まるごとオールスターズ武闘大会FINAL

■イベントシナリオ


担当:UMA

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:14人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月11日〜12月11日

リプレイ公開日:2009年12月17日

●オープニング

「では、この決定に従い、最後の大会を盛り上げて下さい」
 その使者は最後にそう言い残し、会議室を後にした。
 残された者は皆、一様に俯き、奥歯を噛み締めている。
 余りに残酷な宣告。
 それは――――このルッテと言う街の最大のイベント『まるごとオールスターズ武闘大会』の終了命令だった。


 先日、このルッテに大きな転機が訪れた。
 遠方の村『恋花の郷』の紹介で、国外の有力なガイドブックにその名を連ねる事が決まったのだ。
 当然、観光に尽力するこの街にとっては最大にして最高の好機。
 しかし、それが領主の耳に入ってしまったらしい。
 元々この街は、武器防具の製造に力を注ぐ街だった。
 それは、領主であるヴィルヌーヴと言う元騎士の存在が大きい。
 とても勇ましく、一騎当千との称号を得る程の戦士だった。
 そして同時に、恐ろしいほど自己中心的な人物としても知られており、そんな彼がこの街に武器防具の充実を強制したのだ。
 闘争こそ我が命。
 それを自身の統括する街にも強いた。
 結果、街は経済危機に陥った。
 その危機を救ったのが、『まるごとオールスターズ武闘大会』だった。
 だが――――もしガイドブックに街の名が載れば、国内外から多くの観光客が訪れ、経済状況はより豊かになるだろう。
 それならば、このような滑稽な大会など必要ない。
 領主ヴィルヌーヴは、安直にもそう考えたようだ。
『まるごとオールスターズ武闘大会』は、『ラ・バタイユ・ドゥ・ルッテ』と言う名前に変わり、本格的な武闘大会に移行する。
 祭りは終わり――――と言う事らしい。
「そんなクソ勝手な話、まかり通ってたまるかっ!」
 実行委員が無念の涙に暮れる中、一人の少女が叫ぶ。
 元盗賊、現まるごと推進委員会副会長、ニーナ・ルーベンスだ。
「会長! お前もなんか言ったれ!」
「え、ええ? 私が?」
 そして、元冒険者、現まるごと推進委員会会長フィロメーラ・シリックに話が振られる。
「えええっと、みなさん! 取り敢えず泣かないで下さい!」
「フィロメーラちゃーん! 俺達悔しいよー!」
「きゃーっ! 男いやーっ!」
 男嫌いのフィロメーラは抱きつこうとする実行委員会の男共から逃げ出す。
 そのドタバタも、悲しさを紛らわす為だ。
 領主の命令は絶対。
 こんな事は、誰だって知っている。
 わかっている。
 だから、最後。
 通達によると、1週間後に開催される大会だけは、中止にせず敢行して良いとの事だった。
 それが、最後。
『まるごとオールスターズ武闘大会』、最後の晴れ舞台となる。
 ニーナは、頭を掻きながら机を蹴った。
 すると――――
「あら、荒れているわねえ」
 突然そんな声がして、ニーナは慌てて振り返る。
 声の主はオリビア・エモンド。
 まるごとシリーズを作る職人だ。
 その初老の女性に、ニーナはバツの悪そうな顔で視線を向ける。
「えっと、実はさ‥‥」
「ニーナちゃん。ついにあのまるごとが完成したわよ」
「え? ホント!?」
 伝えるべき事すら忘れ、ニーナは目を輝かせる。
 そして、オリビアと共に仕立て屋に向かう。
「うわ‥‥すご‥‥」
 到着と同時に、ニーナの目は更に輝いた。
 冬の王様、キングスノーを模したまるごと。
 まるごとキングスノーだ。
「普通のまるごとの倍、寒さに耐えられるんだよ。まるごとの王様さ」
 オリビアが満足顔で説明するが、ニーナはそれを聞いているのかいないのか、目の前の真っ白なもこもこを何度も指で突いていた。
「これが、最後の大会の賞品になるんだねえ」
「! ばーちゃん、知ってたのか」
「こう言う噂はね、井戸の周りが一番早く聞こえるんだよ」
 オリビアは頬の皺を深くしながら、そう漏らした。
 そして、嘆く。
「残念だね。この大会がなくなったら、この街からはもう、まるごとは消えるのかねえ」
「‥‥させない」
 オリビアの言葉に、ニーナは力強く拳を握り締める。
「絶対最後にはさせない。クソ領主の度肝抜くような大会にして、終了を撤回させてやる!」
「そのお話、乗ります!」
 そんなニーナの宣言に、何処からともなく現れたフィロメーラが挙手する。
「取り敢えず、私も参戦します。これでも元冒険者ですから!」
「‥‥お前、このまるごと欲しいだけだろ。言っとくけどコレ、優勝賞品だぞ?」
「うふふ。すのーまん。うふふ」
 程よく壊れたフィロメーラを尻目に、ニーナは空を見上げた。
 何処にでも繋がっている空。
 だから、同じ空を見ている誰かに向かって、思いの限り叫んだ。


「まるごとが好きな奴ら! 集まれーーーーーーーーーーーーーっ!」
 
 

●データ

◆武道会場
1.本館
  試合場内は縦10m×横10m。100人ほど動員できる観客席付き。
2.別館
  試合場内は縦12m×横9m。80人ほど動員できる観客席付き。

◆賞品
 優勝    まるごとキングスノー
 準優勝  サーコート3点セット(ダスク・サーコート、ロイヤルナイト・サーコート、メタルサーコート)
 ベスト4  冬の4点セット(ウルの外套、ウルの長靴、スノーマン人形、まるごとすのーまん)
 敢闘賞  聖夜祭セット(ヒイラギのリース、ラッキースター、ホーリーナイトローブorシルクのドレス)

◆試合ルール
・相手を殺す事、観客へ向けて攻撃する事は一切禁止
・必ずまるごとシリーズを着用する事
・ファンサービスも必ず行う事
・己の技量を見せる事にこそ意義があり、相手を敬う心を忘れない事
・審判には逆らわない事
・トーナメント戦で、参加人数は制限なし
・まるごとシリーズは無料レンタル可
・武器、魔法の使用を許可する
・勝敗は場外、気絶、審判の判断、降参によって決定
・消費アイテムの使用は禁止
・場外負けを防止するアイテムの使用は禁止
・怪我は大会終了後に運営委員が回復を行うので、ダメージは残らない
・自己回復は試合後のみ可。他者への回復は敗者に対してのみ可
new!
・職業詐称、性別詐称、ドーピングは禁止
・試合中の変身は1回のみ可

 
◆出場者予定表(現時点)

・きたきつねさん    不詳 女  人間    副会長      Lv.30 スピード型
・すのーまんさん    不詳 女  人間    会長       Lv.04 男ダメ型
・りすさん       不詳 男  人間    アイドル射撃手  Lv.06  射撃手型

◆レンタル可能なまるごとシリーズ一覧

・まるごとあざらしくん
・まるごとウサギさん
・まるごとえんじぇるさん
・まるごとおうまさん
・まるごとオオカミさん
・まるごとおさるさん
・まるごとおばけさん
・まるごときたきつね
・まるごとクマさん
・まるごとぐりふぉんさん
・まるごとこあくま
・まるごとこっこ
・まるごとコマドリ(♂、♀)
・まるごとすくろーる(文字、無地)
・まるごとすのーまん
・まるごとたーとる
・まるごとたいがー
・まるごとだいなそあ
・まるごとたぬきさん
・まるごとトナカイさん
・まるごとどらごん
・まるごととれんと
・まるごとどんきー
・まるごと猫かぶり
・まるごとネズミー
・まるごとはくちょうさん
・まるごとハトさん
・まるごとはにわ
・まるごとふるあーまー
・まるごとぺがさすさん
・まるごとホエール
・まるごとメリーさん
・まるごともーもー
・まるごとどらごんさん
・まるごとらんたん
・まるごとりすさん
・まるごとろうそく
・まるごとわんこ

●今回の参加者

壬護 蒼樹(ea8341)/ 鳳 令明(eb3759)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ ククノチ(ec0828)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ ルネ・クライン(ec4004)/ エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)/ ラムセス・ミンス(ec4491)/ レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)/ リュシエンナ・シュスト(ec5115)/ レオ・シュタイネル(ec5382)/ 桃代 龍牙(ec5385)/ 文月 太一(ec6164

●リプレイ本文

 今回の大会は、事前まで対戦カードを発表しないと言う方式が採用された。
 これにより、事前に相手の下調べをする事は出来なくなり、より純粋な強者が勝ち上がるシステムになったのだ。
「となると、アーシャには有利かもしれませんね」
「実戦経験の少ない俺には不利だなあ‥‥うーん、どうしよう」
 エルディン・アトワイトと文月太一は控え室の前で並び立ち、それぞれ真逆の表情を作っていた。
「ところでエルディーヌさ――――ああっ、つい‥‥ゴメンなさい」
 夏の真っ盛りにあった出来事を思い出しつつ、太一は手を合わせて詫びる。
「エルディンさんは大会に参加するの?」
「いえ。イトコが参加すると言うので、応援に来たのですよ」
「イトコ?」
 太一の反芻に、エルディンは爽やかな微笑みを返した。
「ええ。名前はエルディーナと言います」
「‥‥そ、そっか。それじゃ、お互い頑張ろうね」
「頑張るのはイトコです。では、色々と準備があるので」
 そして爽やか笑顔のまま、エルディンはその場を去った。


 1回戦、第1試合。
 あいどるトナカイさん(エルディーナ) vs しんこんりすさん(アーシャ・エルダー)

「この大会を終わらせない為に、皆! もっと声をちょうだーい!」
 サンタドレスを来たエルディーナがあいどるトナカイさんとなり、ふわふわと宙から現れる。
 その扇動に応え、観客達は早くもヒートアップ。
 季節に即した格好も、その要因となっていた。
「流石はアイドル、客を盛り上げる術に長けています」
 一方、その様子を試合場中心で仁王立ちしながら見つめるりすさんは、観客席以上に燃えていた。
 トナカイさんは一通り愛想を振り撒き終えると、試合場の所定の位置へ向かい、不適に微笑む。
「さて‥‥りすさん、でしたか。新婚ボケしていないか私が試してあげますよ」
「こんなところでは負けていられません。優勝は私のものです!」
 色々と思惑を抱えた2人の闘いで、本大会は幕を開けた――――



 まるごとオールスターズ武闘大会 −FINAL−
 


「‥‥いやー、残念でした。イトコも頑張っていたんですが、やはり狭い闘技場では不利でしたね」
 第1試合目終了後。
 額のコブを擦りながら高らかに笑うエルディンに対し、エラテリス・エトリゾーレは心配そうに視線を送っていた。
「え、えっと、そのコブはどうしたのかな?!」
「転倒してしまったのですよ。つい応援に熱が入ってしまって。どちらも私の近親者でしたからね」
 そんな台詞を、遠くでアーシャが苦笑しながら聞いていた。
「そっか☆ でも凄く盛り上がってたよ☆」
「ええ。私は今後救護隊に加わるので、エラテリス殿も怪我を恐れず戦って下さい」
「頑張るよ☆」 


 1回戦、第2試合。
 はしるかたつむりさん(エラテリス・エトリゾーレ) vs てのりたいがーさん(レリアンナ・エトリゾーレ)

「え、えええええっ?!」
 ローブを上に羽織って優雅に観客へ手を振るたいがーさんに、かたつむりさんは大困惑していた。
 それは、試合場に両者揃った後も変わらない。
 かたつむりさんにとって、たいがーさんはまさに天敵。
 最近は、一緒にいる機会も増え、多少は慣れて来た気がしないでもない状態だったが――――
「とってもお似合いですわ、お姉さま」
「は、ははは‥‥うう‥‥」
 やっぱり苦手なものは苦手だった。
 一方、第三回大会からずっと参戦して来ているたいがーさんにとっても、ここでは負けられない。
 たいがーさんにとって、この大会は可愛らしいまるごとシリーズを堂々と着られる魅惑の場。
 終わらせる訳にはいかないと言う気持ちは、とても強い。
「始め!」
 審判の合図と同時に一礼し、木刀を手に一直線。
 かなり小柄なクレリックであるにも拘らず、やけに堂に入っている。
「わ、わわわっ!」
 そんな直線的な攻撃に対し、かたつむりさんは思わず背中を向ける!
 日頃の苦手意識は、戦場では絶対にしてはいけないその行為を、かたつむりさんにさせてしまった。
 しかし――――
「‥‥っ!」
 背を向けた事で、かたつむりの殻部分がたいがーさんを側面から襲い、ばいーんと直撃。
 そのまま転げて行くが、場外には落ちずギリギリ踏み止まる。
「まだやれますわ」
 場外に向け木刀を掲げ、アピール。
 そんなたいがーさんの真剣な様子に、かたつむりさんは悔いる。
 この場所に日常を持ち込んだ事を。
「う、う、う、うわーーーっ!」
 叫びながら、突進。
 かたつむりあたっくだ!
 たいがーさんは避けようとするも、その迫力に呑まれ――――直撃。
 場外へと飛ばされた。
「あ、あ‥‥ぼ、ボク‥‥」
 自分の攻撃に狼狽えるかたつむりさんに、たいがーさんは場外から頭を抱えつつ、笑う。
「やりますわね、お姉さま」
 勝負、あり。


 そんな女の子達の闘いを見ながら、リュシエンナ・シュストは真剣な顔でお茶菓子をモグモグ食べていた。
 闘いに糖分は必須!
 その為には、兄の荷物から一つ二つ甘味が消えるくらい、仕方ない事なのだ。
「リュリュ、もうパフォーマンス決めた?」
 そんなリュシエンナに、親友のルネ・クラインが話しかける。
「ううん。まだ‥‥」
「私も。どうしよう」
「んー。あ、そうだ! ルネさん、兄様とお揃いでこれを使って‥‥」
 リュシエンナは荷物から旗を取り出し、ルネに手渡した。


 1回戦、第3試合。
 れいんぼーユニコーンさん(リュシエンナ・シュスト) vs ほくほくりすさん(ルネ・クライン)

 ほくほく顔で、婚約者のラルフェン・シュストと共に聖十字の旗で旗舞を見せるりすさんを、ユニコーンさんは複雑な表情で眺めていた。
 まさか、親友と1回戦で当たるとは――――
「これが運命なのね‥‥」
 レインボーリボンでラッキースターを首に下げつつ、嘆く。
 そして。
「始め!」
 試合開始と同時に、りすさんが宙を舞う。
「リュリュ、ゴメンね‥‥でも、皆の夢と希望を守る為に精一杯戦いましょう!」
 そして、もっふりのりす尻尾でもふもふとユニコーンさんを攻撃。
(こ、これは‥‥!)
 ユニコーンさんは目を白くして驚愕の表情を作る。
 全く痛くない。
 さりとて、らぶりぃ。
 戦意喪失シソウナホドニ。
「ま、負けてられない!」
 ユニコーンさんも応戦。
 投げても戻ってくるブーメラン効果を付随した十字架で直撃こそさせないが威嚇し、ふわふわ舞うユニコーンさんを少しずつ外側へと誘導する。
 後は、最後にダーツを投げ、りすさんをポトリと場外に落とすのみ。
「ルネさん、許して‥‥でも仕方ないのっ!」
 そして、最後の一投を――――施行しようとした刹那、観客席で異様に鋭い目で睨んでいた兄の姿が視界に飛び込んで来た!
(あ、あれは‥‥『ルネを苛めたらどうなるかわかっているな?』って言うメッセージ!)
 リュシエンナはポトリとダーツを落とし、ユニコーンアタックを実行。
「とーっ!」
 ルネの真下、場外に向けて。
「わーん、かわされちゃったーっ!」
 勝負あり。
 一応、観客席からは『トドメ』を刺しに行った所を上手くいなされた――――ように見えたらしい。
 逆転劇に大いに沸く。
「?」
 尤も、りすさんは良くわかっていなかった。


「‥‥全く。あれ程盗み食いするなと何度も言っているだろう」
「食べてないもーん!」
 試合後、控え室ではリュシエンナの泣き声が響いていた。
 兄ラルフェンの睨みは、リュシエンナの予想とは全く違い、茶菓子泥棒への糾弾だったらしい。
「ラルフェン、もう許してあげて」
「ルネ‥‥しかし俺は、こんな詰まらん事で嘘吐く卑怯者にしたくは――――」
「きゃーっ! 男いやーっ!」
 ラルフェンが説教する中、控え室に悲鳴が響き渡る。
 次のカードが発表されたようだ。
「男嫌いのフィロメーラさんがいきなり男と当たったらしいぜ」
「ああ、あのラルフェンって人か。体もガッチリしてて怖そうだし、こりゃ不戦敗だな」
 そんなスタッフの声が、3人の耳にも届いてきた。
「フィロメーラさん、そろそろ男性に慣れないと。女の子より弱い男だっていますよ、ほらあっちに、ほら」
「いやーっ! 手を振り回して威嚇してるーっ!」
 アーシャ達のフォローも効果がない様子。
「フィロメーラさん、可哀想‥‥」
「それは俺と当たった事がか?」
「ち、違うってば! 大変だなーって思って」
 冷や汗を流しつつ上手に話を逸らしたリュシエンナに、ラルフェンは思わず嘆息する。
 ちなみに、3人は以前この街の収穫祭の際に一度フィロメーラを見かけた事があった。
 その時も露見していた、筋金入りの男嫌い。
「兄様、ここは一つ‥‥」
 そこで、リュシエンナは思いやりに溢れる提案をした。


 1回戦、第4試合。
 なきむしすのーまんさん(フィロメーラ・シリック) vs ぎらぎらオオカミさん(ラルフェン・シュスト)

「えー、すのーまんさんは逃げたので、オオカミさんの不戦勝とします」
 審判がそう告げる中、女性化したラルフェンは頭を抱えながら勝ち名乗りを受けていた。
「あれー‥‥? 禁断の指輪でも兄様の男性フェロモンは残っちゃった‥‥とか?」
 観客席でリュシエンナが苦笑する中、隣のルネは女性化したラルフェンの胸をじーっと凝視し、やがて首を折った。
「‥‥完敗だわ」
「ル、ルネさん?」
 暫くの間、傷は癒えなかったとか。


 1回戦、第5試合。
 ぽんぽこたぬきさん(文月太一) vs みにちゅあわんこさん(鳳令明)

 大きなホワイトハットと長靴を身に着けたわんこさんが、ケットシーの妃古壱さんと共に登場すると、観客は大きく盛り上がる。
 常連同士の一戦がいきなり一回戦で実現したからだ。
 わんこさんが試合場にあがると、そこには既に一つの施錠された箱が置いてあった。
 そして――――
『1、2、3!』
 重なった声の合図と共に、わんこさんのホワイトハットからは猫が、箱からはたぬきさんが登場!
 共に大掛かりな手品を披露したのは全くの偶然だったが、上手く融合し、観客はその息の合った演出に拍手喝采を送った。
「始め!」
 そんな大声援の中、試合開始。
 かなりの体格差がある中、たぬきさんは静観して機を待つ。
 一方、わんこさんは拳を握り突貫。
「わんこぐるぐるぱ〜んちにょ〜!」
 しかし――――激突の瞬間、たぬきさんが微塵隠れで爆発を起こす!
「にょにょ!?」
 巻き込まれたシフールわんこさんが吹き飛ぶ中、たぬきさんは空中に移動し、とどめのスタンアタックを狙う!
「貰ったーーー‥‥わああっ!?」
 だが、爆風で吹き飛んだ勢いを更に加速させ、わんこさんはとてつもない速度で飛び込んで来る!
「ひっさつ! たましいにょ猪突拳にょ〜!」
 たぬきさんのお腹を貫く勢いで飛び込んだわんこさんの体当たりは、シフールの小さい身体をものともしない威力で、たぬきさんを場外まで吹き飛ばした。
 勝負あり。
「うう‥‥最後の狸道、一花咲かせたかったのに‥‥」
「うわーん!」
 無念の表情で場外に倒れるたぬきさんに、観客席で見ていた子供達が悲鳴を上げる。
 過去の大会でファンになった子達だ。
「たぬきさーん、死んじゃやだー! わ、わわっ!」
 その思い入れの深さからか、勢い余って観客席から落ちそうになる。
 しかし、一頭の天馬がその子供を空中で受け止め、どうにか転落を阻止した。
 太一のペガサス、雪花だ。
「ほっ‥‥」
 太一は安堵しつつ、その子供達に向けて手を振った。


 1回戦、第6試合――――
「‥‥これも運命か」
 黄金熊イワンケの肩にちょこんと乗ったくまさんが、ネコ耳をパタパタ揺らす。
 その視線の先には、試合場で待つりすさんの姿があった。
 その正体は公表されていないが、その正体は明らか。
 複雑な表情でイワンケの肩から降りると同時に、くまさんはその毛皮を脱ぎ捨て、わんこさんへと姿を変えた。


 しとやかわんこさん(ククノチ) vs ゆみひくりすさん(匿名希望)

「始め!」
「ククノチー‥‥じゃないわんこさーん! 頑張れーっ!」
 試合開始と同時に、観客席からレオ・シュタイネルの声が響き渡る。
 わんこさんはコクリと頷き、りすさんの一手を待った。
 りすさんの手には、先日完成したばかりの弓。
 放たれる矢は、光を放ち飛ぶ『C』状の先端をした矢。
「ククク‥‥驚き魂消るがいい」
 そんな言葉と同時に、りすさんは弦を離す!
 矢は――――避けたと思われたわんこさんの右肩に引っかかった。
「しまった‥‥!」
 わんこさんがバランスを崩し後ろへと倒れる。
 そこに、りすさんが追撃!
「嘘だろ‥‥わんこさん、避けろーっ!」
 これまでとは違うりすさんの戦いぶりに、会場がどよめく。
 そして、大勢の期待を乗せて放たれたとどめの矢は――――わんこさんに掠りもせず、場外で待っていたイワンケへと飛んでいった!
「( ・(ェ)・)?」
 しかし矢は、イワンケの振り下ろされた腕で簡単に弾かれる!
「くまさんすげー!」
 子供達は大喜び。
 尚、試合場ではわんこさんが素早く体勢を立て直し、足払いでりすさんを場外へ落としていた。


「うわーん!」
「泣くな泣くな。今までで一番立派だったぞ」
 りすさんを慰めつつ、レオは戦闘モードへ移行する。
 ずっと優勝を狙い、一歩及ばなかったこの大会を制する為に。


 1回戦、第7試合。
 ほうろうすふぃんくすさん(ラムセス・ミンス) vs れおんとさん(レオ・シュタイネル)

 一方、一足先に試合場で待っていたすふぃんくすさんは、れおんとさんに向けて水晶玉を翳した。
 対戦相手を占うと言う、すふぃんくすさんならではのパフォーマンスだ。
 すると――――
「‥‥気を強く持つ事デス」
「うわ、すげー気になる事言われた! えっ、占ったの何だよ! まさか恋愛‥‥」
「始め!」
 唐突に試合は始まる。
 無論、れおんとさんは集中力を欠いていた。
 一方、すふぃんくすさんはマイペースに鞭をしならせ、的確にダメージを与える。
 更に――――
「すふぃんくすさんしゃんしゃいん〜!」
「くっ!」
 微妙に噛みつつ発した魔法『ライト』による目くらましで、れおんとさんは視界も奪われる!
 完全に主導権を握ったすふぃんくすさんは、とどめのサンレーザーを放出――――
「ま‥‥負けるかあああああっ!」
 する刹那、れおんとさんの全力体当たりがすふぃんくすさんに迫る!
 視覚を奪われた事で、玉砕しか方法がなくなったのだ!
「勝負デス!」
 すふぃんくすさんもそのまま魔法を行使。
 衝突――――
「うわあああああっ!」
 サンレーザーの直撃で、れおんとさんが燃える。
 しかし、同時にすふぃんくすさんは吹き飛び、場外へ押し出された。
「無念デス〜」
「ふぅ‥‥」
 れおんとさんは全身に火傷を負いながら、どうにか勝ち進んだ。


 1回戦、第8試合。
 ほわいとたいがーさん(壬護蒼樹) vs ぽかぽかメリーさん(桃代龍牙)

 初登場同士の顔合わせに、観客は息を呑んでその動向を見守る。
 そんな中、メリーさんは観客席でお手製のスープを振舞っていた。
 価格はかなり低く設定し、全部売れて材料費等の費用と丁度トントン。
 そのスープの最後の一杯を売った所で、ケット・シーのやなぎと妖精のしゅろを両サイドに配し、歓喜のポーズ。
「祝! 完売!」
 歓声と拍手が沸く中、客の1人が試合場を指差す。
「メリーさん、試合に出なくていいの?」
「あ、すっかり忘れてたな。やなぎ、しゅろ、後片付けを頼む」
 ケット・シーと妖精が頷く中、メリーさんは急いで試合へ向かう。
 一方、試合場ではたいがーさんが大太刀で迫力ある剣舞を披露していた。
「強そうだー!」
「しろとらさーん、がんばれー!」
 まるごとシリーズを着込んで応援する子供達に照れながら応え、たいがーさんは到着したメリーさんを見据える。
 メリーさんも相当大きな身体なのだが、たいがーさんはジャイアント故に遥かに大きい。
 パワー勝負では有利と判断した。
「始め!」
 たいがーさんが合図と同時に床を蹴る。
 戦闘力では劣るメリーさんはアイスコフィンでそれを迎え撃つが――――その僅か前にたいがーさんははレジストマジックを唱えていた。
「うわっ、もう万策尽きた」
 筋肉隆々の巨体たいがーさんの突進。
 それに対し、メリーさんは――――
「‥‥ま、いっか」
 敢えて正面から抱擁で受け止めた!
 本来なら避けよう、あるいは降参しようと言う場面だったが、本能が勝ってしまった。
 体当たりを食らった格好になったものの、メリーさんは何処か幸せそうに吹っ飛んでいく。
 それとは対照的に、メリーさんの羊毛が破れて行く様を、たいがーさんは罪悪感タップリの顔で追っていた。
「闘いは‥‥非情です」
 どちらが勝者か良くわからない幕引きで、1回戦が終了した。


 2回戦開始直前。
 特別席で観戦していた領主ヴィルヌーヴが突如、席を立つ。
 食い下がろうとする実行委員を側近にあしらわせ、自らは会場を出ようと試合場に背を向けた。
 そして、廊下に出たその時――――
「どうなされました? 領主殿」
 その通路の壁にもたれながら、エルディンが声を掛ける。
 その後ろにも、退路を塞ぐようにして、巨漢のラムセスや龍牙、太一が控えていた。
「どうもこうもない。俺は帰る。そこを退け」
「もう少し見て行って欲しいデス。盛り上がるのはこれからデス〜」
「何なら、熱いスープでも作ろうか?」
 ラムセスと龍牙の訴えに、ヴィルヌーヴは嘲笑を浮かべ唾棄した。
「負け犬共が群れおって‥‥」
「犬じゃなくてたぬきだけどね」
 太一が小さくそのお腹を叩く。
 軽い口調とは裏腹に、その表情は真剣そのものだ。
「私達は別に貴方をどうこうする気はありませんよ。ただ、折角お越し頂いたのですから、最後まで見て行って欲しいと言うだけです」
「‥‥貴様」
 ヴィルヌーヴがその目を鋭くするのと同時に――――試合場から大きな歓声が上がった。


 2回戦、第1試合。
 はしるかたつむりさん(エラテリス・エトリゾーレ) vs しんこんりすさん(アーシャ・イクティノス)

 既に戦いは佳境を迎えていた。
 走り回りながら、時折手首や脚を狙うかたつむりさんを、りすさんがソニックブームで追撃する展開が続いた中、かたつむりさんの殻が破れてしまった。
「こうなったら、最後の攻撃☆」
 かたつむりさんは、頭の上からにょーんと伸びた目の高さに手をかざし、サンレーザーを発射した!
「必殺! かたつむり目から光線☆」
 ピカーッと光ったその目から、集中した太陽の光が放たれる!
 しかし、りすさんは氷の剣でそれを防いだ。
 そして、間髪居れずに突進――――
「わわっ、まいったよ☆」
 しかし、万策尽きたかたつむりさんが降参の意を示した瞬間、振り下ろされた剣はピタリと止まった。
 勝負あり。


 2回戦、第2試合。
 みにちゅあわんこさん(鳳令明) vs ほわいとたいがーさん(壬護蒼樹)

 圧倒的なパワーを誇るたいがーさんと、高い機動力を有するわんこさん。
 噛み合わないと思われた勝負は、観客の想像以上に長引いた。
 たいがーさんの大錫杖による猛打が一つでも当たれば試合は終わる。
 しかしわんこさんは、そんな緊迫感の中でも構わずに幾度と無く接近を試み、その巨体へ拳を叩き込む。
 全て体重を乗せているので、小さいながらに威力は高い。
「にょにょにょ〜!」
「うっ!」
 そんなわんこさんの会心の一撃が、たいがーさんの手首を捉える!
 落ちる大錫杖。
「とどめにょ〜!」
 飛び込むわんこさん。
 一方、自身の顔面へ高速で飛び込んでくるシフールに、たいがーさんは開いた両手で左右から襲撃した!
 真剣白羽取りの応用。
 2つの掌は確実にわんこさんを捉えた!
 バチン! と言う音と共に、決着――――
「にょ‥‥にょ‥‥」
 だが、その掌をわんこさんは両手両足を使い、再び抉じ開ける!
「にょ〜!」
「なっ‥‥!」
 そしてそのままの勢いで、たいがーさんの額に猪突拳が炸裂!
 そのまま、たいがーさんは後ろへと倒れた。
「勝負あり!」
 審判の声に、観客席は興奮の坩堝と化した。


 2回戦、第3試合。
 ぎらぎらオオカミさん(ラルフェン・シュスト) vs ほくほくりすさん(ルネ・クライン)

 運命の悪戯は、愛し合う2人を同じ戦場へ立たせる。
 対峙する2人は共に目を伏せていた。
「でも、この大会を守る為‥‥!」
 先に頭を上げたりすさんは、複雑な顔で扇を構える。
 と言うか、それ以上に先程の女体化したりすさんのグラマラスなばでぃーに大嫉妬していたり。
「例え‥で負けても、この勝負では負けないわ!」
 一部音声が極めて小さいのは仕様です。
 しかし、そんな宣戦布告にもオオカミさんは動かない。
 2人の関係を知らない観客からは、次第にどよめきが起こって来た。
 そんな喧騒の中――――
「俺は、君の全てが好きだ。在りのままを愛している」
 しっかりと目の前のりすさんに聞こえる声で、オオカミさんは愛を囁いた。
「う‥‥」
 りすさんは中傷を負った!
「でも、オオカミさんだって色気のある女性の方が良いんでしょ?」
「そんな事はない。俺が意識する女は君だけだ」
「うう‥‥」
 りすさんは重傷を負った!
「で、でもっ、ラル‥‥オオカミさんだって、胸の大きい女性の方が」
「もし、君がそうだったとしても、今のままでも、何も変わらない。俺の最高の女は、君だけだ」
「はうっ」
 りすさんは瀕死に陥った!
「もし納得できないなら、後で好きなだけもふって良し」
「‥‥完敗だわ」
 1日で2度敗北。
 しかし、りすさんはとっても幸せそうだった。


 2回戦、第4試合。
 れおんとさん(レオ・シュタイネル) vs しとやかわんこさん(ククノチ)

 運命の悪戯は、愛し合う2人をやはり同じ戦場へ立たせる。
 とは言え、愛の形は人それぞれ。
 れおんとさんが明らかに動揺している中、わんこさんは凛然とした瞳でその姿を見据えていた。
「いざ、尋常に勝負」
 そして――――開始と同時に敏捷性を活かして間合いを詰める。
 わんこさんの目は、獲物を狙う野生のそれだった。
「う、うわっ!」
 その目に怯んだれおんとさんが、バランスを崩して倒れる。
 脚を払ったわんこさんは、そのまま仰向けのれおんとさんに向け、小太刀を――――
(信じている、レオ殿)
「!」
 振り下ろした刹那、それが空を切るとわんこさんが理解出来る程、その動きは鋭敏だった。
 何かに覚醒したかのようなその動きに、観戦していた他の参加者も思わず目を見張る。
 れおんとさんは、一瞬の間に数mの間合いを作り――――流れるような所作で矢を放っていた。
 わんこさんが回避する暇も無く、その矢はわんこさんの尻尾を引っ掛け、床に刺さる。
 身動きの取れなくなったわんこさんは、れおんとさんの顔を見て――――
「ありがとう」
 そう告げた。
 勝者、れおんとさん。
 会場の誰もが、それを把握した。


 準決勝は、共に白熱した試合となった。
 れおんとさんとみにちゅあわんこさんの一戦は、スピードスター同士の高速戦。
 りすさんとオオカミさんは、パワーファイター同士の肉弾戦。
 共に噛み合う高レベルの闘いは、会場中を炎上させた。
 そして――――
「決勝戦を始めます!」
 審判の宣言に、その資格を得た2人が対峙する。
 そして、互いに礼。
 ただ闘うだけでなく、礼儀を重んじ、相手を尊重し、子供達に夢を与える大会の最後の対戦は、その精神を忘れる事無く始まった。


 決勝戦
 れおんとさん(レオ・シュタイネル) vs ぎらぎらオオカミさん(ラルフェン・シュスト)

「ラルフェンー! ふぁいとーっ!」
「れ、レオ殿‥‥がんばって」
 それぞれの恋人が最前列で手を振る中、両者ともそれに応える。
 れおんとさんはぶんぶん腕を回して。
 オオカミさんは拳を掲げ。
「兄様、変わったなぁ‥‥」
 そんな様子をリュシエンナがしみじみと見守る中、オオカミさんがマントを翻し、鞭をしならせる。
「シッ!」
 その鞭はれおんとさんの鼻先を掠め、空気を切り裂いた。
 れおんとさんは目を細め、距離をとろうとバックステップを試みる。
「逃がさん!」
 それに対し、オオカミさんは右手に持った巨大クッキーを振り下ろし、ソニックブームを発動。
「あのクッキー、痛いんですよね‥‥」
 観客席からアーシャが頭を摩りながら唸る。
 その視界に映る衝撃波は、れおんとさんを的確に捉えていた。
「くっ‥‥そ!」
 れおんとさんは深手こそ負わなかったものの、消耗を自覚していた。
 自身を叱咤するように、脚を叩く。
 馬力勝負では全く相手にならない。
 スピードしかない。
 そう言い聞かせるように、オオカミさんの周囲を蹴るようにして回る。
「‥‥」
 一方、オオカミさんは虎視眈々と、待っていた。
 れおんとさんが持つ弓。
 その弦が揺れた瞬間が、その時だと。
 会場中が息を呑む。
 れおんとさんは常に動き回りながら、その手に矢を取り――――弓にかけた。
 そのまま動き続ける。
 何時でも撃てる態勢。
 後は、どのタイミングで撃つか。
「‥‥」
 ルネとククノチが、祈る。
 どうか。
 どうか、私の――――
「おおおおおおおおおおお!!!」
 観客のどよめき。
 2人が目を開けると、そこにはれおんとさんの放った矢がクッキーに突き刺さった瞬間が映っていた。
 同時に放たれた衝撃波が、れおんとさんを直撃!
「くふっ‥‥」
 長い長い、まるごとの戦いの歴史が、終わる。
 矢は――――2本放たれていた。
 もう1本は、オオカミさんの尻尾を的確に捉えていた。
 オオカミさんは動けない。
 尻尾に刺さった矢を抜くには、れおんとさんに背を向ける必要がある。
 それは、許されない事。
 れおんとさんも、ダメージで動けない。
 だが、何時牙を向くか。
 レオントさんの目は、生きていた。
「‥‥参った」
 オオカミさんは、嘆息しながら告げる。
 しかし、そこには確かな笑みがあった。
「優勝は、れおんとさんこと、レオ・シュタイネルーーー!」
「か、勝った‥‥?」
 レオが崩れる。
 満身創痍だった。
 ククノチが駆け寄る。
 誰よりも早く。
「レオ殿‥‥おめでとう。強かった」
「はは。でも、立てねえや。カッコ悪いな」
「そんな事は、ない」
 首を振り、ククノチはそっと顔を近付け――――その頬に唇を寄せた。
「‥‥!」
 優勝者への、最高のプレゼント。
 レオは腕を上げ、薬指に光る指輪を誇らしく掲げた。
 会場中から自然と拍手が起こる。
 少しずつ。
 そして、段々強く。
 やがて大きな音となって、包み込み。


 闘いは、終わった――――


「まだ終わりではありません!」
 拍手が鳴り止んだ頃合を見計らって、アーシャが吼える。
 そして、観客席の最上部に向けて剣を突き立てた。
 その先には、領主ヴィルヌーヴの姿がある。
 結局、彼は帰らなかった。
 アーシャはりすさんの姿で空飛ぶ絨毯に乗り、そんなヴィルヌーヴに近付く。
 側近の面々が彼の前に立つが、意にも介さず。
「まるごとを着ても私達は真剣に勝負しています。それをお遊びだというその考え、叩きのめします」
「俺と勝負するとでも?」
 低いその声に、アーシャは頷いた。
「良いだろう。お前が勝てば、大会を存続させても良い。負けたら一生下働きだ」
「望むところです!」
 こうして、アーシャとヴィルヌーヴによる特別試合が急遽決定。
 慌てて用意が始まる中、エラテリスがまるごとユニコーンを来てダンスを披露し、観客を盛り上げる。
「みんな、大会を続ける為にエルダーさんを応援してよ☆」
「皆様、宜しくお願い致しますわ。まるごとは不滅ですわ!」
「可愛さは最強よ♪」
 レリアンナやルネも手伝う。
 更に、蒼樹、太一も登場し、参加者と観客は一体になってアーシャの応援を始めた。
 そしてエルディーナも登場し、祝福の魔法を唱える。
「騎士らしく自分の道を堂々と進みなさい」
「‥‥その姿で真面目な事を言われても」
 と言いつつも、アーシャは嬉しそうに拳を掲げた。
 準決勝、全力で戦う一方、この一戦を想定し、余力は残していた。
 力は漲っている。
「フフフ、嫌われたものだな」
 一方、そんなアーシャに向けられた観客の声に、ヴィルヌーヴは不敵に笑う。
 そして、両者所定の位置についた。
「では‥‥」
 審判の合図に、ラムセスが空へ向けてサンビームを放つ。
 会場は一筋の光を放ち、周囲の者達に視線を集めた。
 鳥も。
 風も。
 精霊も。
 ルッテと言う街全体が、その闘いを見守る。
「始めデス!」
 そして。
 その宣告と同時に――――アーシャはその全ての力を乗せて、剣を振りかざした。




 子供達よ、聞き給え。

 闘争の中には未来がある。

 勝ち取れ。

 吼えよ。

 真剣に。

 命を賭け。

 火花こそ光。

 血の道こそ希望。

 子供達よ――――




 ヴィルヌーヴの得物は、真っ二つとなって宙を舞っていた。
 その間、思い起こしたのは、父の姿。
 自分ではなく、沢山の子供へ向けて演説したその姿。
 ずっと、その背中を追っていた。
 それを何故か、思い出していた。
「フッ‥‥」
 そして、折れた得物を捨て、試合場から出て行く。
「待って下さい。話はまだ――――」
「子供達よ!」
 そして、アーシャの言葉を無視し、ヴィルヌーヴは叫んだ。
 闘争こそ人生。
 そう教わり数十年。
「この大会は、楽しいか!」
 初めて、ヴィルヌーヴは知った。
 このような真剣勝負がある、と言う事を。
「楽しいーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 会場中の子供が叫ぶ。
 ここには、確かに未来があるのだ。
「ならば、来年も見に来るが良い!」
 継続宣言。
 参加者達の全ての闘いが、それを勝ち取った。
 全ての戦いが、敢闘賞に値するものだった。
「しゃあーーーーーっ!」
 優勝者のレオが咆哮する。
 まるごとオールスターズ武闘大会。
 その、最後の優勝者ではなく、第6回目の優勝者が。


 まるごと達の闘いは続いていく。
 それを見る子供達がいる限り――――