大穴救助隊出動!
|
■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:津田茜
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月25日〜11月30日
リプレイ公開日:2007年12月04日
|
●オープニング
山の中腹――大きな岩と岩の間に穿たれた洞窟は、人によって《穴》とか《岩屋》と呼ばれていた。
大昔には山を巡る修験者が雨露を避けて霊験を練る場とし、或いは、麓の村人たちが戦火を避けて逃げ込んだこともあったというが、世も変わり使われなくなってずいぶんになる。
大人たちの認知度も低く、全く知られていないわけではないがさほど重要でもない。
言われてみれば、そんな場所もあったなぁ‥程度のものだ。
生活の上ではほとんど人々の視界に入らぬその洞窟は、だが、村の子供たち――特に、親の言葉に昔ほど素直に耳を貸せないムツカシイお年頃の少年たちにとって、大人たちの目の届かぬ堡塁のような存在だった。
茣蓙や行李、水甕などを持ち込んだあたりに、彼らなりの意気込み‥というか、愛着が感じられよう。
大人には頼らない。
あるいは、大人にはできないことであっても、自分たちなら大丈夫。否、苦難を乗り越えてこそ、道は拓ける――
いかにも子供らしい気概と向こうっ気の強さに後押しされて、彼らは非日常への一歩を踏み越えたのだった。
□■
「――てぇ、行っちゃったんですかっ、小鬼退治に?! 子供だけで!? なんって、無謀なっ!!」
《ぎるど》中に響き渡った手代の絶叫調に、番台の前に腰掛けた少年は叱られでもしたかのように身を縮める。――泥だらけの少年を引き摺るようにして《ぎるど》に飛び込んできた男の顔も、もちろん苦りきっていた。
確かに、小鬼はそれほど恐ろしい妖怪ではない。
《ぎるど》としても、駆け出しの冒険者に斡旋するようなちょろい‥と謂えば語弊があるが、まぁ、そういう相手だ。
ただし、それはあくまでも《ぎるど》、もしくは、冒険者を物差しとした場合の話であって、何の訓練も受けていない一介の庶民‥‥それも、子供の力でなんとかなるような輩ではない。
手代の剣幕に怯えた様子でいっそう小さく、少年はごにょごにょと言い澱む。
「‥‥はい、あの‥‥僕もそう言ったんですけど‥。その、誰も‥聞いてくれなくて‥」
いかにも気弱げで自信のなさそうな物言いは、仲間内でもきっと軽んじられていただろう。遣い走りがせいぜいといった風情の少年が吐いた正論に、耳を貸す者がいなくても不思議はなかった。
不思議ではないのだが、納得して笑っていられる情況でもない。
悄然と項垂れた少年とその隣で青ざめている村人を見比べて、手代は自らを落ち着かせようと深く息を吸い込んで吐きだした。
「救援を向かわせましょう。今すぐ」
急げば、間に合うかもしれない。
――なんて、手遅れかもしれない示唆を含んだ言葉は黙っているのが賢明であることは、経験として学習している。
「よ、よろしくお願いします!」
番台の天板に額をすりつけるようにして頭を下げた依頼人を前に、手代はやれやれと天を仰いだのだった。
●リプレイ本文
●無謀か?! 浪漫か!?
例え、世間に何と評されようとも、
想いを理解してくれる人はいるもので‥‥
軽やかに「やんちゃ」と括るには、少々、行き過ぎた感のある少年たちの暴走も、日々、非日常に遊ぶ者から見れば微笑ましい。
「ん〜、無茶しよる兄ちゃんらやのぅ」
向こう見ずにも程がある、と。
眉間に深刻そうな縦ジワを刻んだ《ぎるど》の手代や依頼人の手前、けろりと笑い飛ばすワケにもいかず、苦笑いで肩をすくめたイフェリア・アイランズ(ea2890)の顔色は、それでもどこかやわらかかった。
侭ならぬ社会への不満と、幼さ故の自己過信。それはイフェリアだけでなく、西中島導仁(ea2741)や鑪純直(ea7179)の胸の裡にも、かつては潜んでいたものだから。――むしろ、その想いの深さゆえ、彼らは今、冒険者としてここに立っているのかもしれない。
「‥‥確かに無謀だが‥」
少年たちの背中を押した若気の至りに己を重ね、鑪はふと遠い目をする。
少しばかり世間を垣間見、その矛盾や理と折り合いをつける術を知った自分の心は過の日の情熱をまだ持ち続けているのだろうか。――って、君もまだ若いんだから――
「餓鬼っつぅのは、そういうモンだべ」
そう鑪の懐古を笑った田之上志乃(ea3044)だが、鑪と同じくまだまだ発展途上。これからの人生の方が長いはずなのだけど。
「オラも小せぇ頃ァ、裏山の洞穴さよく潜り込んだだよ。‥‥寝惚けた熊さおって吃驚した事もあったべなァ‥」
‥‥それって、時と場合によっては小鬼と遭遇するよりヤバいんじゃないでしょーか‥。
なんとなーく視線をあらぬ方に泳がせてしまった記録係にちらりと気の毒そうな視線を送り、鑪は火急を告げた少年に向き直った。
特に己の意見を持たずに誰かの後について行く事を由とするような大人しいというより、寧ろ気弱さを強く現した硬い表情に、鑪は力づけるようにその選択の正しさを労う。
「良く報せてくれた。友を想いここまで駆けてきたおぬしの心意気、無駄にはしない。おぬしの仲間は必ず某たちが助け出すと約束しよう」
少年とさほど変わらぬ年頃であるはずの鑪がその身に纏う貫禄は、これまでの経験と実績に培われたもので。圧倒されてぽかんと口を開いた少年は、一瞬の後、弾かれたように頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!!」
忙しく動き始めた仲間たちから少し離れた物陰で、風魔隠(eb4673)は強く拳を握り締める。
その手には、《ぎるど》の壁から引っ剥がしてきた依頼の書付。――普段なら無味乾燥であるはずの公文書だが、この日は誰の趣向によるものかにっこりと妖艶に微笑むグラマラスな美女が描かれていた。
女の額には可愛らしい角が描かれ、一目で人でないことが判る。が、隠の注意を惹いたはそこではない。
「‥‥ゆ、許せぬでござる‥!」
何やらどす暗い情念の憤怒を立ち昇らせる隠の背中を敢えて見ぬよう気をつけながら、手代はそそくさと大福帳を片付け番台から退散したのだった。
●冬空に想う
いなくなった少年は、合わせて5人。
一四歳を筆頭に、下は一二歳まで。――なんとなく世間を理解ったような気になって、肩で風を切りたいお年頃なのだろう。
親の言を軽んじる不肖の輩とはいえ、可愛い我が子だ。
赤くなったり、青くなったり。それぞれの表情で子を想い百面相を演じる村人に見送られ、イフェリアは終わりの近づいた紅葉を見上げる。冬の初めのどこか寂しげで透明な色を湛えた低い空は、平和なはずの山里に降って湧いた不安と焦燥を表しているようで。
ふと視界に入った西中島のぴんと背筋の伸びた姿勢の良い背中と、ふわりふわりとその後を追う可愛らしいエレメンタラー・フェアリーに、イフェリアは眩しいものを見るようにほんの僅か眸を細めた。――イフェリアが連れた《弥生》と西中島の許で暮らす《如月》は姉妹で。だとすれば、イフェリアも西中島を《家族》と呼んで良いのだろうか?
「ま、ちゃらっと行って、ちゃらっと助けて帰って来ようかいのぅ」
ぽんぽん、と。追い抜きざまに調子よく肩を叩いて通り過ぎたシフールの娘に、西中島は怪訝そうに首を傾げた。
この非常時に気を抜くなと言ってやりたい気もしたけれど。やる気にはなっているようなので、喉許まで出掛かった小言を呑み込む。
今、優先するべきことは、子供たちを無事に連れ戻すことなのだから。
無論、その後には、分別の何たるかをよく諭し、《無謀》と《勇気》の違いを理解させならない。そこまでが、冒険者たる己の仕事。――このお気楽な仲間にちくりと言ってやるのは、その後で十分だ。
語り出すと長い男の口上を聞かされる危機に瀕していたとは露知らず、イフェリアは同じく先行に名乗りを挙げた志乃を相手に身振り手振りで会話を交わす。
隠密行動を得意とする者同士、洞窟の探査と相互の連携について意見と合図の確認は怠りない。――ちまっと小さく可愛らしい外見からは、想像できないけれど。共に場慣れた歴戦の勇なのだ。
締めるトコロは、ちゃんと心得ている。 ‥‥だが‥、
洞窟に近づくにつれぴんと張り詰めた緊張感は、山道には珍しい疾走する馬の蹄によって、見事に蹴散らされたのだった。
ザァ‥‥ッ
時ならぬ木枯らしに舞う色とりどりの落ち葉の下を、一頭の馬が逞しい忍犬を従えて勇ましく駆け上がってくる。その鞍上にて形相凄まじく周囲を睥睨するは、艶かしい藤色の忍装束より露出した二の腕とか太ももが冬空に寒々しいむくつけき鬚の男。
「子供たちはぁ、大丈夫でごさるかぁぁ――っ?!」
物音に驚いて洞穴から飛び出してきた2匹の小鬼を忍犬の《犬獄殺》で一蹴し洞窟に乗り込んで行く隠の背中を見送って、冒険者たちはしばし無言で顔を見合わせた。
互いの反応を牽制するかのような形容しがたい沈黙の後、誰からともなく視線を逸らし、ふっと口角を歪めて肩をすくめる。
そして――
私憤と義憤に駆られ先走った仲間を追って、救助隊は洞窟へと駆け込んだのだった。
●大穴救助隊出動!
目に見えぬ波紋となって不動の大地を駆け抜けた地精の網は、その細い糸に触れたあらゆるモノの姿を絡め取り術者に伝える。
さほど複雑ではないものの幾つかに枝分かれした横穴と、そこに息づく無数の生き物。
小鬼と子供の違いを大きさで区別するのは至難だが‥‥行き詰まり固まっているモノを目的の子供達だとすれば、横穴に点在しているのが小鬼に違いない。
そう当たりを付けて鑪は口の中で礼を呟き、地精を術の柵より解き放った。淡い燐光を残して消えた地精の光に代わって、陽精が眷属の呼びかけに応じ洞窟内には届かぬはずの昼を招く。
「あらぁ。水無月ちゃんは、ええ子やねぇ」
本気とも冗談とも付かぬやわらかな口調で仕事を果たしたエレメンタラー・フェアリーを誉め、イフェリアは取り出した巻物を開くとアイスチャクラを発動させた。――ムーンアローとアイスチャクラを使い分けて攻撃し、気合を入れたオフシフトで小鬼からの攻撃を躱す。洞窟の中という限られた空間の中では自由自在とはいかないが、相手が小鬼であれば酷く苦になる程でもない。
追儺豆で季節外れの節分を愉しむのもアリ?‥なんて、余裕も生まれたり‥‥。
「こ〜なっちまったらァ、後ァ暴れるだァ。やっちまうだよ、権兵衛っ!!」
隠の乱入による予定外の乱戦に、志乃も愛犬・権兵衛に参戦を命じ自らも印を結んで術を練る。
「小鬼を倒す! きょぬーも倒ぉーすっ!!! ハンゾウさん、《犬獄殺》でござる!」
握り締めた暗器《乱れ椿》を振り回す隠に一抹の不安と憐憫を感じないワケではなかったが‥‥この場は、彼らに任せても大丈夫なはずだ。
そう言外で頷きあい、鑪と西中島は進路を塞ぐ小鬼たちを手早く裁いて先を急ぐ。
枝分かれした穴の際奥に、緊迫した無数の気配があった。
■□
「待てぃっ!」
西中島渾身の一喝が、周囲の岩盤に跳ね返って大きく撓む。
子供たちを取り囲みジリジリと輪を縮めていた小鬼たちだけでなく、追い詰められて泣きの入った子供たちも、思わずその動きを止めた。
「‥‥ゴ、ゴブ‥ゴブブ‥っ?!(訳:何者だっ?!)」
届かぬはずの陽光を背中に駆け込んできた人影と。明らかに村の人間ではない風貌、居出立ちに、居合わせた小鬼の間にどよめきが走る。――追い詰められた子供たちの口からも見えた活路に安堵の声が洩れた。
その動揺を前にすらりと抜き放った村雨丸を掲げ、西中島は高らかに言い放つ。
「貴様らに名乗る名はないっ!!!」
西中島の闘気を宿した銘刀は、しっとりと濡れた刀身に小鬼を映し、より白々と冷たい輝きを増幅させた。
その凍りついた空気の中、《越後屋》と号の入ったマフラーを指先で引っ張って鑪はこちらも呆気取られている子供たちに視線を向ける。
「‥‥そ、某は、鑪純直と申す者。正太殿より頼まれ、僭越ながら皆を助けに参った」
「行くぞっ!!」
確かな技量とどこまでも熱い心を持って鳴らす男の前では、
――小鬼如き何匹拠って掛かろうと、もはや敵ではないというお話。
●不屈の魂
戦い終わって、日が暮れて――
彼らの帰還を待っている人たちは居るけれど――
「どのような絶望的な情況でも、諦めずに目標に向かって行動し続けていれば、達成のために力強く全身することが出来、その行動は決して無駄になることは無い‥‥人、それを《不屈》という――」
戦いの場となった洞穴の前に、少年たちを連座させること数刻。
懇々と正道を諭して聞かせる西中島を遠目に眺め、イフェリアはやれやれと肩をすくめる。今回に限っては、さすがによく言って聞かせなければいけないとは思うのだけれど。何やら方向がズレはじめているような‥‥。
「ええだか餓鬼ども。山で遊ぶのもええけンど、もうちっと考えにゃならねェだぞ」
日頃は子供扱いされるコトが多い志乃も、ここぞとばかりにお姉さん風を吹かせて、隠れに同士と称された胸を張る。
「無駄な争いを避ける選択もあるのだから。小鬼とて、安寧に暮らす権利はあるのだぞ」
例え、相手が小鬼でも。
血を流さずに済むのならそれに越したコトはない。――戦いをひとつ終えるたび、その想いを強くする鑪であった。
「その通りだ。自分たちで何とかしようとする考えは良い。しかし、実力が伴わない場合、それは《勇気》ではなく《無謀》でしかない。――正しい心と共に、力を付けるんだな」
山を降りるのは、もう少し先になりそうな気がする。
暮れかけた空を見上げて肩をすくめたイフェリアに倣い、エレメンタラー・フェアリーの小さな姉妹も顔を見合わせて肩をすくめた。