正しいお金の使い方
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■ショートシナリオ
担当:津田茜
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:10月21日〜10月28日
リプレイ公開日:2005年10月28日
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●オープニング
《わさび》
すき。江戸でぜんぶ売れた。
帰り道がちょっとさみしかった‥‥
《やまいも》
いっぱい掘ったら手がかゆくなった。
“むかご”も付けたら、少しだけ高く売れた。
《くり》
いがいがをむくのが大変。手が血だらけになって、涙が出た。
でも、ぜんぶ売れた。
《きのこ》
マツタケをめぐってケンカになった‥‥“きのこ”ひとつにおとなげないね。
シイタケ、舞茸、しめじも、もっていくとぜんぶ売れる。紅天狗茸はイマイチ。
しわくちゃの藁半紙の切れ端を明かりにかざし、“ぎるど”の係りは首をかしげる。
「‥‥なんですか、コレ」
覚えたばかりの手習いにも似たたどたどしい文字に、怪しい単語。
一見、お遣いの覚書のようにも思えるが、後に続く言葉がよく判らない。――日記なのか、書付なのか。
「しめて、72Gと11Cだってさ」
謎の書付を持ち込んだ張本人は番台の天板に頬杖をつき、紙切れをためすつがめつする係にひらひらと手を振った。
「‥‥72G‥?」
「うん。72Gと11C」
怪訝そうに目を細めて復唱した係の言葉にこくりと頷き、番台の前に着席した少年‥‥に、見えるが実際のところは不明‥‥は、上手そうに茶をすする。
「美味しいね、お茶」
「‥‥それはどうも‥」
このマイペースに不吉なものを感じて紙切れを持ち上げたままの手を下ろし、係はしみじみと目の前の“小さき隣人”を見やった。
新顔である。
“小さき隣人”たちが暮らすパラの村からの使者は、これで都合、4人目になるが‥‥。
最初は、近隣に住み着いた小鬼の退治。
次が、つむじを曲げた木霊のご機嫌伺い。
それから、忘れられた村の名前を調査して‥‥そういえば、山葵を売りに来た者もいたような‥‥書付の最初の項目はこれだろうか。
「それで、今回はどのようなご用件で?」
喉元までこみ上げた吐息をぐっと呑み込んで、受付係は大福帳のまっ白な頁に視線を落とした。
■□
街道をふらりと外れ、道なき道を深く分け入った山奥。
美味しい空気と豊かな自然の他には何もない静かな場所に、“小さな隣人”――パラと呼ばれる人々が暮らす村がある。
この村に暮らす陽気な住人たちの夢は、地図にすら載らないこの小さな村を江戸近隣の一大観光名所に仕立てることだ。
只今、その一大観光誘致作戦を展開すべく、額を集めて相談中‥‥なのだが、その努力がおかしな方向へ空回りする者なんかもいるワケで。
大量の山葵を担いで江戸へとやってきたパラっ子は、冒険者たちの力を借りて山葵を売り捌き、山へと帰っていった。
そして‥‥
なにやら新たな楽しみを見つけたらしい。
「村で採れるモノをいろいろ売り歩いているみたいなんだけどさ」
それ自体は、大変結構なことである。
村の名前‥‥彼は山葵村を推奨中であるらしい‥‥を広めるには、地味だがそれなりに有効な方法なのだから。
「ただね‥」
はぁ、と。
飲み干した湯呑みに未練がましい視線を向けて、今回の依頼人は吐息を落とした。
「儲けを村のために使うって約束したらしいんだよ」
約束したのは良いのだが、何に使っていいのかが判らない。
無欲と言ってしまえば聞こえはいいが、長年にわたって培われてきた自給自足の生産体制とつつましい生活に慣れた村人たちには、この降って沸いた(地道な営業努力の賜物ではあるが)お金の使い道に心当たりがなかったらしい。
かくなる上は、某御大を見習って黄金の天守閣でも‥‥と、意味不明の提案まで持ち上がる始末。
「このまま山葵御殿にするのもどうかと思うしね〜」
「‥‥‥‥‥」
どうしたらいいと思う?
救いを求めるつぶらな瞳に受付係は沈痛な面持ちで、きりきり傷むこめかみを指で押さえた。
●リプレイ本文
お日様はご機嫌。
今日も、とってもいい天気。――けれども、少し肌寒い。
江戸の空を流れる風向きが、冬のそれに変わったその日。
東海道の出発点、花のお江戸は日本橋。その、大きな橋のたもとにて手を振る人影、見送る人と旅立つ者。
「はーいみんなー、お弁当作っといたから持ってってねー!」
パンパンと手を叩いて注目を集め、陽小娘は早起きして頑張ったお弁当の包みをひとりひとりに手渡していく。その視線の先には、ふわふわで暖かそうな猫の着ぐるみ。
「ジュディス。それ、借り物なんだから、汚さないでねー」
ジュディス・ティラナ(ea4475)が頭から着込んだ“まるごと猫かぶり”は、貸し着ぐるみ屋【茶々丸】のご奉仕品。――「お母さん」と呼ばれるのは嫌だけれど、愛娘を見送る心はやっぱりお母さん。
「前に小鬼退治に行った村かぁ〜」
こちらも愛情のたっぷり詰まったお弁当を差し出して、所所楽石榴も以前、足を運んだことのある小さな村へと思いを馳せる。
あの時は‥‥そう、色とりどりの花が咲く夏の初めの頃だった。
「秋の味覚が楽しめるんだ? お土産、宜しくねっ、林檎?」
ちゃかりしっかりおねだりは、姉妹ならではの気安さか。見送りの後は婚約者(レヴィン・グリーン)といっしょに、ちょっと回り道(もちろん、こちらもお弁当持参)をして帰る予定。――どちらが本日の主食なのかは、彼女だけが知っている。
他にも、ギース・ヴァーミリオン、蓁美鳳など素敵なお友達に見送られ、旅立ちはとても賑やか。
帰る場所があるから、旅は楽しい。
‥‥もちろん、一緒に旅をするのも、ね‥?
●奥山は、ひと足先に色付いて。
遠目には普段と変わらぬ山の姿も、近づけば染まり行く秋の色味が鮮やかに。
赤色、緋色、黄色に橙。重ねた綾錦の色柄よりも艶やかで。それでいて少しも煩くないのは、誰の演出だろう。
藤野咲月(ea0708)が三度目に訪れたその村は、ちょうど秋の盛りであった。
「みんな、ただいまーっ☆」
笑顔で出迎えの村人たちの中に飛び込んで行くジュディスのように、天衣無縫にはなれないけれど。
また、この村に戻って来ることができて嬉しい。
「今日はお兄さんと一緒だね〜♪」
よかった、よかった。
咲月の隣に冴刃音無(ea5419)の姿を認め、なにやら知った顔して胸を撫で下ろしている様子が、少し照れくさかったけれども。
「お蕎麦、上手に打てるようになった?」
先日の出来上がりは、ご愛嬌。‥‥でも、今回は一味違う。
きらきら輝く眸に見つめられ、超美人(ea2831)はふっと口元に笑みを刷いた。
「もちろんだ。江戸で練習してきた成果を見せてやろう」
せいぜい、人並みぐらいだが。なんて、ぽろりと本音を洩らしてしまえるのも屈託ない笑顔のせいだ。
「へぇ。これが、パラの村‥‥」
「‥‥予想していたよりは、まともですね」
遠慮のない視線で興味深げに村を見回すのは、初めて村を訪れたジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)と所所楽林檎(eb1555)。――ジルベルトはともかく、林檎は双子の姉・石榴の話と現実の相違。そして、先日の山葵売りの一件でこの村独特のテンポ(独特なのは依頼人か?)にそこはかとない違和感を覚えていたりする。
我こそはと笑顔で押し寄せる接客希望者たちに背中を押され、気が付けば丸太と切り株でこしらえた野点の席へ。
「ソ茶はないので、蕎麦茶をどーぞ。――ええ、と。駆けつけ一杯?」
江戸へ出向いた者たちの体験談を元に、“ぎるど”や“酒場”を真似て来訪者にお茶を出すことにしたらしい。
努力の跡は、確かに見える。
‥‥微妙に間違っているような気もするが‥‥
「あら。これはけっこう美味しいかも」
麦湯に良く似た香ばしい味と香り。純粋なお茶とは言えないけれど、飲み物としてはお茶好きにも十分許せる味わいだ。
「お茶菓子は、山葵味噌と焼き栗。どっちが――」
「「絶ぇっ対、焼き栗!!」」
聞かれるまでもない。
●正しいお金の使い方
(提案1:施設充実)
人間規格のお泊り施設は、実は建設済みなのです。
そう。つらつら思い起こせば、前回。翌朝の元気なお日様の下、身体が軋んだのは巨人族の彼だけだった。――人間(別種族含)、特に自分に不都合のない事象については意外に覚えていないものらしい。
「建物はあったんですね。でも、完璧じゃありません」
小柄な林檎は、幸い規格外れにはならなかったけれど。
例えば、毛布。夜着の代わりに置かれたお揃いの浴衣。――咲月、ジルベルトまでは辛うじて。
長身の部類に入る美人、冴刃のふたりは、ああやっぱり‥の、つんつるてん。ちょっと手先・足元が涼しいような。
夏でも涼しいこの村は、冬はやっぱり寒いから。
「せめて布団くらいは大きいサイズを用意した方がいいわ」
せっかくの観光旅行が、妙に貧乏くさくなってしまうじゃないの。――それじゃあ、お客様は満足できない。
扱う商品は違っても、目指すはお客さまの喜んでくれる顔。
「あと、食器類ももう少し大きいのがいるわね。ダイエットにはちょうどいいけど、此処の山の幸は美味しいもの」
もっと、一度に沢山食べたいわ。
ジルベルトの言葉に、みんなが頷く。――栗にキノコに、銀杏、ゆりね、(山葵)。山いも、お蕎麦、川魚、(山葵)。あけび、にむかご、(山葵←しつこい)‥‥。
おかわりするのもいいけれど。食べきれないほど盛り付けたお皿にささやかな幸せを感じる人だっている。
寝具に食器、その他の備品‥‥手作りできないモノではないけれど、ちょっと質の良いものを買い揃えるのはどうだろう?
(提案2:特産品強化)
村の名物、●●料理!!
なんて衝撃の一品があれば、ちょっと心惹かれないかな?
「‥‥どう?」
キノコの旨みたっぷりのキノコ汁を吸い込んだ雑炊。
ほっこり口当たりのいいむかごご飯を、刻んで混ぜた山葵の葉がぴりりと引き締める。
「栗は、栗御飯。キノコは良い出汁が取れる‥‥灰汁が多くなるので手間が掛かって大変だが、その分、美味いぞ!!」
冴刃と美人の提案は、早速、その日の晩御飯で実戦された。
どれも美味しい。
でも、「ここでなければ!」というほどのモノでもない。――もっともっと究めれば‥なんて、思ってしまうのは誰の影響だろう。
「兄貴が料理人をやっているから、何となく知ってるけど」
人を呼べるような新しい料理を完成させるには、それなりにお金がかかるのだ。――ああ、でも。もしかしたら、それは江戸(京都?)の話で、材料が現地調達だったら‥‥安くすむ‥かな?
「この村だからこそ‥の、品を増やすのは私も賛成ですわ」
あれ、と。首をかしげた冴刃が浮かべた滅多に見られぬ表情に、咲月はくすりと朱唇にやわらかな笑みを刷く。
観光地として人を呼ぶのだ。
せっかく村にやってきても目玉になるものが見当たらなければ、がっかりする人がいるかもしれない。――何もないこと。その素朴さが、この村の魅力であるような気もするが。
ちなみに、村人たちが未来に思い描くのは、“お江戸のように”毎日が賑やかで楽しいところなのだとか。世間知らずだと言ってしまえば、それまでだけど。
「この間、お坊さんにお蕎麦をつくってもらったの☆ とってもおいしかったわ☆」
上達の成果を見せようと美人が打ったお蕎麦の上にたっぷり乗っけた山葵に眸をうるうるさせながら、ジュディスも元気にお箸を握り締めた手をあげた。
「この村は、美味しいものが多いよね」
また此処の村に戻ってきたい。そう思わせるモノは必要だ。
(提案3:宣伝広報)
お江戸の賑わいを我が村に!!
――そんなに張り切らないでも、いいんじゃない?
壮大すぎる野望に、思わず苦笑を零してしまったけれど。
「まずはこの村に興味を持っていただかなくてはばいけませんね」
全てはきっとそこから始まる。おっとりと口を開いた咲月の言葉に、林檎も重々しく首肯した。
「江戸で本格的な宣伝活動をするのも良さそうですね。――その拠点となるなる場所を借りるための費用や、宣伝費用にするのも良いかと」
まさか、口コミだけで何とかなるとは思ってませんよね?
ジロリと林檎に睨まれて、村人たちは気まずく視線をそらす。意気込みと野望、行動力に計画性が付いていかないのが最大の難点かもしれない。
「頻繁に江戸に出てきているみたいだし。宿代も安くはないでしょう。私達の冒険者長屋が1G/月だから、3〜5Gも出せばいい物件があるはずよ」
そこを拠点に今の商売を軌道に乗せれば、ランニングコストなんて安いわよ。林檎の提案に、実質性を上乗せしてジルベルトが算盤を弾いた。
「特産品や土産物の即売所や、村の生活や文化を紹介する催しを開催する場所にするのも良いな」
美人も自らの胸に浮かんだ提案を口にする。
あとは、村へと続く街道を整備するのもいいかもしれない。――さすがに72G(実質は50G程度−ジルベルト目算)ではままならないが、今後の課題ということで。
(おまけ)
ただ消費するだけが、お金の使い方ではない。
江戸の両替商などに預けて、利子を稼ぐのもひとつの手。――時間が経ってある程度の元手を作る。
天下の廻りモノというからには、廻り巡って大きな事ができるかも。
「無理して使いきらずにちゃんと蓄えて、急に必要になった時に対処できるよう管理しとくのも大切だな」
‥‥その意見、ご尤も‥。
●樹の上から秋を眺める。
ふたりして登った大樹の上から見る秋は、地上の色とはまた違った趣で。
銀冠に輝く山頂を戴くように艶やかな緋色と黄色が織り交ざって裾を引き、麓には未だ緑が残る。
精一杯、色付いて。そして、潔く散っていく。
春も、夏も。心癒されるその場所は、秋の姿も美しかった。
儚く移ろうからこそ美しい。その、刹那の刻に立ち会える僥倖。――散りたいなんて、少しも思わないけど。
夕映えにきらめく景色をじっと眺める想い人の横顔は、残照の中でひと幅の絵のようにも見えて胸を満たす。
「‥‥ここはのんびりしてて自然も綺麗で、つむじを曲げる木霊も居て‥」
冴刃の口からゆっくりと紡ぎ出される言葉に、咲月はただ耳を傾けた。――このままでも、十分魅力のある場所。
でも。それ以上に輝いて見えるのは、きっと側に貴方がいるから。
だから、ここへ帰ってくる時は‥‥また貴方と一緒でありますように‥‥