【北国繚乱】 懐に、ご用心
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■ショートシナリオ
担当:津田茜
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月13日〜10月18日
リプレイ公開日:2004年10月22日
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●オープニング
一日千両――。
黄金の雨が降る町がある。
台風一過の薄日が照らす道筋は、どこか浮ついた賑わいを見せていた。
圧倒的に男衆が多いのは、この先にある街の性質によるものか。――面番所の同心たちに守られた大門の向こうは、江戸で唯一、お上が許した公認の色里である。
その不夜の巷に一夜の夢を思い描いて大門を目指していた者達は、突然、響きわたった大音声に身を竦ませた。
「無礼者っ!!」
無精髭を生やした浪人が血走った目で、若旦那風の男の襟首を掴みあげる。――懐のものを気にしてか少し前かがみに歩いていた若旦那は、酒に酔ったかふらふらと正体なく近づいてきた浪人に気付くのが遅れたようだ。
「これはついうっかり‥‥」
「うっかりだと、うっかりですむか!」
ぐいと大刀で引きつけた浪人に、若旦那は目を白黒させる。
「あれ、乱暴な‥‥」
居合わせた者たちも思わず固唾を飲み込んだ。非がどちらにあるのかは明白だったが、それを指摘するには少しばかり危険な雰囲気であったから。――ヘタに嘴を突っ込めば、浪人の酔いの具合からみて、間違いなく刃傷沙汰になりかねない。
相手は侍、面番所へ仲裁を訴え出ても裁定は微妙なところだ。
不味いところへ行き合わせた、と。顔を曇らせた人垣の間から、ひょっこり顔を出した女は、目前の光景にやれやれと肩を竦める。
「およしなさいな。吉原の目の前で、無粋ですよ」
言いながら、女はふたりの間に割って入った。婀娜っぽい格好をした女の仲裁に、浪人は不承不承、若旦那の襟首から手を放す。そして、女の方へと向き直った。
「女だてらに仲裁を気取るか。――ならば、どうけりをつける」
じろりと動いた険しい目にも臆した風なく、女は嫣然と唇の端に笑みを浮かべる。
「仲裁は時の氏神といいますからね。そうですわね‥‥そこらの茶屋でお付き合いを致しましょうか」
値踏みするように目を細め、浪人は女を眺めた。
「‥‥酒を馳走するというか」
「はいな。なにか、ご不満でも?」
ぺこぺこと女に頭を下げる若旦那を後ろに肩を並べて立ち去る浪人と女に、人々はひとまず胸を撫で下ろし、再び大門に向かって歩き始める。
■□
三畳ほどの小部屋には、ふたりの男が待っていた。
揃いの長半纏を粋に着こなした風体は悪くないが、堅気でないことはひと目で判る。
「――番方‥‥」
“ぎるど”の口入係に促され、番方と呼ばれた男は頷いて冒険者たちに眼を向けた。歳の頃、25、26といったところか。ちょっと驚くほど綺麗な顔立ちをした男である。
「こちらが、吉原会所の‥‥」
聞き覚えのない名前に首を捻った
吉原の名前は知られているが、その内実はほとんど知られていないのが実のところだ。享楽の地へ足を向けるには、それなりの軍資金が必要で‥‥自慢ではないが、そんな余裕のある者はいない。
「残月と申します」
短く名乗って、男は軽く頭を下げる。隣の男―筋骨逞しい巨人の男であったが―は、特に口を挟むでもなく黙ったままだ。
「さる御方からこちらへ伺えば然るべき者を用立てていただけるとのこと。――不都合はございませんかね」
「ええ。それはもう」
なぜか“ぎるど”の手代が大きくうなづく。口を挟みかけた冒険者は向う脛を強く蹴られ、涙を溜めて口を噤んだ。
「それはありがたい」
短く応えて、残月は唇の端をほんの少し吊り上げる。
「この数ヶ月前より、紋日になると日本橋、吉原界隈に掏摸一味が現われるようになりまして。――ずいぶん荒っぽい手口で懐のモノを掏りかえる」
被害は三百両を超えているでしょう。被害の額に、思わず顎を落とした者が数名。
紋日は馴染みの客が多く吉原に通う。揚げ代も普段の倍と高いから、客の懐も膨らんでいた。掏摸は、それを狙うのだという。
「廓内のコトであれば、我らもそれなりに動けるのでございますが‥‥」
どうやら掏摸は、一組ではないらしい。いくつかの一味を操る頭目のような者がいるようだ、と。残月は秀麗な顔をしかめた。
もちろん公儀の同心たちも動いているがコトが吉原がらみとあって、今ひとつ動きが鈍いのだという。
「かような次第にございます」
ここはどうか皆様のお力で‥‥
いくらか握らされたのだろうか。にこにこと愛想のよい満面の笑みを浮かべて手を揉む手代に、冒険者たちは疑惑の目をむけた。
●リプレイ本文
吉原大門――
廓の華やかさとは対照的に質素に造られた巨大な門は、鉄漿溝と呼ばれる巾二間(約3.6m)の堀を周囲に巡らせた吉原遊郭唯一の出入口である。
築地、日本橋と並び、日に千両を稼ぐこの街は、訪れる者に栄耀栄華を見せる傾国の都でもあった。高い塀、深い堀に隔てられた広さ一万坪ほどの小さな街で、人は束の間、憂き世を忘れ百花繚乱の夢に遊ぶ。
門より持ち出されるのは艶やかに匂い立つ夢の残滓。――生活の息吹を微塵も感じさせぬのが、吉原の粋であり心意気。
巷間に満ちる吉原は、常に艶やかな色彩の中にあり‥‥その片鱗に惑わされるのも、また一興か‥‥
「何故だ?! 完璧に化けたのに――」
禿に化けて吉原を歩こうとした月詠葵(ea0020)、弥勒蒼珠(ea4375)のふたりは、いきなりその大門にて止められた。完璧だと自負していただけに納得がいかず唇を尖らせた月詠だったが、タネを明かせば実に単純。
何故、そこに門があるのか。
それも、たったひとつの出入り口として。――答えは、もちろん。そこへ出入りする者を見張るため、である。
門を入った左側には奉行所の面番所があり、隠密同心と呼ばれる役人が出入りする者たちの身体を改めた。さらに、右側には吉原側の監視所があり、こちらは主に女性の出入りを監視している。――目的は、武器の持ち込み、遊女の逃走を止める為だが、共に人を見る力に長けていた。また日頃、廓に暮らす花魁衆を見慣れた目に、ふたりの女装を見破るのはさほど難しいことでもないだろう。上手く化けたつもりでも、検められればたちどころに露見して‥‥。
役人に見咎められたふたりを引き取りに訪れた残月は、その秀麗な顔になんとも苦い色を浮かべてふたりを眺めた。
「その格好も止められた方がよろしいかと‥‥」
誤解のふたつめ。
禿とは将来、遊女になることを前提に売られてきた6〜12才頃までの少女の総称で、お豆、小職と呼ばれるいわゆる金の卵たちである。――ここまでは、月詠と弥勒が知っている吉原の常識だ。
たったひとつ。そして、決定的な見落としは‥‥おそらく、ふたりには思いもよらないところにあった。
吉原傾国、と。戯れとはいえ大名をも足元に平伏させる太夫であっても‥‥その身は借金のカタに売られた女。将来の太夫として大切に育てられている反面、行儀や習い事など、日々、厳しく躾けられている見習い遊女に、ふらふらと街を歩く自由など与えられてはいない。怪しまれずに吉原を歩く策であったが、かえって目立ってしまうだろう。
物見遊山の若君を装った方が、いくらか怪しまれずに済んだかもしれない。
苦界というのだ、この場所は。客には見せぬその裏に、金と欲にまみれた澱が幾重にも積み重なった闇が広がる。
常に己を主とし、自由気ままに生きることを許された冒険者たちには想像もできぬ深い淵。――色里・吉原には、もうひとつの顔がある。
●ソレはソレ、コレはコレ
吉原の色に溺れる男が、ここにもひとり。
こちらは小細工などせず客として肩で風を切って吉原にもぐりこんだ環連十郎(ea3363)は、鉄漿溝の近くにある河岸見世のひとつに根を据えていた。
少し奮発すれば半籬の格子女郎くらいには手が届いたかもしれないが、時間をかけてじっくり口説いている時間はない。とかく見栄とか仕来りにうるさい吉原で、手っ取り早く遊女と仲良くなりたければ、この河岸見世が一番である。――残念ながら、太夫や新造といった、人々の口に上る高級な女はいないのだけれども。
もちろん、掏摸が懐を狙うような旦那衆が通うのは仲の町の七軒茶屋であり、総籬の花魁衆だが。噂を集めるのならば、この店でも十分だ。
何しろ圧倒的に女の多い閉鎖された町である。掏摸の噂はお日様が昇るよりも早く、吉原中に広まっていた。
「‥‥つまり、浪人風の男が難癖をつけて男を脅し、それを止めに入った女が懐のモノを掏り替えるってハラかい?」
強面の浪人に襟首掴まれていては、懐中を気にする余裕はないだろう。揚げ代を払ったものの、色事よりも酒を相手に噂を集める環に年増の女郎は少し呆れたように肩をすくめた。
「掏摸を働くのは女だけじゃなく、小兵の男もいるって話だったかねぇ」
仲間は複数いるらしいという話だったか。
「尤も廓の中での働きじゃ、万が一の逃げる場所もないからね」
会所の目もある。と、付け足して。女郎はぽんと煙管を叩き、何やら考えこんだ環に艶を含んだ視線を投げる。大きくくつろげられた襟足に、白粉をはたいた胸元が白く眩しい。
「‥‥それで? 阿仁さんはどうなさるかねぇ‥」
このまま、掏摸を追っていくかい?
武士は食わねど、高楊枝。なんて、言葉もあるが。小粒とはいえ払った金子も、それなりに。そう思うのは、貧乏性だからだろうか‥‥やっぱり、元は取っておきたい。様々、理由をひねくりまわして――
結局のところ、環連十郎も立派に男であったという話。
●懐に、ご用心
大門を挟んで吉原と向かい合う日本橋筋。
江戸の中心を穿つ目抜き通りに沿って大店と呼ばれる商家がずらりと軒を並べ、終日、健全な賑わいに満ちている。――10万の人が暮らすという江戸の町。日本橋は両国と並び、その熱気と活気を象徴する街のひとつだ。
「うわぁ、人がいっぱいいるですよ〜」
高いところから通りを歩く人の流れを見下ろして、アイリス・フリーワークス(ea0908)は感嘆の声をあげる。
広い通りの端から端まで、繰り出した人で溢れているようだ。そうでなくても小さな羽根妖精のアイリスの目から眺めれば、もはや想像に絶する光景で‥‥。
この中から、掏摸を働く一味を見つけ出す。
「なんだか目が回りそうです〜」
思わず、弱音がぽろり。
が、高いところというのは以外に目端が利くもので。
「あ! そこのお兄さん、黙って持って行っちゃダメです〜。ちゃんとお金払うですよう。――ああああ、あっちで小さな坊やが泣いてますぅ。もしかして、迷子ですか? アイリスもよく道に迷うです」
じたばたと身振り手振りをつけて慌てるアイリスの姿に、苦笑をひとつ。高遠紗弓(ea5194)は、袋物を並べるお店の売り子に何気ない様子で言葉をかけた。
「ここらでスリが多発してるんだってね」
「へぇ、物騒だな。それじゃ、安心して遊べねぇじゃねーか。俺も気をつけねぇとなぁ」
声をかけた紗弓とその傍らで話題を受けた倉梯葵(ea7125)にちらりと目を向け、売り子は困ったものだと顔をしかめる。――因みに、仲良く連れ立ったふたりの間柄は、紗弓が倉梯の義妹の知り合いだとのこと。
「まったくだねぇ。今んところは吉原へ向かう旦那衆の懐が目当てらしいが‥‥旦那衆も用心すりゃ、こっちにも火の子が降りかからないかひやひやもんだよ。――て、阿仁さんは、そんなお大尽には見えねぇが‥‥」
ジロリと値踏むような視線に余計なお世話だと軽口を投げ、倉梯はところでと本題を切り出した。
人相、人数、出没時間。――知っておきたいのは、そんなところか。
話を集めれば、漠然とではあるが掏摸集団の姿が見えてくる。
もっと直接的に、と。被害にあったというお店者を訪ねた緋室叡璽(ea1289)の方は、少しばかり苦戦していた。
吉原遊郭は夢を見る場所。――遊郭という場所の性質もあってか、通い詰めるお店者たちも、実生活には持ち込んで欲しくないというのが正直なところ。
あるいは、仕返しを恐れているのかもしれない。皆、一様に口が堅かった。――宥めすかして、ようやくひとつふたつと聞き出して‥‥。
それぞれに得た情報を持ち寄って、大門の前で情報を整理する。集まった顔ぶれを怪しんでいるのか、あるいは、珍しい組み合わせに気を惹かれたのかはともかく‥‥面番所に詰めた隠密同心たちの視線が少しばかり背中に痛かった。
いくつかの小集団を操る者がいる。
そう推理した会所の見立ては、どうやら正しかったようだ。――環、緋室、そして、倉梯と紗弓が聞き込んできた掏摸たちの風体や人相を総合してそれを確認する。
働きの手口が派手であるので、目撃者を見つけるのは造作なかった。混雑の中からそれらしき風貌の者を見つけ出して尾行したアイリスが、彼らが出入りする長屋を突き止めたのは運がよかったといえる。――尤も、生来の方向音痴が災いして帰り道で迷子になるという小事件もあったのだけれど。
会所の者たちの手も借りて、組織の全貌を掴む作業はさくさくと気持ちよく捗った。
長屋を借りているのは痩せた剣士で、これが頭目なのだろう。見るからにという風貌ではないが、触れれば切れそうな異彩を放っていた。
厳つい風貌の眼光鋭い浪人者が3人。あとはみな町衆で、女も含め6人ばかり‥‥あまり性質はよくなさそうではあるが。
「――踏み込みますか?」
残月の問いに、環はどうしたものかと思案気に頭をかいた。
「まとめて相手にするのは、少し辛いんじゃねーの?」
いざ捕り物となった時、はっきりと剣の腕が立つといえるのは、環と月詠、倉梯の3人。アイリスの月の精霊魔法、瑠黎明(ea6067)の神聖魔法もそれなりの効果が期待できるだろうか。
「戦力を分散させるのも厳しいが‥‥」
そう言う緋室は、相手の太刀を躱すことには自信がある。
「先に二組を同時に捕まえて、残りを捕まえるのがいいんじゃね?」
アイリスのおかげで塒を掃かせる手間は省けたわけだし。弥勒の提案に、月詠もうなづいた。――人通りの多い場所だけに人目を引くのは避けられないが、作戦が迅速に進めばなんとかなるかもしれない。
●いざ、捕り物
広い日本橋で人を探すのは労がいる。
別々に掏摸を働く一味の者を見つけ出し、これを同時に捕まえるのは‥‥少しばかり苦しいような‥‥。
大勢の人目もあり、また、混雑に紛れやすいのも掏摸の一味には有利であった。
「後の始末はお任せを――」
残月の言葉に甘えて捕まえた一味の始末を会所に任せ、月詠、環が長屋に駆けつけたとき、捕り物は既に始まっていた。――正確に言えば、もう一組の捕縛の方は一歩及ばず取り逃がした為、頭目らの逃亡を防ごうと先に隠れ家へと向かっていた倉梯と共に、乗り込んだというのが正しい。
「よかった〜、皆さん、間にあったです〜」
逃げ出そうとした小柄な男の影を精霊魔法で縫い止めて、アイリスが大きな声を出して皆を鼓舞する。
直接、切り結ぶのを避け、相手の隙をうかがう戦術に徹していた緋室にも、少し余裕が出たようだ。――いくらサンピンとはいえ、複数の敵を一度に相手にするのは至難である。黎明の神聖魔法の加護がなければ、やばかったかもしれない。
匕首を手にジリジリと間合いを詰める男の前に、環がすいと割って入った。
「おっと。お前の相手は、この俺だぜ」
にやりと余裕のある精悍な笑み口許に浮かべ、すらりと鞘から抜いた剣をゆっくりと上段に構える。
「ぬかせっ!!」
一声吠えて匕首を翳し飛び込んだ男の肩口から胸へ、渾身の一撃がきらめく銀刃の軌跡を描く。ぱあっと飛び散った鮮血の赤に、一瞬、視線を奪われた男の隙を逃さず、緋室の剣もまた獲物を切り裂いた。
――キン‥ッ
黒鋼色に輝く刀が、精霊魔法を付与した紗弓の剣を弾き飛ばす。
霍乱するように間合いをずらして踏み込んだ打ち込みも、剣士の目を眩ませることはできなかったようだ。
「く‥っ」
僅かに退いた隙を逃さず繰り出された鋭い突きが、細い喉元に吸い込まれる。刹那――
横合いから伸びた倉梯の剣が、紙一重でその凶刃を受け止めた。視界に直刃のきらめきを残し、次の瞬間、月詠の小太刀を弾き返す。
刀と刀が擦れあう甲高い金属音が、張り詰めた大気を裂いて高く響いた。
「大丈夫か?」
「‥‥すまない‥」
倉梯の気遣いに、紗弓は冷たい切っ先を微かに感じた喉にそっと手を触れ吐息を落す。荒く弾む鼓動とは別に、冷たい汗が背中を伝った。
「大人しく縛につけ。仲間は我々が捕らえた。‥‥貴様らの悪行も今日で終わりだ」
長屋での大立ち回り。騒ぎを聞きつけたじきに町方の同心たちも駆けつけてこよう。倉梯の言葉に、剣士はふんと不敵に唇の端をつりあげた。
「なんの。仲間などいくらでも集めればよい。――まずは貴様等を片付けてから、な‥‥」
不遜な笑みに、倉梯と月詠、そして、下っ端を片付け終わった環も血糊を拭った刀をもう一度、正眼に構える。
息苦しささえ感じる張り詰めた空気に、誰かがごくりと喉を鳴らした。
「行くぞっ!!」
神速の足捌きで剣士は、一気に間合いを詰める。一瞬、地を離れたすり足に、無形の縄が絡みつく。
「―――っ!!!」
同時に繰り出された、倉梯と月詠の剣が不測の事態に眸を見開いた剣士の身体に突き刺さり、鮮やかな血が周囲に飛沫いた。
「人の物を盗んだりしたら、駄目です〜」
上手く効果を発揮した魔法にちょっぴり自身を持って胸を張り、アイリスが諭すように人の道を解く。――剣士の耳に届いたかどうか‥は、定かではなかったけれども。
「‥‥お見事‥」
残月の声に、張り詰めていた空気が途切れた。
「皆様のご活躍、しかと見届けさせていただきました。――“ぎるど”の方へもそう伝えさせていただきます故」
此度はお疲れさまでございました、と。慇懃に頭を下げた男は、確かにやわらかく笑んでいた。
=おわり=