるものがあっただろう。これまでにない動揺に、ころりは視線でアリサに合図を送った。
「降伏し開城するなら、城にいる者達の生命・財産はこの私が保証する。――望むなら、功を立てる機会も与えられよう」
「私たちも、冒険者から将に取り立てられたクチなんだ」
鬼面の下から現れた女性の笑顔に、ぷつりと緊張の糸が途切れる。
元々、千葉氏に属しているとはいっても源徳氏の威光を縁に日和見的に従っている者も多いのだ。――命、そして、財産を保障されれば、いつまでも劣勢となった側に義理を立てる道理もない。
漣のように広がる機運に、フローライトは勝利を確信した。
●綺羅めく星々への前哨
矯めつ眇めつする指の動きに合わせ、ひらりひらりと紙が舞う。
しばしの間そうやって《江戸の裏地図》なる胡乱な絵図を眺めていた政宗は、つと膝を進めた男の鼻先にその地図を突きつけた。
「梶之助か青葉にくれてやれ。――俺が甘味を所望した時、俺の嗜好に遇う物をいかに迅速かつ効率よく俺の元に届けるかを思案し手配するのは小十郎、おぬしの仕事だ」
「御意」
一から十まで。指示を受けねば動けぬようでは、冒険者を家中に召し上げる面白みがない。自らの器量にのみ拠って立つ。それこそが冒険者の珠玉であるのだから。――いっそこちらを食い尽くすくらいの覇気をもって掛かってくれれば、受け止め研鑽することで共に更なる高み目指す甲斐もある。
この上なく傲慢な放言に肩をすくめて片倉小十郎は、受け取った絵図を丁寧に折り畳んで懐にしまい、板張りの床に広げられた絵図に目を向けた。――房総への布陣と形勢、次々に舞い込んで来る報を映してさながら生き物のように形を変える。
「とはいえ、奴等なかなか侮ったものでもないらしい」
「どちらかといえば、奇策に属するものではありますが‥‥それで、彼の者たちの空手形、どのようにいたしましょうや?」
下った者たちの身を安堵したのは、冒険者たちの独断によるものだ。
分を越えたと憤ることも可能だが、もたらされた成果の大きさを測ればそれもまた興が醒めよう。今は、結果を出したことで満足だ。
「構わん。我が軍門に下ったのであれば、敢えて虐げることもあるまい。――そのまま彼の者どもにくれてやっても面白そうだが‥」
「今はまだ、時期尚早かと」
水を差すような進言に、政宗は肩をすくめる。
まだ、ひと息ついただけ。勝って尚、事態は予断を許さぬ状況が続いていると言っても過言ではないのだから。しばし、思案を巡らせて、政宗はひらりと手を振って御意を伝えた。
「まあいい。生憎、支配した上に愛情まで要求するほど厚かましく出来てはおらぬ。今はまだ、畏れられるだけで十分だ」