●リプレイ本文
「うははははははは!」
夜空にお子様の高笑いが響いた。
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が、腰に手を当て、豪快に笑っている。
「うむ、今宵はまさに操の捨て日和! 馬車馬の如く荒々しく豪快に、それでいて職人技の精緻さを見せて、我がピーチフルを散らせてくれようぞ! というわけで余らがディフェンス、トアのねーちゃんがオフェンスだ! 良い仕事を期待しておるぞ! この意外に安産型め!」
などと言いつつ、トア・ル(ea1923)、尻をスパーンと叩いてみたりする。
「‥‥」
トアは薄く笑ってヤングヴラドへと振り返り。
──どげしっ★
何の容赦もないヤクザキックをぶちかました。
「ぐはっ!」
14歳児(ピーチ)の体が夜空に舞い、頭から地面に落ちる。
落下点に素早く移動したトアが、バウンドしたヤングヴラドの身体をすくい上げ、さらに手技、足技に繋いで、エアリアルコンボ無間地獄へご招待。
「‥‥おー、24HITを越えた。見事なもんだ」
上半身裸のレオンロート・バルツァー(ea0043)が、本気で感心しつつ頷いた。
「ふむ‥‥なかなかに絵心を刺激される構図だな」
市川葉(ea0678)が、布キャンバスに筆でサラサラとデッサンを取り始める。
「えとあの‥‥こんな事していて大丈夫なんでしょうか‥‥」
始まる前から思いっきり不安そうな声と顔でオドオドしているのは、アルト・エスペランサ(ea3203)。幸せ探して13年の、薄幸のナイトだ。
「まあ、今更騒いだり疑問に思っても仕方がないでしょう。平常心ですよ、平常心」
そんなアルトに、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)が言う。穏やかな表情で竪琴を優雅に爪弾く彼の姿は、確かに平常心そのものである。
「‥‥ふふ、どんなレディが歓待してくれるのか‥‥楽しみですね」
などと呟きつつ妖しく微笑んでいるのは、ユエリー・ラウ(ea1916)だ。着衣を微妙に着崩しており、胸元から白い肌が大胆に見えている。エルフ男性の柔肌と美貌、そして彼自身の放つ禁断の雰囲気と甘い視線が最大の武器‥‥らしい。
「さてと、逝こうぞ犬ども。畜生畜生って言いながら逝こうぞ。腹に指技喰らってのた打ち回ってよ」
さんざんトアにぼてくり回されたヤングヴラドが、皆に振り返り、声をかける。既にボロボロで、鼻血止めのためにハンカチを鼻に突っ込んでいるという姿だが、妙に生き生きとしていた。やる気満々だ。
「‥‥」
その声を聞き、傍らの民家の壁に、『うめ☆連合 かつお梅のよしお参上、夜露死苦』と、でっかく筆で書いていたきむらよしお(ea4457)が振り返り、ぐっと親指を突き立てる。
「あい、あむ、あ、ぼーい」
‥‥彼は、イギリス語が話せなかった。
「ふはははは! 喜べ愚民共! 我ら生え抜きの冒険者様がけしからん姉ちゃん達を懲らしめにきてやったぞ! 崇めよ! 称えよ! 地面に這いつくばって、あらん限りの礼の言葉をブチ撒けるが良い! 女共は我輩の耳元で全てを捧げる愛の台詞を囁くが良い! 遠慮はいらんぞ! ふははははは!」
メインストリートに敷かれた赤い絨毯の上を堂々と練り歩く、囮役の男性達。先頭を行くのはもちろん14歳のピーチフルボーイだ。
彼らの行く道は、色とりどりのカンテラの明かりで彩られ、無数の黒地にXの文字が刻まれた旗が揺らめいていた。
「痴女が相手なのに、皆さんがやけに楽しそうに見えるのは‥‥気のせいでしょうか」
不安と疑問を感じつつ、一行の進む先の道に、花を撒くアルト。
「でぃす、いず、あ、どっぐ」
よしおは『押忍! 熱烈歓迎裏美女団!』と書かれた横断幕を持っており、
「‥‥やあ奥さん、これが終わったら‥‥どうですか?」
両側に並んだ民家から彼らを覗く人妻に、ユエリーが時々流し目を送って卒倒させたりもしていた。
「好き放題やってるね、これ‥‥」
「まあ、そういう依頼のようですから」
物陰では、囮達を見守るトアがため息をつき、葉が相変わらずデッサンをしながら達観した台詞を返している。
そして‥‥彼らの前に、ついに目的の彼女達が現れた!
「‥‥ハーイ、今日はとっても賑やかね、そういう楽しいコ、とっても好きよ。ねえ、お姉さん達と、イ・イ・コ・ト‥‥しない?」
肌もあらわな衣装を身にまとい、黒い路地から進み出てくる十数人の美女達。
「ででででたな! ばいんばいんのぼんぼーんのきゅっきゅっきゅーめ! ええいそこになおれ! いいい今から順番に我輩の精神注入棒でこてんこてんに成敗してくれるわー!!」
待ってました、とばかりに飛び出すヤングヴラド。
やる気が高まりすぎているようで、目は血走り、鼻息は荒く、顔も紅潮していた。
「まあちょっと落ち着け。まずはこちらの力と実力を存分に示すのが先だろう」
ピーチフルボーイの肩に手を置き、軽く諌めるレオンロート。
「む‥‥そ、そうであったな。レディの前では、男は常に紳士であらねばならぬ。我輩としたことが‥‥」
すぐに、ヤングヴラドも落ち着きを取り戻したようだ。その辺は流石である。
「というわけで‥‥あらためて挨拶しよう。そしてまずは見るがいい! 我らの力を! 俺達は逃げも隠しもしない!!」
宣言と共に、レオンロートが全ての衣服を脱ぎ捨てた! 無論、ヤングヴラドも一緒に!
「我がバルツァー家の家訓は『全ての戦いにおいて逃げるべからず』だ!! 裏美女団の下郎ども、かかってきやがれ!! 片っ端から返り討ちにしてやる!!」
「我等が実力、その目にしかと焼き付けるが良いわ! 近くば寄って目にも見よーっ!!」
そして、2人並んだ全裸男は、揃って腰に手を当て、ぐるんぐるんと雄々しく回し始めた!
そのスピードたるや、もはや風車の如く、プロペラの如く、大車輪の如く! 速く、そして逞しく!
ぶるんぶるんぶるんぶるぶるぶるぶるぶぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜!
まさに、ダブルタイ●ーン命のベルト! 父よ! 母よ! 妹よ! 見てくれ見てるかこの力!
「おお‥‥見事」
思わず、葉の筆も止まっていた。
気のせいか、涼やかで心地よい風までもがその場に流れ始めたようだ。
「なんて‥‥なんていう‥‥」
美女達も、すっかり釘付けである。
「ああ‥‥お母さん。ある意味これも大冒険ですけど。僕が夢見ていたのはこんな大冒険じゃないんです‥‥」
全身の力が抜け、アルトはその場に崩れていた。
「あい、ぷれい、う゜ぁいおりん」
よしおは梅干の種を額に貼り付けている。熱冷ましにはこれしかない。
──えーと‥‥どうしましょう?
と、トアの頭の中にケンイチの声が響く。なんか、すっかり困り果てたような響きを持っていた。彼もまた、トアや葉と同じく囮ではない。離れた場所で、援護や攻撃の機会を伺っているのだろう。
「いや、どうしようって言われても‥‥」
トアも困った。困ったので、とりあえず初心に返って、とりあえずこの依頼は相手を捕まえればいいんだから、それをしようと思い立つ。
で、早速、つかつかと手近な美女の1人に近寄り、襟首を掴むと暗い路地裏に引っ張り込んだ。
──2分後。
「あっはぁぁぁぁぁ〜〜〜んvv」
その路地裏から、なんかけしからん声が響いてくる。ややあって、手をパンパン叩きながら、平然とした様子の男装の麗人、トアが戻ってきた。
「ああん‥‥トア様‥‥いっちゃ、やだぁ‥‥」
少し遅れて、とろけきった声と共に、思いっきり着衣が乱れた美女が、地面を這いながらずりずり出てくる。なんか立てないらしい。トアを見る目は、完全に恋する者の輝きを帯びている。
「‥‥なにしたんですか?」
「ん? ああ、ちょっと懲らしめただけ」
葉に問われると、涼しい顔で即答するトア。
「あ、そうそう。それよりひとつ面白い事がわかったよ」
「なんですか?」
「この美女さん、剥いたら『男』だったよ。だから、他の美女さんも全員そうじゃないかな?」
サラリと、トアは言った。
「な、なんだってーーー!!」
ヤングヴラドとレオンロートが目を剥き、腰の回転を止める。
「一線越えるなら、頑張ってね。あ、ちなみに僕は越えてないし、越える気ないから」
なんだかとっても楽しそうに、ニコニコ笑って告げるトア。
「‥‥く‥‥くそ。ちくしょう! 騙しやがって! 騙しやがってーーー!」
男泣きに暮れながら、レオンロートはどこからか取り出した袋に、その場の土を詰め始めた。持ち帰るつもりだろうか。意味はよく分からない。
「なるほどな‥‥裏美女団とは、そういうストレートな意味であったか、おのれ‥‥」
ヤングヴラドも、ぐっと拳を握る。
「なんという‥‥衝撃の事実か‥‥っ!?」
くわっと目を見開いた葉の手から、絵筆がこぼれ落ちた‥‥。
「‥‥いやあの、それほど驚く事ですか、それって?」
ケンイチは冷静にツッコんだが、まあそれはそれ。
裏美女だから、相手は実は男‥‥という考えも打ち合わせ段階ではあったようだが、いやそう単純じゃないだろうと、彼らはさらに裏を読んでいたようだ。
が‥‥あえて言おう! あんまり深読みしちゃイヤンと!
「ふ、ふははははははは!!」
不意にヴラドが哄笑を始めた。
「舐めるな! 我輩はこう見えて博愛主義者だ! 相手がカマだろうと、見た目が美人のねーちゃんならば! それはそれ、これはこれである!!」
半ばヤケクソ気味に、叫んだ。
そうかと思うと、
「‥‥ふっ、君の美しさの前には、あの月も翳るようだ。今宵は俺達のためにある‥‥さあ、その可愛い顔をもっと近くで見せておくれ‥‥」
「ああ‥‥ユエリー様‥‥わたし、もう貴方とどこまでも墜ちてまいります‥‥」
ユエリーは豪華な革張りの椅子に腰掛け、片手で赤ワインの満たされたグラスを揺らしながら、膝の上に乗せた裏美女の1人と愛を語らっている。彼もまた博愛主義者らしい。
「お、お姉さん‥‥というか、お兄さんいうか‥‥えと、あの、ととととにかく、あなた達はどうしてこんな事をするんですか。どど泥棒は悪いことです」
アルトはなんとか説得を試みていたが‥‥。
「んま、震えちゃってるの? 可愛いボーヤv」
「ささ、お姉さん達と、気持ちイイコトしよっか、ボクちゃんv」
などと口々に言われ、周りを囲まれて、ヤングヴラドが用意したキングサイズの天蓋付き豪華ベッドへと連行されていく。
「あうあう、初めてなんです、優しくして下さい‥‥じゃなかった。助けてーお母さーん!」
道のど真ん中にでーんと置かれた巨大なベッドは、愛という名の牢獄だ。
「アルト君、大丈夫よ。君の事は全イギリスカマ連盟(通称イカマ連(真偽不明))を通じて、全土にその名前を広げてあげるから。きゃ、このこの人気者っv」
「‥‥前略お母さん。なんだか僕、もう大変な事になってます‥‥というか誰かたーすーけーてー!」
1人の少年の悲しい声が夜空に響き‥‥消えていく。
当然のように、助けは来なかった。
「ええい! こうなれば、最早ヤるかヤられるかのアルティメット勝負あるのみ! だが負けんぞ! いずれ愛する深雪ちゃんと極楽へ逝くため! うぬらには指技の実験台になってもらうのだ!! 我輩の木人形(デク)になるがよいわ!!」
素っ裸のヤングヴラドが、疾る。
「ほぁたたたたたた!!」
気合と共に駆け抜ける、絶妙の指。相手の急所を探り、見抜き、さすり、押し、相手を確実に快楽の果て、永遠の楽園、シャングリラへと送り込むその妙技!
「‥‥お前はもう、絶頂(イッ)ている‥‥」
「あはぁんvv」
恍惚の表情と共に‥‥美女は倒れた。
「光り射す世界に、汝らカマ、住まう場所無し!!」
悲しみを乗り越えたレオンロートも、咆哮と共に美女へと迫る。
「渇かず、飢えず、無に還れーーー! (自主規制)・インパクト!!」
唸りを上げた彼の(自主規制)が、裏美女達の(自主規制)に次々と(自主規制)し、(自主規制)が(自主規制)で、そりゃもう阿鼻叫喚の大騒ぎだ!
「ならば自分も援護しよう! 食らうがいい! エーテ●イト・グランド!」
ジャパンの布団に似せて造った擬似布団を次々と運び込み、裏美女達の足元へと放り投げる葉。ブラック●レルのレプリカは言葉の響きから容易にシモネタになりそうなので今回は自粛だ!
ケンイチは、チャームで裏美女を魅了しようと試みたが‥‥。
「まあ、あそこにもいいオトコが‥‥」
「あら‥‥つまみ食いしちゃおうかしら‥‥」
「というか、つまんで欲しいわ‥‥」
チャームをかけていない相手からも、何故か熱い視線を注がれたりして‥‥。
「えーと‥‥」
冷や汗を流しつつ、くるりと後ろを向いた。
「ああん待ってぇ〜v」
「遠慮しますっ!!」
‥‥チャームは逆効果だったようだ。
「けん、あんど、まいく、いず、ふれんず」
よしおは‥‥指の間に挟んだ梅干を、倒れた裏美女達の鼻に押し込んでいる。妙に手馴れた手つきだった。
「ふはははは! というわけで大勝利なのである!」
あちこちに倒れた裏美女達を前に、大威張りでVサインを決めるヤングヴラド。もちろんまだ全裸だ。とりあえずピーチは守り通したが、全身至る所にキスマークが付いていた。
「‥‥疲れました」
「ああ、心身共にな」
背中合わせで座り込んだケンイチと葉も、衣服がかなり乱れ、キスマークだらけだ。激しい戦闘の証である。
「‥‥」
ベッドの中には、真っ白に燃え尽きたアルト。悲しい犠牲者だ。
「不憫な‥‥」
全裸のレオンロートが、そっと目を反らしていた。
そうかと思うと、
「ふふ‥‥我ながら良い仕事をしました」
「そうね、意外にまあ、良かったかな」
程よい疲労を感じつつ、髪の毛をかきあげるユエリーと、微笑むトア。彼らの背後には、天国でも見たかのような至福の表情で果てた裏美女達が山と積まれていた。この2人に関しては、かなり良い仕事をしたようだ。
「‥‥」
傍らでは、よしおが民家の壁に『いっけんらくちゃく』と書いている。実はまともな漢字を殆ど知らないというのはここだけの秘密である。
‥‥そんなこんなで、裏美女達はこの後、出没する事はなくなったという。上には上がいるという事で、大人しくなったのかもしれない。
ちなみに‥‥ヤングヴラドが用意したベッドやら敷物などの費用、葉の布団の費用など、必要経費は全て彼ら個人の報酬から引かれた事は言うまでもない。葉は描いた絵を売ろうと考えていたようだが‥‥ちょっと題材が特殊だったためか、さっぱり売れなかったそうな。
■ END ■