沼の魔女

■ショートシナリオ


担当:U.C

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月28日〜07月05日

リプレイ公開日:2004年07月05日

●オープニング

 キャメロットから3日程行った所にある小さな村で、数人の子供達が行方不明になったそうだ。
 しかし、ただの行方不明事件ではない。
 ‥‥状況を簡単に説明すると──こうだ。
 ある日、3人の子供達が近くの森の中にある沼に遊びに出かけたのだが‥‥夜になっても帰って来なかった。
 沼と言っても、かなりの大きさであり、複数の川も繋がっているという規模のものだ。
 ここには村人が魚を取るための簡単な船着場もあり、子供達はたいていその近くで水遊びをするのが常だったという。
 もしかして深みにはまって溺れたのではと、村人達はすぐに沼へと駆けつけたのだが‥‥実際はそうではなかった。
 船着場の周囲には、武器を持ったゴブリンが数体と、黒いローブをまとった老婆がおり、村人達にこう告げたそうだ。

「‥‥子供は預かったよ。指定の期日までに、あたしが満足するだけの金目のものを持っておいで。さもなきゃ‥‥子供は全員、このゴブリン達のエサさ」

 あとは‥‥村人達はゴブリンに追い散らされ、逃げ帰るしかなかった。
 どうやらこの老婆は、ゴブリン達に報酬を与える事で、共闘関係を築いているようだ。
 ただの老婆がそんな真似をできるはずもないので、この老婆自身も、それなりの実力を持っているものと思われる。
 村人達は村中の金銭をかき集め、老婆の元に持っていったそうだが‥‥足りないと一蹴され、最後の望みとして、ここに依頼を出してきたというわけだ。
 今から旅立てば、老婆が出した期限の最終日に、現地に到着する事となるだろう。時間はない。
 さらに、ゴブリンが何体いるのか、老婆の実力、子供達がどこに囚われているか‥‥等、判明していない事も多く、かなり困難な依頼と言える。
 また、冒険者が来た、という事が知られれば逃げられる恐れが高い。交渉を含めて、老婆と話をするのなら、冒険者という事は隠すように。無論、話をする者はイギリス語が使えなければならない事は言うまでもなく、それも専門以上のスキルがなければ、到底まともな説得、交渉などはできないだろう。それ以下のスキルの者が話しかければ、逆に怪しまれるか、馬鹿にされて終わりになる可能性すらある。同じ理由で、特徴的な異国の者は老婆に見られるのは避けるべきであり、交渉などもっての他だ。
 逆に老婆と一切話をしないのであれば、極力見つからないように潜み、接近して一気に制圧するしかない。が、それはかなり難しいだろう。先にも説明したが、不確定要素が多すぎる。
 赴く者は、くれぐれもその点を踏まえるように。
 ただもちろん、どのような手段を用いるかは、行く者に全て任せる。話し合い、最良と思われる手段で望んで欲しい。
 なお‥‥この老婆の事を、現地の村人達は恐れを込めて『沼の魔女』と呼んでいるそうだ。
 では、健闘を祈る。

●今回の参加者

 ea0497 リート・ユヴェール(31歳・♀・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1355 シスカ・リチェル(21歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1504 ゼディス・クイント・ハウル(32歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2096 スピア・アルカード(29歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2462 ナラク・クリアスカイ(26歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea3117 九重 玉藻(36歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「そこで止まりな」
 老婆の声に、スピア・アルカード(ea2096)とナラク・クリアスカイ(ea2462)が素直に足を止める。
 森を抜け、船着場全体が見えた、ちょうどそんな位置だ。
 不自然には思われないように心がけつつ、周囲を素早く観察する2人。
 そこは、沼に面した直径20メートル程の広場である。船着場、と言っても、小船を停める短い桟橋がある他は、目立つ物は特に何もない。単なる少々開けた水辺、と言っても差し支えのないようなものだった。
 普段なら、ここに3艘のボートが停めてある。
 ‥‥そんな事を、ここに来る前、冒険者達は村人達からあらかじめ聞いていた。
 もちろん、その情報は正しい。
 ただし、今は少々差異がある。
 水辺には簡単な造りの天幕が張られ、桟橋にもボートは2艘しか姿が見えない。
 前者は、おそらく老婆達の休憩所だろう。後者‥‥ボートについても、残りの1艘はすぐに見つかった。20メートル程沼に入った所に浮かんでいる。当然、無人というわけではなく、1体のゴブリンと、布を被せられた大きな物体が乗っているのが確認できた。
 そして‥‥2人の正面、約10メートルの距離を置いて、黒い小柄な影が立っている。闇色のローブで全身が覆われ、顔も半分以上フードで隠れているので、口元くらいしか見えない。子供を誘拐し、村に身代金を要求している老婆‥‥『沼の魔女』である。両脇には、棍棒を手にしたゴブリンを従えていた。
 ピー、と老婆が口笛を吹く。
 それに合わせて、スピアとナラクの周囲で気配が動いた。
 森の中から新たに現れた3体のゴブリンが、やや距離を置いて、2人の背後と左右につく。これで、確認できたゴブリンは全部で6体だ。
「‥‥さて、こっちの言ったモノは、いいかげん用意できたかい?」
「その前に確認させてくれ。子供達は無事なのか?」
「ふうん‥‥」
 静かな声でこたえたナラクに、ローブ姿が向き直った。
「あんた‥‥エルフだね。村の者なのかい?」
「ああ、そうだ。神聖騎士を目指し、勉強中の身だ」
 顔色ひとつ変えず、即答するナラク。今は普段着けている仮面も外し、素顔を晒していた。
「私達は村の代表で来ました。今一度、交渉を望みます」
 すぐに、スピアがそう言って、会話の主導権を相手に渡さないようにする。あまり相手に質問されては、すぐにボロが出るだろう、それは避けねばならない。
「ふん、今更交渉する事なんてないね」
 吐き捨てる、魔女。
「はやいとこ、お宝を用意しな。期限は今日の夕方だ。ちょっとでも遅れたら、夜にはガキどもの躯が村に届く事になるよ」
 簡単に、そう言ってのけた。
「そうですか‥‥では、こちらも率直に言います。貴方が希望する品々を揃えるのは無理でした。何か‥‥何か、子供達を返してもらう他の方法を提示してもらえないでしょうか?」
 と、真摯な瞳を魔女に向けるスピア。村の者から普段着を借り、それを身につけた彼女は、普通に見れば村娘に思えたろう。
「‥‥はん、話にならないね。そんな事をわざわざ言いに来たのかい? だったらとっととお帰り」
 が、その言葉を聞くと、老婆は馬鹿にしたような笑みを口に浮かべる。
「ここで子供を殺しても、そちらに利はあるまい。無いものは無い。ならばせめて聞かせてくれ。どうやって私達に金を工面しろというのだ? こちらが貴方の知恵を拝借したいものだが」
 ナラクが、問うた。
「やれやれ‥‥どこまで失望させる気かねぇ。貧乏人なら、頭と力を使いな。自分達になければ、他から持ってくればいいだろ。通りかかる村人や、近くの村‥‥とりあえずそんな所を襲って、用意すればいいじゃないか。簡単な話だろ」
「‥‥そんな事を、私達にやれ、と?」
「他に方法があればなんでも構わないさ。要はあんたらがあたしを満足させればそれでいいんだよ」
 スピアの台詞に、老婆は薄笑いさえ浮かべている。
 その表情は、瀕死のネズミをいたぶる猫のようにも見えた‥‥。


「‥‥子供達の場所、分かりますか?」
 森の木々と茂みの間に隠れて、リート・ユヴェール(ea0497)が小声で尋ねる。
 船着場の周囲には、ここから見ても分かる通り、子供達の姿は無い。
「うーん‥‥」
 目を閉じて精神を集中していたチカ・ニシムラ(ea1128)が、薄く目を開いた。これまでブレスセンサーの魔法を用いて、この場の呼気を探っていたのだ。
 ちなみに‥‥チカは少々装備過多の状態であったので、そのままでは魔法を唱える事ができず、今は杖を持たずにいる。(戦闘装備でAPの値が2以上ないと魔法は使用できません。ご注意下さい)
「船着場に今いるのは、あのおばあさんと、ゴブリンが5体‥‥それは間違いないみたい」
「となると‥‥やはり臭いのは沼に出ている船、だな」
 チカの台詞を聞いて、落ち着いた声が言う。ゼディス・クイント・ハウル(ea1504)だ。彼の視線は、その小船に向けられていた。
「‥‥うん、たぶんそうだと思う。あの船には、ゴブリンの他に、3つの息を感じたから」
 チカも、コクリと頷く。
「おそらくは縛った上に猿轡でも噛ませて、身動きと声を封じているのだろう。さらに上からああやって布を被せておけば、傍目には分からない。水上に出してあるのは、用心のためだろうな。その方が攻められにくいし、誰かが近づく間に、簡単に子供を殺せる」
 淡々と、ゼディスはそう分析した。
「‥‥ひっどいなぁ、あのおばあさん。そんな年寄りにはなりたくないよ」
 それを聞いて、シスカ・リチェル(ea1355)が顔をしかめる。
「わるい魔女め。おいらがやっつけてやる」
 拳を握り、低く呟くボルジャー・タックワイズ(ea3970)。不快感、というより、彼は既に少々怒っているようだ。こういうやり口は許せない。
「あっちの3人は、そこまで気付いているでしょうか?」
 リートが、ゼディスに振り返る。
「さあな。向こうにはブレスセンサーという決め手はないが‥‥この状況だ、それくらいは推測してもらわんと困る」
「‥‥では、あっちの方々が気付くのを、祈るしかないですね‥‥」
「いや、それは違うぞ」
「え‥‥?」
 ゼディスが、初めて薄く笑った。
「祈るのではない。仲間がそう気付くと信じるのだ」
「‥‥なるほど」
 リートもまた、ふっと微笑む。
「仲間を信じるのは、あたりまえだよな!」
 ボルジャーも当然とばかりに、大きく頷いた。
「ええ、そうね」
「まったくその通りだわ。じゃあ、こっちはこっちで行きますか!」
 チカとシスカも同意して‥‥あとはそれぞれ、手筈通りに動き始める彼らであった。


「‥‥下らない話はおしまいさ。あんたらの生首を村に届けてもいいんだよ。そうすれば、村の奴らももう少し本気になるかもしれないしねぇ。それが嫌なら、さっさと帰ってあたしの言葉をケチな村の奴らに伝えな、お嬢ちゃん達」
 老婆の言葉には、交渉の余地などなかった。もともとそんな気もないのだろう。
 が‥‥それはスピアとナラクの予想の範疇でもある。
 仲間が子供救出のための配置に付くまで、老婆の注意を引き、時間稼ぎをする事‥‥それが彼らの目的だ。
「では、最後にひとつ聞かせてもらおうか」
「なんだい?」
 ナラクが、尋ねた。
「子供は全員、沼に出ている船の中だな?」
「‥‥さてね。もしそうだとしても、あたしが素直に頷くと思うかい?」
「いいや」
 あっさりと首を振るナラク。
「ですが、あなたならば、おそらく人質を自分の目の届く範囲に置こうとするでしょう。水辺にそれらしき姿がないとすれば、残るはあそこだけです」
 老婆をみつめ、今度はスピアが言った。
「‥‥へえ」
 魔女の目が、すっと細められる。
「気に入らないね。その落ち着いた態度と、物事を見る目がさ‥‥あんたら、やっぱり村人じゃないね」
 じわじわと、場の空気が変わっていく。老婆から発せられる気配が、はっきりと敵を前にしたそれになっていた。高まる殺気と、それに伴う緊張感。取り巻きのゴブリン達も歯を剥き出し、低い唸り声を上げる。
 ‥‥もはや、これまでだろう。そもそもそう長い事誤魔化せるわけもない。
 だが、老婆と話をする事で、仲間が態勢を整える時間は稼げたはずだ。
「生意気なお嬢ちゃん達、正体をみせてごらん!」
 言いざま、ゴブリン達に向かって何事か意味不明な声をかけた。それが攻撃の合図だったらしく、一斉に棍棒を振り上げて2人へと走ってくる。
「‥‥やれやれ。こらえ性のないご老体だ」
「こうなっては、仕方ないですね!」
 相変わらずの静かな口調で聖なる言葉を紡ぎ、神聖魔法の発動態勢に入るナラクと、足にくくりつけて隠しておいたナイフを抜き、構えるスピア。
 それでも相手はたった2人と踏んだのか、ゴブリン達の足は止まらない。
 ‥‥が、その場にいたのは、2人だけではなかったのだ。
 ──ザパアッ!
 突然、大きな水音が上がった。
「一体何事だい!?」
 背後──沼へと振り返る老婆の目の前の水面が盛り上がり、巨大な生物‥‥大ガマが飛び出してくる。
 ずずーん、という軽い地響きを上げて地面に降り立った体長3メートルの巨大ガマが、1体のゴブリンを押し潰し、悲鳴を上げさせていた。
 実は、水中には既に仲間が潜んでいたのだ。対岸に回り込み、そこから水遁の術で近くまで忍び寄った九重玉藻(ea3117)が、桟橋の下の水中に隠れて、会話を全て聞いていたのである。
 先程リートが、この桟橋の近くには仲間が3人いると言っていた。ゼディスとスピア、そして残りの1人が彼女というわけだ。
「貴女は船の方に行って!」
 スピアが玉藻に声をかける。返事の代わりに小さな水音がして、水面から覗いていた彼女の頭が水中に没した。
「さあ、観念なさい!」
 突然出現した巨大生物に面食らって動きが止まったゴブリンの間をすり抜け、一気に老婆へと迫るスピア。この魔女さえ押さえてしまえば、事態は収まるはずだ。
「‥‥やっぱり冒険者かい。ちょっと長居しすぎたようだね‥‥」
 老婆が口元に自嘲的な笑いを浮かべた。
 観念したのか、身構える様子もなく、魔法が使えるにしても、呪文を唱える様子すらない。
 これならいける、とスピアは思ったが、頭のどこかで、何かが警報を発する。
 そして‥‥それは正しかった。
「でも、まだまだヒヨッコのようだね‥‥」
 そんな言葉と共に、老婆の体から魔法の光が発せられ、いきなり周囲が濃い霧に包まれる。
「これは‥‥ミストフィールド。しかも高速詠唱か!」
 ゼディスがすぐに見破ったが‥‥その時にはもう、老婆の姿は白いヴェールによって覆い隠されていた。


 船の上のゴブリンが、足元のカバーに手をかけ、引き剥がす。
 下から現れたのは、縛られ、口にも猿轡をされた子供が3人だ。
 目の前の小鬼を怯えた瞳で見上げ、くぐもった悲鳴を上げる。
 それを残忍な目で見下ろし、ゴブリンは手にした棍棒を振り上げた。
 老婆が何らかの魔法を使って戦闘を始めた場合は、直ちに子供を殺す‥‥それがこのゴブリンに与えられた役目だったのだ。
 小鬼は今、その仕事をまさに果たそうとして‥‥。
「──させませんッ!!」
 空気を切り裂いて飛来した矢が、ゴブリンの胸に突き刺さる。
 戦闘開始と共に飛び出し、沼に腰まで入ったリートの一矢だ。射程ギリギリ、急いで駆けつけての射撃だったため、シューティングPAを使う余裕はなかった。
 さらにぐらりと傾いた小鬼めがけて、
「顔でも洗って反省するのね!」
 泳ぎ着いた玉藻が、船べりに手をかけて一気に船上へと跳ね上がると同時に、手にした手裏剣で下から斬り上げる。
 さすがにたまらず、ほぼ断末魔の悲鳴をあげつつ、水中へと落ち、没していくゴブリン。
「‥‥よかった。これで子供達は無事ね」
 リートがほっと息を吐き、弓を下ろす。
 子供達の戒めは、もちろんすぐに玉藻が解いていった。


「少々油断してたよ。まあ、次はもっと上手くやるとするかね‥‥」
 笑いを含んだ老婆の声がするが、霧の中で姿は見えない。
「く‥‥一体どこに‥‥」
 唇を軽く噛んだスピアの横で、不意に何かが動く気配。
「っ!」
 振り向きざまに、ナイフを振った。ガッ、という音がして、ゴブリンの振り下ろしてきた棍棒と刃が噛み合う。さらに、新たなゴブリンが棍棒を構えながら霧の中より現れ‥‥。
 ──ボッ!
 と、いきなりそのゴブリンの肩が弾けた。まるで体の内部で小型の爆弾でも爆発したかのような破壊。
「これでは、下手に身動きが取れないな」
 スピアの背後に、ナラクが現れる。今のはどうやら、彼の放ったディストロイの魔法のようだ。
 絶叫を放つゴブリンへと、さらに何かが飛来し、その胸を切り裂く。
「‥‥ふむ、声を頼りに投げたのだが、上手く当たったようだな」
 獲物を襲い、戻ってきた氷の刃──アイスチャクラを受け止めたのは、ゼディスだ。
「こいつめー! くらえーっ!」
 スピアを攻撃した奴には、ボルジャーが突進。体当たりをかまして吹き飛ばした。
「危ないからちょっと離れてね! いっけぇー!!」
 さらに、同じく駆けつけてきたシスカが、倒れたゴブリンにファイヤーボムを叩き込む。ちなみに彼女もチカと同じく装備過多状態だったので、今は杖を放り出していた。
 霧で視界は閉ざされこそしたものの、そうしてゴブリンはなんとか撃退する。不利を感じて逃げ出した者もいたようだったし、魔女も霧を張った以上は、特に援護をする様子もなかった。共闘関係にはあったようだが、互いを信頼しているとは、到底いい難いものだったようだ。
 結局、老婆は霧に紛れて水の中に姿を消していた。ウォーターダイブの魔法を使ったのだろう。
 村中から集められた金品は、船着場に繋がれた小船のひとつに詰まれており、玉藻が船底に穴を開けていたので運べなかったようだが、あらかじめ特に価値の高そうな物品を小分けにしていたようで、それは持ち去られていた。
 しかも、逃走する際、子供達が乗る船をウォーターボムで攻撃、転覆させて、冒険者達に子供達の救助を優先させる事で自分はその間に逃げる‥‥という手段を取られてしまい、追跡する事も不可能だったのである。
 ただし、子供達は全員無事に救助されたので、この依頼の達成条件は満たされたと言って良いだろう。
「こんな虫がたくさんいる森はさっさと逃げるに限るよ」
 と、眉を寄せながらも、優しい目を子供達へと向けるチカ。
「パラパパラッパ、おいらはパラさ! パラパパラッパ、おいらはファイター!」
 濡れた子供達の前で、調子外れの歌を歌いながら、ボルジャーが踊って元気付ける。
 そうして、子供達をナラクの馬に乗せ、彼らは村へと戻ったのだった。

■ END ■