ハーフエルフの結婚式 〜仲間からの祝福〜

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2009年11月28日

●オープニング

 ハーフエルフが結婚式を挙げる――――その事実をリディエール・アンティロープ(eb5977)が知ったのは、つい先日の事だった。
 式を挙げるのは、新郎新婦共にリディエールの友人。
 出来れば幸せな結婚式を挙げて欲しいと、心から思っていた。
 しかし、それ程甘い世の中ではない事も、リディエールは知っている。
 このノルマン、そしてジ・アースと言う世界がハーフエルフに対してどれだけの悪意を抱いているか。
 ハーフエルフを虐待する事で、自らの優位性を確保し、中身無き優越感に悦を覚える者がどれ程多いか。
 悲しい事に、リディエールは職業柄、嫌と言う程知っている。
 ハーフエルフ同士の結婚式と言うものが、如何に難しいか。
 如何に忌避されるか。
 それは、想像に難くなかった。
 しかし、それでも二人は教会で契りを交わしたいと、はっきり意思表示をした。
 それが何を意味するのか。
 差別への抵抗、社会への反抗――――そう受け取る者も多いだろう。
 けれど、そうではない。
 そうではないのだ。
 2人は、皆と同じように、神に祝福されたいだけ。
 誰からも祝福され、冷やかされ――――そんな幸せに囲まれて結ばれたいだけなのだ。
 その純粋な想いに触れ、リディエールは1つの決意を胸に芽生えさせた。
 仮に――――もし仮に、神からの祝福が得られなかったとしても。
 完全な形でそれを成し得なかったとしても。
 それならば、その分は自分達がより大きな、より多くの祝福を与えれば良いではないか、と。
 例えば、結婚式の後、若しくは結婚式の代わりにパーティーを開く、等と言う方法で。
「‥‥如何でしょうか。お二人の忌憚ない意見をお聞かせ願えれば、と思いまして」
 冒険者酒場『シャンゼリゼ』のテーブル上で左右の手を組みながら、リディエールは眼前に座している二人へ思いの丈を告げた。
 その二人とは、新郎の又従兄弟であり、幼馴染であり、親友でもあるリフィカ・レーヴェンフルス(ec1752)と、新婦の友人であるジャン・シュヴァリエ(eb8302)。
 共に当事者と親しい間柄にある、と言うのが、ここに呼ばれた理由の一つ。
 そして、更にもう一つ――――
「エルフ、人間、ハーフエルフ。それぞれの考えを、どうしても知りたかったのです」
 エルフのリディエールは、人間のリフィカ、ハーフエルフのジャンの目をそれぞれ見つめながら、答えを待つ。
 先に口を開いたのは、ジャンだった、
「良いじゃないですか! 僕は大賛成ですよ。僕たちで沢山祝福しましょうよ!」
 諸手を挙げ、賛同の意を示す。
 勿論、ジャンにとってこの問題は決して他人事ではないし、如何に難しい問題かも身に染みて理解している。
 だからこそ、勤めて明るく答えたのだ。
「私も異存はないよ。親友の晴れ舞台を整える事に携われるのであれば、寧ろ光栄だね」
 リフィカも笑顔で答える。
 リディエールは二人の答えに心からの安堵を覚え、祈るように一礼した。
「ありがとうございます。これで懸念は無くなりました」
 ハーフエルフを積極的に迫害する存在は、実は人間とエルフであると一部で言われている。
 関連性が濃いだけに、余計疎ましいと思うのだろうと言うのが、その見解だ。
 しかし、やはり類は友を呼ぶ。
 新郎新婦の人柄が、そのまま周囲の友を映し出す鏡となっているのだと、リディエールは改めて認識した。
「もし結婚式が出来るなら、パーティーの方は賑やかで弾けた感じにした方が良いですよね?」
「ああ。余り格式に捕らわれない祝い方が望ましいだろう。出来れば、あの堅物を驚かせるような催しも考えたいな」
「賛成です! アーシャンも喜びますよ、きっと」
 初対面のジャンとリフィカは、積極的な話し合いを展開しながら、共に友人を如何に笑顔にするかを考えている。
 その光景だけで、参加者全員が和やかに祝福する、最高のパーティーに出来るという確信がリディエールの中に生まれた。
 そして、話題はそれぞれの新郎新婦との出会いへ発展して行く。
「アーシャ君の姿を初めて見かけた日のセラを、私は今でも覚えていてね」
 リフィカの感慨深げな言葉に、リディエールは何度も頷く。
「それは興味深い話です。私がお二人それぞれとお会いしてからもう何年にもなりますが、中々そう言うお話は聞けないものですから」
「リフィカさんの話の途中で万が一セルシウスさんが止めに入ったら、僕が阻止しますね」
 ジャンがおどけて見せると、他の二人は朗らかに笑う。
 その日、シャンゼリゼの一角は灯りが落ちるまで盛り上がっていた。
 そして――――翌日。
 結婚式が出来る事になった、との吉報が、リディエールの元に届く。
 早速、招待状の作成や内容構成の話し合いが必要となった。
 新郎新婦の友人代表は、この日も東奔西走。
 ハーフエルフの結婚祝賀パーティーは、着実に準備が進められていた。


 ――――沢山の仲間達の純粋な、本当に純粋な想いによって。

●今回の参加者

 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb6340 オルフェ・ラディアス(26歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9726 ウィルシス・ブラックウェル(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec0828 ククノチ(29歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec1752 リフィカ・レーヴェンフルス(47歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)

●サポート参加者

ラテリカ・ラートベル(ea1641

●リプレイ本文

 草原を駆けるアリスティド・メシアン(eb3084)の愛馬ゼルの脚が、徐々にその速度を緩めて行く。
「着いたよ。ここが『あの時』の村だ」
「へえ‥‥お話通り、長閑な所なのですね」
 背後のクリス・ラインハルト(ea2004)の言葉にアリスティドは頷きながら、当時の事――――3年前の依頼を思い返してた。
 この村に、リリと言う少女がいる。
 その少女が3年前、ゴブリンに大事な人形を奪われてしまったのだ。
 そして――――
「ルーを助けてくれたおにいちゃん!」
 質素だったその布の人形は今、鮮やかな赤い布を綺麗に縫い合わせた服をまとい、在るべき場所に飾られてあった。
「リリ‥‥見違えたよ」
 3年間と言う時間を経て、リリは目覚しく成長していた。
 その姿に、アリスティドが暫し目を細める。
「今日は、お願いがあって来たのです」
「覚えているかな? あの時の――――」
 クリスとアリスティドはリリの視線の高さまで屈み、そのお願いについて語った。


「あと3日か‥‥楽しみだな♪」
「ラテリカもパーティに参加したかったのですよー」
 ジャン・シュヴァリエ(eb8302)の隣で生地をこねるラテリカ・ラートベルが、少し切なげに呟く。
 2人は新婦の友人として、準備に尽力していた。
 一方、ロビーではリフィカ・レーヴェンフルス(ec1752)、リディエール・アンティロープ(eb5977)、ククノチ(ec0828)と言った面々が飾り付けを行っている。
 赤や銀のリース、色豊かな花々、熟れた木の実、黄色くなった葉。
 晩秋を感じさせる空間となっていた。
「ただいま戻りました」
 そんな中、ウィルシス・ブラックウェル(eb9726)が厨房にある裏口の扉を開け、手を擦りながら入ってくる。
「買出しの名目で妹との逢瀬を楽しんでいたんじゃないだろうな?」
 リフィカの冗談に、ウィルシスは白い嘆息混じりに首を横に振った。
 その様子に苦笑しながら、ククノチは厨房へと赴く。
「ラテリカ殿。その‥‥後で時間があれば、歌の指導など賜りたいのだが‥‥」
 徐々に形を成していく、祝福の宴
 その日は着実に近付いて来ていた。


 そして――――当日。
 教会から出て来た新郎新婦を、冒険者達は喝采と口笛で迎えた。
 その様子を少し遠目から見ていた礼服姿のアリスティドは、暫し目を細め、想いに浸る。
 ハーフエルフの問題は、アリスティドにも他人事ではなかった。
 祝福を受けられずに苦しむ者達は、決して少なくない。
 自身もまた、かつてその1人だった。
 だからこそ、アリスティドには目の前の光景が眩しく映る。
 新婦は、今まさにブーケを放ろうとしていた。
 それは、苦難を乗り越えた2人の絆が詰まった小さな花束。
 特別な意味を持つそのブーケが、所持者に選んだのは――――クリスだった。
「やりましたです!」
 密かに狙っていたククノチは、少し残念そうにしながらも、クリスに祝いの祈りを贈る。
「くそっ! もう少し早く手を伸ばせていればっ!」
 その一方で、リフィカは本気で悔しがっていた。

 そして、そこからは速やかにパーティー会場の宿屋『ヴィオレ』へと移動。
 その先陣を切って、オルフェ・ラディアス(eb6340)が中に入る。
「随分と豪華に揃えましたねぇ」
 ロビーのテーブルには、ウィルシスと新郎の妹が中心となって作った極上のメニューが所狭しと並んでいた。
 人参とオレンジのサラダ、デーツのピンチョス、帆立貝の白ワイン仕立て。
 ソパ・デ・マリスコスと豆スープ。
 更に、数々のパンとミガス。
 子羊肉の香草焼、豚肉のシェリー風、鶏肉のレモンソース煮と、肉料理も豊富だ。
 デザートも、アーモンドタルト、林檎のコンポート、冒険者風デコレーションチーズケーキ、ティロピタ、アルヴァ、そしてウェディングパンケーキが用意されている。
 パンケーキには白チーズが塗られ、その上にマジパンで作られた薔薇や、新郎新婦を模した人形が乗せられていた。
「えへへ。料理担当の皆さんに感謝ですよ♪」
 オルフェの背後から現れたクリスは、隣のウィルシスを拝むようにしておどけてみせる。
 準備は万全。
 後は、新郎新婦を迎えるだけだ。
「来ました!」
 宿の外で待っていたジャンが高らかな声で伝える。
 その上空――――
 数多のベルを付けたペガサスが4頭、賑やかな音と共に舞っていた。
 祝福の音に包まれる中、シスターを先頭にして、新婦妹、新郎、新婦の順で着地。
 そこにフラワーシャワーが舞い降りる。
 それはまるで、天国のような光景だった。

 そして――――もう1つの結婚式が始まる。

 宴のトップを飾ったのは、意外な人物だった。
「エルディーナです! 新郎新婦のお二人に祝福を! きらーん!」
 ここ1年教の活動で、彼女の存在はパリ全土に知れ渡っていた。
 ただ、中には初めて目撃する者も少なくない。
 その為、誰からともなく、こんな呟きが生まれる。
「あれ、エルディ‥‥」
「エルディンさんは私のイトコです!」
 言い慣れているのか、かなり鋭い被せ具合だった。
「お幸せにー! では次のクッポーさん、宜しくお願いしますね!」
 そして、前の席に座るクッポーをナデナデして、そのまま退席。
 その10分後に新婦の後見人が何食わぬ顔で戻って来たが、言葉をかける者はいなかった。
「アトワイトさん、さっきまで、いとこさんが来ていたのです」
 もとい。
 約1名、純粋な少女がいた。
 そんな中、クッポーはまるごとぺがさすをアレンジした天使の格好で席を立つ。
「きゃー! 可愛いのです!」
 衣装提供のクリスと新婦は大喜びだ。
 一方、当の本人は緊張の極致にあった。
「クッポー殿、余り気負い過ぎないよう‥‥」
 衣装担当のククノチの呼び掛けにカクカク頷き、クッポーは祝辞を述べる。
「クックククククククククク」
 何て言っているか全然わからなかった。
「では、先日完成したばかりの新しい弓で、射撃を披露して貰いましょう!」
 ジャンの進行にクッポーはカキコキと頷き、背中の矢を取る。
 弓は、先日完成した『クッポーの弓』。今回が初お目見えだ。
 そして、その弓で矢を――――
「ああ、思い出した。クッポー君、1年ぶりだね。元気だったか?」
「!?」
 顔見知りである事を思い出したリフィカが突如、声をかける。
 その驚きと当時負った心的外傷が元々の緊張に相乗し、クッポーは矢を射ながら卒倒。
 倒れながら撃った為、本来クス球を割る予定だった光の矢は――――何故か綺麗にクス玉を割った。


 そして、ここからは自由時間。
 当然、主役である新郎新婦の周りに自然と人が集まる。
「アーシャ、ちょっと良いかな?」
 そんな中、まずアリスティドとクリスが新婦を連れ出し、一つのテーブルに腰掛けさせた。
 そこには、質素なハーブティーとハーブワイン、そして小さな布袋が並んでいる。
「飲んでみて下さい」
 クリスに促され、新婦はそれを飲み――――
「この味‥‥え、嘘っ!」
「流石アーシャさん。覚えていたですか」
「察しの通り、リリの村で貰ったあのお土産だよ」
 アリスティドはクスクスと笑いながら、テーブル上にある袋を開く。
「丁度、何か幸運を呼ぶおまじないがないかと探していたんだけど‥‥これに勝てる物は見つからなかったね」
 そこには、アーモンド・ドラジェが入っていた。
 それは、手にした人に幸福が訪れると言う一品。
 そして――――作り手からの言伝。
 アリスティドは一語一句違わず伝える。
『おねえちゃん、おげんきですか。ルーとリリはげんきです。おねえちゃんのおかげです。ごけっこん、おめでとう』
 少しだけ大人びた言葉遣いは、成長の証。
 この地に来て間もない頃に出会った、あの泣き虫の少女を思い出し――――新婦はこの日、初めて涙を流した。


 その後、ステージ上では様々な余興が行われる。
 まずリディエールが水妖ルサールカと共に水芸を披露。
 次にリフィカによる暴露大会。
 先の宣言通り、新郎新婦の初めての出会いの際、堅物の新郎が茹蛸のようになっていたと言う事件を事細かに語っていた。
「あれ以来、寝言で頻繁に『嗚呼、愛しのアーシャさん』と呟いていてね‥‥」
「え〜? セラ、それ本当? ね〜」
「‥‥寝言は本人にはわからない」
 新郎新婦はその暴露話をもイチャイチャの糧にしていた。
 続いて――――
「あれ? こんな人いたかな‥‥」
 ジャンが訝しげに呟く中、笑顔の眩しい女性がステージに上がった。
 女性は幾つかの手品を披露し、最後に大きな布を真上に投げる。
 その布に包まれ――――中からオルフェが現れた。
「ええええええ!?」
 今日一のざわめきが起こる中、親友のリディエールすら目を丸くしている。
 紛れもなく、女装だった。
「あれだけ拒否していたのに‥‥」
「特別な日ですから。特別な事をしたかったんですよ」
 そんなオルフェに、新婦は驚きつつも大喜びで手を叩いていた。

 更に、祝福の唄。
 ジャンが呼び寄せた、恋花の郷の鼓笛隊が演奏を担当。
 それに合わせ、クリス、ククノチ、その他多くの冒険者で合唱する。
『照れてる2人にボク達が キスを見せてと囃し立て♪』
 つまりは、そう言う歌だった。
 アリスティドも、新婦に向けてウインクで促す。
 実は事前に、2人に『出席者全員の前でキスを披露すると、幸運な家庭を築ける』と言うおまじないを吹き込んでいた。
 沢山の者達の後押しを受け、新郎新婦は口付けを繰り返す。
 最初は啄ばむ様に軽く。
 徐々に情熱的に、貪る様に。
 その大胆なシーンを眺める方に集中し、歌は徐々に小さくなっていった。
 それを楽しそうに見ていたアリスティドは、ふと弟子の作ったケーキに視線を送る。
 新郎新婦を模したマジパン人形が、キスをしている光景。
 これも、刷り込み効果を狙った誘導作戦の一環だった。
「度が過ぎたかもしれないな」
 苦笑しながら、アリスティドはそのケーキを一口含む。
 後日、頭でも撫でてやろうか――――そんな味だった。
 

 そして――――それぞれに用意した贈り物を、それぞれに贈る。
 まずジャンが、新婦と良く依頼で一緒になる恋花の郷を代表し、手作りの子猫のミトンを。
「ミリィとハンナが手伝ってくれたんだ。改めて、おめでとう」
「わー、かーわいい! ジャン君ありがと〜」
 次に、リディエールが甘い香りのサシャと、2人の髪の色に合わせたハート型のリースを。
「随分手を掛けてくれたんだな。ありがとう」
「良い匂ーい♪」
 そして、続くククノチは少し神妙な面持ちで、まず新郎に一礼する。
「初めて受けた依頼で御一緒した際、何気ない事に深い感謝をして貰った事を昨日の事のように覚えている。此度はおめでとう」
 ククノチが彼らの種族について深く知ったのは、その少し後になる。
 そこで知り合った、アンジェルと言うハーフエルフの少女。
 2人の結婚を知り、ククノチはその少女を思い出した。
 少女の未来を2人に重ねたかったのかもしれない。
 そして――――新婦が携わる依頼の中で戦地へ赴いた、同じく天使の名を持つ聖獣の事を思い付いた。
 ククノチはその聖獣を探したが――――見つからなかった。
 ただ、1つだけ。
「これが、かのアンジュ殿の羽根と言う保証はないのだが‥‥」
 天使の羽を、とある山奥にいる月竜から譲り受けていた。
「ありがとうございます。私はあの子と親しかったので、断言できます。これは‥‥アンジュの羽根です」
 新婦はその羽根を優しく掌で包み、胸に当てていた。


 その後も、ウェディングダンスや精霊への祈りなど、宴は続く。
 そして――――
「さて。そろそろ始めようか」
 リフィカが突然そう唱えると、新郎の親族が次々立ち上がり、新郎の前に一列に並び出した。
 このパーティーの最後を締める、重要な儀式を行う為だ。
 それは『三家の祝福』。
 ブラックウェル一族の男性が妻を娶る際に行ってきた、祝福の伝統だ。
 新郎が驚きを隠せずにいる中、ウィルシスの兄がその右手の甲に口付ける。
「エルフのエウゼン家より、花婿に祝福を‥‥お幸せにね、セラちゃん☆」
「‥‥有難う、マティア。ブラックウェルの血は繋いでいく。これからも、な」
 次に、左手の平にリフィカが。
「先を越されたのは少々癪だが。幸せにな」
「次はお前が幸せになる番だ‥‥リフィカ。有難う、親友」
 そして、ウィルシスが正面を向いて立つ。
「すまない‥‥お前の結婚式は、親族だけのささやかなものだったと言うのに」
「規模は関係ないよ。それに、僕の時は2度とも来てくれたでしょ。だからセラ、僕は僕に出来る事で今日を飾るよ」
 ウィルシスは新郎の前髪をかき上げ、その額に口付けた。
「さぁ、セラ。『三家の祝福』、残るは最後の締めだ」
 リフィカの言葉に新郎は頷き、新婦の元へ向かう。
 そして、抱擁と共に、今日16回目のキスを2人は交わした。
「アーシャ・エル=エレナ・エルダー姫。セルシウス・エル=ファルコ・エルダーの生涯と愛は、永遠に貴女の物だ」
 エレナ――――『美しい人』の意を持つ言葉。
 リフィカはその名を贈られた新婦を眺め、何度も小さく頷いた。
 周囲から、自然と拍手が起こる。
 賑やかなパーティーは、愛の言葉によって感動の終焉を迎えた。


 多くの参列者が寝静まった頃。
 主催の3人は、テーブルを囲んで、パーティーの余韻に浸っていた。
「ありがとう。一族だけでは、とてもこうは行かなかっただろう」
 改めて頭を下げるリフィカに、ジャンとリディエールは思わずはにかむ。
「僕も嬉しかったです。アーシャンの笑顔が一杯見れたし、それに‥‥」
 何より、ハーフエルフの事を想ってくれている者達がこんなにいる。
 ジャンは、それが本当に嬉しかった。
 一方のリディエールにも、ユーノと言う人間の恋人がいる。
 ハーフエルフの問題は、決して他人事ではなかった。
「ところでリディエールくん、それは?」
 リフィカは別のテーブルに置かれた羊皮紙の束に視線を送る。
「ええ。これは‥‥オルフェさんのもう一つのサプライズです」
 その羊皮紙には、色々なものが描かれていた。
 例えば、祝辞。
『御結婚おめでとう。君達の勇気と行動力は、我々の誇りだ』
『私達も希望を持ってがんばります!』
『おめでと』
『願わくば、これが私達の新たな道のりの第一歩とならん事を』
 これはみな、ハーフエルフが新郎新婦に向けて贈った言葉だ。
 半分くらいはオルフェの字だが、その言葉はハーフエルフ達がくれたもの。
 中には、2人を描いた絵もある。
 オルフェはこの結婚式に向け、ハーフエルフの者達に祝辞を集めて回っていたのだ。
 沢山の祝福は明日、新郎新婦の元に届けられる。
「改めて、お2人は素晴らしい事をしたのだと、そう思います」
 リディエールが静かに微笑む。
 自然と、3人はワイングラスを合わせた。


 ――――ハーフエルフの未来に、乾杯