岐路、或いは帰路 〜れっつ村おこし〜
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■ショートシナリオ
担当:UMA
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月27日〜12月02日
リプレイ公開日:2009年12月02日
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●オープニング
恋花の郷からアンジュの姿がなくなって、2ヶ月近くの時が流れた。
発展を続ける村にあって、その出来事も徐々に過去の出来事となりつつある中、村長の孫ミリィ・レイナは今日も早朝、空をじっと眺めている。
なんとなく、日課になってしまっていた。
しかし、空は今日も青く、そこに浮かぶのは雲ばかり。
尤も、それはそれで健やかな事なので、ミリィは大きく深呼吸をして、笑顔で風を集めていた。
これも一月以上前の話になるのだが――――父と対話した事も、色々と大きな意味を持っていたのだろう。
もう何年も、その時間を待っていた。
それならば、アンジュが帰って来るのを待つ事だって、きっと出来る。
そう思いながら、日々を過ごしていた。
そんな、とある日の事――――
「‥‥現地調査のお願い?」
村長ヨーゼフの元に届いた一通の手紙を読んだミリィは、余り聞きなれないその言葉に暫し首を傾げていた。
しかし、その後に続く言葉で、直ぐに内容を理解する。
手紙には、『この恋花の郷と言う村の噂を聞きつけ、是非資料を作りたいと思った』と言う趣旨の文章が丁寧に記されていた。
「う〜む、どうしたものか」
ヨーゼフは悩んでいた。
以前、ドーラと言う香水師がこの村を買収しようとした事があるのだが、それと似たような趣旨ではないかと言う懸念があったからだ。
調査をして、そこに何か利となる物があれば、改めて買収する――――そんな狙いがあるとすれば、また厄介な問題に発展しかねない。
「宛先は? どこからの要請なの?」
「おっと、それをまず見ないとな」
ヨーゼフは慌てて、宛名に目を通した。
「エリク・フルトヴェングラー。ふむ、誰だったかの」
「‥‥!?」
その名前に、ミリィは目を丸くして手紙を奪い取った。
「すいません‥‥こう言う事は先に正式な文章でしっかり送るべきだと思いまして」
その翌日、エリクは直接村長宅を訪れていた。
ヨーゼフは村の会合の為に家を空けており、ミリィ1人でエリクの話を聞く事となった。
内容は、そう複雑なものではなかった。
騎士である彼は国内外を問わず幾つかの太いパイプがあるのだが、その一つを辿り、とある別国の貴族が使者をよこしてきた。
曰く『ノルマンの最新ガイドブックを作りたいので、有名な観光名所を調べたい』との事。
その使者はフィールドワークと言う現地調査を生業としており、許可が下りれば使者自身が調査に訪れると言う事らしい。
「依頼主は決して怪しい者ではありません。僕の恩師フーゴ・ティファートの親類です」
騎士エリクの恩師であるその人物は、かつて『伝説の冒険者』とまで言われた、かなり有名な人物らしい。
尤も、ミリィはその名前を知らなかったが――――それよりも眼前の男性の言葉である事に、信頼を寄せていた。
「フーゴ様に頼まれて、ノルマンの有名な場所を見繕う事になったのですが、真っ先にここを思いついたもので、不躾な手紙を送ってしまいました」
「そんな。とても丁寧なお手紙、痛み入ります」
テーブルを挟み、互いに礼。
「そのガイドブックに名前が載れば、国内だけでなく国外からの観光客も訪れる事になると思います。ただ、それが必ずしもこの村にとって良い事とは限りません。これまでに何度か、同じようなケースで失敗した街や村を見てきました」
有名になる事。
それは、村おこしにおける最大の目標である事は言うまでもない。
しかしながら、有名になりすぎると言うのは、時として大きな問題を生む。
現在、この恋花の郷が既に『リヴァーレ』を大きく上回る観光客を呼び込むまでになった。
村の規模も大きくなり、牧場や学校も新たに生まれ、宿屋や酒場などの施設も以前とは比較出来ないほど立派になった。
パン学校も完成し、まだ生徒は少ないものの、徐々に新しい世代のパン職人が生まれつつある。
薫り立つ甘い匂いに誘われ、毎日パリから何人もの観光客を乗せた馬車が駆け込んでくる。
牧場の仔馬が大分育ってきたので、もしその子孫が生まれるようなら、パリ以外にも乗合馬車を定期的に運行しようと言う話まで出て来るくらいだ。
夢は膨らむ。
それはまるで、焼きたてのパンのように。
でも、膨らみすぎたパンが失敗であるように、夢も膨らみすぎれば、破綻する。
現在の村の許容範囲を超える観光客が訪れるようになれば、問題も増えていくだろう。
異国の人間に良さを理解してもらえなければ、悪評が国内にまで広がる可能性もある。
難しい決断だ。
「お願いする身ではありますが、良く考えてからお返事を頂きたい」
「‥‥わかりました。良く話し合って、お引き受けするかどうかを決めたいと思います」
ミリィは複雑な表情で、エリクの顔を見つめていた。
その先にある恋花の郷の未来は、まだ見えない――――
◆現在の村のデータ
●村力
978
(現在の村の総合判定値。隣の村の『リヴァーレ』を1000とする)
●村おこし進行状況
・現地調査依頼を受注。現在態度を保留中
・牧場経営中。従業員リズ・フレイユは恋の病で腑抜け中?
・学校の生徒が1人追加。名前はプラム(男)、7歳。
・
・ダンスユニット『フルール・ド・アムール』お仕事募集中
・リヴァーレとの間に1日2度馬車が往復中
・冒険者の家を提供中
・パン職人学校完成。講師はリンダ・カルテッリエリ(カールの師匠、ハンナの母)が担当
●人口
男223人、女164人、計387人。世帯数143。
●位置
パリから50km南
●面積
15平方km
●地目別面積
山林75%、原野12%、牧場8%、宅地3%、畑2%。海には面していない
●リプレイ本文
「ラテリカいっぱい考えたですけれど‥‥今回は見送るが良い思うです」
先陣を切って放たれたラテリカ・ラートベル(ea1641)の言葉が、村長宅の居間に響く。
話し合いは、各代表者と冒険者によって行われていた。
「とても良いお話です。でも、まだ今の段階では早過ぎると思います」
「私も、今はまだその時ではないと思いますわ」
ミカエル・テルセーロ(ea1674)とエレイン・アンフィニー(ec4252)の考えも、ラテリカと一致。
「あ、ボクはうんと、まだいいかなって思うんだけど、ホントはどっちが良いのかなって良くわかってないんだ‥‥あ、あはは☆」
「お姉様‥‥いえ、確かに難しい判断かと」
エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)も、基本は反対だ。
とは言え、レリアンナ・エトリゾーレの隣で小さく笑いながら、場の空気の重さにかなり参っている。
「私も反対」
「子供の教育には余り‥‥」
パン職人リンダ・カルテッリエリと教師マリーも反対を唱えた。
「私は賛成です。このような機会、今後二度とないと思われます」
そんな中、そう提唱したのは――――宿屋の経営者ラグナル。
食事処の経営者マイロンもその意見に賛同する。
一方、牧場従業員のフラドとジョルジュは態度を保留している。
意見は割れた。
「祭りの時と同じように毎日挑めば良いんじゃないか?」
「えと、それは難しい思うのですよー。短期間では出来ても、毎日続くといっぱい疲れるです」
村の疲弊。
それを危惧し、ラテリカは大工フレイの言葉に異を唱えた。
沢山の観光客が訪れれば、問題も増える。
そうなった村と村人は、自然と崩れていく。
ラテリカは、この恋花の郷にそうなって欲しくなかった。
今のまま、誰もが「ただいま」「おかえり」と言える、長閑で心豊かな村でいて欲しかった。
しかし、その押し付けは出来ない。
葛藤に沈むラテリカの頭を、エレインはそっと撫でる。
そんな中――――
「事を急ぐべきではない。この村を大切に思うのなら」
誰も聞いた事のない声が、室内に響く。
周囲が驚きの顔を見せる中、マスターのミルトンはラテリカに合わせていた視線を外し、再び沈黙に戻った。
「だが、断るとなると‥‥先方に角が立つ」
「大丈夫です。代替案は用意しています」
呻くヨーゼフに、ミカエルはにっこり微笑んで、その案を告げた。
それは――――別の観光地の紹介。
この村に変わる場所を紹介すれば、相手にとって不利益とはならないだろう。
「よし。それならば、この話は‥‥」
「待って、おじいちゃん! もう少しだけ考えてから決めて!」
しかし――――ヨーゼフが結論を唱えようとした刹那、突然別室にいたミリィが入って来る。
「お願い‥‥」
「ミリィさん‥‥」
ラテリカは、そのミリィの想いを直ぐに理解した。
断っても、角は立たない。
しかし、それはあくまでも形式上だ。
心証もそうである保証はない。
でも。
いや、だからこそ。
「わかりましたです」
ラテリカは、ミリィに優しく微笑んだ。
ミリィは少し泣きそうな顔をして、そして目を伏せる。
「‥‥ごめんなさい。今のは私の我侭。村の事、考えてなかった」
「いえ。ミリィさんの言う通りです。もう少し考えましょう」
心底済まなそうなミリィの言葉に、ミカエルが首を振る。
「この問題は、僕達だけで決めてしまうのは好ましくないと思います」
ミカエルは意図的に眉尻を上げ、提唱した。
「皆で話し合いましょう」
その翌日、可能な限りの村人に呼びかけ、説明会と会議が行われた。
大人も子供もない。
村人の未来は、村人が。
それだけの事なのだ。
「難しいお話でしたけど、皆さんわかりましたか?」
エレインとミカエルは学校で、この件をわかりやすく子供達に伝える。
「ぼく、わかんない‥‥」
「泣くな新入り。私もサッパリわかんない」
新しく学校に通い始めたプラムに、アンネマリーが笑いかける。
どうやら上手く溶け込んでいるらしく、気にかけていたエレインは安堵した。
「これからも、村人会議を定例化して行ければいいですね」
ミカエルの言葉に、エレインは頷く。
そして、呟いた。
「私、この村の常任教師になりたいと思っています」
「常任‥‥に?」
「はい」
少し驚いて言葉をなぞるミカエルの眼前で、エレインは照れるようにして微笑んだ。
そして――――結論は出た。
「今日もお日様がテカテカだよ☆」
ウェザーフォーノリッヂの結果を見たエラテリスが、気持ち良さそうに伸びをした。
既に先方への挨拶は済ませており、本日は冒険者達が案内をする事になってある。
「おはようございます、エラテリスさん」
「おお! アンフィニーさん、おはようさんだよ☆ そのパン、カールさんから貰ったのかな?」
ユニコーンのフラウに乗ったエレインが、それに合流する。
「はい♪ パリの酒場で良い評判を聞きましたので、それをお伝えしに行きましたら。皆様に宜しくと仰ってましたわ」
仕事が忙しいカールは調査には参加出来ないようだが、その代わりに人数分のパンを焼いてくれたようだ。
「ラテリカさんはヨーゼフさん達のお家に、ミカエルさんは牧場に寄ってから来られるようですわ」
「そっか☆ それじゃ、先に用意しとこっかな?」
エラテリスは笑顔のままに荷物の整理を始める。
そして、その荷物の中にある冒険記「セナールの森」に、ふと目を留めた。
暫し、それを書いた少女の事を思い出す。
「おはようございます。本日はお世話になります」
「‥‥え☆」
その回想が、直ぐ目の前に具現化し――――エラテリスはポカンと口を開けていた。
冬を迎えた恋花牧場に、少女の白い息が咲く。
対照的に、その顔は紅潮していた。
「リズ。大丈夫? 元気がないみたいだけど」
そう言う所に関しては敏感なミカエルは、牧場主との会合を終えた後、その少女に努めて明るく話しかけた。
心配するミカエルに、リズは少し伏せ目がちになってポツリと呟く。
「えっと‥‥恋煩い、かもしれないです」
ミカエルはその答えに驚き、それでも直ぐに「それなら」と前置きして、荷物の中から縁結びの道具を2つ取り出した。
「これ、恋のお守りなんだ。僕には不要だから」
にっこり微笑み、手渡す。
「それで、どんな人? リズの好きになった人って」
リズはそんな眼前の青年を見据え、細々と語り始めた。
「その人は‥‥優しい人です。私みたいなガサツな女にも、いつも気を配ってくれます」
その言葉にミカエルが感心したように頷くと、リズは少しだけ唇を噛んだ。
それは、決意の表明。
「でも、何処か無理をしてるって思う時もあるんです。牧場の事をまとめた本も、この村をおもてなししてくれた時も‥‥」
そして――――今度は、ミカエルが表情を変えた。
暖かな笑みは消え、口を手で塞ぐ。
「無理をして、目立たないように裏に回って‥‥そして、笑うんです。まるで、自分で自分に呆れるみたいに」
楽しいから笑う。
嬉しいから笑う。
それがリズにとっての笑顔。
でも、ミカエルの時折見せる小さな微笑は、そうじゃなかった。
「とても不思議な人。だから、いつもその人の事、考えてます。そうすると‥‥胸が熱くなるんです」
「それは‥‥気の迷いだよ。きっと」
ミカエルは笑った。
悲しさを携えて。
「僕はただ、臆病なだけなんだ。だから‥‥僕みたいな奴の事なんか、気に掛けない方が良い」
「そんな事ないです。臆病なだけなら、冒険者になんてなっていませんよ」
視線を逸らしたミカエルに、リズは叫ぶ。
声は小さい。
でも、叫びだった。
「私は、貴方が好きです。優しくて一生懸命な貴方の本当の笑顔‥‥見たいです」
ミカエルは――――決して目を合わせなかった。
「お久し振りです、ラテリカさん」
「本当お久しぶりなのですよー。お元気でいらしたですか?」
ラテリカが笑顔で手を取るその少女の名は、ララ・ティファート。
以前このノルマンで活動していたフィールドワーカーで、今はエリクの言っていた使者。
半年振りの再会だった。
初対面の2人も挨拶を済ませ、早速出発。
「それじゃ、調査がんばってねー! お仕事の件もお願いしまーすっ!」
ダンスユニットFDAの面々に見送られ、冒険者達は村を出た。
――――村人が出した結論は『否』。
よって、冒険者達は使者であるララを別の観光地に案内する事にした。
その場所は、以前この恋花の郷で行われた収穫祭の際に協力した『ルッテ』と言う街。
エラテリスやレリアンナは現地に足を運んだ事があった。
そのエラテリスは先頭を走りつつ、同行者の中に視線を送る。
「あれ? フレイユさんは来てないのかな?」
「リズさんは不参加との事ですわ。体調が思わしくないのかもしれません」
エレインが告げると、エラテリスは心配そうに眉尻を下げる。
「ボク、レリアンナさんに言われてて、フレイユさんの相談係になってるんだ。調査が終わったら様子を見に行こっかな?」
エレインは頷きつつ、それを勧める。
その会話を――――馬上のミカエルは鎮痛の面持ちで聞いていた。
太陽がまだ高い中、無事ルッテに到着。
そして、郷に入っては郷に従えと言う訳で――――
「凄いです。皆さんもこもこです」
ラテリカはウサギさん、ミカエルはたいがーさん、エレインはおちばさん、エラテリスはユニコーンさんに着替え、ララに拍手されていた。
ルッテ街はまるごとの街。
多くのまるごとを着込んだ人々が行きかっているので、特に冬場は普通の格好の方が浮いている。
そんな格好で、各人は調査とその手伝いを開始した。
「えーと、この先が、まるごとAS武闘大会の会場となってます」
まず、エラテリスの知人のフィロメーラ・シリックに案内を依頼し、全員で武闘会場へ向かう。
「フィロメーラさん、お久し振りです。お元気でしたか?」
「あ、あはは。うん、久し振りです」
ミカエルが話し掛けると、フィロメーラは固まる。
その様子に、ミカエルはフッと溜息を落とした。
普段なら、苦笑する所なのだが――――
「あう‥‥スイマセン」
「あ、違うんです。ちょっと考え事をしていただけで」
若干遠くで人差指をくっ付けて俯くフィロメーラに、ミカエルは心中で自身の頬を張り、笑顔を見せた。
その後は和気藹々と移動。
「うなー」
その途中、白い猫が一匹、エレインの足元にやって来る。
「あら‥‥」
エレインはその猫を抱きかかえ、お気に入りのおちばで包んだ。
その猫には――――翼は生えていなかったけれど。
エレインは暫し、その猫を抱いていた。
そして、闘技場に到着。
「あっちには資料館もあります」
と言うフィロメーラの案内通り、足を運ぶ。
繁栄衰退の後、悪質な傭兵団を追い出して平和を勝ち取った歴史。
まるごとAS武闘大会の成功。
様々な派生イベントや、職人の紹介。
「武闘大会と言っても、ただ戦うだけではないのですね。子供達に沢山の事を伝えていますわ」
命を取らず、敗者を労わる心を養う大会。
何より、観客を、街を楽しませようと言う優しい心。
エレインはそれを感じ取り、ララにその話をしていた。
一方、耳のおっきなウサギラテリカは、ミリィと共に柱の影からエリクをマーク中。
「今です!」
カッと目を見開き、ラテリカが告げると――――ミリィは大きな袋を持ってエリクに駆け寄った。
空腹の頃合を見計らって弁当を差し出し、好感度を上げる作戦だった。
「ありがとう。丁度お腹が空いていたんです」
作戦は成功。
「良かったですよー」
ミリィが照れながらこっそりピースを向けたので、ラテリカはぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
その後、作業の効率化を図る為に分担作業開始。
エレインとミカエルはマリーと共に学校関係の施設を回り、調査を行う事にした。
一方、ラテリカは気を利かせ、ミリィとはお別れ。
お食事処を調査すべく、妖精のクロシュと街を歩き回った。
途中、まるごとレンタル店の品揃えに目を輝かせつつ、食事処を発見。
『まるごと食べる店』
その看板にやや不安めいた物を覚えつつ、入ろうとすると――――
「ふー☆ お腹いっぱいだよ☆」
「鶏さんの丸焼き、凄かったです」
その店から、エラテリスとララが出て来た。
「あ、ラートベルさん☆」
「ここの調査、終わったですか?」
「はい。まるごとさんを着て、丸焼きさんを食べるお店でした」
ラテリカは納得した面持ちで、ララが書いたと言う店内の見取り図を眺める。
まるごとの為に広い間取りにしている様子がはっきりわかった。
「はわ‥‥ご立派なフィールドワーカーさんになられたのですね」
「まだまだです。お師匠さんにはいつも怒られています」
「おししょさま、厳しい方なのですね」
立ち話で盛り上がる2人。
その傍らでラテリカの妖精クロシュと遊んでいたエラテリスは、その場で足踏みを始める。
「ララさん、ラートベルさん、調査の続きに行こうよ☆」
「はい。エラテリスさんは私より調査がお上手なので、助かります」
「え?! そそ、そんな事ないんじゃないかな?!」
ララの言葉に、エラテリスは恥ずかしそうに首を振る。
「ラテリカも、エラテリスさんはこのお仕事に向いてる思うです」
「そうかな?!」
エラテリスは――――密かにフィールドワーカーをやってみようかな、と思っていた。
世界中を走って回り、色々食べて、それを伝える。
天職のような気がしていたのだ。
それを認められ、隠そうとしつつも嬉しさが止まらず――――
「それじゃ、張り切って次のお店を探すよ☆」
また走るのだった。
そして――――調査は無事終了。
「皆さん、この度は本当にありがとうございました」
ララは巨大な白鷲に乗って、去って行った。
お礼にと手渡されたペンをそれぞれ収めつつ、冒険者達も郷へ戻る。
夕日が佇む中、郷はいつものように、優しい空気に包まれていた。
「ただいまなのですよー! 良いお話ありましたです!」
到着を待っていたハンナに、ラテリカが大きく手を振る。
エラテリスとエレインも、それに続いた。
そして――――ミカエルは1人、俯いていた。
ただいま。
おかえり。
そう言える場所を、ミカエルは心底素敵に思っていた。
(だから‥‥夢を見てしまった)
今は、それが眩し過ぎて、直視出来ない。
受け入れられない。
先日、別件で彼の周囲に起こった出来事も、大きく影響していた。
ミカエルは目を逸らすように、荷物の中の人形を取り出し、眺める。
それは、羽の生えた猫――――シムルのアンジュを模した物。
使命を果たす為に旅立ち、今は必死で戦っている事だろう。
「それだけは‥‥見届けないと」
弱々しいその声は、誰の耳に届く事もなく、静かに霧散した。
そして、夕日は沈み――――村は夜を歓迎する。
沢山のものを飲み込んで。
恋花の郷は、明日も。
恋花の郷で在り続ける。