クッポー vs アイドル射撃手

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2009年12月29日

●オープニング

 自身の弓矢が出来た事は、クッポーに少なからず大きな自覚を促した。
 それは、自身が射撃手であると言う事。
 であれば――――誰に対して弓を引くか。
 それが重要だ。
 ただ、今のクッポーには『アイドル射撃手』と言うだけでなく、『愛と平和のアイドル射撃手』と言う冠が付いている。
 対象として真っ先に思いつくのは、、その対極にある『悪』。
 つまり、街の者に危害を加えるモンスターやならず共と言った選択肢が当然出てくる。
 だが、クッポーはそう言った類の連中には余り興味が無かった。
 どちらかと言うと、競い合う相手を欲していた。
 自分と競合する存在。
 それこそが、自分の宿敵だと。
 しかし同時に、自分と並び立つ、同じ匂いのする者と言うのも、今まで出会った事は無い。
「クックック、天才とは常に孤高の存在とは良く言ったものだ」
 クッポーはアトラトル街の郊外にある『伝説の樹』に寄りかかり、一人憂いでいた。
 その背には、ようやく自分の身の丈にあった弓が背負われている。
 とは言うものの、これまでと大きく重量が異なる為、中々慣れず、重心のバランスが取れていない。
 樹に寄り掛かっているのはその為だ。
「フッ、自らを天才と称するなど‥‥笑止千万ですねーっ!」
「何者だ!」
 突然の笑い声に、クッポーが鋭いようで子猫の鳴き声のような声で誰何する。
 すると、砂を擦ったような音と共に、クッポーの上部から何者かの影が落ちて来る!
「はうあっ!」
 そのまま地面にベッタンと体全体で着地し、潰れた。
「ぴぎゃーーーっ!」
 そして、大声で泣いた。
(こいつ‥‥出来る)
 クッポーはその一部始終を眺めながら、生まれて何度目かの冷や汗を流した。
 そんな中、潰れた蛙のようになっていたその影が、ムクリと立ち上がる。
 女だった。
 それも結構美少女だった。
 目がパッチリした、可憐な美少女。
 そして、体型は見事にスレンダーだった。
 と言うか、なーんも出てなかった。
 板だった。
「今のは余興ですーっ」
 女は涙ぐみつつ、土埃を払う。
「だろうな‥‥で、何者だ貴様」
「良くぞ聞いてくれましたーっ。私はフローライト・ミカヅキ。先日アイドル射撃手となりましたーっ」
「アイドル射撃手だと‥‥アイドル射撃手だと!?」
 クッポーはかつてない程の大声で、その言葉に敏感に反応した。
「はいーっ。私、インタビュアーとしてとある街で活動していましたがーっ、色々あって町中の皆々様からフクロにされて、命からがらこの街に逃げてきましたーっ」
 何気に凄い事を言っているが、クッポーにはそんな経歴などどうでも良かった。
「それでーっ、この街の観光案内所に『君も明日からアイドル射撃手!』的な張り紙をみて応募したら、受かっちゃいましたーっ。てへっ」
「‥‥」
 クッポーは修羅のような怒りのようで麗らかな真顔を作り、アトラトル街の観光協会へと走って行った。


「いや、だってクッポーさん。最近、全然会議とか参加してくれなかったじゃないですか。でも、興行のスケジュールは詰まってますし。だから我々、もう他のアイドル射撃手探しちゃいましたよ。ええ、それはもう大々的に探しちゃいました。そしてね、見つけましたよ」
 クッポーの訴えに対し、観光協会のスタッフは涙ながらに訴えた。
 彼等とて、これまでクッポーと組んで様々な出来事を体験し、利益も得て来ている。
 ここ数ヶ月のクッポー不在の間も、クッポーへの義理や配慮は多分にあったそうだ。
 とは言え、いつまでも街の顔不在では興行が成り立たない。
 クッポーは、アトラトル街『唯一』のアイドル射撃手と言う地位を剥奪されてしまった。
「あ、でもクッポーさん。今度こう言う企画やるんで、参加してみて下さいよ」
 スタッフが力強く語り、宣伝のビラを手渡す。
 そこには『ノルマン全土が泣いた! アイドル射撃王決定戦』と書かれていた。
「聞いてませんーっ!」
 突然にゅっと湧いて出たフローライトが非難の声を上げる。
「ああ。言ってなかったしね。君達の他にもアイドル射撃手がいる事も言ってなかったよね?」
「はうーっ。レア度ガタ落ちですーっ‥‥」
「いやいや。そこでこのアイドル射撃王決定戦。これで優勝すれば王だよ王」
 つまり、協会が指名したアイドル射撃手達で王座を競えと言う事らしい。
 アイドル射撃手は、クッポーとフローライトの他、2名。
 現時点では計4名と言う事になるが、まだ募集中との事だ。
「募集しないで下さいーっ!?」
 フローライトは絶叫したが、変更は無かった。
 そして、肝心の競技だが――――それはなんと『バトル・ロワイアル方式』。
 胸と背中に直径10cmの的を付け、そのどちらかに矢を当てられた物は脱落、と言う戦いだ。
 ただし、矢先は布で包み、その布に松脂を付けて、的が当たったかどうか確認しやすくする。
 戦場は、この街全体。
 決着が付くまで何日でも行う、サバイバルゲームだ。
「クックック」
 クッポーは笑った。
 いつものように、天使のような声で。
「良いだろう。このクッポーが」
「負けていられませんーっ! 修行ですーっ!」
 大事なところでフローライトの絶叫に遮られるが、クッポーは気にせず続けた。
「‥‥このクッポーが唯一無二のアイドル射撃手である事を証明してくれるわ!」
 そして、聖歌のような高笑いが、寒空の下にこだました――――
 

●今回の参加者

 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec0828 ククノチ(29歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5382 レオ・シュタイネル(25歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)

●サポート参加者

レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988

●リプレイ本文

 わっさわっさと旗が揺れる。
 風雲急を告げる中、アトラトル街で行われる『アイドル射撃王決定戦』の始まりを告げる角笛の音が、今まさに鳴り響こうとしていた。
「クッポー殿、大丈夫だろうか‥‥」
 その様子をククノチ(ec0828)が心配そうに見つめる。
 その傍らには、スノーマンが数体、楽しそうにコロコロしていた。
「クッポー殿の矢は拍手のような音が鳴る。その音が近付いてきたら、速やかに退くよう‥‥」
「(・v・)」
 和やかな彼らに囲まれながらも、ククノチは祈るようにクドネシリカを抱く。
 もし敗退すれば、アトラトル街のアイドル射撃手から大きく格下げしてしまうだろう。
「隣、失礼するよ〜」
 不意に、ククノチの隣に巨大なスノーマンがドスンと現れる。
 スノーマンの王、キングスノーさんだ。
「‥‥レオ殿」
「大丈夫だって。あいつ、成長したから」
 キングスノーさんが気さくにそう言い放つと同時に――――角笛の音色が高らかにアトラトル街に響き渡った。


 数日前――――街の広場。
「クッククククククク」
 クッポーは既に緊張していた!
「クッポー、新しい弓出来たんだって? ちょっと貸してくれよっ」
 そんな様子を尻目に、レオ・シュタイネル(ec5382)はニコニコしながらクッポーから弓を受け取る。
『クッポーの弓』と名付けられたその弓は非常に軽い。
 柔らかい波を描いた弓の胴部は薄いピンク色で、翼を模した両端はデフォルメされたデザインになっている。
「おっ、弦の質が良いな。よく伸びるし弾力もいいぞ」
 レオは感心しつつ、以前貰った矢を上空へ向けて放った。
 矢はパチパチと拍手のような音を鳴らしながら、次第に速度を緩め、落ちてくる。
 すると――――矢の先端の『C』に7色の光の衝撃波が付随しているのが確認出来た。
 これが、『クッポーの弓』の特殊能力。
 先端を衝撃波でコーディネートし、刺さらないようにしつつ、鮮やかな色で周囲を感心させる。
 まさにアイドル射撃手に相応しい弓だ。
「おおっ、すごいな〜」
「無論。この俺の弓なのだからな」
 レオが感心する中、クッポーは何時の間にか硬直が解けていた。
 それもまた、成長の証。
「よし、だったら早速訓練しような。街中のスノーマンに当てないようにしないと」
「良いだろう」
 レオが自身の弓を手にかけた、その時。
「レオ殿、少し待って貰っても良いだろうか」
 黄金熊のイワンケと共にスノーマンへの注意喚起を行いに出ていたククノチが、息を切らせて戻って来た。
「実は、クッポー殿に贈り物を、と」
 そして、抱えていた包み紙をクッポーに渡す。
「ほう。これは‥‥ククク、このクッポーを更なる高みへと推し進めるが如き贈呈品」
 クッポーは中身を確認し、とても嬉しそうにしていた。
「ところでレオ殿、その‥‥レオ殿も『あいどる射撃手』として参加するのだろうか」
「ああ、それは――――」


 時は戻り、現在。
 角笛の音色が響く中、ククノチとキングスノーさんは静かに大会を見守っている。
「あの時‥‥実はほっと、したのだ。出ないと聞いて」
「俺はこう言うのはちょっと、な。俺にとって射撃は食ってく手段で、弓矢は攻撃道具‥‥武器だから」
 レオは、目の前の大会に賛同はしつつも、自分向きの競技ではないと感じていた。
 同時に、アイドル射撃手と言う存在にしても。
 住む世界の違う、全く別の分野。
 それでも――――
「おっ、あの2人もちゃんと出てるみたいだな」
 レオの視界に、アーシャ・イクティノス(eb6702)とエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)の姿が映る。
 この2人もまた、クッポーの為に一肌脱いでいた。


 もう一度時を遡り――――初日。
「あ、あ、悪役?」
「はい。一世一代の大悪党を演じます」
 大会を目前に控え、アーシャはエラテリスに壮大な計画を打ち明けていた。
 まず、自身が悪役となって大会に参加。
 そして、クッポーに敗退する。
 愛と平和のアイドル射撃手となったクッポーを周囲にアピールする為だ。
 悪の存在を打ち倒したとなれば、クッポーは再びアイドル射撃手としての権威を取り戻すだろう。
「わかったよ☆ 協力するよ☆」
「ありがとうございます。では、大方のシナリオをここに書いて来たので、参考にしてみて下さい」
「え、えええ〜?!」
「あら? これは中々‥‥」
 どっさりと積まれた羊皮紙にエラテリスが目を丸くして硬直する中、レリアンナ・エトリゾーレがひょっこり現れ、代わりに熟読を始める。
「大方把握しましたわ。後はわたくしがお姉さまに噛み砕いて伝えておきますので」
「助かります。では私も準備があるので、これで」
 アーシャが愛馬セネイに跨って颯爽と立ち去る中、レリアンナは困り顔のエラテリスに向けて、二度ほど頷いてみせた。
「と言う訳で、お姉さまもアイドル射撃手として出場決定ですわ」
「え?! お手伝いだけじゃないのかな?!」
「心配要りませんわ。わたくしがしっかりとプロデュースして差し上げますから」
「うぅ‥‥」


 ――――と言う訳で、現在。
「ふはははは、平和も愛もすべてを壊してやる〜〜!」
 悪役として、アーシャはセネイを走らせながら、威圧感を前面に出していた。
 メイドドレス「リトルデビル」とレイヴンクラウンで、女性版暗黒騎士を演出。 
 布を顔に巻き、目の部分だけ開け、顔を隠しての出陣だ。
 まずクッポーとフローライト、エラテリス以外の出場者を殲滅が目的。
 既に1人、背後からの射撃で背中の的を射抜き、撃破済だ。
 残る1人も時間の問題――――
「クックック、その目に余る破壊活動、このクッポーが‥‥」
 そんな事を考えていたアーシャ(とセネイ)の前に、突然クッポーが飛び出して来た!
 そして跳ねられた!
「く、クッポーさん!?」
「きゅ〜」
 クッポーは目を回して気絶していたが、大きな怪我は負っていない様子。
 下が雪だったので、ショックが和らいだようだ。
「あ、ちゃんと着てくれてるんですね」
 そんなクッポーの姿を見て、アーシャは思わず苦笑する。
 ククノチが作り、アーシャも意匠に関して協力した上着、帽子、小物入れを全て着用していたのだ。
 帽子には、クッポーの頭文字である『C』のマークが燦然と輝いている。
 そんなクッポーの姿に、周囲から数体のスノーマンが心配そうに近付いて来た。
「なんてメルヘンチックな光景‥‥は〜」 
 その様子にアーシャが癒されていると――――
「!」
 突如、殺気が膨張。
 クッポーを抱えたまま、その場から飛ぶ。
 その一瞬の動作の後、それまで2人がいた雪地に一本の矢が刺さった。
 アーシャは直ぐに体勢を立て直し、弓を構えながら殺気のした上方に視線を送った。
 武器防具屋の屋根の上。
 アーシャの優良視力が、その正体を見極める。
「‥‥え?」
 そこには、山中でクッポーの弓矢作りに協力したスロリーと言う青年の姿があった。
 予想だにしないその参加者に、アーシャは思わず目を擦る。
 やはり、そこにはスロリーの姿があった。
「や、やり難い〜‥‥」
 しかも、ポジションはスロリーが圧倒的に有利。
 だが、アーシャには自信があった。
「行きます!」
 射程100m強の名弓「魔を討つ七色の輝き」を引き、射る。
 それと同時に、スロリーも発射。
 それぞれの矢が、同一線上に重なり――――1本の矢が弾かれる!
「‥‥!」
 射抜かれたのは――――有利な筈のスロリーの額の的だった。
 矢同士の衝突にも拘らず、アーシャの放った矢は一切ブレなかった。
「やりました!」
 グッと拳を握る。
「お見事ですーっ。でも、油断大敵ですよーっ!」
「クックック。昨日の友は今日の敵。悪く思うな」
 しかし。
 その一撃に集中していた為、直ぐ真後ろにフローライトとクッポーの接近を許してしまった!
「貰いましたーっ」
「愛と平和に平伏すが良い!」
 歓喜の中でフローライトとクッポーの放った先端を布と綿で包んだ矢は、アーシャの的――――ではなく、両方とも後頭部に直撃!
「はうっ! 痛ぁ〜」
「しくじりましたーっ!?」
「‥‥!?」
 千載一遇のチャンスを逃した2人が狼狽する中、アーシャは思わず戦闘モードに火を点けてしまう。
「私の身体を傷付ける者、万死に値する〜」
 ゆらりと振り向いたその形相に、フローライトは恐怖の余りの失神。
 クッポーも慄いていた。
「あ、悪だ! あの人、本当の悪の使者だ!」
「大変だ! クッポーさんが殺される!」
 それまで楽しそうに成り行きを見守っていた観客からも、そんな声が上がる。
 周囲のスノーマンも心なしか少し溶けていた。
「恐れる事はない、クッポー少年!」
 そこに颯爽と現れる1人の――――男。
 冒険者学校男子制服に身を包んでいるので、皆そう判断した。
 尤も、エクセレントマスカレードに隠れており、その顔はわからない。
「私はあるかな仮面☆。二つの弓を併せし魔弓を持つ者。クッポー少年、今日の君の運勢は‥‥最高だ!」
 そう唱え、あるかな仮面☆は神秘のタロットを上空に放る。
「張り切ってるなぁ、エラテリス」
「レオ殿、折角名乗っているのだから、そちらで呼んであげるべきでは‥‥」
 キングスノーさんとククノチが和気藹々と見守る中、大会は最終局面を迎えていた。
「クッポー少年よ。悪を滅ぼす為、君に見ず知らずのこの私と協力する度量はあるかな?」
「クックックックック」
 運勢を褒められご機嫌なクッポーは、いつもより多めに笑って首肯した。
「ならば話は早い! 必殺、シューティング☆(スター)!」
 あるかな仮面☆の放った矢は、流星のように光の尾を引き、アーシャへと一直線に向かう。
「これくらい、受け止めてみせます!」
 アーシャは左手のみでそれをキャッチしようと、手を伸ばし、矢を掴む――――
「!?」
 その刹那、矢は強烈な光を放ち、消え失せた!
 アーシャは目を押さえてしゃがみ込む。
「これが魔弓「ラ・プレーヌ・リュヌ」の力!」
 低く抑えた声と共に、あるかな仮面☆は身を低くしてタックルを敢行!
 揉みくちゃになった挙句、見事羽交い絞めにした。
「今だ! 撃て!」
「そ、その弓は、伝説の!?」
 アーシャがクッポーの弓に驚きの声を上げる。
 後は、止めを刺すのみ。
「‥‥」
 しかし、クッポーは撃たない。
「射撃手としての矜持‥‥?」
「いや、恐らく――――」
 キングスノーさんの声に首を振り、ククノチはアーシャ達の後ろを指差す。
 そこには、小さなスノーマンがいた。
「レオ殿の言いつけを守っているのだな」
「全く、大事な時に‥‥」 
 苦笑しながら、レオが嬉しそうに立ち上がる。
 そして、手袋の引っかかった枝のような手を振り、スノーマンに注意喚起を行った。
 スノーマンは驚き、慌てて逃げる。 
 彼等にとって、王の命令は絶対だ。
「よし、今だ!」
 レオが叫ぶ。
 あるかな仮面☆も頷く。
 アーシャもこっそり微笑んだ。
 ククノチは、祈る。
 それぞれの思いを乗せ、クッポーは自身の弓を引いた。

 
 そして――――


「では、優勝したフローライトさんにお話を伺います」
 アイドル射撃王の授与式を、冒険者達とクッポーは遠くから眺めていた。
「惜しかったの。もうちょっとだったものを」
 スロリーの応援に駆けつけていたベップが、クッポーの健闘を称え、肩をぽんぽんと叩く。
 あの時――――クッポーの矢は、アーシャの額の的を見事捉えた。
 重圧の掛かる中で初めて結果を残したその直後、意識を取り戻したフローライトに襲撃されたのだ。
 しかし、クッポーはいつものように泣く事はせず、その現実を受け入れていた。
「本当に成長したのだな。クッポー殿」
 ククノチが目を細め、その様子を見守る。
 一方、割と酷い目にあったアーシャはそれでも満足げに、隣のエラテリスと話していた。
 両者とも、参加賞としてチェリーピアスを受け取り、その手にはククノチお手製の白菜と鶏肉の牛乳煮と蜂蜜入りの温めた牛乳が持たれている。
「エラテリスさん、なりきってましたね〜」
「なな、何の事かな?! ボクは伝説の樹の下で寝てて、気が付いたら‥‥はっ! きっと樹の精霊さんが弓に乗り移って!」
「またまた〜。男装似合ってましたよ、あるかな仮面☆さん」 
「うぅ、違うのに‥‥」
 エラテリスとしては、かなり恥ずかしい事をしてしまったと言う意識があるようで、この一連の事は全て精霊さんの仕業と言う主張を繰り返していた。
 そんな中、フローライトが勝利者スピーチを始める。
「皆さん、聞いてくださいーっ。私この度、クッポーさんとユニットを組む事にしましたーっ」
 そして、クッポーを指差した。
「アイドル射撃王×元祖アイドル射撃手! 最強の組み合わせですーっ!」
 大声で叫びながらクッポーの元に歩み寄り、手を差し出す。
「私とこの街を盛り上げていきましょうーっ」
「ククク、このクッポーが射撃王と並び立つ存在であると言う事、証明してやるとしよう」
 その手が握られ、タッグ成立。
 こうして、ルッテ街に新たなアイドルユニットが誕生した。
 実は――――この結成に到るまで、冒険者達が色々と暗躍していたりする。
 クッポーに女性に好まれそうな香水をこっそり振り掛けたり、さりげなく話を振ってみたり。
 それが実を結んだ格好だ。
「男女の組み合わせはアイドルの定番ですから。うんうん」
 その首謀者であるアーシャはとても満足そうに、小さな2人を眺めていた。
 エラテリスはその横で、魔弓「ラ・プレーヌ・リュヌ」を眺める。
 元々二つだった弓を一つにしてパワーアップさせた弓。
 それと、目の前の光景が綺麗に合わさったような気がして、こちらも満面の笑みを浮かべていた。
 そんな中――――レオは1人、どこか寂しげに佇んでいる。
 長らく面倒を見、時に励まし、時に叱咤し、その成長に暫し目を細めて来た。
 切磋琢磨する相手が見つかった今、その役目は終わりとなる。
 でも、寂しさばかりではない。
「あいつら、これから何をしてくれるのかなぁ」
 弓矢を武器として敵を撃つ狙撃手とは全く違う、別の世界のアイドル射撃手。
 畑は違っても、その活躍に期待せずにはいられない。
 これからは、師匠ではなく――――ライバルとして。
「きっと、私達も想像付かないような、とんでもない事をしでかします」
 アーシャが楽しげに断言する。
「あ、あはは☆ そうかもしれないね☆」
 エラテリスも同調する。
 そしてククノチは、そんな沢山の期待に包まれた2人の未来を、静かに祝福した。
「二人の才能が互いを支え合い、共に繁栄して行く様‥‥」
 そんな声が、聞こえているのかいないのか。
 2人を称える楽しい声が、クリスマスのルッテ街を彩る。
 新しい街の名物の誕生に、街中の人達が駆け寄り、わいわい騒いでいた。
 そして、当の本人のクッポーはと言うと。
「‥‥きゅ〜」
 そんな人達に踏み潰され、雪の中に沈んでいた。


 おしまい♪