【北國繚乱・番外】花の宴〜あかりの花

■ショートシナリオ


担当:津田茜

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月02日〜04月07日

リプレイ公開日:2005年04月10日

●オープニング

 一日、千両――
 黄金の雨が降る町がある。

 万事、華美にわたらぬように。
 常々出される公儀よりのお達しに気持ちばかりの誠意だろうか、知れ渡る名前の割には簡素な造りの大門をくぐると、見事な桜が客を迎える。
 廓を左右に二分して延びる仲之町に現われた桜並木は、日頃からここにあったものではない。この季節、紋日のために、開花に合わせて根付のまま運び込まれたものだ。
 廓から出ることを許されぬ女郎衆の慰めに、あるいは、訪れる遊興客の目を楽しませる為、大金を投じて世間を驚かす。――年中行事を巧みに織り込み設定される紋日には、女郎買いとは縁のない一般女性にも出入りが許されることもあり、この日を楽しみにしている町衆も多い。
 とは、言うものの‥‥
 情よりも、金がすべての花柳界。この日は遊興費が普段の倍。遊女は必ず客を取る日となっているから、贔屓のいない局見世の安女郎たちにとっては頭の痛い話なのだけれども。
 そんな苦労話は表に出さぬのが、吉原の粋。
 豪華絢爛、大判小判の雨を降らせる雲居では、当代随一の名声の元、咲き誇る艶やかな花の関心を巡り、江戸っ子の粋と意地、誇りと面子をかけて張り合う者も‥‥春の嵐は、思わぬところから吹き寄せるものらしい。

■□

「まったく、あのクソジジイ!」
 気炎をあげる男がひとり。白いものが勝った髷頭、頑固な意思を物語る太い眉にも老いの影。――こちらも見紛うかたなき、ジジイである。
 枯れた痩躯に仕立ての良い袷を着込んだ身なりの良い風体は、富裕な商家の隠居といったところだろうか。間違っても、依頼を求めてやってきた冒険者には見えない。
 ならば、“ぎるど”を頼ってやってきた依頼人なのだろう。が、あまり困っているというわけでもないらしい。――途方に暮れているというよりは、どう見ても憤慨していると形容した方が良いような‥‥。
「まあまあ。ご隠居さま、落ち着いて」
 あまり興奮するとお身体に障りますよ。などと、口の中で呟いた手代をジロリと睨めつけ、ご隠居と呼ばれた老人はふんと大きく鼻を鳴らした。
 老いてなお矍鑠とした様子に笑みこぼし、手代はまずは一献、と茶を進める。
「‥‥不味いっ! なんじゃこの茶はっ!!」
「申し訳ございません。‥‥なにぶん、台所事情が苦しいもので‥」
 ぐいと湯呑みを煽り、盛大に眉をしかめた老人の言い草に、手代は申し訳程度に肩をすくめた。――仲之町に軒を連ねる七軒茶屋の上客を満足させる茶など出していては、“ぎるど”などあっという間に干上がってしまう。
「ふん。なら、わしの頼みを旨く収めた暁には、京下りの茶を安く分けてやろう」
「おや。近江屋さんの船荷は、お茶っ葉も扱いで?」
 湿気を嫌う茶と紙は、とりわけ扱いに気を使わねばならぬ荷だ。水を向けた手代の言葉に、近江屋の隠居は当然だといわんばかりに胸を張る。
「無論じゃ」
「それで、お困り事というのはいかがなことで?」
 それを聞かねば、始まらない。
 まずは依頼書を作り、難易度にあわせて報酬を設定‥‥請求するときは、もちろん“ぎるど”の取り分も含めなければ‥‥
「おお、そうじゃ」
 ずいと身を乗り出した老人が語るには――

 ことの起こりは吉原の紋日にある。
 花見の季節、仲之町にずらりと植えられた半月ばかりの桜並木を呆けたように見上げる町衆を見下ろす茶屋の座敷で――
 吉原きっての人気花魁・高瀬太夫を前に、見栄を張りあったのがそもそもの始まり。
「まったく、伊勢屋の石頭め‥‥ワシを頑固者の唐変木じゃとののしりおった」
 言い得て妙、などと思ってはいけない。
 腐っても、相手は依頼人。巨大な財布だとでも思っていれば‥‥
「これ!! 聞いておるのか?!」
「は、はい。もちろんでございますとも。――伊勢屋さんと近江屋さん、どちらがより粋で洒落た花見の宴を催せるか、比べられるのでございますね」
 慌てて書付を読み上げた手代に、近江屋の隠居はぐぐっと力をこめて拳を握った。
「伊勢屋にだけは負けてはならん!!!」
「それで、ご隠居はどのような仕掛けをご用意されるおつもりで?」
 江戸の郊外、街道沿いに西へ1日歩いたところに小さな村がある。――米や野菜の他に、植木をよくすることでも知られた村で、花や樹木を掛け合わせ新しい品種なども手がけているそうだ。
 さて、この村の分限者‥‥名主の家に、“あかりの花”と呼ばれる美しい花を咲かせる木があるという。
「桜を横目に、一枝の妙なる花を愛でる。どうじゃ、名案ではないか?――じゃが、この名主が曲者でな‥‥」
 いくら金を積んでも首を縦に振らぬのだ。と、一息にまくし立てた後、近江屋のご隠居は悔しそうに息を吐いた。痩せた体がいっそう小さく、縮んで見えるたような気がするのは気のせいだろうか。
「ええ、と‥つまり‥‥。うんと言わない名主どのを懐柔して、この‥あかりの花‥‥ですか‥を、一枝、持ち帰って欲しい――と」
 最後の一文字を書き付けた手代の言葉に被せ、隠居は袷の袂から取り出した財布をどんと番台の上に放り出す。
「そうじゃ。見事成し遂げたなら、茶でも、酒でもくれてやるわ。――じゃが‥万が一、失敗でもしたら‥‥」
 ふ、と。途切れた言葉、刹那‥‥眼窩の深い双眸に凄みが宿った。生き馬の目を抜くといわれる熾烈な競争社会を生き抜き、勝ち上がった男の強かさが枯れた老爺の顔の下からチラリと存在を覗かせる。
「も、もちろんでございます。当“ぎるど”が抱える冒険者たちは皆、優秀でございますからっ!!!」
「うむ。期待しておるぞ」
 意気揚々と引き上げていく後姿を見送って、手代は盛大に吐息を落とした。

●今回の参加者

 ea0708 藤野 咲月(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2497 丙 荊姫(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5419 冴刃 音無(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8109 浦添 羽儀(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8535 ハロウ・ウィン(14歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb0573 アウレリア・リュジィス(18歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1174 ロサ・アルバラード(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 植物には人を和ませる不思議な力があるようだ。
 花を贈られて嫌な顔をする者は稀であり、また、嫌う者には――たとえば、触れるとかぶれるとかくしゃみが止まらなくなるといった――相応の理由がある。
 緑に囲まれた生活は、江戸の町衆にとっても理想的な暮らしの条件のひとつであった。
「う〜ん、新しい品種かぁ。どんな植物があるんだろう」
 園芸を愛する者のひとりとして、ここは見過ごすわけにはいかない。うきうきと弾んだハロウ・ウィン(ea8535)の声に、藤野咲月(ea0708)は恋人の冴刃音無(ea5419)と顔を見合わせた。
「“あかりの花”と言いますと――」
 なんとなく、別のものを想像してしまう。桃の節句に使われるアレを想像したのは冴刃も同様‥‥さすがは恋人同士といったところか。
 それにしても。
花を愛でる心を持つのは非常に結構なのだが、その理由が意地の張り合いというのはどうにもいただけない。それが丹精して育てた花ならば、いっそう詮無いことだろう。
 渋る名主の気持ちを慮って、丙荊姫(ea2497)もやわらかな春の陽射しにくつろぐ空を見上げた。
 だが――
「‥‥‥聞けば、伊勢屋さんの依頼にはあの長兄が参加されているとか‥‥」
 大っ嫌いな人物の名前が出ては、なんとしても負けるわけにはいかない。遠い空を眺める無表情の下に、ひそやかな対抗意識を燃やす娘がひとり。
 のんびりまったりしているようで、春は意外に波瀾含みの季節でもある。


●花の名前
 街道の春を楽しみながら先行する者たちを追いかけて、旅路を急ぐ者たちもいる。
『しっかし、依頼人も相手もろくでもない人たちよねー』
 思わずぽろりと本音を漏らしたのは、ビザンチン出身の吟遊詩人アウレリア・リュジィス(eb0573)。手に入れたばかりの真新しい竪琴を背負い、韋駄天の草鞋に頼る急ぎの旅だ。
 幸いアウレリアが口にした母国の言葉は、並走する馬上の浦添羽儀(ea8109)の耳には単なる音の羅列であった。――尤も理解したとしても、そのとおりだと苦笑するしかないのだけれど。
 アウレリアは、諍いの種となった太夫に会いに吉原へ。
羽儀はというと“あかりの花”なる植物の確かな情報を求めて、江戸の植木職人たちに話を聞いて回る為、少しばかりの回り道である。
「“あかりの花”というのは、昔話に出てくる花の名前らしいの」
 昔々、ある所に働き者の若者がいた。
ある日、山で働く若者の額からこぼれ落ちた汗が美しい花に変じ、この花に宿った天女と若者は恋に落ちる。この手の話の常で、天女は若者の元を去ることになり、若者は天女を追いかけて旅をする‥‥ふたりの心を繋ぎ、その未来(さき)を照らす花‥‥
「まあ、これは御伽噺なのだけれど――」
 悲恋ではなく、幸せな結末を迎えられるのが気に入った。
名前に想いが込められるのなら、羽儀が求めんとする“あかりの花”にも持ち主の想いがあるのかもしれない。
 譲り受けるのなら、その心ごと。それが誠意ではないだろうかと想う。――もちろん、何に代えられるものはないのだろうけれど。
「私は依頼人の見得の為だけじゃなくて、太夫さんの為に花を取ってきてあげたいな」
 戯れの席とはいえ大名、旗本を平伏させる権趨を誇っても、その身の上は花見さえひとりではままならぬ駕籠の鳥。
廓の外に咲く花を見せてやりたい。
 その吉原では、此度の伊勢屋と近江屋の意地の張り合い、ずいぶんな噂になっているという。―残念ながら、吉原の人気太夫は突然訪ねていったフリの客が会えるほど簡単なものではなかったが。―廓の中でも伊勢屋派、近江屋贔屓に分かれ、ちょっとした祭りの様相を呈している様子。
 吉原で人気を得るには、金離れがよいのはもちろん。派手やかに。そして、いかにして粋に使って見せられるかどうか。
 太夫をはじめ、妓楼、茶屋‥‥皆、微笑ましく(?)成り行きを見守っているようだ。
「まあ、年寄りは元気なうちが華ってコトかしら」
 巻き込まれた名主さんってば、本当にお気の毒。
 そう肩をすくめたアウレリアの溜息に、羽儀はただ小さく微笑んだ。


●花咲く村
 賑やかな笑声が、青空に響く。
 街道沿いに広がる田園の中にぽつりと置かれた小さな村は、淡い緑と優しい花の息吹に包まれたのどかで穏やかな村だった。
 山から引かれた細い流れと、手入れの行き届いた広い園林。
5軒ほどの茅葺の民家が並ぶその間を子供たちが駆け回り、放された鶏がのんびりと餌を啄ばむ。どこにでもあるような‥‥だが、そこにいるだけで心が癒される美しい村だ。
「感じの良い村ですね」
 賑やかに群れ遊ぶ子供たちの姿に微笑ましげな視線を投げて、咲月は戻ってくるなりぺたりと地面に座り込んだ恋人にたおやかな仕草でお茶を勧める。
 咲月の差し出した湯呑みを受け取った冴刃は、ああと肯いてみせながら少し温めの液体を一息に飲み干した。
大人たちは皆、畑仕事に忙しく相手をする暇もないのだろうか。年寄りでは物足りないのか、冴刃が構ってくれる相手だと知ると、やにわにはしゃぎだしての大騒ぎ。――元気の良い子供たちの相手は楽しいが、とても疲れるものだと改めて思い知らされた。
「でも、とても楽しそうでいらっしゃいましたよ」
 座り込んだ人間を目ざとく見つけ寄ってきた仔犬に手を伸ばし、やわらかな毛皮につつまれた小さな頭を撫でながら冴刃は笑う。
 無論、楽しい。でも、それは――
「きっと、咲月さんが見ていてくれるから‥じゃないかな?」

■□

「‥‥柚那にとっては吉野の桜が一番なのじゃっ」
 ちゃっかりと縁側に上がりお茶をご馳走になりながら、緋月柚那(ea6601)はきっぱりと断言する。
 歌にも詠まれる名所中の名所だ。
上方出身の柚那でなくても、吉野の名を知らぬ者はいない。縁先で足をぶらぶらさせているロサ・アルバラード(eb1174)には、さすがに覚えのない名前だが。
 ロサにとっては幸いなことに、ハーフエルフだからという理由でロサを疎外する者はこの村にはいなかった。――と、いってもリベラルな考え方をするわけではなく、その存在を知らないからというのが正解だろう。もちろん、狂化を目の当たりにすれば対応は変わるであろうし、ハーフエルフとエルフの区別が付かない分、サイアク、外国人全体への偏見につながるかもしれない。思えば、責任重大かもしれない。
「山が桜色に染まるのだとか? あちらもそろそろ満開でございましょうかねぇ」
「うむ。闇夜に咲く桜はまるで灯りが灯ったかのようにとても幻想的なのじゃ」
 ロサにもどうぞと湯呑みを勧めつつのんびりと頷いたご隠居様の相槌に、お嬢様気質の柚那はますます得意げにふんぞりかえる。
「‥‥ところで、な‥」
 程よく会話が弾んだところで、今しがた思い出したかのような表情をつくり、柚那はふいに声を低めた。
「この村には珍しい花が咲くと聞いてきたのじゃ」
どんな花なのか、柚那も見てみたいのじゃ。そう、無邪気に尋ねた柚那にロサも上手く調子をあわせる。
「先日、この村にその花を譲ってくれって人たちが来でしょう? ――何か失礼なコトをしたり、言ったりしたんじゃないかしら?」
 何しろ、近江屋のご隠居というのがアレだ。ずいぶん口の達者な御仁である上に大金持ちとくれば‥‥金にあかせて傍若無人な態度を取ったのかもしれない。その可能性は、大である。
 ロサの使える日本語では、胸にある想いの半分も言葉にできない。だが、真摯な心は自然と態度に出るものだ。
 柚那とロサを交互に見比べ、しばらく何処かに思いを馳せる様子で視線をさまよわせていた老婆は、ゆっくりと頷いて立ち上がる。
「ついてお出でなさいまし」
 その口調は、どこまでも穏やかで。とりあえず、ひとつめの関門は潜り抜けたのだろう、と。ふたりは顔を見合わせてにこりと笑んだ。


●あかりの花
 園林は、馥郁と薫る優しい香に満たされていた。
 甘く。それでいて、どこか甘酸っぱい花の香りは、園林に並ぶ木立の枝を飾る白い花から、とめどなくこぼれ落ちている。
「‥‥木蓮、ね‥」
 拳ほどの大きさの花を見回して、アウレリアは小さな吐息を落とした。――春の香りを運ぶ花。
「あ、あそこっ!」
 少し前を歩く男の背中を追いかけていた羽儀が指差した先、
 既に数人の先客‥‥ご隠居に案内されてたどり着いた柚那とロサ、子供たちに連れられてやってきた咲月と冴刃、村人に教えられた道を歩いたウィンと荊姫。そして、アウレリアと羽儀のふたり‥‥その、視線の先に1本の木があった。
 小さな池の畔に、その姿を映すように寄り添って立つ細い木の、枝にも同じ花がついている。ひとつだけ違うのは‥‥
 天を見上げて咲くその花は‥‥その花の色は、白ではなく、ほのかに朱を混ぜた鮮やかな紅。
 しっとりと清楚な白い花の中に置かれた紅の花。未だ葉をつけぬまま上を向いて咲く花は、確かに夜を照らす灯火のようにも想われる。
「‥‥これがあかりの花、か‥綺麗だねぇ‥‥」
 ウィンの呟きに、荊姫もこくりと頷いた。照明器具でも、骨董品でもなかったけれど。――これは、これでよかったのだと思う。
「‥‥この花を分けてもらえませんか?」
 静かに言葉を紡いだ羽儀に、名主はゆっくりと振り返った。
 近江屋のご隠居がこの花に目を付けたのは、伊勢屋の旦那への意地と見得。基は対抗心でも、彼の真贋を見極める力は本物であるらしい。――例え人づてに集めた噂の中からでも、価値あるものを感じ取る。
 半分は勘。その勘が羽儀たち冒険者たちにこの花との出会う機会を与えてくれた。ならば、ここに居る者にも、彼らにしかできない役割があるはずだ。
その、人には諮れない部分に働く力‥‥それを、天の配剤という。
「私はこの花を近江屋さんにも見せてあげたい。――近江屋さんだけではなく、江戸のみんなに見てもらいたいと思います」
 きっと何かを感じてくれるはずだから。
 凛と前を見据えて紡がれた咲月の言葉に、アウレリアも強く首肯いた。
「廓の人たちの心にも、きっとあかりを点してくれると思うよ」
 閉ざされた世界に生きる者たちにこそ、胸に灯明を抱いていてほしいと思う。
 いくつもの真摯な瞳に見つめられ、初老の男はその胸郭から深い息を吐き出した。

■□

 しなやかな指先が力強く弦を弾くたび、琵琶は澄んだ音を生む。
 次々に生み出されるいくつもの音が響きあい、やがてひとつの旋律となって花咲く園林を巡り空へと消えていく。
 アウレリアと冴刃が紡ぎだす音色にあわせ、ロサと咲月、羽儀が軽やかに舞うその様に、集まった村人たちの間から感嘆が落ちた。
「ほほう。なかなか上手いではないか」
「‥‥ええ‥」
 時折、合いの手など入れながら仲間の演舞にご満悦の柚那の隣で、荊姫もこくりと首を縦にふる。
 表情には出さないだけで、むしろ、ひそかに勝ちを確信してかなり上機嫌なのだ。
 和やかな人の気配は、園林の植物たちにも伝わるのだろう。精霊魔法を使って問いかけたウィンの耳には、善き日だと呟いた名主の言葉に応じる幽かな声が確かに聞えたような気がしたのだった。