拝啓、パリより想いを込めて

■イベントシナリオ


担当:UMA

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:13人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月11日〜01月11日

リプレイ公開日:2010年01月19日

●オープニング

「皆さん! しっふしふー!」
「しっふしふー!」
「年は明けましたが、シフール飛脚はまだまだ大忙しです! 今日も一生懸命働きましょう!」
「しっふしふー!」
 朝の朝礼を終え、シフール達は各々の仕事に就く。
 その仕事の名は、シフール飛脚。
 それは、自力飛行が出来るシフールと言う種族ならではのお仕事。
 手紙をはじめ、シフールの体力で運べる物をその機動力を使って短時間で運ぶと言うこのサービスは、今や世界全土に渡って普及している。
 このノルマンの中心地であるパリやその周辺も、勿論例外ではない。
 各地域のシフール飛脚には、今日も数多くの手紙が寄せられている。
 そんなパリのとある飛脚団体で、年明け早々一つの企画が実現される事になった。
 それは『お返事無料サービス』。
 手紙を届けて貰った場合、それから三日以内にシフール飛脚を利用して返事を届けた場合、無料にしてくれると言うものだ。
 サービス期間は1月6日〜15日。
 この期間、この団体のシフールに配達を頼んだ場合、相手は無料で返事を送る事が出来る。
 ただし、手紙を送れる範囲はノルマン国内のみとなっている。
「ノルマンに住んでいる友人、恋人、家族、仲間等に手紙を送りたいと言う方は、是非御利用下さーい!」
 シフール飛脚の宣伝の声が、パリの街にこだまする。
 この期間、沢山の想いが届けられる事を、願って。

●今回の参加者

ラテリカ・ラートベル(ea1641)/ ミカエル・テルセーロ(ea1674)/ ケイ・ロードライト(ea2499)/ リディエール・アンティロープ(eb5977)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ ジャン・シュヴァリエ(eb8302)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ マロース・フィリオネル(ec3138)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)/ レリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)/ リュシエンナ・シュスト(ec5115)/ レオ・シュタイネル(ec5382

●リプレイ本文

 パリの近郊にあるマルシャンスと言う街には今、平和な時間が続いている。
 この街の名物となっていた不幸男の不幸が一切発動しなくなったからだ。
 そのマックス・クロイツァーは、師匠クラウディウス・ボッシュの店で主人の不在を必死になって埋めている。
 まだまだ力不足は否めないが、徐々にではあるが、街の人達からも認められ始めていた。
 そんなマックスの家に、シフール飛脚の一人が舞い降りる。
「しっふしふー! ゆーびんでーす!」
「はーい。ありがと」
 飛脚の届けた手紙を、マルレーネ・クロイツァーが受け取る。
 受け取った手紙は3通。
「あら‥‥マックス! 冒険者の人達からお手紙届いたー!」
 マルレーネの声が、マルシャンス街に響き渡る。
 寒空に朝日が現れる中、シフールは高々と舞い上がった。




 − 拝啓、パリより想いを込めて −




「ラテリカさんと、マロースさんか。嬉しいなあ」
 寝起きの目を擦りながら、マックスはマルレーネから2通の手紙を受け取る。
 ラテリカ・ラートベルは2人宛。
 マロース・フィリオネルはそれぞれに宛てている。
「何々、『お料理や家事の腕はあがりましたでしょうか?』‥‥ふふっ、今の私の料理を食べさせてあげたいな」
「え? あれを‥‥か?」
「何」
「‥‥さ、さあ、ラテリカさんの方を読むとしようじゃないか」
 マルレーネの尖った視線に、マックスは慌てて目を逸らす。
 2人の現在の関係性は、常日頃こんな感じだ。
「ま、良いけど。どれどれ‥‥」
 小さく息を吐き、マルレーネはラテリカの手紙を覗き込む。 
 その最中、マックスは少し屈み、マルレーネのお腹に手を当てた。
 まだ目立つ程ではないが、かなり膨らんで来ている。
「結構大きくなったな」
「産まれたら、遊びに来てくれるって。お返事書かないとね」
「そうだな」
 お腹に当てられたマックスの手に、マルレーネの手が重なる。
 とても穏やかな朝。
 この日は、思い出話に花が咲きそうだ――――


『マロース・フィリオネルさんへ

 お手紙ありがとう。幸か不幸か師匠がまだ帰らないので、毎日仕事は忙しい。
 やりがいがある、とも言うが。いずれにしても、生活に困る事は今のところない。
 不幸体質は‥‥どう言うわけか、結婚してから完全になくなってしまった。
 お陰で平穏な日常を送っている。冒険者である貴女達のお世話になった日々が懐かしい。
 そう言えば、あの体質を治す為に温泉に出かけたりもしたよな。
 あの時も大変だったが、あれはあれで楽しかった。今では良い思い出だ。
 マロースさんも色々大変だろうが、どうか良い人生を送ってくれ。
 
 マックス・クロイツァー
 

 お久し振りです。結婚式に出席して頂いた折にはしっかりお礼も言えず、申し訳ありませんでした。
 頂いたお金は、これまでマックスの不幸で迷惑を掛けた街の人達への弁済に使わせて頂きました。
 お陰で、肩身の狭い思いせずに済んでいます。ありがとうございました。
 近くに寄るような事があれば、是非お越しくださいね。自慢の手料理と一緒に御待ちしております。

 マルレーネ・クロイツァー』


『ラテリカ・ラートベルさんへ

 お手紙ありがとう。ラテリカさんには何度も足を運んで貰って、沢山世話になった。
 今はとても平和な日々を過ごしている。平和過ぎて落ち着かないくらいだ。
 ずっと、ガチャガチャした人生を送って来たものでな‥‥
 エッちゃんを最後に見かけたのは、結婚式の直前だ。
 心配していたのだが、元気なようで嬉しい限り。
 生きていれば、また会う事もあると信じている。
 エッちゃんとも、貴女とも。
 では、くれぐれも身体には気を付けて。

 マックス・クロイツァー


 結婚式以来ですね。お元気そうで何よりです。
 ラテリカちゃんには、夫婦共々お世話になりっぱなしで‥‥
 ちゃんとお礼を言いたいので、今度是非、遊びに来てください。
 うーん、半年後くらいかな?
 その頃には、元気な赤ちゃんを見せられると思います。
 出産は大変って聞きますけど、頑張りますね!
 ラテリカちゃんの優しいお歌、子供に聞かせてあげたいから。
 ではでは〜 

 マルレーネ・クロイツァー』




 さて。
 そんな幸せ絶頂な弟子を残し、師匠はと言うと。
「妻とは別れるよ。今はもう君だけ――――がはっ!?」
 とある街の酒場で口説こうとした女性の目の前で、白目を剥いて卒倒していた。
「レベル24の再教育も失敗‥‥次はいよいよ火山か」
 嘆息しつつ、その妻エカテリーナはクラウディウスと鈍器を引きずり、酒場を出る。
 その途中、シフール飛脚に返事の手紙を渡していた。


『マロース・フィリオネル様

 ウチのロクデナシへの心配、痛み入る。
 残念ながら、この害虫を一端の人間にする事は未だ適わず。
 せめて私の目の届く場所で管理しておく事が、社会への責任と思う次第だ。
 マックスを見かけたら、あの店は君に譲ると伝えておいてくれ。

 エカテリーナ・ボッシュ』
 



 アトラトル街は今、かつてない盛り上がりを見せている。
 この街のシンボルとも言える、元祖アイドル射撃手のクッポーに、相棒が出来たと言う話題で持ちきりなのだ。
 しかも女性。
 元祖アイドル射撃手初のスキャンダルに、街は大いに湧いた。
「ククク。人気者の宿命とは言え、愚民共の追及は面倒な事だな」
 そんなクッポーに対し、観光協会は緘口令を敷き、市民の関心を煽っていた。
 実際には、ただの仕事上の相棒。
 しかし、憶測が憶測を呼び、毎日クッポーの元にはその真意を確めようと言う人々が押し寄せていた。
 それから逃れるべく、現在は山奥にあるベップ・パブリィの小屋に避難している。
 その手に、アーシャ・エルダーからの手紙を持って。
「それは奇遇だの。実はワシの元にも届いておる。エラテリス嬢からじゃな」
「奇遇? その楽観的な思考、愚かなり。これは恐らく‥‥策略」
「プルルル。何をもってそう言う?」
「この俺と貴様が繋がっている事を把握している、と言うメッセージだ。ここもそう長くないな。次の隠れ家を見つけるか」
 クッポーは色々あって、疑り深い性格になっていた!
「まあ、返事は書いておくとしようかの」
「当然だ」
 しかし責任感は強いままだった。

 
『エラテリス・エトリゾーレ嬢へ

 弓の方はしっかり使ってくれているようだの。
 作り手、と言うにはおこがましいが、多少細工した者としては嬉しく思う。
 報告に感謝を。
 その魔弓「ラ・プレーヌ・リュヌ」には、ワシなりに思うところがある。
 お世辞にも弓術が得意とは言い難いヌシがそれを持つ事も、また。
 ヌシやクッポーが、闘争の象徴である弓と言う武器の概念を変える事を期待して、締め括りとしたい。
 偶には顔を見せに来い。

 ベップ・パブリィ』


『拝啓 アーシャ・エルダー様

 此度は結婚おめでとう。改めて御祝い申し上げる。
 頂いた絵は実に雄大、且つ壮美。
 特に陰影の表現技法にはこのクッポー、感服の至り。
 聖夜祭の栄えある第一射を任命頂いた事と併せ、御礼申し上げたい。
 その際の天馬も実に華美にて、主の日頃の品性を伺わせるものとお見受けした。
 その背中を預かりし光栄、身の引き締まる思いだった。
 これからの女史の御活躍と御健勝を心より祈願する。

 アイドル射撃手 クッポー』




 まるごとオールスターズ武闘大会が継続する事になり、まるごとブームが最高潮に達しているルッテ。
 その街で、何故かまるごと推進委員会の会長をする事になってしまったフィロメーラ・シリックは、現在一つの重大事項に挑んでいた。
「‥‥えいっ」
 目の前の、まるごとすのーまんに身を包んだ男性職員を、長さ2mの棒で突く。
「おおおおおっ! やったぞフィロメーラちゃん!」
 歓声。
 どうやら、大好きなスノーマンの姿なら、2m近付いても大丈夫のようだった。
 スノーマンへの愛が、男性恐怖症を若干とは言え和らげてくれたのだ。
 幼い頃のトラウマは、まだ根強く残っているが――――癒える日が来るかもしれない。
「しっふしふー。お手紙でーす」
「ありがとうございまーす」
 充実感に溢れた顔で、フィロメーラは女性シフールから手紙を受け取った。
 届いた手紙は2通。
 何度か依頼で世話になったエラテリスと、最近知り合ったリュシエンナ・シュスト。
 どちらも大切なお友達だ。
 エラテリスは近況の報告、リュシエンナは新年の挨拶と聖夜祭の時の事、そして友情をしたためていた。
「お、手紙かい?」
「男いやーっ!」
 直ぐ傍まで近付いて来たまるごとスノーマンを棒で殴り倒しながら、フィロメーラは返事をどう書くか考えていた。


『エラテリスちゃんへ

 お手紙ありがと♪
 お元気そうで私も嬉しいです。
 初めてお会いしたのは、男装して潜入捜査した時でしたね。
 さらりんは今、屋敷の皆さんにとても可愛がられているそうです。
 でも来年の夏は、また引き篭もるかも?
 その時はまた、一緒に洞窟に潜りましょっか。

 フィロメーラ・シリック』


『リュシエンナちゃんへ

 お手紙ありがとうございます♪
 私も聖夜祭、とーーーっても楽しかったです。
 リュシエンナちゃんの明るさが羨ましくもあり、眩しくもあり。
 お兄様の御結婚、是非お祝いさせて下さい。
 その為に今、猛特訓中です!

 リュシエンナちゃんのスノーマンに対する考え方とかも、
 とっても共感出来ます。
 春でも夏でも傍らに居続けてくれるその姿を見ると、胸がキュンってなるんだろうなー。
 
 香水の香り、届きました。
 甘い匂いに思わずお菓子を連想したりして。
 いつでもお越し下さいね。待っています。

 フィロメーラ・シリック』




 パリの郊外にある森に囲まれた教会、『フォレ教会』。
 そこは、ハーフエルフ同士の結婚式を挙げた事により、ハーフエルフの間では有名な教会となっている。
 その一方、彼らを疎んじる、或いは卑下する勢力から大きな非難が向けられる――――司祭サヴァン・プラティニはその覚悟をしていたのだが、今のところそう言った声は上がっていない。
 時代の流れは、思った以上の早さで良い方向に向かっているのかもしれない。
「お早うございます、司祭」
 そんな事を考えていたサヴァンの元に、二人のシフール医師が近付いて来る。
 シフール施療院『フルール・ド・シフール』の医師ヘンゼル・アインシュタインとその友人リュック・ソルヴェーグ。
 それぞれの勤務時間より前に、この場所を訪れていた。
「この度は、私達シフール医師への援助、誠に感謝します」
 リュックが頭を下げると同時に、ヘンゼルもそれに続く。
 既にこの『フォレ教会』では、シフール施療院への援助が継続的に行われている。
 それに加え、現在数少ないシフール医師の数を増やそうと奔走しているリュックへの支援も約束したのだ。
「いや、礼はいらんよ。シフールの医師達。私はただ、聖なる母の教えに従い、必要な事へ必要な力を注いでいるのみ」
 サヴァンは、広げていた手紙を畳み、それを仕舞う。
「敢えて付け加えるならば‥‥この国に、もっと感謝の輪を広げたいと、そう思ったのだよ。種族を越え、誰にでも素直に『ありがとう』と言える、そんな国を‥‥夢見て、な」
「御立派です。まずは、我々からそれを広げて行きましょう」
「その第一歩が、この手紙への返事、でしょうか」
 シフールの二人は微笑を携え、それぞれの元に届いた手紙を取り出す。
「ほう。面白い偶然もあったものだ」
「どうでしょう。必然なのかもしれませんよ」
 ヘンゼルのその言葉に、他の2人は共に意味ありげな表情で、眉尻を下げていた。


『エルディン・アトワイト殿

 如何なる時も礼節を弁え、感謝の心を忘れない貴公の振る舞いには、常々感心させられている。
 私自身、大事なものを思い出す事が出来た。
 今の私は、聖なる母の揺り篭から離れても、その寵愛を受け、新たな道を歩む事が出来ると確信している。
 もし恩を感じているのであれば、私やこの教会にではなく、和をもって環を成す教えを後世に説いて行って欲しい。
 無論、貴公なりのやり方でな。
 また会おう。

 月読草の管理は、今の所問題はないようだ。
 必要があれば、都合をつけよう。 

 サヴァン・プラティニ』


『リディエール・アンティロープ様へ

 お手紙、受け取りました。
 中々会う機会に恵まれない中、このような御丁寧な言葉を賜り、大変嬉しく思います。
 シフール施療院の事は、ヘンゼルからも、そしてシフールの患者からも聞き及んでいます。
 大変だったようですね。
 リディエール様の知識と経験、そしてお人柄が、ヘンゼルの助けとなった事とお見受けします。
 彼がリタちゃんの事で悩んでいると知りながら、何も出来なかった自分を歯痒く思っていました。
 希望を繋いで頂いた事、私からも御礼を言わせて下さい。
 ありがとうございました。
 これからも、シフールの医療にどうぞ御力添えを。

 リュック・ソルヴェーグ』


『レリアンナ・エトリゾーレ様

 施療院の方は順調だよ。
 リーナも張り切って、少しずつ手伝いを始めてくれている。
 リタは特に変わりはない。ワンダも元気にしてるよ。
 万事、と言うわけではないが、上手く行っていると言って良いんじゃないかな。

 其方も変わりないようで何より。
 リタの気持ちを覚えていてくれると、嬉しい。
 また寝顔を見に来てくれると尚、だね。
 今度はこちらから手紙を出すよ。ワンダに届けさせようかな。
 それじゃ、また。

 ヘンゼル・アインシュタイン』




 そして、そのシフール施療院を作った1人、ルディはと言うと――――
「ほら、あそこに!」
「本当です。間違いありません」
 ララと共に、パリの広場にある巨大なモミの木を前に、二人でわいわい喜んでいた。
 ララの手には、先日得た『万病を癒す薬』の情報である絵画を書き写した羊皮紙が握られている。
 その中の一つが、この木の一番上にあると言うのだ。
「ねー、そろそろ施療院開けないといけないんだけど?」
「わ、待ってよワンダ! 1人じゃ持ちきれないんだって! あの星!」
 眠い目を擦っているワンダを強引に引き止め、ルディはモミの木の天辺にある星へ向けて飛び立っていった。
 その木製の星が、つい最近冒険者の手によって作られたばかりの代物などとは、いざ知らず。


『エラテリスさんへ

 お手紙を受け取りました。
 嬉しいです。
 今度のマルゼルブ街の調査は、ちゃんと出来ました。
 ありがとうございました。
 まだ修行の身ですが、フィールドワークは楽しいです。
 エラテリスさんも一緒にどうですか。
 前も言いましたけど、エラテリスさんは向いていると思います。
 一緒に冒険、したいです。
 どうか考えてみてください。
 またお会いする日を楽しみにしています。
 ルディにも、レリアンナさんの事、伝えておきますね。

 追伸。
 これを書きながら、初めてお会いした時の事を思い出しました。
 黎明の魔女さんとも、もう一度お会いしたいです。

 ララ・ティファート』


『エルディンさんへ

 うひゃー、何か改まってこう言うの、ちょっとくすぐったいね。
 でも、お手紙ありがと。
 エルディンさんがいなかったら、きっと施療院は作れなかったと思う。
 勿論、他の皆も。皆がいてくれて、僕は夢を叶えられたんだ。
 本当に沢山の人達が支えてくれたんだなって、そう思うよ。
 エルディンさんも大変みたいだけど、偶にはリタの顔を見に行ってあげてね。
 ワンコ耳でピクピク、見てみたいなあ。
 それじゃ、また!

 ルディより』


『リディエール・アンティロープ先生へ

 きゃーっ、お手紙ありがとうございます!
 まさかリディエール先生からお手紙が届くなんて思ってませんでしたからビックリです!
 はい、お元気ですよー。
 大変は大変ですけど、リタちゃんの事もありますし、リーナも一生懸命手伝おうとしてくれてるし、弱音なんて吐いていられません!
 飛脚とは違う所も多いですけど、沢山の人を笑顔にするって所は同じです。
 だから、きっと頑張れます。
 先生もお体にお気をつけて、リタちゃんのお薬、見つけてあげて下さい。
 そうそう、恋人さんの話、シフールの噂で聞いちゃいました。
 憎いよこのこのー!
 今度、ヘンゼル先生にお手紙書かせて運んできますね。
 あでゅー♪

 ワンダ・ミドガルズオルム』



 パリの南50kmの地点にある村『パストラル』に割と最近、新しい動物がやって来た。
 ヤマネ2匹。
 白い梟。
 そして、ビジョンフラワー。
 ヤマネには『ピピ』、『トト』と言う名前がつけられ、仲良く番で飼われている。
 梟は『ジュルネ』と名付けられ、近くの森で生息中だ。
「おーい。ごはんだぞー」
 そんな中、村一番の羊飼いクロフォードは、何故かビジョンフラワーの面倒を見ていた。
 最初はモンスターと言う事もあり、かなり抵抗があったのだが、慣れてみると意外と懐いてくるものらしく。
 今ではモンスターや害虫、或いは泥棒などから羊を守る番犬ならぬ番草として活躍している。
「しっふしふー、お手紙で‥‥わーっ!?」
 しかし、シフール飛脚にとってはかなりの脅威らしく、毎回怖がられてしまうのが偶にキズ。
「ああ、済まない。近づかなければ何もしない」
「そ、そうですかー。では、お届けです」
 警戒しながら去っていくシフールを尻目に、クロフォードが手紙を開こうと――――
「ここに妙な植物がいると聞いて伺ったのだが」
 した刹那、そこに客が現れる。
 パリの香水調合師、ドーラだった。
 旅立つ友人の為に特別な香水を製作中だ。
「‥‥成程。ある意味斬新だな」
 そのドーラはビジョンフラワーを眼前に、不敵な笑みを浮かべていた。

 
『レリアンナ嬢へ

 お手紙、感謝致す。
 こちらこそ昨年は大変世話になった。
 羊騒動に始まり、色々問題続きだったが、シフール施療院のお役に立つ事も出来、嬉しく思う。
 こちらでは、何故か肉食植物の面倒を見る事になってしまった。
 だが、これが意外と憎めない。
 今度見に来ては如何か。
 ヤマネや梟もいるし、羊達も会いたがっているだろうと思う。
 楽しみに待っている。

 クロフォードより』


『アーシャ・エルダーへ

 余り手紙を書く機会がない故、何と書けば良いものか‥‥
 ともあれ、便りはしかと受け取った。
 私の香水が夫婦の絆に花を添えてくれているのであれば幸いだ。
 私自身、特に変わった訳ではないが、其方と会話していると、少々砕けた自分が出てくる。
 恐らく其方も本来はもっと柔らかい女性なのだろう。
 現在、それを表現するような香水を製作中だ。
 実に興味深い材料が手に入った故、楽しみに待っておくが良い。

 ドーラ・ティエル』



 酒場の仕入れと言うのは、結構時間が掛かる。
 と言うのも、自分の舌で試さない事には、納得出来ないと言うマスターが多いからだ。
 その為、長期的に店を閉じ、仕入れの為にパリに赴く周辺の街や村のマスターは多い。
「‥‥あら。暫くぶり」
「‥‥」
 そんなパリのとある教会で、現在恋花の郷に在住しているミルトン・フレイユと、マルゼルブ街で働くシルヴィアが搗ち合ったのは、偶然とは言え、十分あり得る事だった。
 昔は共にパリの街で働いていた者同士。
 しかし、無口なミルトンは特に言葉を発する事なく、教会のワインを物色していた。
「その後どう? リズちゃんは元気?」
 そんなシルヴィアの問いに、ミルトンは首を縦に振る。
 実は、それは嘘だったが――――敢えて言う事でもない、と判断していた。
「‥‥そっちは、変わりないか」
 代わりに、滅多に発しない声で近況を尋ねる。
「場末の流行らない酒場だから‥‥と、言いたいところだけど。変わったお客さんがこんな物くれたの」
 苦笑しつつ、シルヴィアが手紙を取り出す。
 それを見たミルトンも、懐から手紙を取り出した。
 無論、双方中身までは見せないが――――
「奇遇、なのかしら?」
 少し気だるげに、シルヴィアは笑っていた。


『エドガー様

 まさか手紙を頂けるなんて、驚きです。
 貴方から発していた、少し危険な香り。
 この街に二度も立ち寄るような人ではないと、思っていました。
 私の店は、貴方が満足するようなお酒は出せないかもしれません。
 私自身も含め。
 それでも、飲みに来てくれるなら‥‥その時は改めて乾杯しましょう。
 エルフ同士の長い夜に。

 マルゼルブ街の酒場より』


『ミカエル・テルセーロ殿

 まず、手紙が届いた報告を。
 そして、真実を伝えてくれた事に感謝を。
 不肖の父ながら、近頃の娘の様子には年甲斐もなく動揺していた。
 理由がわかり、今は安堵している。
 三つ、言わせて欲しい。
 まずは感謝を。
 娘に恋を教えてくれた事。
 娘を気遣ってくれた事。
 娘を多少なりとも、好いてくれた事。
 父として礼を言いたい。
 次に、苦言を。
 異種族間の恋愛は、確かに禁忌。
 が、君の関わって来たこの村に、それを奇異の目で見るような村人はいたか。
 それを君は誰かに相談し、話をする余地を設けたか。
 どうかこの先、自分一人で思い悩み、大切な物を見失う事のないよう。
 最後に、祈願を。
 君がこれから進む道に、未来と安寧が待っている事を願う。
 リズには何も伝えないでおく。

 リズの父 ミルトンより』




 恋花の郷に舞う、白い羽。
 羽根の生えた猫――――アンジュがこの村に戻り、数日が経過していた。 
 子供達はその影を一生懸命追いかけ回り、肌寒い冬の風を掻き分けるように走り回っている。
「きゃはは! まてーっ!」
「みうーっ」
 アンジュがぱたぱたと広場を飛び交う中、その光景を村長ヨーゼフと村校教師マリーは朗らかに見守っていた。
「そう言えばマリーさん、子供達に手紙が届いたらしいな」
「はい。以前まるごとのお祭りがあった時に、子供達に劇を見せて下さった冒険者の方からです」
 マリーはその時の事を思い出しながら、手紙を広げる。
『おおかみさんより』と締め括ったその手紙には、わんこさんとうさぎさんが仲良くパンを分け合い、それを見守るおおかみさんの絵が添えられていた。
 心の温まる手紙。
「この内容をしっかり伝えて、全員に返事を書かせてみようと思います」
「うむ。素晴らしい事だ」
 斯く言うヨーゼフも、実は2通手紙を受けと言っていた。
 1通は、アーシャからアンジュに向けて。
 もう1通は、ヨーゼフ宛にミカエルから。
 近況伺いと、学校や村全体への助言が寄せられている。
「マリーさん。学校に子供達の具合が悪くなった時の為の施設を――――」
「みうっ」
 ヨーゼフがマリーニそれを伝えようとしている最中、アンジュがヨーゼフの頭の上に留まる。
「こ、こらアンジュ。止めんか」
「みうみうーっ」
「あそこだ! まてーっ!」
 子供達はヨーゼフを取り囲み、一斉に飛び掛った。
 アンジュはそれをすんでの所でかわし、子供達のアタックは全てヨーゼフに直撃!
 そのまま全員で雪まみれになってしまった。
「こらーっ!」
「わー、にげろー!」
 そんな喜劇を、マリーは心底楽しそうに見つめていた。


『アーシャ・エルダー様へ

(塗料を使ったアンジュの手形が捺されている)

 また会いに来てやってくれ。

 ヨーゼフ』


『ミカエル・テルセーロ殿

 お手紙ありがとう。
 村や学校の改善点、早速行動に移させて貰っている。
 マリーさんも宜しくと言っていた。

 貴殿がこの村を去った事は、今も残念でならない。
 当事者同士の事に関して口を挟むつもりはないが、常にこの村の為を思ってくれていた貴殿の事。
 様々な逡巡があった事は想像に難くない。
 村長として、礼を言わせて貰う。
 貴殿の行動が正しかったかどうかは、正直私にはわからん。
 ただ、これだけは言える。
 この村は、恋花の郷は、いつでもミカエル殿を待っている。
 もし成すべき事を成した後、ノルマンに留まる事があるならば、それを思い出して欲しい。
 
 ヨーゼフ・レイナ』


『ラルフェン・シュスト様

 この度は、子供達へのお手紙、誠にありがとうございます。
 みんな、毎日が喧嘩と仲直りの連続で、忙しない日々を送っています。
 一人ずつお返事を書いているので、お目通しを頂ければ幸いです。

 マリー・ナッケ


 おおかみさん、おてがみありがとう。
 またきてください。
 まってます。

 ティアナ


 おおかみはかっこいい!
 おれもおおかみになりたい。
 なかまにいれてください。
 
 ハリー


 オオカミさん、お手紙ありがとうございます。
 げき、楽しかったです。
 遊んでくれてありがとうございました。

 アルノー


 オオカミさんは、えらかった。
 ウサギさんは、かわいかった。
 わんこさんも、かわいかった。 
 また見たい。

 ルイーゼ


 実はあの日、お母様の大事にしていた花瓶を割ってだな。
 それで、隠していたのだが、劇を見た日の夜にそれを打ち明けたのだ。
 そうすると、お母様は一度怒って、その後褒めてくれた。
 私はあの劇で何か大切な事を学んだ気がする。
 だから、ありがとう。

 アンネマリー・ドール』


 

 そして――――そのアンネマリーはと言うと。
「ただいま帰りました!」
「ああっ、アンネマリー! 今日も無事だったのですねーっ!」
 毎日、下校の際には母親ローゼマリーと抱き合い、親子の絆を深めていた。
 ちなみに最初の頃は母が一緒に村まで言っていたが、母には母の勤めもある。
 少しずつではあるが、子離れの時期に差しかかっているのかもしれない。
「アンネちゃん、ボンジュール♪」
 そんな光景を微笑ましく長めながら、エルネスティーネ・シュヴァルツェンベックは自身も描かれている絵画「アンネマリーとその友達」が飾られた下で、お茶を楽しんでいる。
「む、その声はエステヌティーニェ!」
「エルネスティーネですわ!」
 噛み倒しのアンネマリーに、シュヴァルツェンベック家のお嬢様はご立腹だ。
 ちなみに、この日は従者を連れているのでお嬢言葉。
 そんなエルネスティーネとのやり取りもそこそこに、母親に視線を向け、ニッと笑った。
「ところでお母様、さっきシフールから手紙を受け取った。レリアンナからだった」
「まあ‥‥あの方は本当に良くして下さるのね。ちゃんと返事を書くのですよ」
「はい。ユーリ! 手紙の書き方――――」
 そこまで言って、アンネマリーは口を閉ざす。
「‥‥一人で書きます」
 そして、そのまま足早に自室へと向かった。
「まだ立ち直っていないのですわね‥‥」
 その様子に嘆息しつつ、エルネスティーネは今日の朝に受け取った手紙を取り出す。
 差出人はケイ・ロードライト。
 ドール家とも縁の深い、英国の騎士だ。
 その内容は、従者ユーリを失ったアンネマリーを心配し、エルネスティーネに気にかけてあげて欲しいと懇願するものだった。
 英国紳士らしく、礼節の行き届いた文面で綴られている。
「ローゼマリー様。ユーリはどうして出て行ってしまわれたのですか?」
 エルネスティーネは、アンネマリーより先にユーリと知り合っている。
 貴族同士の会合の際、ドール家主人シュテフェン・ドールの従者として紹介され、年齢が近い事もあり、以降頻繁に話をするようになっていた。
 だが、彼の本当の役割や正体に関しては、何も知らされていない。
「‥‥」
 ローゼマリーは困ったように微笑み、首を横に振る。
 その様子に、口外できない事だと察し、エルネスティーネは静かに俯いた。
 新興貴族の一人娘と、その家を守る暗殺者。
 光と影。
 もう交わる事は――――ない。


『ケイ・ロードライト嬢

 まさか貴方にお手紙を頂くとは思いもよらず、驚きと感謝の気持ちで一杯です。
 こちらは年末年始、毎日パーティー三昧でほとほと参っています。
 しかしこれも貴族令嬢の務めと、日々耐え忍んでいます。
 さて、ユーリの件ですが。
 残念ながら、私は彼の事を昔から知ってはいますが、深く知ってはおらず、彼の去った理由もわかりません。
 ただ、私が知っている範囲では、ユーリは誰よりアンネちゃんを心配し、その将来を想望していました。
 どうしてもそうせざるを得ない理由があったのでしょう。
 恐らく、家絡みの。
 私も、この件に関しましては思う所がありますので、ケイ様に一つお願いしたい所存です。
 ユーリの今の居場所を調べてください。
 ギルドを介していない依頼ですが、どうか御一考の程を。
 アンネちゃんの事は、彼が帰るその日まで、許される限り目を向けておきます。
 妹のように思っているので。
 それでは失礼します。

 シュヴァルツェンベック家 エルネスティーネより』


『レリアンナへ

 やっほー、しばらく。
 お手紙しかと受け取ったぞ。
 頼まれていたレリアンナとレイモンドの絵は、今がんばって描いてる途中だ。
 出来たらあの村のレリアンナのお家に置いておくから、受け取るよーに。
 エニュネルチーチェは元気だ。今日も家に来ていた。
 あいつの絵も今度描いてやるとしよう。
 レイモンドは元気だろうか。
 私の大切な友達だからな。しっかり面倒を見てくれ。
 パストラルと言う村には、今度学校のピクニックで行く予定だ。
 レリアンナも時間があったら、一緒に行こう。
 また遊んでくれ。
 絶対だぞ。
 絶対な。

 アンネより』




「ふう」
 返事を描き終えたアンネマリーは、疲労困憊の顔でレリアンナの手紙を仕舞おうと折り畳む。
「ごめんなさーい。もう一通ありましたー」
 すると、突然シフール飛脚が慌てて窓から現れ、手紙を寄越す。
 二通届いていたらしい。
 アンネマリーはいそいそとその手紙を広げた。
 それには――――何も書かれていなかった。
 差出人記載もなし。
 実に不可解。
 誰が、何の為に?
「‥‥ふふふ」
 アンネマリーは笑う。
 その謎に包まれた手紙は――――日常の退屈を忘れさせる、とても刺激的なものだった。