おかえり。 〜れっつ村おこし〜

■ショートシナリオ


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月05日〜01月12日

リプレイ公開日:2010年01月13日

●オープニング

 年末。
 年の瀬になると騒がしくなるのは何処も同じで、恋花の郷もまた、聖夜祭に向けての準備が佳境を迎えていた。
 目玉企画となる『恋花スタンプラリー』の準備も終わり、それぞれの施設の前にはスタンプ台や看板がしっかり設置されている。
 パン職人はフル稼働でパンを焼き、大工も最後の詰めに大忙し。
 また、一般の村民達も、それぞれ年越しの準備を始めている。
 そんな中――――
「それでは、我々恋花の郷と‥‥」
「我々リヴァーレの更なる繁栄を願い、乾杯の音頭とする。皆、今日は大いに騒いでくれ!」
 恋花の郷では、リヴァーレの代表者を招待し、合同で慰労会を開いていた。
 提携、すなわち仲良し宣言をして早一年。
 それぞれの村へ馬車が行き来する中、多くの人達が気軽に双方へ行けるようになり、リヴァーレから毎日恋花の郷の学校に通う子供もいるくらい、両方の村は親密な関係を築いていた。
「貴様、私の台詞を取るでないわっ!」
「喧しいな。その程度の事で騒ぐな」
 村長同士も、昔の齟齬など何処吹く風、と言わんばかりに仲良しこよし。
 両村の人々は、共に肩を叩き合い、酒を飲み交わし、楽しい時間を過ごした。
 そして。
「‥‥あいつは本当、親不孝な息子だ」
 酒が入り過ぎたのか。
 普段は決して口にしようとしない息子ロタンの事を、村長ヨーゼフは語り出す。
 それを、孫娘ミリィは複雑な顔で聞いていた。
 彼がこの村を捨てた理由は、既にミリィは聞かされている。
 妻を助けられなかった村に絶望し、出て行ったと。
 しかし、ミリィはもう一つの理由を知っている。
「お父さんは、お母さんを助けられなかった自分を‥‥責めてるのよ」
 だから、その面影のあるミリィの傍に居られなかったのだ。
 それが一番の理由だと、以前湖の畔で少し話をした際、ミリィは感じていた。
「フン。それなら、俺に毎日説教を受ければ良いだけの事なのだ。ボケ息子が‥‥」
 普段と違う一人称。
 ヨーゼフはかなり酔っているようだった。
「ふーん‥‥」
 そんな祖父に、ミリィは少し目を細めて微笑む。
「何だ」
「おじいちゃん、お父さんと暮らしたかったんだ」
「何を言っとるか! あんな浮浪息子に今の生活を崩されてたまるか! あんなヘタレ、俺の息子でもなんでもない! どこぞで野垂れ死にすればいいのだ!」
 口数が多い。
 そう言う時は本心ではないのだと、共に暮らすミリィは知っている。
 リヴァーレ村長パウルの事を話す時も、同じ感じだった。
 だから、笑える。
 もしかしたら、実現するかもしれない、そんな未来を夢見て――――ミリィは笑っていた。


 同時刻――――
「休暇?」
 パリで人気の香水調合師、ドーラ・ティエルの屋敷には数多の部屋がある。
 その中の一室――――休憩室で、ロタンは他の使用人からその話を聞いていた。
 年末年始は、この屋敷に仕える全ての使用人に休暇が言い渡されると言う。
 1人で過ごしたいと言うドーラの意向だった。
「随分と暗い年始を過ごすんだな」
「年始は香水の依頼が多いのだ。だから嗅覚を研ぎ澄ます為、他人を隔離した屋敷で調合を行う必要がある」
「! ドーラ様!」
 使用人は皆、突然の主の登場に身を硬直させる。
 しかし、暴言を吐いたロタンだけは、変わらない表情でドーラに視線を向けた。
「‥‥軽率な発言だった。許して欲しい」
 そして膝を折り、頭を深々と下げる。
 この不敵不敵しくも何処か誇り高い男を、ドーラはとても気に入っていた。
 使用人の間では、そんな二人の仲を勘繰る噂が絶えない。
「いや、許しはしない。お前はクビだ。ロタン」
 それだけに――――そのドーラの言葉はその場に居る全員にとって、かなり意外だった。
「‥‥わかった」
 一方、ロタンも動揺は隠せない。
 それでも、嘆息一つで立て直し、他の使用人達に顔を向ける。
「世話になった」
 そして、一人一人に一礼し――――屋敷を後にした。
 ロタンのそんな様子に、使用人達は何も言えず、ただ呆然と見送るのみ。
「他の者は明日から休暇だ。英気を養い、またこのドーラに力を貸してくれ」
「あ、は、はい!」
 全員が頭を垂れる中、ドーラは踵を返す。
 その背中は、誰の目にも映っていなかったが――――何処か寂しげだった。
 

 労働の場を失ったロタンは、雪の降る夜空を一人彷徨いながら、手に白い息を吹きかけていた。
 慣れない使用人と言う職に就き、幾つも皸を作りながら、これまで懸命に居場所を守ってきた。
 だが、結局守れなかった。
 無理もない。
 愛する者を守れなかった人間が、自分を守れる者か――――そう心中で吐き捨て、歩く。
 妻を失い。
 娘との生活を失い。
 仕事を失い。
 ロタンは、全てを失った。
 そして――――何もかも失くした時、最初に思い浮かんだのは。
「‥‥」
 一晩中歩き、辿り着いた――――恋花の郷、その場所だった。
 




◆現在の村のデータ
 
 ●村力
  920
 (現在の村の総合判定値。隣の村の『リヴァーレ』を1000とする)
 ●村おこし進行状況
 ・リヴァーレと合同で聖夜祭「おかえり、アンジュ」を開始
 ・各施設にスタンプ台が置かれ、「恋花スタンプラリー」を開催中
 ・広場にはアンジュや雪小僧、そして色とりどりの飾り付けが
 ・ダンスユニット『フルール・ド・アムール』、パリの興行大成功!
 ・宿屋『シエル・デ・ラ・ヌア』、聖夜祭用の飾り付け中
 ・酒場『スィランス』、赤ワイン「シャルール」、白ワイン「アヴニール」を蔵出し中
 ・飲食店『アンタンデュ』とパン工房がコラボレーション! ミニパンフェアを開催中
 ・恋花牧場で動物レース「走れ!」を開催中
 ・修道院で毎朝、鼓笛隊が聖歌を披露中
 ・村学の子供達が結成した「お絵描き隊」が活動中
 ・羽猫ショップ「アンジェリカ」で新商品が発売中
 ・馬車屋&軽食&土産店「アリス亭」で「恋花スタンプラリー」の景品を配布中

 ●人口
  男232人、女167人、計399人。世帯数146。
 ●位置
  パリから50km南
 ●面積
  15平方km
 ●地目別面積
  山林75%、原野12%、牧場8%、宅地3%、畑2%。海には面していない

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb8302 ジャン・シュヴァリエ(19歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4252 エレイン・アンフィニー(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988

●リプレイ本文

『解雇!?』
 恋花の郷、酒場『スィランス』に集った4名の冒険者達が、口を揃えて驚きを露にする。
 ロタンをこの村で新年を迎えようと誘う為、香水調合師ドーラの屋敷を訪ねたアーシャ・エルダー、旧姓アーシャ・イクティノス(eb6702)が、直接ドーラからその事実を聞いたのだ。
「そんな‥‥ではロタンさんは今どうなされてるのでしょか」
 ラテリカ・ラートベル(ea1641)がオロオロする中、アーシャは思案顔で首を左右に振る。
「リヴァーレにお住まいとの事だったんで、パリからこちらに向かう途中で寄って来たんですが」
「いなかった、と言う事ですか」
 全員の分の飲み物を運んで来た陰守森写歩朗(eb7208)の言葉に、アーシャはコクリと首肯する。
「どどど、どうしよう?! レイナさん達に教えた方が良いのかな?!」
「お姉さま、落ち着いて下さいませ。それは余り得策ではありませんわ」
 動揺するエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)を、レリアンナ・エトリゾーレが軽く諌める。
 その様子に、アーシャも首を縦に振った。
「私も、レリアンナさんと同意見です。それに、何となくロタンさんはこの村に来るような気がします」
「ラテリカも賛成なのですよー。きっとロタンさんは郷に戻って、ミリィさんに『おかえり』言ってくれるです」
「おお☆ そうなってくれると嬉しいよ〜☆」
 ラテリカとエラテリスがねーっ、と口を揃える。
 とは言え、確証がある訳でもなく。
「今は待つしかない、と言う事ですね」
 森写歩朗の言葉に、全員嘆息するしかなかった。
「折角ですから、アンジュだけじゃなくてロタンさんも帰って来易い様、色々考えてみますね」
「ラテリカも色々やってみるですよ」
 グッと小さい拳を握る隣の席のラテリカを、アーシャがうんうんと頷きながら撫でる。
「それじゃ、ボクは他の皆にこの事をお知らせしてくるよ☆」
 エラテリスは酒場を出て雪原の中を走っていく。
 その足跡は途切れ途切れに、でも確実に繋がって行った。


 恋花の郷にある村校では、今も子供達がお絵描きに精を出している。
 エラテリスとレリアンナが自身の家を展示会場は、子供達の絵で一杯になっていた。
「凄いよ、ルイーゼ。とてもよく描けてる」
 美術にある程度の造詣があるミカエル・テルセーロ(ea1674)の目にも、彼女の素質は眩しく映った。
「あーうー」
 一方、アンネマリーには余り絵心がないらしく、その隣に座る常任講師マリーと共に頭を抱えている。
 尤も、それはそれで子供らしく、とても微笑ましい。
 ミカエルはその全ての光景を、目に焼き付けていた。
 決して忘れないように。
「せんせー! できたー!」
 そんな中、プラムが高々と自作の絵を掲げる。
 新しく入ったこの生徒、当初こそ沈みがちだったが、今では明るい笑顔を見せるようになった。
 そんなプラムの絵に描かれていたのは――――アンジュの姿。
「あれ? プラムはアンジュの事‥‥」
「みたことないけど、ひろばにゆきのぞうがあったから」
 成程と思い、ミカエルは小さく頷く。
「帰ってくると良いよね、アンジュ」
 本当に、そうであって欲しい。
 そう願うミカエルの後ろで――――ずっと上の空の教師が1人。
 ジャン・シュヴァリエ(eb8302)は教卓の隣で、ぽーっとしていた。
「‥‥」
 そんなジャンの頬を、アンネマリーがぷにっと摘む。
「う、うわっ!」
「ジャン先生、ぼーっとしてないで早く絵の描き方を教えてくれ」
「あ、うん。ゴメンゴメン」
 ジャンは赤くなった頬を押さえつつ、アンネマリーの机に掌をつく。
「‥‥」
 その様子を、エレイン・アンフィニー(ec4252)は複雑な表情で見つめていた。

 ――――月夜の湖畔での告白から、3ヶ月。

 ジャンはその返事をずっと待っていた。
 エレインはそんなジャンに甘え、この間ずっと自分の気持ちと向き合っていた。
 そして。
 その答えは――――既に出ていた。


 恋花の郷における今年の聖夜祭は、彼らの存在なくして語れない。
 修道院で聖歌を歌う鼓笛隊の面々だ。
 この修道院から流れる歌声と音楽は、微かではあるが村の広場にまで届いている。
 そのとても小さな音が、祭りの雰囲気を盛り上げてくれている。
 朝早くから皆、文句一つ言わずにそれを継続しているのは、ひとえに歌が好きだから。
 音楽が好きだから。
 それに尽きる。
「皆さん、とてもとても、とってもおじょずになられましたですよー」
 そんな人達だからこそ、ラテリカは彼らの奏でる音をとても好きになった。
 本当に音楽が好きな人々と、拙くも誠実な音を紡いで行く時間が、何よりも楽しく、嬉しかった。
 だから、ラテリカは彼らと共にいる事が多い。
「えと。折角ですから、村歌もお歌いになられては如何でしょか」
「村歌? だが、折角の聖夜祭の雰囲気が壊れないだろうか」
「ふふー。聖夜祭向けに演奏と歌詞を変えてみましたのです」
 にっこり笑い、その変更点を皆に伝える。
 演奏はハンドベル中心。
 歌詞はそれぞれの『おかえり』を加え、その部分を一人ずつソロで歌うと言う提案だった。
「成程、流石ラテリカちゃん! これならこの祭りにピッタリだ」
 天使猫姿の鼓笛隊リーダー、ジョルジュが何度も頷く。
 その姿、いとおかし。
「プッ! ククク‥‥あーっはっはっは!」
 尤も、他の鼓笛隊の面々は趣より面白さが勝ったらしく、ついに大声で笑い始めた。
「わ、笑うな! お前らだって皆同じ格好ではないか!」
「いやでも、あのジョルジュさんが‥‥ぎゃはははは!」
 ラテリカはその時不思議に思っていたが――――実はこのジョルジュ、若い頃は結構な荒くれ者だったらしい。
 そんな人間が、丸くなったとは言え、猫耳や羽まで付けて演奏に励んでいる。
 過去を知る村人にとっては、たまらない肴だ。
「はわ‥‥とってもお似合いですのにー」
 そんな事を知る由のないラテリカは、不満そうにその様子を眺めていた。


 楓染まりて 色付くこの村
 お膝に抱っこ まっかっか
 おかえり ここは皆の村 恋花の郷

 北風吹きし 白めくこの村
 貴方の鼓動 しんしんと
 おかえり ここは皆の村 恋花の郷


「この声は、ラートベル様ですわね」
「凄いですね‥‥ここまで聞こえるなんて」
 恋花牧場で行われる動物レース「走れ!」の会場を視察していたレリアンナとミカエルは暫し立ち止まり、その村歌に耳を傾けていた。
 この牧場が完成し、もう直ぐ半年になろうとしている。
 そんな中、このレースはこれまでで一番大きな催しと言っても過言ではない。
 ずっと牧場の経営に関わって来たミカエルは、村歌を聞きながら感慨深い表情で目を閉じていた。
「はいよー!」
 一方、ほぼ完成したそのレース場では、従業員のリズ・フレイユが試乗を行っている。
 その様子をじっと見つめていたレリアンナは、満足げに手を叩き、リズを呼び寄せた。
「もう何も教える事はありませんわ、フレイユ様」
「はい! 御教授ありがとうございました!」
 馬上で頭を下げるリズに、レリアンナも思わず下げ返す。
 そして二人で笑い合った。
「おうまさん、おうまさーん♪」
 その様子を、アンネマリーが鼻歌交じりにスケッチしている。
「あら? ドール様、学校が終わってもお絵描きを?」
「うん。中々上手く描けないけど、結構楽しいからな」
 アンネマリーは朗らかに笑う。
 令嬢にとって、この村での日々は毎日その顔を作るとても愉快なものだった。
「それならば、わたくしとレイモンドも描いて欲しいですわ」
「ふっ、未来の宮廷絵師たる私だが‥‥特別無料で描いてやる」
 レリアンナは苦笑しつつ、お礼を述べた。
「それと、レリアンナ。私の事はアンネと呼んでくれ。ドールだとお母様と被るからな」
 そんなアンネマリーの突拍子もない言葉に、レリアンナは目を瞬かせて驚いたが――――
「わかりましたわ。ドール‥‥こほん、アンネ様」
 そう応え、1年来の友人ににっこりと微笑んだ。


 その日の夜。
 レリアンナを除く冒険者達は飲食店『アンタンデュ』に集い、夕食がてら、活動内容について報告し合っていた。
 今後の方針やそれぞれの『おかえり』案を中心に、時折冗談も交え、和気藹々と進む。
 長い間この村の為に歩んで来た仲間同士の絆は、確固たるものになっていた。
「そう言えば、思いつきましたよ。ロタンさんおかえり作戦」
 その中で、アーシャが高々と宣言したのは――――雪像作り。
 父と娘の思い出をモチーフとした雪像をミリィに作って貰って、もしロタンが訪れた時に目に留めて貰おう、と言うもの。
「素敵ですね‥‥お祭りのコンセプトにも合致していますし、良いのではないでしょうか」
 それにはミカエルをはじめ、皆が賛同を示した。
 そして、そのミカエルも一つ案を乗せる。
「後、村人の皆にも協力して貰って、『おかえり』に関するメッセージや作文を寄せて貰っては如何でしょう」
 募集したメッセージは夜の修道院にて朗読して貰う、と言う提案だった。
「おお☆ 良いかもだね☆」
 これにもエラテリス等全員が賛成。
 早速明日から奔走する事になりそうだ。
「お待たせしました。本日のメイン料理です」
 そんな和気藹々とした席に、森写歩朗が肉料理を運んでくる。
 その芳醇な香りに、全員から思わず溜息が漏れる。
「良いチーズが手に入りましたので、赤ワインと絡めてソースにしてみました」
「すっごく美味しかったよ☆」
 エラテリスはその皿を即座に食べ尽くす。
「こっちもいただきますだよ☆」
「あ、それは‥‥」
「‥‥?!」
 スープを飲んだエラテリス顔が突然真っ赤になる。
「羊の内臓を使った辛めのスープです。少しずつ口に含んで下さい‥‥と、言おうとしたんですが」
「☆?! ☆☆☆?!」
 しかし既に時遅し。
 エラテリスはパニック状態で水を探し求め、アンタンデュ内を走り回る。
 その様子に、全員がお腹を抱えて笑っていた。


 翌日。
 この日も、多くの観光客が間断なく村を訪れている。
「おかえなさい!」
 そんな観光客に、村人達は「ようこそ」ではなく「おかえり」と言う言葉を掛ける。
 ラテリカの発案だった。
「『おかえり』は、心もそこに住まわせてくれる、魔法の言葉‥‥ですか。流石ラテリカさん、詩人です」
「はわ‥‥お口に出して言われると恥ずかしいのですよー」
 村の入り口で、アーシャとラテリカは完成した複数の雪像を前にして、話に花を咲かせている。
 ミリィに作って貰った『これからも一緒に』。
「ロタンさんがこれを見たら、ミリィさんの想いに気が付く筈です」
 そう断言するアーシャが作った『愛と勇気の羽猫』もまた、同じ想いが宿っていた。
「では、仕上げに」
 アーシャはそれらの雪像に香水「月の追憶」を振り撒いた。
 これで、迎えの準備は完了。


 後は信じて待つのみ――――


 ――――そして、更に翌日。
 その時は唐突にやって来た。
 村の入り口にある、父と娘がそれぞれ反対方向を向きながら木を背にして語らう雪像『これからも一緒に』。
 それを眺めている男性を見たラテリカは、直ぐにそれがロタンだと確信した。
 ミリィから聞いていた外見的特徴とも合致する。
 精悍な顔立ちだが、何処か疲れ切っている、そんな顔だ。
 ラテリカは意を決し、ごく自然にその男性へ近付く。
「哀しくて、でも‥‥素敵なご両親をお持ちの方がお作りになられたのですよ」
 そして、努めて穏やかに話しかけた。
 ロタンからの反応はない。
 それでも、ラテリカは続ける。
「まだずっと、心に面影を‥‥想いを残しているから、お父様は、お帰りになれない思います」
 ロタンの視線が初めてラテリカに向く。
「強い強い、愛です」
「‥‥」
 2人の髪を風が凪ぐ。
 それでも、雪像は動く事無く、静かに佇んでいた。
「この村は初めてですか? よければ覗いて行って下さい。素晴らしい村ですよ」
 そこに、村外で土産の移動販売をしていた森写歩朗が通り掛る。
 そして半ば強引に誘い掛け、ロタンを村へと押し入れた。
 ロタンがもし現れた場合、面識がなく警戒心を持たれ難い自分が一番接しやすい――――そう自認していたからだ。
 その結果、ロタンは割とすんなり村の中へ入って行った。
 懐古の念と、暖かき代弁者と、柵なき掌。
 それが、その背中を押したからだ。
「上手く行くと良いですね。では、私は仕事に戻ります」
「はい。森写歩朗さん、おつとめごくろさまですよー」
 2人は手を振り合い、共に視線を空に向け――――祈った。


「おかえりなさいだよ☆ スタンプラリーの説明をするね☆」
 本部となる村役場で説明係を担っていたエラテリスは、突然現れたロタンに内心大驚き。
 それでも辛うじて、普通に説明を行った。
「ええ、えっと、案内の前に占いをさせてね☆」
 自分自身落ち着くよう、占いの為に神秘のタロットを使う。
 結果は――――
「えっと、ここが全ての始まり。思い出の場所で新しい路が開ける。だよ☆」
「‥‥」
 ロタンはその結果を、特に表情を変える事無く聞いていた。
「それじゃ、今から案内するよ☆」
 他の説明係に声をかけ、エラテリスはロタンを連れて村役場を出た。
 まず、各店舗の案内。
 次は、パンの出店が並ぶ広場前。
「今、ミニパンフェアってのをやってるんだ☆ とってもおいしいよ☆」
 ここ数日で、エラテリスは全ての出店の食べ物を実際に口にしていた。
 解説にも力が篭る。
 その途中――――
「あれ、ロタンさん」
 努めて気軽に、ジャンがロタンに手を振り、近付く。
 その直ぐ後ろにはエレインもいた。
「エラテリスさん、牧場の人達が探してたよ。レースに出るんだって?」
「え?! 聞いてな‥‥」
 しかし直ぐにそれがレリアンなの仕業だと気付き、エラテリスは頭を抱える。
「説明会らしいよ。ロタンさんは僕達が案内するから、行ってみたら?」
「うぅ‥‥わかったよ」
「エラテリスさん、頑張って下さいませ♪」
 古井戸に向かって鬱屈した物を叫びたい心境で、エラテリスはだーっと走って行った。
「すいません。入れ替わり立ち換わりで」
「いや。そもそも案内は要らないのだが‥‥」
「まあまあ。結構広い村ですから。お勧めのスポットを紹介しますね」
 こちらもやや強引に先導。
 ロタンは嘆息しつつも、2人の後を追って来た。
 案内したのは――――展示場。
 そこには、沢山の『おかえり』の絵が飾られていた。
 その中でも一番奥に一際大きく展示されているのは、エレインが考案した『家族の木』と言う絵。
 大布に木を描き、その木に村人達が花を描き添え、花の中に名前とメッセージを記すと言う、村人達の寄せ書きだ。
「あ、こんにちは」
 そこでは、ちょうどミカエルが新たに花を描き足していた。
 赤い花を一輪。
 名前もメッセージもなく。
「ここは、素敵ですよね。沢山の『おかえり』が想いになって、全部の花に、絵に、宿ってます」。
「そうなんですよ。どうですか? ロタンさん。おかえり‥‥そう、言われてみては」
 ジャンは問い掛ける。
 ここまで来て、意図を隠すつもりはなかった。
 エレインも、それに呼応する。
「あなたの帰りをずっと待ち望んできた人達の所に帰りませんか?」
 飾る事も衒う事もせず、想いをぶつけ――――返事を待つ。
「‥‥」
 ロタンは言葉を発せず、『家族の木』に視線を向けた。
 見て直ぐに『それ』に気付いたのだろう。
 視線はある一点に定まっている。

『私は元気です ミリィ・レイナ』

 そこには、願いではなく――――想いだけがあった。
 母を病で亡くした事を悔やむ父へ、心配をかけさせまいとする想い。
 エレインが感情的になったのは、このメッセージを見た為だった。
「あなたの中のおかえりって‥‥どんなものですか?」
 ロタンに向け、ミカエルが問う。
「‥‥昔から気立ての良い子だった」
 しかしそれには答えず、ロタンは一歩、二歩と前に出た。
「容姿も、性格も、声も、あれに良く似ていた。俺はそれが何より辛かった」
 ロタンは、誰よりも前で『家族の木』を見ている。
 その為、彼の顔は誰にも見えない。
「一番辛いのは、親を亡くした子だと言うのにな」
 自嘲。
 ミカエルはその言葉に首を横に振る。
「貴方も、娘さんも、皆辛かったんです。一番なんてありません。そんな風に、思い続ける事は、ない」
 人は、望めば日々変わる。
 望む気持ちを持ち続け、新しい一歩を踏み出したこの村のように。
「だが、俺は腐り過ぎた。もう昔のように、あの子に笑い掛けられん」
「大丈夫ですよ。だったら、貴方がミリィから笑顔を教えて貰えば良いんですから」
 ジャンが肩を竦ませ、笑い掛ける。
 ロタンは少し上を見て、沈黙する。
 長い逡巡。
 きっと、もう何年も前からの。
 でも、既に答えは出ていたのかもしれない。
 あの日、この村を訪れた時から――――
「それならば、俺の『おかえり』は‥‥」
 ロタンは静かに答え、歩き出す。
 冒険者の3人は、それを追う事はしなかった。


 恋花の郷を、優しい風が舞う。
 それは、季節にそぐわない、何処か暖かい風。
 或いは――――誰かの羽ばたきか。
 ともあれ。
 ロタンは村に帰って来た。
 本当の意味で。
 もうすっかり様相が変わった家までの道を歩き、あの日、出て行った時のままの玄関に立つ。
 そして。
「おかえり」
 家の前で立ち竦む父を、娘は満面の笑みで迎えた。
 何もかも見ていたかのように。
「‥‥長い間、すまなかった」
「お父さん‥‥お父さん!」
 2人、抱き合う。
 止まっていた時間を少しずつ揺り動かすように。
「ただいま、ミリィ」
「うん。うん」
 ミリィは震える体を、父の大きな体に委ねていた。
「‥‥フン。年を取ると目が悪くなっていかん」
 それを奥で眺めるヨーゼフは、ぼやける視界を老眼の所為にして、何度も目を擦っていた。
 



「こんにちは。羽猫ショップ『アンジェリカ』、出張して来ました」
「ミリィさんー! 良かったですよー!」
 翌日。
 ヨーゼフから話を聞いたアーシャとラテリカが村長宅を訪ねると、既に多くの先客が所狭しと座っていた。
 多くの高齢者が説教にやって来たようで、ロタンは正座しながらそれを黙って聞いている。
 その様子を嬉しそうに眺めながら、ミリィは2人の傍に駆け寄った。
「差し入れです。親子三代でどうぞ」
 そのミリィに、アーシャは新製品の『羽の生えた猫のマグカップ』と紅茶、菓子を贈る。
「わー‥‥ありがとうございます。今度子供たちを連れて買いに行きますね」
「実は看板を新調したのです。是非お越し下さい」
「アンジュちゃんの絵、可愛かったですよ」
 朝に見かけたその看板を思い出し、ラテリカが小さく笑う。
「ミリィさん、今日はお暇でしょか? 一緒にお祭りを見て回りたい思いましてー」
「はい、是非ご一緒させて下さい」
 そして、皆で牧場へ向かう。
 丁度この日、動物レース「走れ!」が開催されるようだ。
「それでは、位置について。用意‥‥走れ!」
「がんばるよーーーーーっ☆」
 沢山の動物に混じり、エラテリスが疾走している。
 その奇妙な様相に、見物客は皆大喜びだった。
 次に、展覧会場へ。
 振舞われていたお茶を受け取り、家族の木を見に向かう。
 そこには、『ただいまだよ☆』と言う言葉が添えられた、一際大きな花が増えていた。
 更に、広場へ。
「きゃっほー! エラぴー、最高!」
「そそ、そうかな?!」
 そこではハンナ達フルール・ド・アムールと共に、エラテリスがライトを使って踊りを披露していた。
「エラテリスさん、凄い行動力なのですよー。何人もおられるかのよです」
「と言うか、レースはどうなちゃったんでしょうか」
 冷や汗混じりにその姿を眺めつつ、3人で楽しい時間を過ごした。


 そして――――夕刻。
「綺麗だね」
 恋の花咲く小路を歩くジャンは、夕日を手で覆うように腕を伸ばし、空を仰いでいた。
「そうですわね‥‥ずっと、この景色を見ていたいですわ」
 両手で木板を抱えながら、その隣を歩くエレインも、にこやかに呟く。
 全て埋まった木板は、スタンプでアンジュの顔が模されていた。
 それから、沈黙が続く。
 小路を抜けると、修道院が2人の眼前に現れた。
 足音よりも早い鼓動に急かされ、ジャンはその扉を開く。
 この日の夜、修道院ではライトアップがなされる予定だ。
 その設営準備や食事の手配などを、村人達と協力して今日まで行って来たジャンは、その合間を縫って絵の仕上げを行っていた。
 12月の半ばから描き始め、つい昨日完成した。
 背景には子供達や動物。
 そして、中央にいるエレインは、艶めいた中に慈しみのある表情で微笑んでいた。 
「‥‥」
 自分の表情を見たエレインは、それが何を意味するのかを瞬時に理解した。
 目の前で楽しげに筆を動かす青年を見る、その顔は――――
「その絵が完成した時、君と初めて会った時の事を思い出したんだ。最初の頃は眩しくて」
 以前、ジャンはエレインを花の女神『フローラ』の名で呼んだ事があった。
 それは、その心境そのものだった。
 しかし時は経ち、共に過ごす機会が増える度、その存在は憧れから別のものへと変わって行った。
「でも、僕はハーフエルフだから‥‥ずっと、それが頭にあった」
「そんな事‥‥」
「うん。わかってる。君もこの村の人達もきっと、気にしないって言ってくれる。優しい人達だから」
 だから――――そんな人達を自分の血で傷付ける事だけは、絶対に避けなければならなかった。
 ジャンは強くなった。
 エレインと出会い、この村に『恋花の郷』と名を付けてからの、この1年。
 懸命に強くなった。
 今はもう、大抵の外敵は血を見る事なく一掃出来る。
 だから、言える。
「君を守らせて欲しいんだ。いつまでも」 
 それは――――改めての告白だった。
「‥‥」
 エレインは隣の緊張した面持ちで待つジャンから、絵を受け取る。
 この絵の中の自分に秘められた真実を、ジャンはまだ知らない。
 伝えなければ。
 その絵と木板を重ね、そっと足元に置き、エレインは震える声で――――
「ジャン君、大好きです。あなたの全てを受け止めさせて下さい」
 想いを告げた。
「‥‥いいの? 本当に、僕で」
「不束者ですが、宜しくお願い致しますわ」
「僕こそ。大好きだよ。本当に大好きなんだ」
 衝動的な想いは、ジャンの右手をエレインの頬に寄せた。
 一瞬身体を振るわせたエレインだが――――直ぐにその身を委ねる。
「エレイン‥‥」
 ジャンは最愛の名を呟き、その美しい顔に自分の顔を近付けた。
 前髪同士が触れ合い、最初のキス。
 唇を寄り添い合い、お互いの呼吸を感じる。
 何度も、何度も。
 交わす度に深まる愛の感触に、ジャンとエレインは徐々に次を求めていった。
 重なる深度が増していく。
 普段のジャンの物腰とはまるで違う情熱的なキスに、エレインはぎゅっと抱き付き、応じた。
 そして――――
「あーっ! 先生達がチューしてるー!」
 そんな、子供の声。
「‥‥あ」
 2人は引きつった顔で、修道院の入り口に目をやった。
「きゃーっ、抱き合ってる!」
「わ、わ、わ」
「‥‥」
 顔を真っ赤にしつつも、子供達は食い入るように視線を送って来ている。
「せんせーたち、恋人さんなの?」
 アルノーの無垢な問いに、ジャンは後頭部を描きながら、エレインは口元に手を当てて俯きながら。
「そう‥‥だよね?」
「ですわ♪」
 そう微笑み合った。


 夜になり、修道院の周囲は光で満たされる。
「行っくよ〜☆」
 そこに突如現れた謎の人物『あるかな仮面☆』が、頭上に向けて光の矢を発射。
 遥か上空に張られた月結果に当たり、綺麗な輝きを放つ。
「いいぞ、エラぴー!」
「だだだ誰の事かな?! 私はあるかな仮面☆であって、そんな名前では‥‥」
「良いから座って! 森写歩朗さーん! お料理の追加お願ーい!」
「承りました」
 ハンナとあるかな仮面☆の囲む焚き火に、森写歩朗が鍋を運んでくる。
 その隣では、子供達がラテリカの作ったオーロラの幻想を見上げていた。
「えー、次はついさっき恋人同士となったジャン、エレインお二方による発表です」
「あ、在りのままの貴方でいられる場所になれるのならば‥‥何度でも何度でも『おかえりなさい』と、抱きしめさせて下さい」
 修道院内ではアーシャ司会による『おかえり作文』の朗読が行われており、エレインの顔を真っ赤にしながらの言葉に対し、歓声と指笛が鳴り響いている。
 楽しい時間。
 優しい喧騒。
 ミカエルもまた、その中に溶け込み、これまでお世話になった村人達と語らい合っていた。
 市販のマフラーを首にかけ、笑顔で。
 そんなミカエルに、学校の子供達が集団で駆け寄ってくる。
「ミカエルせんせー。これあげる」
「皆で描いた大作だ」 
 プラムとアンネマリーが代表して渡したそれは――――1枚の絵だった。
 季節ごとの良いとこ取りのような、花々や緑、そして雪ダルマなどが一堂に会した、恋花の郷の絵。
 そこには、アンジュの姿もある。
「‥‥ありがとう。大事に、するよ。ずっと」
「うん! 次はアーシャのお姉ちゃんだー!」
 子供達は元気に駆け回り、冒険者達に絵をあげていたようだ。
 ミカエルはその絵を、感慨深げにじっと眺める。
 思い出の品はこれで『2つ』。
 1つはとても暖かく、もう1つは――――
「‥‥」
 それを噛み締める様に。
 そっと、触れた。


 同時刻。
 設置されたランタンの明かりが揺れる中、展示場内でリズは1人佇んでいた。
 目の前には、家族の木と、数多の名前入りの花。
 それに混じり、一つだけ名前すらない花がある。
 リズはその赤い花を見つめ――――止め処なく涙を溢れさせていた。
 手に持つ、手編みのマフラーがその雫で濡れる。
 でも、構わなかった。
 こちらはもう、必要のない物だから。
 望みがないのは、何となく悟っていた。
 その中でも、貰ったその言葉は、感情は、身が焦げるほど嬉しいものだった。
 大切に思って貰った。
 きっと、一生の宝物。
 それでも。
「‥‥届かなかった、な」
 リズの呟きは、誰の耳に触れる事なく――――想いの花々だけが静かに受け止めていた。


 翌日。
 ミカエルがこの村を去ったと、ヨーゼフの口から冒険者達に告げられた――――


「来る奴がいれば、去る方もいる。難しいものだな」
 縁側で茶をすするヨーゼフが、嘆息交じりに呟く。
 それを、両隣のラテリカとジャンは複雑な思いで聞いていた。
 理由は、誰の口からも開かされてはいない。
「一所に収まれないのは、冒険者の宿命でもありますから」
 ジャンは理解を示す一方、寂しそうに俯いていた。
「でも、だいじょぶなのですよ。郷は『おかえりの里』ですから。いつでもお迎えするですから」
「そうだね。うん、そうだ」
 ジャンはラテリカの言葉に何度も頷き、顔を上げる。
 そのジャンの肩に、ヨーゼフは静かに手を置いた。
「実際、ウチのロクデナシも帰って来たしな」
「ヨーゼフさん、嬉しそですねー」
「ふん」
 ラテリカの言葉を否定する事なく、ヨーゼフはおどけて舌を出す。
「あの。ミリィさんのお母様、どのよな方でいらしたのでしょか」
 ミリィとロタンを引き合わせたのは、紛れもなく彼女。
 引き離す原因となったのが彼女の死なら、この世にミリィを運んで来たのも、ロタンをここに呼び戻したのも、思い出の中の彼女。
 だから、ロタンが戻って来た事を何より喜んでいるのは、他ならぬ彼女だとラテリカは思っていた。
 親子2人の絆が深まる事で、短かった彼女の一生が愛に満たされると。
「ああ、そうだな。あの子は‥‥良い子だった。倅には勿体無い位な」
「お名前は?」
「それが、実はな――――」
 ヨーゼフが話そうとした刹那。
 陽光が一瞬、何者かの影で遮られた。
「はわ‥‥!」
「え、今のって‥‥」
 ラテリカとジャンが顔を見合わせ、同時に走り出す。
 ヨーゼフの声がどんどん遠くなる中、めいいっぱい。
 その影を追いかけて――――


「今日もおいしいよ〜☆」
「まだまだありますから、慌てずに食べて下さい」
 移動販売中の森写歩朗のミニパンを、エラテリスは至福の表情で食べ尽くしている。
 そんな2人も、一瞬だけ差した影を感じ、上空を見上げる。
「わ、わわっ! あれって、もしかして☆」
「行きましょう、エラテリスさん」
 そして、同時に走り出した。

 
「やっぱり、カップルにはこの新製品がお勧めです」
「それでは、思い切って2つ‥‥」
「まいどあり〜」
 羽猫ショップ『アンジェリカ』で商品を見繕っていたエレインに、アーシャは満面の営業スマイルを浮かべる。
 そして、受け取ったエレインと共にアーシャも店先に出た、その時。
「え? あれは‥‥」
 太陽の傍に見える微かな影をエレインが指差すと同時に、アーシャは一気に駆け出した。
「アーシャさん! あの影は、もしかして」
「はい! 私が見間違える筈がありません!」
 断言し、走る。
 エレインもそれに懸命に続いた。


 遠くの空。
 遠くの村。
 ミカエルはずっと背にしていたその方向に、視線を送っていた。
 名残惜しくもあるが、それが理由ではない。
 ユニコーンのレーチェが、その方を向いたからだ。
 そして、その理由を直ぐに知る事になる。
「‥‥そっか。良かった」
 レーチェの背の上から、ミカエルは微笑む。
 数ある心残りの1つが消えてくれたから。
 尤も、本当は撫でたかったのだが――――それは仕方がない。
 それより、掛けてあげたい言葉があった。




 恋花の郷。

 この村ではつい最近、少し変わった挨拶をするようになった。

 でも、それは当たり前の言葉。

 だって、帰ってくるのだから。

 帰ってくる者には、挨拶を。

 羽根の生えた、真っ白な猫に。

 そして、この村を訪れる全ての人々に。

 この言葉を――――贈りたい。




 おかえり。




 Laissez-Revitalisation de Village

 Presente par UMA

 &

 Les Aventuriers