●リプレイ本文
「さぁ〜ってさてさて、どんなカワイイ娘かな〜♪ いや、カワイイ系じゃなくて美人なお姐サンかも〜?」
満面の笑顔でスキップしながら、ゆっくりと丘を登っていく男がいた。
彼の名は、リオン・ラーディナス(ea1458)。
「‥‥まあ、あまりはしゃぎ過ぎないようにな」
リオンの背後には、瓦耀(ea0003)の姿がある。こちらはリオンとは対照的に、落ち着き払った雰囲気だ。
共通点は、両者とも手に手紙を持っている事。
シフール便を悪用した不届き者達へと向かう最中なのだが‥‥リオンの方は、本気でラブレターをもらったものと思い込んでおり、純粋な喜びに包まれていたりする。
一方の耀の方は、下手に今ツッコんで気落ちでもされたら囮の意味がなくなると判断し、ただ憐れみの目を向けるだけにとどめて、ただ、足を進めていた。
「‥‥ふむ、どうやらリオン君は本気で喜んでいるようだ。若いな‥‥そして、少々可哀相な気もする、か」
やや離れた木の影で、囮の2名をじっと見ながら、ジェームス・モンド(ea3731)が呟く。
「これ‥‥筋肉質の男性が群がって書いたんですよねぇ」
と、夜桜翠漣(ea1749)も、リオン達が手にしている手紙と同じ物を眺めつつ、どこか遠い声でそう漏らしていた。
「ふむ、天国から地獄へ一直線‥‥何とも惨い話よ」
隣で閃我絶狼(ea3991)も、なにやらわけ知り顔で頷いている。
「‥‥お手伝いさんを名乗ったり、まにあっくな歌詞を書いたりとかのパターンもあるそうで‥‥なにより、純なる男子の心を操り、自らの欲望を達しようとするは、いと悲し‥‥人、それを『エゴ』という‥‥神の名の元に、粛正を‥‥」
丘の上に立っている大きな樹にじーっと視線を向けてそんな事を言うのは、マリー・エルリック(ea1402)だ。情報によると、その樹の上に、むくつけき筋肉男達が潜んでいるらしい。
「あー‥‥マリー、頼むから暴走だけはするなよ?」
彼女の側で、マナウス・ドラッケンが、やや心配そうな顔でそう言っていたが‥‥マリーの穏やかな表情はちっとも変わらない。
「‥‥任務了解。マッチョに天誅を、ということですね。ええ、伝説の樹から撃ち落として、二度と乙女の名を悪用できないようにしてさしあげますとも」
同じく、真面目な顔で、双海涼(ea0850)がサラリと恐い事を口にした。
「その行いだけでなく、見苦しいだけの筋肉ダルマが十数人‥‥迷惑にも程があります」
アルカード・ガイスト(ea1135)に至っては、既に目に危険な光を宿している。マッチョがお嫌いなようだ。
‥‥そんな感じで、囮2名を見守る待ち伏せ部隊の準備も、既に万全に整っていた。
やがて、耀とリオンの両名が、地元では恋人達の良き告白場所となっている大きな樹の下に到着する。
「来たよ〜〜〜! お手紙ありがとう可憐な君! さ〜て、どこにい・る・の・か・な〜?」
まっ先に、リオンがこれ以上ないくらいに弾んだ声で樹の下に駆け寄った。
が‥‥当然、そこには誰もいない。
「さては恥かしがってるんだね。可愛いなぁ〜〜〜!」
リオンはそれでもまったくテンションが下がらず、どういうつもりかその辺の石を裏返して下の地面を覗いたりしている。女の子を捜しているのだろうか。虫じゃあるまいし。
「‥‥」
その様子を見て、耀は静かに溜息をつきながら首を振るのみだ。おそらくは今のリオンに何を言っても無駄だろう。そう確信している。
そして‥‥はしゃぐリオンの前に、ついにそいつらが現れた。
「お前らかぁ〜〜〜! 俺のオンナに手を出しやがった間男はぁ〜〜〜! オトシマエつけてもらおうかぁ〜〜〜!!」
突然響き渡る蛮声。と同時に、頭上の樹の枝に潜んでいた男達がバラバラと降ってくる。いずれも筋肉隆々のマッチョメンズだ。
「‥‥出たか」
首をコキコキ鳴らす耀。
「なんだお前等! お前等みたいなむさっ苦しいのはお呼びじゃないんだよ! 俺は運命の女神に会いに来たんだからな!」
‥‥リオンの方は、まだ良く分かっていないようだ。
「オトシマエ? んじゃ、身体で‥‥っつーのは冗談だ」
ほっとくと話が進まない事おびただしいと判断した耀が、すっと前に出た。
「それはともかく、まず、誰が『俺のオンナ』なんだぃ? それに第一、女がいるような顔じゃねーだろ、あんた」
「失礼な事抜かすな! 見ろ! これが俺のオンナだ!」
耀の台詞に、男の1人がすぐにそう返すと、近くにいた別の奴の腕を取り、側に引き寄せる。
そいつは‥‥ヒラヒラの可憐な白いドレスこそ着ていたものの‥‥どうみても男だった。
真っ白に塗りたくった顔に、毒々しい紅が引かれた分厚い唇と青く縁取られた目、おまけに無駄毛も処理してないらしく、腕も足も獣人並にもじゃもじゃである。女装というより化物の仮装と言った方が近い。
そんなのが、モジモジしながら耀とリオンを見つめ、うふぅんと筋肉質なウインクを‥‥した。しやがった。
「‥‥」
「‥‥」
ひとめ目にしただけで、耀も、さすがにリオンも、全身の動きがピタリと止まる。
「てめえらはこのオンナの心を盗みやがったんだ。精神的慰謝料として、有金全部まとめて置いていきやが──うぎゃー!」
そのオンナ‥‥というか妖怪変化の肩を抱いてなんか言ってきた奴の顔面めがけて、耀が問答無用で拳を叩き込んだ。四の五の言うよりぶちのめす‥‥こんな奴等にはもうそれしかない。1秒とかからずそう判断したのだ。
「何しやがるこの野郎!」
とたんに気色ばんだ男の仲間達が耀とリオンを取り囲んだが、
「うるせえ、黙って滅びてしまえ」
耀は100%混じり気のない気持ちを言葉にして放ち、逆に睨み返す。
そう思ったのは、耀だけではなかった。
「我が盟約により‥‥逆転せよ天地!」
その場に響き渡る、新たな声。
と同時に樹の下に魔法の力場が発生。重力を逆転させると、加勢しようとさらに樹の上から降りかけていた男の仲間達を樹上に逆戻りさせていた。
「援護を頼むぞ!」
「任せてもらおう。お前等! 俺の歌を聞けぇ!!」
ローリンググラビティで男達を蹴散らしたのは絶狼だ。ガイン・ハイリロードを伴って、一気に突っ込んでくる。一旦上に吹っ飛んだ男達は、木の葉と一緒にぼとぼと落ちてきた。
「て、てめえら! さては冒険者だな!?」
男達が気付いたが、もう遅い。
逃げようとした男の前に、リッカ・セントラルドールが進み出、何やら空中に図形を描くような仕草を見せつつ、何事かをぶつぶつと呟いた。
うわ、魔法か、と急停止したその男の尻に‥‥背後からぷすりと刺さる一本のダーツ。
「いってーーー!!」
たまらず、男は後ろを押えて飛び上がった。
「お見事」
と笑うリッカに、涼がVサインを送る。
リッカの呪文の詠唱は、あくまで相手の気を引くためのフェイクだ。発動させるつもりはなかった。
一方、まるで遠慮しない冒険者もいたりする。
「逃げようとしても無駄です!」
という言葉と一緒に爆発音が響き渡った。
どかーんと炎が弾け、爆風に吹っ飛ばされた筋肉男達が景気良く宙に舞う。
炎をバックにゆらりと前に進み出たのは、アルカードである。
「私に丸焼きにされるか仲間に袋叩きにされるか、好きな方を選びなさい!!」
気のせいか、瞳にも炎を滾らせているように見えた。
「‥‥頑張れ〜、負けるな〜、力の限り生きてやれ〜‥‥」
アルカードに比べたら目立たなかったが、マリーも仲間を応援しつつ、逃げようとする筋肉男達の背後にいつの間にか忍び寄り、分厚い聖書の角で後頭部をゴッツンしてはその場に昏倒させている。なんか角を強化しているらしい。
「‥‥」
下手に注意したら自分が殴られそうだなー‥‥とかぼんやりと思ったマナウスも、そっちは彼女に任せて、自分は矢による援護に集中していた。
「話は聞かせて貰った! この樹を信じてる若者達の為にも、こういう犯罪を許しておくわけにはいかぬ‥‥大人しくお縄について貰おうか!」
ジェームスも逃げようとする悪人達の前に回り込み、立ち塞がる。あくまでも捕縛を主とし、格闘術を中心に相手をしていた。
「‥‥しかしまあ、本当に筋肉質な方ばかりですね」
半ば感心、半ば呆れ、といった様子で逃げ惑う男達を見回す翠漣。
「ねねね姉ちゃん! そこどくか俺と付き合ってくれぇぇぇー!」
そこに、目を血走らせた1人の筋肉野郎が突っ込んできた。混乱しているようだ。
「どっちもお断りです」
きっぱりと言うと‥‥ふっ、と男の前から翠漣の姿が消える。
「ぬぉ!?」
目を剥く男の背後に、彼女はいた。
素早い足さばきで回り込んだだけなのだが‥‥相手がそれに気付くよりも早く、
「体だけでなく、心も鍛えないと、本当の強さとは言えませんよ」
そう告げて、背中のど真ん中に利き腕の掌底を叩き込んでやる。
しなやかな全身のバネから繰り出されたその一撃は、大男を悲鳴を上げさせる間もなく吹き飛ばし、地面へと転ばせた。
「わかりましたか?」
と、彼女は聞いたが‥‥白目になって悶絶している男には、多分聞こえていなかったろう。
「うぉ〜〜〜どちくちょー! 無駄無駄無駄無駄無駄ァ〜〜〜!」
‥‥どこか哀愁を感じさせる叫び声をあげつつ、リオンも暴れていた。さすがに騙されたと気付いたらしいが‥‥。
「お前達を片付けた頃に、きっと女のコが来てくれるんだ。それまでは‥‥負けられんッ!」
まだ、希望を捨てきれてはいないらしい。
「‥‥あのな」
「まぁ、なんだ、こういう事件が流行るってのも、俺たちの心に人間らしい弱さがあるからなんだろう‥‥そっとしといてやるがいい」
筋肉男の1人にヘッドロックをかけて絞め上げつつ、耀は何事かリオンに忠告しようとしたが、ジェームスに止められたようだ。
「‥‥神は、弱き者の味方、です‥‥迷える子羊に、光、あれ‥‥」
マリーがリオンに祈りの言葉を捧げつつ、相変わらず筋肉男を聖書の角で背後からどつき倒していた‥‥。
そして‥‥夕方までには決着がついた。
悪は滅び、丘には平穏が訪れる。
黄昏を見上げつつ、リオンらしき影が長くその場に留まっていたようだが‥‥定かではない。
■ END ■