《月道探索》穴の中の野疾

■ショートシナリオ


担当:津田茜

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月12日〜05月17日

リプレイ公開日:2005年05月20日

●オープニング

 端午の節会もつつがなく。
 飾り棚に置かれた唐渡りの三彩にも、誰が持ち込んだものやら菖蒲(あやめ)が一輪。薄暗がりに凛と上を向き――すらりと細く尖った長剣状の葉が邪を払う刀にも喩えられる立ち姿が、傑物が集う“ぎるど”には相応しい。
 そんな風薫る皐月の吉日。
「‥‥賊‥ですか‥?」
 屋内でくすぶっているには小憎らしいほど鮮やかな空模様とは裏腹に。
 一転、不穏の気配満載の血湧き肉踊る大捕り物の予感に、若い手代はきりりと表情を引き締めた。
 ひそかに心躍らせた手代の差し向かいには、女がひとり。とある大身のお内儀であるという。女性の年齢を測るのは失礼なのだろうけれど‥‥還暦をいくらか越えたくらいか。少しばかり落ちた眼窩や、目尻の皺など。加齢による老いは隠せないものの、深窓に育ったお嬢様がそのまま年を取ったような育ちの良さがうかがえる仕立ての良い付下げを無理なく着こなした白髪の老婦人だ。
 聞けば、家督を息子夫婦に譲り、千代田のお城に程近い古い寮にてのんびり楽隠居の身の上だという。
「それで、賊というのは――」
 身を乗り出さんばかりの手代に、老婦人はにっこりと笑みを深くした。
「ええ。一昨日の夜、でしたかしら‥‥。ほら、年を取ると眠りが浅くなるというでしょう?」
「‥‥ええ、まあ‥そんな話も‥」
 このとおりお婆さんですから。と、悪びれず微笑む奥方を前に、手拍子で相槌を打つわけにもいかず手代は困った風に視線を逸らす。
「そうなのですよ。わたくしも最近まで信じていなかったのですけれど、本当に‥‥」
 その浅い眠りが破られたのは、卯月から皐月へと暦がかわった最初のことだった。
 生憎の朔日――月のない、ことさら深い闇の夜。
「尤も、古いばかりで大層なものがあるわけでもないのですけど‥‥まあ、外から見ただけでは判らないのでしょうねぇ」
 しみじみと嘆息する老婦人に、手代はひそかに筆を握り締める。年寄りの話は、長くなるとは聞いていたけれど。
「そ・れ・で、ご依頼というのは‥‥」
 賊を捕まえることなのか。
 あるいは、盗まれたものを取り返せというものか――
「そうそう。そのお話でしたわね」
 なんとか軌道を戻したものの。長い話は、やっぱり長く。
 真夜中に不審な物音を聞き咎めた奥方が、紙燭を手に寝床を抜け出すまでに半刻。そして、ほのかな明かりを頼りに軋む廊下を踏んで内蔵にたどり着き、そこで怪しげな人影と鉢合わせするまで、さらに半刻。
 奥方の出現に驚いた賊が、飛び退いた拍子に廊下を踏み抜くのに――
「古い古いとは思っていましたけど、まさか土台が抜けるとは思っていなくて驚きましたわ。‥‥あら、聞いていらっしゃる?」
「‥‥ええ、まあ‥‥賊が踏み抜いた床を直せというのが今回のご依頼で‥?」
 番台に座って数日の新入りに、大捕者は夢だったのだ。
 ちょっぴり卑屈に笑った新人手代の呟きには気づかぬ様子で、老婦人はふるふると首を横に振る。
「あら。こちらでは、そんなこともやっていただけるのね」
 助かりますよ。と、微笑んで。墓穴を掘った手代に極上の笑みを向け、老婦人ようやく依頼の確信を口にしたのだった。
 どうやら、離れの寮は遠の昔に枯れた古井戸の上に建っていたらしい。運の悪いことに、床を踏み抜いた侵入者は、勢いで井戸に落ちてしまったのだという。
 翌日、用人のひとりが井戸に潜ってみたところ、井戸の底にいるべき賊の姿はなく、変わりにぽっかりと横穴の暗闇が口を開けていた。
「埋めるにしても、このままでは気持ちが悪いですからね。――とりあえず、様子を見てきてくださらないかしら?」
 そう言って、奥方はにっこりと長い話を締めたのだった。

●今回の参加者

 ea0028 巽 弥生(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0348 藤野 羽月(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3900 リラ・サファト(27歳・♀・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea5011 天藤 月乃(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5897 柊 鴇輪(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 この井戸の底には、果たしてどんな秘密が隠されているのか――

 これといって特筆すべきもののない民家の床下というのが、まず、いただけない。
 武家屋敷の立ち並ぶ一郭であるから、敷地こそ広大だが。だからと言って、家人にも知らされずひっそりと床の下では‥‥。
「江戸の七不思議その一、何の変哲もない井戸から突然抜け穴が!――なーんて、なっ☆」
 ばばん、と。大鳳士元(ea3358)が指差した先には、件の古井戸。江戸の七不思議は大袈裟でも、界隈の与太話くらいには数えてもらいたいものだ。
「はて。何か別の村で古井戸の地下が古い遺跡に繋がっていて、中は死人憑きやら怨霊だらけだって話を聞いたような覚えがある」
 野乃宮霞月(ea6388)の呟きに、家人たちは神妙な面持ちで顔を見合わせる。
 江戸の地下に亡者の群れが‥‥考えるだに恐ろしい。これは自力で解決を試みず、“ぎるど”に相談を持ち込んで正解だったかも。
「それにしても間抜けな賊がいたものだな」
「まったくだわ。探索だなんて、サボり辛そうな仕事‥‥」
 呆れたように肩をすくめた巽弥生(ea0028)に、天藤月乃(ea5011)もしみじみ肯首。――金銀財宝を期待したワケではないが、面白そうだと参加を決めたもののやはり面倒事は嫌いらしい。
 こちらは面倒だからという理由ではないが、ウェス・コラド(ea2331)に首根っこ掴まれて現場に連れ出された“ぎるど”の記録係も、なにやら顔色がさえない様子だ。
「‥‥どうして、私が‥」
 背中を丸めてぼそぼそ恨めしげな記録係をちらりと一瞥し、コラドはなんでもないコトだと言いたげにひらひらと手を振ってみせる。
「なに。ちょっとした安全牌だ。――無用な心配は、できるだけなくしたいのでね」
 周囲は藩邸の並ぶ武家屋敷。うっかり江戸城に抜けてしまったら、ばっちりそのまま“武装した侵入者”だ。問答無用でお縄になるなんてことも、十分予想できる。――身元の証を立てるものが欲しいといったところか。
「ええっ?! それじゃあ。何かあったら、私が腹を切るハメに‥‥!」
 怖いんですよ、うち(ぎるど)の大将(ますたぁ)は‥‥いろんな意味で‥‥。
「でも。探検みたいで、ちょっとワクワクします。――侵入者さんより怖いものが出てこないと良いのですが」
 きぃきぃと聞き取り難い―むろん、コラドに聞く耳はない―抗議の声を上げる記録係の心配を他所に、井戸の底に持ち込む装備を点検しつつおっとりと微笑んだリラ・サファト(ea3900)の視線の先には、もちろん、藤野羽月(ea0348)の姿があった。
 もとより無駄なお喋りなどしない寡黙な男ではあるが、大切な女性を守る気概は十分。どんなに暗く頼りない横穴もふたりなら、明るい明日が見えるのだろうか。‥‥ちょっと悔しい‥。
「ええと‥‥落ちた、しと‥井戸の‥そこに、おらん‥‥かった?」
 様子見に潜ったという用人を見回して、柊鴇輪(ea5897)が念のために確認をとる。緻密な作戦か、はたまた単なる野生の勘か。一見、薄汚れた野良犬のような――と、書けば語弊があるので、少しばかり見栄えの悪いくらいでひとつ――風体と上方訛りはともかくとして。目の付け所はそれほど悪くないので、頭の方は正常に機能しているようだ。
「そうですね、井戸の底には誰も‥‥あ、落ちた形跡はりましたよ」
 踏み抜いた床板やら、足跡などが。
「‥‥足跡を残すか‥」
 重ねがさね鈍くさい。
 思わず額に手を当てて天を仰いだ弥生の言葉は耳に入らなかったのか、鴇輪は相変わらずぼそぼそと情報を整理しつつ、推論なんてものも付け加えてみる。
「怪我、のうて‥‥横穴‥逃げ、た‥んか‥‥たべられた?」
 ――って、何に‥っ?!
 やはり、横穴の奥は成仏できない死人憑きや怨霊でいっぱいなのか(怖っ)――
「ふっ。それなら、それで問題はない。念仏くらいは、唱えてやろう」
 さすがに、いやぁな顔をした家人(と、記録係)に、大鳳は余裕をもって口元に太い笑みを浮かべた。
 とりあえず、潜ってみないコトには始まらない。


●井戸か? 遺跡か?
「‥‥とりあえず、この付近には何も居ないわ」
 斥侯を買って出た月乃の言葉に、梯子を伝って井戸の底へ。
 続いて、提灯を掲げたリラ。リラを護る藤野がぴったりと傍らに寄り添い、薄暗い横穴へと足を踏み入れる。
 大人二人がなんとか肩を並べて歩ける程度の広さ。閉鎖された場所特有の、こもった感じはあるものの、息苦しさは感じなかった。――まあ、多少の湿気と泥臭さは仕方がないとして。
 土と泥の世界だと思いきや、横穴は意外なコトに古い石積みの側面がずっと闇の奥へと続く。――ところどころ苔生したりして、長い間、使われずに放置されていたのは確かだが崩落の恐れはないようだ。
「これは、驚いた」
「‥‥何か?」
 ぼんやりとした光に浮かび上がった石壁を見上げて声を上げたコラドに、同様に壁を眺めていた野々宮が顎を上げる。
「なるほど。この井戸は最初から“井戸”ではなかったようだな」
 有事の際に、敵に気づかれず逃げ出すため。もしくは、意表をついて撃って出るために作られた秘密の抜け穴。あるいは、もっと別の何かの目的の為に‥‥。
 やはり、位置的にも江戸城と何か関係があるのだろうか。ふむと考え込んだ弥生とは別の視点に興味を惹かれた風に、コラドは思案気に顎に手を触れた。
「それよりも、この壁の石組みだ」
 四角く切り出した石を積み上げて作られたこの壁は、普段、何の気なしに眺めるお城の石垣とは少しばかり感じが違う。もちろん、単純にお城と古井戸の石積みを比較するのもどうかと思うが。
「‥‥あ‥‥私も‥」
 提灯を掲げたリラも、コラドの言葉に同意する。
 横穴に足を踏み込んで、コラドと同じ違和感を覚えた。――何が、とは。上手くいえないのだけど。強いて言うなら、横穴全体の雰囲気が。
 同じ形の石を順番に積み上げて作られた壁の形は、日本の地下というよりリラの故郷であるビザンツの古い街並み‥‥そして、コラドの育ったイギリスの城壁を思わせる。
 江戸に月道が開かれたのは、数年前。
 そして、異国の文化や異邦人を街で見かけるようになったのは、本当につい最近のことだ。
 その江戸の真ん中、しかも、民家の床下に。
 どう短く見積もっても、数十年は放置された井戸の底に――異国との交流を匂わせる遺物が築かれていようとは。
 足を止め、ひととおり手がかりを探して周囲を見回したものの、落書きや壁画といった特に気になるもの見つからないので、とりあえずは奥へとすすむ。
 いくらか夜目の利く月乃や鴇輪の他に壁の向こうを見通す魔法に心得のあるリラもいて、角を曲がった出会い頭に死人憑きと出くわすなんて危険も少ない。――尤も、こちらもそれなりの大人数であるから、(捕まえて食事のタシにと目論んだ鴇輪にとっては、残念なことに)気配に聡いネズミやミミズなどは逃げてしまったようだ。
 最初のうちこそ、こまめに生命探査の魔法を唱えて警戒していた大鳳も、無駄口を叩く余裕が出てくると隣を歩く野々宮を相手に世間話なんてものがしたくなる。物静かで人当たりの良さそうな人間というのは、実際のところがどうであっても人のよい聞き手に見えものだ。
 適当に休みを入れつつ歩くこと、数刻。提灯の光はあるものの、暗がりで長い時間動いていると何やら時間の感覚がなくなってくる。 横穴は無駄に長かった。
 この地下通路を作った者は、よほど暇を持て余していたか、性格が悪かったかのどちからだろう。あるいは、その両方かもしれないが。
 長い通路と分岐点、行き止まりなど。なれてしまうと面白くもなんともない石壁が連なる光景は、時折、振り返って後ろを眺めると前か後ろかもあやふやになりそうだ。目印はつけているものの――
 リラの透しの魔法ではひとつの対象‥‥壁ひとつを見通すことしかできず、全体象がつかめないのもなかなか歯がゆい。

 まっすぐ歩いているのか、曲がっているのか、
 上がっているのか、下っているのか、
 北か、南か、東か、西か、
 出口はいったいどこなのか、
 ――もしかして、進むより戻った方が早いかも‥

 ぽつりと小さな灯りを頼りに、暗がりを歩く。
 いい加減、気持ちが滅入りそうになった頃、隊列の中ほどにいた大鳳がようやく確信を得た声を発した。
「ひとつだけ、判ったぞ」
大柄な博徒の身体が黒い光に包まれているように見えるのは、使った魔法の名残だろうか。
「賊はまだ生きている」
 生きていて、動き回っているらしい。
 大鳳の感知範囲から出たり、入ったり。こちらが動いていることを鑑みても、比較的活発に活動しているようだ。――こちらの存在に気づいているのかどうかまでは、さすがにわからないけれど。
「‥‥生きて‥‥‥そうか、意外にしぶといものだな‥」
 半ば、感心したように。そして、どこかほっとしたようにも聞こえる呟きを辛辣な言葉で落とした弥生の言葉に、月乃のうんざりした声が重なる。
「分かれ道って、程でもないわね‥‥どっちに行く? ああ、何だってこんな面倒な依頼を受けちゃったのかしら」
 突き当たったのは左右(前後かもしれないが)に伸びるもう1本の通路。どちらも、その先は闇の底へと消えていた。
「‥‥‥‥」
 何か問いたげな夫の視線に、リラは吐息をひとつ。陽の精霊の力を持ってしても、物質ではない闇の向こうは見通せない。
 そうか、と。リラにしか理解らない目の動きで、妻の労をねぎらう藤野の後ろで、不意に大鳳が警告を発した。
「‥‥右だ‥近くに居るぞっ!!」
 弛みがちな空気に、にわかに緊張が走る。
 ぴくりと無意識に動いた手がそれぞれの得物に触れた、その瞬間――
「あ、ちょっとっ?!」
 目を細めて闇を見据えた鴇輪が、月乃の静止を振り切って走り出す。
「見つけ、た‥‥ねず、み‥大事、な‥‥おや、つ‥」
 なにやらものすごく微妙な呟きが聞こえたような気もしたが、‥‥気のせいだってことにしよう‥‥。
 呆気に取られて、ぽかんと見送ってしまった一同が、我にかえるその前に、
 どーん、と。何かがぶつかる音が、たわんだ闇に響き渡った。
「いったーいっ!! ちょっと、もうっ。なんなのようっ!!!」
 続いて上がった聞き覚えのない声に、しばし、沈黙が舞い降りる。
 それぞれの表情で、お互いの出かたを待つこと数秒。こほんと、咳払いをひとつ。野々宮は、落ち着き払った声でぼそりと現状を確かめた。
「‥‥見つけた、ようだな‥」


●穴の中の野疾
 弥生とリラが提供した保存食を美味しそうに食べながら、おやつ−ねずみ−だと勘違いした鴇輪に取り押さえられた少女はやれやれと屈託のない笑みを浮かべる。
「そうなのよ。まさか床が抜けるなんて、誰だって思わないわよねぇ‥‥その下に、井戸があるなんて‥‥ホントもう、アタシってば、絶対絶命〜て、カンジ」
 軽快といっても差し支えないお喋りに弥生とコラドは思わず顔を見合わせる。
 たぶん、おそらく、間違いなく。この娘が、依頼主の家に侵入し、井戸に落ちた賊なのだろう。
「なんと言うか‥‥想定外だな‥‥」
 少し遠い目をした藤野の呟きに、大鳳、野々宮もしみじみと首肯した。
 まあ、あまり利口ではなさそうだというコトだけは、薄々、感じていたけれど。
 暗闇をひとり彷徨い歩いて懲りたのか、もともとこういう性格なのか――おそらく後者だと思われるが――敵意はないようだし、刀にモノを言わせる必要がないのはよいことなのだが。
「‥‥それで‥。何だってお前は‥あの家に忍び込んだりしたんだ?」
「そりゃあ――」
 弥生の誘い水に乗りかけた少女は大きな眸をくるりとまわして口を開きかけたが、ふと気づいたのか慌てて首を横に振る。
「ダメダメ、それは言えないわ」
「‥‥ほほう‥」
 両の手で口を押さえた娘に目を細め、大鳳は握り締めた拳に、はぁと息を吹きかける。

 ――ごんっ☆

「いったーい!! 殴ることないじゃない‥‥て、言うわよ、言いますってばっ」
 何やらちょっぴり悲しくなる展開だが、相手が女子供ではさすがの博徒もいささか格好をつけにくい。
「月道よ。月道を探してたのよ」
「「「月道っ?!」」」
 江戸のどこかに、もうひとつの月道があるという。
 そんな噂は冒険者たちの耳にも、聞こえてきていたが――
「あのお屋敷には、元々、京の都のやんごとない御方が住んでいたらしいのよ。それで、もしかしたら月道に繋がってるかもしれないって、棟梁が‥‥」
「‥‥棟梁‥」
「し、知らないわよ。棟梁がそう言ったから探してみろて言われただけよ。――大体、アタシみたいな下っ端が、会える人じゃないもの」
 棟梁がどういった人物かはさておいて。彼女が、下っ端ということは、まず間違いない。
「それで、ここに月道はあったわけ?」
 聞くのも虚しい気がしたが。月乃が予想したとおり、少女は両手を広げて肩をすくめた。
 その昔、京と江戸を結ぶ月道が敵対する勢力の手に落ち悪用されることを恐れた陰陽師たちは、幾重にも厳重にその在り処を封印したのだという。――この地下通路も、どうやら情報撹乱の為に作られたものであるらしい。
「あ〜あ、ついてないわ。井戸には落ちるし、暗ぁいところで何日も過ごさなきゃいけなかったし‥‥ねぇ、薄幸の美少女ってアタシのためにある言葉だと思わない?」
 それは、こっちの科白だ。と、思ったとか何とか。弥生と月乃は思わず顔を見合わせて、息を落とす。
 その上、井戸を埋めて、床を直す手伝いまでしなければいけないのだ。‥‥戻ったら、こんな依頼を取ってきた“受付係”をシメてやろう。
 そんなコトを考えながら。
 冒険者たちは、唯一の手柄である“賊”を連れ――その能天気なお喋りにちょっぴり辟易しながら、帰路についたのだった。