山葵はどこへ消えたのか?!
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■ショートシナリオ
担当:津田茜
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 75 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月05日〜05月17日
リプレイ公開日:2008年05月13日
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●オープニング
雪が溶ける。
力で動かそうとすれば恐ろしく時間の掛かる過酷な重労働だが、春陽ならただやわらかく降り注ぐだけでいい。
弛んだ氷の下で水が奔りはじめれば、日を追うごとに勢いを増して鮮やかな色彩が白一色の大地と森を塗り替えていく。――そして、世界が動き始める。
春になれば――
心を躍らせ、指折り数えて待ち望んだ季節。
それは人間だけの話ではなく、森や野に暮らす動植物‥‥パラの村、そして、山みっつ離れた巨人の村でも。等しく歓迎される季節であった。
‥‥はず、なのだけれども。
「帰ってこないんだよね」
はあ、と。
大仰に落とされたため息に、《ぎるど》の手代はちらりと番台を挟んで差し向かいに座る依頼人を眺めやる。――なんとなく想像はついたのだが‥‥否、想像がついたからこそというべきか‥‥先を続けて良いものかどうか躊躇ってしまうのは何故なのか。
「誰がです?」
「こじろ」
‥‥名前があったのか‥。
変なところで感心して無言になった手代の反応を肯定だと受け止めたのか、本日の渉外担当であるらしいパラっ子は胸に手をあて大仰に吐息を落とした。
「正しくは、こじろと官那羅って言うべき? ――あ、違う、違う。帰ってこないのは、あのふたりじゃなくってぇ‥‥みんなを迎えに行ったんだよ、ふたりは。あ〜でも‥‥やっぱりみんな帰って来ないんだから‥‥この場合はどうなるの?」
知らない。
むしろ、こっちが聞きたいわっ!!
■□
江戸を離れること数日余。
街道をふらりと外れ、道なき道を深く分け入った北信濃の山奥に《小さな隣人》‥‥パラと呼ばれる人々の暮らす村がある。
豊かな山と綺麗な水の他は何もない小さな村だ。住人ともどもあまりにも小さいものだから、地図にも載っていなかったりする。――さすがにコレではいけないと立ち上がった村人たちは様々な村興し計画(?)を経て、今では知る人ぞ知る迷所になりつつあった。
憧れの大都会・江戸とは比べるべくもない小さな村は、冬になると雪に埋れる。
周囲は一面の銀世界。いっそこのまま春まで冬眠してしまえるのではないかという勢いで埋れているのだが、住民たちは熊ではないので冬眠はできない。
とはいえ、辺りは大雪・どか雪の降る豪雪地帯。
山も畑も雪に埋もれる冬の間はこれといった仕事もないので、ぶらぶら暮らすのが後ろめたい者たちの中には、人里に働きに出る者もいた。
雪解けまでを信濃や越後の宿場や港、酒蔵といった場所で働き、春になるとちょっとした現金収入を得て村へと戻る。
「‥‥まあ、いわゆる季間労働ってヤツですかねぇ」
閑農期に仕事を求めて江戸にやってくる者も珍しくはない。出かけた先で悪い遊びを覚えなければ、今時分は皆そろそろ生国へ帰っていく頃だ。
パラの村だけではなく、お隣の巨人の村でもだいたいそういう事情らしい。
小柄なパラとは違い体が大きく力も強い巨人たちの手を借りたいという働き場は意外と多いらしく、秋口になるとわざわざ仕事を斡旋にくる者がいるのだとか。
ここまでは、いつもの話。
「問題は、ですね‥‥春になっても、誰も戻ってこないんだそうです‥‥いえ、毎年、行く場所の決まっている者たちは帰ってきているって言ってましたが」
口入業者に連れられて郷津に向かった者たちが、数名。
中には町での暮らしが気に入って戻ってこない者がいないではないけれど、誰ひとりとして戻ってこないというのは少しばかり様子がおかしい。
「それで、巨人族の村に残っていた官那羅が仲間を連れ戻しに行くと言い出しましたそうで‥‥」
人間嫌いの官那羅ひとりでは心許ないということで、ちょうど越後へ山葵の行商に出かけるつもりだったこじろが協力を申し出た。
揃って出かけたまでは良いのだが、なんと‥‥というか、やっぱりというか‥‥今度はこのふたりとも連絡が付かなくなってしまったのだという。
「やっぱりこれも、二次遭難って言うべき?」
帰ってこない仲間も心配。
ふたりも心配。
困ったときの神頼み――ならぬ、冒険者頼みというコトで、面倒事がまたひとつ《ぎるど》に持ち込まれたという次第。
とはいえ、今回は少しばかりいつもと事情が違うような気も‥‥。
よろしくお願いしますと頭を下げるパラっ子のつむじを見下ろして、手代は思案気に首をかしげた。
●リプレイ本文
農閑期に仕事を求め、繁華な人里へ降りた者が戻ってこない。
それ自体は、まあ、良くある話だ。――便利で、賑やかで、仕事も多く、実入りも良いとくれば、順調であるほど留まりたいと思う者もいるだろう。
だが、待つ者の身になれば‥‥
事情はいくらか異なるが心中に必ず連れ戻さんと決意した者を持つ佐竹政実(eb0575)は、仲間を想う官那羅の心情に己を重ねた。それだけに、自らの欠点‥‥というか、敗因は気になるところで。
「‥‥まさか、私のように道に迷っているわけでもないですよね‥」
追跡者がとんでもない方向感覚の持ち主だったりすると‥‥やっぱりちょっと、致命的?
きりと冴えた容貌に似合わぬ懸念の色を浮かべた佐竹に、パラッ子はそれだけはないとばかりに勢いよく首を横に振る。
「官那羅はちゃんと絵図を持ってたし。こじろだって道は気分で選ぶけど、着きたい場所は間違えないから、大丈夫!」
力強く言い切っているが、言い回しが微妙に怪しい。――いや、それよりも。まっすぐ越後に向かわず信州街道を迂回して寄り道したパラの村で、一服している今の状況が果たして正しいのかどうか。
己の方向感覚にてんで信用を置いていない佐竹と、こちらの地理には今ひとつ不慣れなキドナス・マーガッヅ(eb1591)のいかにも不安げな視線を受けて、所所楽銀杏(eb2963)は相変わらずわらわらと冒険者たちの周囲に集まって陽気に歓迎を示す村人たちに吐息を落した。
「大丈夫、です」
自分に言い聞かせるように、言う。
2度目の来訪となった銀杏を大歓迎してくれるのは、たしかに嬉しいのだけれども。
輝くばかりの新緑と一斉にほころんだ春の花に囲まれた信濃路は、請け負った依頼に漂う不穏が嘘のような優しさに満ちていた。
「ここからだと郷津はそう遠くないですから。――別ルートを使うよりは実際に尋ね人の足取りを追った方が良いと思い、こちらを選ばせてもらいました」
銀杏の肯定に頷いた城山瑚月(eb3736)も、敢えて三国街道を使わず北信濃に足を運んだ理由を言葉に紡いだ。
騒乱の火種のひとつにもなったように、上州と越後の仲は芳しくない。
武田氏に与した北信濃も決して友好的とはいえないが、善光寺や飯綱・戸隠といった広く信仰を集める聖地の存在が関所を通る旅人の素性をそれなりに隠してくれる。山深い土地柄、監視の目が届きにくいのも利点だろうか。地の利に明るい者がいることが条件にはなるが、あからさまに不審な行動を取らなければ厳しく咎められることもない。――最近、商いに興味を持ち始めたキドナスにとっては、何かと実になる旅となりそうだ。
何よりも。道を選んだ城山としては、官那羅とこじろを含めた尋ね人たちがここから郷津に向けて旅立ったことを重視している。
「‥‥確かに目立ちますよね」
特に、後発のふたり組。
この嘆息は、なにも政実だけのものではなくて。――依頼を受けた冒険者たち全員の感想でもあった。
駕籠いっぱいの山葵を背負った不思議パラと、人間嫌い(?)のジャイアント。
視界に入れば、間違いなく記憶に残るはず。
「こじろさんが持って行ったはずの山葵の量。皆を迎えに行った2人の大まかな服装や装備と、迎えに出かけた時期。――思い出せる範囲でいいので教えて、ください」
追跡調査の基本は、まず対象を正確に把握すること。
陽射し対策に被ったローズヴェールの薄紗越しに問いかけた銀杏の言葉に、パラッ子たちは暫し沈黙。そして、思い思いに喋り始めた。
●失踪か、誘拐か?!
パラの村から郷津への道のりは、凡そ半日。
出稼ぎに出かけた仲間を探すのに多少手間取ったとしても、半月近く音信不通になるのは不自然だ。
春の陽射しを反射してきらきら輝く群青の海と、眩しい水平線上に霞む淡い島影に無意識のうちに眸を細め、政実は思案を巡らせる。
信濃と越後を結ぶ信州口、北国街道の途上でも、郷津へ出稼ぎに行くという巨人族たちを覚えている者は多かった。
「なにしろ港町だからね。力仕事の働き口なら引く手数多だ」
賑わう街の口入屋でそれとなく事情を尋ねた城山に、番台の男はあっさりと首肯する。
荷を運んだり、船を引いたり。西国、あるいは、華国より来る船もあって港は活気に満ちていた。実際、港で働く人足の中には、巨人族の姿も多く見かける。――彼らの探している顔がどこにも見当たらないのが、最大の問題であるのだけれど。
「去年の秋ごろなのですが‥」
消息を絶った知人を探しに来たのだと憂い顔を作った城山に、口入屋はまたかと苦い顔をした。その表情に、政実は胸の底にひっそりと蟠った不安が密度を増したことを自覚する。政実の顔色を読んだのか、男は少し慌てた風に言葉を足した。
「ああ、いえ。先日も同じようなことを聞かれたもので‥‥」
「それって、小人と巨人のふたり連れですか?」
思わず身を乗り出して尋ねた政実に、口入屋はいやと首を振る。
「いや、人間だ。‥‥あんたの言うふたり連れがうろうろしていたという話も飯屋で聞いたような気がするが、うちに来たのは人間だったな」
記憶を手繰るように首を傾げた口入屋を前にして、城山と政実は顔を見合わせた。
官那羅とこじろの他に、人を探しに郷津を訪れた者がいる。これは、何を意味しているのだろうか。
「もしかすると、自分たちの意思ではないのかもしれませんね。――人買いなどに捕まってしまい、強制労働されているですとか、給料がもらえなくてかえるに帰れないですとか」
聞けば、治安もよろしくないという。
上杉謙信の居城である春日山城に近いこのあたりは、まだ睨みが利いている方ではあるが。越後そのものは一向一揆をはじめ、一揆や反乱の多い地域だ。
思案げに落された政実の呟きに、今度は口入屋が縁起でもないと顔をしかめる。その視線に曖昧な笑みを返して、城山は最後にひとつと問いを投げた。
「どこかで大量の人手を集めているって話を聞かれたことはないですか?」
「郷津じゃないなら、島の方かな。――なんでも新しい鉱脈が見つかりそうだとかなんとか。おかげでこっちも手が減ってねぇ」
鉱山もまた、巨人族の怪力が重宝される働き場であるには違いない。
何かがつながりそうだと得心した城山に、口入屋は周囲を憚るように視線を走らせ調子を落した。
「だが、鉱山はどこも御官制だ。お上のお許しがないと入れないもんで、内実はこちらも知らないことが多くてねぇ」
戦乱の絶えないこの時勢、貴金属を算出する鉱山はどれも貴重な財源となる。どの藩も鉱山の開発には力を入れているが、それは同時に他国には秘しておきたい機密でもあった。
それに、と。
声を潜めて付け加えられた黒い噂に、いかなる場合も正道だけは踏み外さんと誓願を立てる城山はわずかに面を曇らせる。
他に比べて実入りが良いとされる反面、従事する職種によっては3年以上生きられないとか。そんな過酷な重労働を強いるとすれば、全うな手段での人集めはできない。――漠然と渦を巻いていた悪い胸騒ぎがいよいよ大きく形を持ち始めたことを感じ、政実もまた深い吐息を落した。
長い冬を乗り越えてようやく訪れた春にきらめく海を挟んで、何事か澹い企みが動き始めているような‥‥俄かに巻き戻された冬の気配が首筋に触れる。その戦慄にも似た底冷えを誘う胸騒ぎに、城山は小さく身震いした。
●山葵はどこに消えたのか?!
「ああ、山葵売りの山伏さんね」
飯綱明神の輪袈裟を掛けた大小のふたり組を最後に見かけたのは、鮫ヶ城に程近い高田宿の旅籠で働く仲居であった。
郷津の港で行方不明の同胞を見つけることの叶わなかったふたりは、ひとまず帰路についたらしい。郷津と高田の間では、茶屋や旅籠といった各所で行き帰りの姿が目撃されている。が、高田よりこちらは、行ったきり‥‥
「おふたりは、この高田宿で何かあったと考えてよさそう、です」
パラの村人たちが口々に語ったこじろの居出立ちを主眼に街道筋で聞き込みを続けていた銀杏とキドナスはその報を持って、郷津より引き返してきた城山、政実に新しい見解を伝えた。
「巨人族の方は‥‥多分、官那羅殿だろう‥‥行きよりもっと無愛想で機嫌が悪かったというから、城山殿と同じ話を聞いたのかもしれない」
身振り手振りを交えて話すキドナスの報告に、城山と政実は無言のうちに視線を交わす。
騙されて、連れて行かれた。その話が事実なら、そうでなくとも人間に対し良い感情を持ってないという官那羅のこと、不機嫌にもなるだろう。
「それで、というコトでもないのでしょう、けど。こじろさんは鮫ヶ城のお殿様にお願いしようとしたらしい、です」
高田宿から程近い鮫ヶ城は、春日山城を守る支城のひとつ。
任されている城代も家臣団の上位に名を連ねる信厚い重臣であるはずだ。
上手く立ち回れば、島へ渡る話をつけてもらえるかもしれないし、もっと上手くすれば仲間を取り戻してもらえるかもしれないとでも考えたのだろうか。――酒場でひとり銚子を傾けていた身なりの良さげな侍に、持ち込んだ山葵漬けを肴に勧めて仲介してくれそうな偉い人を紹介してくれるように頼んでいた。
「‥‥ところまでは、酒場の主も覚えて、ました」
よほどの酒好きだったのか、あるいは、奇妙なパラが気に入ったのか。もしくは、しつこく頼まれると嫌といえない損な性分だったのか‥‥単に、酒が入って気前良くなっていただけかもしれない。
ともかく、その若い侍は駕籠に残っていた山葵漬けと交換で、高田宿を取り仕切る代官宛に一筆書いてくれたのだった。
こじろが渋る官那羅を小突き回して支度を急がせていたコトは、旅籠の仲居が証言している。銀杏とキドナスが調べ上げた目撃証言に、郷津で掴んだ噂話を加味して推し量ってみたところ‥‥
「つまり、代官の館第が怪しいということか」
「‥‥です」
城山の呟きに、銀杏はこくりと頷いた。
鉱山が官制であるならば、あるいは、見えないところで繋がっていたとしても不思議はない。
●謀略の片鱗
夜陰に紛れて人影が動く。
人知れず潜り込む術に心得のある城山と銀杏の背中を見送って、政実は手を伸ばして絶氷丸の身体に触れた。足元に蹲って政実の命令を待つ柴犬も、さほど緊張する風もなく夜の中で落ち着いている。
夜目の利くキドナスも一緒なのだから、何も不安に思うことはないのだが。それでも、著しく視界を制限される夜の暗がりは人の心に翳をさす何かがあった。
旅装や武器に季節はずれの蛍を宿したかの如く淡く発光する《レミエラ》の小さな光を眺めて過ごす時間は思いがけず長く感じる。
「‥‥少し冷えてきたな‥」
落ち着き払ったキドナスの低い声に見上げた夜空にも、件の魔法を散りばめたかのような星が瞬いていた。
琉の首に括りつけた荷物の中で淡く瞬く星の光を頼るともなく、静かに歩を進めていた城山は細く聞こえた小さな音に足を止める。――優れて鋭敏な嗅覚を持つ忍犬に山葵を嗅がせるワケにはいかないので、ここは大人しく手探りで進めることにした。尤も、目立って奇抜な造りでもないので牢のある場所は見当がつく。
枯れた野原を通り抜ける風にも似た。綺麗だが、切ない音色。
「笛の音みたい、です」
おそるおそる吐息を吐いた銀杏に頷いて、城山は壁に当てた手を滑らせるようにしてゆっくりと膝を落した。地面より少し高い場所‥‥土台に当たる部分に、木製の格子を嵌めた通風孔がひとつ。
子供がひとりどうにか潜り抜けられそうな小さな口の向こうには重い闇が立ち込めている。さすがに光源のない暗がりは見通せず吐息を落した城山の隣で、彼よりは幾らか小柄な銀杏が格子に顔を近づけた。
「どなたかいらっしゃるのです、か?」
暗がりの中で、息を呑む気配が動く。
ぴたり、と。笛の音が止んだ。
ふと思いついて城山は琉の首に括りつけていたレミエラを暗い穴の底へと投げ入れる。こん、と軽い音がして、穴の底に仄白い光が浮かんだ。その光の中に、大小の人影がふたつ。
「‥‥いて‥」
「こじろ、さん!」
おでこをさすりつつ受け止めた光玉を不思議そうに眺めるパラの姿に思わず声を上げ、銀杏は慌てて口を押さえた。
「こじろさんも、官那羅さんも。おふたりとも、無事、ですか?」
「へーき。でも、出られない」
それは、見れば判る。
うっかり脱力しそうになりつつも、相変わらずの反応に安堵の笑みが零れた。この程度の格子を破るくらいなら、城山にはそれほど難しい仕事ではない。
「今、出してあげます。――そのレミエラは後でちゃんと返してください」
■□
暗がりの中から駆け出してきた人影に、思わず身構えた政実はそれが見知った顔であることに気づいて肩を落とした。
「皆さん、ご無事で」
何よりです。そう言いかけて、言葉を飲み込む。
皆、というには面子が足りない。
「官那羅殿はご一緒ではなかったのか?」
「出られなかった、です。身体が大きすぎた、から‥‥」
地下牢の通風孔は、パラのこじろは通れても。
巨人族の官那羅には小さすぎた――官那羅にお尻を押してもらえなければ、こじろは壁を攀じ登れなかったのだけれども――そして、忍び込んで地下牢の扉を開けて囚われ人を助け出せるほど、代官屋敷は手薄ではなかった。
「大丈夫、です。まだ、殺されはしないと思い、ます」
眉根を寄せたキドナスと政実を力づけようと、銀杏は声に力を込める。
ふたりは島に送られると聞かされていた。――聞き齧った話では、人足はまだまだ足りていないのだとか。
「だから、こじろ殿だけでも逃げだせば、彼らも有耶無耶にはできません」
城山の言葉にも悔しさの中に、強い意志が宿る。
必ず悪事を明らかにして、騙されて囚われた者たちを自由にしてやらなければ‥‥困難な道ではあるけれど‥‥遣り遂げてこそ、正義が立つというものだ。
そのために、今は出来ることをする。
熱く秘めた決意を胸に、冒険者たちは夜陰に紛れ信濃口を後にした。