お茶っ葉紛争

■ショートシナリオ


担当:津田茜

対応レベル:7〜11lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 13 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月31日〜06月05日

リプレイ公開日:2006年06月08日

●オープニング

 あたしは、お茶が大好き。
 あ、別に茶の湯がどーしたとか、お手前が〜なんて高尚な話じゃないのよ。
 単純に、お酒やお水よりも、お茶を飲む方が好きだなってコト。
 飲むだけじゃなくて、茶葉をそのまま齧るのも、けっこう美味しいのよね。――茶壷の底にたまった粉茶を白いご飯にかけているのがお母さんにバレた時には、さすがに「貧乏くさい!」て、怒られたケド‥。
 他にも美味しいお茶っ葉のいただき方を知っていたら、ぜひ、教えて欲しいわ。

 ‥‥って‥、
 お茶っ葉活用の新天地を切り開くために、来たんじゃないのよ。
 この薄暗いご時勢に、そんな道楽事にお金払ってわざわざ人を雇ったなんて、いくら伊達と酔狂が江戸っ子のウリって言っても行き過ぎだわ。
 ちゃんと理解ってるから――そこ、呆れた顔してんじゃないわよ――理解ってるって、言ったでしょ。
 だいたいね。お母さん、あれでけっこう渋ちんなのよ。
 だから、《ぎるど》を訪ねたのには、ちゃんと別に頼みたい仕事があるんだってば。

 あたし、千歳(ちとせ)っていいます。
 吉原は仲之町の七軒茶屋・山口巴の‥‥ええ、そう。よく知ってるのね、だったら話が早いわ。

 え? 名前だけ?

 そうよね〜。
 手代さん、あまりお金持ってるようには見えないし‥‥余計なお世話?
 でも、図星でしょう?
 はいはい。ホント、手代さんのお財布の中なんてどうでも良いコトだわ。
 だから、お願いしたいコトがあるんだってば。

 ‥‥ちょっと、聞いてる?

 くだらない話じゃないわよ、失礼ね。
 美味しいお茶が飲めるかどうかの瀬戸際なんだから。

 え?
 そりゃあ、ね。七軒茶屋のお客さんは、皆、舌の肥えたお大尽さまばかりだから、お茶だって半端なものは出せないわ。
 お茶っ葉の質を落とすのは台所事情が悪いから‥、なんて話もあるんだから。
 どこのお茶屋も上方から取り寄せた最高級のお茶っ葉を使っているはずよ。――お客様には、ね。
 そう。お客様には、なのよ。
 見世の者が普段使いに飲むお茶っ葉は、そこまで高級なものじゃないわ。
 ‥‥うちのお母さんはお茶にはお金をかけてくれる方だから、それなりに美味しいお茶っ葉を買ってくれるけど‥。
 で、ね。
 うちのお茶っ葉(普段使いの、よ)は、江戸の郊外にある小さな茶畑から買っているんだけど、――曾爺様の代に七軒茶屋に出入りしていた人だって聞いたけど、詳しいことは知らないわ――まあ、そのご縁で値段の割には美味しいお茶を卸してくれているってワケ。

 ところが、ね‥。

 今年に限って、新茶の便りがないワケよ。
 春先にすっきりしない陽気が続いていたし、それでかなぁと思っていたら、世間じゃもう新茶が出回ってたの!!
 こーゆーのって季節モノだし、やっぱり新茶が飲みたいじゃない?
 それで、人を遣って様子を見に行かせたのだけど、なんだか厄介なコトになってるみたいなの。
 なんでも、妙に目つきのゴロツキが屯していたとか‥‥

 そりゃあ、ね。
 うちにも腕に覚えのある男衆がいないわけじゃないのよ?
 ただ、塀の外で揉め事を起こすのはなるべくなら避けたいわ。――ああいう輩は、頭に血が登ると何をするか判らないし‥。

 そういうワケだから、お願い。
 《ぎるど》から人を遣って、穏便に話をつけてもらうことはできないかしら?
 こちらの名前を明かさなければ、多少、手荒な事になっても構わないわ。――要は、これまでどおり美味しいお茶が飲めれば良いの。

●今回の参加者

 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3665 青 龍華(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5557 志乃守 乱雪(39歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9555 アルティス・エレン(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0573 アウレリア・リュジィス(18歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

 春先に寒い日の続いた年は、美味しいお茶が取れるって知っていた?
 なかなか暖かくならない陽気に、芽吹いた若葉がじっくりと時間をかけて育つせいだってお爺ちゃんは言うのだけれど、本当のところはよく判らない。
 その予言とは違った意味で。今年はアタシにとって、忘れられない年になりそうな気がする。

 1番最初の問題は、花冷えが続いたせいでお茶の新芽がなかなか開かなかったこと。
これはもう、お日様にお祈りするしかない。
 そのせいで――他にも原因があったのかもしれないけれど――江戸へ卸すお茶の葉が足りなくなって、相場が上がった。これが、ふたつめ。
 三つ目は、値の跳ね上がったお茶っ葉に目をつけて、カンジの悪い男たちが村へ乗り込んできたことね。――昨年の大火に焼け出されたり、上州の争乱で生計の道を失ったりして困っている人たちが江戸にはたくさんいて。そういう人の中には、手っ取り早くお金を得る為に、悪い道に足を染める人も出てくるってお爺ちゃんは言っていたけど。
 とにかく。徒党を組んでやってきた悪童たちは、頼みもしないのに茶畑の見廻りをしたり、江戸への輸送についてきて――護衛なんてお願いしてないのに――手間賃を要求してきたの。
 お断りしたくても、相手は見るからに屈強そうな強面。中には刀を持っている人もいて、もし揉め事になって怪我でもしたら大変だから大人しく要求を呑むしかなかった。
 毎年、吉原の山口巴屋さんに新茶を納めに行くお約束の時期になっていたのだけれど。 吉原なんて名前を出そうものなら、どういうことになるかは一目瞭然。
 お爺ちゃんの大恩あるお見世にご迷惑はかけられない。
 どうしたものかと困っていたら、あちらのお嬢さんのお遣いだって人が様子を伺いに来た。――村がどんな状態なのかはすぐに判ったみたいで、何も聞かずにそのまま帰ってしまったわ。
 そして、最後にあの人たちがやってきた。


●奇妙な訪問者
「遠くから拝見しましたが、見事な茶畑ですわね〜」
 朗らかに笑って湯呑みに手を伸ばしたのは、七神斗織(ea3225)さん。――江戸で開業されているお医者さんなのだとか。時々、こうして江戸近郊の村を巡回していらっしゃるのだそうで、遠くから見た茶畑の緑に心を留めて立ち寄ってくださったらしい。
 お医者さんが往診に見えることなんてなかったコトで、村はちょっとした騒ぎになった。
 幸いというか、残念ながらというか、お医者さんに診てもらうような重病人はいなかったので、こうして縁側に座ってお茶を飲んでいらっしゃる。
「この辺りではなかなか良いお茶が取れると聞いておりますけど。皆さんが、こうして真心を込めて育てていらっしゃるからなのですね」
「私もこっちに来て随分たつなー。――松之屋のタダ茶はすっかり日常になくてはならないモノになっちゃった」
 安くて美味しいお茶は皆の宝だよね!
 感心と労いのこもった七神先生の言葉に、ニコニコしながら同意したのはアウレリア・リュジィス(eb0573)さん。綺麗な銀髪をした異国の人だ。――吟遊詩人というお仕事は、街角で楽器を奏でて唄を歌う《角付け》のアチラ風の呼び方だと教えてくれた。くるくると軽やかに波打つ銀色の髪がとても綺麗な、可愛い人。
 ‥‥でも‥
 お茶を好きになってくれるのは嬉しいけれど。タダ茶ばかりじゃ、お茶農家はあまり儲からないよーな。
 お医者さんと吟遊詩人さんがどうして一緒にいるのかというと――
「それは口にしてはならないワケがあるのです」
 何故か尼さんも、ご一緒だったり。志乃守乱雪(ea5557)さまは、諸国行脚中のありがたい比丘尼さま。なんだか不思議な雰囲気を持った方だ。
 これが所謂、ありがた〜いオーラなのかもしれないけれど、アタシにはちょっとよく判らない。――普通じゃないのは理解るんだけど。
「茶所というだけあって、とてものどかで品の良い場所ですね。――でも‥」
 乱雪さまの目の奥が、キラリと怪しく光った気がした。
「この村は今、何か不安を抱えていますね。私には判りますよ。ピンときましたよ」

 ‥‥ゴメン‥。
一瞬、怪しい壷でも売りつけられるんじゃないかと思った‥‥。

 乱雪さまの迫力に思わず件の与太者たちの存在を挙げたお爺ちゃんの話に、七神先生もずいと膝を乗り出す。
「――まぁ、そのような人達がいるのですか? もう少し詳しく聞かせてくださいませ」
 アウレリアさんの顔からも笑顔が引いた。
 行きずりの小さな村の為に、こんなに親身になってくださるなんて。――世の中、まだまだ捨てたモンじゃないわよね?
「悪どい計画でお茶畑を狙うなんて、罰当たりもいい所よね!」
 料理人だという青龍華(ea3665)さんは、やっぱり食べ物(お茶だけど)への思い入れが強いのかしら。
「そういう輩は、こうゴキャ‥と」
 龍華さんの華奢な指が、とってもオトコマエな音を立てた。
 そのお世辞にも平和的とはいえない物騒な響きにも、アザート・イヲ・マズナ(eb2628)さんは平然とお茶を啜っている。――《管弦士》だというマズナさんも、アウレリアさんと同じように《角付け》をお仕事にされているそうなんだけど‥‥あんなに無口で大丈夫なのかしら?って‥思っていたら、《管弦士》は歌なくてもいいみたい。

 ‥‥に、しても‥‥

 たまたま、行く方向が同じだったから。
旅は道連れ‥て、本当かなぁ?


●お茶への熱き想い
 徒党を組むって、このコトよね。
 凄みを利かせて村人から小金を巻き上げ、近くの賭場とか盛り場へ遊びに行く男たちは、大抵、何人かで連れ立っている。
 1対1なら負けないのに。
 なんてコトは、言わないわよ。――半士半農で戦さになれば鋤を刀に持ち替えて戦場に出る地侍もいるけれど、この村は百姓しかいないもの。
 ええ、ええ。お茶っ葉を育てて、美味しいお茶を作るのは得意でも、荒事は苦手なの。
 だから本当は少し大丈夫かなぁって思ったわ。
 だって、そうでしょ?
 七神先生はお医者さんだし。
 アウレリアさんとマズナさんは、大道芸人。
 龍華さんは料理人で、乱雪さんは比丘尼さま。それから、
「あたしは、スッキリしたいだけジャン」
 最近、イライラしてるからねぇ。
 と、ひとりで行ってしまったアルティス・エレン(ea9555)さんは‥‥その、なんとゆーかアレな、ワケよ。
 普通に説得して聞いてくれるような相手じゃないし。
 何かあったら、また難癖を付けられるのは判ってるから‥‥
「大丈夫。任せてください」
 七神先生は、そう言ってにっこりお笑いになったけど。

■□

「あなた方がここに居ては農家の方達が安心してお仕事が出来ず困っていらっしゃいますから、どこは余所へ行ってくださいませんか?」

 あ。そんな言い難いことをハッキリと。

「安くて美味しいお茶は皆の物だから。貴方方も美味しくお茶を飲めるように協力してくれないかな?」

 七神先生とアウレリアさん。それから、乱雪様がそれぞれ諭してくださるのだけれど。やっぱり効果はないようで――龍華さんとマズナさんは、一歩離れたところで、ぶらぶらしてる。
 最後に、七神先生は、はぁと大仰な吐息を落とした。

「言っても判らないようなら、強制的に出て行っていただくしか無いようですわね」

 ああ、やっぱり。
 て、ゆーか。微妙に煽り気味じゃないですか? みなさん‥‥

「言わせておけば、この――」

 凄んで七神先生に掴みかかった男の顔に、空を切って突き出された拳が綺麗に決まる。
 青華さんのお茶への熱い想いのこもった龍飛翔に貫かれ、男は力いっぱい吹っ飛ばされてひっくり返った。
 張り詰めた空気の流れが変わる。
「てめぇっ、何者だ?! 誰に頼まれてきやがったっ?!」
「ふっ、誰に頼まれたかですって?」
 大の男をひとり豪快に吹っ飛ばした青華さんは、ふんと鼻を鳴らして傲然と顎をしゃくった。
「想い違いも良いとこね。私はお茶が好きで勝手に首突っ込んで、あまつさえこれで問題解決できたら、お茶っ葉譲ってもらえないかなー、って考えてるだけよっ!」

 ‥‥あ、そうなんだ‥

「二度とお茶に対して悪どい気持ちを抱かない用にしてやるわ―――ッ!!!」

 高らかに宣言し、ゴロツキたちに殴りかかった青華さんと呼吸を合わせるかのように、二本の小太刀を構えたマズナさんも参戦する。

「胡蝶の舞っ!!!」

 ‥‥どの辺が胡蝶なのかは、アタシには聞かないで。

 舞うように刀を振るう七神先生も――
 見事な足捌きで相手の攻撃を躱して小太刀を振るうマズナさんも――

「はいはい。戦力外は怪我をしないように、こっちに非難してましょうね」

 ぽかんと状況を見守っていたアタシを戦いの邪魔にならないところへと引っ張っていった乱雪さまも――
 多分、こうなるって知ってたんだろうなぁ、きっと。

 でも――
 大丈夫かしらって心配したのは間違いだった。
 みんな、強いんだモノ。
 ホントに、凄むことしかできないゴロツキくらいじゃ何人寄っても勝てないんじゃないかしら。
 ジリジリと圧されて敗戦色の濃くなったゴロツキの動きが突然止まる。
 大きく見開かれた視線はどこか焦点の合わない遠くを見つめ呆けたような表情をしていた彼等の顔が突然、強張り恐怖に歪んだ。

「うわああああぁぁぁ」
「化け物っ!!!」
「た、助けてくれぇぇぇ」

 口々に叫んで逃げ出していく彼等の先に、どこから現れたのかアルティスさんが優雅に立っていた。

「おや。大変な目にあったねぇ。――楽にしてあげようか?」

 妖艶な微笑を浮かべたアルティスさんの身体がほのかな赤光に包まれた、刹那――
 その周囲に立て続けに吹き上がったいくつもの炎の柱とその中心でケラケラと楽しげな嬌声を響かせるアルティスさんを、アタシはきっと一生忘れないと思う。

「とりあえずは、一件落着ですね」

 落ち着き払った乱雪さんの声が、凍てついた刻の流れを再びゆるやかに動かした。
 そういえば、与太者たちはどうして逃げ出したのだろう。

「それはねぇ」

 嬉しそうに声を弾ませたのは、アウレリアさん。
 汗で額に張り付いた銀色の髪を指で掻き揚げて、にっこりした。

「イリュージョンで、怖い目にあってもらったの♪」
 曰く。
 お茶の葉に噛み付かれたり、
その手がどんどん赤く腫れ上がり、世界を押しつぶしてしまうとか。
「もう二度とお茶の葉に関わりになりたいと思わないよね?」

 本当に――
 とても豪快、かつ、強引に村に降り掛かった問題を解決してくれた来訪者さんたちに、アタシたち村人は感謝してもいいのよね?

 むこう3年、
 摘み立ての江戸の新茶を季節の便りにお届けします。