クッポーと弓矢材料集めをリベンジ!
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月15日〜11月20日
リプレイ公開日:2009年11月21日
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●オープニング
螺旋状の角を二本持つ、黒色の馬。
それが、バイコーンと呼ばれるその存在の外見だった。
ユニコーンの亜種であると同時に、悪魔に魅入られたその姿は本来の一角獣とは正反対のもの。
ただ、やはり共通点は多い。
例えば、乙女に執着する点や、極めて高い運動能力を有している点。
そして、聡明な点。
ただ、バイコーンの場合はその頭脳を悪意へと向ける。
その為、他種族に対しても友好的な素振りは欠片も見せず、寧ろ見下す傾向が見受けられる。
ただ、聡明であると言う事は、同時に己を知っている事でもある。
バイコーンは、自分が万能でない事、自分よりも優れた存在が居る事を知っている。
だから、自分が統治する区域を作る事はあっても、他の区域へ好んで侵略する事はそう多くない。
目的の為の手段として必要な場合、それが可能であるか否かの検討を行い、勝算が高い場合のみ行う。
また、逃走に対しても、それが必要と判断すれば、躊躇なく敢行する。
そう言う意味では、非常に生命力の強い種族と言えるだろう。
先日――――ブルヤールの沼地の奥にある森に生息していたバイコーンもまた、例外ではなかった。
人間。
エルフ。
その混血。
蹂躙すべき存在。
虐げるべき存在。
その悪意には、数的不利など関係なかった。
乙女の存在も確認した事で、更に高揚し、攻撃性が増した。
だが、誤算があった。
想像以上の力。
予想以上の連携。
単身では分が悪いと判断したバイコーンは、角一本を犠牲にし、敗走に徹した。
屈辱。
屈辱。
屈辱。
バイコーンにとって、その角を失う事、その領地を失う事は、屈辱以外の何物でもなかった。
しかし、それは別の方法で充填出来得る事も、バイコーンはまた知っていた。
森を出たバイコーンが行き着く先は、また森の中。
その場所は、周囲の者が『ラフェクレールの森』と呼ぶ森だった。
強い魔力を感じ、吸い寄せられるように訪れたその森の奥には、利用できる環境が幾つもあった。
バイコーンは、自分の残った角をその森の一番大きな木に擦り付ける。
それは儀式だった。
自分を受け入れなかった森の住民を排除した際、その鮮血で汚れた角。
それを拭った瞬間、バイコーンは新たな森の王となった。
ラフェクレールの森が、悪意で満ちる。
このままでは、凶悪なモンスターに支配された魔の森となってしまうだろう。
もし、そんな悪意を打ち消す事が出来るとするならば――――
「クッポーさん、退院おめでとうございます!」
「もう無理しちゃダメですよ〜!」
「弓作り頑張ってねーっ!」
「クックック、謂われるまでもない。次に来る時は格段に進化したアイドル射撃手を魅せる事になる」
――――このような、何故か周囲を和やかにしてしまう、愛と平和に満ちた存在なのかもしれない。
●リプレイ本文
山中の小屋に集いし冒険者の顔ぶれは、前回と全く同じだった。
「クックック。前回はこの俺が不在の中ご苦労だった。今回は――――」
クッポーが腕組みをしながら決意表明をする中、アーシャ・イクティノス(eb6702)は満面の笑顔でそのクッポーにまるごとウサギさんを着せている。
一方、他の冒険者達は早速材料の在り処についての検討を始めていた。
「焦点になるのは、やっぱりあの逃げたバイコーンだよね」
「バイコーンが逃げ込みそうな場所か。ユニコーンと同種らしいから、やっぱり乙女に目がないのか?」
ジャン・シュヴァリエ(eb8302)と桃代龍牙(ec5385)がそれぞれ思案する中、エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)とレオ・シュタイネル(ec5382)は別の材料について確認を始める。
「ビジョンフラワーって、前の時には手付かずだったんだよね☆ どんなモンスターなのかな?」
「んー‥‥そいつが珍しいなら、パストラルに持っていって交渉すんだけどな」
残りの材料は、バイコーンの角1本、ビジョンフラワーの棘10本、そしてホワイトカシミヤ山羊の腸。
バイコーンは居場所がわからなくなってしまい、ビジョンフラワーはまだ遭遇しておらず、山羊は交渉材料が決まっていない。
それぞれの案件に問題を抱える中、ククノチ(ec0828)はインタプリティングリングを嵌め、自身が連れてきたキムンカムイのイワンケと対峙した。
「イワンケ殿は未来予知の魔法が使える。バイコーンの行方を見て貰おうと思うのだが‥‥」
「ククク。中々愛嬌のあるクマだな」
餌になりそうなサイズのウサギさんと化したクッポーが首肯したのを確認し、フォーノリッヂ発動。
指定単語は『バイコーン』と『片角』だ。
結果――――
『‥‥( ・(ェ)・)』
イワンケは巨体を揺さぶり、ククノチの耳に顔を持っていって、コソコソと伝達した。
「イワンケ殿、それは真か?」
『( ・(ェ)・)ノ』
「なんと‥‥これも運命か」
周囲からはわからないが、意外な結果が出たらしい。
「片角のバイコーンが、ビジョンフラワーに囲まれている光景が映ったとの事」
「まさか、ラフェクレールの森に?」
エラテリスの付き添いでやって来ていたレリアンナ・エトリゾーレが、身を乗り出してククノチに問い掛ける。
どうやら、その可能性が高いらしい。
「そうですか。バイコーンはラフェクレールの森に‥‥ふっふっふ」
先程までクッポーで遊んでいたアーシャの目が急に据わる。
前回取り逃がした事を、結構引きずっているのだ。
「アレは私の獲物です! 私に仕留めさせて下さい!」
「その情熱や良し。支援はこのアイドル射撃手に任せるんだな」
「今度は絶対倒してやるんだから!」
クッポーを肩に乗せつつ、アーシャは空に向かって吼えた。
「あんま思い詰めるなよ? 一人で無理に仕留めなくても、皆いるんだから」
「あ、はい。えへへ、頼りにしてます、レオさんも、皆さんも」
頬を掻きつつ高揚を抑えるアーシャに皆が笑む中、レオの肩にベップが手を置かれる。
「おんし、一つ頼まれてくれんか」
「‥‥え?」
それぞれの移動手段でラフェクレールの森へ到着した一行は、早速森の異変に気付き、暫し絶句した。
「なんだか嫌な感じだな‥‥」
龍牙がそう呟く通り、明らかに普通の森とは雰囲気が異なる。
虫の鳴き声が殆どない。
不気味な程の静けさに、同行したレリアンナは思わず瞑目する。
この変化をもたらした存在が何であるか――――冒険者達は断定した。
そうなると、安易な行動は出来ない。
「まずは情報を集めましょう」
「作戦も練らないとな。ビジョンフラワーもいる訳だし」
ジャンと龍牙を中心に、冒険者達はそれぞれの意見を出し合い、準備の確認を始める。
そんな中――――レオは1人、ずっと思案顔のままでいた。
その理由は、移動前にベップから頼まれた事。
『少年がこれ以上無茶をしないよう、上手く制御してやってくれ』
少年とは、クッポーの事だ。
つまり、お守り役を仰せ付かった事になる。
しかし、表立ってそれをすれば拗ねる可能性が高い。
どうすべきか。
その思案に囚われ、レオはずっと沈黙していた。
その間に、話し合いは進む。
結果、囮を使ってバイコーンを誘き出す事となった。
同時に、アーシャが連れて来たユニコーンのマルクルを森に放ち、ライバル心を刺激。
発見時にはアーシャが油断を誘い、エラテリスとククノチが足を払い、転倒を誘う。
そして、後方で隠れていた男性陣が止めを刺す――――そんな手筈となった。
翌日。
男性陣は草木に紛れつつ、交渉に使う動物の事を話していた。
スロリーの調査によると、この森には稀有な動物がいるかもしれない、との事。
アーシャは、ヤマネがいるのでは、と予想していた。
「ヤマネだったら、捕まえるの苦労しそうですよね」
「適当に罠でも張っとくか?」
ジャンがブレスセンサーで周囲を注意深く観察し、龍牙が連れて来たケット・シーのやなぎと妖精のひいらぎに指示を出す。
一方――――女性陣は防寒具等を身に付け、寒風の吹く森の中を探索していた。
「‥‥あれ?」
突然、エラテリスが首を捻る。
ウェザーフォーノリッヂで晴れと出た割に、妙に暗くなっているのがその理由だった。
「も、もしかしてビジョンフラワーさんが闇の幻影を作り出したのかな?! あれ、でも花の匂いはちゃんとするよ?!」
「あー、それはきっと――――」
アーシャが心当たりを話そうとした、その時。
「反応! この前のバイコーンと同じ大きさです!」
遠くにいるジャンの声が、女性陣の耳に届く。
尤も、男性陣と女性陣は30m程度しか離れていない為、女性陣の周囲にその生き物がいる可能性は十分。
現在、3人の視界には入っていない。
しかし、どこかに在る。
宿敵が――――どこかに――――
「!」
余りに、突然。
アーシャの目の前に、何者かが現れる。
まるで、最初からそこにいたかのように。
「くっ!」
残った一本の角を向け飛び込んでくるバイコーンに対し、アーシャは鞘に入れた氷の剣をそのまま突き出す。
角と鞘が接点を持った瞬間――――アーシャの体は後方へと飛ばされ、木に背中から激突した。
「‥‥!」
アーシャの顔が、思わず苦痛で歪む。
当初の予定では、バイコーンと遭遇した際、ワザと苦戦するフリをすると言う作戦を遂行する筈だった。
相手を油断させる為の策だ。
しかし――――その必要はなかった。
実際に苦戦する事になったのだから。
「アーシャ殿!」
「イクティノスさん! だだ大丈夫かな?!」
ククノチとエラテリスが心配の声を上げるが、アーシャは手で無事を伝える。
しかし、頭はまだ混乱の中にあった。
何故、急に現れたのか。
そして今、バイコーンは再び姿を消している。
龍晶球を使うと、宝石はかなり強く輝き出した。
「アーシャン!」
「ジャン君! まだバイコーンは近くにいます!」
そこで、男性陣が合流。
女性のみを孤立させ、バイコーンをおびき寄せると言う作戦は、成功した。
しかし、姿を消すと言う能力は計算外。そこに混乱の原因がある。
「やっぱりバイコーンがいたのか。となると、強い獣は大方そいつにやられたかな‥‥」
ジャンの傍らで、龍牙が嘆息交じりに呟く。
女性の顔立ちで。
「あ、これ? 乙女の気配を増やして誘き出そうと思って」
「まあ、意図がはっきりしているのなら、問題はないと思うが‥‥」
「き、禁断の指輪だね☆」
ククノチとエラテリスが冷や汗を流す中――――突如、上空から雄たけびが聞こえて来た。
「あれは‥‥セライネ殿?」
ククノチが指摘したのは、アーシャが連れて来たムーンドラゴンパピー。
空からの警戒を頼んでいたのだ。
暗くなっていたのは、そのセライネが陽光を遮っていたからだった。
「セライネ‥‥?」
アーシャは上空の幼竜の咆哮の意図がわからず、暫し呆然と上空を眺める。
「何かを、見つけたんじゃ‥‥あ!」
ジャンはセライネの視線を見て、その先を追う。
そこには――――周囲の木々や草花とは明らかに異なる、巨大な植物があった。
「ビジョンフラワーの幻影でバイコーンも見えなくなっているのか」
龍牙の言葉に、ジャンも同意する。
ビジョンフラワーは、自身の姿がない周囲に適応した幻影を生み出し、その幻影によって姿を隠して、獲物を捕獲する性質を持っている。
つまり、この周囲の殆どは、幻影によって支配された空間の可能性がある。
ジャンの目に映ったのは、幻影の外のビジョンフラワーのようだ。
バイコーンは、幻の中から攻撃して来ていた。
「どど、どうしよう?! 作戦変更?!」
エラテリスが叫ぶ。
既に囮作戦は看破されており、動きを止める役割のククノチとエラテリスがそれを遂行するのは、極めて難しい状況だ。
しかし――――敵は待ってはくれない。
「‥‥っ!」
一瞬、殺気を感じたアーシャはその方向に身体を反転。
間一髪、角を剣で防いだ。
守勢ではあるが、この状況で致命打を追わないのは、その類稀な能力と実戦経験故。
だが、楽観出来る状況ではない。
今度は殆ど間髪を入れず、バイコーンが死角からアーシャを襲う――――
「っとと!」
しかし、アーシャとバイコーンが接点を持つ寸前、縄ひょうがその合間を通過。バイコーンは慌てて身を引き、再び消える。
「レオ君、助かりました!」
アーシャはこの場からは見えない、何処かに潜んでいるレオに向けて感謝の言葉を叫んだ。
ただ、徐々に疲労は重なっていく。
その様子を心配そうに見つめつつ、ククノチは手を口に当て、冷静に状況を確認した。
すると、気になる事が1つ――――
「あのバイコーン、アーシャ殿ばかりを狙っている」
「ホントだ! 角折られた恨み、なのかな?」
「だとしたら‥‥」
ククノチとエラテリスは同時に頷き、分かれる。
「そっか。それならやりようはあるかも」
「ひいらぎ、あのな‥‥」
ジャンと龍牙も、その見解を受け、準備を始める。
そんな中。
「‥‥」
アーシャは一人集中していた。
見えない中からの突然の攻撃。それに反応するには、殺気感知に総力を注がなくてはならない。
呼吸を整える。
森の匂いが鼻腔を擽り、葉が風に押され喧騒を生む。
徐々に――――アーシャと森の呼吸が、重なっていく。
そして。
「!」
それまでにない反応で、アーシャはバイコーンの特攻を剣で受け止めた!
バランスを崩していないので、吹き飛ばされる事なく耐える。
すると、ふと――――目の前のバイコーンがアーシャの視界から消えた。
バイコーンの動きが止まった一瞬、ククノチが小太刀の峰で、エラテリスがマトックで脚払いを試みたのだ。
その効果により、バイコーンは一瞬身体を沈ませた。
しかし、その脚力は相当なもの。
バランスを崩しはしたが辛うじて踏み止まる。
が、その一瞬が次の攻撃に繋がった。
「行けっ!」
2人が離れたのを見計らい、ジャンの稲妻がバイコーンの身体を捉える。
「続くよ☆」
更に、間髪入れずエラテリスがマジッククリスタルを使い、サンレーザーで射抜く。
バイコーンの身体が、焦げ臭い煙に包まれた。
「やったか‥‥?」
ククノチが呟く中――――バイコーンは暫く動きを止めるも、再び脚を蹴る!
オーラをまとったその突進に、眼前のアーシャは――――
「えいっ!」
右手に持つ氷の剣で角を受け、左手でシークレットダガーを突き刺した!
「オオオオオオン――――!」
額に短剣を刺されたバイコーンが初めて、大きく嘶く。
その姿はもう消えない。
妖精ひいらぎが、周囲にいるビジョンフラワーをウォールホールによって沈めていた。
バイコーンが現れている間は幻が消える為、その居場所がわかるのだ。
一方、アーシャも流石に片手では衝撃に耐えられず、大きく体勢を崩していた。
「クォオオオオオオオ!」
「負けません――――!」
重傷を負ったバイコーンの最後の抵抗に、アーシャは迷わず剣を薙ぐ。
その一閃は、確実にバイコーンの残りの角を捉えた。
宙を舞う角。
しかし、猛り狂ったバイコーンはオーラを暴発させ――――
「!?」
爆発の寸前。
バイコーンの身体は、アーシャとは全く違う方向へと吹き飛んだ。
『‥‥眠るが良い。デビルに魅せられし、哀れなる者よ』
ユニコーンのマルクルによる不意の一撃によって。
「ふむ。これで全て揃ったな。あと数日で弓も矢も完成するだろう」
翌日。
冒険者達は、全ての材料を揃え、ベップの小屋を訪れていた。
ビジョンフラワーは、ジャンが遠距離魔法で弱らせ、その後ククノチが口に棒を突っ込んで殺傷能力を消し、龍牙がアイスコフィンで凍らせ、ウォールホールで地面から切り離し、セライネやイワンケが運搬。
棘はエラテリスがマトックを使って丁寧に落とし、しっかり10本確保した。
難関の山羊も、森の中で捕まえた白い梟と冬眠中のヤマネ2匹、そしてビジョンフラワーを持って行き、交換に成功。
ヤマネは子供達に大人気とあって、村の新たな名物になると村長はご機嫌だった。
そして夜、冒険者達は腸を取り出した山羊を香草焼きにし、感謝を込めて頂いていた。
「お、そう言えば嬢ちゃん。嬢ちゃんの弓も完成したぞい」
「え、ホント?!」
その席の後、エラテリスは新たな弓を受け取った。
魔弓「ラ・プレーヌ・リュヌ」。
2つの魔弓を組み合わせた結果、全く異なる奇妙な魔力が宿ったらしい。
「それじゃ、お礼をしないと☆」
「礼ならとっくに受けとっとるわ。このような変わった弓を扱う事が、ワシの何よりの楽しみなのでな。プルルル」
奇妙な笑い方でエラテリスの肩を叩くベップは、その傍らにいるレオにも話しかけた。
「ご苦労だったの」
「ん‥‥まあ、怪我が無くて良かった」
今回、レオはクッポーを出来るだけバイコーンから遠ざける為、ある程度離れた場所で共に隠れていた。
弓使いのポジションを正確に教えると言う名目で。
「ククク。弓が完成した暁には、早速狩りを行うとしよう」
「その前に、私の結婚式に来て下さいね」
そのクッポーは、戦闘で乱れた髪をククノチに整えて貰っているアーシャから、まるごとぺがさすに着替えさせられていた。
「きゃ〜、かわいい〜」
「ああっ、動いてはならぬ、アーシャ殿」
「やれやれ」
「あはは、結婚式が楽しみです」
クッポーに抱きつくアーシャを、龍牙は嘆息交じりに、ジャンは楽しそうに眺めていた。
ラフェクレールの森を覆っていた悪意は、冒険者の手によって消え失せた。
この森の長老とも言うべき木はククノチによって清められ、その根元には角を失いし二角獣の亡骸が眠っている。
穢れは消え、残ったのは角二本。
かつて神聖な輝きを放っていたその角は、クッポーの弓となり、これからもこの世にあり続けるだろう。
愛と平和の礎となって。